近年、24時間営業のジムや個室パーソナルトレーニング、ピラティス、特定の部位に特化した専門スタジオなど、フィットネス業界は空前の開業ブームを迎えています。街を歩けば新しいジムの看板を目にすることも珍しくありません。
しかし、競争が激化する中で、多くの経営者様が見落としがちな重大なリスクがあります。それが「商標(ブランド名・ロゴ)」の権利問題です。
「うちは個人経営の小さなジムだから関係ない」
「法務局で会社の名前(商号)は登記できたから大丈夫」
もし、そのように考えているとしたら、あなたのビジネスは非常に危険な状態にあります。ある日突然、見知らぬ会社から「商標権侵害」の警告書が届き、ジムの看板やチラシ、ウェブサイトの全てを作り直さなければならなくなる――そんな悪夢のような事態は、実際に起きています。
この記事では、スポーツジムやフィットネス事業における「商標登録」の重要性、登録しなかった場合のリスク、そして複雑な「区分」の選び方について、知的財産の専門家である弁理士が詳しく解説します。
目次
スポーツジムにとって、ジムの名前(屋号)やロゴマークは、会員様があなたのジムを識別するための「顔」です。「〇〇ジムに行けば痩せられる」「〇〇フィットネスは設備が良い」という評判は、すべてその名前に蓄積されます。
商標登録とは、この「信用」を独占的に使用する権利を国(特許庁)から認められる制度です。登録すれば、他社が同じ名前や紛らわしい名前を使うことを法的に禁止・排除できます。
日本の商標制度は「先願主義」を採用しています。これは、「その名前を先に考えた人」や「先に使い始めた人」ではなく、「特許庁に一番先に書類を出した人」に権利を与えるというルールです。
たとえあなたが5年前からそのジム名を使い、地域で愛されていたとしても、昨日開業したライバル店が先に商標登録をしてしまえば、権利は相手のものになります。最悪の場合、あなたは長年使ってきた名前を変えざるを得なくなるのです(これを「商標権侵害」と言います)。
多くの経営者様が誤解されているのが、「法務局で会社設立の登記(商号登記)をしたから、名前は守られている」という点です。
つまり、会社名として登記できていても、商標権を侵害していれば、その名前を看板や広告として使うことはできないのです。
もし商標登録をせずにジム経営を続けた場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。具体的に3つの損害シミュレーションを見てみましょう。
ある日突然、商標権者(権利を持っている他社)から内容証明郵便が届きます。「あなたのジムの名前は当社の商標権を侵害しています。直ちに使用を中止し、過去の使用料として〇〇万円を支払ってください」という内容です。
商標権侵害は、故意でなくても過失が認められ、損害賠償請求の対象となります。
警告を受け入れ、名前を変えることになった場合、そのコストは莫大です。
小規模なジムであっても、これらを全て行うには数十万〜数百万円の出費となります。さらに、「名前が変わった=経営がおかしくなったのでは?」という会員様の不安を招き、退会に繋がるリスクもあります。
逆に、あなたのジムが大成功した場合を想像してください。近隣にあなたのジムとそっくりな名前のジムができ、サービス内容も真似されたとします。
商標権を持っていなければ、相手に「名前を変えてくれ」と言う法的根拠がありません。会員様が間違えて他店に入会してしまったり、「あそこは〇〇ジムの系列店だと思ったのに質が悪かった」という悪評が立ったりしても、指をくわえて見ているしかないのです。
商標登録を行う際、最も専門知識が必要となるのが「指定商品・指定役務(えきむ)」の選択と、「区分(第1類〜第45類)」の決定です。
自分のビジネスがどのカテゴリーに入るのかを正しく選ばなければ、せっかく登録しても意味のない権利になってしまいます。
スポーツジム経営において必須となる区分、および事業展開によって検討すべき区分を解説します。
スポーツジム、フィットネスクラブ、ヨガスタジオなどを運営する場合、この第41類は絶対に外せません。
具体的には、以下の項目(指定役務)を指定します。
ここを押さえておかないと、ジムの名称としての権利が守られません。
最近のジムは、単に場所を貸すだけでなく、物販やオンライン配信など多角化しています。ビジネスモデルに合わせて、以下の区分も検討が必要です。
→ 第25類(被服、靴など)
ジムのロゴが入ったTシャツ、キャップ、トレーニングウェアなどを販売(会員への配布含む)する場合に必要です。「スタッフが着るだけ」と思っていても、イベント等で販売する可能性があるなら取得しておくべきです。
→ 第5類、第29類、第30類、第32類
ここが非常に複雑なポイントです。「プロテイン」と一口に言っても、成分や形状によって区分が異なります。
「プロテインだから第32類(飲料)だろう」と思って出願したら、実際に売っていたのは粉末(第29類)だったので権利範囲外だった、という失敗例がよくあります。
→ 第9類(ダウンロード可能な動画データなど)
→ 第38類(電気通信など)
コロナ禍以降増えている「オンライントレーニング」や「動画教材の販売」。これらはインターネットを通じたサービス提供となるため、第41類だけでなく、場合によっては第9類(アプリや動画データ)などのカバーが必要になることがあります。
→ 第24類(織物・タオルなど)
→ 第28類(おもちゃ・スポーツ用具など)
ヨガマットやダンベル、トレーニング用チューブなどを自社ブランドで出す場合は第28類が必要です。
「区分」選びはプロの戦略が必要
区分を増やせば増やすほど、特許庁に支払う費用は高くなります。しかし、節約しすぎて必要な区分を取り漏らすと、その分野で他社に商標を取られてしまうリスクがあります。
「現在の事業」だけでなく「将来展開する予定の事業(FC展開など)」も見据えて、最適な区分を選定することが重要です。
「いい名前を思いついた!」と思っても、全ての言葉が商標登録できるわけではありません。特許庁の審査をパスする必要があります。
単にサービス内容を説明しただけの名前は、「識別力(特徴)がない」として拒絶されます。
これらは誰もが使いたい言葉であり、一社に独占させるべきではないからです。
すでに他社が登録している商標と「外観(見た目)」「称呼(読み方)」「観念(意味)」のいずれかが類似している場合、登録できません。
例えば、有名な「RIZAP(ライザップ)」に似た「RAIZAP」「RIZUP」などは当然登録できませんし、全く違うスペルでも読み方が似ていれば拒絶される可能性が高いです。
最近では、AIを使った簡易的な商標登録サイトも増えていますが、スポーツジムのような競合が多い業種においては、弁理士への依頼を強くおすすめします。その理由は以下の通りです。
商標登録で最も重要なのは、出願前の「先行商標調査」です。
単に同じ名前がないかを検索するだけでなく、「似ていると判断されるリスクがあるか」を専門的な知見で判断します。特にスポーツジム業界は英語やカタカナの造語が多く、類似判断が非常に難しい分野です。
弁理士は、過去の判例や審査基準に基づき、「この名前なら登録率〇%」「この部分は変更したほうがいい」といった具体的なアドバイスを行います。
出願後、特許庁から「このままでは登録できません」という通知(拒絶理由通知)が来ることがあります。
個人の場合、ここで諦めてしまう方が多いのですが、弁理士がいれば「意見書」や「補正書」を提出し、審査官に反論することで、結果を覆して登録に導けるケースが多々あります。
単に登録手続きを代行するだけではありません。
といった、経営戦略に寄り添った知財コンサルティングを提供できるのが、弁理士の強みです。
費用は「特許庁に支払う印紙代」と「弁理士への手数料」の合計になります。また、区分の数によって変動します。
「高い」と感じるかもしれませんが、一度登録すれば10年間(更新すれば永続的)権利を守れるため、月額に換算すれば数百円〜千円程度の保険料と言えます。トラブルが起きた際の損害賠償額やリブランディング費用に比べれば、極めて安価な投資です。
トレーニング愛好家の皆様にはおなじみの「筋肉は裏切らない」という言葉。日々の努力は必ず体に反映されます。
しかし、ビジネスの世界における「ブランド」は、努力だけでは守れません。法的な手続きを踏まなければ、あなたが育てたジムの名前という資産は、ある日突然、他人のものになってしまうかもしれないのです。
これからジムを開業される方、あるいは既に運営していて商標登録がまだの方。
看板の心配をせずに、会員様のトレーニング指導に全力を注ぐために、まずは専門家である弁理士にご相談ください。
当事務所では、フィットネス業界の動向に詳しい弁理士が、あなたのジムに最適な商標戦略をご提案いたします。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。