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【スポーツジム・パーソナルジム】商標登録は必須?経営者が知るべきリスクと「区分」の選び方を弁理士が徹底解説

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/01/10

近年、24時間営業のジムや個室パーソナルトレーニング、ピラティス、特定の部位に特化した専門スタジオなど、フィットネス業界は空前の開業ブームを迎えています。街を歩けば新しいジムの看板を目にすることも珍しくありません。

しかし、競争が激化する中で、多くの経営者様が見落としがちな重大なリスクがあります。それが「商標(ブランド名・ロゴ)」の権利問題です。

「うちは個人経営の小さなジムだから関係ない」
「法務局で会社の名前(商号)は登記できたから大丈夫」

もし、そのように考えているとしたら、あなたのビジネスは非常に危険な状態にあります。ある日突然、見知らぬ会社から「商標権侵害」の警告書が届き、ジムの看板やチラシ、ウェブサイトの全てを作り直さなければならなくなる――そんな悪夢のような事態は、実際に起きています。

この記事では、スポーツジムやフィットネス事業における「商標登録」の重要性、登録しなかった場合のリスク、そして複雑な「区分」の選び方について、知的財産の専門家である弁理士が詳しく解説します。

目次

第1章:なぜスポーツジムに「商標登録」が必要なのか?

 

1. 「看板」を守るための唯一の法的手段

スポーツジムにとって、ジムの名前(屋号)やロゴマークは、会員様があなたのジムを識別するための「顔」です。「〇〇ジムに行けば痩せられる」「〇〇フィットネスは設備が良い」という評判は、すべてその名前に蓄積されます。

商標登録とは、この「信用」を独占的に使用する権利を国(特許庁)から認められる制度です。登録すれば、他社が同じ名前や紛らわしい名前を使うことを法的に禁止・排除できます。

2. 早い者勝ち(先願主義)のルール

日本の商標制度は「先願主義」を採用しています。これは、「その名前を先に考えた人」や「先に使い始めた人」ではなく、「特許庁に一番先に書類を出した人」に権利を与えるというルールです。

たとえあなたが5年前からそのジム名を使い、地域で愛されていたとしても、昨日開業したライバル店が先に商標登録をしてしまえば、権利は相手のものになります。最悪の場合、あなたは長年使ってきた名前を変えざるを得なくなるのです(これを「商標権侵害」と言います)。

3. 「商号登記」と「商標登録」は別物

多くの経営者様が誤解されているのが、「法務局で会社設立の登記(商号登記)をしたから、名前は守られている」という点です。

  • 商号登記(法務局):会社としての名前を登録するもの。同一住所でなければ、同じ名前でも登記できてしまいます。
  • 商標登録(特許庁):商品やサービスのブランド名を登録するもの。日本全国で効力を持ち、同一・類似の名称の使用を排除できます。

つまり、会社名として登記できていても、商標権を侵害していれば、その名前を看板や広告として使うことはできないのです。

第2章:商標登録をしないと起こる「3つの損害」

もし商標登録をせずにジム経営を続けた場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。具体的に3つの損害シミュレーションを見てみましょう。

リスク1:警告書が届き、損害賠償を請求される

ある日突然、商標権者(権利を持っている他社)から内容証明郵便が届きます。「あなたのジムの名前は当社の商標権を侵害しています。直ちに使用を中止し、過去の使用料として〇〇万円を支払ってください」という内容です。
商標権侵害は、故意でなくても過失が認められ、損害賠償請求の対象となります。

リスク2:強制的な名称変更(リブランディング)のコスト

警告を受け入れ、名前を変えることになった場合、そのコストは莫大です。

  • 店舗の看板撤去・設置費用(数十万〜)
  • パンフレット、名刺、会員証の刷り直し
  • ウェブサイト、SNSアカウントの修正
  • スタッフのユニフォームの作り直し
  • 内装のロゴ装飾の変更

小規模なジムであっても、これらを全て行うには数十万〜数百万円の出費となります。さらに、「名前が変わった=経営がおかしくなったのでは?」という会員様の不安を招き、退会に繋がるリスクもあります。

リスク3:他社に模倣され、ブランド価値が下がる

逆に、あなたのジムが大成功した場合を想像してください。近隣にあなたのジムとそっくりな名前のジムができ、サービス内容も真似されたとします。

商標権を持っていなければ、相手に「名前を変えてくれ」と言う法的根拠がありません。会員様が間違えて他店に入会してしまったり、「あそこは〇〇ジムの系列店だと思ったのに質が悪かった」という悪評が立ったりしても、指をくわえて見ているしかないのです。

第3章:スポーツジムが登録すべき「区分」とは?

商標登録を行う際、最も専門知識が必要となるのが「指定商品・指定役務(えきむ)」の選択と、「区分(第1類〜第45類)」の決定です。
自分のビジネスがどのカテゴリーに入るのかを正しく選ばなければ、せっかく登録しても意味のない権利になってしまいます。

スポーツジム経営において必須となる区分、および事業展開によって検討すべき区分を解説します。

【必須】第41類:教育・スポーツ・娯楽

スポーツジム、フィットネスクラブ、ヨガスタジオなどを運営する場合、この第41類は絶対に外せません。

具体的には、以下の項目(指定役務)を指定します。

  • 「スポーツ施設の提供」
  • 「スポーツの教授」(パーソナルトレーニングやレッスン指導など)
  • 「知識の教授」(健康管理やダイエット指導など)
  • 「セミナーの企画・運営」

ここを押さえておかないと、ジムの名称としての権利が守られません。

【事業内容によって検討】その他の区分

最近のジムは、単に場所を貸すだけでなく、物販やオンライン配信など多角化しています。ビジネスモデルに合わせて、以下の区分も検討が必要です。

1. オリジナルウェア・グッズを販売する場合

→ 第25類(被服、靴など)
ジムのロゴが入ったTシャツ、キャップ、トレーニングウェアなどを販売(会員への配布含む)する場合に必要です。「スタッフが着るだけ」と思っていても、イベント等で販売する可能性があるなら取得しておくべきです。

2. プロテインやサプリメントを販売する場合

→ 第5類、第29類、第30類、第32類
ここが非常に複雑なポイントです。「プロテイン」と一口に言っても、成分や形状によって区分が異なります。

  • 第5類(薬剤等):サプリメント形状(錠剤・カプセル)のもの、薬効を謳うもの。
  • 第29類(動物性食品):乳製品(ホエイ・カゼイン)ベースの粉末プロテインなど。
  • 第30類(植物性食品):大豆(ソイ)ベースのプロテイン、プロテインバーなど。
  • 第32類(清涼飲料):すぐに飲めるドリンクタイプのプロテイン、スポーツドリンク。

「プロテインだから第32類(飲料)だろう」と思って出願したら、実際に売っていたのは粉末(第29類)だったので権利範囲外だった、という失敗例がよくあります。

3. オンラインサロンや動画配信を行う場合

→ 第9類(ダウンロード可能な動画データなど)
→ 第38類(電気通信など)

コロナ禍以降増えている「オンライントレーニング」や「動画教材の販売」。これらはインターネットを通じたサービス提供となるため、第41類だけでなく、場合によっては第9類(アプリや動画データ)などのカバーが必要になることがあります。

4. タオルやスポーツ用品を販売する場合

→ 第24類(織物・タオルなど)
→ 第28類(おもちゃ・スポーツ用具など)

ヨガマットやダンベル、トレーニング用チューブなどを自社ブランドで出す場合は第28類が必要です。

「区分」選びはプロの戦略が必要

区分を増やせば増やすほど、特許庁に支払う費用は高くなります。しかし、節約しすぎて必要な区分を取り漏らすと、その分野で他社に商標を取られてしまうリスクがあります。
「現在の事業」だけでなく「将来展開する予定の事業(FC展開など)」も見据えて、最適な区分を選定することが重要です。

第4章:どのようなネーミングが登録できる?

「いい名前を思いついた!」と思っても、全ての言葉が商標登録できるわけではありません。特許庁の審査をパスする必要があります。

登録が難しいケース

1. 一般的な名称・記述的な名称

単にサービス内容を説明しただけの名前は、「識別力(特徴)がない」として拒絶されます。

  • ×「渋谷スポーツジム」
  • ×「ダイエット・パーソナルスタジオ」
  • ×「24時間フィットネス」

これらは誰もが使いたい言葉であり、一社に独占させるべきではないからです。

2. 既存の商標と似ている

すでに他社が登録している商標と「外観(見た目)」「称呼(読み方)」「観念(意味)」のいずれかが類似している場合、登録できません。
例えば、有名な「RIZAP(ライザップ)」に似た「RAIZAP」「RIZUP」などは当然登録できませんし、全く違うスペルでも読み方が似ていれば拒絶される可能性が高いです。

登録の可能性を高めるコツ

  • 造語を作る:全く新しい言葉を組み合わせる。(例:NIKE、Reebokなどは強いブランドです)
  • ロゴとセットにする:文字だけでは一般的で登録が難しい場合でも、特徴的なロゴマークと組み合わせることで登録できる場合があります(ロゴ商標)。ただし、この場合は「ロゴのデザイン」に権利が発生するため、文字自体の独占権は弱くなることに注意が必要です。

第5章:弁理士に依頼するメリットとは?

最近では、AIを使った簡易的な商標登録サイトも増えていますが、スポーツジムのような競合が多い業種においては、弁理士への依頼を強くおすすめします。その理由は以下の通りです。

1. 「調査」の精度が違う

商標登録で最も重要なのは、出願前の「先行商標調査」です。
単に同じ名前がないかを検索するだけでなく、「似ていると判断されるリスクがあるか」を専門的な知見で判断します。特にスポーツジム業界は英語やカタカナの造語が多く、類似判断が非常に難しい分野です。
弁理士は、過去の判例や審査基準に基づき、「この名前なら登録率〇%」「この部分は変更したほうがいい」といった具体的なアドバイスを行います。

2. 「拒絶理由通知」への対応

出願後、特許庁から「このままでは登録できません」という通知(拒絶理由通知)が来ることがあります。
個人の場合、ここで諦めてしまう方が多いのですが、弁理士がいれば「意見書」や「補正書」を提出し、審査官に反論することで、結果を覆して登録に導けるケースが多々あります。

3. ビジネスを守るための「戦略的アドバイス」

単に登録手続きを代行するだけではありません。

  • 「将来的にフランチャイズ展開を考えているなら、この区分も取っておくべき」
  • 「ロゴの色を変えた場合でも権利は有効か?」

といった、経営戦略に寄り添った知財コンサルティングを提供できるのが、弁理士の強みです。

第6章:商標登録の流れと費用感

登録までの流れ

  1. ヒアリング・調査:事業内容を伺い、類似商標がないか調査します。
  2. 出願(申請):特許庁へ願書を提出します。ここから「商標使用中(TM)」等のマークを付けることが推奨されます。
  3. 審査:特許庁の審査官がチェックします。(現在は半年〜1年程度かかります)
    「早期審査」という制度を使えば、条件を満たすことで2〜3ヶ月程度に短縮できる場合があります。オープン日が決まっている場合はご相談ください。
  4. 登録査定・設定登録:審査に合格すれば、登録料を納付し、商標権が発生します。

費用について

費用は「特許庁に支払う印紙代」と「弁理士への手数料」の合計になります。また、区分の数によって変動します。

  • 出願時:数万円〜(印紙代+手数料)
  • 登録時:数万円〜(登録料+成功報酬など)

「高い」と感じるかもしれませんが、一度登録すれば10年間(更新すれば永続的)権利を守れるため、月額に換算すれば数百円〜千円程度の保険料と言えます。トラブルが起きた際の損害賠償額やリブランディング費用に比べれば、極めて安価な投資です。

おわりに:筋肉は裏切らない。でも、商標は守らなければ裏切られる。

トレーニング愛好家の皆様にはおなじみの「筋肉は裏切らない」という言葉。日々の努力は必ず体に反映されます。

しかし、ビジネスの世界における「ブランド」は、努力だけでは守れません。法的な手続きを踏まなければ、あなたが育てたジムの名前という資産は、ある日突然、他人のものになってしまうかもしれないのです。

これからジムを開業される方、あるいは既に運営していて商標登録がまだの方。
看板の心配をせずに、会員様のトレーニング指導に全力を注ぐために、まずは専門家である弁理士にご相談ください。

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