2025年も残すところあとわずかとなりました。
企業の経営者様、広報・知財担当者様に、今年最後にして最大級の重要なお知らせがあります。
来たる2026年(令和8年)1月1日より、商標登録のルールブックである「類似商品・役務審査基準」が改訂され、新しい国際ルール(国際分類第13-2026版)が適用されます。
「法律の改正なんて、毎年あることでしょう?」
「ウチはもう商標を取っているから関係ないよ」
もし、そのように考えてこのニュースをスルーしようとしているなら、少しだけ時間をください。
今回の改正は、一部の業界にとっては「今までの常識が通用しない」ほどの影響力を持っています。
例えば、これまで長年にわたり「第9類」の代表的な商品であった「眼鏡(サングラス)」が、今回の改正で「第10類」へ完全移行します。
これは、これからアパレルブランドでアイウェアを展開しようとしている企業や、スマートグラスの開発を進めているIT企業にとって、知財戦略の根幹に関わる変更です。
商標登録は「早い者勝ち」の制度ですが、それ以前に「正しい区分(カテゴリー)」で出願しなければ、どんなに早く出願しても権利は認められません。
また、区分が変わるということは、他社の商標を調査する際のアプローチも根本から変わることを意味します。
本記事では、日本弁理士会および特許庁から通知された最新情報を基に、2026年の商標審査基準改正のポイントを、どこよりも詳しく、かつ実践的に解説します。
ライバルに差をつけるためにも、ぜひ最後までお読みいただき、自社のブランドを守るための知識としてお役立てください。
そもそも「類似商品・役務審査基準」の改正とは?
【最大の衝撃】「眼鏡」が第9類から第10類へ!その背景と対策
【複雑怪奇】「香り」ビジネスの区分が大再編(アロマ・香料)
その他の見逃せない変更点(消防車、パラソル、レース生地など)
なぜ頻繁に「区分」や「基準」が変わるのか?
経営判断:2025年内に出願すべきか、2026年を待つべきか
自力出願のリスクが高まる「過渡期」の落とし穴
よくある質問(FAQ)
まとめ:新基準への対応は弁理士にお任せください
具体的な変更点に入る前に、前提となる知識を整理しておきましょう。
商標登録を行う際、私たちは「商標(マーク)」と、それを使用する「商品・役務(サービス)」をセットで特許庁に出願します。
この商品は、第1類から第45類までの「区分(クラス)」に分類されています。
この分類は、日本独自のものではなく、「ニース協定」という国際的な条約に基づいた「国際分類(ニース分類)」に準拠しています。
世界中の国々が共通の物差しで商品を分類することで、グローバルなビジネス展開や商標保護をスムーズにするための仕組みです。
しかし、ビジネスの世界は日々進化しています。
数年前には存在しなかった商品が市場を席巻したり、商品の使われ方が変わったりします。そのため、この国際分類は定期的に見直され、アップデートが行われます(ニース会合)。
今回の改正は、「国際分類第13-2026版」に対応するためのものであり、同時に日本国内の商取引の実情に合わせた微調整が行われるものです。
適用開始日は、2026年(令和8年)1月1日。
この日以降に特許庁へ提出する出願は、すべて新しい基準で審査されます。逆に言えば、2025年12月31日までの出願は、旧基準(現在の基準)で審査されることになります。
今回の改正で、実務家や業界関係者の間で最も話題になっているのが「眼鏡」の区分変更です。
これまで(2025年まで):第9類
類似群コード:23B01(短波受信機、電話機などと同じグループ)
これから(2026年から):第10類
類似群コード:変更の可能性あり(医療用機械器具のグループへ)
これまで眼鏡やサングラスは、レンズを用いた光学機器としての側面や、目を保護する防具としての側面から、カメラや測定器、コンピューターと同じ「第9類」に分類されていました。
しかし、近年では「視力を補正する」という機能、つまり身体機能を補助・回復させる「医療的性質」が国際的に重視されるようになりました。
コンタクトレンズは以前から医療機器扱い(第9類に含まれる場合もありましたが、性質としては医療寄り)でしたが、ついに眼鏡本体も医療用機械器具のグループである「第10類」へと引っ越すことになったのです。
(※「Cl.9 spectacles / eyeglasses」の類移行)
① これから出願する場合
2026年以降、眼鏡について商標を取りたい場合は、願書に「第10類」と記載する必要があります。
もし、うっかり「第9類」と書いて出願してしまうと、特許庁から「第9類に眼鏡は含まれません」という旨の拒絶理由通知(補正指令)が届きます。
これを修正するには、「第10類」への区分変更補正が必要になりますが、場合によっては追加の手数料がかかったり、手続きが複雑になったりします。
② アパレル・雑貨ブランドの展開
ファッションブランドがサングラスを出す場合、これまではTシャツ等の「第25類」と、アクセサリー等の「第14類」、そしてサングラスの「第9類」を押さえるのが定石でした。
今後は、「第10類」もポートフォリオに組み込む必要があります。
③ スマートグラスはどうなる?
ここで気になるのが、IT企業が開発する「スマートグラス」です。
視力補正機能を持たない、純粋なウェアラブル端末としてのスマートグラスは、引き続き「第9類(データ処理装置等)」に残る可能性が高いですが、視力補正機能付きのスマートグラスの場合はどうなるか?
このように、商品の機能によって第9類と第10類の境界線を見極める必要が出てきます。自己判断は危険ですので、必ず専門家にご相談ください。
アロマテラピー、食品フレーバー、フレグランスなど、「香り」を扱うビジネスにとっても、今回の改正は非常に複雑かつ重要です。
これまでは「精油(エッセンシャルオイル)かどうか」で判断していた部分が、「何のために使う香りなのか(用途)」によって厳密に細分化されました。
これまで曖昧だったアロマオイルの居場所として、第5類に「アロマテラピー用オイル」が追加されました。
第5類は主に「薬剤」の区分です。つまり、リラックス効果や健康増進など、メディカル・ヘルスケア寄りの用途(アロマテラピー)として商品を展開する場合は、第5類での権利取得が必要になります。
一方で、従来の第3類(化粧品・石鹸等)の「香料」は、「香料(芳香用のものに限る。)」という表記に変更されました。
ルームフレグランスや香水など、「香りそのものを楽しむ」嗜好品としての香料は、引き続き第3類となります。
工業製品の原材料として使われる精油については、化学品等が属する第1類に「製造用精油」として追加されました。
食品用のフレーバー(第30類)やタバコ用のフレーバー(第34類)についても変更があります。
これまでは「(精油からなるものを除く)」といった除外規定がありましたが、これが削除・整理されました。つまり、原材料が天然精油だろうと合成香料だろうと、「食品の香り付けに使うなら第30類」というように、用途ベースでシンプルに判断されるようになります。
【ここがポイント】
「当社はラベンダーオイルを売っています」というだけでは、区分が決まらなくなりました。
雑貨として香りを楽しむなら 第3類
アロマテラピー用なら 第5類
お菓子作り用なら 第30類
石鹸工場の原料用なら 第1類
自社の商品が最終的に消費者にどう使われるのかを定義しないと、適切な権利保護ができなくなります。
一見地味ですが、特定の業界には大きな影響がある変更点を紹介します。
これまで消防車は、消火活動を行う「科学機械」として第9類に分類されていました。しかし、今回の改正で、自動車やトラックと同じ「第12類(乗物)」へ移行します。これは直感的に分かりやすくなったと言えますが、特殊車両メーカー様にとっては管理区分の変更が必要です。
手で持つ雨傘・日傘は第18類のままですが、庭やビーチに設置する大型のパラソルは、テントや日よけに近い性質として「第22類」へ移動しました。「Cl.22 patio umbrellas」としての整理です。アウトドア用品メーカー様は注意が必要です。
刺しゅうレース生地などは、これまで第26類(手芸用品)でしたが、布地・織物としての性質が重視され、「第24類」へ移動します。テキスタイル業界の方は、指定商品の見直しが必要です。
役務(サービス)の区分変更です。第39類(輸送)に含まれていた燃料供給装置の貸与が、建設機械や修理用機械の貸与と同じく「第37類(建設・修理)」へ整理されました。
「一度決めたら変えないでほしい」と思われるかもしれません。しかし、商標の区分は「時代の鏡」です。
例えば、数十年前には「スマートフォン」や「サブスクリプション」といった概念はありませんでした。新しい商品が生まれれば、それをどの箱(区分)に入れるか決める必要があります。また、今回の「眼鏡」のように、製品の性質が「単なる道具」から「身体機能を補完するデバイス(医療寄り)」へと認識が変わることもあります。
さらに、商標制度は世界共通のルール(ニース協定)で運用することで、海外展開する企業の利便性を高めています。「日本では第9類だけど、アメリカでは第10類」というズレがあると、国際登録出願(マドプロ出願)をする際に非常に手間がかかります。このズレをなくすために、定期的な「国際調和」が行われているのです。
今回の改正も、「世界標準に合わせるためのアップデート」と捉えてください。
これが実務上、最も悩ましいポイントであり、弁理士の腕の見せ所です。
今回の改正は「2026年1月1日以降の出願」に対して適用されます。
もし現在(2025年12月)、眼鏡について商標を取りたい場合、どうすべきでしょうか?
年内(12/31まで)に出願する場合:
「第9類」を指定して出願します。
メリット: 慣れ親しんだ区分で登録できる。既存の商標管理(他に第9類を持っている場合)と統一しやすい。
年明け(1/1以降)に出願する場合:
「第10類」を指定して出願します。
メリット: 最新の国際分類に準拠した権利となる。将来的な海外展開の際、区分のズレが生じにくい。
【重要アドバイス】
駆け込みで年内に出すのも手ですが、長期的な視点で見ると、眼鏡に関しては今後の主流となる「第10類」での権利取得をおすすめするケースが多いでしょう。ただし、既に第9類で多数の登録を持っている場合は、管理コストを考慮する必要があります。
アロマ関連は区分が細分化されたため、自社の商品ラインナップを再確認する必要があります。
曖昧な状態で年内に出願してしまうと、将来的に「指定商品が不明確」とされるリスクもゼロではありません。逆に、新基準(2026年)で出願することで、より明確に「第5類 アロマテラピー用オイル」として権利を確保できるメリットがあります。
最近は、AIを使った簡易商標登録サービスや、自分で特許庁のサイトを見て出願する方も増えています。
しかし、このような「基準改正の過渡期(切り替わりのタイミング)」こそ、自己判断での出願は危険です。
2026年になっても、インターネット上の多くのブログや解説記事は、すぐには書き換わりません。「商標 眼鏡 区分」で検索して出てきた上位記事が、2024年に書かれたものであれば、そこには堂々と「眼鏡は第9類です」と書かれています。
これを信じて2026年1月に出願すると、前述の通り、拒絶理由通知を受けることになります。対応に追われ、追加費用がかかったり、最悪の場合は出願日が繰り下がって他社に先を越されたりする可能性もあります。
これが最も怖いリスクです。
2026年以降に「眼鏡」について第10類で調査を行っても、「2025年以前に登録された第9類の眼鏡商標」は見つからない可能性があります(検索ツールの仕様によります)。
しかし、権利としては第9類の眼鏡商標も生きています。
つまり、過渡期においては、「新区分(10類)」と「旧区分(9類)」の両方を横断的に調査しなければ、他社の権利を見落とし、侵害訴訟に発展するリスクがあるのです。
この複雑なクロスサーチは、素人判断では極めて危険です。プロの弁理士に任せるべき領域と言えます。
今回の改正に関連して、お客様からよくいただく質問をまとめました。
Q1. すでに登録済みの商標(眼鏡=第9類)はどうなりますか?
A. 自動的に第10類に変更されることはありません。登録済みの権利は「第9類」のまま有効に存続します。ただし、更新の際や、将来的に権利を行使(他社の模倣品を訴える等)する際には、新旧基準の読み替えが必要になる場合があります。
Q2. 自分の商品が新基準でどの区分になるか分かりません。
A. ご安心ください。商品の詳細(カタログやWebサイト)を拝見できれば、弁理士が最新の基準に照らして適切な区分を選定します。特にアロマ関連やIoT機器などは判断が難しいため、自己判断は禁物です。
Q3. 2026年1月に出願する予定ですが、古い願書フォーマットを使ってしまいました。
A. そのまま出願すると、方式不備や拒絶理由通知の対象となる可能性が高いです。出願前であれば修正が可能ですが、出願後だと補正手数料がかかる場合があります。出願ボタンを押す前に、必ず専門家のチェックを受けることをお勧めします。
今回の2026年改正は、多くの事業者様にとって影響のあるものです。
眼鏡は第9類から第10類へ(最重要)。
アロマ・香料は用途別に第1類、3類、5類、30類へ分散。
消防車、パラソル、レース生地なども移動。
適用は2026年1月1日の出願から。
「たかが区分の変更」と侮ってはいけません。商標権は、ビジネスを守るための「武器」であり「盾」です。ルールが変われば、武器の使い方も変える必要があります。
「自分の商品は大丈夫だろうか?」「来年出そうと思っていた商標は、どの区分になるのだろう?」
少しでも不安を感じられた方は、ぜひ専門家である弁理士にご相談ください。
当事務所では、最新の「国際分類第13-2026版」および改訂された審査基準を完全に把握しております。
お客様のビジネスが将来にわたって安全に守られるよう、最適な区分選定と出願戦略をご提案いたします。
新しい時代に向けた知財戦略を、一緒に構築していきましょう。
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知的財産事務所エボリクス
代表弁理士 杉浦健文
06-7777-1884
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※本記事は2025年12月時点の日本弁理士会および特許庁の公表情報に基づき作成しています。具体的な事案については必ず専門家へ個別にご相談ください。
【参考リンク】
特許庁:類似商品・役務審査基準〔国際分類第13-2026版対応〕
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/ruiji_kijun/ruiji_kijun13-2026.html