evorix blog

【宿泊施設と商標】ホテル・旅館・民泊経営者が知るべきブランド保護の鉄則|名称変更の致命的リスクを防ぐために

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/02/12

インバウンド需要のV字回復や、マイクロツーリズムの定着により、宿泊業界は活気を取り戻しています。新規開業するホテル、古民家を再生した旅館、ユニークなコンセプトのゲストハウスやグランピング施設など、多様な宿泊体験が提供されるようになりました。

しかし、施設の内装やサービス、Webマーケティングには多額の投資をしていても、「商標登録」については後回し、あるいは全く検討していないという経営者様が非常に多いのが実情です。

「うちは個人経営の小さな宿だから関係ない」

「法務局で会社名の登記をしているから、名前は守られているはず」

「Booking.comや楽天トラベルに掲載できているから問題ない」

もし、そのように考えているとしたら、貴施設は「ある日突然、看板を撤去し、名前を変えなければならない」という、経営上きわめて重大なリスクを抱えていることになります。

本記事では、宿泊施設のオーナー様や経営者様に向けて、なぜ今、商標登録が不可欠なのか、登録しない場合に起こりうる具体的なトラブル、そして弁理士に依頼すべき戦略的なメリットについて徹底解説します。

📑 この記事の目次

  1. 宿泊施設にとって「名前」は最大の資産である
  2. よくある勘違い:「屋号登記」と「商標登録」の決定的な違い
  3. 商標登録を怠った場合に起こりうる「3つの悲劇」
  4. 宿泊施設が戦略的に登録すべき「区分(カテゴリー)」
  5. ホテル・旅館のネーミングにおける注意点
  6. 弁理士に依頼するメリットとは?
  7. 商標登録にかかる費用と期間
  8. Q&A:宿泊施設オーナーからよくある質問
  9. まとめ:商標登録は「攻め」と「守り」の経営戦略

1. 宿泊施設にとって「名前」は最大の資産である

ホテルや旅館にとって、施設名は単なる「呼び名」ではありません。お客様がOTA(オンライン予約サイト)で検索し、SNSで口コミを確認し、実際に足を運ぶための「信用の器」であり、他施設と区別するための「識別標識」です。

検索と予約の起点

現代の宿泊予約のほとんどは、インターネットを経由します。「〇〇ホテル」「旅館〇〇」という名前が検索キーワードとなり、その検索結果に表示されることが集客の第一歩です。

もし、この「名前」に関する権利(商標権)を持っていなければ、他社に同じ名前を使われても文句が言えず、最悪の場合、検索流入を奪われることになります。

「のれん代」としての価値

老舗旅館であれば、その名前自体が歴史と格式を証明するブランドです。新規オープンのゲストハウスであっても、良い口コミが積み重なることで、その名前に信用(のれん代)が蓄積されていきます。

商標登録は、日々の努力で積み上げたこの「見えない資産」を、法律という頑丈な金庫で守る唯一の手段なのです。

2. よくある勘違い:「屋号登記」と「商標登録」の決定的な違い

多くの経営者が陥りやすい最大の誤解がこれです。「税務署に開業届を出した(屋号)」「法務局で会社設立の登記をした(商号)」から、この名前は自分だけのものだと思ってしまうケースです。

結論から申し上げますと、屋号や商号の登記をしていても、商標権侵害のリスクは回避できません。

項目 商号登記(屋号) 商標登録
根拠法 会社法・商法 商標法
管轄 法務局 特許庁
効力範囲 同一住所(地番)でなければ登記可能 日本全国で効力が及ぶ
権利内容 会社としての名称を名乗る権利 商品・サービスに独占的に使用する権利
他社排除 同一住所でない限り止められない 類似した名前も含めて差し止め可能

つまり、あなたが「株式会社〇〇ホテル」と登記していても、隣町(あるいは遠方の県)の誰かが「〇〇ホテル」を商標登録してしまえば、あなたは看板やWebサイトで「〇〇ホテル」という名称を使用できなくなる可能性があるのです。

ビジネスとして看板を掲げ、集客を行う以上、商標登録は必須の手続きと言えます。

3. 商標登録を怠った場合に起こりうる「3つの悲劇」

商標登録を後回しにしていた結果、実際に起こっているトラブル事例をご紹介します。これらは決して他人事ではありません。

⚠️ リスク①:ある日突然「警告書」が届く

何年も営業していたペンションに、ある日突然、見知らぬ会社(または代理人の弁理士)から内容証明郵便が届くことがあります。

「貴殿の使用している施設名は、当社の商標権を侵害しています。直ちに使用を中止し、過去の使用料として金〇〇万円を支払ってください」

相手が先に商標登録を済ませている場合、こちらが先に営業していたとしても、商標法上は不利になるケースが多々あります。(※先使用権が認められるハードルは非常に高いです)

⚠️ リスク②:強制的な「改名(リブランディング)」の莫大なコスト

商標権侵害と認定された場合、施設名の変更を余儀なくされます。その場合に発生するコストは以下の通りです。

  • 建物の看板、入り口のサインの撤去・新設工事
  • パンフレット、名刺、封筒、館内着、アメニティグッズの廃棄と刷り直し
  • Webサイトの修正、ドメイン(URL)の変更
  • OTAへの登録変更手続き
  • 「名前が変わった」ことによる顧客認知の低下・リピーター離れ

これらにかかる直接的なコストは数百万円〜数千万円に及ぶこともあります。さらに、検索順位(SEO)の評価もリセットされるため、集客面でのダメージは計り知れません。

⚠️ リスク③:OTAからの掲載削除(デジタル・トラブル)

Booking.com、Expedia、Airbnbなどのプラットフォームは、知的財産権の保護に厳格です。商標権を持つ第三者が「この施設は私の商標を勝手に使っている」とOTA側に通報した場合、あなたの施設の掲載ページが突然削除(非公開)されるリスクがあります。

OTAが集客の生命線である現代において、予約導線が断たれることは廃業に直結しかねません。逆に、商標権を持っていれば、模倣サイトやなりすましアカウントを削除させる強力な武器となります。

4. 宿泊施設が戦略的に登録すべき「区分(カテゴリー)」

商標登録には「区分(くぶん)」というジャンル分けがあります。適切な区分を選ばないと、「登録したのにお土産が守られていない」「サウナ事業が守られていない」という事態になりかねません。

【必須】第43類:宿泊施設の提供、飲食物の提供

ホテル、旅館、民泊、ペンション、グランピング施設などは、まず間違いなくこの「第43類」での登録が必要です。宿泊サービスのほか、施設内でのレストランやバーでの飲食提供サービスも含まれます。ここが全ての基本となります。

【事業拡大用】見落としがちな周辺区分

最近の宿泊施設は、単に泊まるだけでなく、オリジナルグッズの販売やスパ、ウェディングなど多角化しています。第43類だけではカバーできない範囲があります。

区分 対象 具体例
第30類 菓子・パン・茶 当館オリジナルのお饅頭、特製クッキーをお土産として販売
第32類・33類 飲料・アルコール オリジナルのクラフトビール、日本酒、ジュースの販売
第3類 化粧品・石鹸 客室アメニティをオリジナルブランド化し、売店やECで販売
第25類 被服 オリジナルのTシャツ、浴衣、キャップ、トートバッグの販売
第44類 美容・医療 エステ、マッサージ、サウナ施設、温泉施設の提供
第41類 教育・娯楽 体験教室(陶芸、そば打ち等)、イベント、セミナーの開催

💡 ポイント:「予算との兼ね合いでどこまで取るか?」は、事業計画と密接に関わります。この判断こそが弁理士の腕の見せ所です。無駄な区分を取る必要はありませんが、将来のヒット商品を守るための「布石」は打っておくべきです。

5. ホテル・旅館のネーミングにおける注意点

これから新しい施設をオープンする場合、あるいはリブランディングをする場合、どのような名前にすべきでしょうか。商標登録の観点から避けるべき、あるいは工夫すべきポイントがあります。

地名+普通名称は登録が難しい

例えば「東京ホテル」「箱根旅館」「伊豆の宿」のような、「地名」+「業種(一般的名称)」だけの名前は、原則として商標登録できません。これらは誰もが使いたい言葉であり、特定の一社に独占させるべきではないからです。

ただし、特徴的なロゴマークと組み合わせたり、独自の言葉を付加したりすることで登録できる可能性があります。

インバウンドを意識したネーミング

外国人観光客をターゲットにする場合、日本語(漢字・ひらがな)だけでなく、「欧文字(アルファベット)」での商標登録も検討すべきです。海外からの予約客はアルファベットで検索します。日本語の読み方(称呼)だけでなく、アルファベット表記での見た目や類似性もしっかり調査しておく必要があります。

海外での「冒認出願」リスク

将来的に海外展開を視野に入れている、あるいは海外でも有名なラグジュアリー旅館を目指すのであれば、中国や台湾、東南アジアなどで「勝手に商標を取られる(冒認出願)」リスクも考慮しなければなりません。

日本の商標権は日本国内でしか効力を持ちません。必要に応じて、マドリッド協定議定書に基づく国際登録出願(マドプロ)なども検討する必要があります。

6. 弁理士に依頼するメリットとは?

最近ではAIを使った格安のオンライン出願サービスも増えていますが、宿泊施設のような「設備投資が巨額なビジネス」においては、プロフェッショナルである弁理士に依頼することを強くお勧めします。

✅ メリット①:精度の高い先行商標調査(類似判断)

商標登録ができるかどうかは、過去に似た商標がないかどうかにかかっています。この「似ているかどうか(類否判断)」は非常に専門的で、「外観(見た目)」「称呼(読み方)」「観念(意味)」の3要素から総合的に判断されます。

例えば、「HOTEL SUN」と「太陽ホテル」は、文字は違いますが意味(観念)が同じため、類似と判断される可能性があります。プロの目で見ないと「大丈夫だと思っていたら拒絶された」というケースが後を絶ちません。

✅ メリット②:事業拡大を見据えた「指定商品・役務」の精査

弁理士は、オーナー様の現在の事業内容だけでなく、「将来ECサイトをやるか?」「フランチャイズ展開はあるか?」といったビジョンをヒアリングした上で、権利の抜け漏れがないよう、かつ無駄な費用がかからないよう、最適な出願範囲を設計します。

✅ メリット③:拒絶理由通知への対応力(合格率を高める)

出願後、特許庁から「このままでは登録できません」という通知(拒絶理由通知)が来ることがあります。一般の方がこれを受け取ると「もうダメだ」と諦めてしまいがちです。

しかし弁理士がいれば、過去の判例や審査基準を用いて反論書(意見書)を作成したり、権利範囲を一部修正(補正)したりすることで、拒絶を覆して登録に導ける可能性が高まります。この「粘り強い交渉」ができるのが弁理士の強みです。

7. 商標登録にかかる費用と期間

費用の目安

商標登録にかかる費用は、「特許庁に支払う印紙代」と「弁理士への手数料」の合計になります。一般的には、1区分での出願・登録で総額10数万円〜20万円程度(10年分の登録料含む)が目安です。

10年間有効な権利を月額に換算すると...

月額わずか 1,000円〜2,000円

数千万円の改装費やブランドの信用を守る「経営保険」です。

期間の目安

出願から登録までは、通常6ヶ月〜10ヶ月程度かかります(※審査状況により変動します)。ただし、「早期審査」制度を利用すれば、要件を満たすことで2〜3ヶ月程度に短縮できる場合もあります。

⏰ 鉄則:「開業の半年前」、遅くとも「ネーミングが決まった直後」には動き出してください。商標は「早い者勝ち」の世界です。

8. Q&A:宿泊施設オーナーからよくある質問

Q. すでに何年も営業していますが、今からでも登録できますか?

A. はい、可能です。他社に先に登録されていない限り、今からでも登録可能です。むしろ、営業実績が長くなるほどブランド価値が高まっているため、他社による横取り(商標トロール)のリスクが高まります。一日も早い出願をお勧めします。

Q. ロゴと文字、どちらを登録すべきですか?

A. 予算が許せば「両方」、まずは「文字」が基本です。文字(標準文字)で登録しておけば、フォントやデザインを変えても権利が及びやすいため、最も汎用性が高いです。ただし、ロゴマーク自体に強い特徴がある場合や、文字としては一般的すぎて登録が難しい場合は、図形商標(ロゴ)としての登録が有効です。

Q. 却下されたら費用はどうなりますか?

A. 出願時の費用は返還されません。だからこそ、出願前の「事前調査」が極めて重要になります。当事務所では、無駄な出願にならないよう、事前の調査に力を入れています。

9. まとめ:商標登録は「攻め」と「守り」の経営戦略

宿泊施設の経営において、建物や内装へのこだわりと同様に、「ブランド(名前)」への投資は不可欠です。数万円〜十数万円の出願費用を惜しんだために、後に看板の撤去や損害賠償で数百万円の損失を出すことは、経営判断としてあまりにリスクが高すぎます。

🛡️

守り

お客様からの信頼を守る

⚔️

攻め

模倣業者を排除し、独自のブランドを確立する

📈

資産化

将来の事業価値(M&A・承継時の評価額)を高める

まずは無料相談から

当事務所では、ホテル・旅館・民泊・グランピングなど、宿泊業界の商標登録に豊富な実績がございます。「まだ具体的な名前が決まっていない」「どの区分で出せばいいかわからない」という段階でも構いません。

あなたの施設の大切な名前を、私たちと一緒に守り、育てていきましょう。