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【弁理士徹底解説】投げ銭(ギフティング)システムの特許戦略|ライブ配信のエフェクト連動と決済処理フローを独占する

作成者: 弁理士 杉浦健文|2025/12/30

はじめに:ライブ配信戦国時代における「知財」という武器

YouTubeのスーパーチャット(スパチャ)、Twitchのビッツ、TikTok LIVE、17LIVE、Pococha、そして急拡大するVTuber市場やメタバース領域。今や「ライブ配信」と、そこで行われる「投げ銭(ギフティング)」は、エンターテインメントビジネスの収益の柱となりました。

多くのIT企業やスタートアップがこの領域に参入していますが、開発現場では「機能の実装」に追われ、「知的財産(特許)の保護」が後回しにされがちです。

「投げ銭機能なんて、どこのアプリにもあるから特許は取れないだろう」

「単なる決済システムだから、既存技術の組み合わせに過ぎない」

もし、経営者やCTOの方がそのように考えているとしたら、それは極めて危険な誤解です。また、同時に大きなビジネスチャンスを逃していると言わざるを得ません。

実は、投げ銭システムは、現在進行系で特許出願が激化している「技術の激戦区」です。特に、ユーザー体験を左右する「エフェクト(演出)の連動技術」と、収益の根幹である「決済処理フロー」には、強力な特許網を構築する余地が残されています。

本記事では、IT・ソフトウェア特許に強い弁理士の視点から、投げ銭システムにおける特許取得のポイント、他社権利の侵害リスク、そして開発段階から組み込むべき知財戦略について、技術的な側面から徹底解説します。

1. 投げ銭(ギフティング)はなぜ「特許」になるのか?

ビジネスモデル特許(ソフトウェア特許)としての位置づけ

まず、「投げ銭」という行為自体(お金を寄付する文化)は新しいものではありません。しかし、特許法が保護するのは抽象的なアイデアではなく、「ハードウェア資源を用いて、具体的にどのように情報処理を実現するか」という技術的思想です。いわゆる「ビジネスモデル特許」と呼ばれる分野ですが、実務上は「ソフトウェア関連発明」として審査されます。

ライブ配信における投げ銭システムは、以下のような要素が複雑に絡み合う高度なソフトウェア発明です。

  1. UI/UX(フロントエンド): ユーザーがどのようにアイテムを選び、画面にどう作用させるか。

  2. 通信制御(インフラ): リアルタイムで多数の視聴者にどう同期させるか。

  3. データベース管理(バックエンド): 有償・無償ポイントをどう区別し、消費させるか。

  4. アルゴリズム: 金額や頻度に応じて、どのような演出効果を生成するか。

これらに対し、「従来にない処理手順」や「特有の技術的課題解決手段」が存在すれば、特許として権利化することが可能です。

大手プラットフォーマーの動向と「特許の地雷原」

DeNA、グリー、サイバーエージェント、LINEヤフー、楽天、そしてGoogleやByteDanceなどの巨大IT企業は、この領域で網の目のように特許を取得しています。

彼らが特許を取る理由は2つです。

  1. 独占権の確保: 自社の優れた機能を他社に真似させない(競合排除)。

  2. 防衛(クロスライセンス): 他社から訴えられた際に「そちらも当社の特許を使っていますよね」と交渉するための武器にする。

これから参入するスタートアップや中小企業にとって、丸腰でこの戦場に出ることは非常にリスクが高いのです。

2. 【核心技術①】エフェクト連動システムの特許ポイント

投げ銭システムにおいて、最も差別化しやすく、かつ特許になりやすいのが「エフェクト(演出)との連動」です。

「100円投げたらハートが出る」だけでは進歩性(容易に思いつかないこと)が認められにくいですが、以下のような切り口には特許の鉱脈が眠っています。

(1) パラメータに応じた「動的演出生成」ロジック

静的な画像を表示するのではなく、複数の変数を組み合わせてエフェクトをリアルタイムに変化させる仕組みは有力です。

  • 複合パラメータ処理:

    投げ銭の「金額」だけでなく、「コンボ数(連投回数)」、「現在の視聴者数」、「配信者のステータス(HPゲージや疲れ具合)」、「BGMのテンポ」などを掛け合わせて、エフェクトの大きさ、滞留時間、輝度、軌道を決定するアルゴリズム。

  • 合体・進化ロジック:

    特定の時間内に、複数の異なるユーザーが特定の組み合わせ(例:ユーザーAが「水」、ユーザーBが「種」)でギフトを投げた場合、サーバー側でそれを検知し、通常とは異なる「大樹が育つ」エフェクトを合成して配信する処理。これは「視聴者間の協力を促す」という課題解決手段として機能します。

(2) リアルタイム同期と「遅延(ラグ)」の制御

ライブ配信の最大の敵は遅延です。投げ銭をしてからエフェクトが出るまでのタイムラグをどう制御するかは、技術的な課題解決そのものです。

  • サーバー時刻基準の同期描画:

    投げ銭リクエストを受信したサーバーが、「現在時刻+N秒」を開始時刻とする描画命令を全クライアントに送信し、各端末がその時刻を待って一斉にエフェクト再生を開始することで、全視聴者が完全に同時に演出を目撃できるようにする同期制御システム。

  • Optimistic UI(楽観的UI)の実装:

    投げた本人(Aさん)のスマホでは、サーバーからの完了通知を待たずに即座にエフェクトを表示し(体感遅延ゼロ)、裏側で決済処理を行う。もし決済エラーが返ってきたら、自然にエフェクトをフェードアウトさせる、といったUX向上のための非同期処理フロー。

(3) インタラクション(相互作用)技術

画面を見るだけでなく、配信者や他の視聴者に物理的・視覚的な影響を与える機能も特許の対象です。

  • IoTデバイス連動:

    投げ銭信号をトリガーとして、配信者の部屋にあるスマートライトの色を変える、あるいはぬいぐるみ(ロボット)を動かすといった、サーバーからIoT機器への制御信号送信フロー。

  • アバター・メタバース連動:

    3D空間において、投げられたギフト(3Dオブジェクト)が配信者のアバターに衝突判定を持ち、当たるとアバターがよろける、あるいは装備品として装着されるといった物理演算処理。

3. 【核心技術②】決済処理フローとポイント管理の特許戦略

華やかなエフェクトの裏側にある「お金の処理(決済フロー)」も、ビジネスモデル特許の主戦場です。特に日本では「資金決済法」という法律が存在するため、システム設計と法規制対応が密接に関わります。

(1) 有償・無償ポイントの「分別管理」と「優先消費」

多くのアプリでは、資金決済法(前払式支払手段)の供託義務を考慮し、「有償で購入したコイン」と「ログインボーナス等の無償コイン」を厳格に区別しています。

この法的要件をシステムに落とし込む際のロジックが特許になります。

  • 消費優先順位の制御:

    ユーザーには合算した「所持コイン」として表示しつつ、バックエンドでは「有効期限の近い無償コイン」から優先して消費させ、無償分が尽きたら有償分を消費させるプログラム。

  • 還元率(リワード)の変動計算:

    「有償コインで投げられたギフト」と「無償コインで投げられたギフト」で、配信者に支払われる収益配分率(レベニューシェア)を変える計算式。例えば、「有償コインでのギフトは還元率70%、無償は30%」といった処理を、ユーザーに意識させずに裏側で自動計算する仕組みです。

(2) トランザクションの保全と排他制御

投げ銭は、ECサイトの買い物とは異なり、短時間に大量のトランザクションが発生します。

  • 限定ギフトの排他制御(ロック):

    「先着1名限定のプレミアギフト」を巡ってクリック合戦が起きた際、ミリ秒単位で着順を判定し、落選したユーザーには即座にポイントを返還(ロールバック)し、当選処理と決済処理を不可分に行うデータベースのトランザクション制御。

  • 高負荷時のキューイング(待ち行列):

    サーバーダウンを防ぐため、投げ銭リクエストを一時的に「キュー」に格納し、課金処理(重要度高)とエフェクト表示処理(重要度低)を分離して処理するアーキテクチャ。

(3) 誤操作防止とUXの両立

  • 連打防止と確定アクション:

    意図しない連打による高額課金を防ぐため、一定額以上のギフトについては「長押し」や「スライド」などの特定のアクションを必須とし、そのアクション信号と決済確定信号を紐付けるインターフェース制御。

4. 開発者が陥りやすい「特許侵害(パクリ)」のリスク

ここまで「どうやって特許を取るか」を解説しましたが、それ以上に重要なのが**「他社の特許を踏まない(侵害しない)」**ことです。

知らずに侵害しやすい機能例

以下のような機能は、すでに他社によって権利化されている可能性があります(※あくまで一般的な例であり、個別の権利範囲の精査が必要です)。

  • ゲージ連動機能: 視聴者全員の投げ銭総額が一定値を超えると、「フィーバータイム」に突入する機能。

  • 指定型コメント機能: 投げ銭と一緒に送ったコメントが、一定時間画面の特定位置に固定表示される機能。

  • ガチャ演出: 投げ銭の結果として、配信者ではなく視聴者自身がランダムなアイテム(アバター着せ替え等)を獲得する機能。

FTO調査(Freedom to Operate)の重要性

アプリをリリースした後に警告書が届き、サービス停止(差止)や損害賠償を求められる事態を避けるためには、仕様策定の段階で「先行技術調査(侵害予防調査)」を行うことが必須です。

「似たようなアプリがあるから大丈夫」という考えは通用しません。その他社はライセンス料を支払っているかもしれませんし、単に見逃されているだけかもしれません。

弁理士による調査を行い、「この仕様はA社の特許に抵触するリスクが高いが、処理の順序を逆にすれば回避できる(回避設計)」といった戦略を練ることが、ビジネスを守る防波堤となります。

5. 弁理士が教える!強い特許明細書(クレーム)の書き方

もし貴社が独自の投げ銭システムを特許出願する場合、どのような明細書を書くべきでしょうか。

弁理士の腕の見せ所は、「請求項(クレーム)」の書き方にあります。

悪い例:具体的すぎるクレーム

「スマホ画面の右下にある赤いハートボタンをタップした時に、サーバーへ信号を送り、100円を減算し、画面中央に花火のエフェクトを出すシステム」

これでは、「青い星ボタン」にしたり、「画面左下」に変えたりするだけで特許を回避されてしまいます。

良い例:抽象化・上位概念化したクレーム

【請求項1のイメージ】

第一のユーザー端末からの指示入力に基づき、価値情報を減少させる決済処理手段と、

前記指示入力に応答して、配信映像上に特定の視覚効果を重畳表示させる画像処理手段と、

前記視覚効果の表示態様を、前記指示入力に関連するパラメータ(金額・連続性・ユーザー属性など)に基づいて動的に変化させる制御手段と、

を備える情報処理システム。

このように、「具体的な機能」を「技術的な本質」まで抽象化して記載することで、競合他社が少し仕様を変えて模倣してきても、特許網で捕まえることができるようになります。

プログラマーが書いた仕様書をそのまま出願するのではなく、弁理士が「法律的な網」へと変換する作業こそが、特許出願の本質なのです。

6. スタートアップこそ「特許」で企業価値を上げろ

「特許はお金がかかるし、大企業のものだ」と思っていませんか?

実は、資金調達を目指すスタートアップこそ、特許が必要です。

  1. バリュエーション(企業価値)の向上:

    投資家(VC)は、技術的な参入障壁(Moat)を重視します。「投げ銭のUXに関する独自特許を持っている」という事実は、技術力の証明となり、出資判断において大きなプラス材料となります。

  2. M&A(バイアウト)の武器:

    将来的に事業売却を行う際、特許権などの知的財産権が含まれているか否かで、買収価格が数千万円〜数億円単位で変わることも珍しくありません。

  3. 早期審査制度の活用:

    スタートアップであれば、特許庁の「早期審査」を利用することで、通常1年以上かかる審査を2〜3ヶ月程度に短縮できる場合があります。これにより、プロダクトのリリースに合わせて早期に特許権を確定させることが可能です。

まとめ:開発前の「知財コンサル」が成功への近道

投げ銭(ギフティング)システムは、ユーザーの感情を揺さぶるエンターテインメント性と、堅実な金融システムが融合した、極めて高度な技術領域です。

だからこそ、そこには無数の特許チャンスがあり、同時に侵害リスクも潜んでいます。

  • 「新しい投げ銭の演出を思いついた」

  • 「独自のポイント還元エコシステムを作りたい」

  • 「開発中のアプリが他社の特許を侵害していないか不安だ」

このような構想がある場合は、プログラムコードを書き始める前の「企画段階」で、ぜひ弁理士にご相談ください。

仕様が固まりきっていない段階こそ、知財戦略を組み込むベストなタイミングです。

当事務所では、IT・ソフトウェア・ビジネスモデル特許に特化した専門チームが、エンジニアの方ともスムーズに会話できる体制で、技術内容のヒアリングから権利化、侵害調査まで一貫してサポートいたします。

貴社の革新的なサービスを、法的な「独占権」という資産に変え、競合他社に負けない強いビジネスを構築するお手伝いをさせてください。まずは無料相談より、お気軽にお問い合わせをお待ちしております。

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