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キャロウェイのゴルフクラブ特許を読む|米国特許11,083,937号にみる製法クレーム・多段CIP・用具規則の戦略を弁理士が解説

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/07/18

リード:ルールで縛られた業界の特許戦略──キャロウェイの製法特許を1件読み解く

ゴルフクラブは、R&A(全英ゴルフ協会)・USGA(全米ゴルフ協会)の用具規則によって、ヘッド体積・反発性能・慣性モーメントに明確な上限が設けられた、いわば「性能の天井」があらかじめ決められた製品です。それでもメーカー各社は毎年新製品を投入し、その裏側では特許出願競争が続いています。本記事では、米国特許第11,083,937号(Topgolf Callaway Brands、2021年8月10日登録)というゴルフクラブヘッドの製造方法特許を素材に、①クレームの中身、②多段の継続出願で築かれた特許ファミリー、③あえて「製法クレーム」で取る戦略の意味、④用具規則と特許出願の関係、⑤業界の特許紛争史と日本メーカーの状況──を弁理士の視点から解説します。

目次

  1. 米国特許11,083,937号の中身──「ワックス型で組み立ててから鋳造する」
  2. 10年越しの特許ファミリー──多段CIP戦略と日本対応特許
  3. なぜ「製法クレーム」なのか──米国271条(g)と日本実務の対比
  4. 用具規則が特許戦略を規定する──460cc・CT値の「天井」と差別化競争
  5. ゴルフ用品業界の特許紛争史──Pro V1からコストコまで
  6. 日本メーカーの特許はどうなっているか──検証済み6社6件
  7. まとめ──「規制産業」の特許実務への示唆

1. 米国特許11,083,937号の中身──「ワックス型で組み立ててから鋳造する」

US 11,083,937 B2「Method of manufacturing golf club head having stress-reducing features(応力低減構造を有するゴルフクラブヘッドの製造方法)」は、出願2020年1月14日・登録2021年8月10日、優先日2015年6月30日、存続期間満了は2035年10月2日、権利状態は「Active」と表示されている米国特許です(Google Patentsで確認。権利状態は年金納付等により変動し得ます)。技術の骨格は、中空のクラブヘッド内部に、打撃フェースの背後でクラウン(上面)とソール(底面)をつなぐ補強プレートを配置し、ボール打撃時にフェース周辺へ集中する応力を、質量の増加を最小限に抑えながら分散させるというものです。

注目すべきは、この特許が完成品の構造ではなく製造方法をクレームしている点です。請求項1の原文を引用します。

"A method comprising the steps of: preparing a wax of a golf club head body, the wax of the golf club head body comprising a striking face section, a sole section extending from a lower edge of the striking face section, and a return section extending from an upper edge of the striking face section, ... the return section comprising an elongated through-hole, and the sole section comprising an elongated receiving pocket; preparing a wax of a plate comprising an upper end and a lower end; inserting the plate into the elongated through-hole and seating the lower end in the elongated receiving pocket; bonding the plate to the body with an adhesive material to form a combined wax mold; and casting a golf club head from the combined wax mold, wherein the through-hole is aligned with the receiving pocket, wherein the plate has a variable thickness ranging from 0.020 inch to 0.160 inch, wherein the plate is located within 1 inch of a rear surface of the striking face section ..., and wherein no portion of the plate makes contact with the striking face section."

出典:Google Patents(US11083937B2)請求項1(中略は筆者。全文は原文をご参照ください)

日本語で分説すると、①ヘッド本体のワックス型(ロストワックス鋳造の消失模型)を準備する──本体は打撃フェース部・ソール部・リターン部からなり、リターン部に細長い貫通孔、ソール部に受けポケットを持つ、②プレートのワックス型を準備する、③プレートを貫通孔に挿入し下端をポケットに着座させる、④接着材で本体に結合して一体の結合ワックス型を作る、⑤その結合ワックス型からヘッドを鋳造する──という5ステップです。そのうえで、(i) プレートは0.020〜0.160インチ(約0.5〜4mm)の可変厚、(ii) フェース背面から1インチ(25.4mm)以内に位置する、(iii) プレートはフェースに接触しない、という数値・位置限定が付されています。

「完成したヘッドの構造」ではなく「ワックス型の段階で部品を組み立ててから一体鋳造する」という工程に発明の単位を置いているのがこの特許の面白いところです。鋳造後の溶接や機械加工で補強材を後付けするのではなく、消失模型の段階で一体化してしまえば、複雑な内部構造を一回の鋳造で作り込める──製造現場の知見がそのままクレームになっています。

2. 10年越しの特許ファミリー──多段CIP戦略と日本対応特許

この特許は単独では存在しません。明細書冒頭のクロスリファレンスをたどると、継続的一部出願(CIP)と分割出願を多段に重ねた長い系譜が確認できます。

特許番号登録日クレーム種別位置づけ
US 9,486,6772016-11-082015年起点の初期世代(物クレーム)
US 9,597,5582017-03-212015年6月30日出願(本件の優先日の起点。複合材チューブを用いた物クレーム)
US 9,931,5502018-04-03方法製法クレーム世代の始まり(ワックス型→鋳造)
US 10,532,2582020-01-14方法特許(US10,335,647)からの分割で物クレームを確保
US 11,083,9372021-08-10方法本記事の対象(US10,532,258系のCIP)
US 11,433,2822022-09-06方法本件の継続
US 12,102,8912024-10-01方法同ファミリーの最新世代

系譜をさらに遡ると、最も古い優先基礎は2012年6月27日の仮出願(US61/665,203)まで到達します。つまりこのファミリーは、10年以上にわたり継続出願・分割出願・CIPを繰り返しながら、「物」と「方法」のクレームを交互に確保し続けているのです。CIP(継続的一部出願)は新規事項を追加できる米国特有の制度で、追加された事項についての有効優先日はCIP出願日となるため、クレームごとに有効優先日が2012年か2015年以降かが変わり得る点も、このファミリーを分析する際の実務上の注意点です。任天堂のゲーム特許で見られた分割出願網の構築(分割出願戦略の解説記事参照)と同じ発想が、米国ではCIPを交えてより柔軟に行われている例といえます。

日本への展開も確認できました。2015年6月30日の米国出願を優先基礎の一つとする特許第6507125号「応力低減特徴部を有するゴルフクラブヘッド」(キャロウェイ・ゴルフ・カンパニー、2016年6月6日出願・2019年4月24日登録)が日本で登録されています。こちらの請求項1は、末尾が「……前記ゴルフクラブヘッド。」で結ばれる、製法ではなく物のクレームです(Google Patents実ページで確認)。なお、US11,083,937自体の直接の日本対応公報は確認できませんでした(Google Patentsの対応公報欄は米国のみ)。

3. なぜ「製法クレーム」なのか──米国271条(g)と日本実務の対比

「製法クレームは工場の中で行われることの立証が難しく、権利行使に弱い」というのが特許実務の一般的な感覚です。それでもこのファミリーが方法クレームを何世代も積み重ねているのは、米国特許法の制度環境が背景にあると考えられます。

米国特許法271条(g)は、「米国で特許された方法により作られた製品」を権限なく米国に輸入し、または米国内で販売・使用する行為を侵害と定めています(後続工程で実質的に変更された場合等の例外あり)。1988年に、外国で米国特許方法を実施して製品だけを輸入する「抜け穴」を塞ぐために新設された規定です。ゴルフクラブヘッドの鋳造は海外の専門工場で行われることが多い製品分野ですから、製造が米国外でも、ヘッドが米国に輸入された時点で製法特許を主張し得る──この規定の存在が、米国における製法クレームの実効性を支えています(本段落の製品分野への当てはめは実務上の一般的な整理です)。

一方、日本では「物を生産する方法」の特許の効力はその方法により生産した物の譲渡・輸入等にも及びますが(特許法2条3項3号)、相手方製品が「その方法で作られた」ことの立証は容易ではありません。特許法104条には生産方法の推定規定がありますが、生産された物が「特許出願前に日本国内において公然知られた物でないとき」に限られるため、ゴルフクラブヘッドのような既存の製品カテゴリでは通常この推定は働きません。日本市場では構造で特定した物クレームを確保することの重要性が相対的に高い──キャロウェイが日本では物クレームの特許第6507125号を取得していることとも整合的な整理です(因果関係の断定はできません)。

用語の整理:US11,083,937の請求項1は「A method comprising...」で始まる方法カテゴリの純粋な製法クレームであり、物のクレームに製法を記載する「プロダクト・バイ・プロセス(PBP)クレーム」とは異なります。日本ではPBPクレームについて、最高裁平成27年6月5日判決(プラバスタチンナトリウム事件)が、技術的範囲は製法によらず物として確定されること(物同一説)、および明確性要件を満たすのは構造・特性による特定が「不可能か、およそ実際的でない」事情がある場合に限られることを判示しており、安易なPBP化は勧められません。

また、請求項1の数値限定(プレート厚0.020〜0.160インチ、フェースから1インチ以内)は、権利範囲の外縁を明確にする一方で、範囲外への設計変更による回避の余地も生みます。数値限定発明の進歩性は、限定範囲内での有利な効果や臨界的意義が問われるのが日本の審査実務ですが、本件の8倍幅のレンジは臨界値というより実施可能な設計空間を広く囲う「範囲確保型」の数値限定と見ることができます(この評価は筆者の考察です)。競合他社の側から見れば、こうした数値・位置限定はFTO検討時の設計回避ポイントの候補になります。

4. 用具規則が特許戦略を規定する──460cc・CT値の「天井」と差別化競争

ゴルフクラブの開発競争を理解するうえで欠かせないのが用具規則です。R&Aの用具規則(The Rules of Equipment)は、ウッド型クラブヘッドについて次の上限を定めています(R&A公式サイトで確認)。

規制項目上限値
ヘッド体積460cc(+公差10cc)
慣性モーメント(MOI、垂直軸まわり)5,900 g・cm²(+試験公差100)
フェース反発(CT値:ペンデュラムテスト)239マイクロ秒(+試験公差18μs)
寸法ヒール-トウ5インチ以下、ソール-クラウン2.8インチ以下

体積も反発も慣性モーメントも上限が決まっている以上、開発競争は「上限の枠内でどう差をつけるか」に向かいます。フェースやボディの薄肉化で浮かせた余剰質量(discretionary mass)をどこに再配分するか、規則の測定点以外も含むフェース全域で反発を上限近くに揃えられるか、そして量産時のばらつきをどう抑えて公差超過品を出さないか──。本件のような「応力低減構造+それを精密に作り込む鋳造プロセス」の特許は、まさにこの文脈に位置づけられます(規則数値は一次資料で確認済み、この段落の分析は業界一般の整理です)。興味深いことに、特許分類(CPC)でもA63B53/04(ヘッド)の下位に体積(53/0412)、寸法(53/0408)、溝(53/0445)、補強リブ(53/045)といった、規則の規制項目と対応するかのような細分類が並んでいます。

5. ゴルフ用品業界の特許紛争史──Pro V1からコストコまで

「天井」の下での差別化競争は、ときに法廷に持ち込まれます。代表的な事例を挙げます。

事件概要と帰結
Callaway v. Acushnet(2006年提訴)Titleist Pro V1ボールが対象。2007年に陪審がおおむねCallaway勝訴の評決→2009年にCAFCが評決の非整合を理由に破棄・差戻し→2010年の再審理で対象特許は無効の評決→2012年4月に金銭授受なしの包括和解。6年で攻守が逆転した事例
PXG v. TaylorMade(2017年提訴)P790アイアン発売3日前にPXGが提訴し暫定差止を申立て→却下され発売→TaylorMadeが反訴(報道ベース)→2019年2月にクロスライセンスで和解
ブリヂストン v. アクシュネット(2005年〜)日本企業が攻め手となった例。米国では2007年10月にライセンス料支払い+クロスライセンスで和解。日本では東京地裁2010年2月26日判決(原告ブリヂストンスポーツ)がゴルフボール特許の侵害を認めアクシュネット・ジャパンに約17億8千万円の支払いを命じた(控訴審の帰趨は本記事では未確認)
TaylorMade v. Costcoほか(2024年提訴・係属中)Kirkland SignatureアイアンがP790関連特許5件を侵害するとTaylorMadeが主張(虚偽広告の主張も)。手続は中間上訴を理由に停止中と報じられており、2026年7月時点で終局判断の報道は確認できていません

注意:TaylorMade対Costco訴訟は係属中であり、上記はいずれも原告の主張段階です。侵害の成否・特許の有効性について予断を示すものではありません。係属中訴訟の読み方はキオクシア対Viasat特許訴訟の解説記事もご参照ください。

Callaway対Acushnet事件は、陪審評決(2007年・原告勝訴方向)が控訴審での破棄・再審理を経て全特許無効(2010年)へと覆った、「評決は確定判決ではない」ことの教科書的な実例です。またPXG対TaylorMade、TaylorMade対Costcoと、同じP790という製品が、時を隔てて守る側・攻める側の両方の立場で登場するのもこの業界の特徴です。なお、PING Eye 2の「角溝」を巡る1990年前後の有名な紛争は、特許ではなく用具規則の適合性を巡る訴訟であり、性質が異なる点は区別が必要です。

6. 日本メーカーの特許はどうなっているか──検証済み6社6件

日本のクラブメーカー各社も、それぞれの得意分野で継続的に権利化を進めています。以下は当所がGoogle Patentsの実ページで書誌事項を確認した登録特許の例です(2026年7月18日時点。各社の保有特許のごく一部です)。

特許番号権利者技術の要点
特許第6809352号住友ゴム工業クラウン部の隆起・傾斜面と内壁リブで振動を抑え反発性能を高める
特許第7760356号ブリヂストンスポーツキャビティアイアンの背面膨出部の凹部設計で打感と慣性モーメントを両立
特許第6770600号ミズノスコアライン間の微細な傾斜溝で雨天時の排水を促しウェットスピンを維持
特許第6796496号ヨネックスカーボンプリプレグ+金属の中空ヘッド製造方法(袋状弾性体の膨張と真空引き)。日本勢の製法クレームの例
特許第7181852号グローブライド(ONOFF)フェース裏面の薄肉部を有効打点領域(半径10mm)を外して配置し、反発と耐久性を両立
特許第7004927号プロギアサイド部ウェイトの位置範囲の限定で慣性モーメントとフェース面上重心を両立

住友ゴムのクラウン振動抑制、グローブライドの薄肉部配置は、本記事のキャロウェイ特許と同じ「反発の天井の下での応力・剛性設計」という問題意識の系譜にあります。またヨネックスの製造方法特許は、素材(カーボン成形)に強みを持つ同社ならではの製法クレームであり、どのレイヤーで権利を取るかは各社の事業構造を映すという点で、米国勢との比較材料になります。

7. まとめ──「規制産業」の特許実務への示唆

①US11,083,937は、ワックス型段階の組立て→一体鋳造という製造工程に発明の単位を置いた製法特許であり、数値・位置限定で外縁を画している。②2012年の仮出願まで遡る多段CIP・分割の連鎖の中で「物」と「方法」を交互に確保し続けるファミリー戦略の一部である。③製法クレームの実効性は米国271条(g)と日本の立証実務とで環境が異なり、国ごとのクレーム構成の使い分けが表れている──この3点が本記事の骨格です。

性能上限のある製品分野(用具規則・安全規格・業界標準)の特許実務チェックポイント

  • 規制の上限値と自社技術の位置関係を明細書・クレーム設計の前提として整理したか
  • 差別化の実体が「構造」か「製法」か「品質管理」かを見極め、クレームカテゴリを選んだか
  • 米国向けには271条(g)を踏まえた製法クレームの価値を、日本向けには物クレームの確保を検討したか
  • 数値限定の幅は「臨界的意義」型か「範囲確保」型かを意識し、進歩性の主張と回避リスクを両にらみしたか
  • 継続・分割(米国ではCIPを含む)でファミリーを維持し、製品世代に合わせてクレームを更新する計画があるか
  • 競合のファミリー系譜(親子関係・有効優先日)まで遡ってFTO調査をしたか

関連記事として、特許ファミリー形成の実務を解説した分割出願戦略の記事、係属中訴訟の読み方を解説したキオクシア対Viasat訴訟の記事、技術分野の特許動向分析の例としてマテリアルズ・インフォマティクス×AI特許の記事もあわせてご覧ください。

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【免責事項】本記事は2026年7月18日時点の公開情報(Google Patents・J-PlatPat・WIPO PATENTSCOPE・R&A公式サイト・裁判所記録・報道等)に基づく一般的な解説であり、法的助言ではありません。記事中の特許は公開データベースの実ページで書誌事項を確認していますが、権利範囲の解釈・有効性の評価を示すものではなく、掲載企業と当所の間に取引関係があることを示すものでもありません。TaylorMade対Costco訴訟は係属中であり、記載は原告の主張段階の情報を含みます。ブリヂストン対アクシュネットの東京地裁判決は控訴審の帰趨を確認していません。用具規則の数値はR&A公表資料に基づきますが、最新の規則は原典をご確認ください。判例の引用は公刊の判決解説に基づく要約です。(弁理士監修)