コンテンツまでスキップ

医療テックの特許を弁理士が解説|オンライン診療・AI診断支援・治療用アプリの権利の作り方

医療テックの特許を弁理士が解説|オンライン診療・AI診断支援・治療用アプリの権利の作り方

オンライン診療、AIによる画像診断支援、スマホの治療用アプリ。医療の現場は急速にデジタル化しています。ところで、意外に知られていない事実があります。特許法は、人間を手術・治療・診断する「方法」そのものには特許を与えません

では、医療テックの企業は何をどう守っているのか。本記事では、実在する登録特許5件——オンライン診療のMICIN、内視鏡AIのAIメディカルサービス、治療用アプリのCureApp、パラマウントベッド、NTTコミュニケーションズ——を、特許庁のJ-PlatPatで請求項の原文まで確認したうえで、弁理士が解説します。「診療行為は特許にならないのに、医療テックの特許が成立する」仕組みが、具体的に見えてくるはずです。

💡 現場DX×特許シリーズ:第1弾はドローンの特許、第2弾は農業テックの特許。本記事は第3弾です。

結論|「診療行為」は特許にならない。だから権利は「仕組み」に宿る

● 医師の診断・治療の「方法」は特許の対象外:特許庁の審査基準上、人間を手術・治療・診断する方法は「産業上利用することができる発明」に当たらないとされています。
● だからこそ、権利は装置・システム・プログラムの形をとる:今回の5件の名称はすべて「サーバ」「システム」「装置」「プログラム」。「診断支援」という言い回しも、この線引きの痕跡です。
● 守られているのは診療の周辺の運用:処方箋の受け渡し、アプリの使用期限、通報先の振り分け、会話の記録——医療現場のワークフローが権利になっています。
● 権利化の道のりは7か月〜6年超まで:自社サービス公開後に例外規定で救済された例(MICIN)も、拒絶査定から審判で巻き返した例(NTTコム)もあります。
特許 特許権者 守っている仕組み 登録
特許6781491(B1MICINオンライン診療の処方箋を二次元コードで薬局側へつなぐ2020-10-20
特許7037220(B2)AIメディカルサービスカプセル内視鏡画像の突出病変をCNNで検出する2022-03-08
特許7526985(B2)CureApp治療用アプリを処方し、使用期限が切れたら制限する2024-07-25
特許6685664(B2)パラマウントベッド注意と警告で通報先を分け、緊急時は認証なしで表示する2020-04-03
特許7664297(B2)NTTコミュニケーションズ診察の会話からSOAP形式の電子カルテを自動作成する2025-04-09

①紙の処方箋を二次元コードで橋渡しする(MICIN・特許6781491)

特許番号特許第6781491号(公報種別 B1
発明の名称遠隔での診療及び服薬指導を支援するサーバ
特許権者株式会社MICIN(オンライン診療サービス「curon」運営)
出願/審査請求/登録2020年3月6日 / 2020年7月10日 / 2020年10月20日(約7か月半
早期審査/請求項数あり / 9項(全16頁)/ 新規性喪失の例外(特許法30条2項)適用

オンライン診療はビデオ通話で完結しても、処方箋は紙です。診察はオンラインなのに、処方箋の原本は医療機関にあり、患者は薬局で薬を受け取る——この間をどうつなぐかが、オンライン診療の実務上の急所でした。2020年春、コロナ禍で初診からのオンライン診療が時限的に解禁された、まさにその時期の出願です。

特許第6781491号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用)

遠隔診療を支援するサーバであって、患者端末と第一の医師側端末との間で遠隔での診察のための通信を行う通信部と、前記診察において薬の処方がある場合に、前記サーバに処方箋画像データをアップロードするための位置情報であり、前記診察に係る診察識別情報に関連付けられた位置情報を二次元コード化する二次元コード生成部と、前記二次元コードを前記第一の医師側端末に提示する二次元コード提示部と、二次元コード読取機能を備える第二の医師側端末から処方箋画像データを受け付け、前記診察に係る前記診察識別情報に紐づけて前記処方箋画像データを記憶部に格納する画像データ受付部を備える、サーバ。

読みどころ|「診察ID付きのアップロード先」を二次元コードで配る

仕組みはこうです。診察で処方が出ると、サーバがその診察に紐づいたアップロード用URLを二次元コードにして医師の画面に出す。医療機関側は、読取機能のある別の端末でコードを読み、紙の処方箋を撮影してアップロードする。すると画像は自動的に正しい診察に紐づいて格納される。手作業の突き合わせを消しているわけです。従属請求項は、薬局の選択・共有(請求項3・7)、薬の配送依頼(請求項8)、薬局と患者をつなぐオンライン服薬指導の通信(請求項9)まで続き、診察から薬の受け取りまでの一気通貫が権利として設計されています。

この特許の書誌には「自社サービスでのリリース」が書かれている

公報の書誌には新規性喪失の例外(特許法30条2項)の適用表示があり、「同社が運営するオンライン診療サービスcuron上にて(中略)機能の提供を開始した」「ウェブサイト上にて当該サーバのリリースについて紹介した」と、自社の機能リリースとニュース記事の公開が明記されています。つまり、サービスを世に出した後に出願し、例外規定で救済された案件です。スピード勝負のスタートアップの実情がにじみますが、これはあくまで救済措置です。適用には期間制限と手続があり、国によっては認められません。リリース前の出願が原則です。

②カプセル内視鏡の画像から病変を検出する(AIメディカルサービス・特許7037220)

特許番号特許第7037220号(公報種別 B2)
発明の名称消化器官の内視鏡画像による疾患の診断支援システム、診断支援システムの作動方法、診断支援プログラム(以下略)
特許権者株式会社AIメディカルサービス
優先日/国際出願/登録2018年11月21日 / PCT/JP2019/045580(WO2020/105699) / 2022年3月8日
請求項数22項(全61頁)

飲み込むだけで小腸を撮影できるワイヤレスカプセル内視鏡は、患者の負担が小さい一方、1回の検査で膨大な枚数の画像が生成され、読影する医師の負担が重いことで知られます。この特許は、その読影をAIで支援する仕組みです。

特許第7037220号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・抜粋)

消化器官の第1の内視鏡画像と、前記第1の内視鏡画像に対応する(中略)確定診断結果と、を用いて畳み込みニューラルネットワークを訓練し、(中略)前記消化器官の部位が小腸であって、前記第2の内視鏡画像がワイヤレスカプセル内視鏡画像であり、前記疾患が突出病変であり、(中略)前記確定診断結果が、前記第1の内視鏡画像を、ポリープ、結節、上皮腫瘍、粘膜下腫瘍及び静脈構造の5つの突出病変のカテゴリーに分類する突出病変診断情報を含み、(中略)所定の閾値に基づいた突出病変の領域の確率を出力することを特徴とする、畳み込みニューラルネットワークを用いた消化器官の内視鏡画像による疾患の診断支援システム

読みどころ|名称に刻まれた「支援」と「作動方法」という言葉

技術の核は、医師の確定診断が付いた画像で畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を訓練し、部位(小腸)・画像種別(カプセル内視鏡)・病変(5カテゴリーの突出病変)まで具体的に絞り込んだ検出システムです。汎用の「AIで病気を見つける」ではなく、臨床の困りごとが最も深い一点に照準が合っています。

そして発明の名称に注目してください。「診断システム」ではなく「診断支援システム」、「診断方法」ではなく「診断支援システムの作動方法」。冒頭で述べたとおり、人間を診断する方法そのものは特許の対象外です。だからこの分野のクレームは、診断するのはあくまで医師であり、システムはその判断材料を出力するという構造で書かれます。医療AIの特許明細書に「〜支援」「〜の作動方法」という表現が並ぶのは、この線引きを踏まえた実務の定石です。

③アプリを「処方」し、期限が切れたら使えなくする(CureApp・特許7526985)

特許番号特許第7526985号(公報種別 B2)
発明の名称治療用アプリケーション管理システム、治療用アプリケーション管理方法、治療用アプリケーション管理プログラム、及び端末
特許権者株式会社CureApp
出願/審査請求/登録2020年4月13日 / 2023年3月13日 / 2024年7月25日
請求項数17項(全30頁)

「治療用アプリ」という言葉に馴染みがない方もいるかもしれません。医師が薬の代わりにアプリを処方する——禁煙治療や高血圧治療の分野で、医療機器としての承認を受けたアプリが実際に保険診療で使われ始めています。そこで生まれる、薬にはなかった問題がこれです。薬は飲み切れば終わるが、アプリは消さない限り動き続ける

特許第7526985号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用)

医療従事者が患者に処方する治療用アプリケーションを示すアプリIDと、前記治療用アプリケーションの処方対象となる患者を識別する患者IDと、前記治療用アプリケーションを使用することができる期限を示す使用期限情報とを、取得する取得部と、前記治療用アプリケーションを識別するアプリIDと、前記患者IDと、前記使用期限情報とを対応付けて記憶部に登録する登録部と、日時情報を計時する計時部と、前記計時部が計時した日時情報が、前記使用期限情報により定まる日時を経過している場合に、患者の端末に送信されている前記治療用アプリケーションの使用を制限する制限部と、を備える治療用アプリケーション管理システム。

読みどころ|「処方期限」という薬の概念を、アプリに移植した

請求項1が権利にしているのは、アプリID・患者ID・使用期限を対応付けて登録し、期限が過ぎたらアプリの使用を制限するという管理の骨格です。従属請求項では、期限は「医療従事者の判断で定める」(請求項2)、患者はアクティベーションコードで有効化する(請求項4)、期限が来たら使用制限コードを端末に送る(請求項5)と続きます。

つまりこの特許は、「処方」という医療の概念をソフトウェアの配布・失効管理に翻訳したものです。治療の中身(アプリがどう患者を指導するか)ではなく、治療用アプリが医療制度の中で流通するための土台を押さえている——プラットフォームの発想です。

④緊急時だけ、ログインなしで見せる(パラマウントベッド・特許6685664)

特許番号特許第6685664号(公報種別 B2)
発明の名称患者状態通報装置、患者状態通報システム及び患者状態通報装置における通報方法
特許権者パラマウントベッド株式会社
出願/審査請求/登録2015年7月10日 / 2018年6月27日 / 2020年4月3日
請求項数8項(全32頁)

医療用ベッドの国内大手が持つ、ベッドサイドの見守り装置の特許です。バイタルを監視して異常があれば知らせる——それだけなら普通に聞こえます。この請求項の面白さは、病棟の運用のジレンマを2つ同時に解いているところにあります。

特許第6685664号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・抜粋)

(前略)前記生体情報取得手段により取得された生体情報の生体情報値が、注意レベルの範囲に含まれている場合には第1の通報先の端末装置に、前記生体情報値が警告レベルの範囲に含まれている場合には第2の通報先の端末装置に前記患者の状態の通報を行う通報手段と、を備え、前記注意レベル又は前記警告レベルを規定する閾値は、前記患者の基本情報毎及び前記生体情報の種類毎に設定され、前記通報手段は、前記患者の状態の通報を行うとき、権限を有するものによるログイン認証されずとも前記第1または第2の通報先の端末装置が表示するための患者の状態に関する情報を通報し、前記患者状態通報装置は、前記ログイン認証された場合のみ当該患者状態通報装置の使用者に前記患者の状態に関する情報を示すことを特徴とする患者状態通報装置。

読みどころ|個人情報保護と、一刻を争う通報の両立

第一に、「注意」と「警告」で通報先を分ける。軽度の変化は担当ナースへ、危険な変化は別の通報先へ——病棟の人員配置に沿った振り分けです。閾値は患者ごと・生体情報の種類ごとに設定でき、「この患者のこの数値なら平常」という個体差を吸収します。

第二に、そしてここが核心ですが——ベッドサイドの装置本体はログイン認証した人にしか患者情報を見せない。しかし緊急の通報は、認証を待たずに通報先の端末へ表示させる。患者のプライバシーを守るための認証が、緊急時には命取りの遅延になる。このジレンマへの答えが、請求項の文言としてそのまま書かれています。医療機器の特許でありながら、決め手は情報の見せ方の運用設計にある好例です。

⑤診察室の会話がカルテになる(NTTコミュニケーションズ・特許7664297)

特許番号特許第7664297号(公報種別 B2)
発明の名称情報処理装置、電子カルテ作成方法および電子カルテ作成プログラム
特許権者NTTコミュニケーションズ株式会社
出願/審判/登録2023年1月5日(特願2019-2883の分割・原出願2019年1月10日) / 拒絶査定不服審判(不服2024-10587) / 2025年4月9日
請求項数4項(全15頁)

医師の残業の大きな要因がカルテ入力だと言われます。診察中はキーボードではなく患者と向き合い、会話そのものからカルテが自動で出来上がる——生成AIの普及で今まさに競争が激しい領域ですが、この出願の原出願は2019年。着眼は早かったわけです。

特許第7664297号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・抜粋)

医師または患者が発話した音声データから変換されたテキストデータから、所定の定型文に基づいて、電子カルテに記載される項目に対応するテキストデータを抽出する抽出部と、(中略)前記医師が発話した音声データから変換されたテキストデータと患者に対する症状の質問の定型文とを比較し、(中略)当該テキストデータに前記患者に対する症状の質問が含まれると判定した場合には、該質問の直後に前記患者が発話した音声データから変換されたテキストデータから、電子カルテに記載される症状の項目に対応するテキストデータを抽出し、(中略)前記作成部は、前記抽出部によって抽出された前記症状の項目に対応するテキストデータを前記電子カルテの主観的情報を示す項目に書き込み、前記患者のバイタルデータまたは前記患者の医療画像データを前記電子カルテの客観的情報を示す事項に書き込み(後略)

読みどころ|「医師の質問の直後の発話」を拾う——そしてSOAPに振り分ける

診察室の会話には雑談も含まれます。どの発話がカルテに書くべき「症状」なのか。この請求項の答えは、医師が症状を尋ねる定型的な質問を検出し、その「直後」の患者の発話を症状として拾うというものです。会話の構造——質問と応答の隣接関係——を手がかりにしている。そして抽出した情報を、医療記録の標準形式であるSOAP(主観的情報・客観的情報・評価・計画)の各項目に振り分けて書き込みます。

手続の経過も見どころです。この特許は原出願(2019年)からの分割出願で、しかも審査では一度拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判を経て2025年に登録されています。原出願から数えれば6年越し。農業テック回のクボタ(前置審査)と同じく、一度の拒絶は終わりではないことを示す実例です。

5件を並べて見える3つの型

型① 権利の核は「医療の周辺のワークフロー」にある

処方箋の受け渡し(MICIN)、アプリの処方期限(CureApp)、通報先の振り分けと認証の例外(パラマウントベッド)、質問の直後の発話(NTTコム)。診断・治療そのものではなく、その前後の運用が権利になっています。これは冒頭の線引き——診療行為は特許にならない——の裏返しでもあります。特許にできない領域の周りにこそ、特許にできる工夫が密集するのです。

型② 現場のジレンマを解いた一文が、権利の強さを決める

「認証を待たずに通報し、装置本体は認証がなければ見せない」(パラマウントベッド)、「質問の直後の発話を症状として拾う」(NTTコム)、「期限が過ぎたら使用制限コードを送る」(CureApp)。ガチャ・ドローン・農業テックの各回と同じ結論が、医療でも成立しました。現場を知る人にしか書けない限定が、権利の芯になる

型③ 権利化の道のりは7か月半から6年超まで

特許権者 経過 出願〜登録
MICIN早期審査+新規性喪失の例外(B1)約7か月半
AIメディカルサービスPCT国際出願→国内移行約2年4か月(国内移行から)
パラマウントベッド出願から約3年で審査請求約4年9か月
CureApp出願から約2年11か月で審査請求約4年3か月
NTTコミュニケーションズ分割出願+拒絶査定不服審判原出願から約6年3か月

重要|特許・医療行為・薬機法——3つの線引きを整理する

医療テックの知財を考えるとき、性質の異なる3つの制度が交差します。混同しやすいので、表で整理します。

論点 整理
医療行為と特許人間を手術・治療・診断する方法は特許の対象外(審査基準上、産業上利用可能性が否定される)。一方、装置・システム・プログラム・医薬そのものは対象。だから「診断支援」「作動方法」という形でクレームが書かれる
特許と薬機法承認まったく別の手続です。特許庁は発明の新しさを審査し、薬機法上の承認(PMDA審査)は安全性・有効性を審査します。特許を取っても医療機器として販売できるわけではなく、承認を得ても他社特許の侵害リスクは消えません
医師の行為と権利行使仮に治療機器等の特許があっても、医師の診療行為そのものに権利行使が及ぶかは慎重な検討を要する領域です。制度は「医療現場を萎縮させない」方向で設計されています

ご注意:本記事は特許制度の解説であり、薬機法上の���認・認証・届出の要否や、医療広告規制への適合性について何ら判断を示すものではありません。医療機器該当性の判断は個別性が高く、規制面は薬機法に詳しい専門家・所管当局にご確認ください。

医療テック事業者への実務示唆

① 「診療の前後」の運用フローを棚卸しする

診断・治療そのものは特許になりませんが、予約、問診、記録、処方の受け渡し、服薬指導、経過観察、通報——その前後のワークフローはすべて特許の候補地です。今回の5件は全部ここにいます。自社サービスの画面遷移図と運用フロー図を広げて、「ここで困っていたことを、こう解いた」と言える箇所に印を付けることから始めてください。

② クレームは「支援」の構造で書く——専門家との協働が要る領域

同じ技術でも、書き方によって「診断方法」(特許不可)にも「診断支援システム」(特許可)にもなり得ます。医療分野の出願は、この線引きを踏まえたクレームドラフティングの巧拙が結果を分けます。出願前の設計段階から弁理士に相談することをおすすめします。

③ リリース前に出願する——例外規定は保険であって戦略ではない

MICINの例は、自社サービスでの機能公開後に新規性喪失の例外で救済されたものでした。救済はありますが、期間制限があり、国によっては認められません。機能リリースの意思決定プロセスに「出願確認」を組み込むのが、スピードと権利を両立させる現実解です。

④ 一度の拒絶で諦めない

NTTコムの特許は、分割出願と拒絶査定不服審判を経て原出願から6年越しで登録されました。医療×ITはビジネスモデル特許と同様、進歩性の攻防が厳しい領域ですが、補正・分割・審判という選択肢で権利化に至る道は残ります。詳しくは分割出願の知財戦略もご覧ください。

「うちのサービスでも特許は取れますか」というご相談について

医療テックは「診療行為は特許にならない」という思い込みから、出願をあきらめてしまう事業者が少なくない分野です。しかし本記事の5件が示すとおり、ワークフローの工夫は権利になります。エボリクス(evorix.jp)では、医療・ヘルスケア分野のソフトウェア特許の出願と、他社特許のクリアランス調査を承っております。スタートアップ向けの減免制度の活用もふまえてご提案します。まずはお問い合わせフォームより、ご相談の流れとあわせてお気軽にどうぞ。

よくある質問(FAQ)

Q. 診断方法や手術方法は、本当に特許にならないのですか?

A. 日本の審査基準上、人間を手術、治療又は診断する方法は「産業上利用することができる発明」に該当しないとされ、特許を受けられません。ただし、そこで使う装置・機器・システム・プログラム、医薬品や材料そのものは特許の対象です。また、人体から採取したデータの処理方法など、線引きの判断が微妙な類型もあるため、個別には専門家の検討が必要です。

Q. 特許を取れば、医療機器として販売できますか?

A. いいえ。特許と薬機法上の承認・認証はまったく別の手続です。特許庁の審査は発明の新規性・進歩性を見るもので、安全性や有効性を保証するものではありません。逆に、薬機法上の承認を得ても、他社特許を侵害しないことが確認されたわけでもありません。両方を別々に確認する必要があります。

Q. 似た機能のオンライン診療システムを作ると、侵害になりますか?

A. 似た機能があるだけでは侵害にはなりません。特許権の効力は、請求項の構成要件をすべて満たす実施にのみ及びます。たとえばMICINの特許第6781491号は「診察識別情報に関連付けられたアップロード先を二次元コード化して医師側端末に提示する」等の要件を含み、別の方式で処方箋を受け渡すシステムは原則としてこの請求項を充足しません。1つでも要件が欠ければ、その請求項の侵害にはなりません

Q. 「B1」の特許とは何ですか?

A. 公開公報が発行される前に登録された特許を指します。日本の出願は原則1年6か月後に公開されますが、審査がそれより速く進むとこの形になります。登録後の権利としての効力は通常の特許(B2)と同じです。MICINの特許第6781491号は早期審査により約7か月半で登録され、B1として発行されました。

Q. すでにサービスをリリースしてしまいました。もう特許は取れませんか?

A. 一定の要件を満たせば、新規性喪失の例外規定(特許法30条2項)により救済される可能性があります。MICINの特許は、自社サービスでの機能提供開始とウェブ告知の後に出願され、この規定の適用を受けて登録されました。ただし公開から一定期間内(現行法では1年以内)の出願と所定の手続が必要で、国によっては認められません。気づいた時点で早急にご相談ください。

Q. 医療機関やクリニック自身が特許を出願することはできますか?

A. できます。特許法は出願人の業種を問いません。医療法人が業務改善の仕組みを、医師個人が発案した機器やシステムを出願する例もあります。診療の現場で「こうすれば楽になるのに」と作り込んだ運用や道具は、本記事の5件と同じ構造の発明候補です。中小企業・個人向けの減免制度も利用できます。

まとめ

医療テックの特許5件を、請求項の原文まで読みました。出発点は「診療行為は特許にならない」という制度の線引きでしたが、読み終えてみると、その線引きこそがこの分野の特許の形を決めていることがわかります。権利はすべて、診療の周辺——処方箋の受け渡し、アプリの失効管理、通報の振り分け、会話の構造化——に宿っていました。

そして今回も、決め手は現場の解像度でした。「認証を待たずに通報する」「質問の直後の発話を拾う」。診察室や病棟のジレンマを知っている人にしか書けない一文が、権利の芯になっています。

医療・ヘルスケアの事業に取り組む方は、攻め(ワークフローの権利化)・守り(他社特許のクリアランス)・区別(特許と薬機法は別)の3点を、プロダクト開発の初期から組み込んでいただければと思います。

知的財産事務所エボリクスへのご相談

エボリクス(evorix.jp)では、医療・ヘルスケアITを含むソフトウェア分野の特許出願と、他社特許のクリアランス調査を承っております。「この仕組みは診療行為に当たって特許にならないのでは」「リリース前に何を確認すべきか」といったご相談に、事業のスケジュールを踏まえて対応いたします。まずはお問い合わせフォームより、ご相談の流れとあわせてお気軽にどうぞ。

本記事の注意事項:本記事は2026年8月時点の公開特許情報(特許庁J-PlatPat)に基づく一般的な解説です。引用した請求項は公報の記載に基づきますが、一部は紙幅の都合により抜粋であり、権利範囲は最終的に公報の正本と出願経過により定まります。権利の存続状況は特許料の納付状況等により変動します。公報には製品名の記載がない場合があり、特定の製品・サービスに当該技術が使われているかを断定するものではありません(会社名とサービス名の対応は、公報の新規性喪失の例外の表示等、公報自体の記載に基づく範囲で記述しています)。本記事の説明は理解を助けるための要約であり、権利範囲を画定するものではありません。薬機法その他の法令に基づく承認・認証・広告規制等への適合性について本記事は何ら判断を示すものではなく、実施にあたっては所管当局の情報および専門家による別途の検討が必要です。侵害の成否について本記事は何ら断定するものではなく、個別事案の結論を保証するものでもありません。

出典

杉浦健文 弁理士

AUTHOR / 執筆者

杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)

知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士

特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。