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インターネットと商標権の効力

作成者: 弁理士 杉浦健文|2022/07/16

目次

今ではネット上で海外から商品を購入することも販売することも簡単になりました。このように事業の範囲が国境を越える場合、商標法上いろいろと問題が生じます。具体的にどのような問題が生じる可能性があるでしょうか。

ケース1

あなたは日本で鞄を販売する業者Xであり、鞄の範囲で商標Aについて日本で商標権を取得しています。日本での事業が好調であるので海外進出を目論み、米国でも鞄を販売するためネットショップを立ち上げて英文ページを完備しました。この時、商標法上どのような問題が生じるでしょうか。

・商標権の効力の範囲について

大前提として、日本の商標権の効力は日本国内に限られます(これを属地主義といいます)。そのため、もし米国で事業を展開するのであれば、米国でも鞄について商標Aについて別途商標権を取得する必要があります。もし他人がAと同一又は類似の商標を米国で商標登録していた場合、Xは米国で他人の商標権を侵害することになってしまいます。

海外で事業を展開する場合はその国でも商標権を取得する必要があります。販売国のみならず、生産国での商標権の取得も忘れずに行いましょう。もし生産国で他人に悪意なく商標権を先取りされていた場合、生産国における侵害者はあなたです。こうなると、たとえ生産国では商品を流通させないという場合であっても、生産した商品を輸出できなくなるといった可能性があります。

ケース2

あなたは日本で鞄を販売する業者Xであり、鞄の範囲で商標Aについて日本で商標権を取得しています。ネットを検索していると他人YがウェブサイトにAを表示していることがわかりました。詳しく調べてみると、どうやら海外のサーバーを使って日本語のページを展開しているようです。海外のサーバー、すなわち物理的には日本国内での商標の使用でない場合、XはYに対してウェブサイトの閉鎖を主張できるでしょうか。

私が調べた限りにおいて、まだこのような事例に関する裁判例はないようです。では、どのように判断したらよいでしょうか。

ケース1で述べた通り、日本の商標権の効力は日本国外には及びません。ですから普通に考えればウェブサイトのサーバーが海外にある場合のYの行為は、日本国における商標の使用とはいえなさそうです。

ここで、WIPO(世界知的所有権機関。国際的な知的財産権(IP)制度の発展を担当する国連の専門機関である)は2001年に「インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告」*の2条において、「インターネット上の標識の使用は、その使用が加盟国で商業的効果を有する場合に限り、これらの規定の適用上、当該加盟国における使用を構成する」と規定されています。

これを踏まえれば、たとえ海外のサーバーを使用している場合であっても、Yが日本語でウェブサイトを展開している場合は日本からの注文を受ける意図が見受けられるため、ウェブサイトの閉鎖を主張できる可能性は大いにありそうです。

ケース3

あなたは日本で鞄を販売する業者Xであり、鞄の範囲で商標Aについて日本で商標権を取得しています。ネットを検索していると他人YがウェブサイトにAを表示していることがわかりました。

ケース2とは異なり、日本のサーバーを使っているようですがフランス語のウェブサイトであるようです。この場合XはYに対してウェブサイトの閉鎖を主張できるでしょうか。

この場合は原則通り属地主義に従ってYに対してウェブサイトの閉鎖を主張できる可能性はあると考えます*2 。Yの立場を考えると、フランスで事業をするのであれば、わざわざ日本のサーバーを使用するようなことはないでしょう。ですから事実上このような場面は殆どないと思います。

なお、この場合にXが注意しなければいけないのはフランスでの事業展開です。Yがフランス語でウェブサイトを作成しているところをみると、フランス向けに事業を行なっているはずですから、Yはフランスで既にAについて商標権を取得している可能性があります。もし、Yが既にフランスで商標権を有しているとすると、XがフランスでAを付した鞄を販売した場合には、Yの商標権の侵害することとなってしまいます。

インターネットの世界では越境が容易であるため、商標上の争いに巻き込まれる機会も増えます。海外展開をお考えの際は、先行商標が存在しないかの事前の調査と商標登録をお考えください。

注釈

*1 「インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告」について
https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/wipo/1401-037.html
https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/wipo/document/1401-037/kyoudoukannkoku.pdf

*2  不使用取消審判と侵害事件においては「使用」の解釈が異なる場合があります。例えば、Xが日本で商標権を取得しており、日本のサーバーを使ってフランス語でフランス向けのウェブサイトにAを表示して事業を行なっていた場合、このウェブサイトでの商標の使用は、日本での商標の「使用」に該当しない可能性があります。