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ゲームと商標

作成者: 弁理士 杉浦健文|2022/10/12

 

 2021年の世界のゲームコンテンツ市場規模は約21.9兆円で、そのうち国内の市場規模は約2兆円にもなります。ビッグビジネスとなっているゲーム市場ですが、どこまで商標登録を取得してブランドを保護すべきかということについては一考の余地があります。そこで、今回はゲームと商標について検討します。

[目次]

ゲームタイトル

 まず保護すべきかどうかを一番に検討すべきはゲームタイトル(題号)です。一般に「題号」は原則商品の品質又は役務の質を表示するものであるとして登録を受けることができません( 商標審査基準3条1項3号 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/kijun/document/index/07_3-1-3.pdf)。しかしこの審査基準のいう「題号」にはゲームタイトルは含まれていません。そのためゲームタイトルは原則識別力を有するものとして登録されます。ゲームソフトやダウンロード可能なゲームプログラムは第9類、オンライン上で提供する(ダウンロード不可)のゲームプログラムは第41類に属しますので、最低でもこの2区分は抑えるようにしましょう。

 そもそも書籍等の題号はなぜ登録できないことになっているのでしょうか。題号は単にその書籍の内容を示すものであり商品の出所を指し示す目印として機能しないため、また書籍自体は著作権で保護されているということも関係しております。このように考えるのであればゲームタイトルもゲームの内容を示すものであって目印として機能しないのではないか?果たして商標といえるのか?という疑問が生じそうです。

 この疑問については過去に争われた事案があります。※2 ぼくは航空管制官事件(平成13年(ワ)第7078号)では、ゲームタイトルは自他商品を識別するための標識としての機能を果たしていると判断されました。一方でこの事件よりも8年前の※3 三國志事件(平成 5年 (ヨ) 702号)では、「三國志」の部分は「三国志演義」の題号として知られる書籍を題材を取ったものであって、ゲームの内容を示すに過ぎないため自他商品の識別機能としての機能を果たす態様で使用されているとは認められないと、判断されています。

 全く真逆の判決が出ていますが後者の三國志事件はそもそも三國志演義という書籍が元になっている歴史物という事情があり、この点が加味されてそのゲームタイトルがゲームの内容を指し示す、と判断されたものと考えます。このような経緯から考えると、ゲームタイトルがゲームの内容を示すような性質のタイトルでない限りは登録されると考える方がよいでしょう。ですから特殊な事情がない限りゲームタイトルについては商標登録を取得すべきです。

ゲームタイトルのサブタイトル

 ゲームによってはサブタイトルが付けられる場合があります。例えばドラゴンクエストは、Ⅱが「悪霊の神々」、Ⅺは「過ぎ去りし時を求めて」といったサブタイトルが付けられております。サブタイトルはメインタイトルをファイミリーネームと見做すのであれば、ペットネーム的な位置付けになるものと考えられます。ある程度ゲームの内容に準拠するものだとしても抽象的にその内容を語るに過ぎず、内容を直接的かつ具体的に説明するようなものではないでしょう。そのためサブタイトルも商品の出所を示すものといえますから、権利化しておくことに越したことはありません。なお、「悪霊の神々」、「過ぎ去りし時を求めて」はいずれも登録されています(登録5148063、登録5826007)。

【商標登録第5148063号】

【商標登録第5826007号】

ゲームタイトルの略称

 他方、ゲームタイトルの略称については安直に保護した方が良いとはいえない事情があります。ゲームタイトルの略称は消費者たちが通称として呼びだすものである場合が多く、ゲーム開発者が自ら考えて名づけ、積極的に使用していくような性質のものではありません(例えば「マリカー」や「桃鉄」など)。原則として登録商標は権利者やそのライセンシーが市場で使用するものでなければなりません(使用とは、例えば登録商標を付した商品を製造・販売することを言います)。使用していない商標は登録が取り消されるおそれがあります(商標法第50条の不使用取消審判)。

 仮に自らゲームタイトルの略称を考案し、自らその略称を積極的に使用していくのであれば不使用となるリスクは低いものですから権利化しておくことでよいと考えます。しかし、その略称が消費者が考え出したものであり、使用するのも専ら消費者である場合には、せっかくコストをかけて権利化したとしてもゲーム会社自身らがその略称を使用しているわけではないため、商標を使用していない状況になりますから商標登録が取り消される可能性が残ってしまいます。

 このようにゲームタイトルの略称について商標登録を取得すべきか否かについては個々具体的な事情を検討する必要があります。

ゲームの登場人物/アイテム名/必殺技名/セリフ

 ゲームの登場人物などについてはこれらを使ったビジネスを展開するかどうか、すなわち商品化するかどうかが深く関わってきます。 

 以前「キャラクターの保護(著作権と商標権)」や「キャラクタービジネスの注意点」(https://www.evorix.jp/blog/キャラクターの保護著作権と商標権https://www.evorix.jp/blog/キャラクタービジネスの注意点)において説明した通り、キャラクターそのものに著作権はありません。また、キャラクターの名前も著作権で保護される余地は殆どありませんし、同様にアイテム名や必殺技名、セリフについても著作権で保護される可能性は極めて低いでしょう(ただしセリフについては検討の余地があります)。キャラクターデザインやアイテムのイラストといったものは著作権で保護され得るものですが、もし今後グッズの展開等を考えているのであれば、ゲームの分野以外でもそのグッズの分野において商標登録をしておくべきです。商標登録を取得しておけば、たとえばグッズの製造を他社に依頼する場合、すなわちライセンス契約をする場合に正当な権利者であることを主張しやすくなりますから、悶着を起こさずスムースなビジネス展開が可能となります。(グッズの一例:第14類「キーホルダー,装飾品等」、第16類「文房具類」、第24類「タオル類」、第25類「被服類」第28類「玩具類(ぬいぐるみを含む)」)。

 このように一口にゲームといっても保護の仕方は多様です。ゲーム自体はもちろんのことその後のビジネス展開がある場合にはグッズ関連についても商標登録を取得することをオススメします。

参考:

商標審査基準3条1項3号

「書籍」、「放送番組の制作」等の商品又は役務について、商標が、需要者に題号又は放送番組名(以下「題号等」という。)として認識され、かつ、当該題号等が特定の内容を認識させるものと認められる場合には、商品等の内容を認識させるものとして、商品の「品質」又は役務の「質」を表示するものと判断する。

※2 ぼくは航空管制官事件(平成13年(ワ)第7078号)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/831/011831_hanrei.pdf

被告ソフトの外箱の表面,側面及び裏面に,「ぼくは航空管制官」の文字が,大きくかつ目立つ色で表記されていること,②被告ソフト及びその外箱には,「ぼくは航空管制官」の文字を除いて他に,被告ソフトと他社の商品とを区別するための標章は存在しないと解されること,③「ぼくは航空管制官」の文字の上方には「航空管制シミュレーションゲーム」と記載されているが,被告ソフトの内容は,同記載によって端的に説明されていると解されること等の点を総合すれば,被告標章「ぼくは航空管制官」部分こそが,自他商品を識別するための標識としての機能を果たしているというべきである。

※3 三国志事件(平成 5年 (ヨ) 702号)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/881/013881_hanrei.pdf

「三国志」の語句の意味や、債務者のゲームの内容、債務者による債務者標章の使用態様、取引需要者の理解能力等の諸事情を総合し、また、これを書籍や映画を収録したビデオ等における通例の題号の使用の態様の場合と対比してみるならば、債務者標章は、いずれも、本件商品に内蔵された著作物であるコンピューター用ゲームプログラムの創作物としての内容を表示する題号としてそのパッケージに表示されているものであり、さらに、その「三國志」の部分は、同プログラムのアウトプットである影像の内容である同ゲームが、創作物としての前記「三国志演義」の題号を有する書籍に題材を取ったものであることを記述する趣旨で、同書籍の内容を引用表示するために表示されているものと言うことができるものであるから、いずれの点からも、自他商品の識別機能としての機能を果たす態様で使用されているとは認められない。

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