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メタバースのアバター「パクリ」は違法?2026年全面施行・改正不正競争防止法で変わるデジタル空間の保護

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/01/13

2026年の新年を迎え、私たちのビジネスやクリエイティブ活動において、メタバース(仮想空間)はもはや「新しい遊び場」ではなく、欠かすことのできない「経済圏」として完全に定着しました。

バーチャルオフィスでの会議、VRChatやCluster等のプラットフォームでの交流、そしてデジタルファッションの売買――。これらが日常化する中で、依然としてクリエイターや企業を悩ませ続けている深刻な問題があります。

それは、「アバターやデジタルアイテムの模倣(パクリ)」です。

「せっかく制作したオリジナルアバターが、無断でコピーされて海外サイトで安売りされている」
「自社ブランドのデジタルスニーカーと瓜二つの商品が、NFTとして勝手に配布されている」
「VR空間上のデータを不正に抽出(ぶっこ抜き)された」

かつて、こうしたデジタル空間のトラブルは「法律が追いついていないグレーゾーン」と言われ、泣き寝入りを余儀なくされるケースも少なくありませんでした。
しかし、その認識は今日で捨ててください。

数年前に成立した「改正不正競争防止法」が、2024年のデジタル模倣規制の施行を経て、ついに2026年4月をもって「全面施行(手続規定の完備)」のフェーズを迎えます。これにより、デジタル空間での権利保護は、実効性のある強力なステージへと突入します。

本記事では、メタバース法務や知財戦略に強い弁理士の視点で、改正法がデジタル空間のアバターやアイテムをどのように保護しているのか、そして「パクリ」被害に遭った場合――特に海外の侵害者に対して――どのような対策が可能になるのかを徹底解説します。

目次

1. なぜ「デジタル空間」の保護が必要だったのか?法の進化を振り返る

 

2026年の現在の法制度を理解するために、まずは「なぜこれまでアバターを守るのが難しかったのか」という背景をお話しします。

かつての「形態模倣」の限界と法の穴

時計の針を少し戻して、法改正前の状況を振り返りましょう。
従来の不正競争防止法(第2条1項3号)では、他人の商品の形態をデッドコピー(丸写し)して譲渡する行為を規制していました。しかし、ここにはデジタル時代における致命的な落とし穴がありました。

それは、「有体物(物理的なモノ)」しか対象にしていなかったという点です。

例えば、現実世界のハンドバッグを模倣して販売すれば即座に違法となりますが、メタバース上の「デジタルハンドバッグ」や「アバターのスキンデータ」をコピーしてネット上で販売しても、旧法では「商品の譲渡」には該当しないと解釈されるリスクが高かったのです。デジタルデータは物理的な実体がないため、法律の網の目から抜け落ちていたのです。

2026年現在のスタンダード:「電気通信回線を通じた提供」の規制

この穴を埋めるために行われたのが、令和5年(2023年)の不正競争防止法改正です。
この改正により、第2条1項3号の規制対象に「電気通信回線を通じて提供する行為」が明確に追加されました(2024年4月施行)。

これにより、以下の行為が明確に「不正競争行為」として禁じられています。

【不正競争行為となる例】

他人の商品(アバター、デジタルアイテム、スキン等)の形態を模倣したものを
インターネット等を通じて提供(ダウンロード販売、ストリーミング利用、NFT化して配布など)する行為

2026年の現在、このルールは実務のスタンダードとして定着しています。「デジタルだから法律が適用されない」という言い訳は、もはや通用しません。デジタル空間での模倣は、リアルな商品と同様、あるいは拡散性の高さゆえにそれ以上に厳しく監視される時代です。

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2. 「パクリ」認定の境界線:どこからが違法か?

「似ている」だけですべてが違法になるわけではありません。不正競争防止法2条1項3号違反(形態模倣)として法的措置をとるには、いくつかの厳格な要件を満たす必要があります。ここでは、2026年の実務運用に基づき、その判断基準を深掘りします。

① 「依拠」していること(真似した事実)

「依拠(いきょ)」とは、相手の商品を知っていて、それを参考にして作ったことを指します。全くの偶然で似てしまった場合は、これに該当しません。

しかし、デジタルデータの場合、「依拠性」の証明はリアル商品よりも容易な場合があります。なぜなら、3Dモデルのポリゴンデータ(メッシュ構造)やテクスチャの展開図、ボーンの設定数値などが解析の結果、完全に一致しているようなケースでは、偶然の一致とは統計的に考えにくく、依拠性が強く推認されるからです。いわゆる「ぶっこ抜き(リッピング)」データであれば、依拠性は明白です。

② 「実質的に同一」であること(デッドコピー)

ここが最大のポイントです。単にアイデアや「サイバーパンク風」といった雰囲気が似ているだけでなく、「形態が実質的に同一」であることが求められます。

いわゆる「デッドコピー」がこれに当たります。例えば、人気クリエイターが作ったアバターの髪型、服装、顔の造形をそのままコピーし、色だけを少し変えた程度では「実質的に同一」とみなされる可能性が高いです。

一方で、既存のアバターを参考にしつつも、独自の改変を大幅に加え、オリジナリティのある別作品として昇華させている場合は、模倣には当たらないと判断される傾向にあります。不正競争防止法2条1項3号は、あくまで「労力のタダ乗り(フリーライド)」を防ぐ規定だからです。

③ 商品としての提供(ビジネス利用)

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を守る法律です。そのため、個人的に楽しむためにアバターをコピーして、自分だけで使う(クローズドな環境で利用する)場合は、原則として規制の対象外です。

しかし、「販売」したり、「アバター接客サービス等の業務で使用」したりする場合は、事業性が認められ、違法となります。特に、BOOTHやVRChat内のマーケットプレイスで模倣アバターを販売する行為は、真っ先に摘発対象となります。

3. いよいよ到来!2026年4月「全面施行」が意味するもの

本記事のタイトルにある「2026年全面施行」。これは、メタバースビジネスにおいて非常に重要な意味を持ちます。

2024年に「デジタル模倣」自体は違法化されましたが、実は実務上、「海外のパクリ業者」を訴えるのが難しいという課題が残されていました。メタバースは国境がないため、侵害者が海外にいるケースが大半だからです。

しかし、改正法の附則で定められていた「送達制度の見直し(在外者に対する送達等)」等の手続規定が、2026年(令和8年)4月1日に施行されることで、この最後のピースが埋まります。

海外の侵害者にも「日本の法律」が届くように

これまでは、海外にいる相手に対して裁判所からの書類を送る(送達する)には、煩雑な翻訳や、数ヶ月〜半年かかる国際的な外交ルート(ハーグ条約等に基づく手続き)を通す必要があり、事実上「逃げ得」を許してしまう現状がありました。

2026年の全面施行により、特許庁や裁判所の手続きにおいてデジタル化・簡素化が進み、海外の侵害者に対しても、日本の法律に基づいた差止請求や損害賠償請求の手続きを、より迅速かつ低コストで行える環境が整います。

特に、日本国内に営業所や代理人がない海外事業者であっても、一定の条件下で公的な送達が可能になる仕組みが強化されます。
これは、日本のクリエイターや企業にとって「最強の盾」が完成することを意味します。これからは、海外サーバーに隠れた模倣業者に対しても、毅然とした法的対応が可能になるのです。

4. アバター保護における「著作権」「意匠権」との使い分け戦略

「アバターのパクリなら、著作権で訴えればいいのでは?」
そう考える方も多いでしょう。確かに著作権も強力な武器ですが、ビジネスユースにおいては、改正不正競争防止法や意匠法(デザインの権利)との戦略的な使い分けが重要です。それぞれの法律には「得意・不得意」があるからです。

著作権の弱点:アイデアや実用品は守れない

アバターは「著作物」として保護される可能性があります。しかし、アバターが着用している「デジタル衣服」については注意が必要です。現実の服と同様、デジタルの服も「実用品」とみなされ、デザインに高い芸術性(応用美術性)がない限り、著作権が認められないリスクがあるのです。「普通のTシャツ」の形状には著作権はありません。

また、著作権侵害を主張するには、相手が「依拠(マネ)」したことだけでなく、自分の作品に「創作性」があることを法廷で証明しなければなりません。

意匠権の強み:登録すれば最強の独占権

一方、「意匠権」は特許庁に登録することで発生する強力な権利です。2020年代の法改正により、画像の意匠や内装の意匠も保護対象となり、2026年現在では、「画面上の画像(GUI)やメタバース内の空間デザイン、アバターデザイン」も意匠登録の対象として一般的になっています。

意匠権を持っていれば、「依拠(真似したこと)」を証明する必要がありません。「似ているものを使用している」という事実だけで権利行使が可能です。
ただし、意匠権は「新規性(新しいこと)」が登録要件となるため、アバターを公開・販売する前に出願しなければなりません。「パクられてから慌てて登録」は原則としてできないのです(※新規性喪失の例外規定を除く)。

不正競争防止法の役割:登録なしで「デッドコピー」を撃つ

ここで不正競争防止法の出番です。
不正競争防止法(形態模倣)の最大のメリットは、「登録が不要」であることです。意匠登録をしていない商品であっても、発売から3年以内であれば、デッドコピー業者に対して差止請求や損害賠償請求が可能です。

つまり、「ライフサイクルの短いデジタルトレンド商品」「登録コストをかけられなかった商品」を守るためのセーフティネットとして機能します。

>>意匠登録と商標登録の違いについてはこちら

5. 知っておくべき「3年の壁」と長期保護の重要性

不正競争防止法(2条1項3号)による保護は非常に強力ですが、一つだけ大きな制約があります。

制約:日本国内において最初に販売された日から3年間しか保護されない

これは、「商品の形態はいずれ社会共有の財産となるべき」という法の趣旨によるものです。しかし、メタバースの世界では、3年を超えて愛され続ける「定番アバター」や「ブランドアイコン」が存在します。
もし、販売から4年が経過したあなたの人気アバターがパクられた場合、不正競争防止法では守ることができません。

長期的な資産を守るなら「意匠権」一択

3年を超えて自社のデジタル資産を守り続けたい場合、やはり「意匠権」の取得が不可欠です。意匠権の存続期間は、出願から最長25年間です。

2026年の今、「とりあえずリリースして様子を見る」のではなく、「売れると確信したアバターはリリース前に意匠出願する」という戦略が、トップクリエイターや企業の常識となっています。

6. 2026年、企業とクリエイターが取るべき「鉄壁の対策」

改正法が完全に浸透し、国際的な執行力も高まった2026年。企業やクリエイターはどのような対策を講じるべきでしょうか?

【守り】自社が加害者にならないために

メタバース事業に参入する際、最も怖いのは「知らずに他人の権利を侵害してしまうこと」です。
開発チームが「ネットで拾ったフリー素材」だと思って使っていたアバターのパーツが、実は他社の商品を模倣した海賊版だった、というケースが増えています。

対策チェックリスト:

  • アセットの出所管理を徹底する: 外部の3Dモデル販売サイトやアセットストアを利用する場合、その制作者が信頼できるか、利用規約(ライセンス)はどうなっているかを確認し、記録を残してください。
  • 類似調査の実施: 特に主力となるアバターやデジタルアイテムをリリースする前には、類似するデザインが既に流通していないか、意匠権が登録されていないか、弁理士によるクリアランス調査を行うことを推奨します。
  • 開発プロセスの記録: 万が一、模倣を疑われた際に「独自に開発した」ことを証明できるよう、制作過程のスケッチ、ドラフトデータ、会議議事録などを保存しておきましょう。

【攻め】自社商品を模倣から守るために

対策チェックリスト:

  • 発売日の記録(証拠化): 不正競争防止法の保護期間の起算点は「最初の販売日」です。いつ販売を開始したかを客観的に証明できるよう、プレスリリースや販売サイトのログを確実に保存してください。タイムスタンプサービスの利用も有効です。
  • 意匠登録の検討: 前述の通り、3年を超えてブランドを守りたい場合や、デッドコピーではない「類似品」も排除したい場合は、意匠登録が必須です。
  • 警告書の送付: 模倣品を発見した場合、まずは弁理士や弁護士名義で警告書(通知書)を送付します。2026年の法制度下では、以前よりも警告の効力は格段に上がっています。プラットフォームへの削除申請も、改正法を根拠に行えばスムーズに進みます。

 

7. メタバース×知財の未来

2026年の今、私たちは「データの真正性」が問われる時代に生きています。
NFT(非代替性トークン)技術の普及により、デジタルデータの「保有」は証明しやすくなりました。しかし、NFTはあくまで「鑑定書」のようなものであり、それ自体が法的に模倣を防ぐバリアになるわけではありません。

だからこそ、「技術(ブロックチェーン)」と「法律(改正不正競争防止法・意匠法)」の両輪で知財を守る姿勢が不可欠です。

今後、生成AIによるアバター自動生成がさらに進化すれば、「AIが生成したアバターが、既存の人気アバターに偶然似てしまった」という新たな紛争も増えるでしょう。その際、今回解説した「依拠性」の判断や、改正法の適用範囲が大きな争点となります。
法律は常に技術の後を追いますが、2026年の現在は、ようやく法整備が技術に追いついた段階です。この環境を最大限に活用し、ビジネスを加速させるのが、賢い経営戦略と言えるでしょう。

まとめ:デジタル空間でのビジネスを成功させるために

メタバースのアバター「パクリ」問題は、改正不正競争防止法の2026年全面施行体制により、明確なルール違反として対処できる環境が整いました。

重要なポイントを振り返ります。

  • 改正により、デジタルデータの提供(電気通信回線を通じた提供)も模倣規制の対象となった。
  • 「デッドコピー(実質的同一)」であれば、意匠登録がなくても差止・損害賠償が可能。
  • 2026年4月の手続改正により、海外の侵害者への法的追及もしやすくなる。
  • ただし、保護期間は発売から3年。長期的なブランド保護には「意匠権」の取得が必要。

「たかがアバター、たかがデータ」という認識は、もはや命取りです。

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