中国において、登録した商標はロゴで色付きです。使用している商標は黒色で、色違いを使用しています。この場合、商標の使用にあたるか?その他の注意点を教えて下さい。
中国の商標制度では、「色彩を指定しない商標(モノクロ商標)」と「色彩を指定した商標(カラー商標)」に区別されています。
モノクロ商標(色彩指定なし): 出願時に色を特定せず黒白の図案で登録した商標です。この場合、実際の使用ではどのような色で表示しても「登録商標の使用」と認められます。つまり、形状や文字が同じであれば、青や赤など別の色で使っても商標の使用とみなされるのが通常です。
カラー商標(色彩指定あり): 出願時に特定の色彩や色の組合せを指定して登録した商標です。この場合、登録証に記載された色彩通りに使用しなければ、登録商標そのものの使用とは認められません。デザインが同じでも色が異なると、別の商標を使用していると見做されるおそれがあります。
要するに、中国では商標の構成要素中「色彩」は文字や図形と比べて軽視されないため、色彩を変更すると同一の商標とは見なされにくいのです。日本では登録商標の色違い使用は問題になりませんが、中国では注意が必要です。
事例では、カラーで登録された図形商標を黒一色(モノクロ)のロゴで使用しているとのことです。このような登録時と異なる色での使用は、原則として中国商標法上「登録商標の使用」には該当しません。つまり、登録商標が特定の色付きロゴであるのに、実際には色違い(黒色)のロゴしか使っていない場合、その使用は登録商標の使用とは認められない可能性が高いです。
この結果、「真正な使用」(適法な商標の使用)とみなされないリスクが生じます。具体的には、登録から3年以上その商標を指定商品・役務について使用していない場合、第三者から不使用取消し(登録の取消し)を請求される恐れがあります。色彩指定商標の場合、登録証通りの色で使用した証拠を示す必要がありますが、黒一色の使用しかなければ証拠不十分と判断される可能性が高いでしょう。そのため、不使用取消し審判において「使用していない商標」とみなされるリスクが現実的に存在します。
中国商標法では、正当な理由なく連続3年間商標を使用しないと、その商標は取消しの対象となります(不使用取消制度)。カラー商標については、登録時の色彩と異なる形での使用は “使用” と認められないため、3年以内に登録どおりのカラーで実際に使っていないと取消リスクが高まります。
さらに中国商標法は、登録商標の無断変更を禁じています。商標権者や被許諾者が登録商標を使用する際、勝手にその商標の文字・図形・色彩などを変更して使用してはならないと規定されており、これに違反すると是正命令や登録取消しの対象になり得ます。具体的には、例えば色彩指定された商標の色を変えた状態で®マークを付して使用すると、商標法第44条(現行法では第49条)第1項の「登録商標の恣意的変更」に該当し、商標局から是正命令や取消し処分を受ける可能性があります。
(※通常、まず地方当局が是正を命じ、従わない場合に商標局が取消す仕組みです。)
以上より、登録商標と異なる色での使用は、単に不使用とみなされるだけでなく法的にも登録商標の不適切使用と評価される恐れがあります。リスクを回避するには、できる限り登録されたとおりの商標(色も含めて)を使用することが重要です。
色違いで商標を使用する場合、以下の点に注意してください。
登録どおりの色彩で使用する努力: 既に色彩指定で登録した商標は、可能な限り登録証に記載のカラーで使用してください。少なくとも一部の製品や広告でも登録色で使用し、その証拠を残しておくことで、不使用取消しのリスクを軽減できます。
モノクロ商標の活用: 将来に備えて、色を指定しない黒白の商標を追加で登録することを検討してください。モノクロで登録しておけば、後からどんな色で使っても商標の使用と認められるため、使用の柔軟性が飛躍的に高まります。実務上も「特別な事情がない限りモノクロ出願が望ましい」と指摘されています。
色違いバリエーションの追加登録: ブランドイメージ上どうしても特定の色合いで使用したい場合は、その色違いロゴも別途商標登録しておくのが安全です。同一デザインであっても色が異なると別商標と扱われるため、それぞれ登録しておけば各色ごとに保護と使用実績を確保できます。
複数登録によるリスクヘッジ: 余裕があれば、モノクロ版とカラー版の両方を登録しておくことが理想です。モノクロ登録による自由な使用のメリットと、カラー登録によるブランドイメージ保護のメリットの両方を享受できるからです。実際、資金力のある企業は白黒とカラーの双方を取得し、状況に応じ使い分ける戦略を採っています。
商標使用時の表示: 中国では登録商標の使用に際しⓇマークの表示義務はありませんが、表示する場合は登録商標そのままの形で表示する必要があります。登録とは異なる色や形でⓇを付すことは避けましょう(虚偽表示や無断変更と見なされる可能性があります)。
以上のように、中国では色違いの使用に慎重な対応が必要です。特に現在カラーで登録された商標を黒一色で使用している場合、早急にモノクロ版の追加出願や登録商標どおりの使用実績の確保を検討することをお勧めします。これにより、不使用取消しのリスクに備えつつ、柔軟にブランドロゴを活用できるでしょう。
中国の商標制度では「登録商標と社会通念上同一と認められる範囲」で使用しているかが重視されますが、色彩指定の有無でこの範囲が大きく変わります。カラー指定商標は登録色で使ってこそ権利維持・行使が可能であり、色を変えて使用すると不使用と判断されかねません。一方、モノクロ商標であれば色を付け替えても問題なく使えます。
事例の場合、現状の使用(黒色ロゴ)は登録商標の使用とは認められないリスクがあります。したがって、不使用取消しを回避する対策が必要です。上記アドバイスを踏まえ、必要に応じて商標ポートフォリオの見直し(モノクロ版の追加登録等)や使用方法の是正を行うことが望ましいでしょう。適切な対応を取ることで、大切な商標権を中国においてもしっかり維持・活用することができます。