以下に、日本国内で直近5年以内(主に2019年~2024年)に出願・登録された「AIのプロンプト」技術に関する特許事例をまとめます。自然言語プロンプト設計(プロンプトエンジニアリング)や画像生成プロンプトなど広義の「プロンプト」に関する発明を対象とし、出願人、特許番号(公開番号/登録番号)、発明の名称、概要(プロンプトに関する特徴と効果)を表形式で整理しました。
公開/特許番号 | 発明の名称 | 出願人(企業/個人) | 概要(プロンプト技術の特徴と効果) |
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特許第7628640号 (登録) | 無人航空機制御システム | ソフトバンクグループ株式会社 | 生成AIで無人飛行機の動作プログラムを生成するシステム。 ユーザからの自然言語指示をAI解析しドローンの動作プログラムを生成。さらにユーザの表情・声から感情を推定し、その感情に応じて複数ドローンの行動パターンやカメラ設定を動的に調整する。これによりユーザの状況や感情に合わせた柔軟な自律飛行が可能となる。 |
特許第7628332号 (登録) | 営業支援方法、営業支援システム 等 | ライフデザインパートナーズ株式会社 | 未成約顧客に適したセールストーク例を自動生成する営業支援システム。 顧客の属性情報から機械学習モデルで成約因子を予測し、それらを基に大規模言語モデル(LLM)に入力するプロンプトを作成してセールストーク例を生成。これにより各顧客の特徴に合致した営業トークを効率よく提案できる。 |
特許第7624108号 (登録) | 情報処理装置 | 株式会社日本経済新聞社 | 新聞記事コンテンツを活用したQ&A生成システム。 記事本文データとその内容に基づく質問および回答指示を言語モデルにプロンプト入力し、記事の内容に対する質問と回答のペアを生成AIに出力させる。生成された質問は記事のペイウォール画面に表示され、読者に記事内容に関する問いかけを提示して興味を喚起する効果がある。 |
特許第7606028号 (登録) | 情報処理装置、情報処理方法、プログラム | 楽天グループ株式会社 | 商品レビュー投稿の要約生成システム。 複数のユーザ投稿文を生成AIにプロンプト入力して要約文を生成する。プロンプトにはポジティブ/ネガティブ評価の比率情報を含め、要約結果の肯定・否定の内容比率が元の投稿の比率と同等になるよう制御する。これにより元投稿群の評価バランスを保った要約が得られ、ユーザは大量のレビューを読む代わりに公平な要約で内容把握が可能。 |
特許第7586386号 (登録) | 特許関連書面作成支援システム | 株式会社レゾナック | 特許出願の応答書面(意見書)作成を支援するシステム。 審査基準・ガイドライン・判例等を学習した大規模言語モデルに拒絶理由通知をプロンプト入力し、応答案の案文を自動生成する。さらに出願経緯データを学習した別のLLMで通知書案も生成する構成。知財担当者の負担を軽減し、特許審査対応を効率化することを目的としている。 |
特許第7597971号 (登録) | (名称不明:サービス名称生成システム) 仮称 | ソフトバンクグループ株式会社 | ユーザの感情と事業情報に基づきサービス名称を創出するシステム。 ユーザの表情や声から感情状態を検出し、業界・ターゲット層・サービス内容等のパラメータと組み合わせてプロンプト文を生成、LLMに入力して名称案を生成する。さらに生成名称について各国での登記可能性や商標侵害の有無を自動チェックし一覧表示する。これにより感情に響く独創的かつ権利上問題のないサービス名を効率的に得ることができる。 |
特許第7607892号 (登録) | ケア支援システム | 株式会社ゼロワン | 介護/ケアプラン自動作成システム。 ケア対象者や家族の希望、およびそれを実現するための課題・目標を入力データとし、それらを組み込んだリクエスト文(プロンプト)をLLMに入力してケアプラン案を生成する。期間・頻度や目標期限など実施要件もプロンプトに含め、LLMから出力されるプラン情報を取得する。利用者の希望に沿った具体的な介護プランを自動提案できるため、ケアマネージャ等の業務支援に寄与する。 |
特許第7620369号 (登録) | (名称不明:対話アバター・メッセージ生成システム) 仮称 | 株式会社I'mbesideyou | ユーザと対話するアバターのメッセージ生成システム。 ユーザとの過去の対話メッセージ履歴をプロンプトとしてLLMに入力し、新規の返信メッセージを生成するが、一定より古い過去メッセージは要約してプロンプトに含める。しかも過去メッセージが古いほど短い要約に圧縮することで、プロンプト長の制約下でも効率的・効果的な対話生成を実現。この工夫により長い対話履歴があっても重要情報を保ちながら応答品質を維持できる。 |
特開2024-120131号 (公開) | 画像生成装置、プロンプト作成支援装置、プログラム 等 | Tavern株式会社 | ユーザの入力支援により画像生成プロンプトを構築するシステム。 イラスト背景画像生成サーバとユーザ端末からなり、ユーザ端末に複数のシチュエーションタグを提示し選択させる。選択されたタグに対応する要素を含むプロンプト文を自動作成し、それに基づき画像生成AIで背景画像を生成する。ユーザは構図や雰囲気に合うタグを選ぶだけで適切なプロンプトが容易に得られ、絵の知識がなくとも希望通りの画像を生成できる。 |
特許第7575148号 (登録) | 情報処理方法、プログラムおよび情報処理システム | 株式会社クラウドシフト | システム開発におけるプロンプトエンジニアリング技術。 業務システムの要件定義情報(ユースケース等)と基本設計情報(画面・機能・DB仕様など)をすべて階層化してリスト管理し、LLMが解釈しやすいMarkdownやJSON形式に自動変換してプロンプトを生成・送信、LLMから得たソースコードを当該階層構造に紐付けてバージョン管理する。この発明により大規模言語モデルを要件定義~コーディングまで統合活用し、システム開発の工数を劇的に削減できることが期待されている。 |
※上記のうち「特開」は公開公報(出願公開)を、「特許○○号」は特許公報(登録済み特許)を示します。引用に記載の【番号†Ln-Lm】は出典情報(J-PlatPat相当データや特許分析記事等)を示しています。
上記一覧の中から、特に注目すべき5件の代表的事例について、発明のポイントや技術的特徴、具体的な効果を詳しく解説します。
ソフトバンクグループが取得した特許第7597971号は、ユーザの感情と事業パラメータから最適なサービス名称を創出する発明です。例えば、ユーザの表情や声のトーンから現在の感情状態(喜怒哀楽など)を分析し、その感情とユーザから提供された業界・ターゲット層・サービス内容等の情報を組み合わせてプロンプト文(指示文)を生成します。このプロンプトを大規模言語モデル(LLM)に入力することで候補となるサービス名称を出力させます。さらに本システムでは、生成された名称について各国で商号登録できるか、既存商標権を侵害しないかを自動でチェックし、結果をリスト化して提示します。
この発明の特徴は、AIによるクリエイティブな名称提案と法務チェックを一体化した点にあります。ユーザの感情を反映したユニークなネーミングを自動生成できると同時に、候補名の利用可能性も瞬時に確認できるため、ブランディング業務を効率化できる効果があります。例えばユーザがポジティブな感情を示している場合はそれを汲んだ前向きな印象のサービス名を提案しつつ、その名称が既存商標と衝突しないかまで検証できるため、感性と合法性の双方を満たすネーミングを短時間で得ることが可能となります。
楽天グループが保有する特許第7606028号は、多数のユーザレビューを自動要約する際に情報のバランスを保つ発明です。具体的には、ある商品の購買者による口コミ・評価コメントを大量に集約し、それらをそのまま生成AI(大規模言語モデル)にプロンプトとして入力して要約文を生成させます。ここでポイントとなるのが、プロンプトに**「投稿文中の肯定的内容と否定的内容の比率をそのまま反映した要約を作る」**よう指示する点です。すなわち、元のレビュー集合にポジティブ評価とネガティブ評価が半々含まれていれば、生成される要約文でも肯定的表現と否定的表現の割合がおおよそ1:1になるよう生成AIが制御されます。これは特許請求の範囲にも「肯定/否定の比率となるように調整した投稿文要約文を取得する」と明記されています。
この技術的特徴により、要約文における評価の偏りを防ぎ、公平で信頼性の高いサマリーを得る効果が生まれます。通常、肯定的レビューが多数ある商品では要約も肯定的になりがちですが、本発明では意図的に比率を維持するため、ユーザは要約を見るだけで賛否両論のバランスを把握できます。結果として、消費者は長大なレビューを全部読む手間を省きつつ、商品に対する肯定的意見と否定的意見の両方を織り込んだ的確な概要を得られるのです。
スタートアップ企業I'mbesideyouの特許第7620369号は、長い対話履歴を効率よく扱うチャットボット(対話アバター)技術です。ユーザとアバターAIとの過去のメッセージ履歴を大量に保持しつつ、LLMへのプロンプトとして利用する際に古いメッセージは自動要約して含める点が新規性となっています。例えば直近のやりとり数件は全文をプロンプトに入れますが、ある程度古い過去ログは短く要約し、しかも過去の発言が古ければ古いほど要約も短く圧縮するアルゴリズムになっています。このようにしてプロンプト全体の長さ(トークン数)を抑えつつ、重要な過去情報は損なわないようバランスされています。LLMはその要約付き履歴プロンプトを入力として新たな返信メッセージを生成します。
この手法により、チャットAIが長時間の対話を維持しても応答の関連性や品質を落としにくい効果が得られます。大規模言語モデルには入力長の上限がありますが、本発明では過去ログを取捨選択・圧縮するプロンプトエンジニアリングによってその制約を克服しています。結果として、ユーザとの100ターンに及ぶ対話であっても、古い話題は簡潔に要約され重要ポイントのみ維持されるため、AIは文脈を踏まえた適切な応答を継続的に返すことが可能になります。これは長時間チャットやカスタマーサポートボットなどで非常に有用な改善と言えます。
Tavern株式会社の特開2024-120131号は、画像生成AIのプロンプト作成を初心者でも簡単に行えるよう支援する発明です。このシステムでは、イラスト背景画像を生成するAIサーバとユーザ端末がネットワークで連携します。ユーザ端末側であらかじめ**「森の中」「夕暮れ」「ファンタジー風」等のタグ(キーワード)が多数提示され、ユーザはイメージに合ったタグを選択するだけで済みます。選ばれたタグ群はサーバに送信され、対応する要素を組み込んだプロンプト文が自動で組成**されます。例えば「夕暮れ」タグを選べば「夕焼け空の下で~」等のフレーズがプロンプトに入る、といった具合です。あとはそのプロンプトに基づき画像生成AI(例えば拡張現実の背景生成モデル)が実行され、希望に沿った背景画像が出力されます。
この発明の利点は、絵の素人でも直感的な操作で高品質な生成画像を得られることです。プロンプトを一から文章で考えて入力する必要がなく、タグ選択というGUI操作で裏で適切な文章が形成されるため、ユーザの負担を大幅に軽減できます。タグは構図・視点・雰囲気・ストーリー要素など多面的に用意されており、ユーザが自分の頭の中のイメージに近いキーワードを選ぶだけで、それらを反映した詳細プロンプトが完成します。結果として、専門知識がなくとも思い通りの背景イラストを生成AIに描かせることが可能となり、ゲーム開発やイラスト制作の現場でプロンプト設計の敷居を下げる効果を発揮しています。
クラウドシフト社が2024年10月に特許取得を公表した特許第7575148号は、大規模言語モデル(LLM)をソフトウェア開発工程に組み込むためのプロンプトエンジニアリング手法に関するものです。この発明では、まず業務システムの要件定義書や基本設計書といった開発ドキュメントをすべて細かな項目(ノード)に分解し階層的に管理します。各ノードの内容(例:画面仕様やAPI仕様など)をLLMが理解しやすいフォーマット(MarkdownやJSON形式)に自動変換し、それぞれのノードについて順次LLMに解釈・コード生成させるプロンプトを発行します。LLMから得られた部分的なソースコードは元のドキュメント階層に紐づけて蓄積され、バージョン管理も行われます。こうした1対Nの自動プロンプト生成とコード統合管理により、システム全体のコードが整合性を保った形で生成されていきます。
このプロンプト技術の効果は、大規模システム開発における生産性飛躍的向上です。従来はプログラマが要件書を読み解きながら部分毎にコーディングしていましたが、本発明により設計情報から自動で最適化プロンプトが作られ、一括してコード生成と統合が進むため、開発工数を劇的に削減できるとされています。実際、クラウドシフト社はこの技術によって要件定義からテストまでLLMを有効活用し、人手を大幅に省くことを目指すと述べています。要するに、プロンプトエンジニアリングを駆使してAIにシステム開発の大部分を任せることで、人間のエンジニアは全体設計と最終調整に注力でき、ソフトウェア開発プロセスそのものを革新する可能性を示した特筆すべき事例と言えます。
参考資料・情報源: 上記の特許事例の内容は、特許庁が提供するデータベース(J-PlatPat等)で公開された特許公報・公開公報の要約や請求項、および特許業界の分析記事等に基づいています。それぞれの特許番号・公開番号から、J-PlatPatで公報テキストや図面を参照できます。また、特許庁公表の事例38「プロンプト用文章生成方法」に関する審査事例も参考となるでしょう。以上のように、日本国内では生成AIのプロンプトに着目した発明がこの数年で多数出願・特許化されており、各社がプロンプト設計の工夫によってAI活用の幅を広げようとしている動向が伺えます。