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香港商標法における色違い使用の取扱い|弁理士が解説

作成者: 弁理士 杉浦健文|2025/07/10

香港の商標制度では、商標登録時に色を指定するかどうかで権利の範囲が変わります。色違いで使用した場合に「真正な使用」と認められるのか?不使用取消や異議申立てでどう扱われるのか?本記事では、香港商標法における色違い使用の取扱いを条例・判例・実務の観点から体系的に解説します。

目次

  1. 商標登録時の色の扱いと法的枠組み
  2. 不使用取消審判における「真正な使用」と色の相違
  3. 異議申立て・係争における色違い使用の実例
  4. 色違い使用に関する留意点

商標登録時の色の扱いと法的枠組み

香港の商標制度では、商標を特定の色付きで出願・登録することも、色を特に指定せず出願することも可能です。出願時に色のクレーム(指定)をしなかった場合、商標登録上その色は特徴とは見なされず、審査では色彩は識別性判断に考慮されません。

黒白登録の場合:特定の色彩に限定されないため、実際の使用においてはどのような色で使用しても原則として問題ありません。

一方、特定の色を商標の構成要素としてクレームした場合(例:「本商標の構成要素として赤色と黄色を主張する」等)、その色彩が商標の識別上重要な特徴として登録上考慮されます。そのため、登録時に色彩を指定した商標では、登録された色彩と異なる色で使用することは、商標の使用態様の変更として問題となり得ます。

香港商標条例(Cap.559)第52条のポイント:「登録された形態と比べて識別性を損なわない範囲の相違を含む形態での使用」も「使用」に含まれると明記されています。つまり、色違いであっても商標の識別力を損なわなければ、法律上「使用」として認められる可能性があります。

不使用取消審判における「真正な使用」と色の相違

香港では、登録商標が3年以上連続して真正に使用されていない場合、第三者から不使用取消(登録の取り消し)を請求されるリスクがあります(商標条例第52条第2項(a))。

注意:「真正な使用」(genuine use)と認められるためには、商標の実際の使用態様が登録商標と本質的に同一である必要があります。

ただし、香港法では多少の体裁の変更は許容されており、条例第52条第3項(a)に基づき「登録形態と要部を変えない範囲で異なる形態で使用」されていれば、それも使用実績として認められます。

使用パターン 真正な使用と認定されるか
黒白登録 → カラー使用 認められる可能性が高い(色は非識別的要素)
カラー登録 → モノクロ使用 ロゴの形状・文字が同一であれば認められる可能性あり
カラー登録 → 異なる色で使用 識別力の中核が色以外にあれば許容される可能性あり
色が識別力の中核 → 色変更 真正な使用と認められないリスクあり

商標の主要な識別要素が図形や文字の形状・配置であり、色彩そのものが商品の出所識別において決定的な意味を持たない場合、登録時と異なる色で使用しても商標の同一性は維持されていると判断されるでしょう。実際、香港知的財産局(知的財産署)の審査実務でも「黒白で登録された商標はカラーで使用しても構わない」とされています。

異議申立て・係争における色違い使用の実例

商標の異議申立てや係争(侵害訴訟等)においても、登録商標と実際の使用態様との色の差異が問題になることがあります。

香港知的財産署のFAQから

「先行商標が黒白登録でも、権利者はカラーで使用可能である。異議申立ての成否は先行商標(登録された形態または使用形態)と後願商標との比較によって決まる。もし先行商標の使用実績に基づいて主張するなら、その使用証拠を提出すべきである」

このFAQの回答からも、使用時の色違いそのものは先行権主張の妨げにはなりにくいことがわかります。実際に使用された形態を証拠提出すれば、色が異なっていても先行商標の使用実績として考慮されます。

香港終審法院(CFA)の判例

ある商標訴訟では、企業が同一商標の黒白版とカラー版をシリーズ商標として登録していました。終審法院は次のように判示しています:

「シリーズ登録された商標では、色だけが異なる場合、色彩は識別上非識別的な要素であり商標の同一性に実質的影響を及ぼさない

ただし注意:裁判所は同時に、仮に商標権者が色彩を独自の識別特徴と主張したいなら、安易に黒白・カラーのシリーズ登録を行うべきではないとも示唆しています。色をシリーズで登録すると、「色は識別上重要ではない」と見做されるため、特定色がブランドの肝である場合には注意が必要です。

色違い使用に関する留意点

以上を踏まえ、香港で登録商標の色と異なる態様で使用する際の留意点をまとめます。

色彩の識別力への影響

商標の主たる識別力が何に由来するかを検討

使用態様の一貫性

登録形態に忠実な使用が望ましい

証拠の準備

使用事例の記録・保存が重要

1. 色彩の識別力への影響

図形や文字の形状自体に強い識別力があり色は装飾的要素に過ぎない場合、色を変えても識別力に影響は少なく、使用実績として認められやすいでしょう。一方、色そのものがブランドイメージの中核を成す場合(例: 有名企業の特定色ロゴ)、その色を変えると識別力に変化を及ぼす可能性があります。

推奨:当初から複数の色バージョンをシリーズ商標登録しておくこと

2. 使用態様の一貫性と変更の程度

商標の使用は、できる限り登録された形態に忠実であることが望ましいです。色以外にも、文字のフォントや図形の細部など大きな変更を加えると、「登録商標とは別の商標」と見做されるリスクが高まります。

推奨:黒白版とカラー版をシリーズ登録しておくことで将来的なリスクを軽減

3. 証拠の準備

不使用取消の防御や他社への異議申立てにおいては、実際の使用証拠が極めて重要です。不使用取消審判では、3年間の商業的使用を証明する必要があります。色違いで使用している場合でも、使用事例(写真、広告物、取引記録等)を十分に集め、商標の主要な特徴が登録商標と同一であることを示すことが求められます。

まとめ

香港では登録商標の色と異なる色で使用した場合でも、それが商標の識別性を左右しない限り「使用」と認められる可能性が高いと考えられます。ただし、商標の重要な特徴が色彩そのものである場合には注意が必要であり、必要に応じてシリーズ商標による保護や追加出願も検討すべきでしょう。黒白で登録された商標はあらゆる色での使用を網羅できるため、黒一色で使用する予定がある場合には初めからモノクロでの登録も取得しておくことが望ましいです。

参考文献・出典:香港商標条例(Cap.559)、香港知的財産署「商標条例 Q&A」、香港知的財産署 商標審査作業マニュアル「カラー商標」、香港終審法院判決の解説(Hogan Lovells)、Benny Kong & Tsai法律事務所解説。

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