イスラエルは2018年に施行された新意匠法(Designs Law 5777-2017)により、登録意匠・未登録意匠・補充意匠の三層構造を備えた近代的な意匠保護制度を確立しました。ハーグ協定への加盟(2020年発効)も相まって、スタートアップ大国として知られる同国への意匠出願は実務上の重要性を増しています。本記事では、出願実務に直結する制度の全体像を解説します。
イスラエル意匠保護の全体像
| 項目 |
登録意匠 |
未登録意匠 |
補充意匠 |
ハーグ指定 |
| 登録要否 |
必要 |
不要 |
必要(主意匠に付随) |
WIPO経由で指定 |
| 保護要件 |
新規性+独自の性格 |
新規性+独自の性格+イスラエル国内での商業的販売/流通 |
主意匠との非本質的差異 |
登録意匠と同一基準 |
| 存続期間 |
出願日から最長25年(5年ごと更新) |
関連日から3年 |
主意匠と連動 |
最長25年 |
| 権利範囲 |
同一+全体的印象が同一 |
模倣防止(狭い) |
主意匠と同等 |
登録意匠と同等 |
| 税関措置 |
利用可 |
利用不可 |
利用可 |
利用可 |
1. 法体系・保護対象
イスラエルの現行意匠法は Designs Law 5777-2017 であり、2017年7月26日に制定、2018年8月7日に施行されました。旧法(Patents and Designs Ordinance)を全面的に置き換え、EU意匠制度に近い構成を採用しています。
「物品(Product)」の範囲
同法における「物品」には、以下が含まれます。
- 工業製品または手工芸品
- セット品(sets)
- 包装(packaging)
- グラフィックシンボル(graphic symbols)
- 画面表示(screen displays)
除外対象:書体(typefaces)およびコンピュータプログラムは保護対象から明示的に除外されています。
「意匠」とは、物品またはその一部分の視覚的外観(visual appearance)をいい、線、輪郭、色彩、形状、質感、素材、装飾を含みます。
2. 登録要件
登録意匠として保護を受けるためには、次の2つの実体要件を満たす必要があります。
新規性(Novelty)
関連日(relevant date)より前に、同一の意匠が公衆に利用可能となっていないこと。非本質的な細部のみが異なる意匠は同一とみなされます。
独自の性格(Individual Character)
情報に基づく利用者(informed user)に与える全体的印象が、関連日前に公衆に利用可能となった意匠と異なること。
関連日(Relevant Date)
「関連日」の定義は意匠の種類により異なります。
- 出願意匠:出願日(優先権を主張する場合は優先日)
- 未出願意匠:最初の公表日
グレースピリオド
出願人自身による開示については、関連日前12か月のグレースピリオドが認められています。ただし、出願時にその旨を届け出る必要があります。
登録除外事由
- 公序良俗に反する意匠
- 専ら技術的機能により決定される外観的特徴(purely functional features)
- 他の物品と機械的に接続するために必然的に正確な形状・寸法で再現される特徴(must-fit features)
3. 権利帰属
意匠権の帰属に関するルールは以下のとおりです。
| 類型 |
権利者 |
備考 |
| 原則 |
創作者(Designer) |
意匠を創作した自然人 |
| 雇用関係 |
使用者(Employer) |
別段の合意がない限り |
| 委託(Commission) |
委託者(Commissioner) |
別段の合意がない限り |
| 譲渡・専用実施権 |
契約当事者 |
書面による合意が必須 |
実務ポイント:委託創作の場合、イスラエルでは委託者に権利が帰属する点が特徴です。外部デザイナーへの委託時は、日本とは逆のデフォルトルールに注意が必要です。
4. 出願手続
出願に必要な事項
- 出願人の氏名・住所
- イスラエル国内の送達先住所(Israel address for service)
- ロカルノ分類のクラス・サブクラス
- 視覚的表現(図面または画像)
- 所定の手数料
優先権主張
- 優先期間:最先の出願日から6か月
- 主張期限:出願後2か月以内に優先権を主張
- 書類提出:優先権書類は主張後2か月以内に提出
公開と繰延
出願はできる限り速やかに公開されますが、出願人の請求により最大6か月の公開繰延(deferment)が可能です。
複数意匠出願
一出願に複数の意匠を含めることが認められていますが、当局が分割を命じることができます。
5. 図面・画像要件
イスラエル意匠庁は図面・画像に対して厳格な要件を課しています。
権利不要求部分の表現方法
| 手法 |
説明 |
| 破線(Broken lines) |
権利を請求しない部分を破線で示す |
| ぼかし(Blurring) |
不要求部分をぼかし処理する |
| 黒塗り・白抜き(Blacking/Whiting) |
不要求部分を黒塗りまたは白抜きにする |
画面表示の特則
画面表示(screen displays)については、アニメーションシーケンスとして複数フレームを提出することが認められています。
注意:すべての図面・画像において色彩の一貫性が求められます。一部の図面のみをカラーで提出し、他をモノクロとすることは認められません。
6. 審査・登録・取消
審査プロセス
審査は公開後に出願順(filing order)で行われます。出願の補正は非本質的な変更に限られ、意匠の実質を変更する補正は認められません。
早期審査:正当な理由がある場合、早期審査(Expedited examination)を請求することが可能です。
取消手続
登録意匠の取消請求は、権利の有効期間中であれば時期的制限なくいつでも行うことができます。
7. 登録意匠の効力・存続期間
存続期間
登録意匠の存続期間は出願日から最長25年であり、5年ごとに更新する必要があります。更新期限を徒過した場合でも、6か月の追納期間(割増手数料あり)が設けられており、さらに回復(restoration)も可能です。
権利の範囲
登録意匠権の効力は、登録意匠と同一の意匠のみならず、情報に基づく利用者に同一の全体的印象を与える意匠にも及びます。
権利者の排他的行為
- 当該意匠を適用した物品の商業的製造
- 販売・リース・流通
- 輸入(個人的使用を除く)
- 上記行為のための保持
8. 未登録意匠
イスラエル新意匠法は、EU制度に倣い未登録意匠(Unregistered Design)の保護を導入しました。
保護要件
- 新規性+独自の性格
- 関連日から6か月以内にイスラエル国内で商業的販売または流通が行われていること
存続期間と権利範囲
権利範囲
主に模倣防止(anti-copying)に限定され、登録意匠より狭い範囲です。
登録への移行:未登録意匠は、関連日から12か月以内であれば登録出願に移行することが可能です。
9. 補充意匠(Supplementary Design)
補充意匠制度は、日本の関連意匠制度に類似した仕組みです。
要件
- 主意匠(main design)との間に非本質的な差異のみがあること
- 主意匠と同時に出願するか、主意匠の有効期間中に出願すること
重要:補充意匠は主意匠の運命に連動します。主意匠が取り消された場合、補充意匠も効力を失います。
10. 侵害・救済・税関・刑事
民事救済
- 意匠権侵害は民事上の不法行為(civil tort)を構成
- 差止命令(injunctions)の請求が可能
- 法定損害賠償:侵害行為1件あたり最大100,000 NIS(立証不要)
- 善意の抗弁(good faith defense)が認められる
刑事制裁
登録意匠と同一の意匠を適用した物品の製造・輸入は刑事罰の対象となります。なお、刑事罰は「同一」の場合に限られ、類似の範囲には及びません。
税関措置
登録意匠のみ対象:税関での水際措置は登録意匠に限り利用可能です。未登録意匠では利用できません。権利者は視覚資料(visual materials)と保証金(bond)の提供が必要です。
11. ハーグ協定との関係
イスラエルは2019年10月3日にハーグ協定ジュネーブ改正協定に加入し、2020年1月3日から発効しています。
| 項目 |
内容 |
| 拒絶通知期間 |
国際公表日から12か月 |
| 公開繰延 |
6か月まで可能 |
| 個別指定手数料 |
必要(Individual designation fees) |
| 最長存続期間 |
出願日から25年 |
12. 実務上の着眼点
イスラエルへの意匠出願・権利行使にあたり、以下の実務上のポイントに留意すべきです。
画面表示・グラフィックシンボルが保護対象
スタートアップ大国であるイスラエルでは、画面表示(screen displays)やグラフィックシンボル(graphic symbols)が意匠の保護対象に明示的に含まれています。UI/UXデザインの保護を検討する場合、イスラエルは有力な出願先となります。
委託創作のデフォルトルールに注意
イスラエルでは、委託(commission)により創作された意匠は、別段の合意がない限り委託者(commissioner)に帰属します。日本の著作権法とは逆のデフォルトルールであるため、外部デザイナーとの契約時には帰属条項を慎重に確認する必要があります。
未登録意匠は保護が限定的
未登録意匠の存続期間はわずか3年、権利範囲は模倣防止に限定されます。実効的な保護を求めるならば、12か月以内に登録出願へ移行することを推奨します。
税関措置には登録が必須
水際での差止措置は登録意匠に限り利用可能です。模倣品の輸入阻止を視野に入れる場合、意匠登録は必須の前提条件となります。
6か月の公開繰延を活用
イスラエルでは最大6か月の公開繰延が認められています。製品発表前の秘密保持が必要な場合、この制度を積極的に活用すべきです。
グレースピリオドの利用は出願時に届出
12か月のグレースピリオドを利用する場合、出願時にその旨を届け出る必要があります。事後的な届出は認められないため、出願準備段階での確認が不可欠です。
参考文献・出典
イスラエル意匠 意匠登録 ハーグ協定 未登録意匠 知的財産 Designs Law 5777-2017