ビジネスの現場では、特許調査(実用新案権調査)、意匠調査、商標調査など、さまざまな知的財産権の調査が行われます。これらの調査は、事業活動の中で自社が他社の権利を侵害していないかを確認するために不可欠です。特に、**「侵害調査」(FTO調査・クリアランス調査)**は、製品の開発・販売において重要なリスクマネジメントの一環となります。
目次
最初に、混同されやすい用語を整理します。結論から言うと、「FTO調査」「クリアランス調査」「侵害予防調査」は、実務上ほぼ同じ意味で使われます。呼び方が違うだけで、目的は同じです。
3つとも同じ目的:これから販売・提供しようとしている製品やサービスが、他社の権利を侵害していないかを事前に確認すること。
・FTO調査:Freedom To Operate(実施の自由度)の略。外資系企業や国際案件でよく使われます
・クリアランス調査:「問題がないことを確認する(clear にする)」という語感の呼び方
・侵害予防調査:日本語の実務用語。特許庁の資料などでも用いられます
一方で、目的がまったく違う調査と混同すると失敗します。特に間違えやすいのが「先行技術調査」です。
| 調査の種類 | 目的(何を知りたいか) | 見る対象 | 主なタイミング |
|---|---|---|---|
| FTO調査 (クリアランス調査/侵害予防調査) | 自社の製品・サービスが他社の権利を侵害しないか | 生きている権利(登録済み・係属中) | 開発の途中〜販売・公開の前 |
| 先行技術調査 (出願前調査) | 自社の発明が特許になりそうか | 公開された技術すべて(権利が切れたものも含む) | 出願の前 |
| 無効資料調査 | 他社の特許を無効にできる資料があるか | 対象特許より前に公開された技術 | 警告を受けた後/紛争時 |
| 技術動向調査 | 業界や競合がどこに投資しているか | 出願の傾向・件数の推移 | 企画・研究開発のテーマ選定時 |
実務Tips(最も多い誤解):「出願前に先行技術調査をしたから、侵害の心配もない」という取り違えです。この2つは見る対象が違います。先行技術調査は「権利が切れた古い技術」も対象に含めますが、切れた権利は侵害の問題を生みません。逆に、先行技術調査で見つからなかった最近登録されたばかりの権利が、侵害のリスクになることがあります。目的が違う以上、それぞれ別に行う必要があります。
特許権、意匠権、商標権は、権利者が独占的に利用できる強い権利です。つまり、これらの権利が登録されると、権利者やライセンス契約を結んだ者以外は、その知的財産を使用することが禁止されます。
仮に他社の知的財産を知らずに使用してしまった場合でも、即座に権利侵害となる可能性があります。知らなかったでは済まされず、販売停止・損害賠償請求などのリスクに直面することになります。こうしたリスクを回避するために、事前に侵害調査を行い、安全にビジネスを展開することが求められます。
知的財産権の侵害が成立するかどうかは、各事業者ごとに個別に判断されます。
とある製造メーカーが100円ショップ向けに商品を供給し、100円ショップがその商品を販売したとします。もし、その商品が特許権を侵害していた場合、どのような結果になるでしょうか?
このように、特許権の侵害は、単に製造した企業だけでなく、販売する企業にも影響を及ぼします。したがって、製造メーカー・小売業者ともに、事前の知的財産権調査が不可欠です。
近年、Amazon・楽天などのECサイトが普及し、誰でも簡単に商品を販売できるようになりました。しかし、こうしたプラットフォームでは、第三者から「知的財産権の侵害」の通報があると、即座に出品停止・アカウント凍結といった措置が取られるケースが増えています。
この対応は、ECプラットフォーム自身が販売を継続すると、権利侵害者として訴えられる可能性があるためです。そのため、出品者は事前に十分な知財調査を行い、リスクを回避する必要があります。
また、製造メーカーや卸業者との取引においては、契約書で「第三者の知的財産権を侵害していないことを確認する義務」が求められることもあります。契約上のリスクも考慮し、慎重に対応しましょう。
事業を安全に進めるためには、知的財産権の調査を積極的に実施することが重要です。
商標権の場合、出願を通じて特許庁の審査を受けることで、一定の権利リスクを事前に確認できます。出願することで、低リスクで知財戦略を構築することも可能です。
契約書には、「第三者の知的財産権を侵害していないことを確認する」条項が入ることが一般的ですが、問題は**「保証する」**という文言が含まれる場合です。
知財侵害の有無は、最終的に裁判で決まるため、「侵害していないことを保証する」契約は極めてリスクが高いものになります。専門家の意見を参考に、慎重に契約を結ぶことが重要です。
知財戦略を適切に進めるためには、専門家のアドバイスが不可欠です。
これらを総合的にサポートし、貴社の事業が安心して進められるよう支援いたします。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
AUTHOR / 執筆者
杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)
知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士
特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。