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【建築・内装デザイナー必見】大切なデザインを守る!意匠登録の基礎知識と出願方法

作成者: 弁理士 杉浦健文|2025/05/26

建築物や店舗の内装、空間デザインを手がけるデザイナーの皆様。生み出した大切なデザインが、知らない間に模倣されてしまったら…?そうなる前に、デザインを「権利」としてしっかり守る方法があることをご存知ですか?

今回は、建築物や内装のデザインを保護するための「意匠登録」について、その基本から出願方法、図面の書き方まで、特許庁の公式情報をもとに弁理士の視点を加えて分かりやすく解説します。

意匠登録とは?なぜ建築・内装デザインを守る必要があるのか?

デザインは、創作するのに多くの労力と時間を費やします。それにも関わらず、苦労して生み出したデザインが簡単に模倣されてしまっては、デザイナーの皆様の努力が報われません。また、新しいデザインを生み出すインセンティブが失われ、産業全体の発展も妨げられてしまいます。

このような背景から、創作されたデザインを法的に保護し、新しいデザイン創作を奨励することを目的にしたのが「意匠法」という法律です。意匠法は、物品の形状、模様、色彩などを保護する法律として古くから存在しましたが、令和元年(2019年)の法改正により、令和2年(2020年)4月1日から、建築物や内装のデザインも新たに保護の対象となりました

これにより、建物の外観や店舗・オフィスの内装など、皆様が創作された新しいデザインを「意匠権」という強力な権利で守ることができるようになったのです。意匠法は、明治時代に意匠条例として制定されて以来、約130年にわたり日本のデザイン発展を支えてきた歴史ある法律です。

どんな建築物・内装デザインが意匠登録の対象になるの?

意匠法では、「意匠の創作の対象となるものは広く意匠法で保護されるべき」という大目的に基づき、幅広いデザインが保護対象とされています。

具体的には、以下のような建築物や内装のデザインが対象となり得ます。

  • 建築物: オフィスビル、住宅、百貨店などの商業用建築物はもちろん、橋梁のような公共建築物まで、様々なものが含まれます。
  • 内装: 空間を構成する壁や床、天井、照明、家具、その他の物品が一体となって作り出す空間のデザインです。

物理的に連続しているデザインはもちろん、例えば物理的に離れていても、「社会通念上、全ての構成要素が特定の用途および機能を果たすために一体と認められる場合」や、「同一敷地内に建設された学校の校舎のように、社会通念上、一体的に実施がなされるもの」は「一つの意匠」として扱われます。内装の場合、物理的に区切られていても、透明な壁などで「視覚的に一つの空間と認められる場合」も一つの意匠として扱われます。例えば、オフィス内の透明なパーティションで区切られた会議室や、店舗内の透明な壁で仕切られた出演者用スペースなどが想定されます。

意匠登録を受けるための「要件」

どんなデザインでも登録できるわけではありません。意匠登録を受けるためには、いくつかの重要な要件を満たす必要があります。

  1. 工業上利用できる意匠であること: 同じものを繰り返し生産できるデザインである必要があります。
  2. 新規性: 出願する意匠が、出願より前に公然と知られたり、公然と実施されたり、頒布された刊行物や電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった意匠やこれに類似する意匠ではないこと、つまり「新しいデザイン」であることが必要です。
  3. 創作非容易性: そのデザインが、出願より前にあったデザインに基づいて、その分野の専門家であれば「容易に思いつくようなものではない」ことが必要です。容易に思いつくデザインが登録されてしまうと、産業の発展を阻害する可能性があるためです。例えば、既存のデザインの要素を単に組み合わせただけ(寄せ集め)や、配置を変更しただけのデザインは、創作が容易であると判断される可能性があります。
  4. 先願: 全く同じまたは類似の意匠について、複数の人から同日に出願があった場合、協議によって登録を受ける人が決められます。しかし、異なる日に出願があった場合は、原則として「先に出願した人」に権利が与えられます。このため、デザインを創作したら、できるだけ早く出願することが非常に重要です

これらの要件をすべて満たす必要があります。

意匠権を取得すると、どんないいことがあるの?

意匠権を取得すると、以下のようなメリットが得られます。

  • 排他権の獲得: 意匠権者は、日本国内において登録された意匠およびこれに類似する意匠の実施(製造、販売、使用など)を「独占」できます。これにより、第三者が無断であなたのデザインを模倣したり、模倣品を販売したりすることを差し止めることができます。
  • 模倣品対策: 意匠権を侵害する者に対して、差止請求や損害賠償請求を行うことができます。大切なデザインを無断で使われることを防ぎ、法的手段をもって対抗できるようになります。
  • ライセンス収入: 意匠権を第三者にライセンス(使用許諾)することで、ライセンス料を得ることができます。
  • ブランド力向上: デザインが意匠登録されていることをアピールすることで、企業の技術力やデザイン力を顧客に示すことができ、ブランドイメージの向上につながります。

意匠登録出願の基本的な流れ

意匠登録出願は、一般的に以下のような流れで進みます。

  1. 先行意匠調査: 意匠出願を検討しているデザインが、既に登録されている意匠や、公然と知られている意匠と同一または類似ではないかを調査します。特許庁のデータベースを中心に調査を行いますが、必要に応じて審査官の職権で他の資料も調査されます。
  2. 出願書類の作成・提出: 意匠登録出願に必要な書類(願書、意匠に係る物品の説明、図面など)を作成し、特許庁に提出します。この際、特にデザインを正確に伝えるための「図面」の作成が非常に重要になります。
  3. 特許庁での審査: 特許庁の審査官が、提出された書類に基づいて、先述の登録要件(新規性、創作非容易性、先願など)を満たしているかを審査します。
  4. 拒絶理由通知への対応: 審査の結果、登録できない理由(拒絶理由)が見つかった場合、特許庁から通知が届きます。これに対して、意見書や手続補正書を提出して反論・訂正を行うことができます。
  5. 登録査定・登録: 審査をクリアすると、登録査定が出され、設定登録料を納付することで意匠権が設定登録され、意匠公報が発行されます。登録された意匠の内容は、意匠公報に掲載され、原則として公開されます。

建築物・内装デザインの「図面」の書き方:ここが重要!

意匠登録出願において、デザインを正確に伝える最も重要な要素の一つが「図面」です。特に建築物や内装の場合、その表現方法には特有のルールがあります。

  • 図面の基本:

    • 意匠登録出願用の図面は、意匠登録を受けようとする「意匠そのもの」のみをありのままに表すのが基本です
    • 一般的な建築図面や内装図面に記載される寸法、図面記号、仕上げなどは、原則として記載できませんので注意が必要です。
    • 図面のサイズは最大で横150mm、縦113mmと定められています。
    • 記載する図面の順番は自由ですが、各図面の縮尺は統一させるのが望ましいです。例えば、正面図と背面図で大きさが著しく異なると、どのような形状の意匠なのか分からなくなってしまう場合があるためです。
  • 必要な図面:

    • 意匠を正確に表すために、原則として六面図(正面図、背面図、平面図、底面図、左側面図、右側面図)を作成します。
    • 六面図だけでは表現しきれない部分がある場合(例えば、隠れてしまう部分や内部構造)は、断面図や拡大図、破線などを追加して表現します。
    • 意匠の一部を省略して描く場合(例:構造材を省略した断面図)や、対象でない部分を破線で描く場合、その旨を説明に記載します。
  • 透視図や写真の活用:

    • 六面図や断面図、拡大図に加えて、透視図(斜視図)などを組み合わせることで、より分かりやすく意匠全体を表現できます。
    • 図面の代わりに写真を提出することも認められています。
  • 参考図の役割:

    • 「参考図」は、意匠そのものを表す図面とは異なり、意匠の機能や用途、使用状態などを説明するために補足的に用いる図です
    • 参考図には、意匠の内容を説明するための矢視線や文字、符号、使用シーンを表す背景などを自由に記載することができます。
    • 例えば、各部にどのような機能があるのかを示したり、透明な部分がある意匠の場合、願書の文章による説明だけでは分かりにくい場合に、参考図を用いて透明部分の説明を補足したりすることができます。特許庁の審査では、「透明」と「透明構造」という言葉が使い分けられており、「透明」は透過率が高く向こう側が透けて見える状態を指します。
  • 動的・変化する意匠の表現:

    • 屋根が開閉する建築物のように、意匠が変化する場合は、変化する前と変化した後の両方の状態の図面を基本として提出します。必要に応じて、変化の途中段階の図面を追加することもあります。
    • 店舗の照明が混雑状況に合わせて変化する内装のように、使用状態によって意匠の態様が変化する場合も、変化前後の図面などで表現します。
  • 「部分意匠」のススメ(一部だけを保護したい場合)

    • 建築物全体や内装空間全体ではなく、デザインの特定の「部分」だけを意匠登録したい場合は、「部分意匠」として出願することができます。
    • 部分意匠として出願する場合、意匠登録を受けたい部分を「実線」で描き、それ以外の部分は「破線」で描いて区別します
    • また、意匠登録を受けたい部分以外に色を塗ることで特定する方法もありますが、意匠登録を受けたい部分自体に色を塗ってしまうと、その色が意匠に含まれるのか不明確になるため注意が必要です。区別する場合は、意匠登録を受けたい部分以外の部分に色を塗るようにします。
    • 部分意匠として出願する場合、願書または意匠の説明の欄に、意匠登録を受けようとする部分の特定方法(実線/破線や色の使用など)を記載することが必須となります。

知っておきたい特殊な出願制度

建築物や内装のデザインに関連して利用できる、いくつかの特殊な出願制度があります。

  • 関連意匠制度: 一つのデザインコンセプトから複数のバリエーション(類似する意匠)を創作した場合、最初のデザイン(本意匠)に「関連する意匠」としてまとめて出願・登録することができます。これにより、本意匠だけでなく、デザインのバリエーションも権利で保護できます。
  • 秘密意匠制度: 意匠登録されると原則として意匠公報で公開されますが、プレスリリース前など、デザインを一定期間秘密にしておきたい場合は、出願時に秘密意匠として請求することで、最長3年間、図面などの公開を遅らせることができます。ただし、秘密意匠とするためには別途料金がかかります。
  • 組物の意匠制度: 本来、一つの出願には一つの意匠しか含められませんが、同時に使用される2つ以上の物品(例:セットで販売される家具や照明器具など)を「一つの意匠」としてまとめて出願・登録することができます。建築物や内装の場合、空間を構成する特定のセット物品のデザインなどに適用できる可能性があります。

まとめ:大切なデザインを守り、競争力を強化するために

建築物や内装のデザインは、デザイナーの皆様の創造性と努力の結晶です。意匠登録制度を活用することで、これらの大切なデザインを模倣から守り、安心して創作活動を続け、ひいてはビジネスの競争力を高めることが可能です。

特に建築物・内装デザインの意匠登録は比較的新しい制度であり、図面の表現方法など、専門的な知識が必要となる場面が多くあります。正確な図面作成や適切な権利範囲の設定は、意匠権取得の成否や、取得した権利の強さに大きく影響します。

ご自身のデザインが意匠登録できるか、どのように出願すれば最も効果的に保護できるかなど、ご不明な点があれば、ぜひ専門家である弁理士にご相談ください。皆様のデザインを権利で守り、事業の発展に貢献できるよう、サポートさせていただきます。

このブログ記事が、建築・内装デザイナーの皆様の意匠登録への理解を深め、大切なデザインを保護するための一助となれば幸いです。