ブルガリアは人口約642万人(2025年)、GDP約1,308億米ドル(2025年、世界銀行)、1人当たりGDP約2万米ドルの黒海に面したEU加盟国で、2007年のEU加盟、2025年1月のシェンゲン協定完全加盟に続き、2026年1月1日にユーロを導入しました。日本との関係では、2024年の日本からの輸出は約172億円(一般機器、電気機器、精密機器)、ブルガリアからの輸入は約194億円(衣類、電気機器)で、2025年5月には両国関係を「戦略的パートナーシップ」と位置付ける共同声明が出されています。自動車部品・医薬品・IT・食品の分野で、ブルガリアでの商標保護の相談が増えています。
ブルガリアの商標制度は、2019年の商標・地理的表示法(Закон за марките и географските означения、ЗМГО、官報98/2019)に基づき、ブルガリア共和国特許庁(Патентно ведомство、BPO、ソフィア)が登録します。特許庁は絶対的理由のみを審査し、先行商標との抵触は公告から3か月の異議に委ねられます。2026年3月6日施行の改正(官報24/2026)では、特許庁が異議・無効手続の中で出願人の悪意を認定できるようになり、郵便・宅配便による模倣品の発送や権利の消尽していない商品の並行輸入が侵害行為として明記され、特許庁による違法なオンラインコンテンツの削除命令制度も導入されました。手数料は2026年からユーロ建てで、3区分までの出願・審査料が265.87ユーロと手頃で、登録までの期間は平均133日(WIPO、2024年)と短く、存続期間は出願日から10年、不使用取消は登録から5年です。本記事では、商標法の条文(特許庁公表の2026年3月改正統合版)、特許庁の2026年手数料表と2025年年次報告、刑法、税関の摘発事例、最高行政裁判所とソフィア市裁判所の判例、外務省のデータを一次資料として、出願から異議・取消・権利行使・EUTMとの使い分けまでを弁理士が実務目線で整理します。
この記事のポイント
目次
ブルガリアの商標の根拠法は商標・地理的表示法(ЗМГО、官報98号・2019年12月13日公布)です。EU商標指令(2015/2436)を国内化するために1999年法を全面的に置き換えたもので、図形的表現の要件の撤廃、絶対的理由のみの審査と異議制度、使用証明の要求などを備えています。2020年10月の改正(官報92/2020)で代理と電子手続の規定が整えられ、2026年3月6日施行の改正(官報24/2026)では、特許庁による悪意の認定、郵便・宅配便による発送と並行輸入の侵害行為への追加、特許庁によるオンライン削除命令、電子メールでの出願、EUの伝統的特産品・地理的表示に関する拒絶理由の整理などが行われました。施行細則として、出願・審査に関する閣僚会議の規則、異議に関する規則(2022年4月改正)、紛争審理に関する規則があります。
登録の管轄はブルガリア共和国特許庁(Патентно ведомство на Република България、英語名Patent Office / BPO)で、ソフィアに置かれた中央行政機関です。特許庁は方式審査と絶対的理由の審査を行い、問題がなければ公報に公告します。先行権利者は公告から3か月以内に異議を申し立てることができ(第52条)、異議がなければ登録されます。存続期間は出願日から10年で、更新は10年ごとです(第22・65条)。特許庁の拒絶決定や異議決定には、2か月以内に特許庁内の紛争合議体へ不服を申し立て(第69・70条)、特許庁長官の決定には2か月以内にソフィア市行政裁判所へ提訴し(第84条)、さらに最高行政裁判所で争います。侵害訴訟はソフィア市裁判所の専属管轄で(第125条)、EU商標についてもソフィア市裁判所が第一審、ソフィア控訴裁判所が第二審のEU商標裁判所です(第111条7項)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法 | 商標・地理的表示法(官報98/2019、改正92/2020・24/2026(2026年3月6日施行))、手数料は閣僚会議令13/2025の手数料表 |
| 管轄官庁 | ブルガリア共和国特許庁(BPO、ソフィア) |
| 権利の発生 | 登録による(出願日から効力、第10条)。未登録の周知商標はパリ条約6条の2により異議・無効の根拠(第12条2項) |
| 審査の範囲 | 方式と絶対的理由(第11・46・47条)。先行商標(第12条)は異議があった場合にのみ判断 |
| 異議申立 | 公告から3か月、先行権利者(第52条)、178.95ユーロ。和解期間3か月(+3か月) |
| 存続期間 | 出願日から10年、10年ごとに更新(第22・65条) |
| 不使用取消 | 登録日から5年の不使用(第21・35条)。特許庁の紛争合議体に請求(168.73ユーロ) |
| 不服申立て | 2か月以内に特許庁の紛争合議体→2か月以内にソフィア市行政裁判所→最高行政裁判所(第69・70・84条) |
| 侵害訴訟 | ソフィア市裁判所の専属管轄(第125条)→ソフィア控訴裁判所→最高破毀裁判所。EUTMもソフィア市裁判所・控訴裁判所(第111条7項) |
| 国際条約 | パリ条約、マドリッド協定・議定書、ニース協定、ウィーン協定、TRIPS、EU商標規則 |
特許庁の2025年年次報告によると、2025年に特許庁に提出された国内商標出願は4,124件で、2024年の3,923件から5.12%、2023年の3,598件から14.62%増えました。出願の内訳は結合商標2,663件、文字商標1,394件、図形商標46件、立体商標15件で、外国出願人による国内出願は359件にとどまります。2025年に登録が認められた出願は3,261件、拒絶は109件で、拒絶・一部拒絶の決定は86件と前年の118件から減り、登録率が改善しています。マドリッド制度によるブルガリア指定の国際登録は1,008件が通知され、886件が保護を認められ、53件が拒絶されました。ブルガリアを本国とするマドプロ国際出願は259件です。異議は269件(2024年221件)で、このうち136件がEU商標を根拠としており、異議決定は拒絶・一部拒絶115件、却下32件、手続終了88件でした。更新請求は3,698件、登録証の発行は2,395件です。
WIPOの統計プロファイル(2024年)では、ブルガリアで有効な商標は58,989件(世界77位)、特許庁への出願は区分数ベースで15,119(居住者81%)、ブルガリアの出願人による商標出願は国外分を含め40,058区分(世界35位)、ブルガリアからのマドプロ国際出願は362件(世界25位、前年比28.8%増)で、特許庁の登録までの平均日数は133日です。ブルガリアの出願人は国外出願の95.5%をマドプロで行っており、EU内でもマドプロの利用率が高い国です。
| 指標(特許庁年次報告) | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| 国内商標出願 | 3,598 | 3,923 | 4,124 |
| 異議申立 | 261 | 221 | 269 |
| マドプロ指定(通知件数) | — | — | 1,008 |
| 不服申立・取消/無効請求(商標) | 125 | 143 | 157 |
| うち取消請求/無効請求 | — | — | 24/37 |
| 特許庁の行政罰検査(模倣品) | 301 | 432 | 479 |
日本企業との関わりでは、ブルガリアはEU内で労働コストが低く、ドイツ、ルーマニア、イタリア、トルコ、ギリシャとの貿易が中心で、自動車部品、医薬品、ITサービスの拠点として投資が増えています。外務省によれば、2024年の日本からの直接投資は8,290万ユーロで、日本からは機械類を輸出し、ブルガリアからは衣類や電気機器を輸入しています。トルコ国境のカピタン・アンドレエヴォ検問所はEUの外部国境として模倣品の主要な流入経路になっており、税関と特許庁が摘発を強めている点は、ブルガリアを販売市場だけでなく物流の通過地として使う日本企業にも関係します。
商標となりうる標識は、文字、図形、立体、位置、パターン、色彩やその組合せなど、自他商品識別力があり、明確・正確・自律的・容易にアクセス可能・理解可能・永続的・客観的に登録簿に表示できるものです(第9条)。2026年改正で、一般に利用できる技術で表示できるあらゆる標識が認められることが明記されました。登録は出願日から効力を持ち、先願主義です(第10条)。個別商標のほか、団体商標と証明商標も登録できます(第39・40条)。
絶対的拒絶理由(第11条1項)は、識別力の欠如、慣用的・記述的な標識、商品の性質・技術的効果・実質的価値に由来する形状、公序良俗違反、品質や産地についての誤認、パリ条約6条の3の国家紋章・旗章、公益性のある紋章・記章、管理・保証の公的標章、文化遺産法に基づく文化財の名称・図像、EU・国内法で保護される地理的表示・伝統的特産品・ぶどう酒の伝統的表現と抵触する標識、植物品種名称などです。識別力の欠如などは、出願日前に使用により識別力を獲得していれば拒絶を免れます(同条2項)。
相対的拒絶理由(第12条)は、「第52条の異議が申し立てられたときは登録しない」と規定されている点が特徴で、特許庁が職権で審査する事項ではありません。先行商標(ブルガリア登録商標、EUTM、国際登録とこれらの出願、パリ条約6条の2の周知商標)との同一・類似による混同のおそれ、ブルガリアで未登録のまま使用されている商標、名声を有する先行商標の識別力や名声の不当利用、代理人による無断出願、商号、先行する地理的表示などが異議の根拠になります。悪意による出願は無効理由(第36条1項2号)で、これまで悪意の認定はソフィア市裁判所の訴訟でしか行えませんでしたが、2026年3月の改正(第12条11項)により特許庁も異議・無効手続の中で悪意を認定できるようになりました。
先行商標の職権審査がなく、異議が唯一の登録前の防御手段です。日本企業にとっては、自社の出願が先行商標で拒絶される心配は少ない一方、他社の類似出願は公告の監視と3か月以内の異議で自ら止めなければならないことを意味します。現地の代理店や元従業員による冒認出願は、異議(先行商標・未登録商標・商号などの先行権利)か、登録後の無効請求(悪意)で争います。2026年改正までは悪意の認定に3審級の裁判が必要で数年を要していましたが、改正後は特許庁の手続で認定できるため、解決の迅速化が期待されています。
商標権者には、同一の商品について同一の標識を使用すること、混同のおそれがある類似の標識を使用すること、名声を有する商標についてはその識別力や名声を不当に利用し、または害する標識を使用することを禁止する権利が認められます(第13条)。商品やその包装への標識の付加、販売の申出、輸出入のほか、2026年改正で郵便・宅配便・運送業者による商標付き商品の発送が「使用」に明記され(第13条2項)、ブルガリアから西欧市場へ宅配便で送られる模倣品への対策が強化されました。EU商標規則と同様に通過貨物に対する権利(第13条3項)や包装・ラベルの準備行為に対する権利(第14条)もあります。侵害訴訟では、被告の求めにより原告が訴え提起前5年間の使用を証明しなければならず(第117条)、EU・EEA域内で権利者が流通させた商品には権利が消尽しますが(第17条)、権利が消尽していない商品の並行輸入は2026年改正で侵害行為に明記されました(第113条2項5号)。
出願は特許庁の窓口、郵送、または電子手続ポータルで行い、2026年改正で電子メールによる提出も認められました(第42条、第3a条)。出願書類はブルガリア語またはブルガリア語訳を添付し、登録の請求、出願人の氏名・住所、商標の表示、商品・役務の一覧、商標の種類と型、代理人の表示、連絡先などを記載します。手続上の書類はすべてブルガリア語で提出し、連絡先はブルガリア国内の住所、電子メールアドレス、または特許庁のポータルです。ブルガリア、他のEU加盟国、EEA加盟国、スイスのいずれにも拠点を持たない者は、ブルガリアの弁護士または知財代理人(представител по индустриална собственост)を通じてのみ手続ができます(第3条2項)。2026年改正で代理権の証明書類の提出が義務付けられました(同条4項)。パリ条約の優先権は第一国出願から6か月です(第45条)。
| 段階 | 内容と期限(商標法の条文) |
|---|---|
| 1. 出願と方式審査 | 出願日は必要書類が揃った日(第44条)。手数料の納付と方式を確認し、不備は補正期間内に補完(第46条) |
| 2. 実体審査 | 方式審査完了から2か月以内に絶対的理由(第11条)を審査。拒絶理由があれば通知し、2か月の応答期間を与える(第47条)。応答がなければ全部または一部拒絶 |
| 3. 公告 | 審査完了から1か月以内に特許庁の公報に公告(第49条)。公告から3か月間、何人も絶対的理由に基づく意見書を提出可(第51条) |
| 4. 異議 | 公告から3か月以内に先行権利者が相対的理由で異議(第52条)。国際登録は公告から2か月後に起算。3名の異議合議体が審理(第53条) |
| 5. 登録 | 異議期間満了または異議却下の確定から7日以内に登録決定。登録簿に記入し、1か月以内に公報に公告。登録証は請求と手数料(25.56ユーロ)により発行(第61条) |
| 6. 不服申立て | 拒絶決定・異議決定の通知から2か月以内に特許庁の紛争合議体へ(81.81ユーロ)(第69・70条)→特許庁長官の決定から2か月以内にソフィア市行政裁判所(第84条)→最高行政裁判所 |
審査期間は、法律上、方式審査完了から2か月以内に実体審査を行い、審査完了から1か月以内に公告すると定められています。異議がなければ、公告後3か月の異議期間と登録手続を加えて、出願から登録までおおむね6〜9か月が目安で、WIPOの統計プロファイルでは特許庁の登録までの平均日数は133日(2024年)と、EU諸国の中でも短い部類です。異議が出た場合は、3か月の和解期間(延長で最長6か月)と書面交換の期間が加わり、1年から1年半を見込む必要があります。特許庁は有料の先行商標調査(識別性・類似調査)を提供しており、2025年には1,516件の調査が行われました。ブルガリアの商標登録簿、WIPOのMadrid Monitor、EUIPOのTMviewは無料で検索でき、出願前の自主的な調査と、登録後の公報監視が実務の要になります。
特許庁の手数料は、閣僚会議令13号(2025年2月27日、官報18/2025)で承認された手数料表に定められ、ユーロ導入日の2026年1月1日から施行されています。手数料表はレヴァ建てとユーロ建ての両方を記載しており、ユーロ建ての額は固定換算率(1ユーロ=1.95583レヴァ)で換算したものです。ブルガリアの特徴は、出願・審査料が3区分までを含む一括料金で、登録時の追加料金が登録証の発行料だけである点です。以下は商標関連の主な手数料で、円換算は1ユーロ=175円の概算です。
| 手続 | 個別商標(ユーロ) | 団体・証明商標(ユーロ) | 円換算(個別商標、概算) |
|---|---|---|---|
| 出願・審査料(3区分まで) | 265.87 | 516.40 | 約4.7万円 |
| 4区分目以降(1区分ごと) | 15.34 | 40.90 | 約2,700円 |
| 優先権の主張(1件ごと) | 10.23 | 10.23 | 約1,800円 |
| 登録証の発行 | 25.56 | 25.56 | 約4,500円 |
| 異議申立 | 178.95 | 357.90 | 約3.1万円 |
| 更新(3区分まで)+4区分目以降25.56 | 153.39 | 306.78 | 約2.7万円 |
| 満了後6か月以内の更新(3区分まで)+40.90/区分 | 230.08 | 460.16 | 約4.0万円 |
| 不服申立(拒絶決定・異議決定に対し) | 81.81 | 81.81 | 約1.4万円 |
| 無効請求/取消請求 | 194.29/168.73 | 194.29/168.73 | 約3.4万円/3.0万円 |
| マドプロ国際出願の送付(3区分まで)+25.56/区分 | 76.69 | 76.69 | 約1.3万円 |
| ライセンス登録/名称・住所変更/登録証の再発行 | 30.68/25.56/20.45 | 同左 | 約5,400円/4,500円/3,600円 |
3区分までの商標を登録する場合の庁費用の合計は、出願・審査料265.87+登録証25.56=291.43ユーロ(約5.1万円)で、1区分でも3区分でも同額です。4区分目以降は1区分15.34ユーロと安価なため、多区分の出願に向いています。一方、手数料は出願時に一括納付するため、拒絶や異議で登録に至らなくても返還されない点に注意が必要です(和解で異議が終了した場合は異議手数料の半額が返還されます)。これに現地代理人の費用(出願・登録で数百ユーロから1,000ユーロ程度が相場)と日本側の手数料が加わり、1件あたり15万〜30万円程度が目安です。特許庁のサイトには手数料の電子計算機(portal.bpo.bg/tax-calculator)があります。
比較として、EU商標(EUTM)はブルガリアを含むEU27か国を1件でカバーし、出願料は1区分850ユーロ、2区分目50ユーロ、3区分目以降150ユーロ、異議申立料は320ユーロです。マドプロでブルガリアを指定する場合、ブルガリアは個別手数料を宣言しており、3区分までCHF 291、追加区分ごとにCHF 19(団体・証明商標はCHF 529+48)です。更新時の個別手数料は3区分までCHF 143、追加区分CHF 29です。国内出願の3区分一括料金とほぼ同水準なので、ブルガリアだけなら国内出願、EU全域ならEUTM、EU非加盟の周辺国(トルコ、セルビア、北マケドニア、モルドバ)も含めるならマドプロという使い分けになります。
公告から3か月以内に、先行商標の権利者(共有者、専用使用権者を含む)、ブルガリアで使用されている未登録商標の真の所有者(出願と手数料納付が条件)、代理人に無断で出願された商標の真の所有者、商号の保有者、先行する地理的表示の権利者は、第12条の相対的理由を根拠に異議を申し立てることができます(第52条1項)。国際登録については、ブルガリアでの公告から2か月後に3か月の異議期間が始まります。異議は書面(または電子署名付きの電子申立て)で、異議人の情報、法的利益、対象の出願番号・商標・商品、根拠と理由を記載し、手数料(178.95ユーロ)、委任状、証拠を添付します(同条2・3項)。複数の先行権利を根拠にできますが、すべて同一の権利者に属することが条件です。
異議は3名の審査官からなる異議合議体が審理します(第53条)。適法性と方式の確認後、両当事者に通知が送られ、3か月の和解期間(cooling-off)が始まります。この期間は両当事者の署名した書面の求めと手数料の納付により1回に限り3か月延長できます(第57条1項、2026年改正)。和解が成立して合意書が提出されれば手続は終了し、異議手数料の半額が異議人に返還されます(同条3項)。和解に至らなければ、出願人に2か月の答弁期間、異議人に1か月の意見期間、新たな事実や証拠があれば出願人に再度1か月の反論期間が与えられ(同条4〜6項)、合議体は証拠収集の完了から3か月以内に決定を出します(同条10項)。出願人の求めがあれば、異議人は先行商標が出願日・優先日前5年間に真正に使用されていたことか、不使用の正当理由を証明しなければならず、先行商標の登録から5年を経過していることが条件です(第58条)。異議決定には、通知から2か月以内に特許庁の紛争合議体へ不服を申し立てることができ(81.81ユーロ、第69・70条)、特許庁長官の決定にはソフィア市行政裁判所、最高行政裁判所で争えます。
2025年の異議は269件で、拒絶・一部拒絶の決定が115件、却下が32件、和解や取下げによる終了が88件でした。異議の約半数(136件)がEU商標を根拠にしており、EUTMを保有する日本企業はブルガリアの国内出願に対してもEUTMを根拠に異議を申し立てられます。異議決定に対する不服申立ては2025年に62件あり、紛争合議体の決定は却下32件、認容7件、一部認容5件でした。実務上は、異議書面に主張と証拠をできるだけ出し切ること、3か月の和解期間を使って共存合意や指定商品の限定を交渉することが有効です。
商標権者が登録日から5年以内にブルガリアで登録商品・役務について真正な使用を開始しない場合、または5年間継続して使用を中断した場合、正当な理由がなければ、何人も登録の取消を請求できます(第21・35条)。国際登録については、ブルガリアでの国際登録の公告日から5年を起算します。登録された形と識別力を変えない範囲で異なる形での使用、輸出専用の商品や包装への付加、権利者の同意を得た第三者の使用は真正な使用とみなされ、使用の評価では場所、期間、量、性質が考慮されます。5年経過後も請求前に使用を再開すれば取消を免れますが、請求の3か月前以降の再開は、権利者が取消請求の可能性を知ったあとに準備したものであれば考慮されません(第35条2項)。取消理由にはこのほか、商標が普通名称になった場合、使用により誤認を生じるようになった場合があります。
無効(第36条)は、絶対的理由(第11条)に違反して登録された場合、悪意で出願された場合(1項)、相対的理由(第12条)に違反して登録された場合、氏名・肖像権、著作権、品種名称、産業財産権などの第三者の先行権利により使用が禁止されうる場合(3項)に、登録を無効にします。識別力の欠如などは、無効請求前に使用により識別力を獲得していれば無効を免れます。先行権利者が後の商標の使用を知りながら5年間黙認した場合は、後の商標が悪意で出願されたものでない限り、無効請求も使用差止もできなくなります(第37条)。
取消と無効の請求は、特許庁の紛争合議体に対して行います(第69条1項4・5号)。取消・無効請求を審理する合議体は国家審査官3名と法律家2名で構成され(同条2項、2026年改正)、請求は登録の有効期間中いつでも提出できます(第70条2項)。手数料は取消168.73ユーロ、無効194.29ユーロです。合議体の意見に基づいて特許庁長官(または権限を委任された副長官)が決定を出し、決定には通知から2か月以内にソフィア市行政裁判所へ提訴でき(第84条1項)、その判決には最高行政裁判所への上訴が認められます。2025年には取消請求24件、無効請求37件が提出され、無効の決定は26件(一部無効11件)、取消の決定は19件(一部取消2件)でした。特許庁の決定に対する行政訴訟は2025年に74件提起されています。2026年改正により、悪意を理由とする無効についても特許庁が自ら認定できるようになり、ソフィア市裁判所の訴訟を待たずに判断できます。
特許庁ルートの決定は行政裁判所で争われ、侵害訴訟とは裁判所系統が異なります。ブルガリアでは、登録の有効性(取消・無効・異議)は特許庁→ソフィア市行政裁判所→最高行政裁判所という行政訴訟の系統で判断され、侵害・損害賠償はソフィア市裁判所→ソフィア控訴裁判所→最高破毀裁判所という民事訴訟の系統で判断されます。侵害訴訟の中で相手方の登録を無効にすることはできないため、相手に登録商標がある場合は、特許庁への無効・取消請求と、ソフィア市裁判所での侵害訴訟を並行して進める設計が必要です。2026年改正で、関連する行政手続や他の訴訟の結論に依存する場合は裁判手続を停止する規定(第125a条)が明記されました。
商標登録は出願日から10年間効力を有し、権利者の請求と手数料の納付により10年ごとに無制限に更新できます(第22条)。更新の請求は存続期間の最終年に行い、満了後6か月以内は割増手数料(3区分まで230.08ユーロ)を払って更新できます(第65条3項)。2026年改正で、法的利益を有する第三者(ライセンシーなど)も更新を請求できるようになりました(同条1項)。特許庁は満了の6か月前までに権利者または代理人に通知しますが、通知できなかった場合でも特許庁の責任は生じません(同条7項)。2025年の更新請求は3,698件でした。
使用義務は登録日から5年です。ブルガリア国内で、登録された商品・役務について、同一または識別力を変えない形で使用する必要があり、カタログ、請求書、広告、ウェブサイトのアーカイブなど日付のある証拠を残しておくことが重要です。使用の証明は、異議(第58条)、無効請求、侵害訴訟(第117条)のそれぞれで相手方の求めに応じて要求されるため、ブルガリアで現地代理店を通じて販売している場合は、代理店の使用が権利者の同意に基づくものであることを契約で明確にしておきます。ライセンスの登録(30.68ユーロ)は第三者対抗の要件です。
民事訴訟は、全国どこで侵害が起きてもソフィア市裁判所(Софийски градски съд)の専属管轄です(第125条)。EU商標に関する訴訟もソフィア市裁判所が第一審、ソフィア控訴裁判所が第二審を担い(第111条7項)、最高破毀裁判所への上告は例外的に認められます。権利者は、侵害の確認、差止、損害賠償、侵害品と製造手段の押収・廃棄を請求でき、侵害品の引渡し、保管・廃棄費用の支払い、判決主文の新聞・テレビでの公表も求められます(第116条)。仲介者に対する差止請求も可能です。損害賠償は財産的・非財産的損害と逸失利益を対象とし、裁判所は侵害者の収益を考慮して抑止効果のある公正な額を定めます(第118条)。損害額の立証が難しい場合は、500〜10万レヴァ(約255〜5万1,000ユーロ)の法定賠償か、正規品の小売価格相当額を請求できます(第119条)。侵害が現実または差し迫っている場合、裁判所は相手方に通知せずに、行為の禁止、侵害品と証拠の押収、施設の封印などの保全措置を命じることができます(第124条)。
ブルガリアに特徴的なのは、特許庁による行政罰です。登録商標と同一・類似の標識を付した商品・役務を無断で商業的に使用した者は2,000〜1万レヴァの過料、個人事業主と法人は3,000〜2万レヴァの財産制裁を受け、侵害品は国に没収されて内務省により廃棄されます(第127条)。特許庁の職員は立入検査を行い、違反を認定する調書を作成します(第128〜131条)。2025年には479件の検査が行われ、147件の違反認定調書が作成され、56件の処罰決定を含む323件の決定が出されました。特許庁は、民事・刑事より迅速で予防効果が高い手段として位置付けています。2026年改正で新設された第127a条により、オンラインでの侵害については、特許庁が侵害者に3日以内の違法コンテンツ削除を命じ、同時にホスティング事業者と通信事業者にインターフェースの遮断を命じ、効果がなければドメイン登録機関にドメインの登録抹消を命じることができ、命令は不服申立てにかかわらず直ちに効力を持ちます。
刑事罰は刑法第172b条に定められ、権利者の同意なく商業活動で商標を使用した者は1年以上6年以下の拘禁刑と1万レヴァ以下の罰金、再犯または重大な損害を生じた場合は2年以上8年以下の拘禁刑と1万〜1万5,000レヴァの罰金に処され、侵害品は所有者を問わず没収・廃棄されます。
税関はEU税関規則608/2013に基づき、財務省の税関庁(Агенция „Митници“)が担当し、通過貨物を含むすべての税関監督下の商品に措置を適用します(第126条)。権利者はEUIPOのIPEPポータルから国内またはEU全域の税関措置申立て(AFA)を行います。トルコ国境のカピタン・アンドレエヴォ検問所がEUの外部国境として最大の摘発拠点で、2025年6月には2週間で6回の検査により38,570点の模倣品(衣料、スポーツシューズ、香水、バッグ)が留置されました。欧州国境沿岸警備機関(Frontex)、Europol、EUIPOと連携した国際作戦「Pirates 3」(2025年12月発表)では、ブルガリア税関が13万4,568点・497万9,016ユーロ相当の模倣品を押収し、「Pirates 4」(2026年7月発表)では18万6,858点・約500万ユーロ相当を押収して欧州全体の押収額の約3分の1を占めました。税関庁は2025年通年の模倣品統計を公表しておらず、本記事では個別の摘発事例で代替しています。
| 手段 | 管轄・根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 保全措置 | ソフィア市裁判所(第124条) | 相手方に通知せずに行為の禁止、侵害品・証拠の押収、施設の封印 |
| 本案訴訟 | ソフィア市裁判所の専属管轄(第125条) | 差止、損害賠償(法定賠償500〜10万レヴァ)、押収・廃棄、判決公表。控訴裁判所、例外的に最高破毀裁判所 |
| 行政罰 | 特許庁(第127〜131条) | 過料2,000〜1万レヴァ、法人3,000〜2万レヴァ、侵害品の没収・廃棄。オンライン削除・遮断・ドメイン抹消命令(第127a条) |
| 刑事告訴 | 警察・検察・刑事裁判所(刑法第172b条) | 1〜6年の拘禁刑と罰金、再犯・重大な損害は2〜8年。侵害品の没収・廃棄 |
| 税関措置 | 税関庁(規則608/2013、第126条) | IPEPからAFA申請。通過貨物も対象。Pirates 4では18.7万点・約500万ユーロを押収 |
2026年3月6日施行の商標法改正(官報24/2026)は、2019年法以来最大の改正です。主な内容は、(1)特許庁が異議・無効手続の中で出願人の悪意を認定できること(第12条11項)、(2)郵便・宅配便・運送業者による商標付き商品の発送が「使用」に当たり権利者の同意を要すること(第13条2項)、(3)権利が消尽していない商品の並行輸入が侵害行為に当たること(第113条2項5号)、(4)特許庁によるオンライン侵害コンテンツの削除・遮断・ドメイン抹消命令(第127a条)、(5)異議の和解期間が3か月(延長1回3か月)になったこと(第57条)、(6)電子メールによる出願、代理権の証明、第三者による更新請求などの手続の整備、(7)EUの伝統的特産品・地理的表示規則(2023/2411を含む)に合わせた拒絶理由の整理です。法律事務所の解説は、悪意の認定が従来3審級の裁判で数年を要していたこと、宅配便を使ってブルガリアから西欧へ送られる模倣品に有効な手段がなかったこと、並行輸入を商標法で直接争えなかったことが改善されたと評価しています。
ユーロ導入に伴い、閣僚会議令13号(2025年2月27日)で承認された新しい手数料表が2026年1月1日から施行され、特許庁の手数料はレヴァ建てとユーロ建てを併記する形になりました。ユーロ建ての額は固定換算率で換算されたもので、出願・審査料265.87ユーロ(3区分まで)など、額自体はレヴァ建ての従来水準と同じです。特許庁の2025年年次報告は、出願の増加(商標5.12%増)と登録率の改善、特許庁の行政罰検査の増加(479件、前年比10.88%増)を2025年の成果として挙げています。
判例では、最高行政裁判所の2025年7月3日の2件の判決(事件番号853/25、200/25)が注目されます。BASSMANIYA-1社が衣料、運送、宿泊(第25・39・43類)について登録していた「СИНЯ ЗОНА(ブルーゾーン)」と「ЧЕРВЕНА ЗОНА(レッドゾーン)」の商標について、ソフィア市の駐車場管理公社などが、これらの語が市営駐車場の規制の枠組みに不可欠で私的独占になじまないと主張し、最高行政裁判所は下級審の判断を覆して公序良俗違反と誤認性を理由に登録を無効としました。衣料や宿泊という駐車場と無関係な商品・役務についても無効とした点には、実務家から公序良俗・誤認性の適用範囲を広げすぎたとの批判があり、ブルガリアの絶対的理由の判断に不確実性を残した事案として知られています。
悪意の認定では、ソフィア市裁判所とソフィア控訴裁判所が、ブルガリアでもEUでも登録・使用されていない外国の米ブランドの標識を2019年に結合商標として登録した事案について、標識の高い類似性、独自創作の不自然さ、先行ブランドの名声を利用し市場参入を妨げる意図を根拠に悪意を認定し、登録を無効としました。控訴裁判所は、先行商標がブルガリアで使用されている必要はなく、外国で保護・使用されている商標を根拠に悪意の無効を求められること、個別の担当者の認識を直接立証しなくても客観的事情から悪意を推認できることを明示し、最高破毀裁判所は2026年に上告を受理せず判決が確定しました(法律事務所CMSの2026年7月の報告)。日本企業がまだブルガリアで登録していない商標を冒認された場合にも、海外での使用実績を根拠に無効を求められることを示した先例です。
ブルガリアで商標を保護するルートは3つあります。特許庁への国内出願は、3区分まで265.87ユーロの一括料金で、登録まで平均133日と速く、先行商標の職権審査がないため拒絶リスクが低い一方、EU・EEA・スイス域外の出願人は現地代理人が必須で、書類はブルガリア語、権利はブルガリア国内に限られます。EUTMは1件でブルガリアを含むEU27か国をカバーし、EUIPOでの手続は英語で行え、代理人はEEA域内で足りますが、EU内のいずれか1か国の先行商標との抵触で全体が拒絶・無効になるリスクがあります。マドプロは日本の基礎出願・登録に基づいて複数国を一括で指定でき、ブルガリアの個別手数料はCHF 291(3区分まで)で、拒絶通報がなければ現地代理人も不要です。
| 項目 | ブルガリア国内出願 | EUTM | マドプロ(ブルガリア指定) |
|---|---|---|---|
| 庁費用 | 265.87ユーロ(3区分まで)+登録証25.56、4区分目以降15.34 | 850ユーロ(1区分)、2区分目50、3区分目以降150 | 基本CHF 653+個別手数料CHF 291(3区分まで)+19/区分 |
| 保護範囲 | ブルガリアのみ | EU27か国 | 指定国ごと(EU・周辺国も指定可) |
| 審査 | 絶対的理由のみ、方式審査完了から2か月 | 絶対的理由のみ | 特許庁が絶対的理由を審査、拒絶通報の期限18か月 |
| 異議期間 | 公告から3か月 | 公告から3か月 | ブルガリアでの公告の2か月後から3か月 |
| 現地代理人 | EU・EEA・スイス域外の出願人は必須 | EEA域内の代理人 | 拒絶通報・異議がなければ不要 |
| 存続期間 | 出願日から10年 | 出願日から10年 | 国際登録日から10年 |
| 使用義務 | ブルガリアで登録から5年 | EU域内で登録から5年 | ブルガリアで国際登録の公告から5年 |
| 主なリスク | 保護がブルガリア限定、ブルガリア語の書面、手数料は不返還 | EU内の1か国の先行商標で全体が拒絶・無効 | 5年間は日本の基礎登録に従属(セントラルアタック) |
実務上の設計としては、EU全域で事業を行う企業はEUTMを軸にし、ブルガリアで製造・販売する主力商標については、EUTMが他国の先行商標で争われた場合の保険として、3区分一括の安価な国内出願またはマドプロでのブルガリア指定を併用する方法が有効です。トルコ、セルビア、北マケドニア、モルドバなどEU非加盟の周辺国にも展開する場合は、マドプロで一括指定するのが効率的です。ブルガリア語はキリル文字を使うため、ラテン文字の商標とキリル文字表記の両方を出願するかどうかを検討し、キリル文字表記で記述的・否定的な意味にならないかの確認も欠かせません。特許庁のFAQは、キリル文字とラテン文字の商標は別々の出願になると説明しています。
| 項目 | ブルガリア | 日本 |
|---|---|---|
| 先行商標の審査 | 職権審査なし(異議・無効で争う) | 職権審査あり(商標法4条1項11号) |
| 異議申立 | 登録前。公告から3か月、先行権利者、178.95ユーロ | 登録後。公報発行から2か月、何人も、3,000円+8,000円/区分 |
| 審査期間 | 方式審査完了から2か月以内(法定)。登録まで平均133日(2024年) | ファーストアクションまで平均約6か月、登録まで約7〜10か月 |
| 庁費用 | 3区分まで265.87ユーロ+登録証25.56(約5.1万円) | 1区分で出願12,000円+登録32,900円(10年) |
| 存続期間の起算 | 出願日から10年 | 登録日から10年 |
| 不使用取消 | 登録から5年。特許庁の紛争合議体(168.73ユーロ) | 3年。特許庁の審判(商標法50条) |
| 不服申立て | 特許庁の紛争合議体→ソフィア市行政裁判所→最高行政裁判所 | 拒絶査定不服審判→知財高裁→最高裁 |
| 侵害訴訟 | ソフィア市裁判所の専属管轄。特許庁の行政罰制度あり | 地方裁判所(東京・大阪に集中)。行政罰制度なし |
| 刑事罰 | 1〜6年の拘禁刑と罰金(刑法172b条) | 10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(商標法78条) |
| 外国出願人の代理人 | EU・EEA・スイス域外の出願人は必須 | 在外者は商標管理人が必要 |
最も大きな違いは、ブルガリアでは先行商標が職権で審査されず、登録前の異議が先行権利者の唯一の防御手段である点と、不使用取消の期間が5年で、取消・無効が特許庁の紛争合議体から行政裁判所の系統で争われる点です。また、存続期間が出願日起算のため、審査に時間がかかると実質的な保護期間が短くなりますが、ブルガリアは登録まで平均133日と速いため影響は限定的です。日本にはない制度として、特許庁が立入検査を行って過料と侵害品の没収を命じる行政罰と、2026年に導入されたオンライン削除命令があり、民事・刑事より迅速な権利行使手段として活用できます。刑事罰の下限が1年と日本より重い点も特徴です。
商標法上、特許庁は方式審査の完了から2か月以内に絶対的理由の審査を行い、審査完了から1か月以内に公告します。これに公告から3か月の異議期間と登録手続が加わるため、異議がなければ出願から登録まで6〜9か月が目安で、WIPOの統計では特許庁の登録までの平均日数は133日(2024年)とEU諸国の中でも短い部類です。異議が出た場合は、3か月の和解期間(延長で最長6か月)と書面交換の期間が加わり、1年から1年半を見込みます。
2019年法以降、特許庁は先行商標を理由に職権で拒絶することはなく、先行商標との抵触は先行権利者が公告から3か月以内に異議を申し立てた場合にのみ判断されます。特許庁は有料の識別性・類似調査を提供していますが、結果は情報提供にすぎません。出願前の自主的な調査と、登録後の公報監視が実務の要になります。
必要です。商標法第3条2項により、ブルガリア、他のEU加盟国、EEA加盟国、スイスのいずれにも拠点を持たない者は、ブルガリアの弁護士または知財代理人を通じてのみ特許庁の手続ができます。日本企業は通常、ブルガリアの知財代理人または弁護士を通じて手続を行い、2026年改正で代理権の証明書類の提出が必要になりました。マドプロで指定した場合は、拒絶通報への応答や異議など争いが生じたときに初めて現地代理人が必要になります。
EUTMはブルガリアを含むEU全域で効力を持つので、通常はEUTMだけで足ります。ただし、EUTMが他国の先行商標を理由に拒絶や無効のリスクを抱えている場合や、ブルガリアだけで事業を行う場合は、3区分まで約5.1万円で10年の保護が得られる国内出願を併用する価値があります。トルコ、セルビア、北マケドニア、モルドバなど周辺国はEUTMの対象外なので、マドプロでの指定を忘れないでください。
登録から5年間使用されていなければ、特許庁の紛争合議体に取消を請求できます(168.73ユーロ、第35条)。使用の立証責任は商標権者側にあり、特許庁長官の決定には2か月以内にソフィア市行政裁判所で争えます。相手が同意する見込みがあれば、共存合意を結んで自社の出願を進める方法もあります。ブルガリアでは先行商標の職権拒絶がないため、障害登録が自社の出願を直接妨げる場面は、相手が異議を出した場合に限られます。
証拠を保全したうえで、ソフィア市裁判所に保全措置(行為の禁止、侵害品の押収、施設の封印)を申し立てるのが最も速い対応です(第124条)。ブルガリアでは特許庁への通報も有効で、特許庁の職員が立入検査を行い、過料(法人3,000〜2万レヴァ)と侵害品の没収・廃棄を命じます。オンラインの侵害には特許庁の削除・遮断命令(第127a条)が使えます。並行して、IPEPから税関措置の申立て(AFA)を行い、トルコ国境のカピタン・アンドレエヴォなどでの留置に備えます。悪質な業者には刑法第172b条の刑事告訴(1〜6年の拘禁刑)も選択肢です。
庁費用は3区分まで出願・審査料265.87ユーロと登録証25.56ユーロの合計291.43ユーロ(約5.1万円)で、4区分目以降は1区分15.34ユーロです。これに現地代理人の費用(数百ユーロから1,000ユーロ程度)と日本側の手数料が加わり、1件あたり15万〜30万円程度が目安です。更新は10年ごとに153.39ユーロ(3区分まで)+25.56ユーロ/区分、異議は178.95ユーロ、無効請求は194.29ユーロ、取消請求は168.73ユーロです。中小企業は、EUIPOの中小企業基金(EU域内の中小企業向け)やINPITの外国出願補助金などの支援制度を活用すると負担を抑えられます。
ブルガリアの商標制度は、EU商標指令に沿った絶対的理由のみの審査と3か月の異議、3区分一括の安価な手数料と平均133日という速い登録、特許庁の紛争合議体と行政裁判所による有効性の審理、ソフィア市裁判所の専属管轄と特許庁の行政罰による権利行使という明快な仕組みが特徴です。2026年3月の改正で、特許庁による悪意の認定、宅配便による発送と並行輸入の侵害明記、オンライン削除命令が加わり、権利者の手段は大きく広がりました。EU東南部の製造拠点とトルコ・西バルカンへの玄関口を視野に入れる日本企業には、EUTMを軸に、ブルガリアで使用する主力商標は安価な国内出願かマドプロで補完し、EU非加盟の周辺国はマドプロで指定する設計をおすすめします。
各国の商標制度は世界の商標制度ガイドをご覧ください。
国内出願・EUTM・マドプロの使い分け、キリル文字表記の検討とブルガリア語での識別力の確認、先行商標調査と公報監視、異議・取消・無効への対応、ソフィア市裁判所と特許庁の行政罰による権利行使、税関申立と模倣品対策、INPIT外国出願補助金の申請まで、知的財産事務所エボリクスが一貫してサポートします。初回相談は無料です。
本記事は、以下の一次資料および専門家による解説を基に作成しています(いずれも2026年10月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。
※本記事は上記の資料を基に、2026年10月時点の情報で一般的な情報提供を目的として作成しています。手数料(円換算額)・運用・判例は変更されることがあります。ブルガリア語の法令原文と英訳の間に差異がある場合は原文が優先されます。個別案件の具体的判断には、専門家へのご相談を推奨します。