evorix blog

ドイツ特許制度の実務ガイド|DPMA・BPatG・EPO・単一効特許UPC・二元訴訟を弁理士が徹底解説

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/05/18

ドイツで特許を出願・権利化・権利行使する実務担当者のために、ドイツ特許法(Patentgesetz, PatG)を中核に、DPMAの国内出願ルート、EPO経由の欧州特許、PCT国内移行、2023年6月開始の単一効特許/UPC体制、そして侵害(地方裁判所)と無効(BPatG)の二元訴訟構造(bifurcation)まで、欧州知財実務の中核国における特許実務の全体像を体系的に整理します。Phoenix Contact後の仮処分、Okklusionsvorrichtung・Pemetrexed・Raltegravirなどの主要判例も踏まえ、日本企業向けに弁理士が解説します。

この記事のポイント

  • 権利化ルートはDPMA国内/EP(EPO)/PCT→DE・PCT→EPの4系統。ドイツ単国ならDPMAが費用効率良好
  • DPMA審査請求は出願日から7年以内と長期。検索請求活用で審査料を150ユーロに圧縮可
  • 異議はDPMA・EPOいずれも付与公告から9か月。それ以降の無効攻撃はBPatGの専属管轄
  • 侵害(地裁12庁)と無効(BPatG)のbifurcation。デュッセルドルフ・マンハイム・ミュンヘンが中心地
  • 2023年6月以降の単一効特許/UPC。既存EPはopt-out可。ドイツ国内特許との二重保護も可能
  • ロンドン協定加盟により、2008年5月以降の付与EP特許はドイツでの翻訳提出不要
  • Phoenix Contact(CJEU C-44/21)後も、仮処分は依然として有効性疎明が核心

GERMANY PATENT

弁理士による、欧州知財実務の中核国ドイツの特許制度・実務完全ガイド。DPMA国内ルート、EPO、PCT、単一効特許/UPC、二元訴訟構造から主要判例まで12セクションで体系的に解説します。

目次

  1. エグゼクティブサマリー
  2. 法源と保護対象(PatGの構造)
  3. 出願ルートの選択(DPMA/EP/PCT)
  4. DPMA国内出願の実務
  5. EPルートとロンドン協定
  6. PCT→DE/PCT→EPの使い分け
  7. 公的費用の概算
  8. 異議・無効・取消し(DPMA/EPO/BPatG)
  9. 侵害訴訟と二元構造(bifurcation)
  10. 仮処分と証拠収集(Phoenix Contact後)
  11. 単一効特許/UPCとの関係
  12. 重要判例と日本企業向けチェックリスト

1. エグゼクティブサマリー

ドイツの特許制度は、ドイツ国内特許(DPMAルート)欧州特許(EPOルート)でドイツに効力を及ぼす特許、そして欧州単一効特許とUPC体制が並存する、実務上きわめて立体的な制度です。現在のドイツ案件では、「どのルートで権利化するか」「無効・侵害をどのフォーラムで戦うか」を最初に設計しないと、後工程でコストも裁判戦略も大きくぶれます。

ドイツ特許実務で押さえるべき4つのポイント

  1. ルート選択は「DPMA/EP/PCT→DE/PCT→EP」の4軸。ドイツ単国注力なら国内出願、欧州広域ならEP、国選択を後送りしたいならPCT
  2. 付与後9か月の異議窓口はDPMA(国内特許)/EPO(欧州特許)。それ以降の第三者攻撃はBPatGの無効訴訟(PatG §81)
  3. 侵害は12の地方裁判所(中核:デュッセルドルフ/マンハイム/ミュンヘン)、無効はBPatG。bifurcationを前提に戦略立案
  4. 2023年6月開始の単一効特許/UPC。opt-outで従来の国内ルート維持も可能。ドイツ国内特許との二重保護も実務的選択肢

2. 法源と保護対象(PatGの構造)

主要法令

ドイツ特許制度の中心法令は特許法(Patentgesetz, PatG)で、WIPO Lexの立法記録上、現行法令データは2024年12月20日までの改正を反映しています。これに加え、欧州特許条約(EPC)UPCA(統一特許裁判所協定)、関連する民事訴訟法・特許費用法(PatKostG)・裁判所構成法が運用面を補完します。

保護対象と除外(PatG §1)

PatG §1により、特許は「すべての技術分野の発明」について付与され、新規性・進歩性・産業上利用可能性が必要です。除外対象として、発見・科学理論・数学的方法、審美的創作、精神的活動/ゲーム/事業方法の計画・規則・方法、コンピュータ・プログラム、情報の提示が「as such」として発明から除外されます。さらに、公序良俗違反、人クローン化、人胚の産業的・商業的利用、植物・動物品種・本質的に生物学的な生産方法、人体・動物体の手術/治療/診断方法も除外です。

注意:「コンピュータ・プログラムas such」は除外ですが、技術的効果を伴う発明としてクレーム化すれば実務上は許容されます。ソフトウェア・AI発明では、装置・方法・データ処理の「技術的性質」を明示するドラフティングが必須です。

権利の内容(PatG §9以下)

特許権者は、特許製品の製造・譲渡の申出・流通・使用・輸入・所持、特許方法の使用・使用の申出、当該方法により直接得られた物の譲渡等を独占します。PatG §10は発明の本質的要素に関する手段を供給する間接侵害を規制。§11は私的・非商業目的、実験目的、育種、医薬品承認試験(Bolar例外)等の例外を、§12は先使用権を、§13は公共の福祉・安全保障上の使用命令を定めます。

3. 出願ルートの選択(DPMA/EP/PCT)

ドイツ向けの主なルートは国内出願(DPMA)/欧州特許出願(EPO)/PCT出願からの国内・欧州移行の三系統です。実務感覚としては、単国重視なら国内出願、ドイツを中核としつつ周辺国展開ならEP、国選択を先延ばししたいならPCTが基本線です。

ルート 主体庁 主要期限・特徴 ドイツでの効果
国内出願DPMA出願→18か月で公開、審査請求は7年以内ドイツ国内のみ
EP直接出願EPOEPC一元審査、異議は付与公告から9か月ドイツ指定で効力。独訳不要(ロンドン協定)
PCT→DEWIPO/DPMA31か月以内に国内段階移行、翻訳・手数料・審査請求必要ドイツ国内特許として処理
PCT→EPWIPO/EPO31か月以内に欧州段階、early processing・PACEも利用可EPとしてドイツ含む複数国展開可

戦略ポイント:EPルートは付与後ドイツでの翻訳不要(ロンドン協定2008年5月加盟)でコスト面でも有利。複数国展開なら原則EPが第一選択。ドイツ「単国」深掘りや、低コスト早期権利化を狙うならDPMA国内出願も依然有力です。

3ルートの全体フロー

優先日確保後の3ルートとドイツでの効力発生までの流れを下図に示します。

発明完成 優先日を確保 DPMA国内出願 ドイツ国内ルート EP直接出願 EPCルート PCT国際出願 国際出願ルート 方式審査 EPO検索 国際段階 18か月で公開 審査 31か月以内に分岐 (DE or EP) 7年以内に審査請求 付与 付与 / 拒絶 DE国内段階 EP地域段階 ドイツで効力発生 単一効特許(UP)の請求も検討 付与公告から1か月以内 DPMA審査 EPO審査 凡例 DPMA国内ルート(ドイツ単国・低コスト) EP直接ルート(EPC一元審査・ロンドン協定で独訳不要) PCTルート(31か月で国・地域選択を確定) ドイツでの効力発生 2023年6月以降の選択肢:単一効特許/UPC

図解のポイント:優先日確保後、「DPMA国内」「EP直接」「PCT」のいずれを選んでも、最終的にドイツで効力を発生させることが目標。EP付与後は単一効特許(UP)の請求も検討対象に。PCTは31か月で「DE国内段階」or「EP地域段階」に分岐します。

4. DPMA国内出願の実務

必要書類と方式

PatG §34により、出願人の表示、特許付与願書、請求項、発明の説明、図面が必要です。発明は当業者が実施できる程度に明確・十分に開示されていなければならず(実施可能要件)、1発明又は単一の一般的発明概念で結び付けられた発明群に限定(単一性)。補正は原出願の開示を超えられない(新規事項追加禁止)ため、原始記載の厚みが後工程を左右します。

標準フロー

① 出願(DPMA電子出願)

② 予備審査(方式・明白拒絶理由)

③ 出願公開(18か月)

④ 検索請求(任意・300ユーロ)

⑤ 審査請求(7年以内)

⑥ 実体審査・OA応答

⑦ 付与公告

⑧ 異議(9か月)/年金(3年目〜)

出願公開後の補償請求

出願公開後、第三者が出願発明を知りつつ利用した場合、出願人は「事情に照らして相当な補償」を請求できます。本格的な差止・損害賠償は付与後ですが、警告書による交渉圧力には十分な根拠となります。

5. EPルートとロンドン協定

EPOルートでは、出願・審査はEPCに基づく一元手続です。EPO現行費用表(2026年4月1日以降)では、オンライン出願料135ユーロ、検索料1,595ユーロ、指定料720ユーロ、審査料2,010ユーロ(請求項16項超で2,240ユーロ)、付与・公告料1,135ユーロが基本。クレーム16項超・35頁超で追加料金が発生します。

ロンドン協定の効果(実務コスト直結)

ドイツはロンドン協定加盟国であり、2008年5月1日以降に付与公告された欧州特許については、通常、ドイツでの翻訳提出は不要です。EP指定でドイツに効力を及ぼす際の翻訳費用ゼロは、複数国展開戦略におけるドイツの相対的魅力を高めています。

欧州特許がドイツ指定で付与されると、DPMAの整理によれば、その特許はドイツでは国内特許と同じ効力を持ち、執行・無効は原則ドイツ法・ドイツ裁判所で扱われます(UPC opt-outしない場合はUPC管轄)。欧州特許制度の実務ガイドもあわせてご参照ください。

6. PCT→DE/PCT→EPの使い分け

31か月期限とドイツ国内段階

DPMAのPCT案内によれば、PCTは束(bundle)出願であり、国際段階の後、31か月以内に各指定官庁で国内又は地域段階へ入る必要があります。ドイツ国内段階移行では、出願料60ユーロ+審査料150ユーロ又は350ユーロ+年金が必要で、31か月以内に出願料が納付されなければドイツでの効力を失います。

early processing と PACE

早期処理の2つの制度を混同しないこと

  • Early processing:EPO地域段階の前倒し開始(31か月前でも進行)。効力発生には欧州段階要件の充足が必要
  • PACE:EPO審査の処理速度加速。Form 1005のオンライン申請で、次の公式アクションを概ね3か月以内

両者は別制度。実務では「早く始めたい」のか「早く進めたい」のかを区別して選択します。PCT国際特許出願もご参照ください。

7. 公的費用の概算

以下は公的費用ベースの代表値です(弁護士・弁理士報酬、翻訳、外部先行技術調査、口頭審理対応費用を除く)。公的費用は氷山の一角で、特に無効・侵害では専門家費用が支配的です。

手続 代表的公的費用 コメント
DPMA国内出願40ユーロ(電子、10請求項まで)紙60ユーロ。11項目以降は加算
DPMA検索請求300ユーロ任意。早期見通しに有効
DPMA審査請求350ユーロ(検索なし)/150ユーロ(検索後)7年以内
DPMA年金3年目70、4年目70、5年目100、6年目150ユーロ納付通知なし。遅延加算50ユーロ
DPMA異議200ユーロ付与公告から9か月以内
EPO直接出願出願135/検索1,595/指定720/審査2,010-2,240/付与1,135ユーロ請求項・頁加算別途
PCT国際段階約3,081ユーロ(電子XML)/3,403ユーロ(紙)DPMA受理官庁・EPO調査例
PCT→DE国内段階60ユーロ+審査150/350ユーロ+年金31か月期限厳守

ライセンス・オブ・ライト(PatG §23):誰にでもライセンスする意思表示をした場合、年金が半額に。薄い重要度のファミリーを長く維持する場合や、交渉上のメッセージ発信に活用余地あり。

8. 異議・無効・取消し(DPMA/EPO/BPatG)

フォーラムの切替え:付与公告日が基準

攻撃対象 付与から9か月以内 9か月経過後
DPMA国内特許DPMA異議(特許部合議体)BPatG無効訴訟(PatG §81)
欧州特許(DE指定)EPO異議(全締約国一括)BPatG無効訴訟(DE部分)

外国クライアントが誤解しがちな点:「DPMAの無効審判」と呼ばれる手続はありません。第三者による無効攻撃の中心はBPatG(連邦特許裁判所)への無効訴訟です。DPMAが扱うのは付与後9か月の異議までです。PatG §81(2)により、異議申立期間中・異議係属中は無効訴訟を提起できない点にも注意。

BPatG無効部の構成

BPatGは2025年4月1日時点で6つの無効部(Nullity Boards)を有し、法律家裁判官と技術裁判官の混成パネルで審理します。対象は登録済みの国内特許、ドイツに効力を有する欧州特許、SPC(補充的保護証明書)。判決の上訴先はBGH(連邦通常裁判所)。技術的専門性は、侵害事件での停止判断や和解圧力にも強く影響します。

EPO異議の戦略的価値

欧州特許については、付与公告から9か月以内にEPOへ異議申立てが可能。理由は特許性欠如(EPC 52-57条)/実施可能要件違反/新規事項追加に限定。結果は維持・訂正維持・取消し指定された全締約国について一括で効力を持つため、複数国を束ねて潰したい場合の費用対効果が極めて高いです。

9. 侵害訴訟と二元構造(bifurcation)

侵害トラックと無効トラックの全体図

権利者側の侵害ルート(上段:地方裁判所→高等裁判所→BGH)と、被疑侵害者側の無効ルート(下段:BPatG→BGH)が並行進行し、最終的にBGHに収斂します。

侵害トラック(権利者側) 無効トラック(被疑侵害者側) 特許権者 Patent Holder 侵害訴訟 地方裁判所 デュッセルドルフ/マンハイム/ミュンヘン 控訴 高等裁判所(OLG) Berufung 上告審 連邦通常裁判所(BGH) 許可制 被疑侵害者 Alleged Infringer 無効訴訟 連邦特許裁判所(BPatG) 無効部(6 Nullity Boards) 控訴 / Berufung 連邦通常裁判所(BGH) 無効事件の控訴審 侵害訴訟の停止申立 有効性に高い疑義があれば 最終的な有効性判断 BGHで両トラックが収斂 凡例 侵害ルート(民事・刑事) 無効ルート(BPatG専属) BGH(最終審) 並行進行による相互作用(停止判断・最終収斂)

図解のポイント:侵害訴訟と無効訴訟は別フォーラム・別審級で並行進行し、BGH(連邦通常裁判所)で両トラックが収斂します。被告は侵害訴訟で無効抗弁を本案判断してもらえないため、BPatGに無効訴訟を併行提起し、有効性の疑義が高ければ侵害裁判所に停止申立てを行うのが定石です。

分離管轄の原則

ドイツは典型的な分離管轄(bifurcation)です。侵害訴訟はPatG §143により地方裁判所の専属管轄で、12の地方裁判所が特許侵害事件を扱います。実務の中心はデュッセルドルフ、マンハイム、ミュンヘン。無効訴訟はBPatGの専属管轄。被告は侵害訴訟で無効抗弁を本案判断してもらえず、並行してBPatGへ無効訴訟を提起し、侵害裁判所に停止を求める流れです。

二元構造の戦略的含意

  • 権利者側:先行差止めの優位を活かす。訴訟提起前に有効性資料を厚く揃える
  • 被告側:無効の別トラックを活用。無効訴訟の同時提起と停止主張を原則化
  • 侵害裁判所の停止判断:相手方無効主張の見込みが高ければ停止される。EPO異議部の取消判断は強い停止材料

救済(PatG §139以下)

特許権者には差止め・損害賠償・情報提供・文書提出・検証・回収・除去・廃棄等の救済が認められます。損害賠償は侵害者利益・仮想ライセンス料(reasonable royalty)・逸失利益の三本柱。新規物の製造方法発明では、同一製品は反証なき限り特許方法により生産されたものと推定されます(立証転換)。

2021年改正の比例性抗弁:PatG §139(1)は、差止めが個別事情と信義則に照らして「不相当な過酷さ」を生じる場合に例外的に排除され得るとし、金銭補償を認めます。ただし通常事件で簡単に通るものではなく、差止めは依然としてドイツ特許訴訟の中核救済です。

10. 仮処分と証拠収集(Phoenix Contact後)

仮処分の現状

ドイツ特許仮処分では、侵害論だけでなく有効性の疎明が最難所です。従来は、特許が少なくとも第一審の異議又は無効手続を有利に通過していることを求める傾向にありました。Phoenix Contact(CJEU C-44/21, 2022)は、知財執行指令9条1項が「有効性確認の第一審判断がないことのみを理由に仮処分を一般的に拒む国家判例法を許さない」と示しました。

Phoenix Contact後の運用:デュッセルドルフ高裁2023年2月23日判決(2 U 121/22)は、Phoenix Contact後でも、EPO異議部が実質的に同内容の母特許を取消している事情を重視し、有効性が十分に担保されていないとして仮処分を否定。「形式的門前払いの修正」であって「緩い仮処分への転換」ではありません。有効性資料が薄い特許の仮処分は依然として危険です。

証拠収集(PatG §140b〜§140d)

ドイツは米国型ディスカバリーを採りませんが、出所・流通経路の情報請求、文書提出・物件検証、銀行・商業文書へのアクセスが可能。裁判所は秘密情報保護措置を講じつつ仮処分でも命令可。製造方法特許・ブラックボックス製品では「デュッセルドルフ検証手続」が発達しており、警告書より前に証拠保全を仕掛ける発想が重要です。

11. 単一効特許/UPCとの関係

2023年6月1日以降、欧州特許は付与後1か月以内に単一効を請求することでUnitary Patent(単一効特許)となり、対応する訴訟はUPC(統一特許裁判所)が扱います。従来型の欧州特許については、移行期間中、opt-outによりUPC専属管轄から外す選択が可能です。

権利種別 訴訟フォーラム 特徴・リスク
DPMA国内特許ドイツ国内裁判所(地裁+BPatG)伝統的bifurcation。ドイツ単国
EP(opt-outあり)従来通り各国国内裁判所UPC回避。各国別訴訟
EP(opt-outなし)UPCも管轄(並行可能)中央取消リスクあり
単一効特許(UP)UPC専属17加盟国一体で差止/中央取消で全失効

二重保護の活用:DPMAは、UPCA発効後、ドイツ国内特許と欧州特許/単一効特許の二重保護が一定条件下で可能と明示。権利網を多層化できる一方、「二重取り」への制約もあるため、件数増よりも戦略的な使い分けが肝要です。

12. 重要判例と日本企業向けチェックリスト

主要判例

事件 要旨 実務的含意
Okklusionsvorrichtung
BGH X ZR 16/09 (2011)
請求項と明細書が矛盾する場合、請求項に現れていない明細書の要素は原則として保護範囲に取り込まれない「明細書に書いたから守られる」ではなく「請求項に落ちて初めて守られる」。実施形態の核を請求項に吸い上げる
Pemetrexed
BGH X ZR 29/15 (2016)
塩・変形態様であっても同等作用・容易想到・排除意思の不存在で均等侵害成立可能均等論は広いが、Okklusionsvorrichtungとの関係でドラフティングの失敗を全面救済しない
Raltegravir
BGH X ZB 2/17 (2017)
HIV薬で患者群の依存性・他剤切替の重い不利益を理由に仮の強制実施権を例外的に肯定医薬・公衆衛生領域では強制実施権リスクもゼロではない
Phoenix Contact
CJEU C-44/21 (2022)
第一審有効性判断未了のみを理由とする仮処分一般拒絶は許されない運用は形式的門前払いの修正。有効性疎明の重要性は不変

日本企業向けチェックリスト

出願前(Pre-filing)

  • ルート選択を案件の市場戦略(ドイツ単国/欧州広域/UPC活用)から逆算
  • クレームに本質的構成要件を落とし切る(Okklusionsvorrichtung対策)
  • 塩・異性体・用量・工程パラメータ・実装代替を多層に請求項化
  • ソフトウェア・AI発明は「技術的性質」を明示

出願中(Prosecution)

  • DPMA:検索請求で審査料を150ユーロに圧縮、審査請求期限7年を最大活用
  • EPO:早期検討にearly processing、加速にPACEを使い分け
  • PCT:31か月の直前で慌てて市場評価を始めない
  • UPC opt-outの可否を権利化段階で決定

権利行使(Enforcement)

  • 権利者:仮処分前にEPO/DPMAでの有効性支援材料を積み上げ
  • 権利者:侵害管轄はデュッセルドルフ/マンハイム/ミュンヘンから選定
  • 被告:警告書受領でBPatG無効訴訟の準備を即時着手、停止主張を原則化
  • 被告:EPO異議部の取消判断は侵害訴訟停止の強い材料

権利維持(Maintenance)

  • DPMA年金は3年目から(納付通知なし。権利者責任で期限管理
  • 遅延加算50ユーロ、無加算2か月+遅延加算付き4か月の猶予
  • ライセンス・オブ・ライト(PatG §23)で年金半額の選択肢

まとめ

ドイツ特許制度は、PatGを中核とした国内出願ルート、EPCに基づく欧州特許、2023年開始の単一効特許/UPC体制が並存する立体的構造です。日本企業の成功の鍵は、出願段階でのルート設計と、侵害(地方裁判所)/無効(BPatG)の二元構造を前提とした訴訟戦略、そして有効性資料の早期積み上げにあります。PCT国際特許出願特許出願サービスもあわせてご覧ください。

ドイツ特許出願のご相談

EVORIX国際特許事務所は、ドイツを含む欧州主要国への特許出願・権利行使を幅広くサポートしています。DPMA国内ルート・EP・PCT・単一効特許の選択、BPatG無効訴訟、ドイツ地方裁判所での侵害対応まで、現地代理人と連携した実務経験豊富な弁理士がご対応します。

お問い合わせフォームへ → ご相談の流れを見る

出典・参考資料

▼ 一次法令

  • Patentgesetz (PatG)(ドイツ特許法・2024年12月20日改正反映)
  • Patentkostengesetz (PatKostG)(特許費用法)
  • European Patent Convention (EPC)(欧州特許条約)
  • Unified Patent Court Agreement (UPCA)(統一特許裁判所協定)
  • 知財執行指令 2004/48/EC

▼ DPMA(ドイツ特許商標庁)公式

▼ EPO(欧州特許庁)公式

▼ BPatG(連邦特許裁判所)公式

▼ WIPO(世界知的所有権機関)

▼ 主要判例(公式PDF・データベース)

※本記事は2026年5月時点の上記一次資料・公式情報を基に、一般的な情報提供を目的として作成されています。費用・期限・運用は随時改定されるため、最新情報については一次資料および専門家への確認を推奨します。個別案件の具体的判断には、現地代理人を含む専門家へのご相談を推奨します。