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弁理士への特許相談、何を準備すればいい?IT・システム発明の伝え方と「発明説明シート」テンプレート【無料ダウンロード】

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/07/19

リード:準備ゼロでも相談はできる。でも「10項目」を埋めていくと初回相談の密度は大きく変わる

「弁理士に特許の相談をしたいが、何を持っていけばいいのか分からない」「まだアイデア段階だが、話してもいいのか」「NDA(秘密保持契約)を結ばずに発明の中身を話して大丈夫なのか」──初めて特許相談を検討するIT企業・開発者の方から決まっていただく3つの質問に、この記事でまとめてお答えします。あわせて、当所がIT・システム発明のご相談用に作成した「発明説明シート」(Word・無料ダウンロード)をご用意しました。すべて埋まらなくても大丈夫です。埋まらない項目こそ、相談で一緒に整理すべきポイントだからです。

この記事の要点

  • 弁理士への相談にNDAは不要(弁理士法30条の法定守秘義務+刑事罰の裏付けがある)
  • 弁理士に話しても発明の新規性は失われない(特許法29条・審査基準の「公然知られた」の解釈)
  • 準備は10項目の発明説明シート(Word・無料DL)を埋められる範囲で。全部埋まらなくてOK
  • やってはいけないのは唯一、出願前に守秘義務のない相手へ公開すること

目次

  1. NDAは必要?──弁理士には法律上の守秘義務がある
  2. 弁理士に話しても発明の「新規性」は失われない法的根拠
  3. 相談前に整理したい10項目(発明説明シートの中身)
  4. 発明説明シートのダウンロード
  5. 相談前に「やってはいけない」たった一つのこと
  6. 記入例:架空のSaaS発明でシートを埋めてみる
  7. 初回相談30分はこう進む──当日の流れ
  8. もったいない相談3パターン(NG集)
  9. 相談のあとはどうなる?──見積もり→委任→着手
  10. よくある質問(アイデア段階/開発途中/相見積もり ほか)

1. NDAは必要?──弁理士には法律上の守秘義務がある

結論から言うと、弁理士への相談にNDAは不要です。弁理士は契約の有無にかかわらず、法律上当然に守秘義務を負っているからです。

「弁理士又は弁理士であった者は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。」

──弁理士法第30条(秘密を守る義務)。出典:e-Gov法令検索(弁理士法)

この義務は弁理士本人だけでなく、事務所の職員など「使用人その他の従業者」にも及びます(弁理士法77条)。しかも違反には刑事罰(6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金。弁理士法80条)が用意されています。つまり弁理士事務所は、組織として法律で秘密保持を義務づけられた相談窓口です。「アイデアを盗まれないか」という心配は、少なくとも弁理士への相談に関しては制度的に手当てされています。

2. 弁理士に話しても発明の「新規性」は失われない法的根拠

もう一つの不安が「出願前に人に話したら新規性がなくなるのでは?」という点です。特許法29条1項1号は、出願前に「公然知られた発明」は特許を受けられないと定めています。ここでいう「公然知られた発明」について、特許庁の審査基準は「不特定の者に秘密でないものとしてその内容が知られた発明」と定義しています(特許・実用新案審査基準 第III部第2章第3節)。

弁理士は前章のとおり法律上の守秘義務を負うため、弁理士に発明の内容を開示しても「秘密でないものとして知られた」ことにはならず、新規性は失われません。安心して、出願前のなるべく早い段階でご相談ください。むしろ危険なのは、SNS・プレスリリース・展示会・営業先へのデモなど、守秘義務のない相手への出願前の公開のほうです(第5章)。

3. 相談前に整理したい10項目(発明説明シートの中身)

IT・システム発明の相談で弁理士が知りたいことは、突き詰めると「何が課題で」「どう解決していて」「従来と何が違うのか」の3点です。当所の発明説明シートは、これを次の10項目に分解しています。

項目書き方のコツ
1. 発明の名称(仮)ひとことで。「在庫予測システムのアルゴリズム改良」程度でOK
2. 解決したい課題誰の・どんな不便/コスト/リスクか。従来のやり方の何が困るか
3. 解決のしくみ何を入力し、どう処理し、何を出力するか。箇条書きで十分
4. システム構成・処理の流れサーバー/クライアント/外部API/DBの構成と処理ステップ。手書きの図で十分価値があります
5. 従来技術・競合との違いいちばん近い既存のもの(自社旧製品・競合・論文)と、どこが違うか
6. 工夫した点・効果速い・精度が高い・通信量が少ない等。数値があれば理想(なくても可)
7. バリエーション・変形例別の実装方法、他業種への適用など。権利範囲を広げる材料になります
8. 公開の予定・実績(最重要)リリース日・プレスリリース・展示会・デモ・SNS投稿の日付。既に公開済みの場合も必ず記載(救済の可否判断に直結)
9. 開発状況構想/プロトタイプ/開発中/リリース済み
10. 出願を急ぐ事情資金調達・展示会・競合の動き。スケジュール設計(早期審査の要否)に使います

特にIT発明では、4(処理の流れ)と5(従来との違い)が権利化の成否を左右します。「どこが発明なのか分からない」という状態でも問題ありません。開発の経緯を伺いながら、特許になり得るポイントを弁理士側で見つけるのが初回相談の仕事です。

4. 発明説明シートのダウンロード

発明説明シート(IT・システム発明用/Word形式)

上記10項目をそのまま記入できるテンプレートです。登録不要でダウンロードできます。

📄 発明説明シートをダウンロード(.docx)

5. 相談前に「やってはいけない」たった一つのこと

出願前に、守秘義務のない相手へ発明内容を公開しないでください。プレスリリース、SNS投稿、展示会出展、クラウドファンディング、営業先への資料配布・デモは、いずれも新規性を失わせる可能性があります。

もし既に公開してしまった場合も、あきらめる前にご相談ください。日本には公開から1年以内であれば救済され得る「新規性喪失の例外」の制度があります(適用には出願と同時の意思表示と出願から30日以内の証明書提出が必要で、外国出願では救済されない国もあるなど重要な制約があります)。詳しくは新規性喪失の例外規定の解説記事をご覧ください。リリース日が決まっている場合の出願スケジュールの組み方は、出願の流れ完全ガイドで解説しています。

6. 記入例:架空のSaaS発明でシートを埋めてみる

「書き方のコツ」だけではイメージしにくいので、架空の在庫管理SaaSを題材にした記入例をお見せします。この粒度で十分です。

項目記入例(架空の在庫管理SaaS)
1. 発明の名称(仮)天候データを使った小売店の発注量自動提案
2. 解決したい課題店長の勘に頼った発注で、雨の日の廃棄ロスと晴れの日の欠品が多い
3. 解決のしくみ・POSの販売実績+気象予報APIのデータを入力
・商品カテゴリごとに天候の影響度を算出
・翌週の推奨発注量を画面に表示
4. システム構成・処理の流れ店舗端末→自社サーバー(販売DB+影響度算出バッチ)→気象API。手描きの構成図を別紙添付
5. 従来技術・競合との違い既存の発注支援は過去実績のみ。天候影響度を商品カテゴリ別に持つ点が違う(近い競合: ○○社の需要予測)
6. 工夫した点・効果導入店舗のテストで廃棄ロスが減った(数値は測定中)
8. 公開の予定・実績10月の展示会に出展予定。プレスリリースは9月末/現在は2店舗でクローズドβ(NDAあり)
10. 出願を急ぐ事情展示会前に出願を済ませたい。年内にシリーズAの調達予定

ポイントは3つ。①「3. 解決のしくみ」は箇条書き3行で足りる、②「5. 従来との違い」はいちばん近いもの1つと比べれば十分、③「8. 公開の予定」に展示会とプレスリリースの日付が書いてあることで、弁理士側は出願期限から逆算したスケジュールを初回相談の場で示せます。7(変形例)や9(開発状況)が空欄でも、相談の中で一緒に埋めていけます。

7. 初回相談30分はこう進む──当日の流れ

初回相談(30分〜1時間・オンライン可)の標準的な進み方です。事前にシートがあると①②が短縮でき、その分④⑤に時間を使えます。

段階内容
①ヒアリング(10分)課題・しくみ・従来との違いを伺う。デモ画面を見せていただけると最速です
②発明ポイントの仮特定(5分)弁理士側から「特許になり得るのはこの部分」という仮説を提示
③公開スケジュールの確認(5分)リリース・展示会・発表の予定を確認し、出願期限を設定
④進め方と費用の説明(5分)調査の要否、出願までの工程、概算費用(減免の該当確認を含む)
⑤質疑(残り時間)実用新案との比較、秘匿との使い分け、海外展開など何でも

8. もったいない相談3パターン(NG集)

NG①:資料を「全部」持ってくる

仕様書300ページや全ソースコードは初回相談では読み切れません。必要なのは「課題・しくみ・違い」が分かる数枚です。詳細資料は方針が決まってから、必要な範囲でお預かりします。

NG②:「特許になりますか?」だけを聞く

なる/ならないの二択で答えられる発明はまれで、実際は「この構成に絞れば可能性がある」という段階的な答えになります。「どこをどう出せば事業の守りになるか」を一緒に探す場だと捉えていただくと、相談の価値が最大化します。

NG③:公開ギリギリに駆け込む(それでも来てください)

リリース前日のご相談では打てる手が限られます。理想は公開の2〜3か月前です。ただし、ギリギリでも「守る範囲を絞った先行出願」など打てる手はありますし、公開後でも1年以内なら救済の可能性があります。手遅れと自己判断して相談しないのが一番もったいないパターンです。

9. 相談のあとはどうなる?──見積もり→委任→着手

初回相談の後は、①発明の骨子と進め方を整理した見積もりのご提示(この時点まで費用はかかりません)、②内容にご納得いただけたら委任契約、③先行技術調査・明細書作成に着手、という流れです。相談したら依頼しなければならない、ということは一切ありません。相見積もりの取り方や費用の内訳の見方は費用解説記事を、出願後の全体像は出願の流れ完全ガイドをご覧ください。

10. よくある質問(FAQ)

Q1. まだ頭の中のアイデア段階です。相談してもいいですか?

A. はい。特許出願に試作品や完成したコードは必須ではなく、処理のしくみが具体的に説明できれば出願できる場合があります。逆に、アイデアが抽象的なままだと出願できないこともあり、その線引きの見極めこそ相談の価値です。

Q2. 開発途中で仕様が変わりそうです。出願のタイミングは?

A. 特許は先に出願した者が優先される先願主義です。核となるしくみが固まった段階で早めに出願し、改良分は後続の出願でカバーする組み立てが一般的です。リリース日・資金調達・展示会の予定から逆算して計画します。

Q3. 複数の事務所に相見積もりを取っても失礼になりませんか?

A. なりません。費用だけでなく、IT分野の出願経験や、質問の的確さ(発明の本質を素早く掴んでくれるか)を見比べることをおすすめします。費用の内訳の見方はソフトウェア・システム特許の費用解説記事を参考にしてください。

Q4. 相談はオンラインでもできますか?地方の会社でも大丈夫?

A. 可能です。特許出願の手続は全国どこからでも電子で完結するため、事務所の所在地と出願人の所在地が離れていても支障はありません。画面共有でデモを見せていただけるオンライン相談は、IT発明とはむしろ相性が良い方法です。

Q5. 経営者だけで相談すべきですか?開発者も同席したほうがいい?

A. 可能であれば、しくみを説明できる開発担当の方の同席をおすすめします。発明のポイントは「どう実装したか」の中に眠っていることが多く、開発者との30分の会話で出願候補が増えることも珍しくありません。難しければ、シートの3・4(しくみ・構成)を開発者に書いてもらうだけでも効果があります。

Q6. 相談したら必ず依頼しないといけませんか?費用はいつから発生しますか?

A. 依頼の義務はありません。当所の場合、初回相談から見積もりのご提示までは費用がかからず、費用が発生するのは委任契約の後です(費用の発生タイミングは事務所により異なるため、他所に相談する場合は最初にご確認ください)。

Q7. アイデアが複数あります。まとめて相談できますか?

A. できます。むしろ複数まとめてご相談いただくと、「どれから出願すべきか」の優先順位付け(事業インパクト×権利化可能性×公開時期のマトリクス)ができるため、限られた予算の使い方として合理的です。シートは発明ごとに1枚ずつご記入ください。

IT・ソフトウェア特許の初回相談:発明説明シート(埋まっている範囲で結構です)を添えて知財事務所エボリクスのお問い合わせフォームからお送りください。シートなしのご相談ももちろん歓迎です。

この記事の監修

弁理士 杉浦健文(日本弁理士会 登録第19446号/知的財産事務所EVORIX)。IT・ソフトウェア・AI分野の特許出願を中心に扱い、AI関連発明の特許化をテーマとするセミナー講師の実績があります。本記事の法令・審査基準の記載は公表されている一次資料に基づいています。

【免責事項】本記事は2026年7月18日時点の法令(弁理士法・特許法)・特許庁審査基準等に基づく一般的な解説であり、法的助言ではありません(2026年7月19日増補)。個別の事案については、公開の有無・時期等の事実関係により結論が異なります。記入例は架空の事例です。