スロベニアは面積2万273平方キロメートル(四国とほぼ同じ)、人口約212万人、GDP約730億米ドル、1人当たりGDP約3万4,000米ドル(2024年、世界銀行)の中欧の小国で、2004年のEU・NATO加盟、2007年のユーロ導入とシェンゲン加入を経て、医薬品(Krka、Novartis傘下のLek)、自動車部品、電気機器、金属加工を柱に輸出の約9割を欧州向けが占める製造業国です。日本との関係では、2016年に安川電機が産業用ロボットの欧州製造拠点を設置し、関西ペイントが塗料大手ヘリオスを買収するなど日本企業の投資が増え、2025年の日本からの輸出は約336億円、スロベニアからの輸入は約1,193億円(医薬品、機械)に達します。在留邦人は181人と少ないものの、医薬品、ロボット、自動車部品、塗料、観光の分野でスロベニアでの商標保護の相談が増えています。
スロベニアの商標制度は、特許・意匠・商標・地理的表示を一本の法律にまとめた産業財産法(Zakon o industrijski lastnini、ZIL-1、2001年制定)に基づき、リュブリャナにあるスロベニア知的財産庁(Urad RS za intelektualno lastnino、URSIL)が登録します。2020年3月のEU商標指令対応改正(ZIL-1E)で異議手続に使用証明の要求が導入され、2023年7月27日施行の改正(ZIL-1F)で、それまでリュブリャナ地方裁判所の訴訟だった不使用取消と無効が知的財産庁の行政手続(手数料500ユーロ)に移管されました。庁は絶対的理由のみを審査し、先行商標との抵触は公告から3か月以内の異議に委ねます。手数料は出願100ユーロ(3区分まで、電子出願は80ユーロ)+登録150ユーロ(3区分まで、最初の10年分を含む)で、存続期間は出願日から10年、不使用取消は登録から5年です。侵害訴訟はリュブリャナ地方裁判所(Okrožno sodišče v Ljubljani)が全国を専属管轄し、庁の決定に対する争いは行政裁判所に提起します。本記事では、産業財産法の現行統合版(PIS、2025年12月1日適用版)、知的財産庁の手数料令(2023年)と手続案内、裁判所法、刑法、財務管理庁(FURS)の2025年年次報告、知的財産庁の2025年事業報告、WIPOの加盟情報と統計、外務省のデータを一次資料として、出願から異議・取消・権利行使・EUTMとの使い分けまでを弁理士が実務目線で整理します。
この記事のポイント
目次
スロベニアの商標制度の根拠法は、2001年の産業財産法(Zakon o industrijski lastnini、略称ZIL-1、2001年12月8日施行)です。特許、補充的保護証明書、意匠、商標、地理的表示を一本の法律で規律し、商標については第42条以下の実体規定、第99〜103条の審査・異議・登録手続、第110a〜110d条の取消・無効手続、第120a〜124c条の権利行使、第128〜132条の代理を定めています。主な改正は、2006年(ZIL-1C、EU加盟後の整備)、2020年3月29日施行のZIL-1E(EU商標指令2015/2436の国内法化。図で表せることの要件廃止、異議手続での使用証明の要求、通過貨物に対する権利、準備行為の禁止など)、2023年7月27日施行のZIL-1F(取消・無効手続を裁判所から知的財産庁へ移管、EU商標の名声はEU全体で判断、委任状の電子提出、手続続行の期間短縮)、2025年のZIL-1G(工芸品・工業製品の地理的表示に関するEU規則への対応)で、法令ポータルPISの非公式統合版第10版(2025年12月1日適用)が現行条文です。
管轄官庁は、経済・労働・スポーツ省の外局として独立して職務を行うスロベニア知的財産庁(Urad Republike Slovenije za intelektualno lastnino、URSIL、英語表記SIPO)で、リュブリャナのコトニコヴァ通り6番地に置かれ、産業財産権のほか著作権の集中管理団体の監督も所管します。商標部門(商標・意匠課)は9人体制で、2025年はすべての申請を法定期間内に処理し、未処理の滞貨はゼロでした(2025年事業報告)。庁は絶対的理由のみを審査し、先行商標との抵触は公告後3か月の異議で判断します。2023年7月からは不使用取消と無効の請求も庁が審理し、庁の決定には行政上の不服申立てがなく、行政裁判所(Upravno sodišče RS)への提訴で争います。侵害訴訟はリュブリャナ地方裁判所が全国の知的財産紛争を一元的に扱います(裁判所法第103条)。スロベニアはEU加盟国としてEU商標(EUTM)の効力が及び、マドリッド協定(1991年6月25日の独立時に承継)とマドリッド議定書(1998年3月12日発効)の加盟国でもあるため、国内出願、EUTM、マドプロの3ルートで保護できます。
| 項目 | スロベニアの制度(根拠条文) |
|---|---|
| 根拠法 | 産業財産法ZIL-1(2001年施行)。ZIL-1E(2020年3月29日施行、EU指令対応)、ZIL-1F(2023年7月27日施行、取消・無効を庁へ移管)、ZIL-1G(2025年)。現行統合版は2025年12月1日適用 |
| 管轄官庁 | 知的財産庁URSIL(リュブリャナ、経済・労働・スポーツ省の外局)。決定に行政上の不服申立てはなく、行政裁判所へ30日以内に提訴 |
| 審査の範囲 | 絶対的理由(第42・43条)のみ職権審査(第99条)。相対的理由(第44条)は異議(第101条)または無効請求(第110d条)で主張 |
| 異議期間 | 公報(Bilten za industrijsko lastnino)での公告から3か月(第101条1項)。出願人の答弁3か月(第102条)、使用証明の要求(第102a条)、共同申請で6か月の中断(第102b条) |
| 存続期間 | 出願日から10年、10年ごとに更新(第52条)。更新料は満了前1年以内に納付、満了後6か月は50%加算(第109・110条) |
| 使用義務 | 登録から5年(第52b条)。不使用取消(第110c条)、異議・無効・侵害訴訟での使用証明要求(第102a・52c・a122a条) |
| 取消・無効 | 2023年7月27日から知的財産庁の行政手続(第110a〜110d条、500ユーロ)。侵害訴訟での反訴は裁判所(第121条4項) |
| 裁判管轄 | 侵害訴訟:リュブリャナ地方裁判所の全国専属管轄(裁判所法第103条)→リュブリャナ高等裁判所→最高裁判所。行政訴訟:行政裁判所→最高裁判所 |
| 代理人 | スロベニアに住所または実在の事業所のない外国人は、庁に登録された代理人による手続が必須(第129条)。出願行為、出願日の確定、手数料納付、優先権書類の提出は本人でも可能だが、国内の通知先住所が必要 |
| 国際条約 | パリ条約、TRIPS、マドリッド協定(1991年承継)・議定書(1998年3月12日発効)、EU商標規則(2004年5月のEU加盟以降) |
知的財産庁の2025年事業報告によると、2025年の国内商標出願は1,197件(2024年の1,095件から9%増)、登録は950件(858件から10%増)で、2025年末時点の有効な国内登録商標は24,729件です。長期的には出願件数の緩やかな減少傾向が続いており、2025年の増加だけでは傾向の転換とは言えないと庁自身が評価しています。国内の出願人ランキングでは製薬大手のKrkaが2年連続で首位(2025年33件)で、銀行、小売、保険、メディアが続きます。区分別では第35類(広告・事業管理)541件、第41類(教育・娯楽)411件、第9類(電気機器・ソフトウェア)237件、第42類(科学技術・IT)224件、第16類(紙製品)209件、第25類(被服)161件、第5類(医薬品)133件の順で、サービス業とIT、医薬品の出願が多いのが特徴です。首都圏の中央スロベニア地方が出願の45%を占めます。
| 指標(知的財産庁 2025年事業報告) | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|
| 国内商標出願(件) | 1,095 | 1,197(+9%) |
| 国内商標登録(件) | 858 | 950(+10%)。有効登録24,729件 |
| 国内商標への異議(受理/処理) | 約50/約49 | 57/61(受理+14%、処理+25%) |
| マドプロでのスロベニア指定(件) | — | 706(国際商標への異議11件) |
| スロベニア出願人の国際出願(件) | 179 | 161(−10%) |
| 取消・無効請求(受理/処理) | 17/— | 29/20(2023年は6件) |
| スロベニア出願人のEUTM登録(件) | 561 | 536(出願は+13%) |
| 更新決定(件) | — | 1,392 |
WIPOの2024年国別統計プロファイルでは、スロベニアの商標出願は区分数ベースで11,251(前年比8.4%増、世界63位)、有効登録は23,075件(世界99位)です。注目すべきは、国内出願の2倍以上がEUTMという構造で、スロベニア企業は2025年に前年比13%増のEUTM出願を行い、536件が登録されました。人口212万人の小さな市場では、スロベニア国内だけで商標を取る企業は少なく、EU全域のEUTMか、マドプロで周辺国と一括指定するのが主流です。日本企業にとっても、スロベニア単独の国内出願が必要になるのは、EUTMが先行商標との抵触で取れない商標をスロベニアだけで確保したい場合や、現地子会社の商号・製品名を早期に押さえたい場合に限られます。
産業財産法第42条は、商標を「あらゆる標識、特に姓名を含む語、図形、文字、数字、色彩、商品または包装の形状、音」から構成でき、(a)ある企業の商品・サービスを他の企業のものと識別でき、(b)庁・当局・公衆が保護対象を明確かつ正確に特定できる方法で登録簿に表示できるものと定義します。2020年改正で「図で表せること」の要件が廃止され、音商標はMP3ファイルなどで出願できます(知的財産庁の案内では1分以内・1MB以内)。登録可能性の判断では使用期間などの事情を考慮し(第42条2項)、商品の性質は登録の障害にならないとされます(同3項)。
絶対的拒絶理由(第43条1項)は、商標となり得ない標識(a)、識別力の欠如(b)、種類・品質・数量・用途・価値・原産地・製造時期などを示すのみの記述的標識(c)、慣用的になった標識(d)、商品の性質に由来する形状・技術的効果を得るために必要な形状・本質的価値を与える形状(e)、公序良俗違反(f)、性質・品質・原産地について公衆を欺く標識(g)、パリ条約6条の3の国章等(h)、公共的意義のある記章(i)、原産地呼称・地理的表示(j)、ワインの伝統的表現(k)、伝統的特産品保証(l)、先行する植物品種名(m)の13項目で、(b)〜(d)は出願日前の使用による識別力の獲得を証明すれば登録されます(同2項)。知的財産庁は方式審査の後に第42・43条の審査を行い、満たしていれば出願を公報に公告します(第99条)。公告前には誰でも絶対的理由についての意見(第三者の反対意見、第100条)を庁に提出でき、提出者は手続の当事者にはなりませんが、庁は出願人に通知して反論の機会を与えます。
相対的拒絶理由(第44条)は、第101条の異議が出された場合にのみ適用されます。(a)同一商標・同一商品、(b)同一・類似の商標と商品による混同(連想を含む)のおそれ、(c)スロベニアで名声を有する先行商標(EUTMの場合はEUでの名声)の識別力・名声の不当利用または毀損、(d)出願日前に取得された未登録標識の権利、(e)代理人・代表者による無断出願、(f)先行する原産地呼称・地理的表示、(g)氏名、肖像、著作権、その他の産業財産権などの先行権利です。「先行商標」には、スロベニアの国内登録、EUTM、スロベニアで効力を有する国際登録、これらの出願(登録を条件とする)、パリ条約6条の2の周知商標が含まれます(第44条2項)。2023年改正で、EUTMの名声はスロベニア国内ではなくEU全体で判断すると明文化され、EUTMを根拠に異議を出す日本企業にとって立証の負担が軽くなりました。
庁は先行商標を一切審査せず、通知もしません。知的財産庁の案内は、出願前に庁の有料調査サービスまたは公開データベースで先行商標を自分で確認するよう求めています。同一商標・同一商品の場合に当事者へ通知するスロバキアのような仕組みもないため、日本企業が自社商標を守るには、公報「Bilten za industrijsko lastnino」とTMviewでの定期的なウォッチングが唯一の登録前の防御手段です。異議期間を逃した場合は、第110d条の無効請求(500ユーロ)で争うことになります。
出願は知的財産庁に、電子出願システム(e-vloge)または書面(様式SIPO Z-1)で行います。出願書類には、登録請求、ニース分類に従った商品・サービスのリスト、白黒(色彩を求める場合はカラー)の標章の表示、団体商標の場合はその規約、音商標の場合は音声ファイル、出願手数料の納付証明、代理人による場合は委任状を添付します。電子出願の場合、3区分までの出願手数料が20%割引になります。出願日は、登録請求の意思、出願人を特定し連絡できる情報、標章の表示、商品・サービスの指定を含む書類が庁に届いた日に認められ、不足があれば補完した日が出願日になります。その後、方式審査、第42・43条の実体審査を経て公報に公告され、3か月の異議期間に異議がなければ、庁は出願人に3か月以内に登録料(最初の10年分の維持料を含む)を納付するよう求め、納付後に登録決定を出して登録簿に記載し公報に掲載します(第103条)。期限内に登録料を払わなければ出願は取り下げたものとみなされます。
スロベニアに住所または実在の産業・商業上の事業所を持たない外国の法人・個人は、庁に登録された代理人(特許代理人または意匠・商標代理人)を通じて手続をしなければなりません(第129条1項)。例外として、出願そのもの、出願日の確定に関する行為、手数料の納付、優先権書類の提出は本人でも行えますが、その場合もスロベニア国内の通知先住所を庁に届け出る必要があり(同2・3項)、代理人も住所も届け出なければ庁は3か月の期間を定めて催告し、応じなければ出願は却下されます(同5項)。EEA加盟国の企業に対する免除規定はなく、日本企業は出願から登録まで現地代理人に委任するのが実務です。委任状は出願時または庁の求めから3か月以内に提出し、2023年改正で書面原本の要件がなくなり、スキャン画像で足ります。
| 段階 | 内容と期限(産業財産法の条文) |
|---|---|
| 1. 出願と出願日の確定 | 電子または書面で出願。出願手数料は3区分まで100ユーロ(電子80ユーロ)、4区分目から1区分20ユーロ。優先権は最初の出願から6か月以内に主張し、優先権書類を提出 |
| 2. 方式審査・実体審査 | 方式不備は補正命令。絶対的理由(第42・43条)のみ審査し、全部または一部を拒絶(第99条)。公告前に誰でも絶対的理由の意見を提出可(第100条) |
| 3. 公告と異議 | 公報に出願を公告。先行権利者は公告から3か月以内に異議(第101条、75ユーロ)。出願人は通知から3か月以内に答弁し、使用証明を要求可(第102・102a条) |
| 4. 登録料の納付と登録 | 異議がない、または棄却されれば、庁の求めから3か月以内に登録料(3区分150ユーロ、追加区分50ユーロ、最初の10年分を含む)を納付(第103条)。登録決定、登録簿記載、公報掲載 |
| 5. 不服・争い | 庁の決定に行政上の不服申立てはなく、送達から30日以内に行政裁判所へ提訴。登録後の取消・無効は庁へ請求(第110a条、500ユーロ) |
登録までの標準的な期間について、知的財産庁は平均日数を公表していませんが、2025年事業報告は「すべての申請を法定期間内に処理し、商標・意匠分野の行政上の滞貨はゼロ」と報告しています。法定の3か月の異議期間と、登録料納付の3か月の期限を考えると、異議がなければ出願から6〜9か月程度で登録されるのが目安です(公的な平均値ではなく、法定期間からの推定です)。異議があった場合は、答弁3か月、使用証明の応答3か月、和解のための6か月の中断が加わり、1年半以上かかることがあります。
知的財産庁の手数料は、産業財産法第9条に基づく政府の手数料令(Uredba o pristojbinah URSIL、2023年12月15日公布、同月30日施行)で定められています。スロベニアの特徴は、出願手数料と登録手数料の二段階になっていることで、出願時に3区分まで100ユーロ(電子出願なら20%引きの80ユーロ)、異議期間を経て登録する際に3区分まで150ユーロ(最初の10年分の維持料を含む)を納付します。4区分目からは出願時に1区分20ユーロ、登録時に1区分50ユーロが加算されます。3区分の商標を電子出願して登録まで進めた場合の庁費用は合計230ユーロ(約4万円)です。更新は3区分まで150ユーロ+追加区分50ユーロで、満了後6か月の猶予期間内は50%の遅延加算がつきます。為替は1ユーロ≒175円で換算しています。
| 手続(手数料令の項目) | 手数料 | 円換算(概算) |
|---|---|---|
| 出願手数料(3区分まで)(4.1.1) | 100ユーロ(電子出願80ユーロ) | 約1.8万円(電子約1.4万円) |
| 出願手数料の追加区分(4区分目から)(4.1.2) | 1区分20ユーロ | 約3,500円 |
| 団体商標の出願(3区分まで/追加区分)(4.1.3・4.1.4) | 250ユーロ/50ユーロ | 約4.4万円/約8,800円 |
| 登録手数料(最初の10年分を含む、3区分まで)または更新(4.2.1) | 150ユーロ | 約2.6万円 |
| 登録・更新の追加区分(4区分目から)(4.2.2) | 1区分50ユーロ | 約8,800円 |
| 猶予期間(満了後6か月)内の更新の加算(第110条) | 更新料の50% | 3区分で約1.3万円の加算 |
| 異議(国内商標/国際商標)(4.3.2・4.4.2) | 75ユーロ/85ユーロ | 約1.3万円/約1.5万円 |
| 取消請求・無効請求(4.3.3) | 500ユーロ | 約8.8万円 |
| 分類の訂正(商品・サービス1件)(4.3.1) | 5ユーロ | 約900円 |
| マドプロ出願の庁経由送付(4.4.1) | 60ユーロ | 約1.1万円 |
| 登録簿の変更登録(1件)/一部移転(6.1・6.2) | 40ユーロ/70ユーロ | 約7,000円/約1.2万円 |
| 行政裁判所への提訴の裁判所手数料(知的財産庁の決定を争う場合) | 148ユーロ(現地事務所の案内) | 約2.6万円 |
比較のため、EUTMの出願料は1区分850ユーロ、2区分目50ユーロ、3区分目以降1区分150ユーロ、異議は320ユーロ(EU商標規則)で、EU27か国をカバーします。マドプロでスロベニアを指定する場合、スロベニアは個別手数料を定めていないため、基本手数料CHF 653(白黒)またはCHF 903(カラー)に加えて補足手数料CHF 100(約1.9万円、区分数にかかわらず)と、3区分を超える区分ごとにCHF 100の追加手数料を支払います(1CHF≒185円)。現地代理人の費用は事務所により異なりますが、出願から登録までの代理人費用は数百〜1,000ユーロ程度が相場で、日本側の手数料と翻訳費用を含めると1件あたり15万〜25万円程度が目安です(相場感であり、出典のある数値ではありません)。日本企業の国内出願には代理人が事実上必須なので、スロベニア1か国だけなら代理人不要のマドプロ指定が最も安く、複数のEU加盟国で使うならEUTMが有利です。
出願が公報に公告されると、先行商標の所有者は公告から3か月以内に知的財産庁へ書面(電子を含む)で異議を申し立てられます(第101条1項)。異議は第44条の相対的理由に限られ、証拠を添付しなければならず、同一の所有者に属する複数の先行権利を根拠にできます(同2項)。先行商標の所有者のほか、未登録標識の使用者、無断で代理人に出願された商標の所有者、原産地呼称・地理的表示の使用権者、氏名・肖像・著作権などの先行権利者も申し立てられます(同3項)。手数料(国内商標75ユーロ、国際商標85ユーロ)と委任状は異議と同時または庁の催告から3か月以内に提出し、要件を欠く異議は提出されなかったものとみなされます(同4・6項)。取り下げた異議は撤回できません(同5項)。
庁は出願人に異議を通知し、出願人は通知の受領から3か月以内に答弁できます(第102条)。この期間内に出願人は、先行商標が出願日(または優先日)時点で登録から5年を経過している場合、先行商標の所有者に対し、出願日前5年間の真正な使用の証明を要求できます(第102a条1項)。庁は異議申立人に3か月の期間を与え、証明できなければ異議は決定で棄却され、一部の商品についてのみ使用が証明された場合はその範囲でのみ登録されているものとして審理します(同3・4項)。出願人と異議申立人が和解の可能性を検討するため共同で申請すれば、庁は手続を6か月中断し、その間は答弁や使用証明の期間が止まります(第102b条)。庁は両当事者の主張と証拠の範囲内で異議の理由を審理し(第102c条1項)、理由がなければ異議を棄却して登録手続を続け、理由があれば出願を全部または一部拒絶します。異議決定には行政上の不服申立てがなく、送達から30日以内に行政裁判所へ提訴できます。
| 異議手続の段階 | 期限・内容(産業財産法の条文) |
|---|---|
| 異議申立て | 公告から3か月以内(第101条1項)。第44条の理由と証拠。手数料75ユーロ(国際商標85ユーロ)と委任状は同時または催告から3か月以内 |
| 出願人の答弁 | 通知の受領から3か月以内(第102条)。この期間内に使用証明を要求可(第102a条1項) |
| 使用証明 | 異議申立人は庁の求めから3か月以内に証拠提出(第102a条2項)。証明できなければ異議棄却(同3項) |
| 和解のための中断 | 共同申請で6か月中断、期間は進行停止(第102b条) |
| 決定 | 当事者の主張と証拠の範囲内で審理(第102c条)。棄却または全部・一部拒絶。2025年は57件受理・61件処理、法定期間内に処理 |
| 不服 | 行政上の不服申立てなし。送達から30日以内に行政裁判所へ提訴(裁判所手数料148ユーロ)→最高裁判所 |
商標の存続期間は出願日から10年で、商標権者または法律・契約により権限を与えられた者が何度でも10年ずつ更新でき、商品・サービスの一部に限定して更新することもできます(第52条)。登録簿への記載日は登録決定の日とされ(第105条2項)、不使用取消の5年はこの日から起算されます。更新料(3区分まで150ユーロ、追加区分50ユーロ)は出願日から起算した満了日の前1年以内に納付し、庁は満了日の遅くとも6か月前に商標権者に通知します(第109条1・2項)。満了日までに納付しなかった場合は、満了日から6か月の追加期間内に50%の遅延加算を付して納付でき、庁は未納と追加期間について警告を送ります(第110条1・2項)。追加期間内にも納付がなければ、商標は満了日の翌日に消滅します(同3項)。
移転、ライセンス、名義・住所の変更などの登録簿への変更は、権利者または契約当事者の請求で記載され、1件につき40ユーロ(一部移転は70ユーロ)です(第107・108条)。登録簿上の権利者以外が請求する場合は、権利者の同意書または法的根拠を示す書類を添え、外国語の書類にはスロベニア語訳を求められることがあります。権利者の同意なく不当に記載された変更は、行政裁判所への訴えで争えます(第107条3項)。2025年には1,392件の更新決定と694件の変更・移転の記載が行われました。
使用義務(第52b条)は、登録簿への記載日から5年以内にスロベニアで登録商品・サービスについて真正な使用を開始しない場合、または使用が連続5年間中断した場合に、正当な理由がない限り、不使用取消(第110c条)、無効手続での使用証明要求(第52c条)、異議手続での使用証明要求(第102a条)、侵害訴訟での不使用の抗弁(第a122a条)の対象になると定めます。識別力を変えない形での使用や輸出専用の商品への付着も使用に含まれ、権利者の同意による使用も権利者の使用とみなされます。国際登録については、スロベニアでの保護付与の声明がWIPOの公報に掲載された日、または1年の拒絶通報期間が経過した日の翌日から5年を起算します(第54a条)。
2023年7月27日施行の改正で、取消と無効は知的財産庁の行政手続になりました(第110a〜110d条)。それ以前はリュブリャナ地方裁判所への訴訟で、訴額に応じた裁判所手数料が必要でしたが、現在は庁への請求で手数料500ユーロです。請求は書面または電子で行い、理由、対象商標、証拠(不使用取消の場合は証拠不要)、外国語証拠のスロベニア語訳を添えます(第110a条)。庁は商標権者に送付して3か月以内の答弁を求め、答弁を請求人に送って3か月以内の意見を求めます。各当事者は請求または答弁を1回だけ補充でき、それ以降の補充は考慮されません(第110b条5項)。共同申請で6か月の和解中断が可能で、庁は当事者の主張と証拠の範囲内で判断し、全部または一部を取り消し・無効と宣言します。庁の決定には行政裁判所への提訴で争います。2025年の請求は29件(2023年6件、2024年17件)で、20件が処理されました。庁自身が「複雑で長期にわたる手続」と評価しており、1年以上かかることを見込む必要があります。
取消(razveljavitev、第110c条)は誰でも請求でき、(1)正当な理由なく連続5年間スロベニアで真正に使用していない場合(使用の立証責任は権利者)、(2)権利者の作為・不作為により普通名称化した場合、(3)使用の方法により公衆を欺く場合に認められます。5年経過後、請求前に使用を開始・再開すれば取消を免れますが、請求の3か月前以降に始めた使用は、請求される可能性を知ってから準備した場合には考慮されません。取消の効力は請求日から(請求により理由発生日まで遡及)生じます。無効(ničnost、第110d条)は、第42・43条の絶対的理由(誰でも請求可)、第44条の相対的理由(先行権利者のみ)、悪意の出願(法的利益を有する者)を理由とし、効力は出願日に遡ります。5年の黙認(第52d条)により、後の商標の使用を知りながら連続5年間黙認した先行商標の所有者は、その商品・サービスについて無効を請求できなくなります(後の出願が悪意の場合を除く)。侵害訴訟で被告が取消・無効の反訴を提起した場合は、庁ではなく裁判所が判断し、裁判所は庁に通知します(第121条4項)。
取消・無効は書面2往復の「紙の手続」です。庁の手続では各当事者の提出が実質2回(最初の書面と1回の補充)に限られ、期限を過ぎた補充は考慮されません。裁判所の訴訟と違って口頭弁論や証人尋問は予定されておらず、最初の請求書で証拠を出し切る必要があります。外国語の証拠にはスロベニア語訳が必須です。代理人は庁の登録代理人(特許代理人または意匠・商標代理人)で足り、弁護士資格は不要ですが、行政裁判所への提訴は弁護士または司法試験合格者に委任します。2024年7月には、庁への移管前にリュブリャナ地方裁判所で審理されていた「TESLA」国際登録の不使用取消事件で、裁判所が当事者の明示の請求なしに広い商品区分を小区分に置き換えて部分取消を認めるという、スロベニアで初めてとみられる判断を示しており、部分取消の実務が形成途上にあります。
知的財産庁の決定(拒絶、異議、取消・無効、登録簿の変更)は行政手続上の最終決定で、庁内の不服審判や上級庁への不服申立てはありません。知的財産庁の案内は「決定は行政手続において確定し、不服申立てはできないが、送達から30日以内にリュブリャナの行政裁判所(Upravno sodišče Republike Slovenije)に行政訴訟を提起できる」と説明しています。登録簿の変更が権利者の同意なく記載された場合も、行政裁判所が専属管轄です(第107条3項)。行政裁判所の判決に対しては最高裁判所への上訴が可能です。行政訴訟の裁判所手数料は148ユーロで(現地事務所の案内)、訴額に応じて高額になり得た従前の民事訴訟と比べて予見可能になりました。
期限の救済については、庁が定めた期限を徒過した場合の手続続行(nadaljevanje postopka)の請求期間が2023年改正で6か月から4か月に短縮されました(2023年9月27日以降適用)。異議期間(3か月)のような法定期間は原則として延長・回復の対象にならないため、公報の監視と期限管理は代理人と連携して厳格に行う必要があります。庁の決定を争う行政訴訟は、庁の判断の適法性を審査するもので、新たな証拠の提出は制限されるのが通常ですから、異議・取消・無効の段階で証拠を出し切ることが重要です。
商標権者は、登録商標の排他的使用権を持ち、同意のない第三者による同一商品についての同一標識の使用、混同(連想を含む)のおそれのある類似標識の使用、スロベニアで名声を有する商標の識別力・名声を不当に利用し又は害する標識の使用を禁止できます(第47条1項)。禁止できる行為には、商品・包装への付着、販売の申出・流通・保管、輸入・輸出、取引書類・広告での使用、商号・会社名としての使用、違法な比較広告での使用が含まれます(同2項)。2020年改正で、EU・EEA域外から来た偽造品が自由流通に置かれない通過貨物であっても差し止める権利(同3項、最終仕向国で販売を禁止できないことを申告者が証明した場合を除く)と、包装・ラベル・真正性表示などへの準備行為の禁止(第47a条)が加わりました。自己の氏名・住所、記述的表示、用途を示すための使用、出願日前からの善意の使用は侵害になりません(第48条)。EEA域内で権利者が流通させた商品については権利が消尽します(第50条)。
救済(第121条)は、侵害とそのおそれの差止め、侵害品の流通からの回収と確定的な除去、侵害状態の除去、侵害品の廃棄、侵害に専ら用いられた侵害者所有の手段の廃棄、製造原価での侵害品の引渡し、判決の公表で、裁判所は侵害の重大性と請求の均衡を考慮します。損害賠償は一般原則によるほか、合意されたまたは通常のライセンス料に相当する額で算定できます(第121a条)。仮処分(第123条)は、権利の保有と侵害(のおそれ)を疎明し、請求の実現が困難になるおそれ、回復困難な損害の防止の必要、または仮処分が不当だった場合の相手方の不利益が権利者の不利益より小さいことのいずれかを疎明すれば認められ、回復困難な損害を疎明すれば相手方を審尋せずに発令されます。裁判所は仮処分に対する異議について30日以内に判断し、手続は緊急扱いです。証拠保全(第124条)では、施設・帳簿・在庫・データベース・コンピュータの検証、侵害品の見本の差押え、書類の提出、鑑定人・証人の尋問を命じられ、相手方を審尋しない発令も可能です。情報開示(第124b条)は、侵害者だけでなく、商業的規模で侵害品を所持する者、侵害サービスを利用・提供する者にも及びます。被告は、登録から5年を経過した商標による訴訟において提訴前5年間の使用証明を求めることができます(第a122a条)。
| 審級 | 裁判所(根拠条文) |
|---|---|
| 第一審(民事:侵害訴訟、仮処分、証拠保全) | リュブリャナ地方裁判所(Okrožno sodišče v Ljubljani)。知的財産紛争について全国の専属的土地管轄(裁判所法第103条。使用者と従業員の職務発明等の紛争を除く)。知的財産に関する仮処分も地方裁判所の管轄(同第101条) |
| 控訴審 | リュブリャナ高等裁判所(Višje sodišče v Ljubljani) |
| 上告審 | 最高裁判所(Vrhovno sodišče RS) |
| 取消・無効の反訴 | 侵害訴訟で反訴が提起された場合は裁判所が判断し、庁に通知(第121条4項) |
| 行政訴訟(庁の決定) | 行政裁判所(Upravno sodišče RS、リュブリャナ)→最高裁判所 |
裁判所法(Zakon o sodiščih)第103条は「知的財産権に関する紛争の第一審は、リュブリャナ地方裁判所が専属的土地管轄を有する」と定め、新しい裁判所法ZS-1(2025年公布)が2027年1月1日に適用されるまで現行法が維持されます。リュブリャナ地方裁判所には知的財産事件を扱う部があり、EU商標の侵害事件も同裁判所が扱います。裁判所での代理は弁護士または司法試験合格者に限られますが、庁の登録代理人も裁判所の代理に関する法令の要件を満たせば代理できます(第131条4項)。
刑法(Kazenski zakonik、KZ-1)第233条「他人の標識または意匠の無権限使用」は、事業活動において他人の商号、商標、地理的表示その他商品・サービスの特別な標識を無権限で使用し、またはその本質的部分を自己の商号・商標・標識として使用した者を3年以下の拘禁刑に処し(1項)、他人の意匠の無権限使用も同じです(2項)。侵害品と、その製造に用いた道具・装置は没収されます(3項)。特許・補充的保護証明書・半導体回路配置・植物品種の無権限使用も同じく3年以下(第234条)です。スロベニアの刑法には商標侵害について損害額や営利目的による加重類型がなく、法定刑は一律3年以下にとどまるため、刑事手続は組織的な偽造品の製造・流通事件で税関・警察の捜査と組み合わせて用いるのが実務です。2025年7月には財務管理庁が洗剤の偽造工場を摘発し、約6万リットルの液体洗剤と約3トンの粉末を押収する過去最大の事件がありました。
スロベニアの税関当局は財務管理庁(Finančna uprava Republike Slovenije、FURS)で、EU税関規則(608/2013)とその実施規則(1352/2013、2018/582)に基づいて、第三国から到着する貨物を監視し、商標・意匠・特許・地理的表示・著作権などを侵害する疑いのある商品を一時的に留め置きます。権利者は財務管理庁の管轄税関部門に措置申請(zahteva za carinsko ukrepanje)を提出し、商品の識別情報と連絡先を登録しておくと、税関が疑わしい貨物を見つけた際に通知を受けられます。差止め後、申告者が廃棄に同意すれば税関監督下で廃棄され、同意しなければ権利者は裁判所で侵害を立証する必要があります。侵害が確認された商品は原則として廃棄されます。
財務管理庁の2025年年次報告によると、2025年は940件の事案で82,128点の商品を発見・差し止め、推定価額は約147万ユーロでした(2024年は777件・51,982点・約256万ユーロ)。件数と点数は前年から大幅に増えた一方、価額は減っており、低価格品の小口貨物が増えたことがうかがえます。最も多いのは衣類・靴、ファッション小物、音響・映像機器、携帯電話の部品、玩具です。偽造品は中国・香港・トルコからコンテナ船と郵便で到着し、アドリア海のコペル港に着く貨物の大半はチェコ、ハンガリー、スロバキアなど他のEU加盟国の受取人向け、郵便で届くものはスロベニア国内の受取人によるネット通販が中心です。コペル港は中東欧の内陸国にとって重要な輸入玄関であり、スロベニアで商品を販売していない日本企業でも、EU全域の税関措置申請にスロベニアを含めておくことで、中東欧市場向けの偽造品を水際で止められる可能性があります。
コペル港は通過貨物の監視拠点です。産業財産法第47条3項により、商標権者はEU・EEA域外からの偽造品がスロベニアで自由流通に置かれない通過貨物であっても差止めを求められます。財務管理庁の統計でも、コペル港で差し止められた商品の大半は他のEU加盟国向けでした。中東欧(チェコ、ハンガリー、スロバキア、オーストリア)で販売する日本企業は、EUTMまたはスロベニア国内商標を根拠に、EU税関措置申請(EU申請)の対象国にスロベニアを含め、真贋判別のポイントを税関に提供しておくことをおすすめします。
スロベニアはマドリッド協定(1991年6月25日の独立時に旧ユーゴスラビアから承継、1992年6月12日に継続適用を宣言)とマドリッド議定書(1997年12月12日加入、1998年3月12日発効)の加盟国です。マドプロでスロベニアを指定する場合、スロベニアは個別手数料を定めていないため補足手数料CHF 100のみで済みます。国際登録の指定については、WIPOの公報への掲載がスロベニアでの出願公告とみなされ(第54条2項)、国内出願と同じく絶対的理由の審査と3か月の異議の対象になり、庁は1年の期間内に暫定拒絶を通報します。2025年にはマドプロで706件がスロベニアを指定し、国際商標への異議は11件でした。使用義務の5年は、保護付与の声明がWIPO公報に掲載された日、または1年の拒絶通報期間の満了日の翌日から起算します(第54a条)。
EUTMは1件(1区分850ユーロ)でスロベニアを含むEU27か国をカバーし、EUTMとその出願はスロベニアでの異議・無効の根拠となる「先行商標」です(第44条2項)。2023年改正により、EUTMの名声はEU全体で判断されます。EUTMが拒絶・取消された場合はスロベニアの国内出願へ転換できます。スロベニアの企業自身がEUTMを国内出願の2倍以上出願している市場であり、日本企業も基本はEUTMで足ります。国内出願が意味を持つのは、EUTMが他国の先行商標と抵触して取れない商標をスロベニアだけで確保する場合、現地子会社の商号や現地限定ブランドを守る場合、国内登録を基礎に周辺のEU非加盟国(セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニアなど)へマドプロで展開する場合です。
| ルート | 庁費用の目安 | 向いているケース |
|---|---|---|
| スロベニア国内出願 | 出願100ユーロ(電子80)+登録150ユーロ(3区分、10年分込み)、追加区分20+50ユーロ | スロベニアのみで使う商標、現地子会社の商号。登録代理人が必須。出願から6〜9か月程度で登録(推定) |
| マドプロでスロベニア指定 | 基本手数料CHF 653(白黒)/903(カラー)+補足手数料CHF 100+3区分超はCHF 100/区分 | スロベニアと西バルカンのEU非加盟国を一括指定。代理人は暫定拒絶時のみ。既存の国際登録への事後指定(CHF 300+100)が最も安い |
| EUTM | 1区分850ユーロ、2区分目50ユーロ、3区分目以降150ユーロ | 複数のEU加盟国で使う商標。スロベニア企業の主流。1か国の先行商標で全体が拒絶されるリスクに注意 |
日本企業の実務ポイントを整理します。第一に、庁は先行商標を審査も通知もしないため、出願前の調査(庁の有料調査、TMview、EUIPOデータベース、商業登記簿)と、登録後の公報監視を自社の責任で行います。第二に、国内出願では登録代理人が必須で、出願行為と手数料納付以外は代理人を通じ、国内の通知先住所が必要です。第三に、取消・無効は2023年から庁の行政手続(500ユーロ)になり、書面2往復で決着するため、最初の請求書に証拠(スロベニア語訳付き)を出し切る準備が要ります。第四に、庁の決定への不服は30日以内の行政裁判所への提訴だけで、期限が短い点に注意します。第五に、登録から5年の使用証拠(スロベニア語の広告、請求書、現地販売の記録)を保存し、異議・無効・侵害訴訟で相手方から使用証明を求められた場合に備えます。第六に、コペル港を経由する中東欧向けの物流を踏まえ、EU税関措置申請にスロベニアを含めることです。第七に、手続言語はスロベニア語で、外国語の証拠には翻訳を添付します。
知的財産庁は平均審査期間を公表していませんが、2025年はすべての申請を法定期間内に処理し、滞貨はゼロでした。方式・実体審査の後に公告され、3か月の異議期間を経て、登録料の納付(庁の求めから3か月以内)後に登録されるため、異議がなければ出願から6〜9か月程度が目安です(法定期間からの推定)。異議があった場合は、答弁3か月、使用証明3か月、和解のための6か月の中断が加わり、1年半以上かかることがあります。
調べません。庁は第42・43条の絶対的理由のみを審査し、先行商標との抵触は先行権利者が公告から3か月以内に異議を出した場合にのみ判断します。同一商標の先行登録があっても通知はありません。庁の有料調査サービスまたは公開データベースで出願前に自分で調べるよう、庁自身が案内しています。
必要です。スロベニアに住所または実在の事業所を持たない外国人は、庁に登録された代理人を通じて手続をしなければなりません(第129条)。出願そのもの、出願日の確定、手数料納付、優先権書類の提出は本人でもできますが、スロベニア国内の通知先住所を届け出る必要があり、その後の審査対応や異議には代理人が必要です。EEA企業向けの免除はありません。マドプロ経由なら指定時点では代理人は不要で、暫定拒絶を受けた場合に選任します。
EUTMはスロベニアでも有効で、多くの企業はEUTMだけで足ります。スロベニア企業自身も国内出願の2倍以上をEUTMで出願しています。ただし、EUTMは他の加盟国の先行商標との抵触で全体が拒絶・無効となるリスクがあるため、スロベニアで特に重要な商標は安価な国内出願で二重に押さえるか、EUTMが取れなかった場合に国内出願へ転換する選択肢を残しておくと安心です。
登録から5年以上スロベニアで真正に使用されていなければ、知的財産庁に不使用取消を請求できます(500ユーロ)。2023年7月から裁判所ではなく庁の行政手続になり、使用の立証責任は権利者側にあります。請求の3か月前以降に始めた駆け込み使用は、請求を予期して準備したものであれば考慮されません。自社の出願に対する異議でも、相手の先行商標が5年を経過していれば使用証明を求められ、証明がなければ異議は棄却されます。
証拠(購入品、販売ページ、請求書)を確保した上で、財務管理庁への税関措置申請(EU申請にスロベニアを含める)を行い、並行して現地代理人を通じてリュブリャナ地方裁判所に仮処分(相手方を審尋しない発令も可能)と証拠保全を申し立て、本案で差止め・回収・廃棄・ライセンス料相当額の賠償を請求します。組織的な製造・流通事案では刑法233条に基づく刑事告訴も選択肢です。
庁費用は出願100ユーロ(電子80ユーロ)と登録150ユーロの合計230〜250ユーロ(3区分、約4万〜4.4万円)です。現地代理人の費用は出願から登録まで数百〜1,000ユーロ程度が相場で、日本側の手数料と翻訳費用を含めると1件あたり15万〜25万円程度が目安です(相場感であり出典のある数値ではありません)。10年後の更新は150ユーロです。中小企業は、INPIT(工業所有権情報・研修館)の外国出願補助金の対象になる場合があります。
スロベニアの商標制度は、EU商標指令に沿った絶対的理由のみの審査、公告後3か月の異議、出願100ユーロ+登録150ユーロという二段階で安価な手数料、2023年から知的財産庁の行政手続となった取消・無効(500ユーロ、書面2往復)、庁の決定を行政裁判所が、侵害をリュブリャナ地方裁判所が一元的に扱う明快な仕組みが特徴です。庁が先行商標を審査も通知もしない点、外国企業に登録代理人が必須である点、庁の決定への不服が30日以内の行政訴訟に限られる点、コペル港が中東欧向け偽造品の経路になっている点は、出願設計と権利行使の段階で押さえておく必要があります。医薬品・ロボット・自動車部品・塗料などでスロベニアに関わる日本企業には、EUTMを軸に、現地で特に重要な商標はマドプロの事後指定か国内出願で補完し、EU税関措置申請にスロベニアを含める設計をおすすめします。
各国の商標制度は世界の商標制度ガイドをご覧ください。
国内出願・EUTM・マドプロの使い分け、スロベニア語での識別力の確認、先行商標調査と公報監視、異議・取消・無効の庁手続と行政訴訟への対応、リュブリャナ地方裁判所での仮処分・権利行使、コペル港を含む税関措置申請と模倣品対策、INPIT外国出願補助金の申請まで、知的財産事務所エボリクスが一貫してサポートします。初回相談は無料です。
本記事は、以下の一次資料および専門家による解説を基に作成しています(いずれも2026年10月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。
※本記事の情報は2026年10月時点のものです。手数料・期間・管轄は改正されることがあるため、実際の出願にあたっては知的財産庁の最新情報と現地代理人の確認をおすすめします。円換算は1ユーロ≒175円、1スイスフラン≒185円の概算です。