モバイルアプリやWebアプリのユーザーインターフェース(UI)は、操作性やユーザビリティを左右する重要な要素です。近年、日本国内でもUIの操作方法や画面レイアウト、ナビゲーション手法、ジェスチャー操作、アニメーション表示などに関する特許出願・登録が相次いでいます。以下に、過去5年以内に出願・登録された代表的なUI技術関連の特許事例を一覧表にまとめ、その発明の名称・要約、特徴や効果を解説します。
出願人(企業/個人) | 公開・登録番号(種別) | 発明の名称 | UIにおける技術的特徴・効果(要約) |
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株式会社アシュアード(Visionalグループ)※サービス名:Assured | 特許第7448293号(登録) | クラウドサービスのセキュリティ情報の正確性を高めるUI(発明名称非公開*) | クラウドサービス利用企業向けのセキュリティ情報可視化UI。チェックボックスを「✓(該当)」「△(条件付き)」「空欄(非該当)」の3段階に拡張し、「△」選択時に条件入力欄を表示することで、利用プランごとのセキュリティ対策状況を的確に入力・表示可能なインターフェースを提供。これにより、サービス利用者は自社が利用するプランに応じた正確なセキュリティ情報を把握でき、UI上で条件付き項目の詳細確認・評価が容易になるという効果がある。 |
TIS株式会社 | 特開2023-003024(公開) | 情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム | AR/VR空間における直感的な商品選択UI。拡張現実(AR)または仮想現実(VR)空間上で商品オブジェクトを提示し、ユーザがその場で商品を選択・操作すると、関連する決済処理まで完了できるUIを提供する。従来の画面遷移を減らし、仮想空間内で商品選択から購入まで直感的に行える操作性を実現している点が特徴。ユーザは視線移動やコントローラ操作など自然な動作で商品を選び、そのまま購入手続きを行えるため、ナビゲーションの負荷を軽減し没入感を損なわない効果がある。 |
Zoom Video Communications, Inc. | 特表2024-531506(公開) | メッセージングプラットフォーム内の会議資産の動的共有 | ビデオ会議とチャットを連携する動的UI。オンライン会議サービス「Zoom」において、会議終了後に議事録や録画などの“会議資産”をチャットプラットフォーム上で自動共有・表示するUI機能に関する特許。 ユーザは会議中に取得した要約や資料を、会議後すぐにチャット画面の指定チャンネルへ投稿でき、アプリ間のシームレスな連携と情報共有を実現する。これにより、会議内容のフォローやチーム内共有がスムーズになる効果がある。 |
セイコーエプソン株式会社 | 特許第7491139号(登録) | 画像処理装置の設定方法、プログラム、および画像処理システム | チャット形式の対話型UIによる機器初期設定。プリンター等の画像処理装置の初期設定手順を、対話ログを模したチャット画面上で案内・入力させるインターフェースを提供する特許。画面上に設定項目の説明や質問メッセージ(情報ログ・指示ログ)を順次表示し、ユーザが回答を入力するとログが画面上でスライド移動して次のメッセージが現れる。このように会話形式で設定プロセスが進行するUIにより、従来の複雑な設定画面よりも直感的かつ段階的な操作が可能になる効果がある。ユーザはガイドに沿って回答するだけで設定が完了し、UI上のアニメーション(ログのスクロール表示)により進捗が視覚的に分かりやすい。 |
* 発明の正式名称は公開公報では非明示。特許のポイントとなるUI機能を表現しています。
上記一覧の中から、特に注目されるUI特許について技術的特徴や効果を詳しく解説します。
【出願人】株式会社アシュアード(Visionalグループ) – 【特許番号】7448293号(2024年登録)
発明の概要: クラウドサービス利用時に、自社の利用プランに応じたセキュリティ対策状況を正確に把握できるよう工夫されたユーザーインターフェースです。クラウドサービス事業者が質問票に回答する際、従来は「対応/非対応」の二択では表現しにくかった項目を、「✓:該当」「△:条件付きで該当」「空欄:非該当」の三段階で選択できるチェックボックスUIを提供します。例えば「あるセキュリティ対策は上位プランでは実施しているが下位プランでは未実施」といった場合に「△」を選び、条件欄に詳細を記入可能です。UI上で「△」を選ぶと即座に条件入力フィールドが表示される仕組みで、この条件付き項目の動的表示UIについて特許が取得されています。
技術的特徴と効果: このUIにより、クラウドサービス利用企業は自社契約プランに沿ったセキュリティ情報を得られます。条件付き項目は詳細情報とともに表示されるため、「どのプランでどの対策が有効か」が一目で分かります。結果として、サービス利用企業側の画面では、自社プランに基づき提供側の回答内容が自動更新され、セキュリティ評価スコアも再計算される仕組みになっています。このようにUI上で回答選択肢と連動データを柔軟に表現することで、誤解を減らし正確なリスク評価に寄与します。特許取得企業のアシュアードは今後も独自機能の特許化を進め、安全なクラウド活用とDX推進を支えるサービス向上を図ると述べています。
【出願人】TIS株式会社 – 【公開番号】特開2023-003024(2023年公開)
発明の概要: 現実拡張技術を活用したショッピング体験に関するUI特許です。拡張現実(AR)または仮想現実(VR)空間上に商品を表示し、ユーザーがその商品に対して行った操作(選択や決定のジェスチャー)によって、購入手続きを直ちに完了できる情報処理システムが提案されています。言い換えれば、ユーザーは仮想店舗の中を歩き回りながら商品を手に取るように選択でき、UI上でそのまま支払い・注文まで行える仕組みです。
技術的特徴と効果: 従来のスマートフォンアプリなどでは、商品選択→カート投入→決済画面へ遷移…と複数の画面操作が必要でした。本発明では仮想空間内の一連の動作を直感的UIに統合しており、例えばユーザーがARグラス越しに商品オブジェクトを見つめてジェスチャー操作をするだけで購入が完了します。これにより画面遷移や入力フォームを極力排し、シームレスな購買体験を実現しています。ナビゲーション手順の簡略化によってユーザーの没入感を損なわず、操作負荷を軽減できる点が優れています。近年隆盛のメタバースやVRコマースにおいて、現実さながらのUI操作でEC取引を完結させる本技術は、UI/UXの新しい方向性を示すものと言えます。
【出願人】セイコーエプソン株式会社 – 【特許番号】7491139号(2024年登録)
発明の概要: プリンターなど画像処理装置の初期セットアップを、ユーザーがチャットボットと対話するような画面で進められるUI特許です。従来、機器の設定は一覧形式の設定画面やウィザードで行われていましたが、本発明では画面上に会話形式のメッセージログ(チャットログ)を表示し、ユーザーに質問を投げかけながら順番に設定を完了させます。例えば、「言語を選択してください」「Wi-Fiに接続しますか?」といった問いかけメッセージ(指示ログ)とユーザーの回答ログが交互にチャット画面に表示され、ユーザーが回答を入力・選択するとログが上下にスライドして消え、新たな質問が表示される仕組みです。
技術的特徴と効果: 擬似的な会話UIを用いることで、ユーザーは複雑な設定項目も一問一答形式で順序立てて対応できます。特に本UIでは、ログメッセージを画面上部・下部から交互に出現させる「交互表示型」や一括で表示させる「一斉提示型」など、チャット形式の表示挙動にも工夫があります。ログが追加される際にスムーズなスクロールアニメーションで画面が更新されるため、ユーザーは対話の流れを直感的に追うことができます。これにより設定作業のハードルを下げ、操作ミスを減らす効果が期待できます。セイコーエプソンのこの特許は、複合機の設定以外にも、複雑な手続きを案内するチャットボットUIやチュートリアルシステムへの応用可能性があり、UIデザインとユーザビリティ向上の観点で注目される発明です。
※こちらは米国特許の事例ですが、スマートフォンUIのジェスチャー操作に関する代表的な発明として参考に挙げます。
Apple社は2000年代後半に、マルチタッチスクリーン上でのジェスチャー操作によるUIに関する基本特許(米国特許第7,966,578号)を取得しています。この発明は、1本指・2本指といった指の本数や動きによって画面コンテンツのスクロール範囲を変えるというもので、例えば指一本で画面全体をスクロールし、二本で操作すると特定のフレーム(領域)内だけをスクロールさせる――といったUI挙動を規定しています。スマートフォンの「ピンチイン/アウト」ズームやスワイプで戻る操作など、直感的ジェスチャーの多くはこのような特許に支えられており、Appleは他社にライセンス提供する形でUIの標準化に寄与しました。この例はジェスチャー操作系UIの先駆的な特許として知られ、近年のUI特許動向を語る上でも重要な背景知識となっています。
近年の日本国内におけるUI関連特許事例を見ても、使いやすさの工夫を凝らした独創的なインターフェースが次々と生み出されていることが分かります。特にモバイルアプリやWebサービスの競争が激化する中、UI/UXの差別化がビジネス上も重要となり、企業各社がUI改善のアイデアを知的財産として保護する動きが顕著です。UI特許の利点は、画面上の動的な動きや時間的な変化を伴う特徴も保護できる点にあり、今回紹介したような動的UI挙動や新しい操作方式も特許権でカバーされています。一方で、純粋に美的デザインのみでは特許で保護しにくいため、機能的な工夫と組み合わせた発明が中心となっています。
モバイル/ウェブ分野のUI技術特許は、ユーザーの直感的な操作体験を向上させることを目的に、今後も多様な切り口で出願が続くでしょう。企業や開発者にとって、自社のUI上の発明を権利化することは模倣防止や競争優位の観点から有益です。またユーザー側から見ても、使いやすいUIが知財によって守られることで、一種の業界標準として定着していくケースもあります(実際、スワイプ操作などは各社ライセンスの下で広く普及しています)。本調査が示す事例群は、最新のUIイノベーションとその知財戦略を読み解く一助となれば幸いです。
参考文献・出典:
特許公報・特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)等から各特許の公開/登録公報情報
Assured公式サイト「UI特許取得」に関するお知らせ
Visional プレスリリース「クラウドサービスのセキュリティ情報の正確性を高めるUI特許を取得」
知財ポータル「IP Force」公開特許公報データ(特開2023-3024 等)
セイコーエプソン特許 第7491139号 公報
+VISIONコラム「なぜiPhoneは使いやすい!?答えはインターフェース特許にあった!!」
他、UI特許の技術解説記事など。