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台湾特許制度の実務ガイド|TIPO・PCT非加盟・無効審判を弁理士が徹底解説

作成者: 弁理士 杉浦健文|1970/01/01

台湾の特許制度は特許法(専利法)を根拠法とし、発明・実用新案・意匠(設計)の3類型で構成されます。所管は中華民国経済部(MOEA)、実際の執行は台湾智慧財産局(TIPO)が担います。台湾はPCT(特許協力条約)非加盟国であるため、PCT経由の国内移行ができない点が国際出願設計における最重要の留意点です。本稿では、弁理士の実務観点から、出願要件・審査フロー・主要期限・公式手数料・無効審判・侵害訴訟・外国人出願の特則まで体系的に整理します。

目次

  1. 台湾特許制度の全体像と関係機関
  2. 特許の3類型(発明・実用新案・意匠)
  3. 出願要件と明細書・クレーム実務
  4. 出願から登録までの手続フロー
  5. 期限の体系と実務上の要点
  6. 公式手数料(年金・審判等)
  7. 無効審判・行政救済・侵害訴訟
  8. 国際出願と外国人出願の特則
  9. 実務チェックリスト
  10. まとめ:台湾特許戦略の要点

台湾特許制度の全体像と関係機関

台湾特許制度の中核は特許法(専利法)であり、所管官庁は中華民国経済部(MOEA)、特許事務は「特許専責機関」として指定された台湾智慧財産局(TIPO)が執行します。司法・準司法の観点では、行政処分(拒絶・無効・訂正等)に対する救済は、行政不服(訴願等)→行政訴訟へと接続され、知財専門裁判所として智慧財産及商業法院(1審)、最高行政法院(上級審)が担当します。

関係機関と役割の一覧

区分 機関 主要役割
主管機関MOEA(経済部)特許制度の主管官庁、特許専責機関の指定
特許専責機関TIPO(智慧財産局)出願受理、方式・実体審査、再審査、無効審理、訂正審理、登録公報
行政救済(不服)MOEA(訴願等)TIPO行政処分に対する行政不服段階
行政訴訟(1審)智慧財産及商業法院行政処分の司法審査
行政訴訟(上級審)最高行政法院上告審
民事救済智慧財産及商業法院差止・損害賠償等の侵害訴訟
水際措置税関(台湾Customs)侵害疑い輸入品の留置、通知、解除等

特許の3類型(発明・実用新案・意匠)

台湾特許法は、発明(invention)、実用新案(utility model)、意匠(design)の3類型を定めます。それぞれ審査方式・存続期間・権利行使のハードルが異なるため、案件特性に応じた類型選択が戦略の出発点です。

項目 発明特許 実用新案 意匠(設計)
保護対象技術思想(自然法則利用)物品の形状・構造等物品の形状・模様・色彩等(GUI/アイコン含む)
審査方式実体審査(請求により開始)方式審査のみ実体審査+再審査(拒絶時)
公開原則18か月で公開(早期公開請求可)登録・公告(公報掲載)登録・公告(公報掲載)
存続期間出願日から20年出願日から10年出願日から15年(派生意匠は本意匠と同時満了)
権利行使通常の侵害立証(クレーム中心)警告時に技術評価報告の提示必須図面中心(説明は参照)
迅速化AEP等(条件あり)(方式審査のため迅速)TIPOによる運用

実用新案の実務注意:実用新案は方式審査のみで登録されますが、権利行使前に技術評価報告の取得・提示が必須です。報告なしに警告した場合、後の取消により損害賠償責任を負う可能性があります(相当注意=due careで免責余地あり)。警告・訴訟前の報告取得を必ず記録化すべきです。

出願要件と明細書・クレーム実務

特許性と除外対象

発明は「自然法則を利用した技術思想の創作」と定義され、産業上利用可能性、新規性(刊行物公知・公然実施・公知)、進歩性(当業者容易)を満たす必要があります。一方、次の対象は発明特許から除外されます。

発明特許の除外対象(Art.24):
① 動植物および本質的に生物学的な生産方法(微生物製造プロセスは例外)
② 人体・動物の診断・治療・手術方法
③ 公序良俗違反

また、先願(他人発明)が後願の新規性を否定する先願効果(Art.23)に相当する規定があり、先に有効出願された他人出願・特許の明細書等に記載され後に公開等されるものは、後願を阻却し得ます(出願人同一等の例外あり)。

グレースピリオド(自己開示)

類型 グレース期間 対象
発明・実用新案有効日前 12か月自己開示または意思に反する開示
意匠有効日前 6か月同上

ただし、出願に伴う官報公開で本人意思によるものには適用されません。学会発表・展示・販売等の自己開示は、台湾出願のタイムライン設計で最優先に管理すべき項目です。

外国語出願(外文本)と翻訳リスク

発明・意匠では、出願時に中国語でなく外国語の明細書・クレーム・図面を提出し、TIPO指定期間内に中国語訳を提出した場合、外国語提出日を出願日として維持できます。指定期間内に訳文を提出しないと却下され得ますが、却下決定送達前に提出すれば提出日が出願日となり、外国語版は提出されなかったものと扱われます。

翻訳誤りの致命的リスク:外国語原文は後から補正できず、中国語訳は原文の開示範囲を超えてはなりません。翻訳誤り訂正も原文の範囲内に限定されます。TIPO審査基準では中国語訳(中文本)が「法定審査テキスト」となり、補正・訂正の新規事項・拡張判断の比較基礎になる一方、翻訳誤り訂正は外国語原文との対比で審理されます。用語統一・訳語精査のプロトコル整備が不可欠です。

出願から登録までの手続フロー

1. 出願:発明/実用新案/意匠(外文本または中文本)
2. 方式審査:書式・必要書類の確認
3a. 発明:公開(原則18か月、早期公開請求可)
3b. 実用新案:登録・公告(方式審査で登録)
3c. 意匠:実体審査→登録・公告
▼(発明)
4. 実体審査請求:出願日から3年以内(誰でも可)
5. 実体審査:拒絶理由通知(OA)への対応(補正・意見書)
6. 拒絶査定 or 特許査定:拒絶の場合、送達後2か月以内に再審査請求
7. 再審査→行政救済(訴願)→行政訴訟(知財専門裁判所→最高行政法院)
▼(特許査定後)
8. 登録料+第1年年金:査定送達後3か月以内に納付
9. 公告・特許権発生:年金納付開始
10. 権利行使・維持:侵害訴訟/水際措置/年金管理/無効審判(TIPO)

TIPO公表の2024年統計では、発明の平均初回OA:8.4か月、平均処理期間:14.2か月が示されており、標準審査の目安になります。

期限の体系と実務上の要点

局面 期限 実務上の意味 根拠
優先権(発明/実用新案)最先の出願日から12か月パリ優先を確保(WTO/相互主義)Art.28
優先権証明書提出(発明)最先優先日から16か月未提出等で優先権みなし不主張Art.29
優先権回復最先優先日から16か月うっかり不主張の救済(手数料要)Art.29
優先権(意匠)6か月意匠は短期Art.142準用
優先権証明書(意匠)10か月意匠の証明提出期限Art.142準用
発明公開原則18か月(優先あり優先日基準)公開後、補償請求が問題化Art.37, 41
発明の実体審査請求出願日から3年以内期限徒過=みなし取下げArt.38
拒絶→再審査請求拒絶査定送達後2か月審査官交代での再評価+補正窓口Art.48–50
特許査定→登録(発明)査定送達後3か月未納付は公告されずArt.52
年金追納各年の原期限後6か月追納でも維持可能(加算金)Art.94
年金回復(復活)追納期間満了後1年以内3倍納付で失権からの回復Art.70
無効理由・証拠の追完無効提起後3か月期限徒過は不審理Art.73
無効での権利者答弁原則1か月訂正機会(時期限定)と直結Art.74

公式手数料(年金・審判等)

以下はTIPO公式の政府手数料(official fees)です。代理人費用・翻訳費・鑑定費は別途となります。金額は特許料金規則(NT$)に基づきます。

手続 発明 実用新案 意匠
特許証書料1,0001,0001,000
年金(1〜3年)2,500/年2,500/年800/年
年金(4〜6年)5,000/年4,000/年2,000/年
年金(7〜9年)8,000/年8,000/年(7年〜)3,000/年(7年〜)
年金(10年〜)16,000/年
無効審判 申立(意匠)8,000
再審査請求(意匠)3,500
実用新案 技術評価報告(10請求項まで)5,000
技術評価報告(超過1請求項あたり)600
移転・実施許諾登録2,0002,0002,000

長期ポートフォリオのコスト設計:発明は「10年以降の年金が16,000/年」と階段状に増加するため、権利束(ファミリー)ごとのROI評価で更新判定を行うのが合理的です。意匠は7年以降3,000/年と低額なので、保護ポートフォリオの「広め維持」が検討しやすい構造です。

無効審判・行政救済・侵害訴訟

無効審判(TIPO)の実務拘束

台湾では、日本のような独立した「異議申立段階」は標準フローには存在せず、第三者攻撃はTIPO無効審判(invalidation)→行政救済→行政訴訟に統合されます。無効は誰でも(any person)TIPOへ申立可能で、法定の無効理由(特許性欠缺、明細書要件違反、出願人適格等)に基づきます。

statement固定ルール:無効理由書(statement)は提起後に追加・変更不可(狭縮のみ可)です。理由・証拠は提起後3か月以内の追完が可能ですが、期限徒過は不審理となるため、提起時の立証計画が勝敗を決めます。権利者側は原則1か月で答弁します。

無効係属中の訂正(post-grant amendment)は「答弁提出時」等の限定された局面でのみ許され、訂正類型は「クレーム削除・減縮、誤記・誤訳訂正、明確化」に限定されます。誤訳訂正を除き出願時開示を超えてはならず、公告クレームの実質的拡張・変更も禁止されます。無効と訂正が同時進行した場合、TIPOは手続を併合して同時に判断します。無効確定時、特許権は「初めから存在しなかった」ものと擬制されます。

再審査と救済ルート選択

拒絶査定に対しては、送達後2か月以内に理由を付して再審査請求ができ、再審査は原審査に関与していない審査官が担当します。方式欠缺等で不受理・却下の場合は、再審査ではなく「直接」行政救済に進むことが条文上予定されており、拒絶理由対応と並行して救済ルート選択(再審査 vs 直行行政救済)の戦略判断が必要です。

民事訴訟(侵害)と救済手段

侵害(またはそのおそれ)がある場合、特許権者は差止・予防を請求でき、故意・過失があれば損害賠償、侵害物等の廃棄・除却も請求できます。損害額算定は以下の3通りが選択可能です。

損害額の算定(Art.97):
① 権利者利益の差額方式
② 侵害者利益方式
③ 合理的ロイヤルティ相当額方式
故意侵害の場合、裁判所は最大3倍まで増額できる(懲罰的賠償的機能)。消滅時効は、損害および賠償義務者を知った時から2年、侵害時から10年。

水際措置(税関留置)

特許権者は税関に対し、侵害疑い輸入品の留置を求めることができます。税関受理後、12日(必要なら12日延長)以内に侵害訴訟提起を行わない場合は留置解除となるため、申立時の疎明・担保と短期提訴の準備(管轄・被告特定・証拠保全)を同時並行で整える必要があります。

国際出願と外国人出願の特則

PCT非加盟の決定的影響

最重要ポイント:台湾はPCT非加盟国
PCT国際出願で台湾を指定して「国内段階に移行する」ことはできません。したがって、PCTを利用する場合でも、台湾での権利化は台湾への直接出願(+優先権)で設計する必要があります。具体的には、PCT出願日(またはその優先日)を優先日として12か月以内に台湾へ直接出願するスケジュールを事前に組む必要があります。

この制度設計上、PCTのメリット(国内移行判断を30か月まで後ろ倒し)が台湾では享受できないため、多国出願案件では「パリ優先12か月以内に台湾ルートを別枠で判断」する必要があり、予算・意思決定のタイムラインが日本・米国・欧州ルートとは分離されます。

外国人出願の受理要件と代理人強制

外国人出願の二要件:
相互主義(reciprocity):条約・協定・相互保護等が充足しない場合、外国人出願は受理されない
代理人強制:台湾域内に住所・営業所がない出願人は、台湾の代理人(patent attorney)選任が義務

これらは出願前KYCチェック(クライアント属性・国籍・居所の確認、委任状・名義・住所の整備)に組み込むべき事項です。日本企業の場合、日台間の相互保護は確保されているため受理要件は通常クリアしますが、代理人選任は必須です。

実務チェックリスト

出願前フェーズ
☑ 公開(学会・展示・販売)予定とグレース適用可否を確認(発明12か月/意匠6か月)
☑ 先願・先行技術調査(先願効果 Art.23 も含む)
☑ 外国人出願要件(相互主義・代理人強制)の確認
☑ PCT非加盟を前提とした「パリ優先12か月以内の直接出願」計画
☑ 発明/実用新案/意匠の類型選択(存続期間・審査方式・行使要件)

出願〜審査フェーズ
☑ 外文本提出の場合、翻訳方針(用語統一)と誤訳訂正プロトコルを整備
☑ 優先権:宣言事項を同時記載、証明書提出期限(16か月/意匠10か月)を管理
☑ 発明の実体審査請求(3年以内)をポートフォリオ戦略に組み込む
☑ OA対応:法条→審査基準の当てはめ→補強証拠の三層で反論構築
☑ 拒絶後は2か月以内の再審査請求+補正可否検討

権利化〜維持フェーズ
☑ 査定後3か月の証書料+第1年年金納付(発明)
☑ 年金体系(特に10年以降の16,000/年)を織り込んだ長期費用見積
☑ 実用新案は技術評価報告を取得してから警告・訴訟
☑ ライセンス:排他/通常、サブライセンス、訂正・無効対応、登録の要否を契約条項化
☑ 移転・実施権はTIPO登録(recordation)で第三者対抗要件を確保

争訟フェーズ
☑ 無効係属中の訂正は「時期・類型」が限定されるため、答弁と同時設計
☑ 無効理由・証拠の追完は提起後3か月以内に完結
☑ 水際:留置申立と同時に12日提訴へ備える(被告特定・証拠保全)
☑ 損害額算定の3方式(権利者利益/侵害者利益/合理的ロイヤルティ)比較
☑ 故意侵害の3倍増額の主張余地を初期段階で検討

まとめ:台湾特許戦略の要点

台湾特許制度は、発明・実用新案・意匠の3類型、TIPOによる中央集権的審査、知財専門裁判所による司法審査、という明確な骨格を持つ一方、PCT非加盟という国際制度上の特異性を最重要の実務前提として織り込む必要があります。

第一に、PCTルートが使えないため、台湾権利化はパリ優先12か月以内の直接出願で設計します。多国案件のスケジュール・予算配分で、台湾だけが「30か月猶予なし」という前提を社内に共有することが、権利喪失防止の第一歩です。

第二に、外文本出願と翻訳誤りリスクの管理が品質管理の中心です。中国語訳が法定審査テキストとなる一方、翻訳誤り訂正は外国語原文に縛られるため、用語統一・訳語精査のプロトコル整備が補正・訂正の自由度を確保します。

第三に、無効審判のstatement固定ルールを踏まえ、無効提起時の立証計画と3か月以内の追完戦略を事前に組み立てる必要があります。権利者側も、答弁と同時の訂正設計(時期・類型の限定)が防御の要です。

第四に、実用新案は技術評価報告なしに権利行使できない点、外国人は代理人選任が義務である点、水際措置は12日の短期提訴が前提である点など、「台湾特有の運用制約」を出願・権利行使の各局面で仕組み化することが、日本・米国・欧州とは異なる実務アレンジの核心です。

台湾特許の権利化・権利行使は、特許法条文・TIPO審査基準・智慧財産及商業法院判例の連動を前提にした実務設計を要します。日本の弁理士と台湾代理人の協働で、類型選択・期限管理・訴訟戦略を案件ごとに検討することが推奨されます。

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