ジョージア(旧称グルジア。日本は2015年4月22日に呼称を変更)は、黒海の東岸、コーカサス山脈の南に位置する面積6万9,700平方キロメートル(日本の約5分の1)、人口約370万人、GDP約338億米ドル、1人当たりGDP約9,100米ドル(2024年、IMF)の国で、2024年の実質成長率は9.4%と高成長が続き、世界銀行の「Doing Business 2020」ではビジネスのしやすい国の第7位に挙げられました(外務省)。日本との関係では、2024年の日本からの輸出が約844億円(自動車、タイヤ、自動車部品、二輪車)、輸入が約22.5億円(果実、アルミニウム、衣類、ワイン)、在留邦人は200人(2024年10月)で、2021年7月に日・ジョージア投資協定と租税条約がそろって発効しています(外務省)。ワイン・ミネラルウォーターの産地として知られる一方、日本車の中古車・部品、タイヤ、化粧品、食品、ゲーム・アニメ関連商品の流通が増え、南コーカサスと中央アジアへの物流拠点としてのジョージアでの商標保護の相談が増えています。
ジョージアの商標制度は、1999年2月5日の「商標に関するジョージア法」(法律第1795号。以下「商標法」)に基づき、ムツヘタに本部を置く公法上の法人ジョージア国立知的財産センター「サクパテンティ」(Sakpatenti/საქპატენტი)が審査・登録を行います。欧州知的財産庁(EUIPO)との共同プロジェクト「EUGIPP」の下で起草された2024年2月21日の改正法(法律第4048号、2024年3月8日施行)により、図形的表示要件の撤廃、絶対的・相対的拒絶理由の見直し、区分見出しの文言どおりの解釈、証明標章の導入、異議・無効手続での先行商標の使用証明、5年の黙認による失権など、EU商標指令に沿った制度になりました。審査ではサクパテンティが絶対的理由と先行商標の両方を職権審査し、公告後に第三者が3か月以内にサクパテンティ審判部(Chamber of Appeals)へ登録決定を争う仕組みで、先行権利者の同意書で引用を克服できます。費用は政府決議で米ドル建て(ラリで支払い)に定められ、電子出願は20%引きで、1区分の出願から登録証までが電子出願で336米ドル(約5.3万円)、3区分でも416米ドルと欧州では手頃です。存続期間は登録日から10年、不使用取消は5年で裁判所、無効も裁判所が扱い、サクパテンティの決定への不服は審判部を経てムツヘタ地方裁判所に行政訴訟で争います。マドリッド協定議定書には1998年に加盟し、拒絶通報期間は18か月、個別手数料はCHF 314です。本記事では、商標法の現行条文(法令公報ポータル「マツネ」の2024年12月12日統合版英訳)、サクパテンティの商標登録規則(2025年版英訳)と料金表、国境措置法、刑法・行政違反法典、WIPOの加盟情報と統計、外務省のデータを一次資料として、出願から異議・取消・権利行使・マドプロとの使い分けまでを弁理士が実務目線で整理します。
この記事のポイント
目次
ジョージアの商標制度の根拠法は、1999年2月5日の「商標に関するジョージア法」(法律第1795号、1999年2月24日公布、公布3か月後に施行)です。ソ連時代の1992年閣僚会議令第304号「商標規程」に代わる独立後初の本格的な商標法で、2005年の改正(法律第2380号、マドリッド議定書対応の章を新設)、2010年の改正(法律第3159号・第3743号、早期登録手続の導入、料金の政府決議化)、2015年・2017年(2回)・2018年・2021年の改正を経て、2023年9月21日(法律第3494号)と同年11月30日(法律第3874号)の改正、そして最大の改正である2024年2月21日の法律第4048号(2024年3月8日施行)、さらに2024年12月12日の法律第108号による改正が加わっています。法令公報ポータル「マツネ(Legislative Herald of Georgia)」には2024年12月12日付の統合版が公式英訳付きで公開されており、本記事はこの版の条文番号で記述します。
2024年改正は、EUIPOとジョージアの共同プロジェクト「EUGIPP(EU-Georgia Intellectual Property Project)」の下で起草され、サクパテンティがWIPOに提出した2024年の年次技術報告によれば「EU法との調和」を目的としています。主な内容は、(1) 商標の定義から図形的表示(graphic representation)の要件を外し、登録簿に「明確かつ判然と」表示できる標識であれば足りるとしたこと(第3条1項)、(2) 絶対的・相対的拒絶理由の見直し(第4条・第5条)、(3) 指定商品の記載は「明確かつ正確」であることを求め、区分見出しは文言どおりの意味にのみ及ぶとしたこと(第11条の1)、(4) 出願・登録の分割と併合(第12条3項、第19条の1)、(5) 証明標章の章の新設(第38条の1〜第38条の9)、(6) 審判部への異議申立て・無効請求で、登録から5年を超える先行商標の権利者に使用証明を求める制度(第16条4項の3、第28条11項)、(7) 先行商標権者が後願商標の使用を知りながら5年間黙認した場合の無効請求の失権(第28条9項)と、登録商標同士の関係規定(第45条の1)、(8) 侵害に対する一時金補償の明文化(第45条、2017年改正で導入)などです。
審査・登録機関は、特許法で定められた公法上の法人「ジョージア国立知的財産センター・サクパテンティ」(LEPL National Intellectual Property Center of Georgia "Sakpatenti")です(第2条a号)。本部は首都トビリシの北西約20キロの古都ムツヘタ(5 Antioch St., Mtskheta 3300)にあり、出願受付と相談窓口はトビリシ(6 N. Ramishvili St.)に置かれています。特許、意匠、商標、地理的表示、著作物の寄託、植物品種まで一元的に所管し、産業財産権の取得に関する紛争を審理する審判部(Chamber of Appeals)をその内部に持ちます(第2条l号、特許法第9条)。弁理士(patent attorney)の資格試験と登録もサクパテンティが行い、2024年5月15日の弁理士法(法律第4166号、2025年1月1日施行)により、一般弁理士と商標専門の弁理士(trademark attorney)はいずれもジョージア国籍を持ち登録簿に登録された者と定義されています(弁理士法第2条b号・c号、第6条)。
料金は商標法第22条の委任を受けた政府決議で定められ、サクパテンティの公式料金表は米ドル建て(ラリ相当額で支払い)で表示されています。電子出願ポータル(online.sakpatenti.gov.ge)からの出願には20%の減額が適用され、2026年10月26日からは電子案件管理システムの請求書番号で複数料金をまとめて支払える新しい電子決済システムが稼働します(サクパテンティ2026年10月20日発表)。
| 項目 | ジョージアの制度(根拠条文) |
|---|---|
| 根拠法 | 商標に関するジョージア法(1999年2月5日法律第1795号)。2024年2月21日法律第4048号(2024年3月8日施行、EU整合)、2024年12月12日法律第108号で改正。統合版2024年12月12日 |
| 管轄機関 | ジョージア国立知的財産センター「サクパテンティ」(ムツヘタ本部、トビリシ窓口)。内部に審判部(Chamber of Appeals)。料金は政府決議で米ドル建て、電子出願20%引き(第22条) |
| 審査の範囲 | 方式審査(1か月、第13条)と実体審査(方式審査完了から6か月、第14条)。実体審査で第4条の絶対的理由と第5条の相対的理由(先行商標・先行意匠・地理的表示・著名人名等)を職権審査。先行権利者の書面同意で登録可(第5条b〜d号) |
| 異議期間 | 登録決定後1か月以内に公報に出願公告(第15条)。公告から3か月以内に、絶対的理由は何人も、相対的理由は先行権利者が審判部に登録決定の取消しを申し立てる(第16条4項・4項の2)。審判部は3か月で審理(第16条5項) |
| 存続期間・更新 | 登録日から10年。最終年に更新申請、満了後6か月は追納可、その後は回復不可(第20条) |
| 不使用取消・無効 | 不使用(継続5年)、普通名称化、品質誤認は第三者の請求で裁判所が取消し(第27条2項)。無効(第4・5条違反、悪意、代理人登録、先行商号・著作権・周知商標等)も裁判所(第28条)。使用を知って5年黙認で無効請求権喪失(悪意を除く) |
| 不服申立て | 拒絶決定は3か月以内に審判部へ(第16条1〜2項、手数料200米ドル)、審判部決定は行政訴訟として1か月以内に裁判所へ(第16条6項、登録規則第19条6項。サクパテンティはムツヘタ地方裁判所と案内) |
| 消尽 | 権利者または同意を得て流通に置かれた商品には権利が及ばない(第7条2項、領域の限定なし)。国境措置法は真正品を対象外と明記(同法第13条b号) |
| マドプロ | 議定書のみ加盟(1998年8月20日発効)。拒絶通報18か月、個別手数料CHF 314+115/追加区分。国内段階では実体審査のみ(第41条)、公報掲載から3か月の異議(第42条3項) |
サクパテンティは英語での年次統計を体系的に公開しておらず、WIPOに提出した2024年の年次技術報告(ATR)にも件数は記載されていません。本記事ではWIPOの「Statistical Country Profile: Georgia」(2024年データ)を用います。同プロファイルの商標統計は区分数ベース(1出願で3区分なら3件と数える)である点に注意してください。
日本からの出願は上位5か国に入っておらず件数は非公表ですが、日本車・部品・タイヤの輸出(2024年844億円)に比べてジョージア向け商標出願はまだ少なく、中古車・部品の並行流通やゲーム・アニメ関連商品の模倣が先行しやすい市場です。サクパテンティが周知商標として認定したリスト(26件)には、Coca-Cola、WINSTON、STOLICHNAYA、GEOX、McLAREN、Festal、ブルガリア製薬のALMAGELやTEMPALGIN、ジョージアの飲料「ナタフタリ」や銀行「TBC」などが並び、医薬品・飲料・たばこ・アパレルの外国ブランドが周知認定を受けている点は、日本企業にとっても有用な先例です。
商標は「商標登録簿に記載され、明確かつ判然と構成され、ある企業の商品・役務を他の企業のものから識別できる標識または標識の組合せ」と定義され、文字、名称、アルファベット、数字、音、画像、色彩、商品や包装の形状が例示されています(第3条1〜2項)。2024年改正で図形的表示の要件が外れたため、音商標や動きの商標など非伝統的商標も電子ファイルで出願できるようになりました。保護はサクパテンティへの登録または国際条約に基づいて生じ(第3条3項)、周知商標はパリ条約6条の2により登録なしで保護されます(第3条4項)。周知性の認定は利害関係人の申立てにより審判部または裁判所が行い、サクパテンティはこれまでに認定した26件のリストを公開しています。団体商標(第30〜38条。事業者団体または公法人のみ出願でき、地理的表示を内容とする団体商標も可)と、2024年改正で新設された証明標章(第38条の1〜9)も登録できます。
絶対的拒絶理由(第4条1項)は、(a) 商標の定義を満たさない、(b) 識別力がない、(c) 種類・品質・数量・特性・価値・用途・産地・販売地・製造時期などの記述的表示、(d) 普通名称・慣用表示、(e) 公序良俗違反、(f) 特性・品質・産地等について消費者を欺く標識、(g) パリ条約6条の3の国章・国旗等、およびジョージアまたはその地域の現在・歴史上の名称(文化省の同意がない場合)、(h) 6条の3の対象外でも公益上保護すべき団体の紋章・名称、(i) ジョージアで保護される植物新品種の名称(同一・類似の品種を指定する場合)、(j) 商品の性質に由来する形状、技術的効果を得るために必要な形状、商品に本質的価値を与える形状その他の特徴、です。(b)〜(d)と(f)は、登録決定までに使用による識別力を獲得していれば適用されません(第4条3項)。
相対的拒絶理由(第5条)は、(a) 先願の登録商標と商標・商品ともに同一、(b) 商標が同一で商品が類似し混同(連想による混同を含む)のおそれがある、(c) 商標が類似し商品が同一・類似で混同のおそれがある、(d) ジョージアで登録された先願の意匠と同一(意匠権者本人の出願を除く)、(e) ジョージアで保護される地理的表示・原産地名称と同一・類似・包含し、同一類似商品について混同のおそれがあるかその名声を利用する場合、(f) 出願前にジョージアで知られた人物の氏名・ペンネーム・サイン・肖像(本人・相続人の同意、歴史文化上の人物は文化省の同意がない場合)、(g) ジョージアの文化遺産・博物館の名称や画像(文化省の同意がない場合)です。(b)〜(d)は、先行商標・先行意匠の権利者の書面による同意を提出すれば適用されないと条文に明記されており、同意書(letter of consent)が正面から認められるのがジョージアの特徴です。なお、周知商標、名声のある登録商標、先行商号、著作権、悪意などは審査段階の拒絶理由ではなく、登録後の無効理由(第28条1項b〜i号)として整理されています(ただし第16条4項c号により、これらの理由でも公告後3か月の異議申立ては可能です)。
実体審査では、サクパテンティが第4条と第5条の両方を職権で審査します(第14条2項)。日本と同じく先行商標が引用されるため、出願前の先行調査が欠かせません。サクパテンティのデータベースでは、ラテン文字だけでなくジョージア文字(მხედრული)やキリル文字の表記も検索対象にします。登録規則は、外国語の文字商標には願書の記述欄(コード571)に音訳(transliteration)・転写・可能なら翻訳を記載することを求め、サクパテンティは科学アカデミーの辞書に基づく独自の音訳規則(例:t/th→თ/ტ、p/ph/f→პ/ფ、c/k/q→კ/ქの対応)を公開しています。同じ日本語ブランドでもジョージア文字の表記が複数あり得るため、公式規則に沿った表記を願書に記載し、必要ならジョージア文字版も別途出願しておくのが安全です。
実務上の注意:地名・文化遺産・ワイン産地との抵触
ジョージアは「Kindzmarauli」「Tsinandali」などワインの原産地名称を多数登録し、2016年発効のEU・ジョージア連合協定でEUの地理的表示も相互保護しているため、産地・品種を連想させる語(Saperavi、Khvanchkara、Borjomiなど)を含む商標は第4条c号・第5条e号で拒絶されやすく、第24条4項により保護された地理的表示を非保護部分として含む商標の使用には管轄当局の同意が必要です。また、ジョージアや地域の歴史上の名称(Iberia、Colchis など)や文化遺産・博物館の名称は文化省の同意がなければ登録できません(第4条g号、第5条g号)。日本企業が和風の地名・歴史名称を使う分には問題になりにくい一方、現地向けに「ジョージア風」のネーミングを採用する場合は要注意です。
出願人と代理人:出願人は自然人・法人を問いません(第2条g号)。商標法は出願人または代理人による出願を認める(第9条1項)だけで、外国人の弁理士強制を明文で定めていませんが、サクパテンティ長官令の商標登録規則(2014年8月19日第05号、2024年6月26日改正までを反映した2025年版)第6条4項は、ジョージアに恒久的な住所がない外国出願人に対し、サクパテンティの求めから15日以内にジョージア国内の住所に登録された代理人または弁理士を選任することを義務づけ、選任しない場合は手続を終了すると定めています。実務上、日本企業はサクパテンティに登録されたジョージアの弁理士(商標専門弁理士を含む)を通じて出願します。委任状は出願人の署名があれば足り、作成地の法律に従って作成するものとされ(規則第6条2〜3項)、公証・認証は求められていません。
願書:ジョージア語で作成し(第9条2項)、1商標1出願(第9条4項)で、(a) 登録請求、(b) 出願人の名称・住所、(c) 商標の表示、(d) 指定商品の一覧、(e) 代理人の表示、(f) 署名を記載します(第9条5項)。指定商品の一覧は外国語で添付でき、出願日から1か月以内にジョージア語訳を提出すれば足ります(第9条5項d号)。指定商品は国際分類に従い、保護範囲が明確に特定できる記載が必要で、区分見出しの一般表示は文言どおりの意味にしか及びません(第11条の1)。願書には外国語文字商標の音訳・転写、図形要素の説明を記載します(規則第10条f号)。出願は紙でも電子(online.sakpatenti.gov.ge)でも可能で、電子出願には20%の料金減額があります。
出願日と優先権:出願日は第9条2項・5項の要件を満たした書類がサクパテンティに提出された日です(第10条)。ただし、方式審査料を出願から15暦日以内に納付しなければ出願は却下され(第13条4項)、優先日も方式審査料の納付を条件に出願日となります(第11条1項)。納付額が1区分分に満たない場合は却下、一部の区分分しかない場合は出願人の選んだ区分(指定がなければ最初の区分から)のみ審査されます。パリ条約の条約優先権と博覧会優先権は6か月で、主張の意思を出願から1か月以内に通知し、優先権証明書を3か月以内に提出し、優先権手数料(30米ドル)を1か月以内に納付します(第11条2〜5項)。商品ごとに異なる優先日を認める部分優先も可能です(第11条5項の1)。
方式審査は出願から1か月以内に行われ(第13条1項)、要件を満たせば出願日を確認する証明書が発行され、審査受理と優先権確認の決定が通知されます(第13条3・5項)。サクパテンティは追加資料を求めることができ、提出期限は通知到達から最長2か月で、徒過すると審査拒否の決定になります(第12条2項)。実体審査は方式審査完了から6か月以内に行われ(第14条1項)、第4条・第5条の拒絶理由の有無を審査して、全部または一部の商品について登録決定か拒絶決定が通知されます(第14条3項)。拒絶理由がある場合は登録規則に基づき通知が送られ、出願人は2か月以内に意見書を提出でき(期間延長は1か月単位で有料)、指定商品の限定(第12条5項c号)や同意書の提出で対応します。出願人は審査の中断を合計3か月まで申請でき(有料、第12条5項a号)、公告前に手続が終了した場合は有料で手続の再開も認められます(第12条5項e号)。
公告・異議・登録:登録決定から1か月以内に、商標、出願人、指定商品、優先日が産業財産公報(Bulletin)に公告されます(第15条1・3項)。公告日から登録日までの間、出願人には登録後と同じ権利が暫定的に認められます(第15条4項)。公告から3か月の間に審判部への申立てがなければ、サクパテンティは商標を登録簿に登録して公報に掲載し(第17条1項)、登録証を発行します(第18条)。異議期間が経過すると(または審判部が登録を認めると)サクパテンティから登録・登録証発行料(150米ドル、10年分)の納付通知が送られ、通知から3か月以内に納付しないと出願は取り消されます(登録規則第23条)。拒絶理由や異議がなければ、出願から登録まで11〜12か月程度が法定期間からの目安です(WIPOの統計ではサクパテンティの登録までの平均日数は245日と算定されています)。
早期登録手続(第15条の1):出願時または受理通知から3か月以内に、必要書類と早期審査料・登録料をそろえて請求すると、サクパテンティは3日以内に書類を点検し(不備は15日以内に補完)、7営業日以内に第4条・第5条の審査を行って、登録決定なら直ちに登録・公報掲載・登録証発行まで行います(サクパテンティの案内では「10営業日で手続完了」)。通常手続と異なり公告後の異議期間を置かず登録するため、登録公報から3か月以内に利害関係人が審判部に登録取消しを申し立てる事後異議の仕組みになっており(第15条の1第7項)、先願の優先権主張が後から出て第5条の理由が判明した場合はサクパテンティが職権で登録を取り消します(同8項)。費用は1区分で方式200米ドル+実体300米ドル+登録・登録証・公告340米ドル=840米ドル(電子672米ドル、約10.6万円)、追加区分は各100米ドルです。展示会出展や税関登録を急ぐ場合に有効です。
サクパテンティの料金は商標法第22条の委任に基づく政府決議(2010年7月3日第182号、改正あり)で定められ、公式料金表は「米ドル(国内通貨での相当額)」で表示されています。支払いは国庫の統一口座にラリで行い、2026年10月26日からサクパテンティの電子決済システム(請求書番号によるインターネットバンキング・カード決済)に移行します。電子出願には登録証の発行を含めて20%の減額が適用されます。以下は2026年10月時点のサクパテンティ料金表(米ドル)で、円換算は1米ドル≒158円の概算です。
| 手続 | 料金(米ドル) | 備考 |
|---|---|---|
| 方式審査(1区分) | 90 | 追加区分ごとに50。出願から15暦日以内に納付(第13条4項)。団体・証明標章は150+90 |
| 実体審査 | 120 | 区分数によらず定額。団体・証明標章は310 |
| 公告 | 60 | 登録決定後の出願公告 |
| 登録・登録証・10年分の権利維持 | 150 | 出願人が複数なら追加の登録証は各30。団体・証明標章は550 |
| 出願から登録までの合計(1区分) | 420(電子出願336≒5.3万円) | 3区分なら520(電子416≒6.6万円)。追加区分1つにつき+50のみ |
| 条約優先権・博覧会優先権の主張 | 30 | 出願から1か月以内に納付(第11条5項) |
| 早期登録:方式審査/実体審査/登録・登録証・公告 | 200/300/340 | 1区分合計840(電子672≒10.6万円)。追加区分は各項目+100(3区分で1,440) |
| 審判部への不服申立て・異議(商標) | 200 | 団体・証明標章は400 |
| 更新(10年、1区分) | 300 | 追加区分ごとに50。最終年に申請、満了後6か月は追納可(第20条) |
| 出願書類の補正・変更(1請求) | 60 | 優先日確定後の補正は有料(第12条5項c号) |
| 審査の中断(1か月ごと)/期間延長(1か月ごと) | 50/30 | 中断は合計3か月まで(第12条5項a号) |
| 手続の再開 | 90 | 公告前に終了した手続の再開(第12条5項e号) |
| 出願の分割・併合/登録商標の分割(分割後1件ごと)/分割商標の併合 | 60/150/60 | 2024年改正で導入(第12条3項・3項の1、第19条の1) |
| 登録簿の変更(1商標1請求) | 60 | 名称・住所変更、指定商品の限定など(第19条) |
| 譲渡・ライセンス等の契約の登録(1商標) | 90 | 登録しないと新権利者は第三者に対抗できない(第25条8項) |
| 指定商品一覧の明確化(1区分) | 50 | 2024年改正法第2条の経過措置による既登録商標の指定商品の明確化。2025年3月9日までは無料 |
| 登録簿抄本/出願書類の認証謄本/登録証の再発行 | 30/30/90 | 税関登録や訴訟の証拠に使用 |
| 国際出願(マドプロ)の認証・WIPO送付 | 60 | ジョージアを本国官庁とする場合。事後指定も60 |
| マドプロ個別手数料(ジョージア指定) | CHF 314(1区分)+CHF 115/追加区分 | 更新も同額。3区分でCHF 544(約10.1万円)。これにWIPO基本手数料CHF 653(白黒)が加わる |
国内出願の公的費用は1区分で420米ドル(電子出願336米ドル、約5.3万円)と、周辺国(セルビアやウクライナ)と同程度か安く、追加区分が50米ドルで済むため多区分出願に向いています。これに現地弁理士の費用(事務所により異なり、出願から登録までで10万〜20万円程度が一般的な目安で、拒絶理由対応や異議は別)が加わります。マドプロ指定は個別手数料だけで3区分CHF 544(約10.1万円)となり、国内出願の公的費用より高くなりますが、現地代理人費用を節約でき、複数国を同時に押さえる場合には有利です。料金表は政府決議の改正で変わるため、出願前にサクパテンティの最新の料金ページで確認してください。
ジョージアには「異議申立て(opposition)」という独立の章はなく、登録決定に対する審判部への不服申立てがその機能を果たします。出願公告から3か月以内に、(a) 第4条の絶対的理由、(b) 第5条の相対的理由、(c) 第28条1項b〜i号の無効理由(悪意、代理人登録、先行商号、著作権、周知商標、名声のある登録商標、先行する識別標識、人格権)を理由として、サクパテンティ審判部(Chamber of Appeals)に登録決定の取消しを求めることができます(第16条4項)。申立人適格は、絶対的理由と文化遺産名称(第5条g号)は何人も、その他の相対的理由と無効理由は先行権利者のみです(第16条4項の2)。既に確定した裁判所の判断に基づく登録決定を同じ理由で争うことはできません(第16条4項の1)。
2024年改正で導入された重要な防御が使用証明の要求です。出願人が求めれば、登録から5年を超える先行商標を根拠に申し立てた先行権利者は、後願の出願日または優先日前5年間にジョージアで先行商標を実際に使用した証拠(または正当な不使用理由)を審判部に提出しなければならず、提出できなければ手続は終了します。一部の商品についてしか使用がなければ、その部分についてのみ登録されているものとして扱われます(第16条4項の3)。審判部は申立てから3か月以内に審理し(第16条5項)、手数料は商標1件につき200米ドルです。審判部の決定には裁判所への出訴が認められ(第16条6項)、登録規則第19条6項は「行政訴訟の手続により1か月以内に裁判所へ」と定めています。サクパテンティの案内では、出訴先はサクパテンティの所在地を管轄するムツヘタ地方裁判所で、拒絶決定については審判部を経ずに直接同裁判所に1か月以内に提訴することも可能とされています。審判部の組織・手続は2011年3月18日の長官令第02号「審判部規程」で定められ、EUGIPPの下で新規程の検討も行われました。
出願人側の不服も同じ審判部が扱います。方式審査での審査拒否決定には決定から3か月以内(第16条1項)、実体審査での全部・一部拒絶決定にも3か月以内(第16条2項)に申し立てます。審判部が登録を認めれば、サクパテンティは1か月以内に出願公告を行い(第15条2項)、裁判所の確定判決で拒絶が覆った場合も同様に公告されます(第15条2項の1)。マドプロでジョージアを指定した国際登録については、暫定拒絶に対する不服は国際事務局からの通知送付日から3か月以内に審判部へ、第三者の異議は保護決定の公報掲載から3か月以内です(第42条3項、登録規則第19条4項)。
実務上の注意:公報監視と3か月の期限
サクパテンティは先行商標を職権で引用しますが、類否判断の幅や、周知商標・商号・著作権・悪意といった審査対象外の理由をカバーするには、公報の監視が欠かせません。産業財産公報はサクパテンティのサイトで公開され、国内出願の公告と国際登録の保護決定が掲載されます。3か月の期限に延長はなく、申立てはジョージア語で現地の弁理士を通じて行います。自社の先行商標が登録から5年を超えている場合は、出願人から使用証明を求められることを前提に、ジョージア国内での使用証拠(請求書、ラベル、広告、通関書類など)を整えてから申し立ててください。
商標の存続期間はサクパテンティに登録された日から10年です(第20条1項)。日本やEU、周辺国の多くが出願日起算であるのに対し、ジョージアは登録日起算である点は管理上の注意点で、出願から登録まで約1年かかる分だけ実質的な保護期間が長くなります。更新は10年ごとに回数の制限なくでき、権利者が登録の有効期間の最終年に申請し、更新料(1区分300米ドル、追加区分50米ドル)を納めます(第20条2項)。期限を過ぎても、満了後6か月以内であれば更新料を納めて更新できますが、この期間も徒過すると登録は満了日に遡って抹消され、回復の余地はありません(第20条4項)。権利者の請求で抹消した登録も回復できません(第20条6項)。更新は登録簿と登録証に記録され、公報に掲載されます(第20条3項)。
登録簿には商標の表示、権利者、優先日、登録日、指定商品、その他の登録情報が記録され(第17条2項)、誰でも閲覧と認証付き抄本(30米ドル)の交付を請求できます(第17条3項)。権利者の名称・住所変更や指定商品の限定などの変更は権利者の申請で登録簿に記録され、登録後に効力を生じ、次の公報で公示されます(第19条)。商標自体の変更は保護範囲を広げない軽微なものに限られ、指定商品は限定・明確化のみ可能です。2024年改正で、登録商標を指定商品に重複がないように複数の登録に分割すること(分割後1件150米ドル)、分割した商標を再び併合すること(60米ドル)が認められ、出願日と優先日は維持されます(第19条の1)。
2024年改正法の経過措置として、区分見出しをそのまま指定していた既登録商標は、保護範囲が文言どおりの意味に限定されることになったため、権利者は指定商品の明確化を請求できます。サクパテンティの料金表は2025年3月9日まではこの明確化を無料とし、以後は1区分50米ドルを課すと注記しています。法律事務所の解説では、譲渡・ライセンス・更新・変更登録の際にサクパテンティが明確化を求め、経過期間の終期は2029年3月7日とされていますが、本記事では経過規定の原文を確認できていないため、既登録商標をお持ちの企業は現地弁理士に経過措置の期限を確認してください。
取消し(第27条)には、サクパテンティが行うものと裁判所が行うものがあります。サクパテンティは、権利者の請求(ライセンス登録がある場合はライセンシーへの通知が条件)、権利者の死亡・解散で承継人がいない場合、早期登録後に先願の優先権が判明した場合に登録を取り消します(第27条1項)。裁判所は第三者の請求により、(a) 指定商品についてジョージアで継続5年間、実際に使用されていない場合、(b) 普通名称化した場合、(c) 権利者の使用が商品の種類・品質・産地等について消費者を誤認させる場合に登録を取り消します(第27条2項)。不使用取消は、5年経過後、取消請求前に使用を開始または再開していれば認められず(第27条2項a号)、輸入制限など権利者の支配の及ばない事情による不使用は正当理由となります(第27条3項)。一部の商品にのみ理由があれば一部取消しです(第27条4項)。不使用取消を扱うのはサクパテンティではなく裁判所である点は、審判部で処理できるセルビアやウクライナの審判庁と異なる、ジョージアの特徴です。
「使用」には、権利者本人のほかライセンシーおよび権利者の同意を得た第三者による使用が含まれ(第24条1項)、識別力を変えない範囲で要素を変えた使用や、輸出用商品・包装への国内での商標の貼付も使用に当たります(第24条3項)。使用は市場での実際の使用と評価される程度であることが必要です(第24条5項)。地理的表示を非保護部分として含む商標の使用には当局の同意が要ります(第24条4項)。
無効(第28条)も裁判所が第三者の請求により宣言します。理由は、(a) 第4条・第5条に違反した登録、(b) 悪意(dishonest intention)による登録、(c) パリ条約加盟国の商標権者の代理人・代理店による無断登録(権利者は無効の代わりに登録の移転を請求できる、第28条4項)、(d) 出願前に取得された商号との混同、(e) 優先日前に生じた著作権の侵害、(f) 出願前にジョージアで周知の商標と同一・類似(非類似商品でも不正利用・毀損があれば)、(g) ジョージアで名声のある先願登録商標の不正利用・毀損(非類似商品を含む)、(h) 優先日前に生じた先行する識別標識の権利者が使用を禁止できる場合、(i) 民法第18条(人格権)により使用が禁止される場合です。請求権者は、第4条と第5条g号は何人も、その他は先行権利者のみです(第28条3項)。第4条1項b〜d号・f号違反の登録でも、使用により識別力を獲得していれば無効にならず(第28条2項)、先行権利者が提訴前に書面で同意していた場合も無効にできません(第28条7項)。
2024年改正で加わったEU型の制限が二つあります。第一に黙認による失権で、先行商標の権利者が、後願商標のジョージアでの使用を知ってから5年以内に提訴しなければ、その使用商品について無効を請求できなくなります(悪意登録は除く)。この場合、後願商標の権利者も先行商標の使用を禁止できず、両商標が併存します(第28条9〜10項、第45条の1)。第二に使用証明で、登録から5年を超える先行商標を根拠とする無効請求では、被告の求めにより、後願の出願日・優先日前5年間の実使用を証明しなければ手続が終了します(第28条11〜12項)。また、同じ先行権利者が一度請求した後に、最初の請求で主張できた別の理由で再度請求することはできません(第28条8項)。無効が確定すると権利は当初から存在しなかったものとなりますが、確定済みの侵害判決や履行済みの取引には遡及しません(第29条2〜3項)。取消しの場合は登録簿への記録日から将来に向かって消滅します(第29条1項)。
譲渡(第25条):商標権は企業の譲渡と一体でも単独でも、指定商品の全部または一部について譲渡できます。契約は書面でなければ無効で(第25条5項)、企業の譲渡には別段の定めがない限り商標も含まれます(第25条4項)。一部譲渡では、譲渡部分と残存部分の指定商品が重複してはなりません(第25条6項の2)。譲渡は有料(1商標90米ドル)で登録簿に記録され公報に掲載され、記録されるまで新権利者は第三者に権利を行使できません(第25条7〜8項)。日本企業が現地パートナーから商標を買い戻す場合や、グループ内で名義を整理する場合も、必ずサクパテンティへの登録まで完了させてください。
ライセンス(第26条):独占的・非独占的ライセンスを指定商品の全部または一部について設定でき、性質を定めなければ非独占とみなされます(第26条2〜3項)。独占ライセンスでは、別段の定めがない限りライセンサー自身も使用できず、登録の有効期間中効力を持ちます(第26条4項)。サブライセンスは契約で直接認められた場合に限られ(第26条5項)、期間・態様・商品・地域・品質に関する契約違反に対してはライセンサーが商標権を行使できます(第26条6項)。ライセンス契約はサクパテンティに登録して公報に掲載します(第26条7項、90米ドル)。侵害訴訟は、ライセンシーは権利者の同意がある場合にのみ提起でき、独占的ライセンシーは権利者に正式に通知した後、合理的期間内に権利者が提訴しなければ単独で提訴できます(第26条8項)。ライセンシーは自己の損害の回復のために訴訟に参加できます(第26条9項)。
消尽(第7条2項):権利者は「権利者自身または権利者の同意を得て流通に置かれた商品」について第三者の商標使用を禁止できず、商品の性質が変化し、品質が劣化し、その他の重大な禁止理由がある場合に限り権利を行使できます。条文は流通に置かれた地域を限定していないため、文言上は国外で正規に販売された商品の並行輸入にも権利が及ばない国際消尽型と読めます。国境措置法も「真正品は権利者の同意なく移動している場合でも対象外」と明記しています(同法第13条b号)。したがって、日本やEUで正規に販売された商品がジョージアに並行輸入されても、商標権で止めることは難しいと考えておくべきです(この点の裁判例は本記事では確認できていません)。並行輸入対策は、販売代理店契約での地域制限、ジョージア向けの仕様・保証の差別化、商品の改変・品質劣化を理由とする第7条2項但書の主張など、契約と事実に基づく対応が中心になります。
権利の制限(第7条1項):権利者は、自然人の氏名・住所、記述的表示、商品の用途を示すための参照的使用(部品・付属品であることの表示など)を善意の事業慣行に従って行う第三者の使用を禁止できません(第7条3項)。辞書や百科事典で商標が普通名称のように掲載された場合、権利者は出版者に登録商標である旨の注記を求めることができます(第8条)。
登録商標の排他的権利は登録日から生じます(第6条1項)。権利者は、業として無断で使用される標識が、(a) 商標・商品ともに同一、(b) 商標が同一で商品が類似し混同のおそれ、(c) 商標が類似し商品が同一・類似で混同のおそれ、(d) 商標が同一・類似でジョージアで名声を有し、商品の同一性にかかわらず不正な利益や毀損をもたらす場合に、その使用を禁止できます(第6条2項)。禁止される行為には、商品・包装への付着、その標識の下での提供・流通・保管・輸入・輸出、役務の提供、広告・取引書類での使用、商号またはその一部としての使用が含まれ(第6条3項)、同一・類似の標識を付した包装材・ラベル・タグの製造・販売・保管・輸出入も禁止されます(第6条4項)。
救済(第45条)は2017年改正でEU執行指令に沿って整備されました。権利者は、(a) 侵害行為の停止、(b) 侵害品の流通からの除去(輸入品・保管品を含む)、(c) 商標を除去できない場合の侵害品の廃棄、(d) 商標を含む画像・ラベル・包装・広告の廃棄とインターネット上の表示の削除、(e) 商標の作成に用いる型・機器・設備の廃棄を、単独または複数同時に請求できます(第45条1〜2項)。停止請求は、自己のサービスが商業的規模の侵害に使われていることを知り、または知り得た仲介者に対しても裁判所の決定で認められます(第45条3項)。金銭的救済は、(a) 侵害者が侵害を知り、または知り得た場合の損害賠償(逸失利益を含む)、(b) 侵害により得た利益の権利者への引渡し、(c) 一時金補償のいずれかを選択でき(第45条5項)、一時金補償は侵害者が使用許諾を得るために支払うべきであった額を下限として、侵害品の数量、同一性・類似の程度、ジョージアでの商標の名声、侵害者の意図、役務の規模などを考慮して定めます(第45条7〜8項)。過失による侵害で、除去・廃棄が侵害者に不均衡な損害を与える場合、裁判所は権利者が受け入れられる金銭補償で代えることができます(第45条4項)。
管轄:ジョージアに知的財産専門裁判所はなく、侵害訴訟は一般裁判所(第一審は市・地方裁判所、控訴はトビリシ控訴裁判所またはクタイシ控訴裁判所、上告は最高裁判所)の民事手続で扱われます。被告の所在地がトビリシであればトビリシ市裁判所が第一審です。サクパテンティ・審判部の決定を争う行政訴訟は、前述のとおりムツヘタ地方裁判所が第一審とされています。周知商標の認定は審判部または裁判所が行い、民法第18条の人格権や競争法の不正競争規定も併用できます。公告日から登録日までの暫定的な権利(第15条4項)は登録を条件とするため、侵害が始まっている場合は早期登録手続(7営業日)で先に登録を確保してから提訴するのが実務的です。訴訟の審理期間や判決の傾向については、本記事ではジョージア語の裁判例データベースを確認できていないため、個別の事案では現地弁護士・弁理士の見立てを得てください。
刑法第196条「商標(サービスマーク)その他の商業的表示の違法使用」は、(1) 他人の商標・原産地名称・地理的表示を大量に違法に製造・使用する行為、または他人の商標等や登録商号を違法に付した商品の製造・流通で重大な損害を生じさせた行為を、罰金、2年以下の矯正労働、または2年以下の拘禁で処罰します。(2) 未登録の商標等に登録表示(警告表示)を付す行為は、罰金、120〜180時間の社会奉仕、1年以下の矯正労働、または2〜3年の拘禁です。(3) 反復犯、同種前科者、共謀した集団による犯行は、罰金または3〜5年の拘禁に加重されます。注記により、「大量」とは総数1,000点超、「重大な損害」とは違法に表示した商品の価額が5,000ラリ(約30万円)超をいいます。捜査は財務省の捜査局(Investigation Service)が担い、2026年7月には偽造「Jack Daniel's」ウイスキー300本(約22,400ラリ)を製造・保管した2名が刑法196条3項で逮捕されたと報じられています。
行政違反法典第158条は、刑法と同じ構成要件(他人の商標等の違法な製造・使用、違法に表示した商品の製造・流通)について、刑事の閾値に達しない場合に500〜1,000ラリの罰金と商品・製造設備の没収を科し、行政処分から1年以内の再犯は1,000〜3,000ラリです。没収した商品は権利者の請求があれば権利者に引き渡され、製造設備は廃棄されます(同条注記)。罰金額は低く、2005年の改正以来据え置かれているため、抑止力としては没収と刑法196条の適用が実質的な意味を持ちます。なお、特許・意匠出願の内容を公報掲載前に故意に開示する行為は同法典第157条の4で別途処罰されます。
執行統計は体系的に公表されていません。米国国務省の投資環境報告(2021年版)によれば、2020年に財務省捜査局は刑法196条・197条・210条違反で10件を立件し、640,012点(価額204,189ラリ)の模倣品を押収、歳入庁税務監視部は商標侵害8件で12,591点を押収しました。件数は少ないものの、1件当たりの押収点数が大きく、無許諾ソフトウェアや海賊版映像の流通が課題として指摘されています。サクパテンティは知的財産権執行のための省庁間調整評議会の事務局を務め、EUIPOや米国とともに執行機関の研修を続けています。
水際措置は2017年12月13日の「知的財産に関する国境措置法」(法律第1723号、2018年2月7日施行、2019年・2023年・2024年改正)に基づき、財務省傘下の歳入庁(Revenue Service)が実施します。対象は著作権、意匠、発明・実用新案、集積回路配置、育成者権、原産地名称・地理的表示、商標の侵害品で、輸入・保管・自由区域・再輸出・輸出の各手続で適用され、TRIPS協定の国境措置規定を基礎としています(同法第1条)。商標侵害品は、登録商標と同一または実質的に区別できない標識を無断で付した商品のほか、包装・ラベル・ステッカー・説明書・保証書が単独で提示された場合も含みます(第2条c.b〜c.c号)。
登録簿への登録(第4条):権利者または代理人は、歳入庁に書面または歳入庁ウェブサイトから電子的に申請し、権利者の情報、知的財産の情報、商品一覧、真正品の詳細な説明と写真、製造者・原産国・正規輸入者の情報、侵害品に関する情報、登録期間(最長2年、権利の存続中は何度でも延長可)、差止めによって輸入者等に生じた損害を賠償する旨の誓約、法務・技術担当の連絡先を記載します(第4条2項)。添付書類は権利を証明する書類(登録証、ライセンス契約など)の原本または認証謄本と、代理人の場合はジョージア語の委任状または公証人認証付き翻訳です(第4条5項)。歳入庁は申請から1か月以内に登録または理由付きの拒否を決定し(第4条6項)、延長申請は期間満了の10営業日前までに行います(第4条9項)。なお、2011年改正の旧法では申請先がサクパテンティでしたが、現行法では歳入庁に直接申請します。
差止めの流れ:登録された権利については、歳入庁が侵害の疑いのある商品を10営業日(生鮮品は3営業日)差し止め、権利者と商品所有者の双方に通知します(第6条)。権利者は歳入庁の許可を得て商品を検査し、鑑定のためのサンプルの送付を受けることができ、鑑定に時間を要する場合はさらに10営業日の延長を請求できます(第7条)。未登録の権利でも、歳入庁はジョージアで保護されている権利の侵害を疑えば職権で3営業日差し止め、権利者候補に通知でき、権利者は通知から2営業日以内に登録申請を行えば、登録後に10営業日の延長が認められます(第5条、第4条3〜4項)。権利者と商品所有者が商品の放棄に書面で合意すれば、裁判を経ずに権利者の費用と責任で廃棄され(第10条1項)、合意できなければ裁判所が判断し、差止め期間中に提訴しなければ商品は解放されます(第10条2〜4項)。保管費用は通知後は権利者負担で(第9条3項)、差止めが不当だった場合は誓約に基づき損害を賠償します(第9条2項)。歳入庁から得た情報は、訴訟、刑事告発、損害賠償、廃棄の同意など法定の目的にのみ使用でき、目的外使用は登録抹消の事由です(第11条、第4条10項d号)。
適用除外(第13条)は実務上きわめて重要です。(a) 旅客の手荷物に含まれる少量の非商業的な個人使用品、(b) 真正品(権利者の同意なく移動している場合を含む)、(c) 権利者から許諾を受けた者が許諾数量を超えて製造した商品、(d) 刑事手続中の措置には国境措置が適用されません。つまり、並行輸入品やライセンシーの超過生産品は税関で止められず、純粋な偽造品に対象が絞られています。歳入庁の差止統計は近年のものが公表されておらず、米国国務省報告によれば2020年に税関部門が101件の差止命令を出し、うち38件は権利者と所有者の合意で廃棄され、廃棄された模倣品の価額は79,882ラリでした。EUIPOとジョージア歳入庁の2022年の共同研修資料では、EU規則608/2013をモデルに約30のリスクプロファイルで模倣品を選別していると説明されています。
実務上の注意:税関登録の準備
税関登録にはジョージアの商標登録(または国際登録のジョージアでの保護)が前提で、真正品と模倣品の識別ポイントをまとめたジョージア語の資料と、ジョージア語の委任状(または公証翻訳)が必要です。黒海のポティ・バトゥミ港、トルコ・アゼルバイジャン国境、トビリシ空港が主要な通関地点で、中国からの模倣品が陸路・海路で流入します。職権差止め後の2営業日という短い期限に対応できるよう、現地代理人をあらかじめ指定し、サンプル鑑定の体制を整えておくことをおすすめします。
EUとの関係:ジョージアはEUと2014年に連合協定(AA/DCFTA)を署名し、2016年7月に発効させ、知的財産章に基づいて商標法・意匠法・地理的表示法をEU法に接近させてきました。2022年3月にEU加盟を申請し、2023年12月14日に欧州理事会が加盟候補国の地位を付与しましたが、2024年6月と10月に欧州理事会は加盟プロセスが「事実上停止」していると結論し、2024年11月にジョージア政府は加盟交渉の開始を2028年末まで棚上げすると発表、同年12月に欧州理事会はこれに遺憾を表明しています(欧州委員会、外務省)。したがって、EU商標(EUTM)の効力がジョージアに及ぶ見通しは当面なく、EU加盟時の自動拡張も期待できません。一方、連合協定による地理的表示の相互保護は機能しており、EUのワイン・チーズ等のGIがジョージアで、ジョージアのワイン産地名がEUで保護されています。
マドプロとの使い分け:ジョージアについてマドリッド協定議定書は1998年8月20日に発効しました(マドリッド協定には未加盟)。拒絶通報期間は18か月(第5条2項b号の宣言)、個別手数料はCHF 314(1区分)+CHF 115/追加区分(更新も同額)です。サクパテンティは国際登録について実体審査のみを行い(第41条)、指定商品が不明確なら2か月以内の明確化を求め、拒絶理由があれば暫定拒絶を通報し、出願人は2か月以内(1か月延長可)に現地代理人を通じて応答します。保護決定は公報に掲載され、掲載から3か月が第三者の異議期間です(第42条)。国際登録が本国で取り消された場合、WIPOの証明書を添えて国内出願に転換でき、既に保護されていれば方式審査のみで登録されます(第44条)。
| 観点 | 国内出願(サクパテンティ) | マドプロ(ジョージア指定) |
|---|---|---|
| 公的費用(3区分) | 520米ドル(電子出願416米ドル≒6.6万円)+現地弁理士費用 | 個別手数料CHF 544(≒10.1万円)+WIPO基本手数料CHF 653。拒絶がなければ現地代理人不要 |
| 審査・期間 | 方式1か月+実体6か月+公告・異議4か月で約11〜12か月。早期登録なら7〜10営業日 | 実体審査のみ。拒絶通報は18か月以内。保護決定の公報掲載から3か月の異議 |
| 言語・表記 | ジョージア語の願書。外国語商標には音訳・転写を記載。ジョージア文字版を別途出願しやすい | 英語・フランス語・スペイン語で出願。ジョージア文字版は別途国内出願が必要 |
| 存続期間 | 登録日から10年、更新1区分300米ドル | 国際登録日から10年、更新CHF 314+115/区分 |
| 向いているケース | ジョージア単独、ジョージア文字商標、早期登録で税関登録や訴訟を急ぐ場合、セントラルアタックの回避 | アルメニア・アゼルバイジャン・トルコ・中央アジアと一括管理、拒絶の可能性が低い商標 |
日本企業の実務ポイントを整理します。第一に、ジョージア文字の表記です。ジョージア語は独自の文字(ムヘドルリ)を使い、ロシア語も広く通用するため、ラテン文字の原表記に加えてジョージア文字・キリル文字での先行調査と、主要ブランドのジョージア文字版の出願を検討します。第二に、代理店・パートナーによる先取り登録です。第28条1項c号は代理人・代理店の無断登録の無効と権利者への移転を認め、同b号は悪意登録を無効理由としますが、いずれも裁判所での手続になるため、契約前に自社名義で出願しておくのが最も安価です。第三に、真正品の並行輸入は商標権でも税関でも止めにくいことを前提に、流通契約と製品仕様で対処します。第四に、先行商標が登録から5年を超えると異議・無効で使用証明を求められるため、ジョージアでの使用証拠を継続的に保存します。第五に、日本のINPITの外国出願補助金(中小企業向け)は国内出願・マドプロ指定のいずれにも使えるため、年度初めの公募に合わせて計画します。隣国アルメニアはユーラシア経済連合(EAEU)に加盟していますが、ジョージアは加盟しておらず、EAEU域内消尽の影響は受けません。中央アジア・コーカサスの商標制度はカザフスタンやウクライナの解説記事を、マドプロの基本はマドプロ(マドリッド協定議定書)の解説記事を、EUTMの制度は欧州連合商標(EUTM)の解説記事をあわせてご覧ください。
法定期間は方式審査が出願から1か月、実体審査が方式審査完了から6か月、公告が登録決定から1か月、公告後の異議期間が3か月で、その後に登録料の納付通知が届きます。拒絶理由や異議がなければ出願から11〜12か月程度が目安です(WIPOの統計ではサクパテンティの登録までの平均日数は245日)。急ぐ場合は早期登録手続(1区分840米ドル、電子出願672米ドル)を使えば、サクパテンティは7営業日で審査し、登録・公報掲載・登録証発行まで行います(案内上は10営業日で完了)。早期登録では公報掲載後3か月の事後異議が可能です。
はい。実体審査で第5条の先行登録商標・先行出願、先行意匠、地理的表示、著名人の氏名、文化遺産名称との抵触を職権で審査し(第14条2項)、抵触があれば拒絶理由が通知されます。先行商標・意匠との抵触は、先行権利者の書面による同意があれば登録が認められると条文に明記されています(第5条b〜d号)。出願前にサクパテンティのデータベースで、ラテン文字・ジョージア文字・キリル文字の表記を調査することをおすすめします。周知商標や商号、著作権、悪意は審査では考慮されず、公告後の異議や登録後の無効で争う理由です。
商標法は明文の弁理士強制を置いていませんが、サクパテンティの商標登録規則第6条4項により、ジョージアに住所のない外国出願人は、サクパテンティの求めから15日以内にジョージア国内の住所に登録された代理人または弁理士を選任しなければならず、選任しないと手続が終了します。実務上はサクパテンティに登録されたジョージアの弁理士(ジョージア国籍の有資格者)に依頼します。委任状は出願人の署名で足り、作成地の法律に従って作成すれば公証・認証は不要です。マドプロ指定で拒絶がなければ代理人は不要ですが、暫定拒絶への応答や異議、審判部の手続では選任が必要です。税関登録の委任状はジョージア語か公証翻訳付きが求められます。
ジョージアの存続期間は登録日から10年で(第20条1項)、出願日起算の日本やEUと異なります。更新は有効期間の最終年に申請し(1区分300米ドル、追加区分50米ドル)、期限を過ぎても満了後6か月以内なら更新料を納めて更新できますが、この期間を過ぎると登録は満了日に遡って抹消され、回復はできません(第20条4項)。登録証に記載された登録日を基準に期限管理をしてください。
指定商品についてジョージアで継続5年間実際に使用されていないと、第三者の請求により裁判所が登録を取り消します(第27条2項a号)。取消請求前に使用を開始・再開していれば取り消されず、輸入制限など権利者の支配の及ばない事情は正当理由になります。権利者本人のほかライセンシーや同意を得た第三者の使用、識別力を変えない範囲での変形使用、輸出用商品への国内での商標貼付も使用に当たります(第24条)。不使用取消を扱うのはサクパテンティではなく裁判所なので、提訴には現地弁護士が必要です。また、自社の先行商標が登録から5年を超えていると、異議や無効請求の際に相手方から使用証明を求められます。
パリ条約加盟国の商標権者の代理人・代理店が権利者の同意なく登録した商標は、裁判所に無効を請求でき、無効の代わりに登録の自社への移転を求めることもできます(第28条1項c号・4項)。悪意による登録(第28条1項b号)や、ジョージアで周知の商標との抵触(同f号)も無効理由です。公告から3か月以内であれば、同じ理由で審判部に登録決定の取消しを申し立てる方が早く安価です(第16条4項c号)。ただし、使用を知ってから5年間放置すると、悪意登録を除き無効請求ができなくなる(第28条9項)ため、発見したら早めに動いてください。
公的費用は1区分で方式審査90米ドル+実体審査120米ドル+公告60米ドル+登録・登録証150米ドル=420米ドル、電子出願なら20%引きの336米ドル(約5.3万円)です。追加区分は方式審査の50米ドルだけが増えるため、3区分でも520米ドル(電子416米ドル、約6.6万円)です。これに現地弁理士の費用(事務所により異なり、出願から登録までで10万〜20万円程度が一般的な目安)が加わり、拒絶理由対応や異議は別途かかります。早期登録は1区分840米ドル、審判部への不服申立ては200米ドル、10年後の更新は1区分300米ドルです。マドプロでジョージアを指定する場合は個別手数料CHF 314(1区分)+CHF 115/追加区分です。
ジョージアの商標制度は、1999年商標法を2024年3月のEU整合改正で大きく更新したもので、ムツヘタのサクパテンティが絶対的理由と先行商標の両方を職権審査し、公告後3か月の審判部への異議を経て登録する仕組みです。費用は米ドル建てで1区分の出願から登録証まで電子出願336米ドル(約5.3万円)、追加区分50米ドルと欧州では手頃で、7営業日の早期登録も使えます。存続期間は登録日から10年、不使用取消は5年で裁判所、無効も裁判所が扱い、悪意登録・代理人登録・周知商標が理由になる一方、5年の黙認で失権し、登録5年超の先行商標には使用証明が求められます。消尽は条文上領域を限定せず、国境措置法も真正品を対象外とするため並行輸入は止めにくく、税関は歳入庁の登録簿(2年、職権差止め3営業日)で偽造品を監視します。刑事罰は刑法196条(1,000点超・5,000ラリ超で2年以下、加重で3〜5年)、行政罰は158条の罰金と没収です。EU加盟候補国ながら加盟交渉は2028年末まで棚上げされ、EUTMの効力は及ばないため、国内出願かマドプロ指定(個別手数料CHF 314)で、ジョージア文字の表記と代理店対策を含めて早めに手当てすることが実務のポイントです。
各国の商標制度は世界の商標制度ガイドをご覧ください。
国内出願とマドプロ指定の使い分け、ラテン文字・ジョージア文字・キリル文字での先行商標調査と公報監視、職権審査の拒絶理由への同意書対応、審判部への異議・不服申立て、不使用取消・無効訴訟、歳入庁への税関登録、並行輸入を踏まえた流通契約の設計、アルメニア・アゼルバイジャン・トルコ・中央アジアを含む商標ポートフォリオ設計、INPIT外国出願補助金の申請まで、知的財産事務所エボリクスが現地弁理士と連携して一貫してサポートします。初回相談は無料です。
本記事は、以下の一次資料および専門家による解説を基に作成しています(いずれも2026年10月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。
※本記事の情報は2026年10月時点のものです。サクパテンティの料金は政府決議の改正で変わり、EU加盟プロセスの動向も流動的なため、実際の出願にあたってはサクパテンティの最新情報と現地弁理士の確認をおすすめします。円換算は1米ドル≒158円、1ラリ≒61円、1スイスフラン≒185円の概算です。