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外国企業が日本で特許・商標を出願するには?委任状・料金・減免制度を弁理士がワンストップ解説──公証不要・署名不要、重いのは期限

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/09/01

外国企業から日本出願のご相談を受けるとき、繰り返し尋ねられる質問が3つあります。「委任状に公証は必要か」「費用はいくらかかるのか」「安くする方法はあるのか」——です。

答えを先に言えば、日本の形式要件は外国企業が想像するよりずっと軽く、委任状の公証・アポスティーユは不要、押印も不要、外国企業なら署名すら不要です。しかも特許庁の減免制度は、要件を満たす外国企業にも国内企業と同じ手続で適用されます。一方で、本当に注意すべきは書式ではなく期限——特に出願日から3年の審査請求期限です。

本記事では、外国企業(在外者)が日本で特許・商標・意匠を出願する際の代理人・委任状の要件、特許庁に納める料金の一覧、減免制度の使い方までを、特許庁とe-Gov法令検索の一次資料に基づいて弁理士がワンストップで解説します。外国企業の日本側窓口を務める方、海外本社から日本出願の指示を受けた知財担当の方に向けた内容です。

目次

  1. 委任状——公証不要・押印不要・外国企業は署名も不要
  2. 在外者は「特許管理人」が必要——PCTの例外つき
  3. 特許庁に納める料金一覧(特許・商標・意匠)
  4. 最大の落とし穴——審査請求の3年期限
  5. 減免制度——外国企業も対象になる
  6. コスト削減チェックリスト
  7. よくある質問(FAQ)
  8. まとめ

1. 委任状——公証不要・押印不要・外国企業は署名も不要

多くの国では、代理人への委任状(Power of Attorney)に公証やアポスティーユが求められます。日本の特許庁手続では、これらはいずれも不要です。特許庁の公式案内は、委任状について次のことを明示しています。

  • 委任状への押印は不要
  • 委任者が外国人(外国に住む日本人を含む)の場合、委任者の署名も不要
  • 委任状は原本のほか、写し(コピー)の提出も可能

さらに言えば、出願そのものについては、委任状を特許庁に提出しないのが通常の実務です。委任状(特別の授権を証明する書面)が必要になるのは、特許法9条が列挙する本人の利害に大きく関わる行為——出願の変更・放棄・取下げ、請求や申立ての取下げ、優先権主張やその取下げ、拒絶査定不服審判の請求、特許権の放棄、復代理人の選任——に限られます。継続的に依頼する場合は、事件を特定せず包括的に授権する包括委任状を特許庁に登録し、番号で援用する運用が効率的です。

補足:海外本社から「Notary(公証人)の予約が取れないので日本出願が遅れる」という連絡が来たら、それは不要な手続です。日本側でこの点を伝えるだけで、着手が数週間早まることがあります。

2. 在外者は「特許管理人」が必要——PCTの例外つき

形式は軽い一方で、代理人の選任自体は法律上の義務です。日本国内に住所・居所(法人の場合は営業所)を持たない者——法律用語で「在外者」——は、原則として、日本国内に住所等を持つ代理人(特許管理人)によらなければ、特許庁への手続ができません(特許法8条1項)。実務上は日本の弁理士がこれを務めます。

例外はPCT国際出願の国内移行です。在外者である出願人は、国内処理基準時までは特許管理人によらずに国内移行手続ができます(特許法184条の11第1項)。ただしその後、経済産業省令で定める期間内に特許管理人を選任して届け出なければならず、届出がないと国際特許出願は取り下げたものとみなされます(同条5項)。「移行だけ自力でやって代理人選任を忘れる」ことが制度上あり得るため、実務では国内移行の時点で日本の代理人に依頼するのが安全です。PCTルート全体の流れは国際特許(PCT出願)の解説記事をご参照ください。

3. 特許庁に納める料金一覧(特許・商標・意匠)

以下は特許庁の料金一覧に基づく庁費用(印紙代)です。弁理士手数料・翻訳費用は別途かかります。表中の「n」は請求項の数、「区分」は商標の区分数です。

特許

段階 庁費用
出願14,000円(外国語書面出願は22,000円)
出願審査請求138,000円+4,000円×n(特許庁が国際調査報告を作成したPCT出願は83,000円+2,400円×n)
特許料 第1〜3年毎年 4,300円+300円×n
特許料 第4〜6年毎年 10,300円+800円×n
特許料 第7〜9年毎年 24,800円+1,900円×n
特許料 第10〜25年毎年 59,400円+4,600円×n
拒絶査定不服審判49,500円+5,500円×n

商標・意匠

手続 庁費用
商標出願3,400円+8,600円×区分
商標登録料(10年分)32,900円×区分(5年分納は17,200円×区分)
商標更新登録43,600円×区分
意匠出願一意匠につき16,000円
意匠登録料第1〜3年 毎年8,500円/第4年以降 毎年16,900円

4. 最大の落とし穴——審査請求の3年期限

米国と異なり、日本の特許出願は自動では審査されません。出願日(PCT出願は国際出願日)から3年以内に出願審査請求をしなければ、出願は取り下げたものとみなされます(特許法48条の3)。特許庁からの督促はなく、PCT経由では国内移行の時点で3年のうち相当部分が既に経過していることも珍しくありません。

期限徒過後の回復は「故意によるものでない」場合に限られ、気づいた日から2か月以内かつ期限経過後1年以内の手続と、回復手数料212,100円が必要です。「請求しないと決めていたが方針転換した」ケースは救済されません。審査請求制度の全体像(料金・減免・返還・回復)は出願審査請求の解説記事で詳しく扱っています。

5. 減免制度——外国企業も対象になる

意外に知られていない事実ですが、特許庁の減免制度Q&Aは「要件を満たしていれば、外国の出願人も新減免制度の適用対象になります」「減免申請手続は国内の出願人と同様です」と明示しています。会社・個人事業主としての中小企業、中小スタートアップ企業、小規模企業などは、外国企業でも国内の出願人と同じ要件で判断されます。

対象者 審査請求料・特許料(第1〜10年分)
中小企業(会社・個人事業主)1/2に軽減
中小スタートアップ企業・小規模企業1/3に軽減
研究開発型中小企業1/2に軽減
大学等・大学等の研究者(アカデミック)1/2に軽減

請求項10項の審査請求料178,000円が、中小企業なら89,000円、スタートアップ・小規模企業なら約59,300円になります。手続は出願審査請求書の特記事項欄に減免を受ける旨を記載するだけで、証明書類は不要です。ただし、減免は請求・納付と同時に申請する必要があり(事後申請は不可)、2024年4月以降は中小企業について年間180件の件数上限があります(スタートアップ・小規模企業・大学等は上限対象外)。なお、外国法人の「組合・NPO法人」区分には追加要件があり、独立行政法人等・承認TLO等の区分は外国の出願人は対象外です。資本金・従業員数などの詳しい基準は減免・支援制度まとめもご参照ください。

注意:中小企業の判定には「他の法人に支配されていないこと」等の独立性要件が含まれます。大企業グループの子会社は、資本金が小さくても対象外となることがあります。減免を前提に予算を組む前に、要件充足の確認をおすすめします。

6. コスト削減チェックリスト

実務チェックリスト
① 審査請求の前に減免の該当性を確認する(該当すれば申請は1行の記載だけ)
② PCTルートでは日本特許庁を国際調査機関にすると、日本の審査請求料が約4割下がる
③ 審査請求の直前に請求項数を見直す(1項あたり4,000円+その後の特許料・審判料にも連動)
④ 外国で先に出願・審査されている案件は「外国関連出願」として早期審査(申請無料)の対象になる。特許審査ハイウェイ(PPH)も選択肢
⑤ 権利化不要になった案件は、審査着手前の取下げ・放棄で審査請求料の半額返還を受けられる(6か月以内に請求)

7. よくある質問(FAQ)

Q1. 外国企業の委任状に公証・アポスティーユは必要ですか?

通常の特許庁手続では不要です。押印も不要で、委任者が外国人の場合は署名も不要と特許庁が案内しています。写しの提出も可能です。

Q2. 外国企業が日本の代理人なしで出願できますか?

日本国内に住所・営業所を持たない在外者は、原則として日本国内の特許管理人(実務上は弁理士)によらなければ手続できません(特許法8条)。PCT国内移行は例外的に本人でも行えますが、その後所定期間内に特許管理人の選任届出が必要で、怠ると出願は取り下げたものとみなされます。

Q3. 日本の特許取得には庁費用がいくらかかりますか?

出願14,000円、審査請求138,000円+請求項×4,000円、特許料は第1〜3年が毎年4,300円+請求項×300円で、年次が進むと段階的に上がります。弁理士手数料・翻訳費は別途です。

Q4. 減免制度は外国企業でも本当に使えますか?

使えます。特許庁のQ&Aが、要件を満たす外国の出願人も適用対象であり、手続も国内の出願人と同様であることを明示しています。中小企業は1/2、要件を満たすスタートアップ・小規模企業は1/3に軽減され、証明書類の提出は不要です。

Q5. 審査請求の3年期限を過ぎてしまったら?

出願は取り下げたものとみなされます。期間徒過が故意でない場合に限り、気づいた日から2か月以内かつ期限経過後1年以内に、回復理由書と回復手数料212,100円を添えて請求すれば回復の可能性があります。

8. まとめ

公証不要・押印不要・署名も不要——日本の出願書式は、外国企業が身構えるほど重くありません。減免制度も外国企業に開かれています。本当に管理すべきは、審査請求3年・PCT国内移行後の特許管理人選任・減免の同時申請といった取り返しのつかない期限とタイミングです。書式の心配を手放し、期限管理に注意を集中させることが、外国企業の日本出願を成功させる近道です。

知財事務所エボリクスへのご相談

知的財産事務所エボリクス(evorix.jp)では、外国企業・海外代理人からの日本出願(特許・商標・意匠)を英語で承っております。減免の該当性確認・期限管理を含め、まずはお問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。英語版の解説は「Japan IP Filing for Foreign Companies」をご覧ください。

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免責・注意事項:本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別事案の結論を保証するものではありません。記載の料金・制度は執筆時点(2026年9月)の特許庁公表情報に基づきます。料金・減免の要件は改正されることがありますので、実際の手続にあたっては特許庁の最新情報または弁理士にご確認ください。

出典

AUTHOR / 執筆者

杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)

知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士

特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。