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出願審査請求とは?期限・料金・減免・出し忘れの回復まで弁理士が解説──特許は出願しただけでは審査が始まらない

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/09/01

「特許を出願したので、あとは審査の結果を待つだけです」——このように理解されている方は少なくありません。しかし、日本の特許制度では、出願しただけでは審査は永遠に始まりません

審査を始めてもらうには、出願とは別に「出願審査請求」という手続を、出願日から3年以内に行う必要があります。この期限を過ぎると、出願は「取り下げたものとみなす」と法律に明記されており(特許法48条の3第4項)、原則としてその発明で特許を取ることはできなくなります。

本記事では、出願審査請求の仕組み・期限の数え方・料金の内訳・中小企業やスタートアップが使える減免制度・出し忘れたときの回復手続まで、特許庁とe-Gov法令検索の一次資料に基づいて弁理士が解説します。ビジネス層の方には「出願後に何をいつまでにすべきか」の全体像を、知財実務者の方には「分割出願の30日特例」「減免の件数制限」「故意でない基準の運用」といった実務の勘所を提供することを目的としています。

目次

  1. 出願審査請求とは──「出願」と「審査」は別の手続
  2. 期限は出願日から3年──数え方と分割出願の30日特例
  3. 料金──138,000円+請求項の数×4,000円
  4. 減免制度──中小企業は1/2、スタートアップ・小規模企業は1/3
  5. 出し忘れたら──みなし取下げと「故意でない基準」による回復
  6. 取下げはできないが、返還はある──審査請求料返還制度
  7. いつ請求するか──3年の猶予をどう使うかの実務
  8. よくある質問(FAQ)
  9. まとめ

1. 出願審査請求とは──「出願」と「審査」は別の手続

出願審査請求とは、特許庁に対して「この出願の実体審査を始めてください」と求める手続です。特許法は「特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまつて行なう」と定めており(特許法48条の2)、請求がない限り、審査官が新規性・進歩性などの中身を審査することはありません。

かみ砕けば、特許出願は「受付」と「審査」が完全に切り離された二段構えの制度です。出願によって確保できるのは出願日(先願の地位)であり、権利化に向けたプロセスは審査請求によって初めて動き出します。この設計は、出願されたもののうち実際には権利化まで進める価値がないと判断されるものを審査対象から外し、審査資源を集中させるためのものです。

注目すべきは、審査請求は「何人も」できるという点です(特許法48条の3第1項)。出願人本人だけでなく、第三者——たとえばその出願の成り行きが自社事業に影響する競合企業——も請求できます。第三者から審査請求があった場合、特許庁長官はその旨を出願人に通知します(特許法48条の5第2項)。自社の出願を「寝かせて」おいたつもりでも、他人の請求で審査が始まることがあり得るのです。

用語の整理:商標登録出願や意匠登録出願には審査請求制度がなく、出願すれば順次審査されます。「審査請求」が必要なのは特許だけです(実用新案は無審査登録で、権利行使の前提として「実用新案技術評価」の請求という別の制度があります)。他分野の「審査請求」(行政不服審査法上の不服申立てなど)とも別物ですので、検索の際はご注意ください。

2. 期限は出願日から3年──数え方と分割出願の30日特例

審査請求の期限は「特許出願の日から3年以内」です(特許法48条の3第1項)。起算日は現実の出願日であり、国内優先権主張出願であれば先の出願の日ではなく、優先権主張を伴う「その出願」自体の日から数えます。PCT国際出願を日本に国内移行した場合も、国際出願日から3年です。

重要な例外が分割出願の30日特例です。分割出願・出願変更・実用新案登録に基づく特許出願は、もとの出願から3年が過ぎていても、分割等の日から30日以内に限り審査請求ができます(特許法48条の3第2項)。分割出願は原出願の日にしたものとみなされるため、この特例がなければ「生まれた瞬間に審査請求期限が過ぎている」分割出願が請求不能になってしまうからです。裏を返せば、原出願から3年経過後の分割では、30日という極めて短い期限で審査請求の要否判断を迫られます。分割戦略の詳細は特許査定後の分割出願の解説記事をご参照ください。

出願の種類 審査請求の期限 根拠条文
通常の特許出願出願日から3年以内特許法48条の3第1項
PCT国際出願(日本移行)国際出願日から3年以内同上
分割出願・出願変更・実用新案登録に基づく特許出願3年経過後でも、分割等の日から30日以内なら可特許法48条の3第2項

期限内に請求がなければ、出願は「取り下げたものとみなす」(特許法48条の3第4項)——つまり自動的に消滅します。特許庁から「期限が近づいています」という督促は原則ありませんので、期限管理は出願人(と代理人)の責任です。

3. 料金──138,000円+請求項の数×4,000円

審査請求料は、特許手続の中で最も大きな庁費用です。2019年4月1日以降の出願では138,000円+(請求項の数×4,000円)。たとえば請求項10項なら178,000円です。出願料14,000円の10倍以上であり、「出願より審査請求のほうがずっと高い」ことは、予算計画上まず押さえておくべき事実です。

区分 審査請求料(2019年4月1日以降の出願)
通常の出願138,000円+(請求項の数×4,000円)
PCT出願(特許庁が国際調査報告を作成)83,000円+(請求項の数×2,400円)
PCT出願(特許庁以外が国際調査報告を作成)124,000円+(請求項の数×3,600円)
特定登録調査機関の調査報告書を提示した場合110,000円+(請求項の数×3,200円)

2019年3月31日以前の出願は基本料が118,000円(+請求項×4,000円)と異なります。また、日本の特許庁を国際調査機関としたPCT出願は審査請求料が大きく割り引かれます——国際段階の調査結果を国内審査で活用できるためです。PCTルートの費用全体は国際特許(PCT出願)の解説記事で扱っています。

なお、請求項の数は審査請求料だけでなく、特許になった後の特許料(第1〜3年は毎年4,300円+請求項×300円)や、拒絶査定不服審判の請求料(49,500円+請求項×5,500円)にも連動します。請求項を1項増やす判断は、審査請求時点だけで4,000円、その後の手続全体に波及するコスト判断でもあります。出願からの費用全体の内訳は特許出願費用の解説記事をご参照ください。

実務Tips(請求項の整理):審査請求の直前は、請求項の数を見直す実務上の好機です。補正で請求項を減らしてから審査請求すれば、減らした分の加算額はそもそも発生しません。逆に、審査請求後に請求項を増やす補正をすると、増加分の審査請求料の納付が必要になります。

4. 減免制度──中小企業は1/2、スタートアップ・小規模企業は1/3

この大きな審査請求料には、公的な減免制度があります。2019年4月1日以降に審査請求をした案件に適用される現行制度(新減免制度)では、対象者に応じて審査請求料と特許料(第1〜10年分)が次のとおり軽減されます。

対象者 審査請求料・特許料(第1〜10年分)
中小企業(会社・個人事業主・組合・NPO法人)1/2に軽減
中小スタートアップ企業・小規模企業1/3に軽減
研究開発型中小企業1/2に軽減
アカデミック(大学等・大学等の研究者)1/2に軽減
福島特措法の認定計画に基づき事業を行う中小企業1/4に軽減

試算すると、請求項10項の審査請求料178,000円は、中小企業なら89,000円、スタートアップ・小規模企業なら約59,300円まで下がります。しかも現行制度の手続は簡素で、出願審査請求書の「【手数料に関する特記事項】」欄に減免を受ける旨を記載するだけ。減免申請書や証明書類の提出は不要です。

ただし、次の3点にはご注意ください。

注意:①減免は審査請求と同時に申請しなければならず、納付後に事後的な減免申請はできません。②減免が適用されるのは自己の出願について自ら審査請求する場合のみで、他人の出願への審査請求は対象外です。③2024年4月1日以降の審査請求では、中小企業(会社・個人事業主・組合・NPO法人)等について年間180件の件数上限が設けられました(中小スタートアップ企業・小規模企業・大学等は上限の対象外)。

対象者の詳しい要件(資本金・従業員数の基準など)は特許法施行令10条に定められており、減免制度の全体像は中小企業向け減免・支援制度まとめで解説しています。なお、特許庁のQ&Aでは、要件を満たせば外国の出願人も減免の適用対象になることが明示されています。

5. 出し忘れたら──みなし取下げと「故意でない基準」による回復

3年の期限内に審査請求をしなかった出願は、取り下げたものとみなされます。それでも救済の道が一つ残されています。期間徒過が「故意によるものでない」ときは、所定の期間内に限り審査請求ができるという回復制度です(特許法48条の3第5項)。2023年4月1日以降に期限を徒過した手続から、回復要件が従来の「正当な理由」から「故意によるものでないこと」へと緩和されました。

回復の要件・手続 内容
提出期間手続ができるようになった日(通常は期間徒過に気づいた日)から2か月以内、かつ期限経過後1年以内
提出書類出願審査請求書(【その他】欄に回復に係る手続である旨を記載)+回復理由書
回復理由書の記載事項期間内に手続できなかった理由/手続可能になった日/故意でない旨の表明/審査請求の遅延を目的としない旨
回復手数料212,100円(特許の場合。不責事由が証明できる場合は免除申請可)

ここで誤解が多いのは「故意でない」の意味です。「期限までに請求しないと判断していたが、後から方針転換した」ケースは救済されません。特許庁のガイドラインは、救済が認められない可能性がある事例として「出願審査の請求期限までに要否を社内検討した結果、不要と判断した。期限徒過後、社内の方針転換により請求を行うこととした」という例を明示しています。救済されるのは、期限管理の過誤など「請求するつもりだったのに、故意によらず徒過した」場合です。

実務Tips(第三者の視点):みなし取下げの後に回復で復活した特許には、中用権という第三者保護が働きます(特許法48条の3第8項)。みなし取下げの公報掲載後・回復請求の公報掲載前に、善意でその発明を実施する事業(またはその準備)を日本国内で始めた者は、その範囲で通常実施権を持ちます。競合の出願がみなし取下げになったからと安心して実施を始める場合も、この時系列の記録を残しておくことが重要です。

6. 取下げはできないが、返還はある──審査請求料返還制度

いったんした審査請求は、取り下げることができません(特許法48条の3第3項)。「やっぱり審査は不要になった」と気づいても、審査請求そのものは撤回できないのです。

ただし、費用の面では救済があります。審査官が審査に着手する前(拒絶理由通知等が届く前)に出願自体を取下げまたは放棄すれば、取下げ・放棄から6か月以内の返還請求により、納付した審査請求料の半額が返還されます(特許法195条9項)。事業方針の変更や先行技術の発見で権利化の必要がなくなった場合、審査着手前であれば数万円〜十数万円を回収できる可能性があります。特許庁は審査着手見通し時期の照会サービスも提供しており、着手前かどうかの確認に活用できます。

7. いつ請求するか──3年の猶予をどう使うかの実務

審査請求のタイミングは「出願と同時」から「3年目ギリギリ」まで自由に選べます。どちらにも合理性があり、事業フェーズに応じた使い分けが実務の腕の見せどころです。

早く請求する(出願と同時〜早期)

製品発売が近い、模倣品が出ている、資金調達で権利化実績を示したい——そのような場合は早期の審査請求が向きます。さらに、中小企業・スタートアップ・実施関連出願・外国関連出願などの要件を満たせば、早期審査(申請無料)を利用できます。特許庁の公表実績では、早期審査を申請した出願の平均審査順番待ち期間は申請から平均3か月以下(2017年実績)と、通常より大幅に短縮されます。さらに速いスーパー早期審査という選択肢もあります。いずれも審査請求をしていることが前提の制度です。

ギリギリまで待つ(2年半〜3年)

技術や市場の行方がまだ見えない段階では、3年の猶予を「様子見の期間」として使えます。事業化しないと分かった発明の審査請求料をそもそも払わない、という判断も立派なコスト管理です。もっとも、待つ戦略には期限管理の失敗リスクが伴います。第5章で見たとおり、「請求しないと決めていた」場合の方針転換は救済されません。待つなら、期限の6か月前・3か月前・1か月前の多段アラートを期限管理システムに設定しておくのが実務の定石です。出願から権利化までの全体スケジュールは出願の流れ完全ガイドをご参照ください。

実務Tips(出願公開との関係):出願は請求の有無にかかわらず出願から1年6か月で公開されます。「審査請求せずに取り下げれば公開前に秘匿化できる」余地があるのは出願から1年6か月までです。逆に、公開後にみなし取下げとなった出願の内容は公知技術として残り続けます。「出す・出さない」「請求する・しない」は、公開のタイミングとセットで設計するのが安全です。

8. よくある質問(FAQ)

Q1. 審査請求は出願人以外でもできますか?

できます。特許法48条の3第1項は「何人も」請求できると定めており、競合他社など第三者による請求も可能です。第三者から請求があった場合、特許庁から出願人にその旨が通知されます。ただし、審査請求料の減免は自己の出願について請求する場合に限られ、他人の出願への請求には適用されません。

Q2. 審査請求を忘れたらどうなりますか?

出願日から3年以内に請求がないと、出願は取り下げたものとみなされます。期間徒過が故意によるものでない場合に限り、気づいた日から2か月以内かつ期限経過後1年以内に、回復理由書と回復手数料212,100円を添えて審査請求をすることで回復が認められる可能性があります。「不要と判断していたが方針転換した」場合は救済されません。

Q3. 審査請求を取り下げて料金を返してもらえますか?

審査請求自体の取下げはできません。ただし、審査官の審査着手前に出願を取下げまたは放棄すれば、6か月以内の返還請求により審査請求料の半額が返還されます。

Q4. 分割出願の審査請求期限はいつですか?

原則は原出願の日から3年以内です。原出願の日から3年を過ぎた後に分割した場合は、分割の日から30日以内に限り審査請求ができます。分割時点で残り期間を必ず確認してください。

Q5. 減免制度は外国企業でも使えますか?

使えます。特許庁のQ&Aは、要件を満たせば外国の出願人も減免の適用対象になることを明示しており、申請手続も国内の出願人と同様です(審査請求書の特記事項欄への記載のみで、証明書類は不要)。

Q6. 審査を早くしてもらう方法はありますか?

審査請求を済ませたうえで、中小企業・実施関連出願・外国関連出願などの要件を満たせば早期審査を申請できます(申請無料)。早期審査申請案件の平均審査順番待ち期間は約3か月以下(2017年実績)です。要件を満たす場合はスーパー早期審査や、外国出願との関係では特許審査ハイウェイ(PPH)も選択肢になります。

9. まとめ

出願しただけでは審査は始まらない。期限は出願日から3年、分割なら30日特例。料金は138,000円+請求項×4,000円で、中小企業なら半額、スタートアップなら1/3。忘れたときの回復は「故意でない」場合だけ——出願審査請求は、手続としては1枚の書面ですが、特許戦略の中で「権利化に進むか、ここで降りるか」を決める分岐点です。

3年の猶予は、使い方次第でコスト管理の武器にも、期限徒過のリスクにもなります。自社の出願がいま3年のどの位置にいるのか、この機会に一度棚卸ししてみてください。

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免責・注意事項:本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別事案の結論を保証するものではありません。記載の料金・制度は執筆時点(2026年9月)の特許庁公表情報に基づきます。料金や減免の要件・件数制限は改正されることがありますので、実際の手続にあたっては特許庁の最新情報または弁理士にご確認ください。

出典

AUTHOR / 執筆者

杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)

知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士

特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。