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特許の例とは?身近なアプリ・サービスに実在する特許を弁理士が解説

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/08/03

「特許」と聞くと、研究所で生まれる難しい発明を思い浮かべるかもしれません。でも実際には、あなたが今日使ったスマホ決済のクーポンにも、貯めたポイントにも、特許が関わっています

この記事では、身近なサービスに実在する特許を、特許番号つきで紹介します。どれも弁理士が特許庁の公報で内容を確認したものです。あわせて「何が特許になり、何はならないのか」「自分で特許を調べる方法」まで、はじめての方向けに整理しました。

💡 この記事の読み方:紹介する特許はすべて実在する登録特許で、特許番号を記載しています。ご自身で調べたい方は、後半の身近な特許を自分で調べる方法もご覧ください。

目次

  1. まず結論|特許は「アイデア」ではなく「技術の仕組み」に与えられる
  2. 身近な特許の例5つ|実在する登録特許で見る
  3. 有名な製品は「どの部分」が特許になっている?
  4. 特許になるもの・ならないもの|意匠・商標・著作権との違い
  5. 特許を受けるための主な条件
  6. 身近な特許を自分で調べる方法
  7. 自社の製品・サービスから発明を見つける視点
  8. よくある質問(FAQ)

まず結論|特許は「アイデア」ではなく「技術の仕組み」に与えられる

● 特許とは:新しい技術的な工夫(発明)をした人に、一定期間その技術を独占できる権利を与える制度です。原則として出願から20年で満了します。
● 対象になるのは「仕組み」:「こういうサービスがあったら便利」というアイデアだけでは特許になりません。どんなデータを、どう処理して、何を出すのか——という仕組みのレベルまで具体化されている必要があります。
● だから身近にある:スマホアプリの機能、ポイントの付け方、広告の出し方——日常のサービスの裏側は、この「仕組み」の集まりです。だから特許が数多く存在します。

よくある誤解が「特許は工業製品やハイテク機器のもの」というものです。実際には、ソフトウェアやサービスの仕組みにも特許は成立します。次の章で、実在する登録特許を5つ見ていきましょう。

身近な特許の例5つ|実在する登録特許で見る

ここで紹介するのは、すべて日本で実際に登録された特許です。特許番号を記載していますので、後述の方法でご自身でも確認できます。

例① スマホ決済で「この商品だけ割引」ができる仕組み

特許第7505101号「情報処理装置、情報処理方法、プログラム、およびシステム」
特許権者:PayPay株式会社ほか(個人4名との共有)/登録2024年6月14日/全15項

スーパーで会計したあと、決済アプリに「対象商品の購入でポイント還元」と表示されることがあります。買った商品を識別子で見分け、加盟店が設定した条件を満たすかを判定して特典を表示する——この一連の処理が特許になっています。さらに「過去にもらった特典の履歴」もあわせて表示し、そこにも商品名の情報を含めるところまでが権利の中身です。

なぜ特許になったか:「商品ごとにクーポンを出す」というアイデアではなく、どの情報を取得し、何を判定し、画面に何を出すかという手順が具体的に書かれているためです。

意外に早い:2023年11月14日に出願し、同じ日に審査請求、早期審査を使って約7か月後の2024年6月14日に登録されています。「特許は何年もかかる」というイメージとは違う進み方です。詳しくはこの特許の詳しい解説記事をご覧ください。

例② 健康データを提供するとポイントがもらえる仕組み

特許第7754965号(特許権者:株式会社ロイヤリティマーケティング=共通ポイント「Ponta」の運営会社)

歩数や健康情報をアプリに連携すると、ポイントがもらえるサービスがあります。この特許は、利用者が「どの情報の利用に同意するか」を登録し、同意した情報の対価としてポイントを計算するという仕組みを対象にしています。

ここが面白い:「同意を取ること」そのものが、特許請求の範囲に書き込まれています。個人情報の扱い方が、技術的な工夫として権利になった例です。

例③ 「誰の口コミが効いたか」を数値にする仕組み

特許第7821616号(特許権者:LINEヤフー株式会社)

友人にすすめられて商品を買った経験はありませんか。この特許は、購入前に「直接の通話や会話で」その商品をすすめた人を特定し、その人の「信頼度」を機械学習で算出するという仕組みです。

ここが面白い:ネット上のクリックだけでなく、オフラインの会話まで射程に入れている点です。「口コミの影響力」という曖昧なものを数値化しています。

例④ 広告の文章をAIが書いて、効果を見て書き直す仕組み

特許第7365267号(特許権者:株式会社サイバーエージェント/国立大学法人東京工業大学の共有)

検索したときに出てくる広告の文章。あれをAIが自動で作る技術です。ポイントは作って終わりではないこと——複数の文案を生成し、それぞれの効果を推定し、その結果をもとにもう一度作り直すという循環が権利の中身です。

ここが面白い:企業と大学の共同研究の成果が共同で出願されています。詳しくはAI広告文の特許の解説記事で請求項まで読み解いています。

例⑤ ポストに届く紙のDMの効果を測る仕組み

特許第6632046号(特許権者:株式会社グーフ)

ポストに届くダイレクトメール。紙なので効果が測れない——と思いきや、宛先ごとに違うコードを印刷し、そこから読み取ったWebページのアクセスを計測する仕組みが特許になっています。しかも複数の会社が1枚に相乗りし、互いの結果を共有するという点まで含まれています。

ここが面白い:この特許はAIをまったく使っていません。「AIがないと特許にならない」は誤解だと分かる例です。

注意(特許と製品の関係について):特許の公報には、通常製品名やサービス名は書かれていません。上記の説明は、公報に書かれた技術内容から「どのような場面で使われる仕組みか」を分かりやすく言い換えたものです。特定の製品に実際に使われているかどうかを断定するものではありません。また、特許権が現在も有効かどうかは変動します(年金の未納などで消滅することがあります)。

有名な製品は「どの部分」が特許になっている?

ここで大切な考え方があります。「製品まるごと」に特許があるわけではありません。

たとえばゲームソフトを考えてみてください。1本のゲームには、次のように異なる権利が別々に成立しています。

対象 守る権利 具体例
操作や処理の仕組み特許権キャラクターの動かし方、対戦相手の決め方、当たり判定の処理
画面の見た目意匠権操作画面のデザイン、アイコンの配置
名前・ロゴ商標権タイトル名、会社のロゴマーク
絵・音楽・物語著作権キャラクターの絵、BGM、シナリオ

つまり、1つの製品に複数の権利が重なっているのが普通です。「この商品には特許がある」という言い方は、正確には「この商品のある部分の仕組みについて特許がある」という意味になります。

ゲーム分野の実際の特許と裁判の例は、ゲームの特許事例まとめで詳しく紹介しています。

特許になるもの・ならないもの|意匠・商標・著作権との違い

「これは特許になるのかな?」と迷ったとき、次の表が判断の入口になります。

こういうもの 特許になる? 理由・代わりに使える権利
新しい構造や材料をもつ製品なる特許の典型例です
アプリやサービスの処理の仕組みなり得るデータの処理内容まで具体化されていれば対象になります
「こんなサービスがあったら便利」という思いつきならない技術的な仕組みが伴っていないためです
商品名・ブランド名・ロゴならない商標権で守ります
製品や画面のデザインならない意匠権で守ります
イラスト・写真・文章・音楽ならない著作権で守られます(登録は不要)
自然法則そのもの(数式・法則の発見)ならない発見であって「発明」ではないためです

弁理士の視点:実務でよくあるのが「アイデアと仕組みの境目」の相談です。たとえば「AIで◯◯を判定するサービス」は、それだけではアイデアです。しかし「どんなデータを入力し、どう学習させ、何を出力するか」まで決まっていれば、特許になり得ます。迷ったら、まず具体化できているかを確認してみてください。

特許を受けるための主な条件

特許を受けるには、いくつかの条件を満たす必要があります。主なものを4つ挙げます。

条件 かんたんに言うと
発明であること自然法則を使った技術的な工夫であること。単なる決まりごとや計算方法だけでは足りません
新規性まだ世に出ていないこと。自分で発表してしまった場合も含みます
進歩性その分野の人が既存技術から簡単に思いつく程度では認められません
先に出願していること同じ発明なら、先に特許庁へ出願した人が権利を得ます(先願主義)

いちばん多い失敗発表してから出願しようとして、手遅れになるケースです。展示会での披露、プレスリリース、SNSでの紹介、クラウドファンディングの公開——これらはすべて「世に出た」ことになり、原則としてその後は特許を受けられません。公表の予定があるなら、その前にご相談ください。(公表から1年以内であれば救済される制度もありますが、手続の要件があり、外国では認められない国もあります)

自社の技術が特許の対象になり得るか、判断に迷ったら

「うちの技術は特許になるのだろうか」と迷う段階でのご相談を歓迎しています。知的財産事務所エボリクス(evorix.jp)では、技術内容と事業計画をうかがったうえで、出願すべきか・秘匿すべきかを含めて整理します。公開・販売の前が最適なタイミングです。お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。

身近な特許を自分で調べる方法

特許の情報は誰でも無料で見られます。特許庁が運営するJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)を使います。

この記事の特許を確認してみる手順

  1. J-PlatPat を開く
  2. 上部メニューの「特許・実用新案」→「特許・実用新案番号照会/OPD」を選ぶ
  3. 番号種別が「特許番号」の欄に、番号だけを入力(例:7505101
  4. 「照会」を押すと、出願日・登録日・権利の状態が表示される
  5. 番号のリンクを開くと、公報の全文(発明の名称・特許請求の範囲・図面)が読める

キーワードで探したいときは「特許・実用新案検索」を使います。会社名で調べたい場合は出願人/権利者の欄に会社名を入れてみてください。気になる企業がどんな技術を出願しているかが見えてきます。

調べるときのコツ:公報を開いたら、まず「特許請求の範囲」の請求項1を読んでみてください。ここに書かれている内容が、その特許で守られている範囲です。長くて読みにくいですが、「〜と、」で区切って箇条書きに直すと構造が見えてきます。逆に言えば、請求項に書かれていないことは守られていません

自社の製品・サービスから発明を見つける視点

ここまで読んで「うちの仕事にも、何かあるかもしれない」と思われた方へ。発明は、派手な新技術である必要はありません。この記事で紹介した5件も、どれも現場の困りごとを解いた工夫です。

次の5つの問いに答えられるものがあれば、それは発明の芽かもしれません。

発明の芽を見つける5つの問い

  1. どんな困りごとを解いていますか?(お客様からよく聞かれる質問は宝の山です)
  2. 他社はどうやっていますか?そして自社はどこを変えていますか?
  3. その工夫は、どんなデータを使い、どう処理していますか?
  4. その結果、何がどれくらい良くなりましたか?(速さ・精度・手間・コスト)
  5. その部分は、まだ世に出していませんか?(公表前かどうかが分かれ目です)

とくに②の「自社はどこを変えているか」が言えるなら、そこが発明の中身です。技術文書は必要ありません。ラフな図と、この5つの答えがあれば、弁理士との相談は十分に始められます。

よくある質問(FAQ)

Q. スマホアプリも特許になりますか?

A. なります。本記事で紹介した特許も、多くはアプリやWebサービスの仕組みに関するものです。ポイントは「アプリであること」ではなく、どんなデータをどう処理して何を出すかが具体的に決まっているかどうかです。画面の見た目は意匠権、アプリ名は商標権と、組み合わせて守るのが一般的です。

Q. 既存の製品を少し改良しただけでも特許になりますか?

A. なり得ます。特許の多くは「まったくの新発明」ではなく改良発明です。ただし、その分野の人が既存技術から簡単に思いつく程度だと進歩性が認められません。「なぜその改良が必要だったのか」「どんな課題を解いたのか」を説明できることが重要です。

Q. すでに販売している商品でも、今から特許を取れますか?

A. 原則として難しくなります。販売した時点でその内容は世に出たことになり、新規性を失うためです。ただし公表から1年以内であれば「新規性喪失の例外」という救済制度を使える場合があります(手続の要件があり、外国では認められない国もあります)。また、販売済みの商品に対する未公表の改良部分であれば、そこを出願する道もあります。

Q. アイデアだけの段階でも相談できますか?

A. できます。むしろ実装が固まる前のほうが、権利化を見据えた設計の選択肢が多く残っています。弁理士には法律上の守秘義務があるため、相談内容が外部に漏れる心配はありません。

Q. 特許はいつまで有効ですか?

A. 原則として出願日から20年で満了します(一部の医薬品などには延長制度があります)。また、権利を維持するには毎年の特許料の納付が必要で、納めなければ途中で消滅します。ある特許が今も有効かどうかは、J-PlatPatで状態を確認できます。

Q. 有名企業の特許を見ることはできますか?

A. できます。特許制度は「技術を公開する代わりに独占権を与える」仕組みのため、内容は原則としてすべて公開されます。J-PlatPatの検索画面で出願人・権利者の欄に会社名を入れれば、その企業の出願を一覧できます。

まとめ

特許は、研究所の中だけのものではありません。スマホ決済のクーポン、ポイントの付け方、口コミの評価、広告の作り方、紙のDMの効果測定——日常のすぐそばに、実在する登録特許があります。

共通しているのは、どれも「アイデア」ではなく「仕組み」まで具体化されているという点です。そして、AIを使っているかどうかは条件ではありません(例⑤はAIを使っていません)。

もし自社の製品やサービスに「他社と違う工夫」があるなら、それは発明かもしれません。ただし、世に出してしまう前に——これだけは覚えておいてください。

知的財産事務所エボリクスへのご相談

エボリクス(evorix.jp)では、「自社の技術が特許になるか分からない」という段階からのご相談を承っております。アイデア段階でも、公表前のタイミングでも構いません。特許・商標・意匠を組み合わせた守り方の設計までご提案します。まずはお問い合わせフォームより、ご相談の流れとあわせてご覧ください。

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本記事の注意事項:本記事は2026年7月時点の公開特許情報(特許庁J-PlatPat)に基づく一般的な解説です。紹介した特許はいずれも実在する登録特許ですが、権利の存続状況は特許料の納付状況などにより変動します。また、特許公報には通常、製品名・サービス名の記載がないため、特定の製品に当該技術が使われているかを断定するものではありません。権利範囲は公報の正本と出願経過により定まり、本記事の説明は理解を助けるための要約です。侵害の成否について本記事は何ら断定するものではなく、個別事案の結論を保証するものでもありません。制度の説明は概要であり、実際の出願にあたっては専門家の個別検討をご利用ください。

出典

AUTHOR / 執筆者

杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)

知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士

特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。