サウジアラビアで特許を出願・権利化・権利行使する実務担当者のために、2008年勅令第M/27号 特許・集積回路配置・植物品種・意匠統合法を中核に、SAIP(サウジ知的財産庁)の運用、政府手数料、PCT国内移行、Vision 2030下のIP改革、シャリーア法対応、医薬品特許期間延長、商業裁判所IP専門部での権利行使まで、中東最大経済圏における特許実務の全体像を弁理士が体系的に解説します。
この記事のポイント
SAUDI ARABIA PATENT
弁理士による、中東最大経済圏サウジアラビアの特許制度・実務完全ガイド。SAIP出願から2008年勅令M/27、Vision 2030、PCT、シャリーア対応、商業裁判所IP専門部での権利行使まで12セクションで体系的に解説します。
サウジアラビア特許実務は、勅令第M/27号(2008年・特許および集積回路配置・植物品種・意匠統合法)を中核に、実施規則とSAIPガイドラインが出願・審査・紛争を規律するシャリーア法と現代特許制度のハイブリッド体系です。Vision 2030(皇太子ムハンマド・ビン・サルマンの国家ビジョン)のIP柱として2020年代に大幅な現代化が進行中です。
サウジアラビア特許実務で押さえるべき4つのポイント
サウジアラビア特許制度の「一次法」は勅令第M/27号 1429H(2008年)特許・集積回路配置・植物品種・意匠法であり、これら4種類の産業財産権を1つの法律で統合した特殊な構造です。発明の定義、新規性・進歩性、特許対象、出願手続、権利の効力、強制実施権、侵害・刑事罰等が体系的に規定されています。
| 法令 | 内容 |
|---|---|
| 勅令第M/27号(2008年) | 特許・集積回路配置・植物品種・意匠統合法 |
| 実施規則(Implementing Regulations) | 手続規則・手数料 |
| SAIP設立勅令(2017年) | 独立IP庁の設立 |
| 商業裁判所法 | 商業裁判所のIP管轄 |
| GCC特許法 | 2021年1月新規受理停止 |
| シャリーア法(イスラム法) | 公序良俗判断の根本原則 |
SAIP(Saudi Authority for Intellectual Property、サウジ知的財産庁)は2017年設立、本部はリヤド。2020年にKACST(King Abdulaziz City for Science and Technology、キング・アブドゥルアジーズ科学技術庁)からIP行政を完全移管。電子出願システム「SAIP IP Portal」が完全運用されています。
皇太子ムハンマド・ビン・サルマンの国家戦略
| 機関 | 管轄・特徴 |
|---|---|
| SAIP IP Committee | 特許審査・異議の一審(行政手続き) |
| 商業裁判所(IP専門部) | 侵害訴訟・取消訴訟(リヤド・ジェッダ・ダンマーム) |
| 商業控訴裁判所 | 商業裁判所判決の控訴審 |
| 最高裁判所(Diwan al-Mazalim) | 最終審・行政訴訟管轄 |
| 項目 | 直接出願 | パリ条約優先 | PCT経由 |
|---|---|---|---|
| サウジ出願期限 | いつでも | 日本出願日から12か月 | 優先日から30か月(+1か月延長可) |
| 言語 | アラビア語または英語(アラビア語訳必須) | 同左 | アラビア語訳が必要(90日以内) |
| 代理人 | サウジ常駐の特許代理人必須 | 同左 | 同左 |
POA要件(重要):サウジは2024年4月にApostille条約に加盟し、従来の在外公館認証(領事認証)からApostille認証へ移行中。日本→サウジのPOAは外務省Apostille+アラビア語訳で対応可能になりました(移行措置あり)。出願日から90日以内に提出。
必須書類
所要期間:従来は7-10年と長期化していたが、SAIP移管後は3-5年に短縮傾向。Vision 2030により審査リソース大幅増強中。
| 項目 | 手数料(SAR) | 日本円換算 |
|---|---|---|
| 出願料(個人) | SAR 800 | 約32,000円 |
| 出願料(法人) | SAR 1,500 | 約60,000円 |
| 実体審査料 | SAR 800 | 約32,000円 |
| 公告・登録料 | SAR 1,000 | 約40,000円 |
| 異議申立料 | SAR 1,500 | 約60,000円 |
| 年金(5年目) | SAR 800 | 約32,000円 |
| 年金(10年目) | SAR 1,500 | 約60,000円 |
| 年金(15年目) | SAR 3,000 | 約120,000円 |
| 年金(20年目) | SAR 5,000 | 約200,000円 |
サウジでは2008年法には明示的なPTE制度なしでしたが、2024年規則改正により導入が検討中。SFDA(サウジ食品医薬品庁)の医薬品承認に係る規制対応期間の補償制度が議論されています。
GCC特許新規出願停止(2021年1月)
GCC特許制度(GCC Patent Office、リヤド本部)は、サウジ・UAE・カタール・バーレーン・オマーン・クウェートの6か国を1件で保護する地域制度でしたが、2021年1月6日以降の新規出願受理を停止。サウジは現在、SAIPに対する単独の国内出願が必要です。既存のGCC特許はサウジでも継続的に有効。
日本企業の中東特許戦略
サウジは2013年8月3日にPCT加盟。優先日から30か月以内にPCT国内移行可能(追加1か月延長可)。JPO-SAIP PPHは2018年9月運用開始—日本許可クレームをベースに早期審査受けられます。
JPO-SAIP PPH:2018年運用開始、無料利用可能。通常3-5年→1-2年に短縮効果。Global PPH(IP5+α)にもサウジ参加。中東でPPH協定がある数少ない国の1つ。
商業裁判所IP専門部(リヤド・ジェッダ・ダンマーム)
サウジ税関(Zakat, Tax and Customs Authority、ZATCA)に特許Recordal登録することで、模倣品輸入差止可能。King Abdulaziz Port(ダンマーム)・Jeddah Islamic Portが中東有数の主要港。
SAIPは独自の行政執行権限を持ち、模倣品の倉庫封印・調査・差止が可能。商業省、税関、検察と連携した執行体制。
特許侵害はSAR 250,000以下の罰金+最大2年の懲役。再犯時は加重。組織的偽造に対する厳罰化が進行中。
| 項目 | 日本 | サウジアラビア |
|---|---|---|
| 出願言語 | 日本語 | アラビア語または英語(アラビア語訳必須) |
| 統合法 | 特許・実用新案・意匠別法 | 4種類統合(特許+集積回路+植物+意匠) |
| 宗教法対応 | なし | シャリーア法準拠(強制) |
| 審査請求 | 必要(3年) | 不要(自動審査) |
| PCT国内移行 | 30か月 | 30か月+1か月延長可 |
| PPH | あり | JPO-SAIP PPH(2018年〜) |
| POA要件 | 不要 | Apostille+アラビア語訳(2024年〜) |
| 司法体系 | 特許庁→知財高裁 | 商業裁判所IP専門部→控訴→最高裁 |
サウジアラビア特許制度は、Vision 2030下のIP改革とSAIP独立化(2017年)により急速に現代化が進む中東最大の特許市場です。日本企業がサウジ市場で特許戦略を成功させるには、JPO-SAIP PPH活用、シャリーア法対応の事前確認、2024年Apostille加盟による手続簡素化を組み合わせることが鍵です。PCT国際特許出願と特許出願サービスもあわせてご覧ください。
EVORIX国際特許事務所は、サウジアラビアを含む中東主要国(UAE・カタール・バーレーン・オマーン・トルコ・イスラエル等)への特許出願・権利行使を幅広くサポートしています。Vision 2030対応、シャリーア対応、JPO-SAIP PPH活用、商業裁判所IP専門部での権利行使まで、現地代理人と連携した実務経験豊富な弁理士がご対応します。
※本記事は2026年4月時点の上記一次資料・公式情報を基に、一般的な情報提供を目的として作成されています。法令は随時改正されるため、最新の情報については一次資料および専門家への確認を推奨します。個別案件の具体的判断には、現地代理人を含む専門家へのご相談を推奨します。
AUTHOR / 執筆者
杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)
知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士
特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。