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スプラトゥーンの分割特許「特許第6283072号」を弁理士が解説|親特許5980266との違い

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/07/08

前回は『スプラトゥーン』の基幹特許特許第5980266号を請求項から読み解きました。本記事は、その分割出願である特許第6283072号を取り上げます。同じ「塗り」の発明でありながら、親特許とは異なる切り口でクレームが書かれているのが最大の見どころです。親子の請求項を並べて比較することで、任天堂の「分割戦略」が具体的にどう機能しているのかが見えてきます。

本記事も、請求項1の原文を引用しながら構成要件を分説し、親特許(5980266)との差分を対比します。ソフトウェア・ゲーム関連発明の実務者にとっては「一つの発明を、分割でどう多面的に押さえるか」の教材として、ビジネス層の方には「同じ遊びが複数の特許で重ねて守られる仕組み」の具体例としてお読みいただけます。

目次

  1. 特許第6283072号とは──書誌情報と「分割出願」であること
  2. 請求項1の原文(引用)
  3. 構成要件の分説──4つの要素に分解する
  4. 親特許5980266との対比──何が違うのか
  5. 分割出願の実務──なぜ分けるのか、遡及効とは
  6. 実務者向けの学び──限定の狙いと回避設計
  7. まとめ+ご相談について

1. 特許第6283072号とは──書誌情報と「分割出願」であること

まず、対象特許の基本情報を一次資料(Google Patents原文)で確認します。注目すべきは、この特許が特許第5980266号の分割出願である点です。

発明の名称情報処理システム、情報処理プログラム、情報処理装置、及び情報処理方法
権利者(出願人)任天堂株式会社(Nintendo Co., Ltd.)
分割出願日2016年7月25日
原出願(分割元)特願2014-100714(=特許第5980266号/公開 特開2015-216971号)。原出願日は2014年5月14日。
公開番号特開2016-221303号(JP2016221303A)
登録日2018年2月21日
登録番号特許第6283072号(JP6283072B2)

前回の記事では、5980266と同名の関連特許について「分割とみられる」と留保していました。本件6283072は、Google Patentsの書誌上、原出願を特願2014-100714(=5980266の出願)とする分割出願であることが確認できます。つまり、同じ発明の“かたまり”から切り出された、正真正銘の兄弟特許です。

2. 請求項1の原文(引用)

権利範囲を画定する請求項1を、原文のまま引用します。親特許と読み比べられるよう、後の章で分説・対比します。

特許第6283072号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用)

「自キャラクタを移動させるためのユーザによる第1の操作入力、及び前記自キャラクタに描画動作をさせるためのユーザによる前記第1の操作入力とは異なる第2の操作入力を受け付ける操作入力受付手段と、前記操作入力受付手段にて受け付けた前記第1及び第2の操作入力に基づいて情報処理を行う情報処理手段とを備え、前記情報処理手段は、前記第1の操作入力に基づいて、前記自キャラクタを前記仮想空間内で移動させるとともに、前記第2の操作入力に基づいて仮想空間内の自キャラクタに描画動作をさせることで、前記仮想空間の描画領域を前記自キャラクタの対応色で色付け、かつ前記自キャラクタの対応色とは異なる対応色が対応付けられた敵キャラクタに対する攻撃を行わせるゲーム進行手段と、前記敵キャラクタの対応色で色付けられた領域と前記自キャラクタの対応色で色付けられた領域とに基づいて、勝敗判定をする勝敗判定手段とを備える情報処理システム。」

3. 構成要件の分説──4つの要素に分解する

請求項1は、おおむね次のA〜Dに分解できます。

構成要件 請求項1の対応部分(要旨)
A(別入力の受付)自キャラクタを移動させる第1の操作入力と、描画動作をさせる第1とは異なる第2の操作入力とを受け付ける操作入力受付手段を備える。
B(処理)第1及び第2の操作入力に基づいて情報処理を行う情報処理手段を備える。
C(移動+描画+攻撃)ゲーム進行手段が、第1入力で自キャラクタを移動させ、第2入力で描画動作をさせて描画領域を自対応色で色付けし、かつ異なる対応色の敵キャラクタへの攻撃を行わせる。
D(面積の勝敗判定)敵の対応色で色付けられた領域と、自の対応色で色付けられた領域とに基づいて勝敗判定をする勝敗判定手段を備える。

末尾は「〜とを備える情報処理システム」。A〜Dのすべてを備えるものが権利範囲に含まれ、いずれか一つでも欠ければ原則として文言上の充足はしない、という関係です。

4. 親特許5980266との対比──何が違うのか

同じ「塗り」の発明でも、親と子ではクレームの強調点が異なります。両者を並べると、分割で観点を切り分けている様子がはっきりします。

観点 特許第5980266号(親) 特許第6283072号(分割)
操作入力「操作入力」を受け付ける(移動用/描画用の区別は要件化せず)移動用「第1入力」と描画用「第2入力」を別入力として明確に限定
敵への攻撃明示の要件なし敵キャラクタへの「攻撃」を要件化
勝敗の決め方描画状態に基づく「対戦判定色付けられた領域に基づく「勝敗判定」(面積的比較を明示)
自色領域での挙動差要件化(自色か否かで表示/移動制御を変える)要件化せず(別の観点=関連特許6543361側で展開)

整理すると、親特許5980266が「描画状態に基づく判定+自色領域での挙動制御」に軸足を置くのに対し、分割の6283072は「移動と描画の別入力+敵への攻撃+塗り面積による勝敗判定」という、対戦・操作系に寄せた切り口で権利化しています。同じ体験を別の角度から囲い込み、全体として抜けの少ない権利網を形成している——これが分割戦略の実像です。

実務Tips(親子の使い分け):侵害が疑われる製品に対しては、複数のクレームのうち「最も充足を主張しやすいもの」を選んで権利行使を検討します。相手製品が“移動と塗りを別ボタンで操作する”なら6283072が、“自インク上で挙動が変わる”点が顕著なら5980266(や6543361)が、それぞれ主張の入口になり得ます。分割で観点を分けておくことは、こうした選択肢を増やす意味を持ちます。

5. 分割出願の実務──なぜ分けるのか、遡及効とは

分割出願(特許法44条)とは、二以上の発明を含む出願の一部を、新たな出願として切り出す手続きです。実務上のポイントは出願日の遡及効にあります。6283072の実際の(分割)出願日は2016年7月25日ですが、適法な分割であれば原出願の時(2014年5月14日)にしたものとみなされ、新規性・進歩性の判断基準日も原出願日を基準とできます。つまり、親特許の発売後に切り出した子出願であっても、親と同じ時点の“強い”出願日を享受できるわけです。

分割が使われる典型的な場面は次のとおりです。

単一性違反への対応:一つの出願に複数の発明が含まれると指摘された場合に、発明ごとに分ける。

権利の多面化:親出願の明細書に開示された別の観点を、独立の権利として確保する(本件のように操作系・対戦系を切り出す)。

係争・事業への機動的対応:明細書の開示の範囲内で、後発製品の実装に合わせた請求項を新たに立てる。

重要なのは、分割で新たに書ける請求項は原出願の当初明細書等に開示された範囲に限られる(新規事項の追加は不可)という制約です。だからこそ、出願時点で将来の展開を見据え、明細書に厚く実施形態を記載しておくことが、後の分割の“弾”を用意することにつながります。スプラトゥーン特許群の分割の広がりは、その原出願明細書の記載の充実ぶりを裏づけているともいえます。

6. 実務者向けの学び──限定の狙いと回避設計

「別入力」限定は諸刃の剣

6283072は、移動と描画を「第1入力/第2入力(互いに異なる)」と明確に限定しています。これは、“移動しながら片手で塗る”という操作系の設計思想まで踏み込んで押さえる強みがある一方、限定が増える分、「一つの入力で移動と描画を同時に行う」ような実装には文言が及びにくくなる可能性もはらみます。限定の追加は権利範囲を明確にする反面、回避の“隙間”も生み得る——このトレードオフを意識することが、クレーム設計・回避設計の双方で重要です。

「攻撃」を要件化した意味

親特許にはなかった「敵キャラクタへの攻撃」が要件Cに加わっています。これにより、単に塗って面積を競うだけでなく、塗りと攻撃が一体化した対戦性までを権利範囲に取り込んでいます。裏を返せば、攻撃要素を含まない“純粋な塗り競争”のみのゲームは、この請求項の文言充足からは外れ得るということでもあります。要件は「守り」と同時に「境界線」を引く行為だと理解できます。

注意(回避は単一番号では足りない):ある一つの請求項の限定を外せても、親特許5980266や別カテゴリー(プログラム・装置・方法)の請求項、関連特許(6543361・6561155等)に抵触し得ます。しかも各請求項は強調点が異なるため、FTOではファミリー・分割系列全体をマッピングし、それぞれの構成要件を横断的に検討する必要があります。また均等論により、形式的な回避が実質的な充足と評価される場合もあります。

ドラフティングへの示唆

一つの中核発明について、「判定に軸足を置く版」「操作系に軸足を置く版」「挙動制御に軸足を置く版」と観点を変えた請求項を、分割を活用して複数用意する——この設計思想は、ゲームに限らずソフトウェア関連発明一般に応用できます。前提として、原出願の明細書に多様な実施形態・変形例を厚く書き込んでおくことが、将来の分割の自由度を左右します。

7. まとめ+ご相談について

特許第6283072号は、基幹特許5980266の分割出願として、「移動と描画の別入力(A)→移動・描画・攻撃(C)→塗り面積による勝敗判定(D)」という、対戦・操作系に寄せた切り口で『スプラトゥーン』の遊びを権利化しています。親特許とは強調点をずらすことで、同じ体験を多面的に囲い込む——分割戦略の実務が、親子のクレーム比較を通じて具体的に読み取れる好例です。

知財事務所エボリクスへのご相談

知財事務所エボリクス(evorix.jp)では、ソフトウェア・ゲーム関連発明の出願、分割を含むクレーム設計、FTO(侵害予防)調査などのご相談を承っております。自社の発明を、どの観点で・どのように権利化していくか、まずはお問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別事案の結論や特許の有効性・侵害の成否を保証するものではありません。引用した請求項および書誌情報は執筆時点の公開情報(特許公報・Google Patents)に基づきます。実際の権利範囲の解釈は、明細書全体および出願経過を踏まえてご判断ください。

スプラトゥーン特許シリーズ(全5回)