シミュレーションゴルフでパットを打つと、足元のスクリーンにボールの映像が出る——と思いますよね。ところがある特許は、そこをはっきり否定しています。実物が転がっている間は、仮想のボールを表示しない。
本記事では、ゴルフのデジタル化に関わる実在の登録特許5件を、特許庁のJ-PlatPatで請求項の原文まで確認して弁理士が解説します。シミュレーター、スイング解析、ピンの位置配信、弾道トラッキング、そしてスコア管理。扱う場面はばらばらですが、請求項を並べて読むと、全部に同じ形の一行が入っていました。「描かない」「測らない」「送らない」「目指させない」。
はじめに範囲を申し上げます。本記事は「ゴルフ業界のDX動向」ではありません。予約システムやコンペ運営といった業務のデジタル化ではなく、現場のジレンマを情報処理で解いた特許を扱います。クラブヘッドやボールの構造といった「物」の発明も今回は含みません(そちらはキャロウェイのゴルフクラブ特許で扱っています)。
目次
| 特許 | 特許権者 | 登録 | 請求項に書いてある「しない」 |
|---|---|---|---|
| 7719535 | SGK Co., Ltd.(韓国) | 2025 | 仮想のゴルフボールを表示しない |
| 7851194 | ブリヂストンスポーツ | 2026 | ヘッドスピードを直接は測らない |
| 7575783 | 朝日ゴルフ | 2024 | ピン位置情報をサーバに送信しない |
| 7699208 | トップゴルフ スウェーデン | 2025 | 偽陽性をわざと許容する |
| 7675953(B1) | 個人 | 2025 | パーを目標に置かない |
シミュレーションゴルフのパッティングには、他のショットにはない事情があります。ドライバーなら、打った瞬間にボールはネットに突き刺さり、あとは全部映像の仕事です。ところがパットは、実物が足元を転がり続ける。
ここで足元のスクリーンにも仮想のボールを描くと、本物と映像が二重に見えます。しかも両者はズレる。この特許は、そのズレを精密に合わせにいくのではなく、片方を消しました。
請求項1より(原文の末尾)
ユーザーがパッティングしたゴルフボールが前記ボトムスクリーン上を移動する間に、前記ボトムスクリーンには前記パッティングされたゴルフボールに対応する仮想のゴルフボールを表示しない
シミュレーターの本業は、ボールを描くことです。その本業を、本物が仕事をしている間だけ止める。実物が転がっているなら、映像は要らない——言われてみれば当たり前ですが、これが請求項の末尾に一行で書き切られています。
面白いのは、この特許に「表示しない」が2回出てくることです。請求項2は、打ったボールが前方のスクリーンにも所定の領域にも届かずに止まってしまった場合、そちらにも仮想ボールを表示しないと定めています。ショートしたときに画面だけがボールを進めてしまう、という不整合を潰しているわけです。
請求項1の前半も現場的です。仮想のホールカップを、仮想ボールとの距離が基準より近ければ足元のスクリーンに、遠ければ前方のスクリーンに表示し分けます。カップまで2メートルなら足元に、20メートルなら前方に。プレーヤーの視線がどこにあるかで、表示先を変えています。
弁理士の目:本件は分割出願です。原出願日は2020年9月30日、そこから分割したのが2024年3月1日で、登録は2025年7月29日。さらに韓国の優先権(2019年10月14日)を主張しています。海外企業が日本で権利を積み上げる典型的な形で、請求項8・全43頁という厚みもあります。
なお特許権者の表記はSGK Co., Ltd.です(公報の原語表記で確認)。資料によっては旧称とみられる別表記が混在しますが、識別番号は同一です。
ヘッドスピードを測るには、専用の計測器が要ります。レーダーか、高速度カメラか、クラブに付けるセンサーか。スマホで撮った動画からは、原理的に測れません。正面から撮ると、ヘッドは画面の奥へ向かって動くからです。奥行き方向の動きは、1台のカメラでは速度になりません。
この特許は、それを承知のうえで、測れないものを特徴量として採ります。
請求項1(原文)
ゴルフボールをゴルフクラブで打撃するゴルファのスイングの動画を取得する取得手段と、前記動画から、前記スイングの特徴量を演算する演算手段と、前記特徴量を変換式に代入することで、前記特徴量をゴルフクラブヘッドの挙動の推定値に変換する変換手段と、を備え、前記動画は、ゴルファを正面から撮影した動画を含み、前記特徴量は、打撃時の前記ゴルフクラブヘッドの飛球線方向の移動速度を含み、前記推定値は、前記移動速度から変換された、打撃時の前記ゴルフクラブヘッドのヘッドスピードである、ことを特徴とする情報処理装置。
正面動画の上で見える「飛球線方向の移動速度」——これは物理的なヘッドスピードではありません。見かけの量です。それを変換式に代入してヘッドスピードということにする。
では、その変換式とは何なのか。請求項5が、自分で明かしています。
請求項5(原文):前記変換式は、複数のゴルファのスイングの動画から演算された前記特徴量と、前記スイングにおいて計測器で計測されたゴルフクラブヘッドの挙動の計測値と、から得られた一次方程式である
深層学習でも物理モデルでもなく、一次方程式。大勢のゴルファーで「見かけの速度」と「計測器の実測値」を並べて、直線を1本引いただけです。物理を諦めて、統計に置き換えた。そしてその割り切りを、隠さずに請求項へ書いています。
同じ発想が他の指標にも並びます。請求項2は飛球線後方から撮った動画で、ヘッドとボールを通る仮想線の地面に対する角度からフェース面の向きを出す。請求項4は、ボールと最下点のヘッドとの距離から入射角度を出す。どれも「測る」のではなく「見かけの量から言い換える」構造です。
請求項3が、いちばん現場を感じさせました。請求項2でいう「所定のタイミング」を、アドレス時のゴルファの腰および肘の上下方向の位置と、ダウンスイング時の手首の上下方向の位置とによって規定すると定めています。時刻でもフレーム番号でもなく、体の部位の位置関係でタイミングを決めている。人によってスイングの速さが違っても、この決め方なら揃います。
弁理士の目:この会社は、同じテーマで路線を変えています。2016年に登録された特許第5941752号は、ヘッドスピードを先に測って、それを基準に撮影のタイミングを決めるという発明でした。つまり「まず測る」側です。その特許は現在年金不納により消滅しています。代わりに2023年・2025年・2026年と、測らずに推定する側の特許が積み上がりました。一社の出願の中で、ハードで測る発明からソフトで言い換える発明へ、投資が移った跡が読めます。
ゴルフ場は、カップの位置を毎日切り替えます。ところが距離計測アプリが教えてくれるのは、たいていグリーンの手前・センター・奥までです。その日の本当のピン位置は分からない。
ならばピンフラッグ自体に測位装置を付ければいい——ここまでは誰でも思いつきます。問題はその先です。ピンは、プレー中に抜かれます。キャディが抜いて、グリーンの端に置いて、持って歩く。そのあいだも装置は正常に動き、正しい位置を測り続けます。そしてその正しい位置が、後続の組に「今日のピンはここ」として配信されてしまう。
請求項1より(原文の末尾)
前記送信処理部は、前記グリーン位置情報が示す位置に前記ピン位置が含まれている場合に前記ピン位置情報を前記サーバに送信し、前記グリーン位置情報が示す位置に前記ピン位置が含まれていない場合に前記ピン位置情報を前記サーバに送信しない
測位の精度を上げる話ではありません。測位は成功しています。成功しているデータを、「グリーンの外にある」という理由だけで捨てる。正しいデータを捨てることで、正しい情報が配信される——この記事の5件でいちばん純度の高い引き算だと思います。
捨て方の条件は、従属項でさらに増えていきます。請求項3・4はピンフラッグが立った状態であることを検知している間に送信する。請求項5は所定の時刻になった場合に送信する。請求項6は装置がピンフラッグに結合していることを条件として送信する。「送る条件」ではなく「送らない場面」を一つずつ潰していく構成です。
そしてもう一つ、請求項2が物理的です。ピンフラッグがカップに挿入された状態で、電波受信部とグリーンの面との距離が、測位衛星が送信する電波の波長以上になるように装置とピンフラッグを結合する——と定めています。地面で反射した電波が受信を乱す現象への対策を、アルゴリズムではなく取り付け高さという寸法で解いています。
請求項7は、同じ限定を「ピンフラッグ」というカテゴリーで立て直しています。装置として売る場合と、ピンそのものとして売る場合の両方を押さえる作り方です。
打球を空中で追いかけて軌跡を描く技術があります。テレビ中継で見る、あの線です。カメラやセンサーがボールを見つけて、3次元の軌道を復元する。精度が命の世界に見えます。
ところがこの特許は、請求項1の書き出しでこう宣言します。
請求項1より(原文の冒頭)
登録された注目物体についてより多くの偽陽性を許容して偽陰性を最小限に抑えるように構成された物体検出システムによって登録された注目物体の3次元位置を取得することと、
偽陽性は「ボールでないものをボールと言ってしまう」誤り、偽陰性は「本物のボールを見逃す」誤りです。この請求項は、前者をわざと増やして、後者を減らすと言っています。
理由は明快です。見逃したボールは、後からどうやっても復元できません。一方、ゴミを拾ってしまっても、あとの処理で捨てられる。だから入口はザルにしておく。そして仮説をたくさん作り、つながらなかった仮説を削除し、生き残ったものにだけ完全な3次元物理モデルを当てる——という順序になっています。精度は、入口ではなく出口で作る。
そしてもう一段、AIの使い方が逆です。
請求項1より:所与の仮説についての登録された検出の数が閾値未満である場合、3次元空間における第1の動きモデル(第1の複雑度レベル)を、閾値以上である場合、第2の動きモデル(より高い第2の複雑度レベル)を使用する
請求項2より:第1の動きモデルは線形モデルであり、第2の動きモデルは、3次元空間における動きの短期予測を行うように訓練されたリカレントニューラルネットワークモデルである
点が少ないうちは直線で追う。点が溜まってからニューラルネットに切り替える。データが足りないところに高性能なモデルを当てても、自信たっぷりに間違えるだけです。使えるようになるまでAIを使わない、という判断が請求項に書かれています。
弁理士の目:請求項30・全55頁と、本記事で最も大きな公報です。PCT国際出願(PCT/EP2021/079919)から日本へ入り、米国の仮出願に基づく優先権(2020年11月3日)を主張しています。訳文なので日本語は硬めですが、請求項の骨格ははっきりしています。
ここまでの4件は、機械が何を測るかの話でした。最後の1件には、カメラもセンサーも出てきません。出てくるのは人の頭の中の目標設定です。
アマチュアゴルファーの多くは、各ホールでパーやボギーを狙います。そして崩れる。1つ大叩きすると、取り返そうとしてさらに崩れる。この特許は、そもそもパーを目標に置きません。
請求項1より(原文の一部)
ゴルフコースの各ホールに定められた規定打数に対し、規定打数よりも2打多いスコアで当該ホールを終了する場合を第1の想定内プレーとして各ホールに設定する手段と、
ゴルフコースの各ホールに定められた規定打数に対し、規定打数よりも1打多いスコアで当該ホールを終了する場合を第2の想定内プレーとして各ホールに設定する手段と、
読み違いではありません。ダブルボギーが「第1」で、ボギーが「第2」です。より悪いほうが第1に置かれている。
そのうえで、目標スコアを上限として、残りのホールで可能な「第1の想定内プレーの最大回数」と「第2の想定内プレーの回数」の組合せを算出して、ホールごとに表示します。「あと何回、ダブルボギーを打っていいか」が分かる、ということです。
上達の指標が反転しています。良いショットを何回打つか、ではなく、まだ許される失敗が何回残っているか。請求項2は、これを「有効残打数」という言葉で表示すると定めています。
請求項3も、実際に使った人でなければ書けない限定でした。アウトコースから回る場合、インコースから回る場合、ハーフで回る場合の画面を、それぞれ切り替える手段——スタートホールがコースによって違う、という日本のゴルフ場の運用がそのまま請求項に入っています。
弁理士の目:この5件で、いちばん速く権利になったのがこれです。出願 2024年8月1日 → 審査請求 同年11月26日 → 登録 2025年5月1日。約9か月。早期審査の対象出願で、公報種別はB1——出願公開を経ずに登録された、という記号です。
そして特許権者は企業ではなく個人。大手メーカーや欧州のトラッキング企業と並んで、個人が同じ土俵で権利を持っています。
①のシミュレーターは、仮想ボールを描く能力があるのに描きません。③のピンフラッグは、測位に成功しているのに送りません。どちらも故障でも精度不足でもなく、正常に動いているものを、場面を限って止めています。
この型が生まれるのは、機械の正しさと、人にとっての正しさがズレる場面です。転がっている実物の隣に正確な映像を出せば二重に見える。抜かれたピンの正確な位置を配れば嘘の情報になる。その「ズレる瞬間」を特定できたことが発明の中身で、請求項に書かれているのはズレの条件そのものです。
| ②ブリヂストンスポーツ | ④トップゴルフ | |
|---|---|---|
| 捨てたもの | 物理的に正しい速度計算 | 検出器の精度 |
| 代わりに置いたもの | 一次方程式(回帰直線) | 仮説を作って削る後段処理 |
| AIの位置づけ | そもそも使わない | 点が溜まるまで使わない |
| 得たもの | 計測器なしで運用できる | 見逃しが減る |
2件とも、「AIで精度を上げる」の逆を書いています。②は深層学習どころか一次方程式で済ませ、④はデータが足りないうちはニューラルネットを使わないと請求項で決めている。仕組みが特許になるかどうかの境目を考えるとき、この2件は良い教材です。新しいのはモデルではなく、どこで妥協すると何が手に入るかの設計だからです。
①〜④が機械の側の引き算だったのに対し、⑤は人の側の引き算です。測定精度を1ミリも変えずに、何を目標として表示するかだけを変えている。センサーもカメラも出てこないのに、これも情報処理の発明として登録されています。
3つの型に共通しているのは、「何を捨てるか」が請求項の言葉になっていることです。「表示しない」「送信しない」「偽陽性を許容する」「規定打数よりも2打多い」——どれも、その一行を外すと発明が成り立ちません。捨てる判断が、権利範囲を決めている。これは林業でもヘルステックでも建設でも見た形でした。
| 特許 | 出願 | 審査請求 | 登録 | 使った制度 |
|---|---|---|---|---|
| ①7719535 | 原2020-09-30 分割2024-03-01 | 2024-03-28 | 2025-07-29 | 分割/韓国優先権 |
| ②7851194 | 2022-06-23 | 2025-05-13 | 2026-04-16 | (通常審査) |
| ③7575783 | 2021-03-09 | 2023-12-11 | 2024-10-22 | (通常審査) |
| ④7699208 | 2021-10-28 | 2024-10-25 | 2025-06-18 | PCT/米国優先権 |
| ⑤7675953 | 2024-08-01 | 2024-11-26 | 2025-05-01 | 早期審査/B1 |
目を引くのは審査請求のタイミングです。②③④はいずれも出願から2年半〜3年置いてから審査請求しています。日本の審査請求期限は出願から3年ですから、ほぼ使い切っている。
これは怠慢ではなく判断です。審査請求には費用がかかりますし、3年待てば製品が売れるかどうか、権利にすべき範囲がどこかが見えてきます。急ぐ理由がないなら急がない——3年という猶予は、そのために用意されています。
対して⑤の個人発明家は、出願の4か月後に審査請求し、約9か月で登録まで到達しました。企業のほうが速いとは限らない、という実例です。出願から登録までの流れをどう設計するかは、規模ではなく事業の都合で決まります。
①の分割出願も参考になります。2020年の原出願から4年近く経った2024年に切り出して、別の切り口で権利を取り直している。最初に書いた明細書は、後から別の請求項を立てるための資産でもあるということです。
素材を探す過程で、はっきりした傾向がありました。ゴルフの計測まわりは、権利の消滅が多い。
2010年代前半、ウェアラブル端末でスイングを測る特許が各社から出ました。その多くが、いま年金の不納により消滅しています。本記事の②で触れたブリヂストンスポーツの旧特許(第5941752号)もそうです。
だから、番号を見つけただけで判断しないでください。特許情報のデータベースには、年金不納による消滅がすぐには反映されないものもあります。他社の権利を検討するときは、必ずJ-PlatPatの経過情報で最新の状態を確認してください。本記事に挙げた5件は2026年8月時点でJ-PlatPat上「特許 有効」と表示されていることを確認していますが、権利の存続状況は特許料の納付状況等により変動します。
見方を変えれば、これは参入する側にとっての好材料でもあります。消えた権利の技術は、誰でも自由に使えます。「先行技術があるから無理」ではなく、「その先行技術はまだ生きているのか」から調べる。実務では、そこがスタート地点です。
最後に、正直なところを書いておきます。
今回の5件は、世間でいう「DX」——予約システム、キャディの配車、コンペ運営、スコアの一元管理——ではありません。むしろ調べてみると、そちらの登録特許のほうが手薄でした。
5件の実態を分けると、こうなります。
(a) 計測の代替——測れない量を、別の量から言い換える工学(②③④)
(b) 体験の設計——室内で本物をどう感じさせるか(①)
(c) 認知の設計——プレーヤーに何を見せて、何を目標にさせるか(⑤)
業務システムの効率化ではなく、現場のジレンマを情報処理で解いた発明の集まりです。そしてそのジレンマが、どれもゴルフという競技の性質から出ているのが面白いところでした。実物のボールが転がる、ヘッドは奥へ動く、ピンは抜かれる、打球は空へ消える、そして人は崩れる。
逆に言えば、予約やコンペ運営のような業務側には、まだ権利化されていない領域が残っているということでもあります。ここは事業者にとっての機会です。
1|「うちの機能は、どこで手を抜いているか」を書き出す。本記事の5件は全部そこが発明でした。表示を止める、測るのをやめる、送らない、精度を落とす。現場で「あえてそうしている」ことがあるなら、それは請求項の候補です。
2|「なぜそれで足りるのか」を説明できるようにする。捨てただけでは発明になりません。②は一次方程式で足りると言い切り、④は見逃しのほうが致命的だと説明しています。捨てた理由が、進歩性の説明になります。
3|ソフトだけでも権利になる。⑤にはハードウェアが出てきません。携帯可能なコンピュータと、設定・入力・算出・表示の各手段だけです。「アプリだから特許は無理」という思い込みは、この1件で崩れます。
4|他社の権利は「生きているか」から確認する。この分野は消滅が多く、切れていれば自由に使えます。FTO調査では、番号を見つけて終わりにせず経過情報まで見るのが実務です。
5|海外企業の日本特許を見落とさない。本記事の①は韓国企業、④は欧州企業の日本登録特許です。国内の競合だけを見ていると、この層が抜けます。
6|特許だけが守り方ではない。ゴルフはブランドの世界でもあります。サービス名やレッスンメソッドの名称は商標、器具の外観は意匠。スポーツと知的財産の全体像もあわせてご覧ください。
「これは仕様の割り切りであって、発明ではない」——本当にそうでしょうか
本記事の5件は、どれも「あえてしないこと」が請求項の核になっていました。現場で当たり前になっている割り切りほど、外から見ると「なぜそれで足りるのか」が発明になっていることがあります。エボリクスでは、何が権利になりうるかの切り分けからご相談を承ります。
無料相談を申し込む →Q1. ゴルフのスコア管理アプリのようなソフトウェアでも、特許は取れますか?
取れます。本記事の特許第7675953号には、カメラもセンサーも出てきません。携帯可能なコンピュータと、設定・入力・算出・表示の各手段だけで構成されています。ポイントは「アプリだから取れる/取れない」ではなく、ハードウェア資源を使って具体的にどんな情報処理をするのかが書けているかです。「何を設定し、何を入力させ、何を算出して、何を表示するか」が特定できていれば、検討の土俵に乗ります。
Q2. 「AIで解析する」という発明は、いま出願しても新規性がないのでは?
AIを使うこと自体は、もはや珍しくありません。本記事で権利になっているのはAIそのものではなく、その周りの決めごとです。特許第7851194号は深層学習ではなく一次方程式を使うと請求項に書き、特許第7699208号はデータが溜まるまでニューラルネットを使わないと書いています。差がつくのは、AIの手前と後ろだとお考えください。
Q3. 記事で紹介された特許は、いま本当に生きているのですか?
5件とも2026年8月時点でJ-PlatPat上「特許 有効」と表示されていることを確認しています。ただし権利の存続状況は特許料の納付状況等により変動します。本文でも触れたとおり、この分野は権利の消滅が多く、2010年代のウェアラブル系特許は多くが年金不納で消えています。他社の権利を検討するときは、必ずJ-PlatPatの経過情報でその時点の状態を確認してください。
Q4. 個人でも特許は取れますか?費用や期間はどのくらいですか?
取れます。本記事の特許第7675953号は個人が権利者で、しかも5件中いちばん速く、出願から約9か月で登録に至っています(早期審査を利用)。中小企業・個人事業主・個人には、審査請求料や特許料の減免制度もあります。期間は通常審査だと出願から2〜4年程度が一般的ですが、早期審査の要件を満たせば大きく短縮できます。個別の見通しはご相談ください。
Q5. 海外の会社が持っている日本の特許は、日本の事業に関係しますか?
します。特許権は国ごとに成立し、日本で登録された特許は、権利者が外国企業であっても日本国内の実施に効力が及びます。本記事の特許第7719535号は韓国企業、第7699208号は欧州企業の日本登録特許です。国内の競合他社だけを調べていると、この層が抜け落ちます。調査の範囲を「日本で登録されている特許」で切ることが重要です。
Q6. 似たサービスを提供しています。この記事の特許に触れていませんか?
本記事は侵害の成否について何ら判断を示すものではありません。侵害の検討は、請求項の各構成要件をすべて満たすか(オールエレメントルール)を、対象となるサービスの具体的な構成に即して行う必要があります。文言上は満たさない場合でも、例外的に均等侵害が問題となることがあります。実務では、事前に他社権利を調べる調査から始めるのが定石です。
Q7. 公報の「B1」「分割出願」とは何ですか?
B1は、出願公開を経ずに登録された特許の公報につく記号です(本記事の第7675953号がこれ)。日本の出願は原則として出願から1年6か月後に公開されますが、審査がそれより速く進むとこの形になります。権利としての効力は通常の特許(B2)と同じです。分割出願は、もとの出願に書いてある内容の一部を切り出して新たな出願にする制度です(第7719535号が利用)。最初の明細書に書いてあることが、後から別の権利を立てる元手になります。
ゴルフの5件を請求項まで読んで見えたのは、どれも足していないということでした。実物が転がっている間は仮想ボールを描かず(①)、正面から撮った動画でヘッドスピードを直接は測らず(②)、グリーンの外では位置を送らず(③)、検出器の精度をわざと落とし(④)、そしてパーを目標に置かない(⑤)。
とくに③が象徴的でした。キャディがピンを抜いて持ち歩いている間も、測位は正しく成功しています。正しいからこそ、それを配信すると嘘のピン位置になる。正しいデータを捨てることで、正しい情報が届く。機械の正しさと人にとっての正しさがズレる瞬間を見つけたことが、そのまま発明になっていました。
権利者の顔ぶれも印象的です。韓国のシミュレーター企業、日本の用品大手、日本の計測器メーカー、欧州のトラッキング企業、そして個人。しかもいちばん速く権利にしたのは、その個人でした(出願から約9か月)。
自社のサービスで「あえてやっていないこと」はありませんか。それは仕様の割り切りではなく、権利化を検討する価値のある場所かもしれません。エボリクスでは、何が請求項になりうるかの切り分けからご提案しています。お問い合わせはこちら/ご相談の流れ
あわせて読みたい
・キャロウェイのゴルフクラブ特許を読む|米国特許11,083,937号にみる製法クレーム・多段CIP・用具規則の戦略
・4月26日は世界知的財産の日|テーマ『IPとスポーツ』が示す知財の新しい舞台
・スポーツジム・パーソナルジムの商標登録|「区分」の選び方
・林業テックの特許|年輪をIDにする、距離を測らない、最適化を捨てる
・ヘルステックの特許|電気の使用量から高齢者の衰えを見つける、測らずに測る発明
・建設テックの特許|あえて画質を下げる遠隔操作、地形の差から工期を読む施工計画
本記事の注意事項:本記事は2026年8月時点の公開特許情報(特許庁J-PlatPat)に基づく一般的な解説です。引用した請求項は公報の記載に基づきますが、紙幅の都合により抜粋・要旨としてまとめた箇所があり、権利範囲は最終的に公報の正本と出願経過により定まります。権利の存続状況は特許料の納付状況等により変動します(本記事に挙げた5件は上記時点でJ-PlatPat上「特許 有効」と表示されていることを確認しています)。公報には製品名・サービス名の記載がないため、特定の製品・サービスに当該技術が使われているかを断定するものではありません(会社名・個人名は公報記載の特許権者名です)。ゴルフ規則・用具規則その他の規程への適合性について本記事は何ら判断を示すものではなく、実施にあたっては別途検討が必要です。侵害の成否について本記事は何ら断定するものではなく、個別事案の結論を保証するものでもありません。
AUTHOR / 執筆者
杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)
知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士
特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。