ノルウェーは、水産物・海洋技術・エネルギー・アウトドア用品などで日本企業との取引が多い一方、EUに加盟していないため欧州連合商標(EUTM)の効力が及ばない国です。EU27か国をEUTMでカバーしても、ノルウェーは別途出願しなければ保護されません。しかもノルウェーの商標制度は、特許庁(NIPO)が先行商標との抵触まで職権で審査する、異議申立が無料、2023年3月にEU商標指令に合わせた大改正が施行されたなど、同じ非EUのスイスや英国とも異なる独自の特徴があります。
本記事では、ノルウェー工業所有権庁(NIPO/Patentstyret)の公式情報・商標法(2010年法)・2023年改正の解説を一次資料として、出願から登録・異議・行政審査・不使用・権利行使までを弁理士が実務目線で整理します。
この記事のポイント
目次
LEGAL FRAMEWORK
商標法(2010年法・2023年改正)+商標規則+NIPOガイドライン。EEA協定を通じてEU商標指令を国内法化し、EU司法裁判所の判例が実務上重視される
ノルウェーの商標は、2010年3月26日制定の商標法(varemerkeloven)と商標規則、そしてノルウェー工業所有権庁(NIPO/Patentstyret、オスロ)のガイドラインで運用されています。ノルウェーはEUには加盟していませんが、欧州経済領域(EEA)協定によりEUの商標指令を国内法に取り込んでおり、NIPOと不服審判機関(KFIR)はEU司法裁判所・一般裁判所の判例を積極的に引用します。実務感覚としては「EU実務に近いが、庁による審査範囲が広い国」と理解すると分かりやすいでしょう。
EUTMの効力はノルウェーに及ばないため、欧州展開ではEUTM・英国・スイスに加えてノルウェーを個別に確保する必要があります。ノルウェーはマドリッド議定書に加盟しているので、日本からはマドプロ国際商標出願でノルウェーを指定するか、NIPOへ直接出願する2ルートがあります。
NIPOの統計サービスによると、2025年のノルウェーへの商標出願(国内出願とマドプロ指定の合計)は15,526件で前年比5.4%増、有効な商標は約25万8,000件、出願の約90%が登録に至っています。過去10年の出願上位はノバルティス・ロレアル・ファーウェイ・アップルなど外国企業が占め、外国企業にとって重要な出願先であることが分かります。
言語と代理人
願書と指定商品・役務はノルウェー語で提出します(添付書類はデンマーク語・スウェーデン語・英語も可)。外国出願人に現地代理人の選任義務はありませんが、ノルウェー語での手続とNIPOからの通知対応が必要になるため、実務上は現地代理人を通じて出願するのが一般的です。委任状は簡易署名で足り、公証は不要です。
2023年3月1日、EU商標指令(2015/2436)を国内法化する商標法改正が施行され、ノルウェーの実務はEU加盟国と大幅に揃いました。日本企業の実務に直結する変更点は次の4つです。
| 改正項目 | 改正前 | 2023年3月1日以降 |
|---|---|---|
| 悪意(bad faith) | 他人の使用商標の冒認に関する限定的な規定 | EU型の包括的な「悪意による出願」を拒絶・無効理由として新設。冒認出願への対抗手段が広がった |
| 商標の表現方法 | 視覚的(図形的)表現が必要 | 「明確かつ正確」に特定できれば足りる。音・動き・ホログラム等を音声・動画ファイルで出願可能 |
| 白黒登録の保護範囲 | 白黒・グレーで登録すればすべての色彩をカバー | 登録した態様のみを保護(改正前の出願は旧実務のまま)。実際に使う色での出願を検討する必要がある |
| 更新の申請時期 | 満了前の最終年 | 満了前6か月以内(満了後6か月の猶予期間は追加手数料NOK 550) |
白黒登録の落とし穴:日本では白黒(モノクロ)で登録しておけば色違いの使用も広くカバーできると考えがちですが、ノルウェーでは2023年3月以降の出願について、その考え方が通用しなくなりました。ロゴを特定の色で使うなら、その色での出願(または白黒と併願)を検討してください。
文字・図形・立体的形状・色彩・音・動き・ホログラムなど、商品・役務を識別でき明確に特定できる標識は商標として登録できます。団体商標・保証商標も認められます。
識別力を欠く標識、商品の種類・品質・産地などを記述するだけの標識、誤認を生じさせる標識、公序良俗に反する標識、国旗・紋章等は登録されません。地名については、KFIRが2024年のYOSEMITE事件で従来より登録のハードルを下げる判断を示しており、地理的名称を含む商標の登録可能性が広がっています。
ノルウェーの最大の特徴は、NIPOが先行する登録商標(マドプロによるノルウェー指定を含む)との混同のおそれを職権で審査し、抵触があれば拒絶することです。EUやスイスのように「先行権利者が異議を申し立てなければ登録される」制度ではなく、日本と同じ審査主義です。拒絶通知を受けた場合の対応は次のとおりです。
権利者側のメリット:先行商標として登録しておけば、後願の類似商標はNIPOが拒絶してくれます。スイスのように公告を常時監視しなくても一定の防御が働く点は、日本企業にとって運用しやすい制度です。
PROCEDURE
Altinn経由で電子出願 → 方式・絶対的・相対的拒絶理由の審査 → 登録・官報公告 → 3か月の異議期間。条件が揃えば最短3週間で登録
優先権証明書は「求められたら提出」
パリ条約の優先権(日本出願から6か月以内)を主張する場合、優先権証明書は出願時に提出する必要はなく、NIPOから求められたときに3か月以内に提出すれば足ります。
NIPOの公式手数料はノルウェークローネ(NOK)建てで、1区分ごとの積み上げ方式です(1NOK≒14〜15円で換算すると1区分の出願庁費用は5〜6万円程度)。
| 項目 | 庁費用(NOK) | 備考 |
|---|---|---|
| 出願(1区分) | 3,800 | 10年分の保護を含む |
| 追加区分 | 1,000/区分 | 2区分目から |
| 異議申立 | 無料 | 公告後3か月以内 |
| 行政審査(無効・取消請求) | 4,000 | NIPOが却下した場合は半額返還 |
| 更新(1区分) | 3,400 | 追加区分は1,300/区分 |
| 更新の猶予期間加算 | 550 | 満了後6か月以内 |
| 登録商標の変更 | 1,200 | 名義変更・住所変更の届出は無料 |
| 分割(1区分) | 2,900 | 追加区分は750/区分 |
これに現地代理人費用が加わります。マドプロでノルウェーを指定する場合はNIPOの個別手数料をWIPOに支払い、WIPOの手数料計算ツールで金額を確認できます。複数国に出願する場合の費用比較はマドプロの費用とメリットをご覧ください。
補助金の活用:中小企業のノルウェーへの商標出願費用は、INPIT外国出願補助金(費用の1/2、商標1出願あたり上限60万円)の対象になります。
登録の公告から3か月以内であれば、誰でも無料で異議を申し立てられます。先行商標との混同のおそれだけでなく、識別力欠如や悪意など絶対的拒絶理由も主張できる点が、相対的理由に限定されるスイスとの違いです。NIPOは異議を商標権者に送付し、双方の書面を受けて決定します。敗れた当事者は相手方の費用を負担することがあります。
2010年法で導入された、裁判所に代わってNIPOが登録の無効・取消を判断する手続です。法的利益を有する者が、異議期間の満了後(異議があればその確定後)に請求できます。手数料はNOK 4,000で、NIPOが請求を退けた場合は半額が返還されます。
NIPOは当事者の主張と証拠に基づいて判断し、追加の証拠収集や戦術的な助言は行いません。決定に不服があればKFIRに上訴できます。裁判所での無効訴訟(オスロ地方裁判所の専属管轄)も選べますが、費用と時間の面で行政審査が第一選択になります。
ノルウェーでは出願時に使用や使用意思の証明は不要ですが、登録日から5年以内にノルウェー国内で真正な使用を開始しなければならず、5年間継続して使用しない状態が続くと、行政審査または裁判で取り消される可能性があります。取消請求は異議期間満了から5年経過後に可能です。
スイスと同じく、ノルウェーでも他国での使用は使用と認められません。ノルウェー向けの販売実績・請求書・ノルウェー語ウェブサイトなど、日付の分かる証拠を継続的に保管しておくことが防御の基本です。各国の使用義務の違いは商標の登録後の維持義務 世界比較で整理しています。
NIPOの拒絶査定・異議決定・行政審査の決定に不服がある当事者は、決定の送付日から2か月以内に工業所有権不服審判委員会(KFIR)に上訴できます。KFIRは独立の行政審判機関で、EU判例を参照しながら判断します。KFIRの決定にも不服があれば、送付日から2か月以内にオスロ地方裁判所に提訴でき、その後はボルガルティング控訴裁判所、最高裁判所へと進みます。
| 段階 | 機関 | 期限 |
|---|---|---|
| 審査・異議・行政審査 | NIPO | 拒絶通知への応答1〜3か月(延長可) |
| 第1次不服 | KFIR(不服審判委員会) | 決定送付から2か月 |
| 司法審査 | オスロ地方裁判所(専属管轄) | KFIR決定送付から2か月 |
| 上訴 | ボルガルティング控訴裁判所 → 最高裁判所 | — |
| 観点 | マドプロ指定 | 直接出願 |
|---|---|---|
| 向いているケース | EU・英国・スイスなど複数国と同時に出願する場合 | ノルウェーのみ、または指定商品をノルウェー向けに調整したい場合 |
| 言語 | 英語で作成した国際登録がそのまま審査対象 | ノルウェー語での願書・商品表示が必要 |
| 先行商標の審査 | NIPOが職権審査し、抵触があれば暫定拒絶を通報(応答期限3か月) | 同じく職権審査。拒絶通知への応答は1〜3か月 |
| 現地代理人 | 暫定拒絶が来るまで不要 | 義務ではないが実務上ほぼ必須 |
| セントラルアタック | 国際登録から5年間、日本の基礎商標に連動して消滅するリスク | なし |
ノルウェーはNIPOが先行商標を審査するため、マドプロ指定でも暫定拒絶を受ける確率は「異議がなければ登録される国」より高くなります。暫定拒絶を受けた時点で現地代理人が必要になるので、事前にノルウェーの登録簿を調査し、抵触があれば指定商品の絞り込みや同意書の取得を出願前に検討しておくと、費用と時間を節約できます。
登録商標の侵害訴訟と無効訴訟はオスロ地方裁判所の専属管轄で、控訴はボルガルティング控訴裁判所、上告は最高裁判所です。差止め・損害賠償(合理的なライセンス料相当額、実損害、または侵害者利益)・侵害品の廃棄・情報開示が認められ、仮処分も利用できます。税関に申請すれば侵害疑義品の差止めも可能です。侵害訴訟では被告が反訴として登録の無効・不使用取消を主張するのが通例なので、権利行使の前に自社商標の使用証拠を整えておくことが重要です。
| 項目 | ノルウェー(NIPO) | 日本(特許庁) |
|---|---|---|
| 先行商標との類似の審査 | 職権審査あり(同意書で回避可) | 職権審査あり(2024年からコンセント制度) |
| 異議申立 | 公告後3か月・誰でも・無料 | 公報発行後2か月・何人も・有料 |
| 審査期間の目安 | 最短3週間〜4か月(登録まで5〜7か月) | 6〜8か月程度 |
| 不使用取消の猶予 | 5年(行政審査NOK 4,000) | 3年(審判) |
| 存続期間 | 出願日から10年・更新無制限 | 登録日から10年・更新無制限 |
| 出願庁費用(1区分) | NOK 3,800(10年分込み) | 出願12,000円+8,600円、登録料は別途 |
| 白黒登録の保護範囲 | 登録態様のみ(2023年3月以降) | 色彩は要部でなければ類似範囲で保護されうる |
| 不服申立 | KFIR → オスロ地裁 → 控訴裁 → 最高裁 | 審判 → 知財高裁 → 最高裁 |
審査の仕組みは日本に近く、日本企業にとって理解しやすい制度です。違いが出るのは、異議が無料で誰でも申し立てられること、不使用の猶予が5年であること、そして白黒登録の扱いです。
保護されません。ノルウェーはEU非加盟のため、欧州連合商標(EUTM)の効力は及びません。マドプロでノルウェーを指定するか、NIPOに直接出願する必要があります。
出願時に手数料を納付し、NIPOの事前承認済み商品表示のみで出願すれば3週間以内、それ以外は納付日から4か月以内が目安です。拒絶通知への応答や登録後3か月の異議期間を含めると、順調な案件で5〜7か月程度です。
庁費用は1区分NOK 3,800(10年分含む)、追加区分NOK 1,000です。更新はNOK 3,400(追加区分NOK 1,300)。これに現地代理人費用が加わります。中小企業はINPIT外国出願補助金で費用の1/2の助成を受けられる場合があります。
通知から1〜3か月の応答期限内に、非類似の主張、指定商品・役務の限定、先行商標権者からの同意書の提出のいずれかで対応します。先行商標が登録から5年以上不使用なら、行政審査で取消を請求して障害を除く方法もあります。
2023年3月1日より前の出願は旧実務(全色をカバー)が適用されますが、それ以降の出願は登録した態様のみが保護対象です。色が識別力の要素になるロゴは、実際に使用する色で出願してください。
公告から3か月以内なら無料で異議を申し立てられます。期限を過ぎた場合は、NOK 4,000の行政審査で無効(悪意・先行権利との抵触)や不使用取消を請求できます。裁判所での無効訴訟も可能ですが、まずは行政審査が費用面で有利です。
ノルウェーの商標制度は、NIPOが先行商標まで審査する日本型の審査主義に、EU商標指令に沿った2023年改正が重なった制度です。EUTMでは守れない市場である以上、欧州展開の設計段階でノルウェーを組み込み、「出願前の登録簿調査」「実際に使う色でのロゴ出願」「登録から5年以内のノルウェー国内使用」の3点を運用に落とし込むことが、ノルウェーでのブランド保護の要諦です。異議が無料で行政審査も低額なので、他社の類似登録に対しては積極的に動ける環境が整っています。
ノルウェーを含む各国の商標制度は世界の商標制度ガイドで地域別に整理しています。
マドプロ指定と直接出願の選択、ノルウェー登録簿の事前調査、指定商品の設計、INPIT外国出願補助金の申請まで、知的財産事務所エボリクスが一貫してサポートします。初回相談は無料です。
※本記事はノルウェー工業所有権庁(NIPO/Patentstyret)の公式サイト(手数料一覧・出願手続の案内・行政審査と不服申立の案内・統計サービス)、ノルウェー商標法(2010年法・2023年3月1日改正)、Schjødt・Haavind・Zacco等の法律事務所およびWorld Trademark Reviewによる2023年改正・YOSEMITE事件の解説、IP Costerの国別ガイドを基に、2026年9月時点の情報で一般的な情報提供を目的として作成しています。手数料・運用は変更されることがあります。個別案件の具体的判断には、専門家へのご相談を推奨します。