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イスラエル商標制度の実務ガイド|出願・費用・異議・不使用取消・使用権者登録・マドプロを弁理士が解説|知的財産事務所エボリクス

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/09/24

イスラエルは人口約1,000万人の小国ながら、サイバーセキュリティ・半導体・医療機器・アグリテックの分野で世界有数のスタートアップ集積地であり、日本企業の投資・協業先として存在感を増しています。日本・イスラエル投資協定(2020年発効)以降、現地法人の設立や現地企業との共同開発、製品の輸出を進める企業が増え、それに伴ってイスラエルでの商標保護の相談も確実に増えました。

イスラエルの商標制度は英国委任統治時代の法制を起源とし、イスラエル特許庁(ILPO)が先行商標との抵触まで職権で審査する「審査主義」を採用している点で、先行商標を審査しないドイツやスイスとは対照的です。一方で、不使用取消の猶予が3年と短いこと、ライセンシーを登録簿に「使用権者」として登録しないと子会社の使用でも権利者の使用と認められないこと、登録後5年で無効主張が制限されることなど、日本企業が見落としやすい独自ルールが多くあります。本記事では、商標条例(Trade Marks Ordinance)、ILPOの2026年公式手数料、WIPOへの2024年年次報告、2025年の最高裁判決を一次資料として、出願から異議・取消・権利行使・マドプロの使い分けまでを弁理士が実務目線で整理します。

この記事のポイント

  • 根拠法は商標条例(新版)1972年。ILPOは絶対的拒絶理由に加えて先行登録商標・先願との抵触も職権で審査し、競合する出願同士は条例29条の「競合出願手続」で優劣を決める
  • 出願庁費用は1区分NIS 1,904・追加区分NIS 1,432(2026年)。初回審査の待ち時間は2〜3か月まで短縮(2024年)、加速審査はNIS 893
  • 公告から3か月(延長不可)が異議期間。異議・取消請求の庁費用は1区分NIS 959で、聴聞・反対尋問を伴う裁判型の手続
  • 存続期間は出願日から10年。不使用取消は3年の連続不使用で請求可能。ライセンシーは「使用権者」として登録しなければ、その使用は権利者の使用にならない
  • 共存合意(同意書)はILPOを拘束しない——2025年4月の最高裁判決(Kviscal事件)が確認。マドプロ加盟は2010年、拒絶通報期限は18か月+異議

目次

  1. イスラエル商標制度の全体像と法的枠組み
  2. 保護対象と登録要件:識別力・不登録事由・周知商標
  3. 審査の特徴:ILPOは先行商標も審査し、同意書は庁を拘束しない
  4. 出願手続の流れと審査期間
  5. 費用一覧(ILPO 2026年公式手数料)
  6. 異議申立:公告後3か月・裁判型の手続
  7. 取消・無効:5年の制限と不使用3年
  8. 使用義務・ライセンス登録・更新
  9. 権利行使:裁判所・仮処分・税関・並行輸入
  10. 最近の判例と実務動向(2023〜2026年)
  11. マドプロ指定と直接出願の使い分け
  12. 日本の商標制度との比較
  13. 日本企業がイスラエル出願で押さえるべき実務ポイント
  14. よくある質問(FAQ)
  15. 出典・参考文献

1. イスラエル商標制度の全体像と法的枠組み

OVERVIEW

商標条例(新版)1972年+商標規則1940年。管轄はイスラエル特許庁(ILPO、法務省所属)。先願主義・審査主義(絶対的+相対的理由)・登録前異議型。パリ条約・ニース協定・TRIPS・マドプロ(2010年)加盟

イスラエルの商標法の根拠は商標条例(Trade Marks Ordinance [New Version], 5732-1972)です。「条例(Ordinance)」という名称は英国委任統治時代の法令を建国後に引き継いだ経緯によるもので、英国法の影響を色濃く残しています。これを商標規則(1940年)、マドリッド議定書実施規則(2007年)、原産地名称・地理的表示保護法(1965年)などが補い、未登録商標は商事不法行為法のパッシングオフ(詐称通用)で保護されます。

管轄庁は法務省に属するイスラエル特許庁(Israel Patent Office:ILPO)の商標部門で、審査・異議・取消・競合出願手続をすべて庁内の登録官(Registrar)と審判官が扱います。手続言語はヘブライ語が原則ですが、英語での出願・応答が広く受け入れられており、外国出願人の実務上の負担は小さい国です。

出願件数と外国出願人の割合

ILPOがWIPOに提出した2024年の年次技術報告によると、2024年の商標出願は9,602件(17,748区分)で、内訳は国内ルートの出願4,345件、マドプロ経由の指定5,257件です。出願人の75%が外国人という点がイスラエル市場の特徴で、日本企業にとっては競合相手の多くも外国企業ということになります。2023年比では件数10%減・区分数19%減となり、その分だけ審査が速くなって、初回審査までの待ち時間は2〜3か月、再審査は約1か月まで短縮されました。

ドイツ・スイスとの決定的な違い

イスラエルのILPOは、日本の特許庁と同様に先行登録商標や先願との抵触(相対的拒絶理由)を職権で審査します。先行商標を審査しないドイツスイスとは設計思想が異なり、「登録=一定の審査を経た権利」という安心感がある反面、拒絶理由通知への対応と、後述する競合出願手続への備えが必要になります。

2. 保護対象と登録要件:識別力・不登録事由・周知商標

商標条例は商標を「文字・数字・語・図形その他の標識またはその組合せで、二次元または三次元のもの」と定義しています。文字・図形・ラベルのほか、色彩のみ、立体、動き、ホログラム、音の商標が登録可能で、役務商標、団体商標、保証商標も認められます。匂いや味の商標は現時点で登録例がありません。

識別力(8条)と不登録事由(11条)

登録の基本要件は識別力(条例8条)で、記述的な語、地理的名称、ありふれた姓などは、主としてイスラエル国内での使用により識別力を獲得しない限り登録されません。条例11条は不登録事由を列挙しており、国家の象徴や国旗、公序良俗に反する標章、誤認を生じる標章、地理的表示と抵触するワイン・蒸留酒の標章、本人の同意のない肖像、「Patent」「Registered」等の語を含む標章などが挙げられます。

相対的な不登録事由として、11条9号は同一・類似の商品について登録済みの商標と混同を生じるほど類似する標章を、11条13号・14号は周知商標との抵触を定めています。14号は登録された周知商標について、非類似の商品・役務にまで保護を広げる規定で、商品の関連性を示唆し権利者に損害が生じるおそれがある場合に適用されます。

周知商標は未登録でも保護される

イスラエルには周知商標の特別な登録制度はなく、審査・異議・訴訟の中で個別に周知性が認定されます。未登録の周知商標は、周知となっている商品・役務およびそれと同種の商品について排他的使用権が認められ(条例46A条)、差止請求が可能です(損害賠償は登録商標に限られます)。登録された周知商標はさらに広く、非類似の商品への使用でも出所の関連性を想起させ権利者に損害が生じるおそれがあれば侵害となります。希釈化(ダイリューション)も侵害類型として認められています。

立体商標と2023年の審査指針:記述的商標に厳格化

商品の形状そのものを立体商標として登録するには、(1)形状が出所を識別していること、(2)美的・機能的に本質的な役割を果たしていないこと、(3)使用により識別力を獲得した例外的な場合であること、の3要件を満たす必要があり、ハードルは高めです。また、ILPOは2023年に識別力判断の実務指針(Practice Paper)を公表し、標準的な書体で記述的な語を書いただけの標章、記述的な語に単純な図形や色を加えただけの標章は原則として登録しない方針を明確にしました。英語の記述的な語をロゴ化して逃げる手法はイスラエルでは通用しにくくなっています。

3. 審査の特徴:ILPOは先行商標も審査し、同意書は庁を拘束しない

ILPOの審査は、方式・分類の確認、絶対的拒絶理由(識別力・不登録事由)、そして先行登録商標・先願・周知商標との抵触という相対的拒絶理由まで及びます。先行商標を理由とする拒絶理由通知を受けた場合、出願人は非類似の主張、指定商品の限定、先行商標の不使用取消請求、先行権利者との交渉などで対応します。

競合出願手続(条例29条):先願主義の例外

イスラエル特有なのが、同一・類似の商標が同時に係属している場合の「競合出願(Rival Applications)」手続です。審査官が、まだ登録に至っていない他人の出願と抵触すると判断すると、条例29条により両出願の処理が保留され、当事者はまず登録官の承認を前提とした共存の合意を試みます。合意に至らなければ登録官がどちらの出願を先に進めるかを決定しますが、その判断基準は(a)商標選択の善意、(b)出願日までおよび聴聞までの各当事者の使用の規模、(c)出願日の先後で、出願日の先後は補助的な基準にすぎません。日本の先願主義とは異なり、後から出願しても実際の使用実績が大きければ優先されることがある、という点は要注意です。

同意書(Letter of Consent)の限界:先行権利者の同意書や共存合意を提出しても、ILPOは独自に混同のおそれを判断します。2025年4月10日の最高裁判決(Commissioner of Trademarks v. Kviscal Services、RCA 5743/24)は、私的な共存合意は登録官の裁量を拘束せず、消費者の混同防止という条例の目的が優先すると判示し、登録官が称呼の修正や指定商品の限定を条件に登録を認めた判断を支持しました。同意書は「有力な考慮要素」ではあっても「決め手」ではありません。

4. 出願手続の流れと審査期間

PROCEDURE

電子出願 → 方式・絶対的理由・相対的理由の審査(初回審査まで2〜3か月) → 登録査定・公告 → 3か月の異議期間 → 登録証発行。異議がなければ出願から1年前後が目安

  1. 出願:ILPOの商標電子サービスから出願します。必要事項は願書、商標見本、ニース分類に従った指定商品・役務、出願人名、送達先、少なくとも1区分分の手数料、委任状です。多区分出願が可能で、指定商品は区分見出し(クラスヘディング)だけでなく具体的に記載する必要があります。委任状は署名のみの簡易なもので、公証・認証は不要、出願後3か月以内の追完が認められます。
  2. 優先権:パリ条約に基づき、外国出願から6か月以内に優先権を主張できます。優先権証明書は出願後3か月以内(有料延長可)に提出し、英語またはアラビア語以外の書類には認証翻訳が必要です。
  3. 審査・拒絶理由通知:初回審査までの待ち時間は2024年時点で2〜3か月、再審査は約1か月です。拒絶理由通知への応答期限は指令書に記載され(通常3か月程度)、月単位の有料延長(NIS 86/月)が可能です。加速審査(1区分NIS 893)は、侵害対応や海外での先行登録の必要性などの理由を示して請求します。
  4. 登録査定・公告・異議:登録要件を満たすと登録査定が商標公報に公告され、公告日から3か月の異議期間が始まります。日本と同様の「公告→異議→登録」型で、ドイツやスイスのような「登録→異議」型ではありません。
  5. 登録・存続期間:異議がなければ登録され、登録証が発行されます。存続期間は出願日から10年(条例31条)で、10年ごとに何度でも更新できます。

ヘブライ語表記の商標は必要か

ヘブライ語での出願義務はなく、英字商標のみで登録できます。ただしイスラエル市場ではヘブライ語表記(音訳)で商品が呼ばれることが多く、ヘブライ語版の商標を第三者に先取りされる例もあります。主力ブランドについては、英字とヘブライ語音訳の両方を出願しておくのが現地代理人の一般的な助言です。

5. 費用一覧(ILPO 2026年公式手数料)

ILPOの庁費用は新シェケル(NIS)建てで、毎年1月に物価連動で改定されます。2026年1月1日からの主な手数料は次のとおりです(1NIS≒40〜45円で換算すると、1区分の出願で8〜9万円程度)。

項目 庁費用(NIS) 備考
出願(1区分)1,904同一出願内の追加区分は各1,432
加速審査(1区分)893理由の疎明が必要
期間延長(1か月ごと)861か月未満の端数も1か月分
異議申立・取消請求(1区分)959聴聞請求(24・29・41条)は893
更新(1区分)3,393追加区分は各2,864。満了後6か月は割増で更新可
回復(1区分)1,317
登録簿の変更記録(移転・使用権者登録等)372ライセンスの登録は必須(8章参照)
ILPO経由の国際出願(マドプロ)取扱626事後指定・国際登録の更新も各626

日本からマドプロでイスラエルを指定する場合は、ILPOの個別手数料をWIPOにスイスフランで納付します。2026年8月23日改定の金額は1区分CHF 471・追加区分CHF 354、更新は1区分CHF 840・追加区分CHF 709です。国内出願の庁費用とほぼ同水準ですが、マドプロは現地代理人費用が原則不要な分だけ安くなります。複数国出願の費用比較はマドプロの費用とメリットをご覧ください。

補助金の活用:中小企業のイスラエルへの商標出願費用は、INPIT外国出願補助金(費用の1/2、商標1出願あたり上限60万円)の対象になります。

6. 異議申立:公告後3か月・裁判型の手続

  • 期間・手数料:登録査定の公告から3か月以内(条例24条)。この期間は延長できませんが、その後の各手続期限は相手方の同意を条件に延長可能です。庁費用は1商標・1区分あたりNIS 959
  • 申立人・理由:誰でも申し立てることができ、理由は条例上の不登録事由(絶対的理由)、先行登録商標・周知商標・使用によるグッドウィルなどの先行権利(相対的理由)、周知商標の希釈化、申立人自身が商標の所有者であるとの主張など
  • 手続の流れ:異議申立書(理由付き)→出願人の答弁書(2か月)→申立人の証拠(2か月)→出願人の証拠(2か月)→申立人の反証(2か月)→登録官・審判官の面前での聴聞(宣誓供述書の証人に対する反対尋問あり)→書面による最終弁論。当事者の合意で聴聞を省略し書面審理とすることもできます
  • 費用感:異議申立書の起案だけでNIS 18,000〜20,000+VAT 18%が現地の相場とされ、証拠・聴聞まで進むと相応の費用がかかります。書類開示(ディスカバリー)制度はありません
  • 不服申立:登録官の決定に対しては30日以内に地方裁判所へ上訴し、さらに許可を得て最高裁へ上告できます。上訴審の判断までは2〜3年かかるのが通例です

2025年10月:予備聴聞の導入案

ILPOは2025年10月20日、異議・取消手続に予備聴聞(preliminary hearing)を導入する通達案を公表しました。争点整理と和解の促進を目的とするもので、実施されれば裁判型で長期化しがちな異議手続の期間短縮が期待されます。

7. 取消・無効:5年の制限と不使用3年

登録後の攻撃手段は、ILPO(登録官)への取消請求が原則です。侵害訴訟の被告が抗弁として登録の無効を主張することもできます。取消理由と期間制限は次のとおりで、日本の除斥期間と似た構造ですが、不使用取消の猶予が3年と短い点が大きく異なります。

取消理由 請求できる期間 根拠・備考
登録要件違反(識別力欠如・先行商標との抵触など、異議と同じ理由)登録証発行から5年以内条例39条。5年経過後は原則として争えない(外国登録に基づく登録が本国で取り消された場合は5年経過後のみ)
悪意の出願期限なし先取り登録への対抗手段。2023年のBMX事件では登録後の悪意の使用も取消理由になると判断
不使用登録後、請求前3年間の連続不使用条例41条。特別な事情(正当理由)があれば免れる。区分単位・商品単位の部分取消が可能。取消は登録官の裁量で、周知商標は不使用でも維持された例あり

取消手続は異議と同じく、申立書・答弁・証拠・聴聞・反対尋問という裁判型で進みます。庁費用は1区分NIS 959です。障害となる先行商標が3年以上使われていない場合、拒絶理由通知への応答と並行して不使用取消を請求するのが定石です。

8. 使用義務・ライセンス登録・更新

使用義務:3年で取消リスク

出願時に使用や使用意思の宣誓は不要で、登録後も使用証明の提出義務はありません。しかし登録後3年間イスラエル国内で真正な使用がなければ、正当な理由がない限り不使用取消の対象になります。日本と同じ3年ですが、ドイツ・スイス・EUの5年より短く、「とりあえず登録して数年後に進出」という計画では権利を失いかねません。各国の使用義務の違いは各国の使用証明・更新・維持義務の世界比較で整理しています。

ライセンシーの登録は必須:商標条例50条により、ライセンシー(使用権者)は登録簿に「登録使用権者(Authorized User)」として登録しなければ、その使用権は有効になりません。さらに重要なのは、登録されていない者の使用は権利者の使用と認められないことです。これは100%子会社や現地販売代理店の使用でも同じで、親会社名義で登録し子会社が使っている日本企業の典型的な形態は、使用権者登録をしていなければ3年経過後に不使用取消の危険にさらされます。登録費用はNIS 372と安価なので、現地法人・代理店を通じて販売する場合は必ず登録してください。

更新:出願日から10年、猶予6か月

存続期間は出願日から10年で、更新申請は満了の3か月前から受け付けられます。満了後6か月は割増手数料で更新でき、それを過ぎると登録簿から抹消されます。ただし抹消後も更新期日から1年間は、直前2年間の不使用が証明されない限り、後願に対する引用・異議の根拠として有効とみなされる点に注意が必要です。更新の庁費用は1区分NIS 3,393、追加区分NIS 2,864で、出願時より高く設定されています。

9. 権利行使:裁判所・仮処分・税関・並行輸入

  • 管轄裁判所:請求額NIS 250万以下は治安判事裁判所、それを超える場合や金銭評価できない差止請求は地方裁判所が第一審。地方裁判所の判決は最高裁への上訴が可能
  • 侵害の判断基準:最高裁が確立した三段階テスト(外観・称呼の類似、商品の類似、需要者層と流通経路の共通性)に、観念や標章の全体的な着想の類似を加味して混同のおそれを判断。登録商標の侵害は同一・同種の商品への使用が対象で、周知商標は非類似の商品にも及ぶ
  • 仮処分:権利の存在と利益衡量(balance of convenience)を疎明すれば認められ、自己保証と裁判所が命じる担保の供託が必要。侵害を知ってからの遅延は懈怠(laches)・黙認として仮処分を否定する事情になる。証拠保全のためのアントン・ピラー命令(捜索差押型の命令)も利用可能
  • 損害賠償:原告の損害または被告の利益を基礎に、侵害の規模・期間・悪意・実際の混同の証拠などを考慮して裁判所が概算で認定。著作権法の類推により、損害の証明なしに最高NIS 10万の法定損害賠償が認められた例がある。敗訴者は勝訴者の弁護士費用を負担するが、実費全額が認められることは少ない
  • 税関:登録商標を侵害する物品は税関が職権または権利者の申立てにより差し止める。権利者は侵害の一応の証拠と個人保証を提出する
  • 刑事:登録商標の侵害は刑事罰の対象で(条例60条)、権利者の告訴や警察の摘発が可能。商業規模の模倣品では最長5年の拘禁刑とされる
  • 並行輸入国際消尽が採用されており、真正品の並行輸入は商標権侵害になりません。2022年の最高裁判決(Jafora v. Ben Shlush)は、国内外で商標権者が分かれている場合には並行輸入を差し止められると判示し、2023年の経済競争法改正(第23次改正)は正規輸入業者が並行輸入を妨害する行為を制限しています

10. 最近の判例と実務動向(2023〜2026年)

Kviscal事件(最高裁 2025年4月10日):共存合意より混同防止

洗剤ブランド「Perfume Clean」の登録商標と類似する商標をKviscal社が出願し、両社は共存合意を締結して登録を求めました。登録官は合意を尊重しつつも独自に混同のおそれを検討し、称呼の修正と市場・商品の限定を条件に登録を認める決定をしました。最高裁は、私的な共存合意は登録官を拘束せず、合意は当事者の意図を示す証拠にはなっても、公衆の混同を防ぐという条例上の義務を免除しない、として登録官の判断を支持しました。同意書を出せば通る、という前提で出願計画を立てることはできません。

OLIMP事件(登録官 2025年3月10日):混同判断の基準が拡張

国際オリンピック委員会(IOC)が、サプリメントの「OLIMP Sport Nutrition」ロゴ(第5類)に対して申し立てた異議が認められました。登録官は混同のおそれの判断要素を従来の三段階テストから広げ、米国の判例法に近い多要素の総合判断を採用したと評価されています。周知の国際ブランドと連想を生む商標には、商品分野が離れていても厳しい判断がされる傾向です。

BMX事件(登録官 2023年3月15日):登録後の悪意の使用も取消理由

自転車の「BMX」ロゴ登録に対する取消請求で、登録官は出願時だけでなく登録後の悪意の使用(他社の信用への便乗など)も取消理由になり得ると判断しました。悪意を理由とする取消には期間制限がないため、先取り登録された日本ブランドを取り戻す場面で重要な先例です。

そのほかの動向

  • 2023年 テルアビブ地方裁判所:有名香水の「香りを模した」製品(スメルアライク)は商標権侵害にあたらないと判断
  • 2023年 実務指針:記述的な語+標準書体・単純図形の商標は原則登録しない方針を明文化(2章参照)
  • 2025年10月:異議・取消手続への予備聴聞導入の通達案(6章参照)
  • 2026年6月:ILPOが特許・商標・意匠の各部門における審査官のAIツール利用方針を公表。未公開情報を扱う業務は政府クラウド内の閉じたシステムに限定し、公開ツールは公開済み情報のみに使用
  • 2026年8月17日:「上級給与計算会計士」のような職業上の称号は保証商標として登録できないと登録官が判断

11. マドプロ指定と直接出願の使い分け

イスラエルは2010年9月1日にマドリッド議定書に加盟しました。議定書5条(2)(b)(c)の宣言により、ILPOの暫定拒絶の通報期限は18か月で、異議に基づく拒絶はさらにその後にも通報され得ます(いわゆる「18か月+」)。8条(7)の宣言により個別手数料制を採用しており、金額は5章のとおりです。指定を受けた国際登録は国内出願と同じ基準で審査され、異議・取消のリスクも同じです。

観点 マドプロでイスラエルを指定 ILPOへ直接出願
庁費用(1区分)個別手数料CHF 471(+WIPO基本手数料)NIS 1,904
現地代理人拒絶がなければ不要。暫定拒絶への応答には現地代理人が必要外国出願人は現地代理人経由が実務上の標準
審査・結果判明18か月以内に暫定拒絶の有無が判明(異議は別)初回審査2〜3か月、加速審査可
指定商品の記載基礎出願に従う。広すぎる記載は限定を求められるイスラエル向けに具体的に調整できる
セントラルアタック基礎登録が5年以内に消滅すると連動して失効(国内出願への転換は可)影響なし
向いているケース中東・欧州など複数国を同時にカバーする標準的な文字商標ヘブライ語音訳商標、急いで登録したい商標、拒絶が予想される商標

ヘブライ語表記の商標は日本の基礎出願に含められないため、必要なら直接出願になります。中東の近隣市場についてはサウジアラビアUAEエジプトトルコの各記事もあわせてご覧ください。

12. 日本の商標制度との比較

項目 イスラエル(ILPO) 日本(特許庁)
先行商標との類似の審査職権審査あり職権審査あり
同時係属の類似出願競合出願手続(善意・使用規模・出願日で判断、出願日は補助的)先願優先(同日は協議・くじ)
同意書(コンセント)考慮要素だが庁を拘束しない(2025年最高裁)2024年4月からコンセント制度導入(混同のおそれがないことが条件)
異議公告後3か月・NIS 959、聴聞・反対尋問あり登録後2か月・書面審理
不使用取消の猶予3年3年
ライセンシーの使用登録使用権者として登録しないと権利者の使用にならない通常使用権は登録不要で、使用権者の使用も権利者の使用扱い
無効主張の期間制限登録証発行から5年(悪意は無期限)一部理由につき登録から5年(除斥期間)
存続期間出願日から10年登録日から10年
出願庁費用(1区分)NIS 1,904(約8〜9万円)出願12,000円+8,600円、登録料32,900円
並行輸入国際消尽・原則適法判例上、真正品の並行輸入は原則適法
出願件数(2024年)約9,600件(75%が外国出願人)約13万件前後

13. 日本企業がイスラエル出願で押さえるべき実務ポイント

  1. 現地法人・代理店を「登録使用権者」として登録する:親会社名義で登録して子会社が使う形態は、登録しなければ3年後に不使用取消のリスク。ライセンス契約には品質管理条項を入れる。
  2. ヘブライ語音訳の商標を検討する:市場での呼称を第三者に先取りされないよう、主力ブランドは英字とヘブライ語の両方で押さえる。ヘブライ語版はマドプロに載せられないので直接出願。
  3. 記述的な英語をロゴ化して逃げない:2023年の実務指針以降、記述的な語+標準書体・単純図形は登録されにくい。造語・任意語を選ぶか、識別力獲得の証拠(イスラエル国内の使用)を用意する。
  4. 同意書に頼らず、非類似の主張や指定商品の限定を用意する:Kviscal判決により同意書は決め手にならない。競合出願手続では使用実績が問われるため、出願前後の使用証拠を残す。
  5. 公告監視と3か月の異議期限を管理する:異議期間は延長不可。異議は裁判型で費用がかかるので、申し立てるかどうかは早めに判断する。
  6. 登録から5年以内に障害商標を洗い出す:先行権利や識別力を理由とする取消は登録証発行から5年で制限される。それ以降は不使用(3年)か悪意しか使えない。
  7. 侵害を見つけたら速やかに動く:遅延は仮処分の否定事由になる。税関への登録と個人保証の準備、必要なら刑事告訴も選択肢。

よくある質問(FAQ)

Q1. イスラエルでの商標登録にはどのくらいの期間がかかりますか?

2024年時点で初回審査までの待ち時間は2〜3か月、再審査は約1か月です。拒絶理由がなければ登録査定の公告後3か月の異議期間を経て登録されるため、出願から1年前後が目安です。加速審査(1区分NIS 893)を使えばさらに短縮できます。先行商標を理由とする拒絶や競合出願手続に入ると、1〜2年以上かかることがあります。

Q2. 費用はいくらかかりますか?

庁費用は1区分NIS 1,904、追加区分NIS 1,432(2026年)で、これに現地代理人費用が加わります。マドプロ指定なら個別手数料CHF 471(追加区分CHF 354)です。更新は1区分NIS 3,393と出願時より高めです。中小企業はINPIT外国出願補助金で費用の1/2の助成を受けられる場合があります。

Q3. 現地の子会社が商標を使っています。何か手続は必要ですか?

必要です。商標条例50条により、権利者以外の者の使用は登録使用権者として登録されていなければ権利者の使用と認められず、100%子会社でも例外ではありません。登録しないまま3年が経過すると不使用取消の対象になり、使用の継続によって識別力を失う(普通名称化)リスクも指摘されています。登録費用はNIS 372です。

Q4. 先行商標を理由に拒絶されました。先行権利者の同意書を取れば登録されますか?

同意書は有力な考慮要素ですが、ILPOは独自に混同のおそれを判断します。2025年4月の最高裁判決(Kviscal事件)は、共存合意があっても登録官が称呼の修正や指定商品の限定を条件にできると認めました。同意書に加えて、非類似の理由付け、指定商品の限定案、先行商標が3年以上不使用なら取消請求を組み合わせるのが現実的です。

Q5. 日本ブランドをイスラエルで先取り登録されました。

公告から3か月以内なら、日本や海外での周知性、イスラエルでの使用によるグッドウィル、出願人の悪意を理由に異議を申し立てます。登録後は、登録証発行から5年以内であれば異議と同じ理由で取消を請求でき、悪意の出願・使用を理由とする取消には期限がありません(2023年BMX事件)。相手が3年以上使っていなければ不使用取消も並行して検討します。

Q6. マドプロと直接出願のどちらがよいですか?

中東・欧州の複数国を同時に押さえる標準的な文字・ロゴ商標ならマドプロが費用面で有利で、18か月以内に拒絶の有無が分かります。ヘブライ語音訳の商標、急いで登録したい商標、記述性や先行商標で拒絶が予想される商標は、指定商品を調整でき加速審査も使える直接出願が向いています。両方を併用する企業も多くあります。

まとめ

イスラエルの商標制度は、ILPOが先行商標まで審査する日本に近い設計でありながら、競合出願手続における使用実績の重視、同意書を拘束力のある決め手とは扱わない最高裁の立場、3年の不使用取消、そしてライセンシーの登録がなければ子会社の使用も権利者の使用にならないという厳格なルールが特徴です。審査は2〜3か月で始まる速さがある一方、異議・取消は反対尋問を伴う裁判型で費用がかかります。出願前の調査と英字・ヘブライ語の両建て、現地法人の使用権者登録、5年以内の障害商標の整理を運用に組み込むことが、イスラエルでのブランド保護の要諦です。

イスラエルの意匠制度はイスラエルの現行意匠制度で解説しています。各国の商標制度は世界の商標制度ガイドをご覧ください。

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出典・参考文献

本記事は、以下の一次資料および専門家による解説を基に作成しています(いずれも2026年9月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。

法令・公的機関の資料

  1. イスラエル商標条例(新版)5732-1972(Trade Marks Ordinance [New Version], 5732-1972)英訳/WIPO Lex収録。識別力(8条)、不登録事由(11条)、外国登録商標(16条)、異議(24条)、競合出願(29条)、存続期間・更新(31〜33条)、取消の期間制限(39条・41条)、権利の内容(46条・46A条)、登録使用権者(50条)、マドリッド議定書関連(56A〜56I条)、救済・刑事罰(57〜60条)の根拠。
    https://www.wipo.int/wipolex/en/text/488208
  2. 同条例の英訳(日本国特許庁「外国産業財産権制度情報」掲載版、2014年8月更新)/条文の照合用。
    https://www.jpo.go.jp/e/system/laws/gaikoku/document/index/israel-e_shouhyou.pdf
  3. イスラエル特許庁(ILPO)公式サイト(イスラエル政府ポータル gov.il)「About Israel Patent Office」「Trademarks Online Services」/ILPOの組織と商標部門の役割(マドリッド議定書の受理官庁・本国官庁)、電子出願と電子送達の運用の根拠。公式手数料はILPOの手数料ページで毎年1月に改定される。
    https://www.gov.il/en/pages/about-patent-office
    https://www.gov.il/en/pages/tm-online-services
  4. ILPO 2026年公式手数料一覧(Richter & Shimoni Patent Attorneys による転載、2026年1月1日適用)/5章の手数料表(出願NIS 1,904・追加区分1,432・加速審査893・異議/取消959・更新3,393・追加区分更新2,864・期間延長86・回復1,317・登録簿変更372・国際出願取扱626)の根拠。
    https://richterpatent.com/ilpo-official-fees-26/
  5. WIPO「商標情報活動に関する年次技術報告 2024(イスラエル特許庁提出)」/2024年の出願件数9,602件・17,748区分、国内4,345件・国際5,257件、国内出願人25%、前年比10%減、初回審査待ち2〜3か月・再審査約1か月の根拠。
    https://confluence.wipo.int/confluence/spaces/ATR/pages/1640669323/CWS+ATR+TM+2024+IL
  6. WIPO マドリッド制度 個別手数料一覧(Individual Fees)/イスラエル指定の個別手数料(2026年8月23日改定:1区分CHF 471・追加区分354、更新840・709)の根拠。
    https://www.wipo.int/madrid/en/fees/ind_taxes.html
  7. WIPO 情報通知 No. 10/2010「マドリッド議定書:イスラエルの加盟」/2010年9月1日の発効、議定書5条(2)(b)(c)(18か月の拒絶通報期限・異議に基づく拒絶の事後通報)および8条(7)(個別手数料)の宣言の根拠。
    https://www.wipo.int/edocs/madrdocs/en/2010/madrid_2010_10.pdf

実務ガイド・専門家による解説

  1. Chambers and Partners「Trade Marks & Copyright 2026 – Israel」(Law & Practice/Trends & Developments)/保護対象と立体商標の3要件、周知商標の保護範囲、更新の猶予6か月と抹消後1年間の引用可能性、異議手続の流れと費用感(NIS 18,000〜20,000+VAT 18%)、取消の期間制限、使用権者登録と子会社の使用、裁判管轄(治安判事裁判所NIS 250万)、三段階テスト、仮処分・担保、法定損害賠償NIS 10万、税関、刑事罰、並行輸入と国際消尽、Kviscal事件(RCA 5743/24、2025年4月10日)の解説の根拠。
    https://practiceguides.chambers.com/practice-guides/trade-marks-copyright-2026/israel
    https://practiceguides.chambers.com/practice-guides/trade-marks-copyright-2026/israel/trends-and-developments
  2. Mondaq「Trademarks Comparative Guide – Israel」/異議手続の各段階の期限(答弁・証拠各2か月)、登録官決定に対する30日以内の地方裁判所への上訴、取消理由ごとの期間制限、50条(b)のライセンス登録と品質管理、周知商標(未登録)の救済が差止に限られる点の根拠。
    https://www.mondaq.com/intellectual-property/1055782/trademarks-comparative-guide
  3. IP Coster「Trademark registration in Israel – IP Guide」/委任状(簡易・出願後3か月以内の追完)、優先権(6か月・証明書は3か月以内)、英語・アラビア語以外の書類の認証翻訳、更新の受付期間の根拠。
    https://ip-coster.com/IPGuides/trademark-israel
  4. Adin Liss「The Madrid Protocol in Israel」/「18か月+」の運用(18か月以内に審査を終え、その後3か月の異議期間)、拒絶がなければ現地代理人なしで登録される点、セントラルアタック後の国内出願への転換の根拠。
    https://www.alpip.co.il/Madrid_protocol_in_Israel
  5. World Trademark Review「Israel: practice paper indicates increasingly strict stance toward descriptive and non-distinctive marks」(The Trademark Prosecution Review 2026)/ILPOの2023年識別力実務指針(記述的な語+標準書体・単純図形・色の付加だけでは登録不可)の根拠。
    https://www.worldtrademarkreview.com/review/the-trademark-prosecution-review/2026/article/israel-practice-paper-indicates-increasingly-strict-stance-toward-descriptive-and-non-distinctive-marks

判例・実務動向

  1. Liad Whatstein & Co.「Legal Updates – Trademarks」/BMX事件(2023年3月15日、登録後の悪意の使用による取消)、テルアビブ地方裁判所のスメルアライク判決(2023年10月16日)、経済競争法第23次改正(2023年6月21日、並行輸入の妨害制限)、Jafora v. Ben Shlush最高裁判決(2022年7月18日)、OLIMP/IOC異議決定(2025年3月10日、混同判断基準の拡張)、予備聴聞導入の通達案(2025年10月20日)、職業称号の保証商標不登録決定(2026年8月17日)の根拠。
    https://liadwhatstein.com/tag/trademarks/
  2. IAM「The Patent Prosecution Review 2027 – Israel: essential updates on national prosecution processes」/ILPOが2026年6月に公表した特許・商標・意匠部門におけるAIツール利用方針の根拠。
    https://www.iam-media.com/review/the-patent-prosecution-review/2027/article/israel-essential-updates-national-prosecution-processes
  3. 日本貿易振興機構(JETRO)「イスラエル」国・地域情報/冒頭のイスラエル経済・日本企業の進出状況に関する背景情報。
    https://www.jetro.go.jp/world/middle_east/il/

※本記事は上記の資料を基に、2026年9月時点の情報で一般的な情報提供を目的として作成しています。手数料・運用・判例は変更されることがあり、ヘブライ語原文と英訳の間に差異がある場合はヘブライ語原文が優先されます。個別案件の具体的判断には、専門家へのご相談を推奨します。