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スイス商標制度の実務ガイド|出願・費用・異議・不使用取消・Swissnessを弁理士が解説|知的財産事務所エボリクス

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/09/22

スイスは、時計・精密機械・医薬品・食品など「スイス製」ブランドの価値が世界で最も高い国のひとつです。日本企業にとっても、欧州の中でEU(EUTM)ではカバーされない重要市場であり、スイスへの商標出願は欧州展開の要になります。一方でスイスの商標制度は、特許庁(IPI)が先行商標との抵触を審査しない不使用取消の猶予期間が5年「スイス製」表示に厳格なSwissness基準があるなど、日本と大きく異なる点が多く、日本の感覚で出願すると思わぬ落とし穴があります。

本記事では、スイス連邦知的財産庁(IPI)の公式情報・商標保護法(TmPA)・最新の判例を一次資料として、出願から登録・異議・不使用取消・Swissness・侵害対応までを弁理士が実務目線で整理します。

この記事のポイント

  • スイスはEU非加盟のため、EUTMでは保護されない。マドプロ指定または直接出願が必要
  • IPIは絶対的拒絶理由のみを審査し、先行商標との類似は審査しない。事前調査と登録後の監視が必須
  • 出願費用はCHF 350(電子出願・3区分まで)、4区分目からCHF 100/区分。審査期間は通常3〜5か月、加速審査(CHF 400)あり
  • 登録・公告後3か月が異議期間(手数料CHF 800)。異議の最終審は連邦行政裁判所
  • 不使用取消の猶予は5年。2017年からIPIへの簡易取消手続(CHF 800)が利用でき、ドイツでの使用は2022年6月以降カウントされない
  • 「Swiss」「スイス十字」を使うには工業製品で製造コストの60%以上がスイス国内であること等のSwissness基準を満たす必要がある。2026年1月には外国企業に対する初の勝訴判決

目次

  1. スイス商標制度の全体像と法的枠組み
  2. 保護対象と登録要件(絶対的拒絶理由)
  3. 出願手続の流れと審査の特徴
  4. 費用一覧(2024年7月1日改定)
  5. 異議申立制度:3か月・CHF 800・最終審は連邦行政裁判所
  6. 使用義務と不使用取消:5年の猶予とIPI簡易手続
  7. 注意:ドイツでの使用は2022年6月以降カウントされない
  8. Swissness(スイス原産地表示)のルール
  9. マドプロ指定と直接出願の使い分け
  10. 権利行使・税関措置と最近の判例
  11. 日本の商標制度との比較
  12. 日本企業がスイス出願で押さえるべき実務ポイント
  13. よくある質問(FAQ)

1. スイス商標制度の全体像と法的枠組み

LEGAL FRAMEWORK

商標保護法(TmPA)・商標保護令(TmPO)・IPI審査ガイドラインの三層構造。EU法の適用はなく、スイス独自の運用

スイスの商標制度は、1992年8月28日制定の「商標及び原産地表示の保護に関する連邦法」(Markenschutzgesetz/Trade Mark Protection Act、略称TmPA・SR 232.11)と、その施行規則である商標保護令(TmPO)、そしてスイス連邦知的財産庁(IPI/IGE、ベルン)が公表する審査ガイドライン(2026年版)で運用されています。手続言語はドイツ語・フランス語・イタリア語の3か国語で、出願人はいずれかを選択します。

スイスはEUに加盟していないため、欧州連合商標(EUTM)の効力はスイスには及びません。EU27か国をEUTMでカバーしても、スイスと英国は別途手当てが必要です。スイスはマドリッド協定・議定書の双方に加盟しているので、日本からはマドプロ国際商標出願でスイスを指定するか、スイス国内の代理人を通じてIPIに直接出願するかの2ルートがあります。

IPIの統計によると、2023年の国内商標出願は16,908件、登録は16,599件、マドプロ経由でスイスを指定した国際登録は16,188件で、スイスで有効な商標の約52%は国際登録によるものです。国内出願の約98%は電子出願システム「e-trademark」経由で、手続のデジタル化が進んでいます。

スイスに住所がない出願人の要件

スイスに住所・営業所を持たない出願人は、スイス国内の送達先(代理人)を指定する必要があります。委任状は簡易署名のスキャンで足り、公証・認証は不要です。優先権証明書は出願から6か月以内に提出し、英語・ドイツ語・フランス語・イタリア語なら翻訳不要です。

2. 保護対象と登録要件(絶対的拒絶理由)

TmPAは、商品・役務を他人のものと識別できる標識を広く商標として認めています。文字・数字・図形・スローガン・立体的形状・色彩の組合せ・音(音符列)などが登録可能で、団体商標・保証商標のほか、2017年からは地理的商標(geographical mark)も導入されました。一方、香りは保護対象外です。

IPIが職権で審査する絶対的拒絶理由(TmPA第2条)

  • 公有に属する標識(識別力欠如・記述的表示・一般名称)。ただし使用による識別力獲得(二次的意味)の立証で登録可能
  • 商品の性質上の形状・技術的に必要な形状(立体商標の制限)
  • 誤認を生じさせる標識(品質・産地・企業提携などについて消費者を誤認させるもの。原産地表示の誤認はここで厳しく審査される)
  • 公序良俗・法令に反する標識(国章・国際機関の紋章など)

日本と決定的に異なるのは、IPIは先行商標との類似(相対的拒絶理由・TmPA第3条)を職権では審査しない点です。既存の登録商標とそっくりな商標でも、絶対的拒絶理由がなければそのまま登録・公告されます。先行権利者は登録後の異議申立で争うことになるため、出願人側は事前のクリアランス調査、権利者側は登録後の監視(ウォッチング)が日本以上に重要になります。

「Swiss」「スイス十字」を含む商標:IPIは、商標に「Swiss」やスイス十字などの原産地表示が含まれる場合、誤認防止の観点から審査します。以前は指定商品を「スイス原産の商品」に限定する補正が一律に求められていましたが、2022年3月1日以降は、法令上の義務がなく適正な使用が可能な場合には限定を求めない運用に変わりました。ただし限定の有無にかかわらず、実際にSwissness基準を満たさない商品にスイス表示を使えば違法となります。

3. 出願手続の流れと審査の特徴

PROCEDURE

出願 → 方式・絶対的拒絶理由の審査(3〜5か月) → 登録・Swissreg公告 → 3か月の異議期間。登録が先、異議が後の「登録後異議」型

  1. 出願:e-trademarkから電子出願。ニース分類に基づく多区分出願が可能。指定商品・役務の記載は手続言語で行い、IPIは2026年2月に商品・役務リストの作成・比較ツールを全面刷新しています。
  2. 方式審査・絶対的拒絶理由の審査:通常3〜5か月で結論が出ます(順調なら4〜6か月で登録)。拒絶理由が通知された場合は意見書・補正で応答します。
  3. 加速審査:CHF 400の追加手数料で、数週間程度に短縮できます。侵害品への対応を急ぐ場合や、他国出願の基礎にしたい場合に有効です。
  4. 登録・公告:審査を通過すると登録され、原則同日にSwissregで公告されます。登録日から権利が発生し、この公告日から3か月の異議期間が始まります。
  5. 存続期間・更新出願日から10年。更新は満了の12か月前から可能で、満了後6か月以内であれば追加手数料(CHF 50)で更新できます。更新回数に制限はありません。

優先権

パリ条約に基づき、日本出願から6か月以内にスイス出願すれば優先権を主張できます。商標の優先期間は特許の12か月より短いので、日本出願と同時に海外展開の計画を固めておくことが重要です。

4. 費用一覧(2024年7月1日改定)

IPIの公式手数料は2024年7月1日に改定され、電子出願の割引が明確になりました。主な庁費用は次のとおりです(スイスフラン建て。1CHF≒170〜180円で換算すると出願の庁費用は6〜8万円程度)。

項目 庁費用(CHF) 備考
出願(3区分まで)450(紙)/350(電子)10年分の保護を含む
追加区分100/区分4区分目から
加速審査400数週間で審査結果
異議申立800異議期間内に納付
不使用取消請求(IPI手続)8002017年導入の簡易手続
更新(10年)550満了後6か月以内は+50

これに現地代理人費用が加わります。マドプロでスイスを指定する場合はIPIの個別手数料(3区分まで基本額、4区分目から加算)をWIPOに支払う形になり、WIPOの手数料計算ツールで確認できます。複数国に出願する場合はマドプロの費用とメリットも併せてご覧ください。

補助金の活用:中小企業がスイスへ商標出願する費用は、INPIT外国出願補助金(費用の1/2、商標1出願あたり上限60万円)の対象になります。当事務所は申請書類の作成もサポートしています。

5. 異議申立制度:3か月・CHF 800・最終審は連邦行政裁判所

IPIが先行商標を審査しない分、スイスでは異議申立(opposition)が先行権利者の主戦場です。制度の要点は次のとおりです。

  • 期間:Swissreg公告日から3か月。延長不可。手数料CHF 800も期間内に納付が必要
  • 申立人:先行する登録商標・出願中の商標の権利者、または周知商標の所有者
  • 理由:TmPA第3条の相対的拒絶理由(同一・類似商標による混同のおそれ)に限定。記述性や誤認など絶対的拒絶理由は異議では主張できず、裁判所での無効訴訟による
  • 不使用の抗弁:先行商標が猶予期間(5年)を過ぎている場合、被申立人は先行商標の不使用を主張でき、申立人は使用の疎明を求められる
  • 手続:書面による主張の交換(通常2往復)で審理し、IPIが決定。EUのような法定クーリングオフ期間はないが、当事者の合意で手続の中断は可能
  • 費用負担:敗訴者が勝訴者の費用(CHF 800の手数料と代理人費用の一部)を補償するのが通例
  • 不服申立:IPIの異議決定に対しては連邦行政裁判所(BVGer)が最終審で、連邦最高裁判所への上訴は法律上認められていません

監視体制が必須:自社商標と紛らわしい商標がスイスで登録されても、IPIから通知は来ません。3か月の異議期間を逃すと、以後は裁判所での無効訴訟(費用・時間とも大幅増)でしか争えなくなります。スイスを重要市場と位置づける企業は、Swissregの公告を対象にした商標ウォッチングを組み込んでおくべきです。

6. 使用義務と不使用取消:5年の猶予とIPI簡易手続

スイスでは出願時・登録時に使用や使用意思の証明は不要ですが、登録後に使用しないと権利を失います。TmPA第11条・第12条は、異議期間の満了から5年間継続して商標を使用しなかった場合、正当な理由がない限り商標権を主張できないと定めています(日本の3年より長い)。

「真正な使用」と認められる条件

  • スイス国内での商業的使用であること(輸出専用商品への使用もスイスでの使用とみなされる)
  • 指定商品・役務について、出所表示として使用されていること
  • 経済的に意味のある規模であること(形式的な使用は不可)
  • 登録商標の識別力を変えない範囲での変更使用は認められる

2017年導入のIPI不使用取消手続(TmPA第35a〜35c条)

2017年1月1日から、誰でもCHF 800でIPIに不使用取消を請求できる簡易行政手続が利用できます。それまでは裁判所での取消訴訟しかなく、費用と時間の負担が大きかったため、この手続の導入で不使用商標の整理が格段に容易になりました。

  1. 請求人は不使用を主張し、不使用が客観的にみて相当程度確からしいこと(疎明)を示す資料(調査会社の使用調査報告など)を提出する
  2. 疎明が認められると立証責任が転換し、商標権者が使用または不使用の正当理由を証明しなければならない
  3. IPIが取消の可否を決定。不服は連邦行政裁判所へ

請求できるのは異議期間満了から5年経過後です。自社が権利者の場合は、スイス国内での使用証拠(日付入りのカタログ・請求書・スイス向けウェブサイトのアーカイブなど)を継続的に保管しておくことが防御の基本です。各国の使用義務の違いは商標の登録後の維持義務 世界比較で整理しています。

7. 注意:ドイツでの使用は2022年6月以降カウントされない

実務上の大きな変更点として、1892年のスイス・ドイツ相互保護条約の失効があります。この条約により、長年にわたりドイツで登録商標を使用していればスイス商標の使用として認められ(その逆も同様)、ドイツ市場のみで事業を行う企業もスイス商標を維持できました。

しかしEU司法裁判所が同条約をEU法と両立しないと判断したことを受け、ドイツは2021年4月20日付の通告で条約を終了させ、2022年5月31日をもって失効しました。2022年6月1日以降のドイツでの使用は、スイス商標の使用証拠として考慮されません。日本企業でも、欧州の物流拠点をドイツに置き、スイスには直接販売していないケースでは、スイス商標が不使用取消の対象になるリスクがあります。スイス向けの販売実績を意図的に作るか、少なくともスイス向けの販売サイト・代理店を整えておく必要があります。

8. Swissness(スイス原産地表示)のルール

SWISSNESS

2017年1月1日施行。「Swiss」「Made in Switzerland」「スイス十字」を使えるのは、法定の原産地基準を満たす商品・サービスだけ

「スイス製」は消費者調査で最大20%のプレミアムがつくとされるほど価値の高い表示で、その濫用を防ぐため、2017年1月1日にTmPAの改正(いわゆるSwissness立法)が施行されました。商標登録の可否とは別に、実際の表示・広告での使用が規制される点が重要です。

区分 スイス表示を使える条件
工業製品製造コストの60%以上がスイス国内で発生し、かつ本質的な製造工程の少なくとも1つがスイスで行われること(研究開発費も算入可)
食品原材料の重量の80%以上がスイス産で、本質的な加工がスイスで行われること。乳・乳製品は100%スイス産の乳が必要
天然産品採取・収穫・生育の場所がスイスであること
サービス事業者の本店所在地がスイスにあり、かつ実質的な経営管理がスイスで行われていること

基準を満たさない場合でも、「Designed in Switzerland」「Swiss Research」のように特定の工程だけを示す表示は、その工程が完全にスイスで行われていれば可能です。ただしスイス十字を併用すると商品全体の原産地を示すものと受け取られるため、工程限定表示とスイス十字の組合せは認められません。時計については別途、連邦令で「Swiss made」の要件(製造コストの60%以上、ムーブメントのスイス製要件など)が定められています。

2026年1月:外国企業に対する初のSwissness勝訴判決

2026年1月8日、ベルン商事裁判所はIPIがBDSwiss AG(キプロスから経営され、主要顧客がドイツにある金融サービス会社)を訴えた事件で、同社に社名から「Swiss」を、ロゴからスイス十字を除去するよう命じました。スイスに形式的な登記上の本店を置くだけでは足りず、実質的な経営がスイスで行われていることを証明できなければサービスのスイス表示は違法、というサービス分野のSwissness基準が裁判で初めて確認された判決です。IPIは外国企業に対しても積極的に権利行使する姿勢を示しています。

9. マドプロ指定と直接出願の使い分け

日本からスイスに商標出願する場合、マドプロ国際商標出願でスイスを指定する方法と、スイスの代理人を通じてIPIに直接出願する方法があります。それぞれの特徴は次のとおりです。

観点 マドプロ指定 直接出願
向いているケースEU・英国など複数国と同時に出願する場合スイスのみ、または指定商品をスイス向けに細かく調整したい場合
現地代理人拒絶通報が来るまで原則不要出願時から必要(送達先)
IPIの審査期限指定通知から18か月以内に暫定拒絶を通報。拒絶への応答期限は5か月(延長可)通常3〜5か月で結論
セントラルアタック国際登録から5年間、日本の基礎商標に連動して消滅するリスクなし
指定商品の記載英語で作成した国際登録の記載がそのまま審査対象。IPIの分類実務に合わない表現は拒絶通報の原因に独・仏・伊語で、IPIの分類ツールに沿って作成できる

スイスで有効な商標の約半数がマドプロ経由であることからも分かるとおり、欧州展開の一環としてスイスを押さえるならマドプロ指定が費用面で有利です。一方、スイス市場が中核で、「Swiss」を含む商標や立体商標など審査で論点になりやすい出願は、最初から現地代理人と連携できる直接出願が確実です。なお、マドプロを使う場合でも、指定商品の記載はスイスの分類実務に合わせて事前に調整しておくと拒絶通報を避けやすくなります。

10. 権利行使・税関措置と最近の判例

裁判所と救済

商標侵害訴訟は各州(カントン)が指定する単一の裁判所(チューリッヒ・ベルン・アールガウ・ザンクトガレンでは商事裁判所)が第一審となり、上訴は連邦最高裁判所に直接行われる二審制です。差止め・損害賠償(逸失利益・侵害者利益・実施料相当額のいずれか)・情報開示・廃棄・判決の公告が認められ、緊急時は一方的(ex parte)な仮処分も可能ですが、懲罰的賠償はありません。

税関措置と2025年の小口貨物対応

連邦税関に申請しておけば、侵害疑義品の輸出入を差し止めてもらえます。差止め後、権利者は10日以内(10日延長可)に仮処分等を得るか、荷主の同意を得て廃棄します。2025年7月1日施行の改正では、3点以下かつ5kg以下の小口貨物について、税関の差止め後にIPIが廃棄通知を行い、受取人が10日以内に異議を述べなければ廃棄できる簡易手続が導入されました。越境ECで流入する模倣品への対応が現実的になっています。

実務に影響する近時の判例

  • FIFA対PUMA事件(連邦最高裁 2022年4月6日、4A_518/2021):PUMAが登録した「PUMA WORLD CUP QATAR 2022」等の商標について、消費者がPUMAを大会の公式スポンサーと誤認するとして誤認惹起を理由に無効、「WORLD CUP 2022」「Qatar 2022」は記述的で識別力なしと判断。イベント名称を含む商標の登録が大きく制限されました。
  • 「one」事件(連邦行政裁判所 2025年4月17日、B-6194/2024):「one(図形)」と「ONe(図形)」の間で混同のおそれを否定。識別力の弱い語は保護範囲が狭く、図形上の差異で識別されるとし、判断は登録簿の記載のみで行うことを明確化しました。
  • B-6574/2025(連邦行政裁判所 2026年4月29日):商品と役務の類似性の判断基準と、使用による識別力の強化を主張するための要件を整理した最新の異議事件です。

11. 日本の商標制度との比較

項目 スイス(IPI) 日本(特許庁)
先行商標との類似の審査職権審査なし(異議で争う)職権審査あり(4条1項11号)
異議申立公告後3か月・先行商標権者のみ・CHF 800公報発行後2か月・何人も可
審査期間の目安3〜5か月(加速審査あり)6〜8か月程度(早期審査あり)
不使用取消の猶予5年(IPI簡易手続CHF 800)3年(審判)
存続期間出願日から10年・更新無制限登録日から10年・更新無制限
出願庁費用(3区分)CHF 350(電子)出願12,000円+8,600円×3区分、登録料は別途
原産地表示の規制Swissness基準(60%/80%ルール)を商標法で規定景表法・不正競争防止法で対応
異議の最終審連邦行政裁判所知財高裁 → 最高裁

最大の違いは「先行商標の審査をIPIがしない」ことです。日本では特許庁が防波堤になってくれる先行商標との抵触リスクを、スイスでは出願人と権利者が自ら管理しなければなりません。なおスイスの意匠制度についてはスイスの意匠制度概要で解説しています。

12. 日本企業がスイス出願で押さえるべき実務ポイント

  1. 出願前のクリアランス調査を必ず行う:IPIは先行商標を審査しないため、登録後に異議や侵害警告を受けて初めて問題が発覚するケースがあります。Swissregと国際登録の双方を調査対象に。
  2. EUTMと別枠でスイスを確保する:EUTMはスイスに効力が及びません。欧州全域の展開ではEUTM+スイス+英国の3点セットが基本です。
  3. 「Swiss」「スイス十字」の使用はSwissness基準の確認が先:日本で製造した商品にスイス風の表示を付けるのは、基準を満たさない限り違法です。商標登録の可否とは別問題として設計してください。
  4. スイス国内の使用証拠を蓄積する:ドイツでの使用がカウントされなくなった今、スイス向け販売実績・請求書・スイス語圏向けウェブページの記録を残しておくことが不使用取消への最良の防御です。
  5. 公告監視と3か月の異議期限を管理する:類似商標の登録を放置すると、争う手段が高額な無効訴訟に限られます。
  6. 指定商品はIPIの分類実務に合わせる:マドプロ指定でも、英語の商品記載がスイスの実務と合わなければ暫定拒絶が来ます。2026年に刷新されたIPIの分類ツールで事前確認を。
  7. 小口の模倣品は税関+IPI簡易廃棄手続を使う:2025年7月以降、3点以下・5kg以下の貨物は低コストで処分できます。税関への事前申請を忘れずに。

よくある質問(FAQ)

Q1. EUで商標登録していれば、スイスでも保護されますか?

保護されません。スイスはEU非加盟のため、欧州連合商標(EUTM)の効力はスイスに及びません。マドプロでスイスを指定するか、IPIに直接出願する必要があります。

Q2. スイスの商標出願から登録までどのくらいかかりますか?

IPIの審査は通常3〜5か月で、順調なら4〜6か月程度で登録されます。CHF 400の加速審査を使えば数週間に短縮できます。登録・公告後に3か月の異議期間があります。

Q3. 費用はいくらかかりますか?

庁費用は電子出願でCHF 350(3区分まで、10年分含む)、4区分目からCHF 100/区分です。これに現地代理人費用が加わります。更新はCHF 550です。中小企業はINPIT外国出願補助金で費用の1/2の助成を受けられる場合があります。

Q4. 登録後、使用していないとどうなりますか?

異議期間満了から5年間使用しないと、誰でもCHF 800でIPIに取消を請求できます。請求人が不使用を疎明すると、権利者が使用を証明する側に回ります。2022年6月以降はドイツでの使用はカウントされないので、スイス国内での使用実績が必要です。

Q5. 日本で製造した商品に「Swiss Design」と表示できますか?

デザイン工程が完全にスイスで行われていれば、工程を限定した表示として可能です。ただしスイス十字との併用や、商品全体がスイス製であるかのような表示は、製造コストの60%以上がスイス国内であることなどのSwissness基準を満たさない限り違法になります。

Q6. 他社が自社商標に似た商標をスイスで登録してしまいました。

Swissreg公告から3か月以内であれば、CHF 800で異議申立ができます。期限を過ぎた場合は、裁判所での無効訴訟か、相手の商標が5年以上不使用ならIPIの不使用取消手続を検討します。まずは公告日の確認を急いでください。

まとめ

スイスの商標制度は、手続自体はシンプルで費用も比較的抑えられる一方、「IPIが先行商標を審査しない」「不使用取消の猶予が5年で、ドイツでの使用がカウントされなくなった」「Swissness基準が厳格でIPIが外国企業にも権利行使する」という3つの特徴が、日本企業の実務に直接影響します。EUTMではカバーできない市場である以上、欧州展開の設計段階でスイスを組み込み、出願前調査・公告監視・スイス国内の使用証拠という3点を運用に落とし込むことが、スイスでのブランド保護の要諦です。

スイスを含む各国の商標制度は世界の商標制度ガイドで地域別に整理しています。

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※本記事はスイス連邦知的財産庁(IPI)の公式サイト(手数料一覧〔2024年7月1日改定〕・商標統計・不使用取消手続の案内・2025〜2026年のニュースリリース)、スイス商標保護法(TmPA、WIPO Lex掲載英訳)、Chambers「Trade Marks & Copyright 2026 – Switzerland」、Kluwer Trademark Blog、Lexology掲載の1892年スイス・ドイツ条約終了に関する解説、連邦行政裁判所B-6194/2024・B-6574/2025、連邦最高裁判所4A_518/2021、ベルン商事裁判所のBDSwiss事件に関するIPI発表を基に、2026年9月時点の情報で一般的な情報提供を目的として作成しています。手数料・運用は変更されることがあります。個別案件の具体的判断には、専門家へのご相談を推奨します。