はじめまして。弁理士の杉浦健文と申します。
【徹底解説】新しいタイプの商標とは?登録基準とメリットを弁理士が解説
現代社会では、ブランドを構成する要素は、伝統的な文字や図形だけにとどまりません。耳に残るサウンドロゴ、商品のパッケージの印象的な色、デジタルデバイスに表示されるアニメーション、あるいは商品自体の特定の場所につけられたマークなど、五感に訴えかける多様な要素が、消費者の心にブランドを刻みつけています。
こうした時代の変化に対応するため、日本の商標制度は進化し、「動き商標」「ホログラム商標」「色彩のみからなる商標」「音商標」「位置商標」といった、新しいタイプの商標が保護の対象となりました。
これらの新しいタイプの商標は、あなたのビジネスのユニークな個性を表現し、競合との差別化を図る強力なツールとなり得ます。しかし、これらを商標として登録し、法的に保護するためには、クリアすべき基準があります。特に重要なのが「識別力」という概念です。
今回は、特許庁が公開している審査基準などを参考に、これらの新しいタイプの商標がどのように「識別力」を判断されるのか、そして登録後に重要となる「同一性」について、弁理士の視点から解説します。そして、あなたのビジネスにとって大切なこれらの要素を守るために、なぜ弁理士のサポートが不可欠なのかについても触れたいと思います。
1.新しいタイプの商標とは?
簡単に、それぞれの商標がどのようなものを指すのか見てみましょう。
- 動き商標: テレビCMのオープニングロゴや、Webサイトの読み込み時に表示されるアニメーションロゴのように、標章(マーク)が時間の経過に伴って変化する商標です。
- ホログラム商標: パッケージなどに表示されたマークが、見る角度によって異なる表示に見えたり、光の当たり方でキラキラと輝いて見えたりするなど、ホログラフィー技術による視覚効果で変化する商標です。
- 色彩のみからなる商標: セブン-イレブンのトリコロールカラーや、トンボ鉛筆の「MONO」消しゴムの青・白・黒のストライプのように、単独の色、または色の組み合わせ自体が商標として登録されるものです。商品のパッケージ全体や、店舗の外観などに使われる色が該当し得ます。
- 音商標: 久光製薬の「サロンパス」のCMのサウンドロゴ「ヒ・サ・ミ・ツ」や、NTTドコモの着信音「Call Me」のように、文字や図形ではなく、メロディーや音声、効果音といった「音」自体が商標として登録されるものです。
- 位置商標: 商品のパッケージやラベル、あるいは商品自体の特定の位置に付された標章(マーク)が商標として登録されるものです。例えば、ジーンズのバックポケットの特定の位置につけられたステッチやタブなどが該当し得ます。
これらの新しいタイプの商標は、これまでの文字や図形、記号などの伝統的な商標だけでは捉えきれなかったブランドの要素を保護するためのものです。
2.商標登録の鍵:「識別力」はどのように判断されるのか?
商標として登録されるためには、原則として「識別力」が必要不可欠です。「識別力」とは、その商標を見た消費者が、特定の商品やサービスが誰(どこの会社・個人)によって提供されているものかを認識できる能力のことです。
新しいタイプの商標でも、この「識別力」が最も重要な審査ポイントとなります。特許庁の審査基準では、それぞれのタイプの商標について、識別力を判断するための具体的な基準が定められています。
(1)動き商標・ホログラム商標・位置商標の識別力
これらの商標は、いずれも「標章(文字や図形など)」と、それが「時間と共に変化する状態(動き商標)」、「視覚効果で変化する状態(ホログラム商標)」、「特定の位置にある状態(位置商標)」とを総合して商標全体として観察し、識別力を判断します。
しかし、最も基本的な識別力の判断対象となるのは、やはり標章部分(動きや位置を伴わない、文字や図形そのもの)です。
- 標章部分に識別力がある場合: たとえその標章が動いたり、ホログラム効果を伴ったり、特定の位置に付されたりしても、その動きや効果、位置によって識別力が失われることはありません。文字や図形自体がユニークで、それだけで出所を識別できる場合は、動きや位置などの要素は装飾的な効果とみなされやすい傾向があります。
- 標章部分に識別力がない場合: 例えば、単なる一般的な文字や図形(商品の普通名称やありふれた図形など、商標法第3条第1項各号に該当するもの) を使用している場合、それに動きやホログラム効果、特定の位置といった要素を加えても、原則として商標全体としても識別力は認められません。動きの軌跡や、ホログラムによる別の表示面、特定の位置にある標章などが、単なる商品説明や装飾に過ぎないと判断される可能性が高いでしょう。
例えば、スマートフォンアプリのアイコンが起動時に特定のアニメーションをする場合、そのアイコンの「図形自体」がユニークで識別力があれば、アニメーションが付加されても問題なく登録できる可能性が高いです。一方、どこにでもあるような一般的な図形にアニメーションを付けただけでは、登録は難しいということになります。
(2)色彩のみからなる商標の識別力
色彩のみからなる商標は、文字や図形がなく、使用されている「色彩」のみで識別力を判断します。複数の色を組み合わせることも可能ですが、その組み合わせ全体で判断されます。
ここで重要なのは、色彩のみからなる商標においては、「商品等における色彩の使用される「位置」は考慮しない」という点です。これは、同じ色が使われていれば、パッケージのどの部分に使われていても同じ色彩商標とみなす、という考え方に基づいているためです。位置商標とは異なり、「特定の位置にある色」ではなく、「その色そのもの」が識別力を持つかが問われます。
色彩のみからなる商標は、その性質上、識別力が認められにくい場合が多いです。特に、以下のような色彩は原則として識別力がないと判断されます。
- 商品やサービスの「普通名称」を普通に表示する色彩: 法令等で特定の用途に使われると定められた色(例:慣用されている赤と白の組み合わせはおめでたい行事、黒と白は葬儀)
- 商品やサービスの「性質」を表示する色彩: 商品の性質上自然に付随する色(例:醤油の色)、機能確保のために不可欠な色(例:自動車タイヤの黒や白)、魅力向上に通常使用される色(例:携帯電話のシルバー)、通常は使用されないが存在する色(例:冷蔵庫の赤や青)、商品の単なる縦縞模様や単なる黄色・赤色
- 役務の提供に通常使用される色彩: 役務提供の用に供される物が通常有する色彩
このように、単なる商品の色や、業界で一般的に使われる色、商品の魅力を上げるためによく使われる色などは、それ自体では出所を識別する力がないと判断されがちです。多くの色彩のみからなる商標は、商標法第3条第1項第3号または第6号に該当するものと考えられます。
そのため、色彩のみからなる商標が登録されるケースは、原則として、長期間の使用によって消費者の間で広く知られるようになり、その色を見れば特定の商品やサービスだと認識できるようになった場合(使用による識別力を獲得した場合)に限られます。
(3)音商標の識別力
音商標は、「音の要素(音色、リズム、自然音など)」と「言語的要素(歌詞など)」を総合して商標全体として観察し、識別力を判断します。
音商標の識別力の判断においては、音の要素と言語的要素のどちらか一方に識別力が認められれば、商標全体として識別力が認められることになります。例えば、歌詞はどこにでもあるフレーズでも、メロディーが非常にユニークで聞けばすぐにその会社のものとわかる場合は、登録される可能性があります。
しかし、音商標も色彩商標と同様に、識別力が認められにくい場合があります。特に、以下のような音は原則として識別力がないと判断されます。
- ありふれた呼称や名称を単に読み上げたにすぎない音:
- 合図、警報、その他極めて身近な音: (例:ベルの音、汽笛の音)
- 商品が通常発する音: 商品から自然発生する音(例:扇風機の回転音)、機能確保のために通常使用される音(例:目覚まし時計のアラーム音)
- 役務の提供にあたり通常発する音: 性質上自然発生する音(例:焼肉のジュージューという音)、通常使用される音(例:解体業者の「カーン」という音)
- 自然音: 風の音、雷の音など自然界に存在する音、またはそれを模した人工音(ただし、出所表示として認識されない場合に限る)
- 事業者の注意を喚起する音、印象付ける音: CMのBGMなど(ただし、出所表示として広く認識されていない場合に限る)
- 商品・役務の魅力向上にすぎない音: (例:子供靴を履くたびになる「ピヨピヨ」という音)
- 役務の提供の用に供するものが発する音: 車両の走行音、コーヒー豆を挽く音
これらの例のように、単なる商品の機能音や一般的な効果音、自然音などは、それ自体では出所識別力がないと判断されがちです。多くの音商標は、商標法第3条第1項第3号または第6号に該当するものと考えられます。
ただし、色彩商標と異なり、音商標における第3条第1項第3号の例示は限定列挙ではないとされています。そのため、ここに挙げられていない音であれば、識別力が認められる可能性はあります。
しかし、多くの場合、音商標が登録されるには、色彩商標と同様に長期間の使用によって識別力を獲得したことが必要となる場合が多いでしょう。例えば、長年使用されたCMのサウンドロゴなどがこれに該当します。
3.登録後の落とし穴?「同一性」の判断
無事、新しいタイプの商標が登録できたとしても、安心してはいけません。登録商標を使用する際には、「登録された商標と使用している商標が同一であるか」という点が重要になります。特に、商標権を維持するための使用義務(不使用取消審判への対応)や、他社の商標権侵害を主張する場合などに、この「同一性」の判断が問題となります。
ここでも、新しいタイプの商標ならではの判断基準が存在します。
(1)動き商標・ホログラム商標・位置商標の同一性
これらの商標の同一性は、「標章の相違」または「変化する状態や位置の相違」があるかどうかで判断されます。
- 動き商標: 出願・登録された標章そのものに違いがある場合や、時間の経過に伴う標章の変化の状態に相違がある場合は、原則として同一性は認められません。
- ホログラム商標: 出願・登録された標章そのものに違いがある場合や、ホログラフィーによる視覚効果による標章の変化の状態に相違がある場合は、原則として同一性は認められません。
- 位置商標: 出願・登録された標章そのものに違いがある場合や、標章の位置に相違がある場合は、原則として同一性は認められません。
例えば、登録した動き商標のアニメーションの途中のコマを大きく変更したり、登録した位置商標のマークを商品の全く別の場所に移して使用したりした場合、登録商標を使用しているとはみなされない可能性があります。
(2)色彩のみからなる商標の同一性
色彩のみからなる商標の同一性は、使用されている色彩の「色相」「彩度」「明度」が同一であるか否かで判断されます。
また、複数の色を組み合わせた商標の場合は、色彩の「配列」や「割合」が異なると、同一性は認められない場合があります。さらに、色彩商標を出願する際に、特定の「位置」を特定して出願した場合に、使用する際にその位置が異なると、原則として同一性は認められません。
登録された色と少しでも違う色を使用したり、色の組み合わせの順序や面積比率を変更したりすると、たとえ色自体は同じでも、同一性の判断で不利になる可能性があります。
(3)音商標の同一性
音商標の同一性は、「音の要素」および「言語的要素」が異なっている場合でも、事業者が全体として「同一の音商標」であると認識するか否かが問題となります。
同一性が認められるためには、少なくとも「メロディーが同一であること」が必要とされます。加えて、メロディーが同一であっても、「リズム」「テンポ」「ハーモニー」「演奏楽器」などの要素の違いも考慮して判断されます。
例えば、登録した音商標がバイオリンで演奏されたメロディーであるのに対し、使用している音がフルオーケストラで演奏された同じメロディーである場合、全体として受ける印象が大きく異なれば、同一性は認められない可能性があります。単純に同じメロディーであれば良いというわけではなく、そのメロディーが奏でられる「音の響き」や「雰囲気」も重要になるということです。
(4)他の標章と組み合わせて使用している場合の同一性
これは新しいタイプの商標全てに共通する重要な基準です。登録された新しいタイプの商標を、別の文字や図形といった他の標章と組み合わせて使用している場合に、同一性が認められるかが問題となることがあります。
この場合、使用している商標全体の中に、登録された新しいタイプの商標が含まれているとしても、登録された新しいタイプの商標のみが、使用商標全体から独立して、商品の出所を識別する標識として認識されると認められる場合に限り、同一性が認められます。
つまり、登録した動き商標が、使用する際には別の会社名の横に単なる飾りとして小さく表示されているだけで、消費者がその動き商標単体を見て会社を識別できないような場合、登録商標を使用しているとは認められない可能性があるということです。あくまで、登録したその新しいタイプの商標自体に、独立した識別力があり、使用されている商標全体の中でもそれが主要な出所表示として機能している必要があります。
4.複雑な「新しいタイプの商標」保護、なぜ弁理士が必要なのか?
ここまで見てきたように、新しいタイプの商標は、文字や図形といった伝統的な商標とは異なる、独特の審査基準や使用上の注意点があります。特に、色彩のみからなる商標や音商標は、それ自体に識別力が認められにくい場合が多く、「使用による識別力」の獲得が登録の鍵となるケースが多く存在します。
あなたのブランドの個性的な要素を、法的にしっかりと保護するためには、これらの複雑な基準を正確に理解し、適切な戦略を立てる必要があります。
ここで、私たち弁理士がお手伝いできることがあります。
- 識別力に関する適切なアドバイス: あなたが保護したいと考えている動き、色、音などが、商標として識別力を持つのか、持つとすればどのような点が強み・弱みとなるのかを、特許庁の最新の審査基準や過去の事例に基づいて専門的に判断し、アドバイスします。特に、識別力に乏しいと判断される場合、どのような対策を取るべきか、例えば使用による識別力獲得を目指す戦略などについて具体的にご提案できます。
- 最適な出願戦略の立案: 保護したいブランド要素に応じて、どのタイプの商標(動き、色、音など)として出願するのが最も効果的か、また、その商標をどのように表現し、願書に記載すべきかについて専門的な知見からアドバイスします。音商標であれば楽譜や波形表示、色彩商標であれば色の番号指定や使用態様の詳細な説明など、適切な書面作成をサポートします。
- 使用による識別力獲得のサポート: 色彩商標や音商標のように、使用による識別力で登録を目指す場合、その証拠収集が非常に重要となります。どれくらいの期間、どのような態様で使用すれば「使用による識別力」が認められうるのか、どのような証拠(広告宣伝の量、売上、アンケート結果など)を収集し、どのように整理・提出すれば効果的かについて、専門家として具体的なサポートを提供します。
- 特許庁の審査官との交渉・補正対応: 出願した商標が、識別力がないなどの理由で特許庁から拒絶理由が通知された場合、その通知内容を正確に理解し、適切な反論や願書の補正を行う必要があります。これらの対応は専門的な知識が不可欠であり、弁理士があなたに代わって審査官と交渉し、登録の可能性を高めるための手続きを行います。
- 登録後の適切な使用に関するアドバイス: 商標登録が完了した後も、権利を有効に維持するためには、登録された通りに使用することが重要です。特に、新しいタイプの商標では「同一性」の判断が複雑になるため、登録商標の適切な使用態様についてアドバイスを提供し、将来的な不使用取消審判のリスクを軽減します。
あなたのビジネスが持つ独特な「動き」「色」「音」といった要素は、消費者の記憶に残り、強力なブランドイメージを形成する宝物です。しかし、これらの新しい要素を法的に保護し、他社に安易に模倣されないようにするためには、専門的な知識と経験が必要です。
弁理士は、知的財産の専門家として、あなたのユニークなブランド要素を最大限に保護するための最適な方法をご提案し、複雑な手続きを代行いたします。
まとめ
- 「動き商標」「ホログラム商標」「色彩のみからなる商標」「音商標」「位置商標」は、現代の多様なブランド表現を保護するための新しい商標タイプです。
- これらの登録には「識別力」が不可欠ですが、特に色彩のみからなる商標や音商標は、性質上識別力が認められにくく、「使用による識別力」の獲得が重要な鍵となります。
- 登録後も、登録された商標と使用する商標の「同一性」が重要であり、各タイプごとに独自の判断基準があります。他の標章と組み合わせて使用する際の注意点もあります。
- これらの複雑な制度を理解し、適切にブランド要素を保護するためには、専門家である弁理士のサポートが有効です。
あなたの素晴らしいアイデアやビジネスの個性を、新しいタイプの商標制度を活用してしっかり守りましょう。
もし、あなたのビジネスにおいて、ユニークな「動き」「色」「音」「位置」といった要素をブランドとして保護したいとお考えでしたら、ぜひ一度、弁理士にご相談ください。
当事務所では、新しいタイプの商標に関する豊富な知識と経験に基づき、お客様のビジネスに最適な保護戦略をご提案いたします。お気軽にお問い合わせください。
[お問い合わせ先] 知的財産事務所エボリクス 弁理士 杉浦健文