エクアドルは人口約1,830万人、2000年から米ドルを法定通貨とする南米の国で、エビ・バナナ・カカオ・原油の輸出で知られます。日本にとってはエビとバナナ、カカオ豆の主要な供給国であると同時に、自動車・鉄鋼・一般機械の輸出先でもあり、2025年の日本からの輸出は約700億円、輸入は約1,670億円に達しました。2021年にはCPTPPへの加入を申請し、開放経済への転換を進めています。こうした中で、エクアドルでの商標保護の相談が少しずつ増えています。
エクアドルの商標制度は、ペルー・コロンビア・ボリビアと共通のアンデス共同体(CAN)決定486号と、2016年に制定された国内法「知識・創造性・革新の社会経済に関する組織法典(COESCCI、通称Código Ingenios)」の二本立てです。管轄官庁のSENADI(国家知的権利庁)は先行商標との抵触まで職権で審査し、異議・取消・無効・侵害のすべてを行政手続で処理します。一方で、1出願1区分の原則、公証とアポスティーユ付きの委任状、マドリッド協定議定書(マドプロ)未加盟など、日本企業が事前に知っておくべき制約も多くあります。本記事では、COESCCIと決定486号の条文、エクアドル政府公式手続サイト(gob.ec)の2026年手数料、WIPO統計、2024〜2026年の判断例と摘発事例を一次資料として、出願から異議・取消・権利行使・アンデス4か国を見据えた設計までを弁理士が実務目線で整理します。
この記事のポイント
目次
LEGAL FRAMEWORK
アンデス共同体の共通法規である決定486号(2000年)と、2016年12月9日公布のCOESCCI(官報899号付録)が並行して適用されます。COESCCIは商標の定義・拒絶理由・取消・無効・行政保護手続・水際措置を国内法として詳細に規定し、手続の細目は規則とSENADIの決議に委ねています。
エクアドルの商標法は二層構造です。上位にあるのがアンデス共同体決定486号(Decisión 486)で、商標の定義、拒絶理由、異議、存続期間、不使用取消、無効、周知標識、侵害に対する救済まで、加盟4か国(エクアドル・ペルー・コロンビア・ボリビア)で共通のルールを定めています。加盟国の官庁や裁判所が決定486号を解釈するときはアンデス共同体司法裁判所(TJCA)の先決的解釈に従います。国内法のCOESCCI(Código Orgánico de la Economía Social de los Conocimientos, Creatividad e Innovación)は、旧知的財産法(1998年)を全面的に置き換えた包括法典で、商標については359条以下に決定486号とほぼ同じ内容を国内法として書き込み、さらに悪意の出願の職権拒絶(362条)、行政保護手続(559条〜574条)、水際措置(575条〜582条)を独自に整備しています。
管轄官庁はSENADI(Servicio Nacional de Derechos Intelectuales:国家知的権利庁)で、旧IEPI(知的財産庁)を2018年に改組した組織です。商標の登録審査は国家産業財産局(DNPI)が行い、異議事件は異議技術局(DTOP)が第一審として判断します。上訴、無効、不使用取消は、SENADI内の合議体である知的権利合議体(Órgano Colegiado de Derechos Intelectuales:OCDI)が扱い、OCDIの決定に不服があれば行政訴訟裁判所(Tribunal Distrital de lo Contencioso Administrativo)へ進みます。侵害についても、裁判所ではなくSENADIの行政保護手続(tutela administrativa)が第一の選択肢で、臨検・差押え・罰金までSENADIが命じます。日本企業にとって重要なのは、ペルーと同様に登録から権利行使までが一つの行政機関で完結する点と、その反面としてSENADIの処理能力が手続全体の速度を左右する点です。
エクアドル独自のポイント:1出願1区分と厳格な委任状
ペルー・コロンビアが多区分出願を認めるのに対し、エクアドルは1つの出願に1区分しか含められず、区分ごとに出願と手数料(208米ドル)が必要です。また、外国出願人の委任状は公証に加えてアポスティーユ(日本は外務省の付与)が求められ、出願後60日以内に提出します。手続は完全オンライン化されていますが、書類の形式不備が遅延の主因になるため、日本側での準備が鍵になります。
WIPOの統計(区分数ベース、2024年)によると、エクアドルの商標出願は20,699区分(前年比0.5%減、世界49位)で、居住者が13,392区分(64.7%)、非居住者が7,307区分(35.3%)です。非居住者の出身国は米国21.2%、中国11.3%、コロンビア7.2%、スペイン7.1%、メキシコ5.5%の順で、隣国コロンビアが上位に入る点がアンデス市場らしい特徴です。登録は20,838区分(12.9%増)、有効登録は179,775件(世界43位)で、審査官1人当たりの出願数は3,449.8件と極めて多く、それでも登録までの遅延は150日にとどまっています。エクアドル居住者による海外出願は1,078件と前年から41.7%増えており、SENADIはエクアドル企業の海外展開支援を強めています。
| 指標(2024年) | 数値 | 出所 |
|---|---|---|
| 商標出願(区分数) | 20,699区分(−0.5%、世界49位) | WIPO統計国別プロファイル |
| 居住者/非居住者 | 13,392(64.7%)/7,307(35.3%) | WIPO |
| 非居住者の出身国 | 米国21.2%・中国11.3%・コロンビア7.2%・スペイン7.1%・メキシコ5.5% | WIPO |
| 登録(区分数)/有効登録 | 20,838区分(+12.9%)/179,775件(43位) | WIPO |
| 審査官1人当たり出願数/登録遅延 | 3,449.8件/150日 | WIPO |
| 人口/GDP/1人当たりGDP(2025年) | 1,828万人/1,303億米ドル/7,125米ドル(成長率3.7%) | 外務省(世銀) |
| 対日貿易(2025年) | エクアドル→日本1,666億円(原油・エビ・バナナ・カカオ)/日本→エクアドル708億円(鉄鋼・自動車・機械) | 外務省(財務省貿易統計) |
日本企業のプレゼンスはまだ小さく、在留邦人は327人、日本からの直接投資は年間数百万米ドル規模です。しかし、日本車と建設機械、二輪車、農業機械、化粧品、日本食品はエクアドル市場で知名度があり、米ドル経済で為替リスクがないことから、中南米の販売網の一部としてエクアドルを含める日本企業は増えています。後述するように、エクアドルは先取り出願と模倣品の問題が根深く、2025年にはプリンターインクの模倣品17万9,490点(約200万米ドル相当)が税関とSENADIの合同摘発で押収されました。日本ブランドも例外ではなく、参入前の出願と監視が欠かせません。
COESCCI 359条は、市場で商品・役務を識別できる標識であれば商標として登録できると定め、文字、図形、音・香り・味、文字と数字、形状で区切られた色彩、商品や包装の形状、触覚で知覚できる凹凸や質感、アニメーション・ジェスチャー・動き、ホログラムまでを例示しています。条文上は世界でも最も広い保護対象の一つですが、実務上は図形的に表現できることが要件で、香りや味の登録は表現の困難さから認められにくいのが現状です。商標のほかに、登録商標に付随するスローガン(lema comercial)、団体商標・証明商標、商号、原産地名称(カカオ・アリバなど)、さらに国のブランドである「マルカ・パイス(国家ブランド)」の保護規定もあります。
拒絶理由は360条(絶対的理由:識別力欠如、記述的、慣用的、公序良俗違反、原産地の誤認、国旗・紋章など)と361条(相対的理由:先行商標・先行出願との混同のおそれ、商号・スローガンとの抵触、周知標識の複製・模倣、第三者の氏名・肖像・著作物の無断使用など)で、決定486号135条・136条に対応します。SENADIは異議がなくても絶対的・相対的理由の双方を職権で審査するため、出願前の先行商標調査が実務の出発点です。さらにエクアドル独自の規定として、362条は「悪意で、または不正競争行為を実行・促進・確定するために出願されたと推認できる合理的な兆候がある場合、SENADIは登録を拒絶できる」と定めており、他社ブランドの先取り出願を審査段階で止める根拠になります。
周知標識の保護と「周知性宣言」制度:決定486号224条〜229条により、アンデス加盟国のいずれかで関連業界に知られた標識は未登録でも保護されます。エクアドルではさらに、SENADIの決議002-2019-DG-NT-SENADIに基づき、権利者が売上・広告費・市場調査などの証拠を提出して周知商標であることの宣言(有効期間7年)を事前に取得できます。宣言があれば、異議や無効請求のたびに周知性を立証し直す負担が軽くなります。
出願はSENADIのオンラインシステム(casillero virtual:電子私書箱)から行い、手数料は銀行振込またはオンラインで納付します。手続の流れは次のとおりです。
異議がない場合の所要期間は、現地事務所の案内で5〜9か月(Chambers 2026年版では6〜8か月、別の事務所では8〜12か月)とされ、WIPO統計上の2024年の登録遅延は150日です。異議や拒絶理由通知があると1年以上かかることがあります。SENADIは中小零細企業支援策の施行時などに出願が集中すると公報掲載や実体審査が遅れる傾向があり、委任状の不備による中断も遅延の典型的な原因です。ペルー(約45営業日)ほどの速さはありませんが、コロンビアの2025年の遅延(1〜3年)に比べれば安定しています。
中小零細企業向け50%割引は外国企業には使えない
出願手数料208米ドルは、エクアドル国内で登録されたMIPYMES(中小零細企業)、職人、大学などが申請すれば50%割引(104米ドル)になりますが、SENADIの事前認定が必要で、日本企業には適用されません。日本の中小企業は、代わりにINPITの外国出願補助金で費用の2分の1の助成を受けられる場合があります。
エクアドルは米ドル建てのため為替換算が単純で、手数料はいずれも付加価値税(IVA)非課税です。以下はエクアドル政府の公式手続サイト(gob.ec)に掲載されたSENADIの手数料で、円換算は1米ドル≒148円の概算です。罰金の基準となる基本給(Salario Básico Unificado:SBU)は2026年に482米ドル(労働省令MDT-2025-195)です。
| 手続 | 手数料(米ドル) | 円換算目安・備考 |
|---|---|---|
| 商標登録出願(1区分=1出願) | 208 | 約3万1,000円。区分ごとに別出願。国内中小企業等は50%割引 |
| 登録料 | 不要 | 出願料に含まれる |
| 異議申立 | 140 | 約2万1,000円 |
| 不使用取消請求(OCDI) | 430 | 約6万4,000円 |
| 無効請求(OCDI) | 272 | 約4万円 |
| 上訴(recurso de apelación、OCDI) | 272 | 約4万円。決定通知から10日以内 |
| 行政保護手続(侵害の申立) | 208 | 約3万1,000円 |
| 更新(1区分) | 208 | 約3万1,000円。満了前後6か月 |
| 移転・名義変更・住所変更の記録 | 101 | 約1万5,000円。使用許諾の記録は72 |
| 先行商標調査(音標的・図形) | 16〜32/区分 | 現地事務所の案内による |
1区分の庁費用はペルー(約150米ドル)より高く、コロンビア(約340米ドル)より安い水準です。ただし1出願1区分のため、3区分なら出願だけで624米ドルとなり、区分数が増えるほどペルーとの差が広がります。現地代理人の費用は1出願あたり250〜500米ドル程度が相場とされ、公証・アポスティーユの費用も加わります。中小企業はINPIT外国出願補助金の対象になります。
異議は登録前の制度で、知的財産公報の公告日から30営業日以内に、正当な利益を有する者が1回に限り申し立てます(決定486号146条)。証拠の追加提出のために30日の追加期間を1回求めることができます。異議は異議技術局(DTOP)が審理し、手数料は140米ドルです。DTOPの決定にはOCDIへの上訴(272米ドル)ができます。
エクアドルに商標を持っていなくても、ペルー・コロンビア・ボリビアで同一・類似の商標を登録または先に出願している者は、エクアドルの出願に異議を申し立てることができます。条文は異議人がエクアドル市場における現実の利益を証明することを求めており、その方法として異議申立と同時にエクアドルへ同じ商標を出願することが要件です。第10章のSHOCK事件では、コロンビアで2004年から登録を持つ出願人と、エクアドルで先に登録した相手方との争いが、まさにこのアンデス域内の先後関係と悪意の評価を軸に判断されました。
異議の根拠とされた先行商標が3年以上使われていない場合、出願人は異議手続の中で不使用取消を防御として請求できます(COESCCI 378条、決定486号165条)。エクアドルでは取消請求の手数料が430米ドルと高めなので、費用対効果を見て使います。
日本企業の活用例:コロンビアで登録済みの商標を第三者がエクアドルで出願した場合、公告から30営業日以内にアンデス異議を申し立て、同時にエクアドルへ出願します。異議が認められれば相手の出願は拒絶され、自社の出願が審査に進みます。コロンビアはマドプロ加盟国なので、国際登録でコロンビアを指定しておくことが、マドプロ未加盟のエクアドル・ペルーでの防御にも間接的に役立ちます。
登録商標が、正当な理由なく、取消請求の日に先立つ連続3年間、権利者・使用権者・その他の授権者によって使用されていない場合、利害関係人の請求によりOCDIが登録を取り消します。取消請求は、登録手続を終結させた決定の通知から3年経過後に初めて可能です。不可抗力、偶発事故、当該商品・役務に対する公的規制による不使用は取消の対象外です(379条)。使用の立証責任は権利者側にあり(382条)、請求書、会計書類、監査証明などで商品の販売の規則性と数量を示します。一部の商品・役務についてのみ使用が証明された場合は、その他の部分だけが取り消される部分取消です(383条)。取消を勝ち取った請求人は、請求時から取消決定の確定後3か月以内まで優先的に登録を受ける権利を持ちます(384条)。手数料は430米ドルです。
無効もOCDIに請求します。絶対的無効(虚偽の書類による登録、359条1項・360条違反、行政行為の絶対的無効事由など)はいつでも請求でき、相対的無効(361条違反、悪意による取得、不正競争行為を実行・促進・確定するための取得)は登録の付与から5年で時効にかかります(389条)。一部の商品・役務にのみ無効理由がある場合は部分無効です(391条)。無効の宣言は登録を遡って消滅させますが、損害賠償請求は無効とは独立して行えます(393条)。手数料は272米ドルで、不使用取消より安く設定されています。第10章のNestlé事件は、悪意による取得を理由に登録から3年で無効が宣言された例です。
5年の壁に注意:先取り登録に気づかないまま登録から5年が過ぎると、悪意を理由とする無効は請求できなくなります。SENADIのオンラインデータベースで自社ブランドの登録状況を定期的に確認し、発見次第、無効請求と不使用取消請求を検討してください。
登録の存続期間は登録日から10年で、10年ごとに何度でも更新できます(COESCCI 365条)。更新は満了前6か月から申請でき、満了後6か月の猶予期間があります(366条)。猶予期間中も登録は有効です。更新時に使用証明は不要で、申請だけで元の登録と同じ内容で更新されます。手数料は1区分208米ドルです。更新の際に商品・役務を減縮することはできますが、追加はできません。
使用義務では、決定486号165条によりアンデス加盟国のどこかで使っていればエクアドルで使っていなくても取消を免れることに加え、COESCCI 380条が「専ら国外へ輸出される商品のみに使用されている場合」も使用と認めると明記している点が特徴です。エクアドルで製造して日本や米国へ輸出する商品の商標は、エクアドル国内で販売していなくても登録を維持できます。また、権利者以外の者が真正品を市場に流通させた場合も使用と認められます(380条a号)。商標は登録した態様で使用する必要がありますが、識別力を変えない範囲の変更は許容されます(364条・381条)。各国の使用義務の違いは商標登録後の維持義務の国際比較も参考にしてください。
エクアドルの商標侵害対策の中心は、裁判所ではなくSENADIへの行政保護手続の申立(手数料208米ドル)です。SENADIは職権または申立により、臨検、情報提出命令、制裁、その他の保全措置を命じることができます(COESCCI 559条・560条)。保全措置の申立は秘密扱いで受理から48時間以内に判断され(561条)、施錠の解除を伴う立入りが必要な場合は、SENADIが裁判官に24時間以内の許可を求めます(562条)。申立人が権利と侵害の合理的な疎明をすれば、手続の開始時点で保全措置が命じられます(563条)。証拠調べまたは審尋の後、SENADIは理由を付した決定を出し、侵害が認められれば3〜7日間の営業所閉鎖または1.5〜142基本給(2026年の基本給482米ドルで約723〜6万8,444米ドル)の罰金を科し、押収品の処分を決めます(569条)。決定にはOCDIへの上訴ができ、損害賠償は別途民事裁判所に請求します。SENADIが不正競争事件を扱う場合にも同じ制裁が適用されます。
実例として、2019年にはCrocsの模倣品3万7,000足がグアヤキル・マンタ・ポルトビエホの7か所で同時に押収され、SENADIは総額9万5,625米ドル、うち1社に当時の法定上限である5万2,500米ドルの罰金を科しました。2025年には、税関(SENAE)・警察・SENADIの「ブランド保護プログラム」の一環として、キトとグアヤキルの臨検で模倣インク17万9,490点(約200万米ドル相当)が押収され、行政保護手続の終結時に最大5万6,800米ドルの罰金が科され得ると報じられました。
刑法典(COIP)208A条は、2021年8月27日の改正(官報525号第5付録)で導入された規定で、登録商標と同一または本質的部分で区別できない商標を無断で付した商品を商業規模で製造・販売する行為に、6か月以上1年以下の拘禁刑、没収、8〜300基本給(約3,856〜14万4,600米ドル)の罰金を定めています。罰金は押収品の価額に応じて段階的に加重され、法人には同額の罰金と解散が科されます。周知商標については登録の証明を要しません。一方、独自の特徴を持ち原商標と混同を生じない模倣品は犯罪を構成しないと明記されており、刑事告訴は同一・酷似の模倣品に絞って使う制度です。最初の有罪判決は2021年11月、グアヤキルでNike・Adidas・Puma・Vans・Reebokの模倣品を扱った事案で言い渡されました。
水際措置はCOESCCI 575条〜582条に基づきます。権利者が侵害品の輸出入を疑う十分な証拠を持つ場合、SENADIに通関の停止を申し立て、税関当局(SENAE)はSENADIが判断するまで通関を停止します。SENADIが職権で侵害品の輸出入を知った場合も同様です。2025年3月にはグアヤキル港で、中国から輸入された帽子・リュック・玩具の模倣品(推定80万米ドル)を積んだコンテナ2本が、税関のリスク分析による全量検査で摘発されています。
コロンビア企業Belleza Express S.A.は、2004年からコロンビアで登録する化粧品ブランド「SHOCK」を、第20類でエクアドルに出願しました。これに対し、エクアドルで「SHOCK CAPILAR」等の複数の登録を持つDideco Distribuidora de Cosméticos S.C.C.が異議を申し立てました。SENADIの異議技術局は2026年5月15日の決定SENADI-DTOP-2026-0000474-Rで、両社に以前から取引関係があり、Didecoは出願時にBelleza Expressの先使用を知っていたと認定し、Didecoの登録は悪意により、不正競争行為を行う目的で取得されたものであるから、その後の登録も正当化されないとして異議を退け、Belleza Expressの出願を登録しました。先に登録した側でも、取引関係から得た知識に基づく先取り登録は保護されないことを示した判断で、エクアドルで代理店や取引先に商標を押さえられた日本企業にとって重要な先例です。
エクアドルで食品を販売する個人が、Nestléのチョコレートブランド「SAVOY」「TORONTO」を組み合わせた「SAVOY TORONTO」を第30類で2021年に登録しました。Nestléは悪意と不正競争を理由に無効を請求し、OCDIは2024年3月26日の決定OCDI-2024-202で、同じ商品について同じ語を偶然に思いつくことは事実上あり得ず、出願人はNestléの商標の名声を知りながらその信用に便乗し、正当な権利者のエクアドル市場での活動を妨げようとしたとして、登録を無効としました。出願人が以前からNestléの真正品を仕入れて販売していたことも悪意の証拠とされています。
他方で、2020年12月のOCDI決定OCDI-2020-1042(「DEL VALLE」対「PIZZAS DEL VALLE」第43類)では、SENADIが「アンデス共同体法は周知商標(notoria)のみを認め、著名商標(renombrada)という概念を認めていない」と述べ、周知性の証拠も不十分として異議を退けました。TJCAの先決的解釈は著名商標に商品の類否を超えた保護を認めており、この判断は現地の実務家から批判されています。日本企業への実務的な示唆は、周知性は主張するだけでは足りず、アンデス域内での売上・広告・市場調査の証拠を具体的に提出する必要があること、そして可能であれば第3章で触れた周知性宣言を事前に取得しておくことです。
エクアドルは2026年9月時点でマドリッド協定議定書に加盟していません。WIPOの加盟国一覧にもエクアドルは載っておらず、アンデス共同体で加盟しているのはコロンビア(2012年)だけです。したがって、日本企業がマドプロの国際登録を持っていてもエクアドルを指定することはできず、エクアドルの代理人を通じた直接出願だけが選択肢です。パリ条約の優先権(日本出願から6か月)は主張できます。
アンデス共同体の枠組みを活かすなら、コロンビアはマドプロで指定し、エクアドル・ペルー・ボリビアは直接出願で揃えるという組合せが現実的です。4か国のいずれかに登録があれば他国の先取り出願にアンデス異議で対抗でき、いずれかで使用していれば全加盟国で不使用取消を免れるため、アンデス4か国を一体として設計することが費用対効果を高めます。エクアドルは1出願1区分なので、ペルー・コロンビアより区分の絞り込みが費用に直結します。主力商品の区分を優先し、周辺区分はペルー・コロンビアの多区分出願でカバーするといった調整も有効です。近隣のチリ、アルゼンチン、ブラジル、メキシコはマドプロ指定が可能です。
| 項目 | エクアドル(SENADI) | 日本(特許庁) |
|---|---|---|
| 根拠法 | アンデス共同体決定486号+COESCCI(Código Ingenios) | 商標法 |
| 先行商標との類似の審査 | 職権審査あり。悪意の出願は職権拒絶可 | 職権審査あり |
| 多区分出願 | 不可(1出願1区分) | 可 |
| 異議 | 登録前・公告から30営業日・他のアンデス加盟国の商標権者も可 | 登録後・公報から2か月 |
| 登録までの期間 | 異議なしで5〜9か月(登録遅延150日) | 6〜8か月程度(早期審査あり) |
| 庁費用(1区分) | 出願208米ドル(約3万1,000円)、登録料なし | 出願12,000円+登録料32,900円 |
| 委任状 | 公証+アポスティーユ(出願後60日以内) | 原則不要 |
| 存続期間 | 登録日から10年。更新時の使用証明不要 | 登録日から10年 |
| 不使用取消の猶予 | 3年(アンデス域内の使用・輸出専用品の使用でも足りる) | 3年(日本国内での使用) |
| 無効の管轄・期限 | SENADI合議体(OCDI)。相対的理由・悪意は5年、絶対的理由は無期限 | 特許庁審判。一部理由は5年の除斥期間 |
| 侵害の第一次的な救済 | SENADIの行政保護手続(営業停止3〜7日または罰金1.5〜142基本給)。損害賠償は民事 | 裁判所(差止・損害賠償) |
| 刑事罰 | 6か月〜1年の拘禁刑+8〜300基本給の罰金(同一・酷似の模倣に限る) | 10年以下の懲役・1,000万円以下の罰金 |
| マドプロ | 未加盟(直接出願のみ) | 加盟(2000年) |
できません。エクアドルは2026年9月時点でマドリッド協定議定書に加盟しておらず、エクアドルの代理人を通じた直接出願が唯一の方法です。日本出願から6か月以内であればパリ条約の優先権を主張できます。アンデス共同体で唯一の加盟国であるコロンビアはマドプロで指定できます。
異議がなければ、方式審査4〜8週間、公報公告と30営業日の異議期間、実体審査1〜2か月を経て、5〜9か月程度で登録されます。WIPO統計上の2024年の登録遅延は150日です。異議や拒絶理由通知があると1年以上かかることがあります。委任状の公証・アポスティーユの不備が最も多い遅延原因です。
庁費用は1区分208米ドル(約3万1,000円)で登録料はかかりませんが、多区分出願ができないため区分ごとに出願と手数料が必要です。更新は1区分208米ドル、異議は140米ドル、無効請求は272米ドル、不使用取消請求は430米ドルです。現地代理人の費用と公証・アポスティーユの費用が加わります。中小企業はINPIT外国出願補助金で費用の2分の1の助成を受けられる場合があります。
審査中なら、公告から30営業日以内に異議を申し立て、取引関係の存在と悪意を示す証拠を提出します(COESCCI 362条は悪意の出願の職権拒絶も認めています)。登録済みなら、登録から5年以内にOCDIへ悪意・不正競争を理由とする無効を請求します。SHOCK事件(2026年)やNestlé事件(2024年)のように、取引関係や真正品の仕入れ実績は悪意の有力な証拠です。相手が3年以上使っていなければ不使用取消も併用します。
登録手続の終結から3年間、アンデス加盟国のどこでも使っていなければ、第三者の請求でOCDIが取り消すことができます。逆に、ペルー・コロンビア・ボリビアのいずれかで使っていれば、エクアドルで使っていなくても取消を免れます。また、エクアドルで製造して輸出のみに使っている場合も使用と認められます。一部の商品にしか使っていない場合は残りの部分だけが取り消されます。
国内流通品はSENADIへの行政保護手続の申立が最も速く、保全措置は48時間以内に判断され、臨検・差押えと最大142基本給(約6万8,000米ドル)の罰金が得られます。損害賠償は民事裁判所に別途請求します。輸入品はSENADIへの水際措置の申立で税関が通関を停止し、同一・酷似の模倣品はCOIP 208A条に基づく刑事告訴(6か月〜1年の拘禁刑)を組み合わせます。いずれもエクアドルの弁護士を通じて行います。
エクアドルの商標制度は、アンデス共同体決定486号とCódigo Ingeniosの二層構造の下、SENADIが登録・異議・取消・無効・侵害のすべてを扱う行政中心の仕組みです。1出願1区分、公証+アポスティーユの委任状、マドプロ未加盟という制約はありますが、庁費用は米ドル建てで明瞭、更新に使用証明は不要、輸出専用品の使用も使用と認められるなど、日本企業に有利な規定も少なくありません。悪意の出願を職権で拒絶できる362条とSHOCK事件・Nestlé事件の判断は、先取り登録への有力な対抗手段です。アンデス4か国を一体として設計し、周知性の証拠を平時から整え、侵害には行政保護手続・刑事・水際措置を組み合わせることが、エクアドルでのブランド保護の要諦です。
各国の商標制度は世界の商標制度ガイドをご覧ください。
マドプロ未加盟国への直接出願、アンデス4か国を見据えた出願設計、異議・取消・無効への対応、模倣品対策、INPIT外国出願補助金の申請まで、知的財産事務所エボリクスが一貫してサポートします。初回相談は無料です。
本記事は、以下の一次資料および専門家による解説を基に作成しています(いずれも2026年9月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。
※本記事は上記の資料を基に、2026年9月時点の情報で一般的な情報提供を目的として作成しています。手数料(円換算額)・運用・判例は変更されることがあり、スペイン語原文と英訳の間に差異がある場合はスペイン語原文が優先されます。個別案件の具体的判断には、専門家へのご相談を推奨します。