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チリ商標制度の実務ガイド|INAPIは先行商標も審査・異議30営業日・登録まで平均4.5か月・不使用取消は2027年5月から・マドプロ加盟(2022年)を弁理士が徹底解説

チリ商標制度の実務ガイド|INAPIは先行商標も審査・異議30営業日・登録まで平均4.5か月・不使用取消は2027年5月から・マドプロ加盟(2022年)を弁理士が徹底解説

チリは銅・リチウムなどの資源国であると同時に、南米で最も開放的な経済と安定した法制度を持つ国として、日本企業の進出先・貿易相手として長い実績があります。2007年発効の日チリ経済連携協定(EPA)のもと、鉱業・食品(サーモン・ワイン・果物)・機械・小売の分野で日本企業の活動が続き、近年はリチウム・再生可能エネルギー分野の投資も増えています。こうした中で、チリでの商標保護の相談が増えています。

チリの商標制度は、産業財産庁(INAPI)が先行商標との抵触まで職権で審査する日本に近い審査主義でありながら、公告後30営業日の登録前異議があり、2022年5月施行の「INAPI短縮法」(法律21.355)で非伝統的商標の導入、不使用取消制度の新設、マドリッド議定書への加盟(2022年7月)という大きな転換を経ました。不使用取消は2027年5月9日から初めて請求可能になり、5万件超の登録が対象になると報じられています。本記事では、産業財産法(Ley 19.039)、INAPIの公式手数料表と2025年報告、経済省の2025年統計、2026年の最高裁判決を一次資料として、出願から異議・無効・取消・権利行使・マドプロの使い分けまでを弁理士が実務目線で整理します。

この記事のポイント

  • 根拠法は産業財産法(Ley 19.039)。2022年5月9日施行の法律21.355で立体・音・匂い・位置などの商標を導入し、不使用取消(登録から5年)を新設。2022年7月4日にマドリッド議定書が発効
  • INAPIは絶対的・相対的拒絶理由の双方を職権審査し、公告(官報)から30営業日が異議期間。異議がなければ平均4.5か月で登録(2024年)、異議があると平均27か月
  • 庁費用は1区分3UTM(出願時1UTM+登録時2UTM。2026年9月は1UTM=71,721ペソ)。多区分出願可。存続期間は登録から10年、更新6UTM
  • 不使用取消は2027年5月9日から請求可能。INAPIは職権で取り消さず、正当な利益を持つ第三者の請求で、使用の立証責任は権利者。無効の出訴期限は5年(悪意は無期限)
  • 権利行使は民事裁判所(損害賠償は実損・侵害者利益・合理的ロイヤルティから選択)と刑事(罰金25〜1,000UTM)。2025年の税関押収は705万点。マドプロ指定は拒絶通報18か月・個別手数料CHF 210/区分

目次

  1. チリ商標制度の全体像と法的枠組み
  2. 2022年の「INAPI短縮法」とマドプロ加盟で何が変わったか
  3. 保護対象と拒絶理由:INAPIは先行商標も審査する
  4. 出願手続の流れと審査期間:官報公告・30営業日・平均4.5か月
  5. 費用一覧(INAPI公式手数料・UTM)
  6. 異議申立:登録前・30営業日・弁護士必須の争訟手続
  7. 無効と取消:5年の出訴期限・2027年から始まる不使用取消
  8. 使用義務と更新
  9. 権利行使:民事・刑事・税関・産業財産裁判所
  10. 最近の判例と実務動向:最高裁2026年判決・EU協定・立体商標
  11. マドプロ指定と直接出願の使い分け
  12. 日本の商標制度との比較
  13. 日本企業がチリ出願で押さえるべき実務ポイント
  14. よくある質問(FAQ)
  15. 出典・参考文献

1. チリ商標制度の全体像と法的枠組み

LEGAL FRAMEWORK

産業財産法(Ley 19.039、1991年)+施行規則+法律21.355(INAPI短縮法、2022年5月9日施行)+INAPI審査ガイドライン。管轄はINAPI(経済・振興・観光省所属)、不服審査は産業財産裁判所(TDPI)。先願主義・絶対的+相対的理由の職権審査・登録前異議型・多区分可・マドプロ加盟(2022年7月4日)

チリの商標は産業財産法(Ley de Propiedad Industrial, Ley 19.039)で規律され、所管は経済・振興・観光省に属する国立産業財産庁(Instituto Nacional de Propiedad Industrial:INAPI)です。INAPIの決定に対する不服は、専門の産業財産裁判所(Tribunal de Propiedad Industrial:TDPI)が審理し、法律問題については最高裁(Corte Suprema)へ上告できます。パリ条約・TRIPS・ニース協定の加盟国で、2022年7月4日からマドリッド議定書が適用されています。

2021年に成立し2022年5月9日に施行された法律21.355(通称「INAPI短縮法」)は、非伝統的商標の導入、不使用取消制度の新設、手続の電子化と迅速化など、1991年の法制定以来最大の改正でした。2025年2月1日にはチリ・EU暫定通商協定が発効し、EUの216の地理的表示がチリで保護されるようになったため、食品・ワイン分野の商標審査にも影響しています。

2025年の出願動向

経済省の発表によると、2025年の商標出願は12月1日時点で64,508件(前年同期比+13.1%)で、うち国内出願人が48,590件(73%、+21.5%)と増加を牽引しました。外国出願人では米国3,099件、中国2,430件、スペイン1,032件が上位で、区分別では第35類(小売・EC・広告)、第41類、第42類、第43類、第9類の順です。INAPIの2025年報告によると、マドプロ経由の指定は前年比+11.8%で、INAPIは2025〜2026年のマドリッド制度作業部会の議長も務めています。

外国出願人の要件

チリに居住しない個人・法人は、チリ国内に住所を持つ代理人を選任する必要があります。委任状は外国で作成し、代理人の身分証番号とチリの住所を記載します(出願時に添付するか、INAPIの委任状保管制度に登録)。出願自体に弁護士は不要ですが、異議・無効・取消などの争訟手続ではチリの弁護士の代理が必須です。手続言語はスペイン語です。

2. 2022年の「INAPI短縮法」とマドプロ加盟で何が変わったか

項目 改正前 2022年5月9日以降
保護対象文字・図形・結合・音・色彩の組合せ立体・匂い・位置・パターン・動き・マルチメディア・ホログラム・触覚を追加。立体商標は2025年までに140件超が登録
使用義務なし(不使用でも取消されない)不使用取消を新設(登録から5年の真正な使用がなければ第三者の請求で取消。部分取消可)。最初の請求は2027年5月9日から
無効の出訴期限5年5年(悪意による登録は無期限)
国際出願直接出願のみ2022年7月4日からマドプロで指定・本国官庁として利用可
手続紙・電子併用電子出願・電子通知が原則。AIによる分類支援を導入し、初回アクションまで平均0.39か月(2024年)
ニース分類—2026年から第13版を新規出願に適用

3. 保護対象と拒絶理由:INAPIは先行商標も審査する

産業財産法19条は、商品・役務を識別できる標識を広く商標として認め、文字・図形・結合商標のほか、2022年改正で追加された立体・音・匂い・位置・パターン・動き・マルチメディア・ホログラム・触覚の各商標が登録できます。チリ特有の類型として、商業施設商標(establecimiento comercial、地域ごとに登録)と工業施設商標(establecimiento industrial)、既存の商標に紐付ける宣伝文句(frase de propaganda)があり、団体商標・証明商標・原産地呼称・地理的表示も保護されます。

INAPIが職権で審査する拒絶理由(20条)

  • 絶対的理由:識別力の欠如、普通名称・記述的表示、誤認を生じる標識、公序良俗違反、国旗・紋章・公的標章、保護された地理的表示・原産地呼称(EU協定で保護される216のEU地理的表示を含む)との抵触
  • 相対的理由:同一・類似の商品・役務について先行する登録・出願商標と図形的・称呼的に混同を生じる標識(20条h号)、外国で登録され、または国内外で周知・著名な商標と同一・類似で混同を生じる標識(20条g号)、他人の氏名・肖像・商号、著作権・意匠権との抵触
  • 悪意:他人の商標と知りながら不正に出願した場合は拒絶・無効の理由になり、無効の出訴期限もありません

アルゼンチン・ブラジルとの違い

チリのINAPIは、日本の特許庁と同様に先行商標との類似を職権で審査します。2025年12月に類否審査を廃止したアルゼンチンとは対照的で、先行商標を理由とする拒絶理由通知への対応が実務の中心になります。周知商標(20条g号)は外国での周知性も考慮されるため、日本で著名なブランドは、チリ未登録でも先取り出願に対抗できる余地があります。

4. 出願手続の流れと審査期間:官報公告・30営業日・平均4.5か月

PROCEDURE

電子出願(1UTM/区分) → 方式審査・受理 → 出願人が20営業日以内に官報(Diario Oficial)に公告 → 30営業日の異議期間 → 実体審査(絶対的・相対的理由) → 登録査定 → 60営業日以内に登録料(2UTM/区分)納付 → 登録(異議なしで平均4.5か月) → 登録から10年

  1. 出願:INAPIのオンライン窓口から出願します。多区分出願が可能で、区分ごとに1UTMを納付します。指定商品・役務はニース分類第13版に従いスペイン語で記載します。優先権はパリ条約に基づき日本出願から6か月以内に主張できます。
  2. 方式審査・公告:INAPIが方式要件を確認して受理すると、出願人は受理から20営業日以内に自ら官報(Diario Oficial)に出願の抄録を公告しなければなりません(費用は文字数により約15,000ペソ)。期限内に公告しないと出願は取り下げたものとみなされます。日本企業が見落としやすい、チリ特有の手続です。
  3. 異議期間:官報公告から30営業日が異議期間です。
  4. 実体審査:異議期間の経過後、INAPIが絶対的・相対的拒絶理由を職権で審査します。拒絶理由があれば通知(observación de fondo)され、出願人は期限内に意見書・補正で応答します。異議がなければ2024年の平均で出願から4.5か月(2023年は5.7か月)で登録査定に至り、初回アクションまでは平均0.39か月です。異議があると争訟手続になり、平均27.2か月かかります。
  5. 登録料・登録:登録査定から60営業日以内に区分ごと2UTMの登録料を納付すると登録され、登録証が発行されます。納付しなければ出願は失効します。拒絶査定に対しては15営業日以内に産業財産裁判所(TDPI)へ控訴(2UTM)できます。
  6. 存続期間・更新:登録日から10年で、更新は満了前6か月から満了後6か月まで申請できます。更新料は区分ごと6UTMで、満了後は1か月ごとに20%の割増(満了後6か月目で12UTM)が加算されます。

5. 費用一覧(INAPI公式手数料・UTM)

INAPIの庁費用は、物価連動で毎月改定される月次課税単位(UTM)で定められています。2026年9月の1UTMは71,721チリペソ(1ペソ≒0.16円で換算すると約11,500円)で、1区分の登録にかかる3UTMは約215,000ペソ(約3.4万円)です。手数料とは別に官報の公告費用がかかります。

項目 UTM ペソ(2026年9月) 備考
出願(1区分)171,721商業施設商標は区分×地域ごと
官報公告—約15,000文字数による。受理から20営業日以内に出願人が手配
登録料(1区分)2143,442登録査定から60営業日以内
更新(1区分)6430,326満了後は月20%の割増(6か月目で12UTM)
登録簿への記録(移転・ライセンス等)171,721定額
産業財産裁判所への控訴2143,44215営業日以内。勝訴すれば還付
宣伝文句(frase de propaganda)1区分分—基礎商標の区分数にかかわらず1区分扱い

異議申立・無効・取消請求にはINAPIの手数料はありませんが、弁護士の代理が必須のため代理人費用がかかります。日本からマドプロでチリを指定する場合は、チリの個別手数料をWIPOにスイスフランで納付します。2026年8月23日改定の金額は1区分あたりCHF 210(区分ごとに同額)、更新は1区分あたりCHF 314です。国内出願の3UTM(約CHF 200)とほぼ同水準です。複数国出願の費用比較はマドプロの費用とメリットをご覧ください。

補助金の活用:中小企業のチリへの商標出願費用は、INPIT外国出願補助金(費用の1/2、商標1出願あたり上限60万円)の対象になります。

6. 異議申立:登録前・30営業日・弁護士必須の争訟手続

  • 期間:官報公告から30営業日以内。INAPIの手数料はありませんが、異議を申し立てるにも答弁するにもチリの弁護士の代理が必須です
  • 理由:20条の拒絶理由すべて(先行商標との混同、周知商標、氏名・商号、著作権、地理的表示、悪意など)。INAPIが職権で審査する理由と重なりますが、審査官が見落とす類似や、外国での周知性・使用の事実は異議で立証する必要があります
  • 手続:異議が申し立てられると、出願は行政手続から争訟(juicio de oposición)に切り替わり、答弁、証拠提出期間、必要に応じた鑑定を経てINAPIが決定します。INAPIは職権審査の結果(observación de fondo)も同じ手続の中で通知します。2024年には4,711件の異議決定が通知され、争訟案件の平均処理期間は27.2か月でした
  • 不服申立:INAPIの決定に対しては15営業日以内に産業財産裁判所(TDPI)へ控訴でき(2UTM)、TDPIの判決に対しては法律問題に限り最高裁へ上告(casación)できます

異議を受けると2年以上かかる:異議のない出願は4.5か月で登録されますが、異議を受けると平均27か月と一気に長期化し、その間はチリでの登録が確定しません。自社の出願が異議を受けた場合は、早期に共存合意や指定商品の限定を提示して和解することが、事業開始の遅れを防ぐ現実的な選択肢です。

7. 無効と取消:5年の出訴期限・2027年から始まる不使用取消

無効(nulidad)

20条の拒絶理由に反して登録された商標は、利害関係人の請求によりINAPIで無効にできます。無効の出訴期限は登録から5年ですが、悪意で取得された登録には期限がありません(27条)。これはパリ条約6条の2(周知商標の悪意による登録には期限を設けない)と整合する規定で、日本ブランドの先取り登録を争う際の根拠になります。手続は異議と同じ争訟型で、決定に対してはTDPI、最高裁へと争えます。

不使用取消(caducidad por falta de uso):2027年5月9日から

2022年改正で新設された制度で、登録から5年以内にチリで真正かつ実効的な使用がない、または5年間連続して使用が中断した商標は、正当な利益を持つ第三者の請求で取り消されます(27条の2)。改正法の施行日から5年が経過する2027年5月9日に最初の請求が可能になり、2022年に登録された37,688件と更新された19,243件、合わせて5万件超が最初の対象になると報じられています。

  • INAPIは職権で取り消さない:後願が先行商標で拒絶された出願人など、正当な利益を持つ第三者の請求が必要
  • 立証責任は権利者:請求書・領収書・納品書・広告・カタログ・販売実績のあるウェブサイトやSNS・ラベルや包装・販売代理店契約などで、チリ国内での使用を示す。ライセンシー・代理店・フランチャイジーによる権利者の同意を得た使用は権利者の使用と認められる
  • 部分取消:一部の商品・役務についてのみ使用が立証された場合、その範囲で登録が維持され、残りは取り消される
  • 正当な理由:輸入規制や許認可など権利者の責めによらない障害があれば免れるが、単なる事業上の先送りは認められない
  • 2022年5月9日より前の登録:施行後最初の更新から5年の使用期間が起算される

改正前のチリには使用義務がなく、「登録さえすれば永久に維持できる」制度でした。2027年以降は日本企業の休眠登録も取消請求の対象になるため、チリで使っていない商標の棚卸しと、使っている商標の証拠整理を今から始める必要があります。

8. 使用義務と更新

出願時に使用や使用意思の宣誓は不要で、更新時にも使用証明は求められません。使用が問われるのは、7章の不使用取消と、異議・無効で先行商標の権利者として主張する場面です。2027年以降は、先行商標を根拠に異議を申し立てた側が、相手方から不使用取消の反撃を受けることも想定されます。

更新は登録日から10年ごとで、満了前6か月から満了後6か月まで申請できます。満了後の更新には月20%の割増がかかり、6か月を過ぎると登録は失効して新規出願が必要です。各国の使用義務・更新の違いは各国の使用証明・更新・維持義務の世界比較で整理しています。

9. 権利行使:民事・刑事・税関・産業財産裁判所

  • 民事:商標権侵害の差止め・損害賠償は通常の民事裁判所(juzgado de letras en lo civil)に、略式手続で提起します。損害賠償は、権利者の実損、侵害者が得た利益、合理的なライセンス料のいずれかを権利者が選択して請求できます(108条)。侵害品の差押・販売禁止などの保全措置も申し立てられます
  • 刑事:登録商標の悪意による使用・模倣、模倣品の販売・輸入などは25〜1,000UTMの罰金(再犯は倍額)と侵害品の没収の対象です(28条〜29条)。チリの商標犯罪は拘禁刑ではなく罰金が中心です
  • 産業財産裁判所(TDPI):INAPIの決定(登録の拒絶・異議・無効・取消)に対する控訴を専属的に審理する専門裁判所で、電子訴訟と鑑定人の聴聞を導入し、直近では控訴件数が前年比20%増、30%の事件を6か月以内に処理しています
  • 税関:国家税関庁(Servicio Nacional de Aduanas)は2025年に705万点(約467万米ドル)の模倣品と、医薬品・化粧品・玩具など健康リスクのある製品178万点を押収しました。2026年初頭の「安全な夏」計画ではサン・アントニオ港だけで143万点が押収されています。権利者は税関に商標を登録し、疑義貨物の通関停止と真贋確認を求めることができます

10. 最近の判例と実務動向:最高裁2026年判決・EU協定・立体商標

Los Golpes事件(最高裁 2026年7月13日):バンド名に「Históricos」を付けても登録できない

1972年から活動するチリの人気バンド「Los Golpes」の元メンバーが「Los Golpes Históricos」を商標出願し、バンド側が異議を申し立てた事件。最高裁第二法廷は全員一致で、「Históricos」は識別力のある付加ではなく取るに足らない拡張にすぎず、20年以上バンドに在籍した出願人が1972年からの登録を知らないはずはないとして、出願人が既存グループの成果に便乗しようとしたと認定し、登録を拒絶しました。創業者名やグループ名を巡る紛争で、記述的な語を付け加えるだけでは先行商標との区別にならないことを示す判決です。

VIAL Y CÍA事件(最高裁 2026年4月):アクセント記号の違いでは混同を避けられない

法律事務所「VIAL Y CIA」と実質的に同一の「VIAL Y CÍA」の商標出願について、最高裁は上告を認めて登録を拒絶しました。両標識は図形的にも称呼的にもほぼ同一で、アクセント記号や点の有無といった細部の違いは混同を避けるのに十分でないと判断しています。チリの類否判断が、標識全体の外観・称呼の印象を重視する伝統的な基準に忠実であることを示しています。

そのほかの動向

  • チリ・EU暫定通商協定(2025年2月1日発効):ワイン・蒸留酒以外の農産品・食品を含む216のEU地理的表示がチリで保護対象になり、INAPIはこれらとの抵触を審査します。チーズ・ハム・菓子などの名称を含む商標は注意が必要です
  • 立体商標の審査基準:2022年の導入以降140件超が登録されましたが、INAPIは商品や容器の形状について本質的な識別力を厳格に審査しており、3方向以上の図面(JPEG、850×2,835ピクセル以上)の提出が求められます。意匠(最長15年・更新不可)と比べ、商標なら10年ごとに無期限で更新できる点が魅力です
  • デジタル資産・仮想商品:INAPIは仮想商品やNFT関連の指定について、第9類・第35類・第41類・第42類などでの正確な記載を求める運用を進めています
  • Aramco対Arauco:サウジアラビアの石油会社Aramcoの商標出願に対し、チリの林業大手Araucoが異議を申し立てた事件がTDPIで争われており、外国企業の著名ブランドと国内大手ブランドの衝突として注目されています

11. マドプロ指定と直接出願の使い分け

チリは2022年7月4日からマドリッド議定書の加盟国で、議定書5条(2)(b)(c)の宣言により暫定拒絶の通報期限は18か月、異議に基づく拒絶はその後も通報され得ます。8条(7)の宣言により個別手数料制(1区分CHF 210)を採用しています。指定を受けた国際登録は国内出願と同じ基準で審査され、官報に公告されて30営業日の異議の対象になります。

観点 マドプロでチリを指定 INAPIへ直接出願
庁費用(1区分)個別手数料CHF 210(+WIPO基本手数料)3UTM(約215,000ペソ)+官報公告費
現地代理人拒絶・異議がなければ不要。暫定拒絶への応答にはチリの代理人が必要チリ居住の代理人が必須。官報公告の手配も代理人が行う
言語英語で出願可(WIPOがスペイン語訳)スペイン語
結果判明18か月以内に暫定拒絶の有無が判明異議なしで平均4.5か月
官報公告INAPIが手配出願人が20営業日以内に手配(失念すると取下げ扱い)
セントラルアタック基礎登録が5年以内に消滅すると連動して失効(国内出願への転換は可)影響なし
向いているケース中南米の加盟国(ブラジル・メキシコ・コロンビア・チリ)を同時にカバーする文字・ロゴ商標スペイン語の記述性や先行商標で争いが予想される商標、商業施設商標・宣伝文句、早く登録したい商標

中南米を面で押さえる場合は、マドプロ加盟国(チリ・ブラジル・メキシコ・コロンビア)はマドプロで、非加盟のアルゼンチン・ペルーなどは直接出願で、という二本立てになります。スペイン語ブランドの語感は国ごとに異なるため、スペインやメキシコで問題のない語でもチリで俗語的な意味を持つことがあります。

12. 日本の商標制度との比較

項目 チリ(INAPI) 日本(特許庁)
先行商標との類似の審査職権審査あり(外国での周知商標も考慮)職権審査あり
公告出願人が官報に公告(受理から20営業日以内)特許庁が公開公報を発行
異議登録前・公告から30営業日・弁護士必須の争訟手続登録後・公報から2か月・書面審理
登録までの期間平均4.5か月(異議なし)、約27か月(異議あり)6〜8か月程度(早期審査あり)
不使用取消の猶予5年(2027年5月9日から請求可・部分取消可)3年
無効の期限登録から5年(悪意は無期限)一部理由につき登録から5年(除斥期間)
存続期間登録日から10年登録日から10年
出願庁費用(1区分)3UTM(約215,000ペソ、約3.4万円)+公告費出願12,000円+8,600円、登録料32,900円
不服審査産業財産裁判所(TDPI)→最高裁特許庁審判→知財高裁→最高裁
刑事罰罰金25〜1,000UTM(拘禁刑なし)10年以下の拘禁刑・1,000万円以下の罰金
出願件数(2025年)約6.5万件(国内出願人73%)約13万件前後

13. 日本企業がチリ出願で押さえるべき実務ポイント

  1. 官報公告の期限(受理から20営業日)を代理人と確認する:出願人側の手配漏れで出願が取下げ扱いになる、チリ特有の落とし穴。
  2. 先行商標を理由とする拒絶に備えて出願前調査を行う:INAPIは類似商標を職権で拒絶する。調査で見つけた先行商標が使われていなければ、2027年以降は不使用取消で排除できる。
  3. 2027年5月の不使用取消解禁に向けて棚卸しをする:チリで使っていない登録は取消請求の対象になる。使っている商標は請求書・カタログ・現地サイトの証拠を商品ごとに整理する。
  4. ライセンシー・代理店の使用を契約と証拠で裏付ける:権利者の同意を得た使用は権利者の使用と認められるが、同意と使用の事実を示す書類が必要。
  5. 異議を受けたら早期和解を検討する:争訟に入ると平均27か月。共存合意や指定商品の限定で事業開始の遅れを防ぐ。
  6. 食品・ワインの商標はEU地理的表示と照合する:2025年からEUの216の地理的表示が保護対象。
  7. 先取り登録には悪意の無効請求を使う:出訴期限がなく、日本での周知性が根拠になる。バンド名事件のように「知っていたはず」の事情が悪意の認定に効く。
  8. マドプロ加盟国と非加盟国を分けて中南米の出願計画を組む:チリはマドプロで指定できるが、官報公告の手配や代理人費用の面で直接出願との差は小さい。

よくある質問(FAQ)

Q1. 登録までどのくらいかかりますか?

異議も拒絶理由もなければ、2024年の平均で出願から4.5か月で登録査定に至り、登録料の納付後に登録されます。異議を受けると争訟手続になり、平均27か月かかります。マドプロ指定の場合は18か月以内に暫定拒絶の有無が判明します。

Q2. 費用はいくらかかりますか?

庁費用は1区分3UTM(出願時1UTM、登録時2UTM。2026年9月で約215,000ペソ、約3.4万円)で、官報公告費が別途約15,000ペソかかります。更新は6UTMです。外国企業はチリ居住の代理人が必須なので、その費用が加わります。マドプロ指定なら個別手数料CHF 210/区分です。中小企業はINPIT外国出願補助金で費用の1/2の助成を受けられる場合があります。

Q3. 官報への公告を忘れるとどうなりますか?

INAPIが出願を受理してから20営業日以内に出願人が官報に公告しないと、出願は取り下げたものとみなされ、最初から出願し直す必要があります。マドプロ指定の場合はINAPIが公告を手配するためこの問題は生じません。直接出願の場合は、現地代理人に公告手配までを委任してください。

Q4. チリで登録済みの商標を使っていません。取り消されますか?

2027年5月9日以降、登録(または2022年5月以降の最初の更新)から5年間チリで真正な使用がない商標は、正当な利益を持つ第三者の請求で取り消され得ます。INAPIが職権で取り消すことはありません。取消請求を受けたら、権利者が使用を立証する必要があります。使う予定がない登録は、更新料を払い続けるより、防御用として維持する価値があるかを見直す時期です。

Q5. 日本ブランドをチリで先取り登録されました。

官報公告から30営業日以内なら、周知商標(国内外での周知性)や悪意を理由に異議を申し立てます。登録後は、登録から5年以内なら20条違反を理由とする無効を、悪意があれば期限なく無効を請求できます。2027年以降は不使用取消も使えます。いずれもチリの弁護士による代理が必須で、INAPIの決定はTDPI、最高裁へと争えます。

Q6. 模倣品がチリに輸入されています。

税関に商標を登録して疑義貨物の通関停止を求めるのが最も早い手段で、チリ税関は2025年に705万点の模倣品を押収しています。国内流通品には民事裁判所への差止め・損害賠償請求(実損・侵害者利益・合理的ロイヤルティから選択)と、刑事告発(罰金25〜1,000UTM・没収)を組み合わせます。

まとめ

チリの商標制度は、INAPIが先行商標まで審査し、異議のない出願は4.5か月で登録される、中南米では最も整備された制度の一つです。一方で、出願人自身による官報公告、弁護士必須の争訟型の異議、そして2027年5月に解禁される不使用取消という、日本企業が見落としやすい仕組みがあります。マドプロ加盟で出願ルートの選択肢が広がった今、官報公告の期限管理、先行商標調査、2027年に向けた休眠登録の棚卸しと使用証拠の整理、EU地理的表示との照合を運用に組み込むことが、チリでのブランド保護の要諦です。

各国の商標制度は世界の商標制度ガイドをご覧ください。

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出典・参考文献

本記事は、以下の一次資料および専門家による解説を基に作成しています(いずれも2026年9月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。

法令・公的機関の資料

  1. 産業財産法(Ley 19.039)統合版(国会図書館 Ley Chile)/商標の定義(19条)、拒絶理由(20条)、官報公告と30営業日の異議、存続期間10年と更新(24条)、無効の出訴期限5年と悪意の例外(27条)、不使用取消(27条の2)、刑事罰(28条〜29条)、損害賠償の選択(108条)の根拠。
    https://www.bcn.cl/leychile/navegar?idNorma=30406
  2. INAPI「¿Cómo registrar una marca en Chile? Guía práctica」(2025年11月)/出願手続の各段階、受理から20営業日以内の官報公告、30営業日の異議、争訟手続での弁護士必須、手数料(1UTM+2UTM、60日以内の納付)、更新(満了前後6か月)、外国出願人の代理人要件、取消・無効の概要の根拠。
    https://www.inapi.cl/docs/default-source/2025-doc/home/gu%C3%ADa-inapi_marcas-(1).pdf?sfvrsn=a12ca5b3_1
  3. INAPI「Tasas asociadas al registro de marcas」(手数料表)/5章の手数料表(出願1UTM・登録2UTM・更新6UTM+月20%割増・記録1UTM・控訴2UTM・宣伝文句1区分扱い)の根拠。
    https://www.inapi.cl/docs/default-source/default-document-library/ii_anexo_tasas.pdf?sfvrsn=513178fd_0
  4. INAPI「Frequently Asked Questions – Trademarks」(英語FAQ)および「Marcas – Para informarse」/登録できる標識(非伝統的商標を含む)、外国居住者の代理人要件、官報公告費約15,000ペソ、TDPIへの15営業日以内の控訴、更新期間の根拠。
    https://www.inapi.cl/en/frequently-asked-questions/trademarks
    https://www.inapi.cl/marcas/para-informarse
  5. INAPI「Directrices – Procedimiento de nulidad de registro」(無効手続の審査ガイドライン)/無効の出訴期限5年と悪意の例外(27条)、パリ条約6条の2との整合の根拠。
    https://www.inapi.cl/repositorio/directrices/marcas/capitulos/VD_Procedimiento_Nulidad.pdf
  6. INAPI「Reporte INAPI 2025」(2025年報告・2024年実績)/異議なし出願の平均処理期間4.5か月(前年5.7か月)、初回アクション0.39か月、争訟案件27.2か月、2024年の異議決定4,711件、マドプロ指定+11.8%、AI分類支援の根拠。
    http://www.inapi.cl/docs/default-source/2025-doc/cuenta-publica/20250724-inapi_reporte_2025-vf-para-publicar-en-cuenta-p%C3%BAblica-(1)-(1).pdf?sfvrsn=e6ebcb7f_1
  7. 経済・振興・観光省「Residentes traccionan las solicitudes de marcas en el país con 73% del total」(2026年2月18日)/2025年の商標出願64,508件(+13.1%)、国内出願人48,590件(73%)、外国出願人の上位国、区分別上位の根拠。
    https://www.economia.gob.cl/2026/02/18/residentes-traccionan-las-solicitudes-de-marcas-en-chile-con-73-del-total-y-foco-en-servicios-escalables.htm
  8. 内国歳入庁(SII)「UTM – UTA – IPC 2026」/2026年9月の1UTM=71,721ペソの根拠。
    https://www.sii.cl/valores_y_fechas/utm/utm2026.htm
  9. WIPO マドリッド制度「Declarations made by Members」および「Individual Fees」/チリの18か月の拒絶通報期限(5条(2)(b)(c))と個別手数料(1区分CHF 210、更新CHF 314、2026年8月23日改定)の根拠。
    https://www.wipo.int/en/web/madrid-system/members/declarations
    https://www.wipo.int/madrid/en/fees/ind_taxes.html
  10. 欧州委員会「The EU-Chile Interim Trade Agreement (ITA) explained」/2025年2月1日発効の暫定通商協定で216のEU地理的表示がチリで保護される点の根拠。
    https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-relationships-country-and-region/countries-and-regions/chile/eu-chile-agreement/eu-chile-interim-trade-agreement-ita-explained_en
  11. 産業財産裁判所(TDPI)公式サイト/TDPIの管轄、電子訴訟、鑑定聴聞、控訴件数20%増・6か月以内処理30%の根拠。
    https://www.tdpi.cl/

実務ガイド・専門家による解説

  1. Diario Financiero「Marcas registradas sin uso podrán caducar desde 2027」/不使用取消の解禁日(2027年5月9日)、最初の対象(2022年登録37,688件・更新19,243件)、請求人適格、INAPIが職権で取り消さないこと、権利者の立証責任、使用証拠の例、正当な理由、部分取消の根拠。
    https://www.df.cl/economia-y-politica/politica/marcas-registradas-sin-uso-podran-caducar-desde-2027-en-que-consiste-el
  2. ANDA「Caducidad de marcas en Chile: claves para 2027」/2022年5月9日以前の登録は施行後最初の更新から5年を起算すること、ライセンシー・代理店の使用の扱い、使用証拠の整理の根拠。
    https://anda.cl/caducidad-marcas-chile-2027-prueba-uso/
  3. Albagli Zaliasnik(az)「az Alert | Ley Corta de INAPI – Declaración de caducidad por falta de uso de marcas」および「What changes with INAPI's Short Law: the importance of registering three-dimensional trademarks in Chile」/法律21.355の施行(2022年5月9日)、不使用取消の要件、立体商標の登録要件(3方向の図面・JPEG・850×2,835ピクセル)と登録実績140件超、意匠との比較の根拠。
    https://www.az.cl/az-alert-ley-corta-de-inapi-declaracion-de-caducidad-por-falta-de-uso-de-marcas/
    https://www.az.cl/en/what-changes-with-inapis-short-law-the-importance-of-registering-three-dimensional-trademarks-in-chile/
  4. Portal Portuario「Aduanas incauta 1,4 millones de productos ilegales que intentaron ingresar a Chile por Puerto de San Antonio」/2025年の税関押収(模倣品7,050,936点・約467万米ドル、健康リスク製品1,777,075点)と2026年「安全な夏」計画の押収1,438,039点の根拠。
    https://portalportuario.cl/aduanas-incauta-14-millones-de-productos-ilegales-que-intentaron-ingresar-a-chile-por-puerto-de-san-antonio/

判例・実務動向

  1. BioBioChile「Corte Suprema falla a favor de Los Golpes en intento de exintegrante por inscribir marca」(2026年7月13日)/最高裁のLos Golpes事件(「Históricos」の付加は識別力のない拡張、元メンバーの便乗意図)の根拠。
    https://www.biobiochile.cl/noticias/artes-y-cultura/actualidad-cultural/2026/07/13/corte-suprema-falla-a-favor-de-los-golpes-en-intento-de-exintegrante-por-inscribir-marca.shtml
  2. Diario Constitucional「Corte Suprema rechaza registro de marca VIAL Y CÍA por riesgo de confusión con estudio jurídico VIAL Y CIA」(2026年4月22日)/最高裁のVIAL Y CÍA事件(アクセント記号等の細部の差では混同を避けられない)の根拠。
    https://www.diarioconstitucional.cl/2026/04/22/corte-suprema-rechaza-registro-de-marca-vial-y-cia-por-riesgo-de-confusion-con-estudio-juridico-vial-y-cia/
  3. La Tercera「Aramco vs. Arauco: la batalla por el registro de marca escala al Tribunal de Propiedad Industrial」/AramcoとAraucoの商標紛争がTDPIで争われている点の根拠。
    https://www.latercera.com/pulso-pm/noticia/aramco-vs-arauco-la-batalla-por-el-registro-de-marca-escala-al-tribunal-de-propiedad-industrial/
  4. 日本貿易振興機構(JETRO)「チリ」国・地域情報/日チリEPA(2007年)と冒頭のチリ経済・日本企業の進出状況に関する背景情報。
    https://www.jetro.go.jp/world/cs_america/cl/

※本記事は上記の資料を基に、2026年9月時点の情報で一般的な情報提供を目的として作成しています。手数料(UTM換算額)・運用・判例は変更されることがあり、スペイン語原文と英訳の間に差異がある場合はスペイン語原文が優先されます。個別案件の具体的判断には、専門家へのご相談を推奨します。