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コロンビア商標制度の実務ガイド|アンデス共同体決定486号・SICは先行商標も審査・異議30営業日(アンデス異議)・不使用3年・2025年の審査遅延を弁理士が徹底解説
コロンビアは人口約5,200万人と中南米で3番目に大きい市場を持ち、コーヒー・切り花・石炭などの輸出国であると同時に、自動車・二輪車・医薬品・化粧品・食品の分野で日本企業の販売拠点が置かれている国です。2025年の新車販売は前年比26%を超える伸びを示し、日本車・日本製部品の存在感も高まっています。こうした中で、コロンビアでの商標保護の相談が増えています。
コロンビアの商標制度は、国内法ではなくアンデス共同体(CAN)の決定486号を直接の根拠とし、ペルー・エクアドル・ボリビアと共通のルールで運用されています。産業商業監督庁(SIC)が先行商標との抵触まで職権で審査する審査主義でありながら、他のアンデス加盟国の商標権者も異議を申し立てられる「アンデス異議」、加盟国のどこかで使っていれば不使用取消を免れる使用要件、SICが裁判所として侵害訴訟を裁く司法権限など、日本企業が見落としやすい独自ルールが多くあります。さらに2025年にはSICの審査遅延が深刻化し、最初の判断まで2〜3年かかる状況が報告されています。本記事では、決定486号、SICの2026年公式手数料、WIPOとSICの統計、2024〜2026年の判断例を一次資料として、出願から異議・取消・権利行使・マドプロの使い分けまでを弁理士が実務目線で整理します。
この記事のポイント
- 根拠法はアンデス共同体決定486号(2000年)。管轄は産業商業監督庁(SIC)で、絶対的・相対的拒絶理由の双方を職権審査。公報公告から30営業日が異議期間で、ペルー・エクアドル・ボリビアの商標権者も異議可(アンデス異議)
- 庁費用は1区分134万8,500ペソ(電子出願、約340米ドル)、追加区分67万4,000ペソ(2026年)。登録料は不要で、多区分出願可。存続期間は登録から10年
- 2022年に約6か月だった審査期間は、2025年には最初の判断まで2〜3年に長期化。WIPO統計では2024年の登録遅延366日。監視と早めの出願が必須
- 不使用取消は3年(アンデス加盟国のどこかでの使用で足りる。部分取消可)。無効はSICではなく国家評議会(Consejo de Estado)で争い、相対的理由は5年、絶対的理由は無期限
- 侵害訴訟はSICの司法部門が口頭手続で裁き、法定損害賠償制度あり。刑事は4〜8年の拘禁刑。マドプロ加盟(2012年)、拒絶通報18か月、個別手数料CHF 276
目次
- コロンビア商標制度の全体像:アンデス共同体決定486号とSIC
- 2025年の審査遅延と出願動向
- 保護対象と拒絶理由:SICは先行商標も審査する
- 出願手続の流れと審査期間
- 費用一覧(SIC公式手数料・2026年)
- 異議申立:公告後30営業日・アンデス異議・不使用の抗弁
- 不使用取消(3年)と無効(国家評議会)
- 使用義務と更新:アンデス域内での使用が有効
- 権利行使:SICの司法権限・法定損害賠償・刑事・税関
- 最近の判断例:Frisby事件・SICの侵害判断・周知商標
- マドプロ指定と直接出願の使い分け
- 日本の商標制度との比較
- 日本企業がコロンビア出願で押さえるべき実務ポイント
- よくある質問(FAQ)
- 出典・参考文献
1. コロンビア商標制度の全体像:アンデス共同体決定486号とSIC
LEGAL FRAMEWORK
アンデス共同体決定486号「産業財産共通制度」(2000年12月施行)+コロンビア国内の手続規則(政令1074/2015、SIC通達)+一般民事訴訟法(法律1564/2012、SICの司法権限)+刑法典306条。管轄はSIC(商工観光省所属)。先願主義・絶対的+相対的理由の職権審査・登録前異議型・多区分可・マドプロ加盟(2012年8月29日)
コロンビアの商標法の実体規定は、コロンビア・ペルー・エクアドル・ボリビアの4か国からなるアンデス共同体(Comunidad Andina:CAN)の決定486号にあります。決定486号は加盟国に直接適用され、国内法はこれに反することができません。解釈に争いがあれば、エクアドル・キトのアンデス共同体司法裁判所(TJCA)が先決裁定(interpretación prejudicial)で統一解釈を示し、国内の裁判所はこれに拘束されます。日本企業にとっては、コロンビアで学んだルールがペルー・エクアドルにもほぼそのまま通用する反面、他の加盟国の商標権者が異議を申し立てられるなど、域内を一体として考える必要があります。
管轄は商工観光省に属する産業商業監督庁(Superintendencia de Industria y Comercio:SIC)で、商標・特許・意匠の登録に加え、消費者保護・競争法・データ保護も所管する巨大な行政機関です。SICは登録官庁であると同時に、2012年の一般民事訴訟法で付与された司法権限により、商標侵害・不正競争の訴訟を裁判所として審理します(9章)。パリ条約・TRIPS・ニース協定の加盟国で、2012年8月29日からマドリッド議定書が適用されています。
2. 2025年の審査遅延と出願動向
WIPOの2024年統計によると、コロンビアの商標出願は52,885区分(前年比+4.7%)で、国内出願人が33,566区分(63.5%)、外国出願人が19,319区分(36.5%)です。外国出願人の出身国は米国21.1%、中国12.8%、スイス6.1%、スペイン5.7%、ドイツ5.3%の順で、日本は上位に入っていません。2024年の登録は39,951区分、有効な登録商標は383,811件で、審査官1人あたりの出願は695.9件、登録までの遅延は366日と、WIPOのデータでも処理の詰まりが表れています。
2025年の遅延は深刻:EUのIPヘルプデスクの2025年7月の報告によると、SICの商標審査は2022年には最初の実体判断まで約6か月でしたが、2025年には異議の有無や審査官の稼働状況により2〜3年に長期化しました。2025年1〜4月に受理した16,781件(国内59%・外国41%)に対して同期間の決定は4,114件で、約75%が未処理という状況です。SIC自身も2025年の年次報告で「過去最多の65,000区分超を決定」と処理の加速を強調していますが、日本企業はコロンビアでの登録には1〜2年以上かかる前提で事業計画を立てる必要があります。
外国出願人の要件
外国企業はコロンビアの弁護士を代理人に選任して出願します。委任状は認証・アポスティーユ不要で、出願から2か月以内(提出がなければ60営業日の補正命令)に提出します。手続言語はスペイン語で、優先権証明書のスペイン語訳は優先日から9か月以内に提出します。指定商品・役務は区分見出し(クラスヘディング)の記載が認められず、具体的に列挙する必要があります。
3. 保護対象と拒絶理由:SICは先行商標も審査する
決定486号134条は、市場で商品・役務を識別でき、図形的に表現できる標識を商標として認め、文字・図形・立体・色彩の組合せ・音・匂いなどが登録できます。商標のほかに、商業スローガン(lema comercial)を登録商標に紐付けて登録する制度、商号(nombre comercial)と店舗標識(enseña)の登記制度、団体商標・証明商標、原産地呼称の制度があります。
SICが職権で審査する拒絶理由
- 絶対的理由(135条):識別力の欠如、商品の通常の形状・機能的形状、記述的・普通名称的な標識、色彩単独、誤認を生じる標識、公序良俗違反、国旗・紋章、保護された原産地呼称・地理的表示との抵触など
- 相対的理由(136条):先行する出願・登録商標と同一・類似で混同または連想のおそれがある標識、保護された商号・店舗標識、登録スローガン、他人の氏名・肖像・仮名、著作権・意匠権、そして周知標識(signo notoriamente conocido)の複製・模倣・翻訳・音訳
- 不正競争目的の出願(137条):不正競争行為を実行・促進・強化するために出願されたと推認できる合理的な兆候があれば、SICは登録を拒絶できる
相対的理由まで職権で審査する点は、先行商標を審査しないアルゼンチンとは対照的で、チリや日本に近い設計です。周知商標は決定486号224条〜236条で手厚く保護され、加盟国のいずれかで関連する需要者層に知られていれば周知と認められ(224条)、知名度の程度、使用・宣伝の期間と地理的範囲、販売実績などの要素(228条)で判断されます。周知性は推定されず、これらの要素に沿った具体的な証拠(販売実績・広告・市場調査など)で立証する必要があります。
4. 出願手続の流れと審査期間
PROCEDURE
電子出願(SIPI) → 方式審査(15営業日、不備は60営業日で補正) → 産業財産公報(Gaceta)に公告 → 30営業日の異議期間(+30営業日の証拠期間) → 実体審査(絶対的・相対的理由) → 登録決定(登録料なし) → 不服は10営業日以内に上訴 → 登録から10年。2025年の実態は最初の判断まで1〜3年
- 出願:SICの産業財産電子窓口(SIPI)から出願します。決定486号は1出願1区分を原則としますが、コロンビアの国内規則は多区分出願を認めており、追加区分ごとに手数料が加算されます。優先権はパリ条約に基づき日本出願から6か月以内に主張できます。
- 方式審査・公告:SICは受理から15営業日以内に方式審査を行い、不備があれば60営業日の補正期間を与えます。方式を満たした出願は産業財産公報(Gaceta de la Propiedad Industrial)に公告されます。
- 異議期間:公告から30営業日が異議期間で、申立人は1回に限りさらに30営業日の証拠提出期間を求められます(146条)。
- 実体審査:異議期間の経過後(異議があればその答弁後)、SICが絶対的・相対的拒絶理由を職権で審査し、異議に対する判断とともに登録の許否を決定します(150条)。2022年頃はここまで約6か月でしたが、2025年は1〜3年かかっています。
- 登録・不服申立:登録が認められると登録証が発行されます。登録料はありません。拒絶決定に対しては通知から10営業日以内に上訴(recurso de apelación)を申し立て、SICの副長官が再審査します。それでも拒絶なら、行政訴訟として国家評議会(Consejo de Estado)で争います。
- 存続期間・更新:登録日から10年(152条)で、更新は満了前6か月から申請でき、満了後6か月の猶予期間は割増手数料で更新できます(153条)。
5. 費用一覧(SIC公式手数料・2026年)
SICの庁費用はコロンビアペソ建てで毎年改定され、2026年はSIC決議77243号(2025年)により前年比5.19%引き上げられました。電子手続は紙手続より安く設定されています(1米ドル≒4,000ペソ、1ペソ≒0.037円で換算すると、1区分の電子出願は約340米ドル・約5万円)。個人・零細中小企業・教育機関・公的機関には割引があります。
| 項目 | 庁費用(ペソ、電子手続) | 備考 |
|---|---|---|
| 出願(1区分) | 1,348,500 | 紙手続は1,638,500。登録料は不要 |
| 追加区分(同一出願内) | 674,000 | — |
| 異議申立 | 616,000 | — |
| 更新(1区分) | 1,348,500 | 猶予期間内は割増 |
不使用取消請求、移転・ライセンスの記録、上訴などの手数料はSIC電子窓口の手数料表(決議77243号の別表)に定められています。日本からマドプロでコロンビアを指定する場合は、コロンビアの個別手数料をWIPOにスイスフランで納付します。2026年8月23日改定の金額は1区分CHF 276・追加区分CHF 138、更新は1区分CHF 151・追加区分CHF 74(猶予期間内はCHF 206/101)です。国内出願の庁費用とほぼ同水準で、現地代理人費用が原則不要な分だけマドプロが安くなります。複数国出願の費用比較はマドプロの費用とメリットをご覧ください。
補助金の活用:中小企業のコロンビアへの商標出願費用は、INPIT外国出願補助金(費用の1/2、商標1出願あたり上限60万円)の対象になります。
6. 異議申立:公告後30営業日・アンデス異議・不使用の抗弁
- 期間・手数料:公報公告から30営業日以内に、正当な利益を持つ者が理由を付して1回に限り申し立てます(146条)。庁費用は616,000ペソ。申立人は1回に限り30営業日の証拠提出期間の延長を求められます。根拠のない濫用的な異議は国内法で制裁の対象になり得ます
- アンデス異議(147条):コロンビアに商標を持たなくても、ペルー・エクアドル・ボリビアで同一・類似の商標を登録・先願している者は異議を申し立てられます。ただし申立人は、コロンビア市場での現実の利益を、異議申立と同時にコロンビアへ商標出願することで示さなければなりません。日本企業がペルーで先に登録している場合、コロンビアの先取り出願にこの制度で対抗できます
- 出願人の答弁:SICは異議を出願人に通知し、出願人は30営業日以内に反論と証拠を提出します(148条)。こちらも1回に限り30営業日の延長が可能です
- 不使用の抗弁:先行商標が登録から3年を経過していれば、出願人は異議の中で先行商標の不使用取消を防御として請求できます(165条)。取消が認められれば、出願人は先行商標の抹消後に優先的な登録権を得ます(168条)
- 決定・不服申立:SICは異議と登録の許否を一つの決定で判断し、不服があれば10営業日以内に上訴、その後は国家評議会での行政訴訟になります
公告の監視はアンデス4か国で:コロンビアの登録商標は、逆にペルー・エクアドル・ボリビアの後願に対する異議の根拠にもなります(各国でアンデス異議を申し立て、同時にその国へ出願する必要があります)。アンデス域内で事業をする日本企業は、4か国の公報を一体で監視し、異議期間30営業日以内に「異議+現地出願」を判断する体制が必要です。
7. 不使用取消(3年)と無効(国家評議会)
不使用取消(cancelación por no uso):SICで請求
登録商標が、請求前の3年間連続して、権利者・ライセンシー・その他の許諾を受けた者によってアンデス加盟国の少なくとも1か国で正当な理由なく使用されていない場合、利害関係人の請求によりSICが取り消します(165条)。使用の立証責任は権利者にあり(167条)、請求書・会計書類・監査証明などで販売の規則性と数量を示します。加盟国から輸出される商品にのみ使う場合も使用と認められます(166条)。一部の商品・役務についてのみ使用がある場合は部分取消になります。取消を得た請求人は、抹消された商標について優先的な登録権を持ちます(168条)。
無効(nulidad):国家評議会で請求
登録の無効は、SICではなく国家評議会(Consejo de Estado)第一部に対する行政訴訟(SICの登録決定の取消訴訟)として請求します。絶対的理由(134条・135条違反)による無効は期限なく、相対的理由(136条違反・悪意)による無効は登録から5年以内に請求する必要があります(172条)。国家評議会は必ずアンデス共同体司法裁判所に先決裁定を求めるため、判決までは数年かかります。日本ブランドの先取り登録を争う場合、悪意や周知性を理由とする無効は5年の期限に注意が必要です。
| 手続 | 窓口 | 期限・特徴 |
|---|---|---|
| 不使用取消 | SIC | 3年の不使用。加盟国のどこかでの使用で足りる。部分取消可。異議の防御としても請求可 |
| 無効(絶対的理由) | 国家評議会 | 期限なし。誰でも請求可 |
| 無効(相対的理由・悪意) | 国家評議会 | 登録から5年以内。周知商標の悪意の模倣もこの類型 |
8. 使用義務と更新:アンデス域内での使用が有効
出願時に使用や使用意思の宣誓は不要で、更新時にも使用証明は求められません。使用が問われるのは7章の不使用取消と、異議・侵害訴訟で先行商標を主張する場面です。猶予期間は3年と日本と同じですが、コロンビアで使っていなくてもペルー・エクアドル・ボリビアのいずれかで使っていれば取消を免れる点が独特です。アンデス域内に販売拠点を持つ日本企業は、どの国での使用証拠がどの国の登録を守るかを整理しておくと、防御が楽になります。
更新は登録日から10年ごとで、満了前6か月から申請でき、満了後6か月は割増手数料で更新できます。2026年の更新料は1区分1,348,500ペソです。各国の使用義務・更新の違いは各国の使用証明・更新・維持義務の世界比較で整理しています。
9. 権利行使:SICの司法権限・法定損害賠償・刑事・税関
SICが裁判所として侵害を裁く
コロンビアでは、2012年の一般民事訴訟法(法律1564号)24条により、SICの司法問題担当部門(Delegatura para Asuntos Jurisdiccionales)が、通常の民事裁判所と並んで商標侵害・不正競争の訴訟を裁判所として審理します。手続は弁護士による訴状提出から始まる口頭手続で、SICの不正競争・産業財産グループが差止め・損害賠償・侵害品の廃棄などを命じます。専門性が高く、民事裁判所より迅速なため、権利者の多くがSICを選択しています。SICの判決に対する控訴は民事の高等裁判所が扱います。
- 損害賠償:決定486号243条により、権利者の損害(積極損害・逸失利益)、侵害者の利益、または合理的なライセンス料を基準に算定します。これに加えてコロンビアには法定損害賠償(indemnizaciones preestablecidas)制度があり、権利者は損害の立証に代えて、侵害された商標ごとに法定最低賃金の一定倍数(政令で3〜100か月分と定められています)の賠償を選択できます。2024年6月のSIC判決(10章)でもこの制度が適用されました
- 保全措置:245条により、提訴前・提訴時・提訴後に、侵害の停止、証拠の確保、侵害品の差押などの保全措置を申し立てられます
- 刑事:刑法典306条により、登録商標などの産業財産権を不正に使用する行為、およびその商品を販売・流通・輸送・取得する行為は4年〜8年の拘禁刑と法定最低月額賃金の26.66〜1,500倍の罰金の対象です。中南米でも重い部類の刑事罰で、模倣品対策では告訴が実効的な手段になります
- 税関:決定486号250条と国内の税関規則(政令1165/2019第17編)に基づき、権利者は国税関税庁(DIAN)に侵害疑義品の通関停止を申請できます。DIAN・税関警察との連携により、輸入段階での差止めと刑事手続への移行が可能です
10. 最近の判断例:Frisby事件・SICの侵害判断・周知商標
Frisby事件(2025〜2026年):コロンビアの国民的ブランドがスペインで商標を失う
コロンビアのフライドチキンチェーンFrisbyは、2025年5月、スペインの企業Frisby España S.L.が「Frisby」をEUで出願し、類似のロゴと店舗デザインでスペインに進出したことを知り、アリカンテの裁判所で仮処分を得ました。しかし2026年3月27日にアリカンテ州裁判所はこの仮処分を取り消し、2026年4月23日にはスペイン特許商標庁(OEPM)がFrisbyコロンビアのスペイン商標3件を不使用(5年)を理由に取り消しました。アプリのダウンロード数やSNS、在スペインのコロンビア人の認知は、スペインでの現実の商業的使用の証明にならないと判断されています。Frisbyコロンビアは上訴し、EUIPOでの手続も継続中ですが、「登録しても使わなければ守れない」ことを示す象徴的な事件として、コロンビア企業だけでなく海外展開する日本企業にも教訓を与えています。スペインの制度はスペイン商標制度の実務ガイドで解説しています。
SIC司法部門の侵害判断(2024年6月20日、SUMICOL事件)
建材メーカーSuministros de Colombia(SUMICOL)が、自社の登録商標と称呼・観念・綴りが同一の標識を商品に付した被告を訴えた事件で、SICの司法部門は、侵害の成立には(1)被告が標識を商品・包装・ラベルに「付する・使用する」行為を行ったこと、(2)それが商取引での使用であること、(3)標識の同一性・類似性と混同のおそれ、を立証する必要があると整理し、侵害を認めて法定損害賠償制度に基づく賠償を命じました。SICが裁判所として侵害要件を明確にした例として、実務でよく引用されます。
周知商標の立証(決定486号224条〜236条)
決定486号は、アンデス加盟国のいずれかで関連する需要者層に知られている標識を周知標識として保護し(224条)、その認定には知名度の程度、使用と宣伝の期間・範囲・地理的広がり、販売実績、投資額などの要素を総合的に考慮すると定めています(228条)。周知性は自動的には認められないため、日本で著名なブランドであっても、コロンビアで周知性を主張するには、アンデス域内での認知を示す市場調査や販売・広告の証拠を準備する必要があります。周知標識の権利者は、模倣・翻訳・音訳を含む同一・類似標識の登録と使用に対し、商品・役務の類否を問わず対抗できます(225条〜226条)。
11. マドプロ指定と直接出願の使い分け
コロンビアは2012年8月29日からマドリッド議定書の加盟国で、議定書5条(2)(b)の宣言により暫定拒絶の通報期限は18か月、8条(7)の宣言により個別手数料制(1区分CHF 276)を採用しています。アンデス4か国ではコロンビアだけがマドプロ加盟国で、ペルー・エクアドル・ボリビアは直接出願しかできません。指定を受けた国際登録は国内出願と同じ基準で審査され、公報に公告されて30営業日の異議の対象になります。
| 観点 | マドプロでコロンビアを指定 | SICへ直接出願 |
|---|---|---|
| 庁費用(1区分) | 個別手数料CHF 276(+WIPO基本手数料) | 1,348,500ペソ(約340米ドル) |
| 現地代理人 | 拒絶・異議がなければ不要。暫定拒絶への応答にはコロンビアの弁護士が必要 | コロンビアの弁護士が必須 |
| 言語 | 英語で出願可(WIPOがスペイン語訳) | スペイン語 |
| 結果判明 | 18か月以内に暫定拒絶の有無が判明(遅延の影響を受けにくい) | 2025年の実態は1〜3年 |
| 指定商品の記載 | 基礎出願に従う。区分見出しは拒絶されるため具体的な記載が必要 | コロンビア向けに具体的に調整できる |
| セントラルアタック | 基礎登録が5年以内に消滅すると連動して失効(国内出願への転換は可) | 影響なし |
| 向いているケース | 中南米の加盟国(ブラジル・メキシコ・チリ・コロンビア)を同時にカバーする文字・ロゴ商標 | スローガン・商号の登録、スペイン語の記述性で争いが予想される商標、アンデス異議と同時に出す出願 |
18か月の期限があるマドプロ指定は、SICの遅延の影響を比較的受けにくいという利点があります。中南米を面で押さえる場合は、マドプロ加盟国(コロンビア・ブラジル・メキシコ・チリ)はマドプロで、非加盟のアルゼンチン・ペルー・エクアドルなどは直接出願で、という二本立てになります。
12. 日本の商標制度との比較
| 項目 | コロンビア(SIC) | 日本(特許庁) |
|---|---|---|
| 根拠法 | アンデス共同体決定486号(4か国共通) | 商標法 |
| 先行商標との類似の審査 | 職権審査あり | 職権審査あり |
| 異議 | 登録前・公告から30営業日・他のアンデス加盟国の商標権者も可 | 登録後・公報から2か月 |
| 登録までの期間 | 2022年約6か月→2025年は1〜3年(遅延) | 6〜8か月程度(早期審査あり) |
| 不使用取消の猶予 | 3年(アンデス域内のどこかでの使用で足りる) | 3年(日本国内での使用) |
| 無効の窓口 | 国家評議会(行政訴訟)。相対的理由は5年、絶対的理由は無期限 | 特許庁の審判 |
| 存続期間 | 登録日から10年 | 登録日から10年 |
| 出願庁費用(1区分) | 1,348,500ペソ(約5万円、登録料なし) | 出願12,000円+8,600円、登録料32,900円 |
| 侵害訴訟 | SICが裁判所として審理(民事裁判所と選択)。法定損害賠償あり | 地方裁判所(東京・大阪に集中) |
| 刑事罰 | 4〜8年の拘禁刑+罰金 | 10年以下の拘禁刑・1,000万円以下の罰金 |
| 出願件数(2024年) | 52,885区分(外国出願人36.5%) | 約13万件前後 |
13. 日本企業がコロンビア出願で押さえるべき実務ポイント
- 登録に1〜3年かかる前提で早めに出願する:2025年のSICは深刻な遅延。事業開始の1〜2年前に出願し、マドプロ指定(18か月の期限あり)も検討する。
- アンデス4か国を一体で設計する:コロンビアで学んだルールはペルー・エクアドル・ボリビアにも通用する。ペルーでの登録がコロンビアの異議の根拠になり、域内どこかでの使用が不使用取消を防ぐ。
- 指定商品は区分見出しではなく具体的に記載する:区分見出しの記載は拒絶される。
- 4か国の公報を監視し、30営業日以内に「異議+現地出願」を判断する:アンデス異議には同時出願が必要。
- 先取り登録には期限を意識する:相対的理由・悪意による無効は登録から5年以内に国家評議会へ。不使用取消(3年)はSICで請求でき、取消後は優先的な登録権を得られる。
- 周知性はアンデス域内の証拠で立証する:日本での著名性だけでは足りない。現地の販売・広告・市場調査の記録を残す。
- 侵害にはSICの司法部門と法定損害賠償を使う:損害の立証が難しい案件でも、商標ごとの法定額を請求できる。悪質な模倣品には4〜8年の拘禁刑を伴う刑事告訴とDIANの水際措置を組み合わせる。
- 海外の登録も「使わなければ失う」:Frisby事件のとおり、登録した国で使用の証拠を残す運用を全社的に組み込む。
よくある質問(FAQ)
Q1. 登録までどのくらいかかりますか?
制度上は方式審査15営業日、公告、30営業日の異議期間、実体審査を経て登録され、2022年頃は約6か月でした。しかし2025年はSICの処理遅延により、最初の実体判断まで1〜3年かかる状況です。マドプロ指定なら18か月以内に暫定拒絶の有無が判明するため、期限の面では直接出願より見通しが立ちます。
Q2. 費用はいくらかかりますか?
庁費用は電子出願で1区分1,348,500ペソ(約340米ドル・約5万円)、追加区分674,000ペソで、登録料はかかりません(2026年)。更新は1区分1,348,500ペソです。外国企業はコロンビアの弁護士が必須なので、その費用が加わります。マドプロ指定なら個別手数料CHF 276(追加区分138)です。中小企業はINPIT外国出願補助金で費用の1/2の助成を受けられる場合があります。
Q3. ペルーで登録済みの商標をコロンビアで他社が出願しました。
アンデス異議(決定486号147条)が使えます。コロンビアの公報公告から30営業日以内に、ペルーの登録を根拠に異議を申し立て、同時にコロンビアへ同じ商標を出願してコロンビア市場での現実の利益を示します。異議が認められれば相手の出願は拒絶され、自社の出願が審査に進みます。
Q4. コロンビアで登録した商標をコロンビアでは使っていません。取り消されますか?
登録から3年間、アンデス加盟国のどこでも使っていなければ、第三者の請求でSICが取り消すことができます。逆に、ペルー・エクアドル・ボリビアのいずれかで使っていれば、コロンビアで使っていなくても取消を免れます。一部の商品・役務にしか使っていない場合は、残りの部分だけが取り消されます。
Q5. 日本ブランドをコロンビアで先取り登録されました。
公告から30営業日以内なら、周知性(アンデス域内での知名度の証拠が必要)や不正競争目的を理由に異議を申し立てます。登録後は、登録から5年以内に国家評議会へ無効(相対的理由・悪意)を請求します。相手が3年以上使っていなければ、SICへの不使用取消請求が最も早く、取消後は自社が優先的に登録できます。
Q6. 模倣品がコロンビアで売られています。何から始めるべきですか?
輸入品ならDIANへの水際措置の申請、国内流通品ならSICの司法部門への侵害訴訟(保全措置と法定損害賠償の請求を含む)が中心です。悪質な事案では刑法典306条に基づく刑事告訴(4〜8年の拘禁刑)が強い抑止力になります。いずれもコロンビアの弁護士を通じて行います。
まとめ
コロンビアの商標制度は、アンデス共同体決定486号に基づく4か国共通のルールと、登録官庁でありながら裁判所の役割も担うSICという、日本にはない構造を持っています。SICが先行商標まで審査する安心感がある一方、2025年の審査遅延は深刻で、登録に1〜3年かかる前提で早めに出願する必要があります。アンデス異議と域内使用のルールを活かして4か国を一体で設計し、周知性の証拠をアンデス域内で整え、侵害にはSICの司法権限・法定損害賠償・刑事告訴・水際措置を組み合わせること、そしてFrisby事件の教訓のとおり登録した国で使用の証拠を残すことが、コロンビアでのブランド保護の要諦です。
各国の商標制度は世界の商標制度ガイドをご覧ください。
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出典・参考文献
本記事は、以下の一次資料および専門家による解説を基に作成しています(いずれも2026年9月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。
法令・公的機関の資料
- アンデス共同体決定486号「Régimen Común sobre Propiedad Industrial」原文(アンデス共同体事務局)/商標の定義と絶対的・相対的拒絶理由(134条〜137条)、異議30日と証拠期間・アンデス異議・答弁(146条〜150条)、存続期間10年と更新・猶予6か月(152条・153条)、不使用取消3年・使用の定義・立証責任・優先的登録権(165条〜168条)、無効の期限(172条)、周知標識(224条〜228条)、損害賠償の算定基準(243条)、保全措置(245条)、水際措置(250条)の根拠。
https://www.comunidadandina.org/StaticFiles/DocOf/DEC486.pdf - SIC「Durante el trámite de marcas」(出願後の手続の案内)/方式審査15営業日、補正60営業日、公報公告、30営業日の異議、実体審査、10営業日以内の上訴、登録証の根拠。
https://www.sic.gov.co/marcas/durante-el-tramite - SIC電子窓口「Tasas signos distintivos – 2026」およびSIC決議77243号(2025年)/2026年の商標手数料(出願1,348,500/1,638,500・追加区分674,000・異議616,000・更新1,348,500)、5.19%の改定、割引対象の根拠。
https://sedeelectronica.sic.gov.co/temas/propiedad-industrial/tasas-marcas
https://normograma.com/keralty/compilacion/docs/resolucion_superindustria_77243_2025.htm - SIC「La SIC presenta sus principales logros en la Audiencia Pública de Rendición de cuentas 2025」/2024年11月〜2025年10月に65,000区分超の商標を決定した実績、8,441件の不服処理の根拠。
https://sedeelectronica.sic.gov.co/comunicado/la-sic-presenta-sus-principales-logros-en-la-audiencia-publica-de-rendicion-de-cuentas-2025 - SIC電子窓口「Grupo de Competencia Desleal y Propiedad Industrial」(司法問題担当部門)/一般民事訴訟法24条に基づくSICの司法権限、口頭手続、弁護士による訴え提起の根拠。
https://sedeelectronica.sic.gov.co/temas/asuntos-jurisdiccionales/que-hacemos/grupo-de-competencia-desleal-y-propieadad-industrial - WIPO「Intellectual property statistical country profile 2024 – Colombia」/2024年の商標出願52,885区分(+4.7%)、国内63.5%・外国36.5%、出身国別シェア、登録39,951区分、有効登録383,811件、審査官1人あたり695.9件、登録遅延366日の根拠。
https://www.wipo.int/edocs/statistics-country-profile/en/co.pdf - WIPO マドリッド制度「Declarations made by Members」および「Individual Fees」/コロンビアの18か月の拒絶通報期限と個別手数料(1区分CHF 276・追加区分138、更新151/74、猶予期間206/101、2026年8月23日改定)の根拠。
https://www.wipo.int/en/web/madrid-system/members/declarations
https://www.wipo.int/madrid/en/fees/ind_taxes.html - コロンビア刑法典306条(Leyes.co 条文)/産業財産権の不正使用に対する4〜8年の拘禁刑と法定最低月額賃金26.66〜1,500倍の罰金の根拠。
https://leyes.co/codigo_penal/306.htm
実務ガイド・専門家による解説
- EU IP Helpdesk「A General Overview of the Colombian Intellectual Property Landscape in 2025」(2025年7月16日)/2022〜2025年のSICの制度変更、2025年1〜4月の出願16,781件(国内59%)と決定4,114件、最初の判断まで2022年約6か月→2025年2〜3年という遅延の根拠。
https://intellectual-property-helpdesk.ec.europa.eu/news-events/news/general-overview-colombian-intellectual-property-landscape-2025-2025-07-16_en - IP Coster「Trademark registration in Colombia – IP Guide」/コロンビアの弁護士による代理、委任状の認証不要と提出期限、優先権証明書の期限(9か月)、多区分出願と区分見出しの不可、60営業日の補正、異議30営業日と延長、登録料なし、更新の猶予、不使用取消3年の根拠。
https://ip-coster.com/IPGuides/trademark-colombia - Ramos Abogados「Tasas actualizadas SIC 2026」および Cárdenas Vega「¿Cuánto cuesta registrar una marca en Colombia?」/2026年の手数料額と割引対象の根拠。
https://www.ramosabogados.co/uncategorized/tasas-actualizadas-sic-2026-cuanto-cuestan-los-tramites-de-propiedad-industrial-en-colombia/
https://www.cardenasvega.com/index.php/cardenas-vega/boletin-intelectual/item/cuanto-cuesta-registrar-marca - Lloreda Camacho & Co.「Medidas en frontera y su papel en la protección marcaria」/DIANへの水際措置の申請(政令1165/2019第17編)と税関警察との連携の根拠。
https://lloredacamacho.com/medidas-en-frontera-y-su-papel-en-la-proteccion-marcaria/
判例・実務動向
- SIC法務速報「La Superindustria señaló cuáles son los requisitos necesarios para declarar la infracción de una marca registrada」/SIC司法部門2024年6月20日判決(SUMICOL事件、事件番号22-177675)の侵害要件と法定損害賠償の適用の根拠。
https://sedeelectronica.sic.gov.co/publicaciones/boletin-juridico/boletin/la-superindustria-senalo-cuales-son-los-requisitos-necesarios-para-declarar-la-infraccion-de-una-marca - Infobae「Frisby Colombia apelará decisión en España de cancelar tres de sus marcas」(2026年4月24日)および La República「Autoridad española declaró caducidad de marcas de Frisby Colombia」/Frisby事件の経緯(2026年3月27日のアリカンテ州裁判所による仮処分取消、2026年4月23日のOEPMによる3件の取消、上訴とEUIPO手続の継続)の根拠。
https://www.infobae.com/colombia/2026/04/24/frisby-colombia-apelara-decision-en-espana-de-cancelar-tres-de-sus-marcas-aseguro-que-su-registro-en-la-union-europea-sigue-vigente/
https://www.larepublica.co/empresas/autoridad-espanola-declaro-caducidad-de-marcas-de-frisby-colombia-en-ese-pais-4377674 - Servicio Legal「Trademark Registration in Colombia and Internationally: 2025 Complete Guide and Lessons from the Frisby Case」/Frisby事件の発端(2025年5月)と教訓、登録までの目安の根拠。
https://serviciolegal.com.co/en/blog/trademark-registration-in-colombia-and-internationally-2025-complete-guide-and-lessons-from-the-frisby-case - 日本貿易振興機構(JETRO)「コロンビア」国・地域情報/2025年の新車販売の伸びなど冒頭の背景情報の根拠。
https://www.jetro.go.jp/world/cs_america/co/
※本記事は上記の資料を基に、2026年9月時点の情報で一般的な情報提供を目的として作成しています。手数料(ペソ換算額)・運用・判例は変更されることがあり、スペイン語原文と英訳の間に差異がある場合はスペイン語原文が優先されます。個別案件の具体的判断には、専門家へのご相談を推奨します。