【弁理士解説】スーパー早期審査の活用|ベンチャー企業なら出願から1ヶ月で特許が取れる?要件とリスクを徹底解剖
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はじめに:スピードが命のベンチャーにとって「特許待ち」は最大のリスク
「革新的なアイデアを形にしたが、他社に模倣されないか不安だ」
「来月の投資家面談(VCラウンド)までに、技術力を証明する『特許』の実績が欲しい」
「海外展開を控えており、まずは日本の権利を固めておきたい」
日々、刻一刻と状況が変化するスピード勝負のベンチャー企業やスタートアップの経営者様にとって、通常の特許審査にかかる「時間」は大きな痛手であり、ビジネスチャンスの損失になりかねません。
通常、特許出願から権利化までは、審査請求を行ってから平均して約10ヶ月〜14ヶ月かかると言われています。1年後、市場はどうなっているでしょうか?競合は待ってくれるでしょうか?
しかし、一定の条件を満たせば、この期間を劇的に短縮できる制度が存在することをご存知でしょうか?
それが、特許庁が提供する「スーパー早期審査(スーパー早期審査制度)」です。
この制度を利用すれば、なんと審査請求から最短1ヶ月以内に審査結果(一次審査通知)を受け取ることが可能です。
本記事では、多くのベンチャー企業の知財戦略を支援してきた弁理士の視点から、スーパー早期審査の仕組み、ベンチャー企業が活用するための条件(実は「外国出願」が必須ではないケースも?)、そしてメリット・デメリットについて、実務的な観点から徹底解説します。
1. 「スーパー早期審査」とは?通常審査・早期審査との違い
まず、特許庁が設けている審査スピードの区分を整理しましょう。日本の特許審査には、スピードに応じて主に3つのコースがあります。
① 通常審査
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期間: 審査請求から一次審査結果まで、平均約10ヶ月(案件によっては1年以上)
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特徴: 特別な申請をしない場合の通常のルートです。安定していますが、ベンチャーのスピード感には合いません。
② 早期審査
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期間: 審査請求から一次審査結果まで、平均2〜3ヶ月
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特徴: 中小企業やベンチャー企業であれば、比較的利用しやすい制度です。「実施予定」の案件や「外国出願」がある案件などが対象です。これだけでも十分に早いです。
③ スーパー早期審査
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期間: 審査請求から一次審査結果まで、平均1ヶ月以内(最短で2週間程度の実績もあり)
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特徴: 早期審査よりもさらに優先度を高めた、特許庁における「最優先ルート」です。ただし、その分だけ要件が厳格になります。
ベンチャー企業にとって、数ヶ月の差はビジネスの死活問題になり得ます。スーパー早期審査は、まさに「時間を買う」ための最強のツールと言えるでしょう。
2. ベンチャー企業なら「外国出願なし」でも使える?意外な特例要件
ここが本記事の最重要ポイントです。多くの解説サイトでは「スーパー早期審査には外国出願が必須」と書かれていますが、実はベンチャー企業・スタートアップには特例があります。
原則的な要件(大企業などの場合)
通常、スーパー早期審査を受けるには、以下の2つを両方満たす必要があります。
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実施関連出願: すでに製品化している、または2年以内に製品化する予定がある。
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外国関連出願: 日本だけでなく、海外(少なくとも1カ国)へも出願している。
ベンチャー企業・スタートアップの特例要件
しかし、申請人が「ベンチャー企業(中小企業等)」である場合、要件は以下のように緩和されます。
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「実施関連出願」であれば、外国出願は不要!
つまり、「自社ですでにその技術を使っている(または使う準備ができている)」ベンチャー企業であれば、海外展開の予定がなくてもスーパー早期審査を利用できるのです。
これは、国内市場でシェアを急拡大したいSaaS企業や、国内向けのプロダクトを開発するメーカーにとって、非常に強力な選択肢となります。「うちは国内メインだからスーパー早期審査は無理だ」と諦める必要はありません。
※「ベンチャー企業」の定義とは?
特許庁のガイドラインでは、主に以下のような企業が該当します。
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事業開始から10年未満の個人事業主
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設立から10年未満で、資本金3億円以下の法人
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(その他、従業員数や大企業からの支配率などの要件あり)
3. スーパー早期審査の3大メリット:なぜ1ヶ月で取る必要があるのか
あえて厳しい要件(後述する実施要件など)をクリアしてまで、スーパー早期審査を活用する経営的なメリットは何でしょうか。
① 資金調達(VC対応)への強力なアピール
投資家やベンチャーキャピタル(VC)との面談において、「特許出願中です(まだどうなるか分かりません)」と言うのと、「特許権を取得済みです(技術の独自性が公的に認められました)」と言うのでは、説得力が段違いです。
デューデリジェンスの前に権利を確定させておくことで、技術力と権利の安定性を証明でき、企業価値の向上(バリュエーションアップ)やスムーズな投資実行に繋がります。特にシリーズA以降の調達において、知財の有無は評価額に直結します。
② 模倣品・競合他社の即時排除
製品リリース直後に模倣品が出回るリスクがある場合、警告を行うには「特許権」の設定登録が必要です。「特許出願中」の段階では、警告はできても法的な強制力(差止請求など)はありません。
1ヶ月程度で特許査定を得られれば、製品リリースとほぼ同時に強力な権利行使が可能となり、市場シェアを守ることができます。また、プレスリリースと同時に「特許取得済み」と発表することで、大企業の参入意欲を削ぐ効果も期待できます。
③ 海外展開の加速(PPHの活用)
もし貴社が海外展開を考えている場合、日本で早期に特許が成立すれば、その審査結果を利用して、外国(アメリカや欧州など)での審査を早める「特許審査ハイウェイ(PPH)」という制度が使いやすくなります。
つまり、日本のスーパー早期審査は、世界の特許網を素早く構築するためのトリガー(起点)になるのです。
4. 知っておくべきリスクとデメリット:安易な利用は命取り
光があれば影もあります。スーパー早期審査には、利用前に必ず理解しておくべきリスクが存在します。ここを理解せずに申請すると、逆に自社の首を絞めることになります。
① 応答期間が極端に短い(30日ルール)
これが最大のリスクです。もし審査官から「拒絶理由通知(今のままでは特許にできません)」が届いた場合、通常の審査なら60日間の応答期間がありますが、スーパー早期審査では**「30日以内」**に応答しなければなりません。
この30日の間に、弁理士と協議し、実験データの追加が必要なら行い、反論の方針を決め、補正書や意見書を作成して提出する必要があります。社内の意思決定に時間がかかる企業や、弁理士との連携が取れていない場合、期限切れで権利化の機会を逃す(あるいはスーパー早期審査の対象外になる)リスクがあります。
② 先行技術調査の負担とコスト
通常の「早期審査」の場合、ベンチャー企業は「先行技術調査(似たような特許がないか調べること)」の報告を省略できる特例があります。
しかし、「スーパー早期審査」の場合は、たとえベンチャーであっても先行技術調査の報告が必須となります。
専門的なデータベースを用いた精度の高い調査を行い、「先行技術との違い」を論理的に説明した書類(事情説明書)を提出しなければなりません。そのため、弁理士費用(調査費用)が通常の出願よりも高額になる傾向があります。
③ 権利範囲の調整時間が短い
審査があまりに早すぎるため、「やっぱりもう少し権利範囲を広げたい」「補正で調整したい」と考え直す時間がほとんどありません。出願時の明細書の完成度が、そのまま権利の質に直結します。「とりあえず出願して、後で考えよう」というスタンスでは失敗します。
5. 通常の「早期審査」とどちらを選ぶべきか?
「スーパー早期審査」と「(通常の)早期審査」。どちらを選ぶべきかは、貴社の事業状況によって異なります。以下のチェックリストを参考にしてください。
スーパー早期審査(1ヶ月)を選ぶべきケース
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「実施(製品化)」の実態がある。
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来月の投資家面談やプレスリリースに絶対に間に合わせたい。
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すでに模倣品が出回っており、一刻も早い差止が必要だ。
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社内の意思決定が早く、30日以内の対応が可能だ。
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多少の追加コスト(調査費用)は許容できる。
通常の早期審査(2〜3ヶ月)を選ぶべきケース
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まだ製品化(実施)のめどが立っていない(アイデア段階)。
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先行技術調査の費用を抑えたい(ベンチャー特例を使いたい)。
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2〜3ヶ月程度で結果が出れば十分早いと感じる。
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じっくりと広い権利範囲を狙いたい。
実は、日本の通常の早期審査(平均2〜3ヶ月)でも、世界的に見れば十分に「爆速」です。無理にスーパー早期審査を狙わずとも、通常の早期審査で十分なケースも多々あります。
6. スーパー早期審査を成功させるための弁理士の役割
スーパー早期審査は、いわば**「F1レース」**のようなものです。最高のマシン(発明)と、最高のドライバー(弁理士)が揃って初めて完走できます。特に以下の点は、プロフェッショナルの手腕が問われます。
戦略的な先行技術調査
申請要件を満たすだけでなく、審査官が一発で「特許査定」を出したくなるような、精度の高い事前調査と差別化の説明が求められます。ここで手を抜くと、スーパー早期審査の申請自体が却下されることもあります。
審査官対応(面接審査)
万が一、微妙な判定が下されそうな場合や、拒絶理由が通知された場合、即座に審査官へ電話や面接を行い、解決策を見出す交渉力が必要です。30日という短い期間での対応は、経験豊富な弁理士でなければ務まりません。
事業戦略との整合性
「早く取る」ことだけを目的にして、使い物にならない狭い特許を取っても意味がありません。貴社の事業を守れるギリギリの広さを攻めつつ、スピード審査を通すためのバランス感覚が重要です。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. まだ製品化していませんが、プロトタイプはあります。スーパー早期審査は使えますか?
A. はい、使える可能性があります。「実施」の定義には、販売だけでなく「実施の準備」も含まれます。具体的な事業計画や仕様書、試作品の写真などを提示することで要件を満たすことができます。ただし、単なる構想段階では認められません。
Q2. ベンチャー企業ですが、従業員が50名います。対象になりますか?
A. ベンチャー企業の要件(中小企業要件)は、業種によって従業員数の上限が異なります(例:製造業などは300人以下、サービス業は100人以下など)。また、大企業からの出資比率などによっても変わりますので、詳細はご相談ください。
Q3. スーパー早期審査に追加の印紙代(特許庁費用)はかかりますか?
A. 特許庁へ支払う費用自体は、通常の審査請求料と変わりません(無料です)。ただし、申請書類(事情説明書)の作成や高度な先行技術調査が必要となるため、特許事務所へ支払う手数料は、通常の案件よりも加算されることが一般的です。
まとめ:スピードを武器にするなら専門家とタッグを
ベンチャー企業にとって、スーパー早期審査を活用して「出願から1ヶ月程度で特許査定を得る」ことは、夢物語ではなく現実的な戦略です。
特に「外国出願なし」でも利用できるスタートアップ特例は、国内での急成長を目指す企業にとって見逃せないチャンスです。
しかし、それを実現するためには、厳格な要件クリアと、ミスの許されないスピーディーな対応が必要不可欠です。
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「来月の投資家面談までに特許が欲しい」
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「自社の発明がスーパー早期審査の対象になるか知りたい」
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「コストを抑えつつ、最速で権利化したい」
このようにお考えの経営者様、開発責任者様は、ぜひ一度弊所にご相談ください。
貴社のビジネススピードに遅れることなく、最強の知財戦略を共に構築し、最短ルートでの権利化をサポートいたします。
時間は待ってくれません。競合他社に先を越される前に、まずは「無料相談」から始めてみませんか?
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