丸太を追跡したい。ふつうに考えれば、番号を書いたタグを打ち込むか、ICチップを埋め込みます。ところがある製材会社の特許は、そのどちらもしません。木の切り口に出ている年輪を、そのままIDとして使う。
本記事では、林業と木材流通のデジタル化に関わる実在の登録特許5件を、特許庁のJ-PlatPatで請求項の原文まで確認して弁理士が解説します。トレーサビリティ、航空レーザによる森林の解析、丸太の採材、そして衛星による監視——扱う場面はばらばらですが、並べて読むとこの分野の発明に共通する作法が見えてきます。それは、機能を足すことではなく、現場が当然測っていたものを、ひとつ捨てることでした。
はじめに範囲を申し上げます。本記事で扱うのは情報処理の側から見た林業の特許です。木材の乾燥・接合・防腐やCLTといった、木そのものを扱う発明は今回は含みません。
目次
| 特許 | 特許権者 | 登録 | 捨てたもの |
|---|---|---|---|
| 5274235 請求項2・全6頁 | 瀬戸製材株式会社 | 2013 | タグ(最初から貼らない) |
| 6207968 | 株式会社パスコ | 2017 | 距離(測距機なのに使わない) |
| 6300211 | 広島県 | 2018 | 最適化そのもの |
| 7406796 | 株式会社太田材木店 | 2023 | タグ(最後に切り落とす) |
| 7797070(B1) | 株式会社Archeda | 2025 | 木(見ているのは記録の欠落) |
木材のトレーサビリティが難しいのは、貼ったものが残らないからです。伐採して、山から出して、製材して、屋外で何か月も天然乾燥させる。その間にタグは剥がれ、印字はかすれ、ICチップは割れます。追いかけたい期間が長いほど、貼りものは持ちません。
この特許は、貼るのをやめました。
請求項1(原文)
木材に対して施された各種処理の履歴を蓄積した木材履歴データと、各種処理を施した後の木材の端面に現れる端面紋様を記録した端面紋様データとを関連付けて記憶しておき、現物の木材の端面に現れている端面紋様と前記端面紋様データとを照合することにより、現物の木材に施された各種処理の履歴を追跡可能としたことを特徴とする木材のトレーサビリティシステム。
請求項2(原文)
前記端面紋様として木材の端面の年輪を用いることを特徴とする請求項1に記載の木材のトレーサビリティシステム。
年輪は、その木が生きてきた年数と気候がそのまま形になったものです。同じ模様は二つとありませんし、人が後から作ることもできません。指紋認証を木材に持ち込んだ、と言えば分かりやすいでしょうか。追加の部品がゼロなので、剥がれようがない。
クレームの作り方も見事です。請求項1は「端面紋様」という広い言葉で押さえ、「年輪」に限定するのは請求項2。年輪以外の模様——木目でも、節の配置でも——で同じことをやられたときに、請求項1が届きます。
弁理士の目:この公報は請求項2つ・全6頁しかありません。本記事の5件で最も短く、そして最も引き算が徹底しています。特許権者は瀬戸製材株式会社、発明者は瀬戸亨一郎氏1名。大企業の研究所ではなく、木を挽いている会社から出た発明です。
なお同じ構造は、ヘルステックの特許でも見ました。請求項1を「ライフライン使用状況」で押さえて電力を請求項2に置いた例、「皮膚状態値」で押さえてカロテノイドを請求項3に置いた例——いま作っているものは何の一例なのかを言葉にできるかどうかが、権利の広さを決めます。
飛行機からレーザーを撃って森を測る、航空レーザ計測という技術があります。レーザー測距ですから、当然「距離」が返ってきます。距離が分かれば樹高が出る。そこまでは誰でも考えます。
この特許は、その距離を使いません。
請求項1(要旨)
航空レーザ計測データに基づき、レーザの照射パルスに対する反射パルスの「個数」に応じて定まる反射パルス指標を含む特徴量を求め、その特徴量からカラー画像の画素値を定める。指標は、計測地点の単位面積からの反射パルス総数に対するファーストパルスの数の比、および中間パルスの数の比の少なくとも一方を含む——という林相解析装置。
レーザーを森に撃つと、1発に対して何回も反射が返ってきます。樹冠のてっぺんで返るもの(ファーストパルス)、枝葉の隙間を抜けて途中で返るもの(中間パルス)、地面まで届いて返るもの。この特許が見ているのは、その返ってきた回数の比です。
なぜそれで林相が分かるのか。スギやヒノキのような針葉樹と、ナラやブナのような広葉樹では、葉の付き方が違うからです。葉が密に詰まっていればレーザーは上で止まり、隙間が多ければ奥まで抜ける。「どこまで届いたか」ではなく「何回止まったか」に、森の性格が出る。
そしてもう一段、細かいところが効いています。樹高は請求項1に入っていません。請求項4で「さらに樹高を含む」と足されます。反射強度も請求項3で「さらに」です。距離から出る最も自然な情報を、あえて後ろに回している。樹高を使わなくても林相は分けられる、という主張が請求項の構造そのものに書かれているわけです。
弁理士の目:特許権者は株式会社パスコ。測量・空間情報の大手です。①の製材会社とは対照的に、こちらは計測データを商品にしている会社。同じ「森を知る」でも、木を触る側と、上空から見る側で発明の出どころが違います。発明者は3名で、うち2名は日本語名ではありません。
立っている木を、どこで切って何メートルの丸太にするか。これを採材といいます。同じ木でも切る位置で値段が変わるので、本来なら1本ごとに最適解を計算したい。実際この特許も、まず1本ごとに計算します。
そして、その個別解を捨てます。
請求項1(要旨)
立木の形状を示す座標情報を取得し、切り出し可能な丸太の採材位置を模擬的に指定して、丸太の曲りの程度を示す最大矢高を算出する。座標情報は林分に属する立木ごとに取得し、1本の立木につき想定されている元玉元口高ごとに採材位置を指定する。そのうえで、1つの元玉元口高につき立木ごとに算出された最大矢高の「平均」が最小となる元玉元口高を、その林分に属する全ての立木に適用する最適採材位置として決定する——という採材支援装置。
「元玉元口高」は、根元から最初の丸太を切り出すときの、切り始めの高さのことです。この特許は、山じゅうの木を1本ずつ計算したうえで、山全体で平均が一番よくなる高さを1つ選び、それを全部の木に当てはめます。
一見、精度を落としているように見えます。実際そのとおりです。ですが現場で木を伐るのは人と機械で、1本ごとに違う数字を伝えても、そのとおりには切れません。「今日はこの山、根元から◯センチのところから」——実行できる形はそれです。計算の精度と、現場が実行できる粒度は違う。この特許は後者に合わせて、前者を捨てました。
もう一点、価値の指標が「最大矢高」=曲りだけで組まれています。丸太の値段を決める要素には太さ(末口径)もありますが、請求項1には出てきません。曲りだけで決めると割り切っています。
弁理士の目:特許権者は広島県です。企業でも大学でもなく、県。発明者5名も県の研究職員とみられます。請求項9・全32頁と本記事で最も厚い公報で、請求項2は別の独立請求項として「直材と判定されているうちは元玉元口高を変えずに材長を延ばし続ける」という別のアルゴリズムを立てています。1つの装置に、集団で決める版と1本ずつ決める版の両方を持たせた構成です。
①がタグを貼らない道を選んだのに対して、この特許はICタグを木口に埋め込みます。伐採業者が伐採年月日・伐採者・樹種・産地・径・GPS位置・固有IDを書き込み、製材業者が製材の記録を、乾燥の記録を、検査結果を、順に書き足していく。タグとデータベースの両方に、同じデータが積み上がります。
そして最後に、そのタグを木ごと切り落とします。
請求項1より(原文の一部)
製材業者又は加工業者が、前記第1のプリンターを用いて、前記データベースに記憶されている当該木材に関するデータのうち所定のデータのみを、前記乾燥が完了した木材のうち製材業者による検査で合格の結果が出た木材に仕上げ加工し且つ前記ICタグが埋め込まれた箇所がICタグごと切断された木材の表面に印字する工程
製品として世に出る木材に、ICタグは残りません。切り落とされた面に、印字が引き継ぎます。請求項2では、その印字がデータベースへアクセスするURLと固有IDをコード化した二次元コードになります。
この請求項には、捨てる判断が三重に入っています。タグを捨て、印字するのは全データではなく「所定のデータのみ」、しかも検査で合格した木材にだけ印字する。不合格になった木材はタグを外され、合板材や土木資材に回るか、焼却材になります。
ただし、そこで消えないものが一つあります。
請求項1より(原文の一部):…前記木材における前記第4のデータ又は前記第5のデータは、前記データベースから削除しないようにして在庫管理のためにデータを保持する工程
木からは消すが、データベースからは消さない。不合格になった木材こそ、どこへ行ったかを記録しておく必要がある——という現場判断が、そのまま請求項の言葉になっています。
さらに請求項3が、①と同じ問題に別の答えを出しています。1本の原木を複数本に製材するとき、第1のデータをコピーした複数本のICタグを用意し、それぞれに個別の第2のデータを書く。①の年輪IDが「割れた木をどう同定するか」を模様で解いたのに対し、こちらは親のデータを複製して配ることで解いています。
弁理士の目:この公報の書誌に、実務家として見逃せない記載があります。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年12月10日〜12月11日の間、株式会社太田材木店が東京ビッグサイトで開催された「WOOD Collection 令和元年」にて発明を公開
展示会で先に見せてから、出願しているのです。出願は翌年3月5日。原則からいえば公開した時点で新規性を失いますが、所定の期間内に所定の手続をとれば救済される場合があります(新規性喪失の例外の手続)。
展示会に出してしまった、という相談は本当に多いのですが、間に合った実例がここにあります。ただしあくまで例外で、外国では扱いが異なります。原則は「出してから見せる」です。
衛星で森を監視する、と聞けば、木の本数を数えたり、伐られた面積を測ったりする絵を思い浮かべます。この特許は、そのどれもしません。
請求項1(要旨)
複数の情報源から森林の状態情報を取得し、森林内の特定の領域を地理的に一意に識別するための識別情報を共通キーとして時系列に整理して履歴情報としてデータベースに記憶する。履歴情報に含まれる衛星データの時系列変化を解析して、植生が変化した変化領域を抽出する。そして抽出した変化領域と、履歴情報に含まれている地上記録データとを照合し、当該変化領域に対応する地上記録データの「有無」に基づいて、森林に出向く現地確認の優先度を算出する——というプログラム。
衛星は変化を見つけます。しかしその変化が良いか悪いかを判定しません。判定材料は「その変化に対応する地上の記録があるか、ないか」だけです。
届出のある伐採なら、記録があります。記録がないのに森が変わっていれば、そこを先に見に行く。森を監視しているようで、実際に照合しているのは書類のほうです。人が山を歩ける日数は限られているので、限られた足をどこに向けるかを決める——それがこの発明の仕事です。
請求項3では、履歴情報から森林の二酸化炭素吸収量を算出してJ-クレジット制度の申請レポートを生成します。監視のために貯めたデータが、そのまま炭素クレジットの申請書になる設計です。
弁理士の目:この特許の権利化の速さは、本シリーズで見てきた中でも際立っています。出願 2025年10月21日 → 審査請求 同日 → 登録 2025年12月26日。約2か月です。公報種別はB1——出願公開を経ずに登録された、という記号で、早期審査の対象出願でもあります。
特許権者は株式会社Archeda、発明者2名のスタートアップ。制度が動くタイミングに、権利を間に合わせにいった形です。
この2件は同じ問題に、反対の端から答えています。
| ①瀬戸製材 | ④太田材木店 | |
|---|---|---|
| タグ | 最初から貼らない | 埋めて、最後に切り落とす |
| IDになるもの | 年輪(木自身) | 表面への印字・二次元コード |
| 木を割ったら | 割れた面の模様で同定 | 親データをコピーして配る |
| 公報の厚み | 請求項2・全6頁 | 請求項4・全15頁 |
どちらが正しいという話ではありません。①は追加コストがゼロですが、模様を撮って照合する仕組みが要ります。④は工程の節目ごとにデータを積める代わりに、タグの費用がかかります。同じジレンマに対して、事業の形が違えば答えも違う——その両方が権利になっている、というのがこの分野の面白いところです。
レーザー測距の主産物である距離を使わず、副産物である反射の回数を主役にする。しかも樹高を請求項1から外している。センサが返してくる情報のうち、どれを使わないかを決めることが発明になる型です。
③は1本ずつ出した最適解を捨てて、山に1つの数字を配ります。⑤は変化の中身を判定せず、記録の有無だけで優先度を出します。どちらも「精度を上げる」方向を意図的にあきらめ、現場が実行できる形に落としています。
この型は、仕組みが特許になるかどうかの境目を考えるうえでも示唆的です。「AIで精度を上げる」だけでは、どこが新しいのかを説明しづらい。何を捨てたか、なぜ捨てられるのかを言葉にできると、請求項は具体的になります。
そして、捨てた分だけ請求項は短くなります。本記事で最も徹底した引き算をしている①は、請求項2つ・全6頁。逆に、工程を1つずつ書き切った④の請求項1は、この記事に全文を引けないほど長大です。短い請求項が強いとは限りませんが、短く書けたということは、余計なものを持っていないということです。
| 特許 | 出願 | 審査請求 | 登録 | 使った制度 |
|---|---|---|---|---|
| ①5274235 | 2008-12-25 | 2011-08-01 | 2013-05-24 | (通常審査) |
| ②6207968 | 2013-10-25 | 2016-01-04 | 2017-09-15 | (通常審査) |
| ③6300211 | 2015-07-31 | 2017-07-25 | 2018-03-09 | (通常審査) |
| ④7406796 | 2020-03-05 | 2021-11-11 | 2023-12-20 | 30条2項(展示会) |
| ⑤7797070 | 2025-10-21 | 同日 | 2025-12-26 | 早期審査/B1 |
①〜③は、出願から登録まで3〜4年半かかっています。審査請求も期限近くまで待っている。対して⑤は約2か月です。
この差は、技術の優劣ではなく事業の都合で説明できます。①〜③が扱うのは、10年経っても課題の形が変わらないテーマです。急ぐ理由がありません。一方⑤は、制度と時期が噛み合っているうちに権利を立てたい。出願から登録までの流れは、事業計画のほうから逆算するものだ、という実例です。
今回、記事に使える特許を探す過程で、使えなかったものがいくつも出てきました。技術がつまらなかったからではありません。権利が、もう無かったからです。
| 特許 | 内容 | 状態 |
|---|---|---|
| 3515678 | 空中レーザ計測(1997年出願) | 存続期間満了 |
| 4603179 | 原木木口のマーク位置検出装置 | 消滅 |
前者は、②パスコの林相解析の原型にあたる技術です。後者は、①④と同じく木口を読む系譜にあります。いま生きている特許は、すでに切れた特許の上に乗っています。
ここで、林業だけが抱える事情が出てきます。
スギやヒノキを植えてから伐り出すまでには、おおむね40年から50年、長ければそれ以上かかります。
一方、特許権の存続期間は、出願の日から原則20年です。
つまり、いま植えた木が伐り時を迎えるころには、いま出願した特許はとっくに切れています。植林から主伐までの1サイクルの間に、特許は2回入れ替わる計算になります。
これは他の分野ではあまり起きません。飲食も建設も医療も、事業サイクルは特許の20年より短いのが普通です。農業テックでさえ、作物のサイクルは年単位です。森の時間だけが、特許の時間より長い。
この事実は、林業の知財戦略に2つの示唆を与えます。
1|特許は「木」ではなく「仕組み」に賭けるもの。木の育成そのものは20年では終わりませんが、その木を測る・追う・切り分ける仕組みは、数年で更新されます。実際、今回の5件はすべて情報処理の発明でした。森の時間で回すものと、特許の時間で回すものを分けて考えるということです。
2|切れた特許は、使える。存続期間が満了した発明は、誰でも自由に実施できます。この分野には1990年代〜2000年代に権利化され、いま公有になっている技術が積み上がっています。新しく作るときに、そこを踏み台にできる。「先行技術があるから出願できない」ではなく、「先行技術の上に、何を1つ捨てて乗せるか」——今回の5件が全部やっていたのは、まさにそれでした。
調べるときの注意:この分野は権利が消えやすいのが実情です。特許情報のデータベースには、年金の不納による消滅がすぐには反映されないものもあります。他社の権利を検討するときは、必ずJ-PlatPatの経過情報で最新の状態を確認してください。本記事に挙げた5件は2026年8月時点でJ-PlatPat上「特許 有効」と表示されていることを確認していますが、権利の存続状況は特許料の納付状況等により変動します。
今回の調査で、もう一つ気づいたことがあります。権利者に森林組合の名前が出てきませんでした。
出てきたのは、製材会社、材木店、測量会社、県、そしてスタートアップです。実際に山に入り、木を伐り、搬出している事業体そのものの名前は、登録特許の権利者欄では見かけませんでした。
これは現場に工夫がないということではありません。むしろ逆で、林業の現場は道具も手順も土地ごとに作り込まれています。ただ、それが権利という形になっていない。
理由は想像がつきます。特許は、出願して、審査を受けて、年金を払い続ける手続です。日々の作業に追われる組織にとって、そこに人手を割く優先順位は上がりにくい。そして「うちがやっていることなんて、特許になるわけがない」という感覚も、よくお聞きします。
ですが、今回の5件を思い出してください。年輪を照合する、タグを最後に切り落とす、山じゅうの木に同じ高さを当てる。どれも、現場を知っている人でなければ出てこない発想です。①の権利者は製材会社、④は材木店、③は県。大企業の研究所から出た発明は、この5件には1つもありません。
やっていることが特許になるかどうかの分かれ目は、規模ではなく、「何をあきらめたか」を説明できるかどうかです。
1|「何をやめたか」を先に言葉にする。審査で効くのは、新しい機械を入れたことではなく置き換えの筋道です。何が現場で持たなかったのか、代わりに何を見ることにしたのか、それでなぜ足りるのか。この3つが書ければ、請求項は具体的になります。
2|いま使っているものは「何の一例」かを考える。①は年輪を端面紋様の一例として書きました。目の前の実装をそのまま請求項1にすると、少し違うやり方に回り込まれます。
3|展示会・見学会・補助金の報告書は「公開」になりうる。④は展示会で見せたあとに出願して救済されましたが、あくまで例外です。手続を誤れば適用を受けられず、外国では扱いも異なります。発表の予定が立った時点でご相談ください。
4|他社の権利は「生きているか」から確認する。この分野は権利が消えやすく、切れていれば自由に使えます。FTO調査では、番号を見つけて終わりにせず経過情報まで見るのが実務です。
5|急ぐ理由があるかを先に決める。制度や補助事業の時期に合わせたいなら早期審査という選択があります(⑤は約2か月)。課題の形が長く変わらないテーマなら、審査請求の3年を使い切る判断も合理的です。
6|自治体・大学との共同開発は、出願前に取り決めを。③は県が単独で持っていますが、共同研究では権利が共有になるのが一般的です。共有特許は各自が自由に実施できる一方、持分の譲渡や第三者へのライセンスには他の共有者全員の同意が必要です(特許法73条)。
「うちの工夫が特許になるとは思えない」——その判断は、少し早いかもしれません
本記事の5件は、製材会社・材木店・県から出た発明です。現場で当たり前になっている手順ほど、外から見ると「なぜそれで足りるのか」が発明になっていることがあります。エボリクスでは、まず何が権利になりうるかの切り分けからご相談を承ります。
無料相談を申し込む →Q1. 林業の作業手順や工夫でも、特許になりますか?
なりえます。特許法は「物の発明」だけでなく「方法の発明」も対象としています。実際、④は「木材のトレーサビリティ方法」という方法の特許です。ポイントは、手順に新しさと進歩性があり、どの装置が何をするのかまで具体的に書けているかです。なお方法の特許は他社の現場での実施が外から見えにくく、侵害の立証が難しいという性質もあります。使う装置や、サービス名の商標とあわせて考えるのが実務です。
Q2. 展示会や見学会で先に公開してしまいました。もう出願できませんか?
④の公報には、展示会で発明を公開したうえで出願し、新規性喪失の例外(特許法30条2項)の適用を受けたことが明記されています。所定の期間内に所定の手続をとれば救済される場合があります。ただし手続を誤ると適用を受けられず、外国での取扱いも国ごとに異なります。あくまで例外ですので、心当たりがあれば早めにご相談ください。
Q3. この記事の特許は、いま本当に生きているのですか?
5件とも2026年8月時点でJ-PlatPat上「特許 有効」と表示されていることを確認しています。ただし権利の存続状況は特許料の納付状況等により変動します。本文でも触れたとおり、この分野は権利が消えやすく、実際に本記事の調査過程でも消滅・満了しているものが複数ありました。他社の権利を検討するときは、必ずJ-PlatPatの経過情報でその時点の状態を確認してください。
Q4. 存続期間が切れた特許の技術は、勝手に使ってよいのですか?
存続期間が満了した特許発明は、原則として誰でも自由に実施できます。それが特許制度の趣旨でもあります。ただし同じ製品に別の生きている特許が関係していることがあり、また意匠権・商標権・著作権は別の制度です。「この番号は切れている」と確認できても、それだけで自由に作れると判断するのは危険です。実施の前には、なお調査が必要になります。
Q5. 県や大学と共同で開発しています。特許は誰のものになりますか?
実際に発明した人が所属する組織との共有になるのが一般的です。共有特許は各自が自由に実施できる一方、持分の譲渡や第三者へのライセンスには他の共有者全員の同意が必要です(特許法73条)。事業化の主体が決まっているなら、共同研究契約の段階で持分と実施の条件を定めておくことをお勧めします。
Q6. 他社が似た仕組みを使っています。この記事の特許に触れていませんか?
本記事は侵害の成否について何ら判断を示すものではありません。侵害の検討は、請求項の各構成要件をすべて満たすか(オールエレメントルール)を、対象となる仕組みの具体的な構成に即して行う必要があります。文言上は満たさない場合でも、例外的に均等侵害が問題となることがあります。実務では、事前に他社権利を調べる調査から始めるのが定石です。
Q7. 記事に出てくる「B1」とは何ですか?
出願公開を経ずに登録された特許の公報につく記号です(⑤がこれ)。日本の出願は原則として出願から1年6か月後に公開されますが、審査がそれより速く進むとこの形になります。権利としての効力は通常の特許(B2)と同じです。公開公報だけを見ていると気づけないため、他社の動向を追うなら登録公報まで確認する必要があります。
林業の5件を請求項まで読んで見えたのは、足していないということでした。年輪をIDにするためにタグを捨て(①)、林相を分けるために距離を捨て(②)、山で実行できる形にするために個別最適を捨て(③)、製品にする前にタグごと切り落とし(④)、優先度を出すために変化の中身を判定しない(⑤)。捨てた分だけ請求項は短くなり、そのぶん強くなっています。
そしてもう一つ、林業だけの事情がありました。木を植えてから伐るまでには40〜50年かかるのに、特許は出願から20年で切れます。実際、②の原型にあたる空中レーザ計測の特許は1997年出願で満了し、木口を読む先行特許は消滅していました。いま生きている権利は、切れた権利の上に乗っています。裏を返せば、この分野には自由に使える技術が積み上がっているということでもあります。
権利者の顔ぶれも印象的でした。製材会社、測量会社、県、材木店、そしてスタートアップ。大企業の研究所は1件もありません。山と木に近いところから、発明は出ています。
自社の現場で「本当はこう測るべきなのに、やめていること」はありませんか。そこは、権利化を検討する価値のある場所かもしれません。エボリクスでは、何が請求項になりうるかの切り分けからご提案しています。お問い合わせはこちら/ご相談の流れ
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本記事の注意事項:本記事は2026年8月時点の公開特許情報(特許庁J-PlatPat)に基づく一般的な解説です。引用した請求項は公報の記載に基づきますが、紙幅の都合により要旨としてまとめた箇所があり、権利範囲は最終的に公報の正本と出願経過により定まります。権利の存続状況は特許料の納付状況等により変動します(本記事に挙げた5件は上記時点でJ-PlatPat上「特許 有効」と表示されていることを確認しています)。公報には製品名・サービス名の記載がないため、特定の製品・サービス・事業に当該技術が使われているかを断定するものではありません(会社名・機関名は公報記載の特許権者名です)。森林法・クリーンウッド法(合法伐採木材等流通利用促進法)その他の法令への適合性について本記事は何ら判断を示すものではなく、実施にあたっては別途専門家の検討が必要です。侵害の成否について本記事は何ら断定するものではなく、個別事案の結論を保証するものでもありません。
AUTHOR / 執筆者
杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)
知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士
特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。