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飲食・店舗テックの特許を弁理士が解説|皿を数える・注文が消える・レジに並ばない仕組みは権利になっている

飲食・店舗テックの特許を弁理士が解説|皿を数える・注文が消える・レジに並ばない仕組みは権利になっている

回転寿司で皿の枚数が自動で数えられる。注文した料理が届くと、厨房のモニターからその注文が消える。レジに並ばずに店を出られる。——飲食店や小売店で当たり前になったこれらの仕組みは、どれも誰かが特許を取っています

本記事では、実在する飲食・店舗テック関連の登録特許5件を、特許庁のJ-PlatPatで請求項の原文まで確認して弁理士が解説します。権利者は、くら寿司やFOOD & LIFE COMPANIES(回転寿司大手)といった上場企業から、従業員数名規模の有限会社まで。そして今回いちばんの発見は、「無人レジ」の特許なのに、請求項に“人が目で見る”工程が書かれていることでした。

💡 現場DX×特許シリーズ:ドローン農業テック医療テックに続く第4弾です。

結論|権利になっているのは「店の回し方」

● 守られているのは装置の性能ではなく、オペレーションの段取り:皿を数える、注文を厨房から消す、洗って使い回す——店を回す手順そのものが請求項になっています。
● 大手チェーンと有限会社が同じ土俵:上場企業の特許と、従業員数名規模の有限会社の特許が並びます。
● 速さも粘りもある:5件中3件がB1(公開前登録)で早期審査。最速は原出願から約4か月。一方で1件は拒絶査定不服審判を経て登録されています。
● そして意外な一文:無人レジの特許の請求項1には、「目視により物体を確認して……特定することを試みる目検者」という、人間の作業が構成要件として書かれています。
特許 特許権者 権利になっている仕組み 登録
特許7051411(B2)FOOD & LIFE COMPANIES上流と下流のカメラで皿を数え、色ごとに客席別に集計する2022-04-01
特許7583346(B1くら寿司皿カバー同士をつなぐ連結具に広告表示を取り付ける2024-11-06
特許6590392(B1有限会社丸長商事伝票のコードを読むと配送先が決まり、厨房の表示が消える2019-09-27
特許6653813(B1サインポスト目視で特定できなかったときに、特定を助ける情報を出す2020-01-31
特許7007764(B2)TechMagic調理容器を洗浄位置まで運び、洗って再び調理に使う2022-01-12

①皿の枚数を上流と下流のカメラで数える(FOOD & LIFE COMPANIES・特許7051411)

特許番号特許第7051411号(公報種別 B2)
発明の名称飲食物の消費量カウント装置
特許権者株式会社FOOD & LIFE COMPANIES
出願/審査請求/登録2017年12月12日 / 2019年3月27日 / 2022年4月1日
審査経過/請求項数拒絶査定不服審判(不服2020-17720)を経て登録 / 3項(全8頁)

回転寿司の会計は、かつて店員が皿を数えていました。今はレーンやテーブルのセンサーで自動化されています。しかしこの自動化には、簡単には解けない問題があります。「取った皿」と「見送った皿」をどう区別するかです。

特許第7051411号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・抜粋)

(前略)前記テーブルの前記運搬経路上流に設けられ、前記皿を画像で検出することが可能な第1のカメラと、前記テーブルの前記運搬経路下流に設けられ、前記皿を画像で検出することが可能な第2のカメラと、前記第1のカメラで前記皿が検出されてから所定時間内に、前記第1のカメラで検出された前記皿が前記第2のカメラで検出されるか否かを判定する判定手段と、(中略)
前記カウント手段は、(中略)前記第1のカメラで検出されなかった前記皿が前記第2のカメラで検出されたときは、(中略)飲食物の消費量のカウント数を1減算し、
前記第1および第2のカメラの各々は、(中略)前記皿の色を識別可能であり、
前記カウント手段は、前記皿の色ごとに、対応する顧客グループについての飲食物の消費量をカウントする、消費量カウント装置。

読みどころ|「消えた皿」を数え、「増えた皿」を引く

仕組みは明快です。テーブルの手前と奥にカメラを置く。手前を通った皿が、決められた時間内に奥のカメラに現れなければ——その皿はそのテーブルで取られた。逆に、手前を通っていない皿が奥に現れたなら、それは別の席で戻された皿などですから、カウントを1つ減らす

この減算の一文が効いています。単に「通過した皿を数える」だけなら誰でも思いつきますが、現場では皿が戻されたり、隣の席の分が流れてきたりする。その狂いをどう補正するかが、実際に店で使えるかどうかを分けます。加えて請求項1は皿の色を識別し、色ごとに顧客グループ別に集計するところまで含んでいます。色=価格帯であり、かつグループの識別子にもなる。回転寿司という業態を知り尽くした設計です。

注目:この特許は一度は拒絶査定を受けています。書誌に審判番号(不服2020-17720)が記載されており、拒絶査定不服審判を経て登録に至りました。出願から登録まで4年3か月。全8頁・請求項3項という小さな出願が、粘り強い手続で権利になった例です。

②皿と皿のあいだを広告スペースにする(くら寿司・特許7583346)

特許番号特許第7583346号(公報種別 B1
発明の名称連結具
特許権者くら寿司株式会社
優先日/原出願/分割出願2024年2月9日 / 2024年6月28日 / 2024年7月12日(審査請求も同日)
早期審査/登録あり / 2024年11月6日(原出願から約4か月) / 請求項8(全25頁)

回転寿司のレーンを流れる皿には、衛生対策のカバーが被せられていることがあります。この特許が扱うのは、そのカバー付きの皿(公報の言葉では「収容体」)を2つつなぐための部品です。

なぜつなぐのか。公報の要約に、課題がはっきり書かれています。「飲食物が載った皿とともに搬送され、皿に載った飲食物の内容を知らせたり、あるいは宣伝広告等の表示を示すことができる」——つまり、皿と皿のあいだに“看板”を立てるためです。

特許第7583346号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・全文)

飲食物が載せられる容器を収容し、搬送路で搬送される一対の収容体を連結するための連結具であって、前記各収容体に取り付けられる一対の取付部と、前記一対の取付部を連結する連結部と、を備え、前記連結部は、顧客が視認可能な表示が施された表示部材を取り付け可能な長さに形成されている連結具。

読みどころ|レーンという“メディア”を権利化する発想

請求項1の決め手は、最後の一文です。連結部が「表示部材を取り付け可能な長さ」に形成されていること。ただ2枚の皿をつなぐ金具なら昔からあるでしょうが、広告板を差せる寸法であることを要件にしたことで、この連結具は単なる部品から店内メディアの支柱に変わります。

従属請求項も現場的です。連結部は一対の収容体の間隔を一定に維持できる剛性を持つ(請求項3)——ぐらぐらしては広告が読めません。取付部には回転防止部がある(請求項5)——皿が回ると広告が裏を向きます。円筒状の台座には環状の取付部で嵌める(請求項6)。どれも「実際にレーンで回してみた人」の限定です。

権利化の速さに注目:この特許は分割出願で、出願したその日に審査請求し、早期審査を経て、原出願から約4か月で登録されています。優先権主張日(2024年2月9日)から数えても9か月弱。本命の出願を出しつつ、分割で別の切り口を素早く押さえにいく——大手チェーンの知財運用が透けて見えます。分割出願の考え方は分割出願の知財戦略で解説しています。

③料理が届くと、厨房のモニターから注文が消える(有限会社丸長商事・特許6590392)

特許番号特許第6590392号(公報種別 B1
発明の名称オーダー装置
特許権者有限会社丸長商事
出願/審査請求/登録2019年3月6日 / 2019年4月2日 / 2019年9月27日(約6か月半
早期審査/請求項数あり / 5項(全27頁)/ 発明者:長田 伸夫

タッチパネルで注文する飲食店では、厨房のモニターに注文が次々と並びます。ここで起きがちなのが「この注文、もう出したっけ?」という混乱です。出したのに表示が残っていれば二重に作ってしまうし、消し忘れれば誰かが確認に走る。

特許第6590392号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・抜粋)

(前略)前記オーダー端末から入力された前記注文商品情報は、前記厨房端末へ厨房情報として、厨房内の表示画面に表示される画面表示情報と、ペーパーに印刷されるペーパー印刷情報とに出力され、(中略)前記ペーパー印刷情報としては、日本語あるいは前記厨房端末で選択した外国語の一方または双方での前記注文商品情報と、(中略)識別コード情報とが表示され、(中略)
前記厨房端末で前記ペーパー印刷情報としての前記識別コード情報の読み取りを行うことで配送先の設定を行い、その後に、前記厨房から商品を前記搬送体が前記配送レーンを用いて配送することで、前記オーダー端末情報及び前記注文商品情報を前記会計端末に出力可能になるとともに、前記画面表示情報から該当する前記オーダー端末情報及び前記注文商品情報が消去可能になるように形成したこと特徴とするオーダー装置。

読みどころ|「伝票を読む」という一手で、3つの処理を同時に起こす

この請求項の中心にあるのは、厨房で伝票の識別コードを読み取るという、たった一つの動作です。そしてその一手によって、①配送先が決まり、②会計端末へ注文が渡り、③厨房のモニターから表示が消える——3つの処理が連鎖します。

スタッフから見れば「料理を出すときに伝票をピッとするだけ」。しかしその裏で、配膳・会計・厨房表示の整合が同時に取れている。人が忘れるかもしれない操作を、必ずやる動作に紐づけた設計です。画面とペーパーの2系統に出すという構成も、モニターだけでは取り違えが起きる現場を知っているからこその一文でしょう。請求項に「日本語あるいは外国語」と書かれている点にも、多国籍のスタッフが働く厨房の実情が表れています。

注目:特許権者は有限会社、発明者は1名です。それでも全27頁・請求項5項の出願を行い、出願から約1か月で審査請求、早期審査を使って約6か月半で登録まで到達しています。会社の規模と、取れる特許の中身は別の話だということが、この1件によく表れています。

④無人レジの特許に“人が目で見る”と書いてある(サインポスト・特許6653813)

特許番号特許第6653813号(公報種別 B1
発明の名称情報処理システム
特許権者サインポスト株式会社
出願/審査請求/登録2018年10月12日 / 2018年11月9日 / 2020年1月31日
早期審査/請求項数あり / 13項(全75頁)(今回最大)

レジに並ばず商品を持って店を出る——いわゆる無人決済店舗の特許です。この分野の特許なら、当然「AIが商品を画像認識する」といった請求項が来ると思うでしょう。ところが請求項1を読むと、そこにいるのは人間です。

特許第6653813号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・全文)

商品の購入者を含む1以上の人が存在する店舗において利用される情報処理システムにおいて、物体を被写体に含む画像に対して、目視により物体を確認して前記購入者により購入される商品として特定することを試みる目検者が、目視による確認をする第1手法を用いて、当該物体を商品として特定することを試みた結果を取得する第1特定手段と、前記第1特定手段の結果に基づいて前記物体が商品として特定された場合に、特定された当該商品について精算処理を行う精算手段と、前記第1特定手段の結果に基づいて前記物体が商品として特定されなかった場合に、当該物体を商品として特定することに資する情報を含む所定の情報を提示する提示手段と、を備える情報処理システム。

読みどころ|「AIが失敗したとき、どうするか」を権利にしている

請求項1に登場する「目検者(もっけんしゃ)」は、画像を目で見て商品を特定しようとする人のことです。無人レジの中核特許が、人の目視を構成要件に据えている——これは一見すると後退のようですが、実務を知る目には逆に映ります。

この請求項が本当に押さえているのは、「特定できなかったとき」の処理だからです。商品が特定できた場合は精算する。できなかった場合は、特定することに資する情報を提示する。つまりこのシステムの発明は「完璧に認識すること」ではなく、認識に失敗する前提で、店を止めずに回し続ける仕組みにあります。

従属請求項がそれを裏づけます。請求項4では第1手法(目視)以外の第2手法を併用し、少なくとも一方で特定できれば精算する——人とAIの二重化です。請求項2は、年齢確認が要る商品で購入者の画像が不鮮明だった場合に購入者に連絡するための情報を出す。請求項3は、レジ端末の使い方のガイドを出す。失敗の種類ごとに、次の一手を用意しているのです。

全75頁・請求項13項という、今回いちばん厚い出願でもあります。それでいて出願から約1か月で審査請求し、早期審査で公開前に登録(B1)まで到達しています。

⑤鍋を洗って、また使う(TechMagic・特許7007764)

特許番号特許第7007764号(公報種別 B2)
発明の名称料理自動提供システム、飲食店、飲食店用自動システム、料理自動提供方法、プログラム及び記憶媒体
特許権者TechMagic株式会社
優先日/国際出願/登録2019年2月14日 / PCT/JP2020/005916(WO2020/166723) / 2022年1月12日
請求項数10項(全33頁)

調理ロボットというと、鍋を振る腕の動きに目が行きます。しかしこの特許の請求項1で、装置の構成として並んでいるものを見てください。

特許第7007764号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・全文)

顧客の注文に応じて複数種類の料理を調理可能な料理自動提供システムであって、食材を調理容器に供給する食材供給装置と、前記調理容器を加熱するための加熱装置と、前記調理容器を洗浄する調理容器洗浄装置と、前記調理容器を移動させることができる移動装置と、を少なくとも備え、前記移動装置は、前記調理容器を少なくとも前記食材供給装置から食材の供給を受ける食材供給位置、前記加熱装置により加熱する加熱位置、及び、前記調理容器洗浄装置により前記調理容器を洗浄する洗浄位置に移動させることができ、(中略)前記調理容器は前記調理容器洗浄装置により洗浄され、再度料理を調理するために使用されることを特徴とする料理自動提供システム。

読みどころ|「洗う」が構成要件に入っている

請求項1に調理容器洗浄装置が明記され、移動装置が容器を供給位置→加熱位置→洗浄位置へ運び、洗浄された容器が再び調理に使われることまでが要件になっています。つまりこの発明が権利にしているのは調理の腕前ではなく、鍋が1日中ぐるぐる循環し続けるという店の回り方です。

飲食店を実際に回すとき、洗い物は調理と同じくらい時間を食う工程です。そこを自動化のループに組み込まなければ、ロボットが作っても人が洗い続けることになる。従属請求項では麺加熱装置(請求項2)、麺供給装置(請求項3・麺保管手段/麺取出手段/麺搬送手段)と、業態を絞った具体化が続きます。汎用の調理ロボットではなく、麺類の店を丸ごと回すという照準の定め方です。

5件を並べて見える3つの型

型① 権利の核は「うまくいかなかったとき、どうするか」

数え間違えた皿を引き算する(FOOD & LIFE)。商品を特定できなかったときに特定を助ける情報を出す(サインポスト)。出し忘れが起きないように伝票を読む動作に消去を紐づける(丸長商事)。順調に動いている場面ではなく、狂ったときの処理が権利になっています。

これは示唆的です。うまくいく処理は誰でも思いつきますが、現場で必ず起きる例外をどう畳むかは、実際に店を回した人にしか書けません。ガチャ・ドローン・農業テック・医療テックの各回でも同じ結論に至りましたが、飲食・小売でも変わりませんでした。

型② 大手チェーンと有限会社が、同じ土俵にいる

今回の5件には、上場企業グループの特許(くら寿司・FOOD & LIFE COMPANIES)と、有限会社・発明者1名の特許(丸長商事)が並びます。しかも有限会社の出願は全27頁・請求項5項と、決して簡素ではありません。特許法は出願人の規模を問わない——毎回確認することですが、飲食業のように大手と個人店が同居する業界では、とりわけ意味を持ちます。

型③ 速さも粘りも、選べる

特許権者 経過 出願〜登録
くら寿司分割出願+出願日に審査請求+早期審査(B1)原出願から約4か月
有限会社丸長商事出願の約1か月後に審査請求+早期審査(B1)約6か月半
サインポスト出願の約1か月後に審査請求+早期審査(B1)約1年3か月
TechMagicPCT国際出願→国内審査約1年11か月
FOOD & LIFE COMPANIES拒絶査定→拒絶査定不服審判を経て登録約4年3か月

新業態の立ち上げに合わせて4か月で取りにいく道も、一度拒絶されてから審判で4年かけて取り切る道もあります。どちらが正しいということはなく、事業の都合で選ぶものです。

飲食・店舗の知財は特許だけではない|意匠・商標との棲み分け

飲食・小売業でよくあるのが、守りたいものと制度がズレているケースです。整理しておきます。

守りたいもの 主な制度
オペレーションの仕組み・装置
(本記事の5件)
特許。物品の形状・構造に特徴があるものは実用新案も選択肢(審査を経ずに登録される代わり、権利行使には技術評価書が必要)
店舗の内装・什器・盛り付けの見た目意匠。内装は2020年施行の改正で保護対象になりました → 内装・店舗内装の意匠保護事例飲食業界のデザイン保護事例
店名・メニュー名・ロゴ商標。飲食物の提供は第43類、商品の小売は第35類など、区分の選び方が要になります
レシピ・配合・仕入ノウハウ公開したくないなら営業秘密として管理する道も。特許は公開と引き換えの独占です

とくに最後の行は判断が要ります。特許出願の内容は原則1年6か月で公開されます。店に来れば見えてしまうもの(装置・レーン・端末の動き)は特許向き厨房の中だけで完結し外から分からないもの(配合・仕込みの手順)は秘匿向き、という大枠で考え、個別には専門家と検討してください。

飲食・小売事業者への実務示唆

① 「うちの店だけの回し方」を書き出す

今回の5件はいずれも、業務フローの工夫が権利になりました。ミスを防ぐために決めているルール、混雑時だけ変える段取り、二度手間をなくすために足した一手——マニュアルや朝礼で共有している「決めごと」の中に、出願候補が埋まっています。

② 新店舗・新業態のオープン前に相談する

飲食・小売は店を開けた瞬間に仕組みが公開される業界です。来店した誰もが仕組みを見られる以上、オープン後の出願は原則として新規性を失っています(救済制度はありますが、期間制限があり国によっては認められません)。プレス発表や内覧会の予定が立った時点が、相談のタイミングです。

③ 導入する設備・システムは、他社特許との関係も確認する

自社開発のシステムを入れる場合、他社の特許に触れないかの確認が要ります。似た機能があるだけでは侵害になりませんが、請求項の要件を一つずつ突き合わせる作業は専門家の領域です。進め方はFTO調査とは?特許侵害を予防する進め方と実施時期にまとめています。

④ 権利の生死は、その都度確認する

特許権は毎年の特許料を納めて維持されるもので、放棄されれば消滅します。本記事の5件は執筆時点でいずれも有効ですが、状況は変動します。判断の場面では、その時点でJ-PlatPatの経過情報を確認してください。

「飲食店の工夫が特許になるのか」というご相談について

本記事の5件のうち1件は有限会社・発明者1名の特許です。会社の規模は、特許を取れるかどうかとは関係がありません。分かれ目は、現場のどんな課題を、どんな段取りで解いたかを具体的に説明できるかどうかです。エボリクス(evorix.jp)では、飲食・小売・サービス業の業務システムやオペレーションの特許出願、店舗内装の意匠、店名・メニュー名の商標まで一貫してご相談を承っております。中小企業・個人事業主向けの減免制度の活用もふまえてご提案します。まずはお問い合わせフォームより、ご相談の流れとあわせてお気軽にどうぞ。

よくある質問(FAQ)

Q. 料理のレシピは特許になりますか?

A. 食品の製造方法や組成に新しさ・進歩性があれば、特許の対象になり得ます。ただし特許は内容を公開する制度である点に注意が必要です。公開されても外から真似したことが分かりにくい配合や仕込みの手順は、営業秘密として管理する方が適する場合があります。何を守りたいかによって使う制度が変わるため、切り分けの整理から始めることをおすすめします。

Q. 市販のPOSレジやモバイルオーダーを導入するだけでも、特許侵害になりますか?

A. 正規に販売・提供されている製品やサービスをそのまま使う場合、通常は提供元が権利関係を整理しています。注意が必要なのは、自社で独自のシステムを開発する場合や、複数のツールを組み合わせて独自の運用フローを作る場合です。本記事の特許はいずれも「システム」「装置」として権利が立てられており、機器を買ったかどうかとは別に検討が必要になります。

Q. 似た仕組みを自店で使うと、侵害になりますか?

A. 似ているだけでは侵害になりません。特許権の効力は、請求項に書かれた構成要件をすべて満たす実施にのみ及びます。たとえば特許第7051411号は「上流と下流の2つのカメラ」「所定時間内に検出されなければ消費とカウント」「皿の色ごとに顧客グループ別に集計」などを要件としており、これらのどれかを欠く仕組みは原則として非充足です。1つでも欠ければ、その請求項の侵害にはなりません

Q. 店をオープンしてしまった後でも、特許は取れますか?

A. 店頭で仕組みを公開した時点で、原則として新規性を失います。ただし一定の要件を満たせば新規性喪失の例外規定(特許法30条2項)により救済される可能性があります。公開から一定期間内(現行法では1年以内)に出願し、所定の手続をとる必要があり、国によっては認められません。手続の詳細はこちら。気づいた時点で早急にご相談ください。

Q. 「B1」の特許とは何ですか?

A. 公開公報が発行される前に登録された特許を指します。日本の出願は原則1年6か月後に公開されますが、審査がそれより速く進むとこの形になります。登録後の権利としての効力は通常の特許(B2)と同じです。本記事では5件中3件がB1で、いずれも早期審査を利用しています。公開公報の監視だけでは察知できないため、競合調査では登録公報まで追う必要があります。

Q. 個人店や数店舗の会社でも、本当に特許が取れますか?

A. 本記事の特許第6590392号は、有限会社・発明者1名による出願で、早期審査を使って約6か月半で登録されています。特許法は出願人の規模を問いませんし、中小企業・個人事業主には審査請求料や特許料の減免制度もあります。分かれ目は規模ではなく、解決した課題と手段を具体的に説明できるかどうかです。

まとめ

飲食・店舗テックの特許を5件、請求項の原文まで読みました。権利になっていたのは、装置の性能でも、AIの賢さでもありません。皿が戻されたときに数を引く。商品が特定できないときに助けの情報を出す。伝票を読む動作に、配送先の設定と厨房表示の消去を紐づける。鍋を洗って、また使う。——どれも、店を回したことがある人にしか書けない一文でした。

とりわけ印象的だったのは、無人決済の特許(サインポスト)の請求項1に「目視により……特定することを試みる目検者」という人間が登場したことです。完璧な自動化を謳うのではなく、認識に失敗する前提で店を止めない仕組みを権利にする。現場を知る事業者の発想が、そのまま権利の形になっていました。

飲食・小売を事業にしている方は、攻め(自店の段取りの権利化)・守り(導入システムのクリアランス)・使い分け(特許・意匠・商標・営業秘密)の3つを、出店や新業態の計画に組み込んでいただければと思います。

知的財産事務所エボリクスへのご相談

エボリクス(evorix.jp)では、飲食・小売・サービス業の知財を、特許(オペレーション・システム)/意匠(内装・什器)/商標(店名・メニュー名)にまたがって承っております。「この運用の工夫は権利にできるか」「新業態のオープン前に確認したい」「導入予定のシステムが他社特許に触れないか」といったご相談に、出店スケジュールを踏まえて対応いたします。まずはお問い合わせフォームより、ご相談の流れとあわせてお気軽にどうぞ。

本記事の注意事項:本記事は2026年8月時点の公開特許情報(特許庁J-PlatPat)に基づく一般的な解説です。引用した請求項は公報の記載に基づきますが、一部は紙幅の都合により抜粋であり、権利範囲は最終的に公報の正本と出願経過により定まります。権利の存続状況は特許料の納付状況等により変動します。公報には店舗名やサービス名の記載がないため、特定の店舗・チェーン・製品に当該技術が使われているかを断定するものではありません(会社名は公報記載の特許権者名です)。本記事の説明は理解を助けるための要約であり、権利範囲を画定するものではありません。食品衛生法その他の法令への適合性について本記事は何ら判断を示すものではなく、実施にあたっては別途専門家の検討が必要です。侵害の成否について本記事は何ら断定するものではなく、個別事案の結論を保証するものでもありません。

出典

杉浦健文 弁理士

AUTHOR / 執筆者

杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)

知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士

特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。