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台湾の意匠制度概要
1. 制度の概要(定義・目的・保護対象)
台湾における意匠権(設計専利)は、発明特許・実用新案と並ぶ「専利権」の一類型で、台湾専利法(1949年施行、以降度重なる改正)によって規定されています。主管官庁は経済部知的財産局(台湾特許庁, TIPO)であり、意匠出願・登録等の事務を担当しています。専利法上、意匠とは「物品の全部または一部の形状、模様、色彩、またはこれらの結合であって、視覚に訴える創作」と定義されており、物品の見た目のデザインに対して権利保護を与える制度です。制度の目的は、デザイン創作を奨励・保護しその利用を促進することで産業の発展を図る点にあります。
台湾の意匠制度では、以下のようなものも保護対象に含まれます。すなわち、組物の意匠(習慣上セットで販売・使用される複数物品の統一デザイン)や、コンピュータのグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)・アイコンのデザイン、部分意匠(製品の一部にかかるデザイン)なども登録可能です。さらに、一出願人が類似する複数の意匠を有する場合には、関連意匠制度により、それらを本意匠と関連意匠として紐付けて保護することも認められています。ただし、純粋に美術品・美術工芸品として鑑賞されるもの(産業上利用できないもの)や、公序良俗に反するデザインなどは保護対象外です(詳細は登録要件を参照)。
2. 登録要件(新規性・創作性・公開・先願主義など)
台湾で意匠登録を受けるには、専利法に定められた実体要件を満たす必要があります。主な登録要件は以下のとおりです。
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一意匠一出願(単一性): 一つの出願につき登録できる意匠は原則一つのみです(専利法第129条)。複数の意匠を一件で出願した場合、分割出願によって補正する必要があります。また、同一または類似の意匠について複数の出願が競合した場合は先願主義が適用され、最先の出願人のみが登録を受けることができます。
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視認性: 意匠に係る物品は、その製品寿命中いずれかの時点で使用者または消費者から目視できることが要求されます。たとえば製品内部に隠れるデザインは保護されませんが、一時的でも外部から見える部品デザインや、顕微鏡で視認可能な微細なカット等(宝石のカットやLEDの形状など)はこの要件を満たし得ます。
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産業上の利用可能性: 意匠は工業的に量産可能な物品のデザインであることが必要です。純粋に芸術的な創作物や美術工芸品(量産を予定しない一点物の美術品など)は産業上利用できないため、意匠登録の対象外とされています。
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新規性: 出願時において国内外で公知・公用でないこと、かつ出願日以前に他人により台湾内外で出願された意匠と同一または類似でないことが求められます。要するに世界的な新規性が要求され、既存の公開デザインや先願の存在は登録の障害となります。もっとも、出願前にデザインが公表された場合でも、一定の要件下では新規性喪失の例外が認められます。具体的には、**(1)刊行物での発表、(2)政府主催または認可の展示会への出展、(3)**出願人の意思に反する漏洩――のいずれかによって公開された場合には、公表日から6ヶ月以内であれば自己の意匠を出願可能です(グレースピリオド6ヶ月)。この制度により、不測の公表や展示会出品後でも一定期間は新規性を維持できます。
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創作非容易性(創作性): 意匠が属する技芸分野における通常の知識を有する者が、先行意匠から容易に考え出せない程度にデザイン上の創作的特徴を有することも要求されます。いわゆる創作性・進歩性の要件であり、ありふれたデザインの単なる寄せ集めやごくありふれた変更に留まる場合には、この要件を満たしません。
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その他の不登録事由: 公序良俗または公衆衛生を害するおそれのある意匠、公然と知られた他人の肖像や有名キャラクターを含む意匠、他人の著作物を無断利用した意匠などは、公序良俗違反等を理由に登録が拒絶されます。また、製品の機能のみから必然的に定まる形状(純粋に機能的な形状)のデザインは、意匠としての美感を欠くため登録不可とされています。
以上の要件を満たし、方式面でも適法な出願であれば、台湾では意匠登録を受けることが可能です。審査においては、審査官がこれらの点(新規性・創作非容易性の有無、公序良俗抵触の有無など)を実体的に判断します。特に台湾は意匠について実体審査主義を採用しているため、類似する先行意匠の有無などを調査の上、要件該当性が厳格にチェックされます。
3. 出願手続き(出願人要件・提出書類・出願方法・優先権主張など)
出願資格について、台湾では国内外の法人・個人を問わず意匠出願が可能ですが、台湾域外に住所または営業所を有する出願人は、現地の特許代理人(弁理士)を通じて手続きを行う必要があります(代理人選任が義務付けられています)。これは日本と同様の制度で、外国企業・個人が台湾に出願する際は台湾知財局に認可された代理人に委任状(Power of Attorney)を提出して手続きを依頼する形になります。委任状は出願時に提出するのが望ましいですが、提出漏れの場合でも出願日から最長6ヶ月以内であれば補完提出が認められます。言語面では、**台湾は中国語(繁体字)**が公用語となりますが、外国語書面による出願も暫定的に認められています。例えば日本語や英語の明細書・図面でいったん出願して出願日を確保し、その後4ヶ月以内(延長2ヶ月可)に中国語訳を提出することで正式な出願とすることも可能です。これは出願の早期日付確保に有用な制度です。
提出書類としては、まず所定の様式による願書(設計専利出願書)が必要です。願書には、創作者(デザイナー)および出願人の氏名・住所・国籍、意匠の名称、ロカルノ分類による区分、優先権を主張する場合はその旨(基礎出願国・出願日・出願番号)等を記載します。願書に添付する形で明細書(説明書)と図面一式も提出します。明細書には、意匠に係る物品の名称、物品の用途、意匠の創作内容に関する説明等を記載します。特に部分意匠の場合は、その部分がどのような製品に組み込まれるかについても記載する必要があります。ただし台湾では、日本のような詳細な意匠説明書は必須ではなく、意匠の名称のみが記載必須項目で、用途と意匠の詳細説明は任意提出でも構いません。図面については、工業製図法に準拠した明瞭な図(黒線図や写真、CG図面等)を用いて、当業者が見て意匠の詳細を理解できるように複数の視点から製品の外観を示す必要があります。GUIやアイコン等の画像デザインを含む場合は、画面表示の遷移や立体的形状を適切に示す追加図面や斜視図を用意し、必要に応じ代表図を複数指定することも求められます。カラーで出願する場合はカラー図面を提出し、モノクロ出願後に色彩のみ付加することは認められない点など、図面作成には実務上の注意が必要です(出願時の図面が権利範囲を決定します)。
優先権の主張について、台湾はパリ条約未加盟ながらWTO加盟国であり、TRIPS協定上パリ条約と同等の優先権保護を提供しています。そのため、台湾と相互に優先権を認め合う国、またはWTO加盟国で行った先の意匠出願を基礎として、最初の出願日から6ヶ月以内に台湾に同一意匠を出願すれば優先権を主張可能です。例えば日本で出願した意匠について6ヶ月以内に台湾出願すれば、その日本出願日を基準に新規性・創作性を判断してもらえるということです(意匠の優先期間は6ヶ月)。優先権主張を行う場合、願書に基礎出願の国・日付・出願番号を記載し、優先権証明書(基礎出願の公報写し等)の原本を基礎出願の最先日から10ヶ月以内に提出する必要があります。証明書は電子データで提出可能で、日本の出願を基礎とする場合にはJPO発行のアクセスコード通知で代替することもできます。なお、出願後に優先権主張を追加することはできないため、優先権を利用する場合は必ず出願時に申告する点に注意が必要です。
出願方法は、紙による提出に加え電子出願も整備されています。経済部知的財産局のオンライン出願システムから電子的に願書等を提出することが可能で、手数料の割引等の優遇もあります(2023年時点)。出願料は1件あたりNT$3,000(約1.3万円)で、出願時に納付します。出願日認定は、願書・明細書・図面が揃った日に与えられます。提出書類に不備がある場合は方式審査で補正指令が出されますが、所定期間内に補正すれば当初の出願日が維持されます。出願から登録までの処理期間は比較的短く、平均的な審査期間はファーストアクションが約6ヶ月、最終処分(登録査定または拒絶査定)が約9ヶ月程度となっています。これは他国と比べ迅速な部類であり、台湾での意匠権取得はスピーディーに進む傾向があります。
4. 審査制度(方式審査・実体審査の有無、審査期間、審査基準など)
台湾は意匠について実体審査主義を採用しています。出願後、特許庁による方式審査(書類不備や形式要件のチェック)を経て、自動的に実体審査に移行します。日本のような審査請求制度はなく、出願さえすれば全件が審査対象となる仕組みです。方式審査では、願書の記載事項欠落や手数料未納、必要書類(委任状・優先権書類等)の有無が点検され、不備があれば補正の機会が与えられます。方式要件をクリアした出願はそのまま審査官による実体審査へ送られます。
実体審査では、前述の登録要件を満たすかどうかが審査官によって吟味されます。審査官は先行意匠の調査を行い、新規性・創作非容易性に反する先行デザインがないか、公序良俗違反や純粋機能的形状でないか等を判断します。類似する先願が存在する場合は拒絶理由となり、出願人に「拒絶理由通知」が送付されます。拒絶理由通知を受けた出願人は、通知に示された期間内(台湾在外者の場合3ヶ月以内、1回限りさらに3ヶ月延長可)に意見書や補正書を提出して反論・補正を行うことができます。補正により図面や説明に手を加える場合、出願時に示した意匠の範囲を逸脱しない範囲でのみ認められ、範囲を超える新規事項の追加は不可です(範囲超過補正は無効理由となり得ます)。審査官は出願人の応答内容を検討し、なお拒絶理由が解消しないと判断すれば「拒絶査定」を出します。逆に、拒絶理由がないか全て解消すれば登録査定(特許査定)が出され、出願は登録許可となります。
拒絶査定が下された場合、出願人は不服があれば査定の送達日から2ヶ月以内に経済部知的財産局に対し「再審査」を請求できます。再審査では別の審査官が改めて審理し、必要に応じて拒絶理由を通知した上で判断が下されます。再審査でも拒絶維持となった場合、査定送達から30日以内に経済部(主管官庁)に対し行政不服申立てである「訴願」を提起できます。訴願審理(行政審判)でも覆らない場合は、知的財産法院への行政訴訟(知財訴訟)に進み、最終的に司法判断を仰ぐことになります。以上のフローにより、出願人には複数段階の不服申立て手段が用意され、公正な審査の担保が図られています。
審査基準面では、2020年11月に意匠審査基準の改訂が行われ、建築物の外装・内装デザインが明文で保護対象に加えられたほか、画像・アイコン意匠の取り扱いや分割出願の要件緩和、明細書・図面の開示要件の緩和等が実施されました。これにより、例えば建物の内装デザイン(店舗の内装等)も意匠登録可能であることが明確化されています。また近年の改正(2013年施行の改正など)で部分意匠や画面デザインが導入された経緯があり、審査基準でもそれらの新しい保護対象に対応した詳細な運用ルールが定められています。台湾の審査基準は日本の意匠法に類似した考え方を多く採用しており、新規性・創作性判断では「視覚上の全体的な印象」を基準に類否を判断する点や、機能追随形状の意匠は特許性無しと扱う点など、実務者にとって理解しやすいものとなっています。総じて、台湾の意匠審査制度は迅速かつ実体的な審査により、確実な権利付与と無効な権利の排除を両立する運用がなされています。
5. 保護期間と権利内容(存続期間、更新の可否、専用権の範囲)
存続期間: 台湾の意匠権の存続期間は、意匠登録出願日から起算して15年と定められています。意匠権は登録公告の日に発生し(=権利の効力が発生する日)、その出願日から15年経過した日の満了をもって消滅します。以前は12年だった存続期間が2019年改正専利法で延長され、現在は15年となりました。この期間延長は2013年以前に比べ権利保護を強化するものです。意匠権には日本のような中間更新制度(更新登録制度)はなく、一旦登録されれば15年間を上限として自動的に権利が持続します(満了後の延長・更新は不可)。ただし権利維持のために年金(年次登録料)の納付が必要で、2年目以降毎年、所定の登録料を納付しなければ権利は途中で失効します。年金は1~3年目は年800元、4~6年目は年2,000元、7年目以降は年3,000元と段階的に増額する体系で、最大15年分まで一括前納も可能です。万一納付を失念しても、登録日から6ヶ月以内であれば追納(2倍額の納付)により権利を復活可能な猶予措置も設けられています。適時の年金納付管理が実務上重要です。
権利内容(専用権の範囲): 登録意匠について権利者に与えられる専用権は、登録意匠およびそれと同一または類似する意匠を無断で業として実施することを排他的に禁止できる権利です。ここで「実施」とは、登録意匠を 製造・使用・販売・販売の申出(申し込み)・輸入 する行為等を指し(専利法第11条第1項)、営利目的で権利者のデザインを製品化・流通させる行為はすべて専用権の範囲に属します。したがって、意匠権者は他者による同一デザインのコピー商品はもちろん、見た目の印象が近似する程度に類似したデザイン製品についても差止め請求が可能です。もっとも、意匠権で保護されるのはあくまでその登録意匠と視覚上実質的に同一・類似のデザインに限られます。他人が全く異なる印象のデザインを創作した場合まで規制するものではなく、意匠権の技術的範囲(権利範囲)は図面に表れた具体的形状によって定まります。権利範囲の判断では、普通の消費者の視点で全体観察し、需要者に誤認混同を生じるほど似ているかが基準とされています。また、関連意匠制度により登録された関連意匠については、本意匠と類似範囲が重なる場合でも相互に独立した権利として存続し得ます。ただし関連意匠の存続期間は本意匠と同一であり、本意匠権が満了すると関連意匠権も同時に満了します。
なお、専利法上は発明・実用新案・意匠いずれの権利も「権利行使は公告日から可能」と規定されており、意匠の場合も登録公告と同時に専用権が発生します。それ以前(審査中)は権利行使できません。また、台湾は国際消尽の原則を採用しており、権利者または許諾を得た者によって台湾国外で適法に販売された商品については、当該商品を台湾に輸入・販売しても意匠権侵害とならない可能性があります(判例上、特許権等で国際的な権利消尽を認める傾向にあります)。この点は並行輸入の可否に関わるため、実務上留意すべき事項です。総じて、台湾の意匠権は製品デザインの模倣品流通を排除し、権利者に独占的なデザイン利用権を保証する内容となっています。
6. 無効・取消制度(無効理由、手続き)
台湾では、登録された意匠に対して利害関係人だけでなく何人も無効審判を請求することができます。無効審判(意匠専利無効審判)は、特許庁(経済部知財局)の審判部門に対して行う手続で、登録意匠に無効理由(専利法第141条各号に定める事由)がある場合に登録の取消しを求めるものです。無効理由として主張できる典型例は、登録要件を満たしていなかったことです。例えば、登録意匠が新規性を欠いていたり、創作非容易性を欠いていた場合、あるいは専利法上登録が認められない公序良俗違反や純粋機能的形状であった場合などは無効理由になります。また、出願時に本来一意匠一出願であるべきところ複数意匠を含んでいたのに適切に分割されず登録されたケースや、図面・明細書の開示不備(意匠の要部が十分に開示されていない)など方式面の瑕疵も無効理由となり得ます。さらに、他人の意匠を盗用して出願したような場合(真正な権利者ではない者による出願)も、利害関係人が無効を主張できる場合があります。
無効審判の請求人は、無効理由を裏付ける証拠(刊行物や先行意匠の写真・図面など)を提出する必要があります。審理は書面審理が基本ですが、必要に応じて当事者から意見を聴取することもあります。審判の結果、無効理由があると認められればその意匠登録は取消決定となり、登録は初日に遡って無効となります(登録が最初から存在しなかったものとみなされる)。逆に無効理由が認められなければ維持決定がなされます。審判決定に不服がある場合、請求人・権利者の双方が知的財産法院へ訴訟(行政訴訟)を提起して争うことができます。
専利法では無効審判請求に時期的制限は設けられておらず、意匠権の存続期間中であればいつでも請求可能です(権利消滅後は請求不可)。もっとも、意匠権が消滅した後でも存続期間内の侵害による損害賠償訴訟などでは無効主張(抗弁)を許す実務運用があり、既に消滅した権利でも無効理由の有無が問題となる場合があります。権利者側の防御手段として、無効審判請求に対し訂正請求を提出することも可能です。訂正請求とは、意匠登録の図面や説明の一部を減縮・限定する手続で、無効理由を解消する目的で行うものです。台湾でも特許(発明)と同様に、審判継続中に訂正審判を請求して権利内容を減縮し、無効回避を図ることが認められています。ただし訂正は権利範囲の拡張や新規事項追加はできず、図面の微修正や誤記補正など限定的な範囲に留まります。訂正が認められ権利が維持された場合でも、訂正後の図面に基づき権利行使することになります。
以上のように台湾の意匠無効制度は、第三者が公正に権利の有効性を争う手段を提供し、不備のある登録の排除を可能にしています。一度無効が確定した意匠について、その原因が先願の存在であった場合などには、真の権利者が改めて出願し直す救済措置もあります(例えば他人に先願されていたため無効になった場合、無効確定後2ヶ月以内であれば真正な創作者が新たに出願できる制度)。権利の安定性と公衆利益のバランスを図る観点から、無効審判制度は重要な役割を果たしています。
7. 権利行使・侵害対応(侵害の定義、救済措置、損害賠償請求、差止など)
侵害の定義: 台湾意匠権の侵害とは、権利者の許諾なく登録意匠またはそれに類似する意匠を業として実施する行為を指します。具体的には、登録意匠を組み込んだ製品の製造・使用・販売・輸出入・販売の申し出といった行為が該当します(専利法第11条、第142条)。意匠の場合、その「実施」とは主に製品の製造販売等となり、デザイン自体の利用行為が問題となります。他人の製品が自社の登録意匠と全体として同一または視覚上ほぼ同じ印象を与える場合、侵害が成立すると判断されます。ただし僅かな類似ではなく、需要者に誤認混同を生じさせる程度の類似性が必要であると解されています。台湾の専利法自体は意匠侵害の判断基準を詳細には定めていませんが、実務上は米国やEUの「普通観察者による全体視覚的印象テスト」に類似した方法で類否判断が行われています。裁判例でも「全体観察と総合判断」によって被疑製品と登録意匠の外観を比較し、普通消費者の観点で同一・類似かを判断すべきとされています。従って、一部ディテールが異なっても、共通するデザイン要素が当業界でありふれていない独自の特徴であり、全体の印象が近ければ侵害と認められる可能性があります。逆に、既存の意匠に広く見られるありふれた要素しか共通していない場合には、多少の類似では侵害と認定されにくい傾向にあります。このように、台湾の侵害判断は日本と同様に全体的な美感の類否に基づいて行われます。
救済措置: 意匠権が侵害された場合、権利者は民事上および行政上の手段で救済を図ることができます。まず民事的救済として、台湾民法および専利法に基づき差止請求と損害賠償請求が可能です。差止請求は、侵害行為の停止や将来の侵害禁止を求める請求で、訴訟提起前に内容証明郵便等で侵害者に警告するケースもあります。また、完成品だけでなく侵害の準備行為(例えば在庫品の保管や部品の譲渡など)に対しても差止めの対象となり得ます。損害賠償請求では、侵害によって被った損害額の賠償を侵害者に求めます。損害額の算定方法は専利法第97条に規定されており、典型的には**(1)権利者が失った利益(逸失利益)、(2)侵害者が得た利益の額、(3)相当なロイヤリティ額、のいずれかを立証して請求します。故意侵害の場合には懲罰的損害賠償として認定額の1~3倍までの賠償を命じる規定も追加されています(2013年改正)。さらに、裁判所に対し侵害品やその製造設備の廃棄**や差押えを求めることもできます。これらは民事訴訟(知的財産法院が管轄)で権利者が請求することになります。
刑事措置: 台湾ではかつて特許・意匠権侵害に刑事罰(罰金や懲役)が規定されていましたが、2003年3月31日以降、特許(発明・実用新案)および意匠権侵害の刑事責任は廃止されました。現在は意匠権侵害は民事上の不法行為として扱われ、刑事告訴による制裁はできません。この点は日本(意匠権侵害は非親告罪の刑事罰あり)と異なるため注意が必要です。ただし、悪質な営業秘密侵害や商標権侵害など他の法律に抵触する場合は別途刑事責任が問われる可能性がありますが、純粋な意匠模倣については刑事罰の対象外です。
行政措置: 稀にですが、関税法等に基づく税関での水際措置も商標と同様に特許・意匠で可能になりました(2014年改正)。侵害が疑われる物品の輸出入を税関で差し止める制度で、意匠権者が証拠を添えて税関に申立てを行うことで、侵害品の輸入差止めが図れます。この制度は発明特許などと合わせ導入されたもので、権利行使手段の一つとして活用できます。
以上より、台湾における意匠権侵害に対しては主に民事手段で対抗することとなり、差止めによる侵害防止と損害賠償による補償が二本柱です。権利者はまず侵害者に警告を発し、自主的な侵害停止・和解を促すのが一般的ですが、応じない場合には速やかに知的財産法院へ訴訟提起し仮処分(仮差止命令)の申立てを検討します。台湾の知的財産法院は知財専門の裁判所であり、審理も比較的迅速です。侵害訴訟では被告が無効主張(登録意匠の有効性へ異議)を行うことも通常ですが、無効審判が別途提起されていれば訴訟と並行して審理されます。勝訴判決を得た後は強制執行手続に移行し、侵害品の廃棄や差止の履行が実現されます。総じて、台湾の意匠権行使は日本に近い制度設計となっており、模倣品に対する法的措置を講じやすい環境にあります。
8. 国際出願(ハーグ協定加盟状況や外国出願との関係)
ハーグ協定への加盟状況: 台湾(中華民国)は現時点で意匠の国際登録制度であるハーグ協定の締約国ではありません。そのため、ハーグ国際出願によって台湾を指定し意匠権を得ることはできず、台湾で意匠保護を求める場合は台湾に直接出願する必要があります。これは香港やマカオと同様の状況で、国際的な意匠出願ルートを利用できない点に注意が必要です。また、台湾は意匠分類についてもロカルノ協定に未加盟ですが、実務上は**ロカルノ分類(国際意匠分類)**を採用しています。出願書類にもロカルノ分類のクラス・サブクラスを記載する欄があり、国際基準に沿った形で審査・管理が行われています。もっとも協定未加盟のため、ロカルノ分類の改正への正式な拘束力はありませんが、実務上は最新の国際分類に即して運用されています。
外国出願との関係: 前述のとおり台湾はパリ条約にも加盟していませんが、WTO加盟国としてTRIPS協定を通じ優先権制度を運用しています。つまり、台湾と相互に優先権を認める関係にある国(台湾が独自に承認した国)またはWTOメンバー国での先願に基づき、台湾へ6ヶ月以内に意匠出願すればパリ条約に準じた優先権が認められます。日本を含む主要国はWTO加盟国であるため、実務上パリ優先権と同等の取り扱いが受けられます。また、台湾は中国(大陸)とは独立した知財制度を持っており、互いに優先権関係もありません。中国本土で登録した意匠は台湾では効力を持たないため、台湾市場をカバーするには別途台湾出願が必要です(その逆も然り)。台湾企業が中国で意匠を保護する場合も、中国国家知識産権局に出願する必要があります。いわゆる“一国二制度”の文脈で、中国本土・香港・マカオ・台湾はそれぞれ独自の意匠制度である点に留意ください。
国際協力の面では、台湾知財局(TIPO)は各国特許庁との間で審査ハイウェイ(PPH)や優先権書類の電子交換などの協定を結んでおり、日本との間でも優先権証明書類の電子的交換が実施されています。これにより日本出願を基礎に台湾で優先権主張する場合、JPOのアクセスコードを用いることで証明書提出が簡略化されます。また審査結果の相互利用を促進するための審査ハイウェイに台湾は参加しており、日本・米国・韓国など複数国との間で意匠の早期審査制度(PPH)を運用しています。例えば日本で登録になった意匠について台湾で早期審査を請求し、迅速に登録を得ることも可能です(要件を満たせばFirst Actionまで数ヶ月程度に短縮されます)。
まとめると、台湾への意匠出願は直接出願が唯一のルートであり、国際登録制度を利用できない点に注意が必要です。他国で出願した意匠について台湾でも権利化したい場合、6ヶ月の優先期間内に台湾へ出願を済ませることが推奨されます。ハーグ協定未加盟ではありますが、実務上は各国との連携も進んでおり、日本企業にとっても比較的手続しやすい環境が整備されています。台湾市場展開を見据える企業は、早めに台湾意匠出願を検討し、現地代理人と連携して権利取得を進めることが肝要です。
【参考文献・情報源】
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台湾専利法(中華民国専利法)および同施行細則
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台湾経済部知的財産局(TIPO)公式サイト
- 維新国際専利法律事務所「台湾 意匠登録出願 審査及び行政救済フロー」(2021年)
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Tai E 国際特許法律事務所「台湾の意匠権侵害の判断について」(2025年4月)
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JETRO「台湾における知的財産権制度」(最終更新2023年)
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日本特許庁・新興国等知財情報データバンク「台湾 意匠制度概要・模倣対策マニュアル」(2021年)