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【弁理士解説】ハッシュタグは商標登録できる?SNSマーケティングに潜む「商標権侵害」の法的リスクと回避策を徹底網羅

 

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はじめに:SNS時代の「言葉」は資産であり、地雷でもある

Instagram、X(旧Twitter)、TikTok、YouTube。

現代のビジネスにおいて、SNSマーケティングを避けて通ることはできません。その中で、情報の拡散や検索の鍵となるのが「ハッシュタグ(#)」です。

企業や個人事業主の皆様の中には、

「キャンペーンのタイトルをハッシュタグ化して流行らせたい」

「競合他社の人気タグにあやかって、自社商品の検索数を増やしたい」

とお考えの方も多いでしょう。

しかし、その何気ない「#」の投稿が、企業のブランドを揺るがす法的トラブルの火種になることをご存知でしょうか?

  • 「自社で作ったハッシュタグを、他社に勝手に使われて売上を奪われた」

  • 「軽い気持ちで流行りのタグを使ったら、商標権侵害で高額な損害賠償を請求された」

これらは決して架空の話ではありません。実際に日本国内の裁判でも、ハッシュタグの使用が商標権侵害であると認められた判例が出ています。

本記事では、知的財産のプロフェッショナルである弁理士の視点から、「ハッシュタグと商標」の複雑な関係について、どこよりも詳しく、そして実務的に解説します。

攻め(商標登録)と守り(侵害回避)の両面から、SNS担当者が知っておくべき知識を完全網羅しましたので、ぜひ最後までお読みください。


第1章:そもそも「ハッシュタグ」は商標登録できるのか?

結論から申し上げますと、ハッシュタグであっても商標登録は可能です。

しかし、すべてのハッシュタグが登録できるわけではありません。特許庁の審査基準には明確なルールが存在します。

1. 「#」がつくだけでは識別力は生まれない

商標登録の最も重要な要件は「識別力(自他商品識別機能)」です。つまり、「そのマークを見れば、どこの会社の商品・サービスか分かる」という機能です。

特許庁の運用では、ハッシュタグの「#」自体は、単なるラベルや検索用の記号として扱われ、識別力を有しないと判断される傾向にあります。

したがって、審査の実質的な対象となるのは、「#」を除いた文字部分です。

2. 登録できないハッシュタグ(記述的商標)

以下のようなハッシュタグは、原則として登録できません。

  • 商品の品質・内容を表すもの

    • 例:「#美味しい」「#オーガニック」「#激辛」「#送料無料」「#新発売」

    • これらは商品の説明に過ぎず、誰の商品かを区別できないためです。

  • キャッチフレーズや挨拶

    • 例:「#頑張ろう日本」「#おはよう」「#今週のおすすめ」

    • 単なる宣伝文句や慣用的な表現も、識別力がないと判断されます。

3. 登録できる可能性が高いハッシュタグ

一方で、以下のような場合は登録の可能性が十分にあります。

  • 造語や独自のブランド名

    • 例:「#(自社ブランド名)」「#(独自の商品名)」

    • 「#」の後ろにある言葉自体が、他社と区別できる特徴的なものであれば登録可能です。

  • 「#」を含めたロゴデザインとして出願する

    • 文字だけでは登録が難しい場合でも、特徴的なロゴマークとしてデザイン化することで、登録が認められるケースがあります。

4. 戦略的アドバイス:「#」なしで登録するのが王道

実務上のテクニックとして、私はクライアントに対し、あえて「#」を付けずに、文字のみで商標登録することを推奨するケースが多いです。

なぜなら、「ABC」という文字で商標権を取っておけば、SNS上の「#ABC」という使用に対しても権利行使できる可能性が高いからです(商標の類似範囲とみなされるため)。逆に、「#ABC」という形で権利を取ってしまうと、権利範囲が「#がついている形」に限定されてしまうリスクがあります。

※あくまでケースバイケースですので、具体的な出願戦略は弁理士にご相談ください。


第2章:知らないと怖い!ハッシュタグが「商標権侵害」になる境界線

「商標登録したい」という相談以上に深刻なのが、「他社の商標権を侵害してしまったかもしれない」という相談です。

SNS運用担当者が最も恐れるべきは、何気なくつけたハッシュタグが「商標権侵害」となり、警告書が届いたり、アカウント停止に追い込まれたりすることです。

1. 判例が示した基準(令和3年「シャルマントサック事件」)

ハッシュタグと商標権侵害に関するリーディングケースとして有名なのが、大阪地裁で争われた「シャルマントサック事件(令和3年9月27日判決)」です。

この裁判では、フリマアプリ上で、ハンドメイド商品を販売する出品者が、説明文に「#シャルマントサック」等のハッシュタグをつけていた行為が、商標権侵害に当たるかどうかが争われました。

裁判所は、以下の理由から商標権侵害を認めました

  1. 出所表示機能がある: そのハッシュタグが、単なる検索用タグを超えて、商品のブランドを示すものとして認識される使い方がされていた。

  2. 顧客誘引の意図: 有名ブランドのタグをつけることで、そのブランドを探しているユーザーを自分の商品ページに誘導しようとする意図(フリーライド)があった。

この判決は、「ハッシュタグだからといって商標法の例外ではない」ということを司法が明確に示した、非常に重い意味を持つものです。

2. 「商標的使用」かどうかが分かれ目

すべてのハッシュタグ使用が侵害になるわけではありません。法的には「商標的使用(しょうひょうてきしよう)」に該当するかが判断の分かれ目となります。

【セーフ(侵害にならない)可能性が高いケース】

  • 純粋な記述的説明:

    「このスマホケースは #iPhone13 に対応しています」のように、対応機種を説明するために登録商標を使う場合。

  • 個人の感想・話題:

    「今日のランチは #マクドナルド で食べた。美味しかった!」のような、日記的な投稿。これは商標としての使用(自分の商品を売るための表示)ではないため、原則として問題ありません。

【アウト(侵害になる)可能性が高いケース】

  • 便乗商法(フリーライド):

    無名のスニーカーを販売する際に、検索流入を狙って「#NIKE #adidas」とタグ付けする。

  • ブランドの誤認混同:

    自社商品があたかも有名ブランドとのコラボ商品であるかのように誤解させるタグ付け。

  • 広告バナーでの強調:

    インスタグラム広告の画像内で、他社の商標をハッシュタグ形式で大きくロゴのように配置する。


第3章:SNSマーケティング担当者が陥りやすい3つの落とし穴

ここでは、実際のビジネス現場で起こりやすいトラブルのパターンと対策を深掘りします。

落とし穴①:キャンペーンタグの乗っ取り

自社で「#〇〇コンテスト」というキャンペーンを企画し、多額の広告費をかけて拡散させたとします。しかし、この「〇〇」という言葉を商標登録していなかった場合、競合他社が同じハッシュタグを使って便乗投稿を行い、顧客を横取りする可能性があります。

【対策】

独自のキャンペーンタグを作る際は、企画段階で商標出願を済ませておくことがベストです。商標権があれば、プラットフォーム側(Meta社やX社など)に対して、商標権侵害を理由とした削除申請(takedown request)をスムーズに行うことができます。

落とし穴②:インフルエンサーマーケティングの管理不足

企業がインフルエンサーにPR投稿を依頼する際、インフルエンサーが自己判断で「#(他社ブランド名)」をつけて投稿してしまうケースがあります。

この場合、依頼主である企業も共同不法行為責任を問われるリスクがあります。

【対策】

インフルエンサーとの契約書において、「他者の知的財産権を侵害しないこと」を明記するだけでなく、使用するハッシュタグのリスト(ホワイトリスト)と、使用してはいけないハッシュタグ(ブラックリスト)を事前に共有し、投稿前のチェック体制を構築することが重要です。

落とし穴③:略称・愛称の無断使用

正式名称でなくても、略称が商標登録されているケースは多々あります。

(例:「マクドナルド」だけでなく「マック」「マクド」、「スターバックス」だけでなく「スタバ」も商標登録されています)

「正式名称じゃないから大丈夫だろう」という安易な判断で略称タグを商用利用するのは危険です。


第4章:ビジネスを加速させる「攻め」のハッシュタグ戦略

リスクの話が続きましたが、商標権は本来、ビジネスを強くするための武器です。ハッシュタグを戦略的に権利化するメリットを解説します。

1. ブランドコミュニティの独占と保護

特定のハッシュタグを中心にファンコミュニティ(UGC)が形成されている場合、そのキーワードを商標登録することで、コミュニティの「場の空気」を守ることができます。

スパム業者や無関係なビジネス勧誘がそのタグに群がってきた際、商標権を根拠に排除できるからです。

2. ライセンスビジネスへの展開

非常に人気のあるハッシュタグ(造語)を生み出すことができれば、そのタグを使用する権利を他社にライセンスし、使用料を得るというビジネスモデルも考えられます。

特にアパレルやイベント業界では、キャッチーなワード自体が価値を持ちます。

3. 指定商品・役務(区分)の選び方がカギ

ハッシュタグを商標登録する際、どの「区分(ジャンル)」で登録するかが非常に重要です。

例えば、アパレルブランドであれば「第25類(被服)」は必須ですが、SNSキャンペーンを見据えるなら「第35類(広告)」や「第41類(情報の提供・イベントの開催)」も押さえておく必要があります。

この「区分の選定」を誤ると、「服の商標は持っているが、ネット上の広告活動には権利が及ばない」という抜け穴ができてしまいます。ここは弁理士の専門知識が不可欠な領域です。


第5章:なぜ、ハッシュタグ問題は弁理士に相談すべきか?

「ネットで調べれば自分でも出願できそう」

そう思われる方もいるかもしれません。しかし、SNS特有のハッシュタグ問題こそ、専門家である弁理士のサポートが必要です。その理由を3点挙げます。

理由1:高度な「類否判断」が必要だから

商標登録の審査において、最も難しいのが「既存の商標と似ているか(類似)」の判断です。

ハッシュタグの場合、「#」の有無、アルファベットの大文字・小文字、読み方(称呼)、意味(観念)など、比較要素が複雑です。

「一文字違うから大丈夫」と思って出願しても、特許庁に「類似」と判断されれば、印紙代が無駄になります。弁理士は、過去の膨大な審決例や審査基準に基づき、登録の可能性(登録可能性)を正確に鑑定します。

理由2:ビジネスの将来を見越した「権利範囲」の設計

単に登録証をもらうことがゴールではありません。「将来、どんなSNS施策を打つか」「海外展開はあるか」「どんな競合が現れるか」を見越し、抜け漏れのない最強の権利範囲を設計するのが弁理士の仕事です。

特にハッシュタグは流行り廃りが激しいため、スピード感と柔軟性を持った出願戦略が求められます。

理由3:警告・トラブル時の盾となる

万が一、他社から「権利侵害だ」という内容証明郵便が届いた際、弁理士がいれば冷静に対応できます。

相手の主張が法的に妥当なのか(単なる言いがかりではないか)を分析し、適切な回答書を作成することで、紛争を早期に、かつ有利に解決へ導きます。


まとめ:SNSの「言葉」を守るために、今すぐできること

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

SNSマーケティングにおけるハッシュタグは、世界中のユーザーと繋がる魔法のツールであると同時に、法的なリスクを孕んだナイフでもあります。

  • 攻めの戦略: 自社のキャンペーンタグを商標登録して、ブランドを独占・保護する。

  • 守りの戦略: 他社の商標権を侵害しないよう、適切な調査と運用ルールを徹底する。

この両輪が揃って初めて、安心してSNSマーケティングを加速させることができます。

「これから新しいキャンペーンを始めたいが、このタグで大丈夫か?」

「自社のブランドタグを守りたいが、どの区分で登録すればいいか?」

「他社から警告が来て困っている」

そのようなお悩みをお持ちの方は、自己判断で解決しようとせず、ぜひ一度、知的財産のプロフェッショナルである当事務所にご相談ください。

貴社のブランドが、SNSという大海原で安全に、そして力強く広がっていくためのお手伝いをさせていただきます。


お問い合わせについて

当事務所では、SNSマーケティングに関連する商標調査・出願代理・侵害鑑定を承っております。

ハッシュタグに関するご相談も数多く解決してきた実績がございます。

初回相談は無料ですので、Zoomや対面にてお気軽にお話しをお聞かせください。