「開発費や人件費で手一杯。特許にお金をかける余裕なんてない」 「もっとサービスが大きくなってから考えればいいのでは?」...
【弁理士解説】特許査定後の「分割出願」はするべき?知財戦略を最強にするメリット・期限・費用を徹底網羅
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「特許査定の謄本が届きました。おめでとうございます!」
代理人である弁理士からこの連絡を受け取ったとき、多くの経営者様や知財担当者様は深く安堵されることでしょう。長い審査期間、拒絶理由通知への対応、そして不安な待機期間を経て、ようやく自社の技術が国に認められた瞬間です。
しかし、ここで思考を停止して、「とりあえず特許料(登録料)を納付して、早く特許証をもらおう」と即断するのは、実は非常に危険な機会損失かもしれません。
なぜなら、特許査定を受け取った直後のこのタイミングこそが、貴社のビジネスを競合他社から守るための「分割出願(Divisional Application)」を検討できる、極めて重要な戦略的チャンスだからです。
このタイミングを逃すと、二度と手に入らない権利があります。
逆に、この制度を戦略的に活用すれば、単に「特許を持っている」だけでなく、「競合が嫌がる強い特許網」を構築することが可能になります。
本記事では、特許実務のプロフェッショナルである弁理士の視点から、特許査定後の分割出願の仕組み、具体的なメリット、判断基準、そして絶対に守らなければならない厳格な期限について、どこよりも詳しく解説します。
「特許は取れたが、本当にこれで競合に勝てるのか?」
「もっと貪欲に権利を活用したい」
そうお考えの経営者様・知財担当者様は、印紙代を振り込む前に、ぜひ本記事を最後までお読みください。
目次
1. そもそも「特許査定後の分割出願」とは?
まず、基本的な仕組みを整理しましょう。
分割出願とは、一つの特許出願(親出願)の中に複数の発明が含まれている場合に、その一部を抜き出して、新たな別の特許出願(子出願)として独立させる手続きのことです。
最大の特徴は、「新しい出願の出願日が、親出願の出願日に遡る(遡及効)」という点です。つまり、今から新しい出願をしても、法律上は「数年前(親出願の日)に出した」ものとして扱われます。これにより、親出願の後に出てきた他社の技術や論文によって新規性や進歩性が否定される心配がありません。
なぜ「特許査定後」に行うのか?
通常、分割出願は審査の途中、特に「拒絶理由通知」を受け取った際に行うイメージが強いかもしれません。権利化が難しそうな部分を切り離したり、単一性違反(発明のグループが違うという指摘)を解消したりするためです。
しかし、特許法第44条第1項第2号には、「特許査定の謄本の送達があった日から三十日以内」であれば分割出願ができると明記されています。
特許査定が出ているということは、すでに審査官から「特許にして良い」というお墨付きをもらっている状態です。それなのになぜ、わざわざ費用をかけて出願を分ける必要があるのでしょうか?
それは、以下の「二刀流」の戦略を取るためです。
- 親出願(守り): 審査官が認めた範囲で、まずは確実に特許権を発生させる。
- 分割出願(攻め): 親出願で権利化しきれなかった部分や、新たな観点の発明について、引き続き審査の土俵に乗せて権利化を目指す。
つまり、特許査定は「ゴール」ではなく、「確実な権利を確保した上で、さらなる領土拡大を狙うスタートライン」にもなり得るのです。
2. なぜ「特許査定後」に分割するのか? 5つの戦略的メリット
知財に強い大企業や、急成長中のスタートアップ企業は、このタイミングでの分割出願を積極的に行っています。そこには明確な「経営戦略上の意図」があります。
① 権利範囲の「取りこぼし」を回収し、防衛網を厚くする
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特許審査の現場では、早期に特許を取得するために、審査官の指摘を受け入れて権利範囲(請求項)を狭く限定することがよくあります。これを「減縮補正」と言います。
例えば、「バネを有する椅子」で出願していたが、先行技術があったために「円錐形のコイルバネを有する椅子」に限定して特許査定になったとします。
この場合、親出願として「円錐形コイルバネの椅子」という確実な権利は確保できました。しかし、これだけでは他社が「板バネ」を使った椅子を出してきたときに対抗できません。
そこで、特許査定後に分割出願を行い、改めて「バネを有する椅子(広い概念)」や「別の形状のバネ(並列概念)」について権利化を目指すのです。
- 親出願: 狭いが確実な権利(守りの要)
- 子出願: 広いがチャレンジングな権利(攻めの要)
この二段構えにより、他社の参入障壁を強固にすることができます。
② 競合他社への「牽制(Keep Pending)」効果を持続させる
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特許権が設定登録されると、権利範囲が固定されます。競合他社は公開された特許公報を分析し、「この請求項の構成要件Aを外せば、特許侵害にはならない」という回避設計(パテント・クリアランス)を行います。権利範囲が固定されることは、ある意味で競合に安心感を与えてしまうのです。
しかし、分割出願を行って「特許庁に審査中の出願」を残しておくとどうなるでしょうか?
競合他社は、「今後、どのような権利が出てくるか分からない」という不安定な状態に置かれます。
これを「係属(けいぞく)を維持する」と言います。
「今は大丈夫だが、分割出願の方でウチの製品をカバーする特許が成立したら訴えられるかもしれない…」と他社に思わせることで、模倣品の発売や新製品の投入を躊躇させる効果があります。この「不気味さ」こそが、コストをかけない最大の防御になります。
③ 競合製品への「ピンポイント攻撃(当て込み)」
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出願から特許査定までの数年の間に、競合他社が新製品をリリースしてくることがあります。その製品が、自社の特許の権利範囲ギリギリの仕様だった場合、親出願のままでは権利行使(差止請求や損害賠償請求)が難しいケースがあります。
そこで分割出願の出番です。
親出願の明細書の中に記載されている事項の範囲内で、競合他社の製品仕様に合わせて請求項(クレーム)を書き直した子出願を行います。
これを業界用語で「当て込み分割」と呼びます。
相手の製品をピンポイントで捕捉する権利を後出しジャンケンのように成立させることができれば、ライセンス交渉や訴訟において圧倒的に有利な立場に立つことができます。
④ カテゴリーの異なる権利の取得(多面的な保護)

一つの発明には、多面的な側面があります。
例えば、ある「化学物質」について特許査定が出たとします。しかし、明細書の中には、その物質の「製造方法」や、その物質を使用した「装置」についての記述もあったとします。
親出願では「物質」の特許を取り、分割出願では「製造方法」の権利化を目指す。
このように、カテゴリー(物、方法、プログラム等)を変えて権利化することで、侵害者(製造業者なのか、使用するユーザーなのか)を網羅的に捕捉できる強い権利網が完成します。
⑤ グローバル戦略(米国継続出願)との整合性

もし貴社が米国にも出願している場合、米国実務では「継続出願(Continuation Application)」を繰り返して権利範囲を調整するのが一般的です。
日本でもこれに合わせて分割出願を行っておくことで、日米で整合性の取れた権利行使が可能になります。また、パテントファミリー全体として「生きている出願」を維持することは、クロスライセンス交渉などにおいて、相手に対するプレッシャー(交渉材料)となります。
3. 【最重要】絶対にミスできない「30日」と「納付前」のルール
特許査定後の分割出願には、法律で定められた厳格なタイムリミットがあります。これを1日でも過ぎると、どんなに優れた戦略があっても実行不可能です。
「30日以内」の厳守
法律上、分割出願ができるのは以下の期間です。
特許査定の謄本送達日から30日以内
「謄本送達日」とは、通常、弁理士(代理人)が特許査定をオンラインまたは郵送で受領した日を指します。そこから30日です。社内稟議や検討の時間を考えると、猶予はほとんどありません。
(※例外的に期間延長請求ができる場合もありますが、費用と手間がかかるため、原則は30日以内と考えるべきです)
特大の注意点:特許料納付との関係
これが最大の落とし穴です。
たとえ30日以内であっても、先に特許料(登録料)を納付して特許権の設定登録がなされてしまうと、その時点で分割出願はできなくなります。
よくある失敗例が、
「社長が決裁を急ぎ、経理担当者がすぐに登録料を振り込んでしまった。その翌日に知財部が分割の必要性に気づいたが、もう手遅れだった」
というケースです。
特許料を納付した瞬間に、分割出願をする権利を放棄したとみなされるリスクが極めて高くなります。一度納付してしまうと、取り消しはできません。
そのため、我々弁理士は以下のフローを鉄則としています。
- 特許査定が届く。
- まず「分割出願をするか否か」を検討する。
- 分割出願をする場合、先に分割出願の手続きを行う。
- その手続き完了を確認してから、親出願の特許料を納付する。
4. 分割出願にかかる費用と投資対効果(ROI)
分割出願を行うには、当然ながら費用が発生します。
- 特許庁への印紙代(出願料+審査請求料)
- 弁理士費用(分割出願手数料+中間処理費用など)
特に審査請求料は請求項の数によって変動するため、トータルで数十万円単位のコストがかかることもあります。
「もう一つ特許を取るために、そこまで払う価値があるのか?」と迷われるのは当然です。
しかし、以下の観点で考えてみてください。
1. 事業を守る「保険料」として
もし分割出願をケチった結果、競合他社に「親特許の権利範囲外」の類似品を作られ、市場シェアの30%を奪われたとしたら、その損害額はいくらになるでしょうか? 数百万円、数千万円の損失になるなら、数十万円の出願費用は極めて安い「保険料」です。
2. 審査請求は「後回し」でもOK
分割出願をしたからといって、すぐに審査請求(高額な印紙代の支払い)をする必要はありません。
親出願の出願日から3年以内(または分割の日から30日以内)であれば、審査請求の時期を選べます。
まずは分割出願だけしておき(出願料のみ発生)、「審査請求期限ギリギリまで塩漬けにする」という戦略も有効です。その間に事業が育たなければ取り下げれば良いですし、競合が現れれば審査請求をして戦えば良いのです。
5. 【ケーススタディ】分割出願が「化ける」具体的シチュエーション
抽象的な説明だけでなく、具体的なビジネスシーンでどう役立つのかを見てみましょう。
ケースA:開発途中で「本命」が変わった場合
状況: 出願当初は「技術A」が主力になると予想してクレームを作成し、特許査定を得た。しかし、その後の改良で「技術A’(Aの改良版)」が製品に採用されることになった。
問題: 親出願の権利範囲は「技術A」に限定されており、今の主力製品「技術A’」が守られていない可能性がある。
解決: 明細書の中に「技術A’」の要素も(実施例として)記載されていたため、分割出願を行い、「技術A’」をメインとした権利取得を目指す。これにより、実際の製品を守る権利を確保。

ケースB:競合他社が「抜け道」を探している気配がある場合
状況: 自社の特許査定公報を見た競合他社が、構成要件の一部を置換した類似品を開発している噂を聞いた。
解決: すぐに分割出願を行う。その際、競合が置換しそうな部材を上位概念化(例:「ボルト」→「締結部材」)したクレームや、機能的表現を用いたクレームを作成し、競合の逃げ道を先回りして封鎖する。

ケースC:【消耗品ビジネス】
状況: 本体装置と交換用カートリッジのセットで特許査定。
課題: サードパーティが安い「互換カートリッジ」を販売し始めた。親特許は「本体とセット」での権利なので、カートリッジ単体の販売を止めにくい。
対策: 分割出願を行い、「カートリッジ単体」での権利化を狙う。これにより、互換品メーカーを特許侵害で訴えることが可能になる。

6. 弁理士が教える「分割する・しない」の判断基準チェックリスト

迷ったときは、以下のチェックリストを活用してください。1つでも当てはまるなら、分割出願を検討する価値が大いにあります。
- ✔ 親出願の権利範囲(クレーム)は、当初狙っていた範囲よりも狭くなっているか?
- ✔ 明細書の中に、まだ権利化されていない「別の実施例」や「アイデア」が眠っているか?
- ✔ その製品は、自社の主力事業(または将来の主力)か?
- ✔ 競合他社が、特許を回避するために設計変更をしてきそうか?
- ✔ その技術分野は競争が激しく、少しでも広い権利を持っておきたいか?
- ✔ 海外出願(パリルート等)を予定しており、日本での審査結果を戦略的に使いたいか?
7. よくある質問(FAQ)
Q. 分割出願をすると、親出願の登録が遅れますか?
A. いいえ、遅れません。親出願については通常通り登録料を納付すれば、すぐに特許権が発生します。親出願(登録済み)と分割出願(審査中)は、それぞれ独立して存在します。
Q. 分割出願は何回までできますか?
A. 原則として回数制限はありません。分割出願からさらに分割(孫出願)を行うことも可能です。実際に、重要な基本特許については、孫、ひ孫と出願を継続させて、10年近く審査係属状態を維持する企業もあります。
Q. 自分で手続きできますか?
A. 制度上は可能ですが、推奨しません。分割出願の要件(明細書の範囲内であること、親出願と同一でないこと等)は非常に専門的で、失敗すると拒絶されるだけでなく、無駄な費用がかかります。また、期限管理のリスクも高いため、専門家にお任せいただくのが安全です。
Q. 分割出願を依頼する場合、いつまでに連絡すればいいですか?
A. 特許査定を受け取ってから2週間以内にはご連絡いただくのが理想です。物理的には30日の猶予がありますが、分割出願の書類作成(明細書の修正やクレームの再構築)には時間がかかります。期限ギリギリでは十分な検討ができない恐れがあります。
8. まとめ:特許査定はゴールではなく、次なる戦略のスタート地点
特許査定通知を受け取った皆様。
まずは、その発明が公的に認められたことを喜びましょう。
しかし、そこで思考停止して印紙代を振り込む前に、一度だけ立ち止まって考えてみてください。
「この特許だけで、本当に今後10年、競合と戦えますか?」
「明細書の中に、まだ活用できる『宝の山』が眠っていませんか?」
「競合他社に『嫌だ』と思わせるカードを、もう一枚持っておきたくないですか?」
特許査定後の分割出願は、貴社の知的財産を最大化するためのラストチャンスです。
この30日間をどう使うかで、将来の事業競争力は大きく変わります。
当事務所では、特許査定後の分割出願に関する戦略立案、メリット・デメリットの診断、そして迅速な出願手続きまでをトータルでサポートしております。
「自分のケースで分割する意味があるか知りたい」「費用対効果を試算してほしい」といったご相談も大歓迎です。
期限が迫っている場合が多いため、特許査定通知が届きましたら、登録料を納付する前に、お早めにお問い合わせください。
貴社のビジネスを守り抜く「強い知財網」を、共に構築しましょう。
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