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日本国内のESGソフトウェアに関する最近5年の特許事例調査

最新の日本国内におけるESG(環境・社会・ガバナンス)関連ソフトウェア技術について、直近5年以内に出願・登録された主な特許事例を整理しました。以下の表に、特許の出願人、公開・登録番号、発明の名称および要約をまとめ、続いて特に注目すべき代表事例を詳しく解説します。

出願人(企業/個人) 公開・登録番号 発明の名称 技術の概要(ESGソフトウェアの特徴・効果)
アビームコンサルティング株式会社 特許第6866054号(特開2021-9696) ESG経営を支援するためのシステム、方法、及びプログラム 企業のESGデータ(環境・社会・ガバナンス指標)と財務データを社内基幹システムから収集・統合し、両者の相関分析結果をグラフや散布図で可視化することでESGと業績の関連性を把握できる経営支援システム。ESGの取組と売上・利益との関係を見える化し、サステナブル経営の意思決定を支援。
ISD Inc.(韓国) 特許第7090936号(特開2020-526369) ESG基盤の企業評価装置およびその作動方法(※翻訳) インターネット上のニュース記事を自動収集・解析して、記事内容を環境・社会・ガバナンス各観点に分類し企業毎のESGスコアを算出する技術。AIと言語処理を用いて大量のニュースからESG関連情報を抽出し、客観的な企業のESG評価をリアルタイムに提供する。従来評価機関ごとに異なるESG評価基準の課題に対し、公開情報に基づく統一的な評価指標を提供。
株式会社estoma(東京) 特開2025-039443 ESG評価機関対応のAI自動回答サービス(名称:未公開) ESG情報統合管理クラウド上で、上場企業に届く多数のESG調査質問票に対し、企業の統合報告書やサステナビリティページの内容を読み込んだ独自AIが自動回答を生成するサービス。担当者は質問票をアップロードしAI回答を手直し確認するだけで済み、回答業務を大幅効率化し属人性も解消。2024年に特許出願・サービス提供開始。

※上記の他にも、環境モニタリングに特化した技術や、ESGデータの可視化・分析に関する特許出願が増加しています。例えば、九州大学発のスタートアップaiESG社は製品・サービス単位でサプライチェーン全体のESGリスクを評価できる世界初のサービスを2022年に開始し、独自開発AIで温室効果ガス排出量や生物多様性・労働環境など約3,200項目を可視化・数値化する技術を提供しています。以下では、代表的な特許事例を環境モニタリングとデータ可視化の観点から詳しく解説します。

データ可視化関連:ESGと財務の相関を見える化する統合管理ツール特許第6866054号)

ESGデータの可視化・分析分野で代表的な事例が、アビームコンサルティングの「ESG経営支援システム」です。同社は2020年に特許出願し、2021年公開・2022年登録されたこの発明によって、企業内部のESG情報と財務情報を一元管理し分析するクラウド基盤を提供しています。

このシステムでは、企業の基幹業務システム等から環境E・社会S・ガバナンスG各カテゴリのESGデータ(例:温室効果ガス排出量や女性管理職比率、社外取締役比率など)と、売上高・営業利益などの財務データを自動収集してデータベースに蓄積します。特徴的なのは、これらESG指標と財務指標との相関性分析を行い、その結果をグラフや散布図で可視化する機能を備える点です。例えば「CO₂排出量削減率と営業利益成長率の相関」をプロットしたり、「従業員満足度スコアと離職率の推移」をグラフ表示するといった具合に、ESGの取組と経営パフォーマンスの関係性をひと目で把握できるようになります。

この発明により、経営層はESG活動が企業価値に与える影響を定量的に検証・追跡できるようになります。可視化された散布図上で自社の位置を業界平均と比較し、弱点となるESG項目を特定して改善施策に活かす、といったPDCAサイクルの高速化が期待できます。また、統合プラットフォーム上でデータを一括管理するため、従来ばらばらに管理されていたCSR報告KPIと財務KPIを同一基盤でモニタリング可能となり、開示作業の効率化にもつながります。特許公報にも、相関分析結果のグラフ表示によってESGと業績の関連性を直観的に示す旨が記載されており、ESG経営を「見える化」して意思決定に役立てる革新的なソフトウェアと言えます。

 

環境モニタリング関連:ニュース解析によるESGリスク評価システム特許第7090936号

近年注目される環境モニタリング系のESGソフトウェア特許として、ISD Inc.の「ESG基盤の企業評価装置」があります。同社はAIによるニュース記事解析を通じて企業のESGパフォーマンスを評価する技術を開発し、日本を含む各国で特許を取得しています。

このシステムでは、まずインターネット上の膨大なニュース記事をクローリングして収集し、自然言語処理による形態素解析と言語ベクトル化を行います。記事ごとにどの企業に関する内容かを識別し、類似記事はクラスタリングでまとめた上で、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)それぞれに関連するトピックかをAIが判別します。例えば「工場の排水事故」のニュースなら環境、「人権デューデリジェンス」なら社会といった具合に分類されます。こうしてESG各分野に属するニュースの量や内容を分析し、企業ごとのESG評価スコアを自動算出します。

この発明の技術的特徴は、企業発のサステナビリティ報告だけでなく外部から発信される客観的な情報源(ニュース)を活用している点です。AIが日々更新される環境・社会リスク情報をリアルタイムに捉えてスコアに反映できるため、従来の年次評価よりタイムリーで精度の高いESGリスク評価が可能になります。また、人手では困難な何百社・数万件もの記事のモニタリングを自動化でき、投資家にとっても企業比較可能な指標を提供する点で有用です。実際、特許文献でも「評価結果が高い客観性を有する」ことが強調されており、ESG評価の透明性向上に寄与する発明と言えます。

 

その他の注目事例:AIによるESG情報対応支援(特開2025-039443)

上記以外にも、ESGソフトウェア分野では業務効率化に資する特許が登場しています。例えば、スタートアップ企業estoma(エストマ)が2024年に出願した発明では、AIを活用して上場企業が回答するESG調査票を自動作成するクラウドサービスが提案されています。このサービスは企業の統合報告書やウェブ開示情報をAIが読み込み、MSCIやCDPなど各ESG評価機関から送付される質問票に対し最適な回答案を生成するものです。特許技術となっている独自AIアルゴリズムにより、人手では煩雑だった質問票対応を大幅に省力化し、担当者の作業負荷を削減・回答品質の標準化を実現しています。属人的になりがちなESG情報開示業務をソフトウェアで補助するこのような取り組みも、近年の重要な技術動向です。

以上のように、日本国内でもESGソフトウェアに関連する特許出願が増加しており、環境データのモニタリングや可視化、AIによる分析支援など多方面で技術革新が進んでいます。それぞれの事例は、企業のサステナビリティ経営を技術面から支えるものであり、今後もESG重視の流れに沿って関連発明の出願が活発に推移すると予想されます。各社の特許動向を注視することで、ESGソフトウェア分野の最新技術トレンドを把握し、今後の投資機会や協業先選定の参考にすることができるでしょう。

情報源: 日本特許庁公開特許公報(J-PlatPat)、特許公報(英訳)、企業プレスリリース、専門記事、他.