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日本国内のビジネスモデル特許に関する最近の特許事例調査

近年、日本国内ではデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルに関する特許出願・登録が相次いでいます。特に直近5年以内(おおよそ2019年~2023年)には、フィンテック、リテール、マッチングプラットフォーム、サブスクリプション、DX(デジタルトランスフォーメーション)など様々な業界でビジネスモデル特許が成立しており、各企業が自社のビジネス上の工夫を知的財産として保護する動きが活発です。本調査では、日本国内における代表的なビジネスモデル特許事例10件を選出し、出願人、公開・登録番号、発明の名称、概要および技術的特徴・効果について整理しました。さらに、その中から特に注目すべき特許事例をいくつか取り上げ、詳しく解説します。

ビジネスモデル特許事例一覧(直近5年)

以下の表に、直近5年以内に日本国内で出願・登録されたビジネスモデル関連の特許事例10件をまとめます。出願人(企業名)、公開番号または特許登録番号、発明の名称とともに、各発明のビジネスモデル上の特徴を含む概要と、その技術的な特徴・具体的な効果を記載しています。各事例の情報源として、特許公報(J-PlatPat)および関連ニュース等を参考にしています。

出願人(企業) 公開/特許番号 発明の名称 概要(ビジネスモデルの特徴) 技術的特徴・効果
三菱商事株式会社 特許7230268 端末装置、情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 宅配ボックスに荷物を入れるだけで集荷を依頼できる荷物発送サービスの発明。利用者が荷物を宅配ボックスに入れるだけで発送手続きが完了する点が特徴です。 利用者が荷物をコンビニへ運んだり自宅で集荷を待ったりする負担を無くし、発送手続きの利便性を向上させる効果があります。外出不要で荷物を送れるため、EC返品やフリマ配送などの手間を大幅に軽減します。
株式会社セブン-イレブン・ジャパン+株式会社セブン&アイ・ホールディングス 特許7217831 商品提供装置、商品提供方法及び商品提供プログラム アバターが活動する三次元の仮想空間上の仮想店舗で商品を注文すると、リアルの実店舗から該当商品の発注先店舗を特定する仕組みの発明。メタバース上の仮想店舗と現実の店舗を連携させる新しい販売モデルです。 仮想空間での購買体験と現実世界の販売網を結び付け、ユーザは自宅からアバターを介して買い物でき、実店舗在庫から商品提供を受けられるようになります。オンラインとオフラインを融合することで、新たな顧客体験創出と店舗ネットワークの有効活用を図っています。
ユニ・チャーム株式会社 特許7221314 情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラム 利用者に適切な商品を選択させるためのスコアを算出する情報処理技術の発明。例えば、スマホで撮影した体の画像データをAIで採寸し、大人用紙おむつの最適サイズを診断・提案するサービスが例示されています。 スマホ画像から体の寸法データを自動計測し、ユーザに最適なおむつサイズを提案できるAI技術が特徴です。これにより紙おむつのサイズ不適合による漏れや肌トラブルを防止でき、介護者・利用者双方の負担軽減につながると期待されています。
損害保険ジャパン日本興亜株式会社 特許7223538 事故対応装置、事故対応システム、事故対応方法および事故対応プログラム チャットボットを用いて交通事故の受付・対応を行い、保険金請求などの事故処理を円滑化するシステムの発明。LINEによる事故報告・対応サービスの実証実験を踏まえたチャット対応型の事故処理モデルです。 テキストチャットで事故状況の聞き取りや手続きを進めることで、電話や対面による従来対応より迅速かつ利用者負担の少ない事故対応を実現します。チャット履歴が記録として残るため情報共有も容易となり、保険金支払いまでのプロセス効率化・時間短縮に効果があります。
三井住友銀行+三井住友カード株式会社+株式会社日本総合研究所 特許7359919 情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム 企業グループ内の複数サービスをユーザが横断利用した際に、共通のポイントを付与する仕組みの発明。三井住友銀行と三井住友カードの利用に応じてグループ共通ポイント「Vポイント」が貯まるサービスを想定しています。 銀行とカード会社など異業種サービス間でポイントを統合・共有することで、グループ全体で顧客ロイヤルティを高めクロスセルを促進できます。ユーザにとっては分散していたポイントが一元管理され、効率的に活用できるメリットがあります。
株式会社プチジョブ 特許7162381 マッチングシステム、マッチング方法及びプログラム 1日単位の短期アルバイト求人マッチングサービス「プチジョブ」に関する発明。求職者の属性情報を細かく区分し、その分類に基づいて雇用者との適切なマッチングを実現するアルゴリズムが特徴です。 マッチング精度向上のため属性データ分類を工夫し、短期・スポット求人におけるミスマッチや採用手間を軽減しています。適材適所のマッチングにより雇用者のニーズと求職者の希望を効率よく一致させる効果があります。また、近年こうした求人マッチングサイトでの特許取得が相次いでおり注目されています。
くら寿司株式会社 特許7369006 飲食物の消費量管理装置 回転寿司チェーン店において、各テーブル備え付けの皿回収口とテーブル上のカメラ画像により食べ終わった皿の枚数を管理するシステムの発明。テーブル上に皿が残っていることを検知すると自動で顧客に知らせ、皿の投入忘れ防止と的確な枚数カウントを行います。 皿回収口での物理カウントとカメラ映像による認識を組み合わせることで計数精度を向上させ、店内ゲーム「ビッくらポン!®」抽選の公平性を確保しています。さらに皿放置時のアラートにより片付け漏れを防ぎ、テーブルの清潔維持やスムーズな店舗オペレーションにも寄与します。
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(FFG) 特許7153818 プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 銀行ユーザの短期的な収支管理から長期的な資産形成、さらに将来的な消費行動までをシームレスに支援することを目的とした発明。FFG傘下のみんなの銀行が提供する貯蓄預金内のバーチャル口座「ボックス」機能に関する特許とみられます。 スマホ銀行アプリ上で複数のバーチャル預金箱(ボックス)を設定し、ドラッグ&ドロップで資金移動できる等の直感的UIを実現しています。日常の入出金管理と貯蓄目標を一体化することでユーザの資産形成を促進し、「銀行らしくない」利便性が高く評価されています。
株式会社スーパーホテル 実用新案登録3239609 カーボン・オフセット活動支援宿泊システム 宿泊客が宿泊に際してカーボン・オフセット活動に参加できる宿泊プランを実現する仕組みの実用新案登録です。宿泊時に発生するCO₂排出量を算出し、相当分の環境保全活動への拠出(オフセット)を支援・表示することで、エコ宿泊を可能にします。 ホテル宿泊と環境保護活動を連動させたサービスモデルで、顧客の環境意識向上と企業のCSRアピールにつながっています。宿泊ごとのCO₂排出データを管理し、オフセット状況を見える化することで、利用者は自身の旅行が環境に与える影響を把握できます。業界でも珍しい環境配慮型サービスの知財事例です。
キッコーマン株式会社 特許7152434 サーバー装置、相性判定方法および相性判定プログラム 専門知識がなくても、料理と調味料の相性が良い組み合わせを容易に見つけられるようにする発明。料理から得られる風味・食感などの特徴量と、調味料の持つ香り・味の特徴量との相関に基づき、相性の良い料理と調味料の組み合わせを判定します。 料理と調味料の特徴データベースを照合し、適切なマッチングアルゴリズムによりユーザに組み合わせを提案するのが技術的特徴です。これにより家庭料理のレシピ提案や調味料の選択が容易になり、ユーザの料理体験向上と調味料メーカー側の販促につながる効果が期待されます。

表:直近5年以内(2019年~2023年)に日本国内で出願・登録された主なビジネスモデル関連特許事例

上記のように、大企業からスタートアップまで様々な主体がビジネスモデル特許を取得しており、その内容も物流サービスの効率化からメタバース対応、AIを活用した顧客提案、ポイント連携、マッチングプラットフォーム、飲食店のDX、デジタルバンク、環境配慮型サービス、食品提案システムに至るまで多岐にわたります。以下では、特に注目すべき代表的な事例について、各案件の背景や技術的ポイント、ビジネス上の意義を詳しく解説します。

注目すべきビジネスモデル特許事例の詳細解説

1. セブン-イレブンのメタバース連携店舗システム(特許7217831)

特許第7217831号(発明の名称:「商品提供装置、商品提供方法及び商品提供プログラム」)は、国内コンビニ最大手のセブン-イレブン・ジャパンおよび親会社セブン&アイHDによる、メタバース上の仮想店舗とリアル店舗を連携させた商品提供システムに関する特許です。利用者(顧客)は自宅に居ながらアバターを操作して三次元の仮想コンビニ店舗に「来店」し、商品を選んで注文します。その注文情報をもとにシステムが現実世界に存在する実店舗の中から該当商品の在庫を持つ店舗を特定し、そこを発注拠点とする仕組みになっています。いわば「バーチャル店舗×リアル店舗」のハイブリッド型販売モデルであり、従来のネット通販や店舗受取サービスとは一味違うユーザー体験を提供することを狙っています。

この発明の技術的特徴は、オンライン上の仮想空間(メタバース)での購買行動と、現実世界の店舗網・物流網をシームレスに結び付けている点です。ユーザはメタバース内で自由に店舗閲覧・商品選択を楽しみつつ、背後では最寄りのセブン-イレブン店舗など実店舗から商品が手配されます。これにより、仮想空間上でのエンターテインメント性と、現実の迅速な商品受け渡しを両立できます。例えば注文後にユーザは自宅近くのセブン-イレブン店舗で商品を受け取ったり宅配してもらったりできるでしょう。セブン&アイHDとしても、実店舗網という資産を活かしつつデジタル時代の新チャネルを開拓できる点で戦略的意義があります。昨今「メタバース市場」への各社参入が話題となる中、本特許は小売業におけるメタバース活用の具体例として注目される事例です。

2. ふくおかFG・みんなの銀行の「ボックス」機能関連特許(特許7153818)

特許第7153818号(発明名称:「プログラム、情報処理装置及び情報処理方法」)は、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)傘下のデジタル銀行「みんなの銀行」が取得したビジネスモデル特許です。みんなの銀行は2021年にサービスを開始した日本初のスマホ専業銀行で、「ウォレット」と呼ぶ普段使い口座と、「ボックス」と呼ぶ貯蓄用バーチャル口座をアプリ内で使い分けられる斬新な機能で知られています。本特許は、そのボックス機能を含む新しい資産管理手法に関するもので、ユーザの短期的な収支管理から長期的な資産形成、さらには将来の消費行動までを一貫してサポートすることを目的としています。簡単に言えば、一つの銀行アプリ上で「日常のお金」と「将来のお金」をシームレスに管理できるというビジネスモデルです。

技術的には、スマートフォンアプリ上で複数の仮想預金口座(ボックス)を作成し、資金をドラッグ&ドロップ操作で自在に振り分けられるユーザインタフェースなどが特徴となっています。例えば給料が入ったら家賃用、食費用、貯蓄用などに即座に振り分けることができ、それぞれのボックスごとに残高や目標額を管理できます。従来の銀行にはない直観的で柔軟な操作性から、「銀行らしくない使いやすさ」としてユーザから高評価を得ています。この特許は実は分割出願によって成立したもので、初代の出願に対して既に特許第5936760号が成立済みとのことです。つまり、みんなの銀行はサービス開始前からボックス機能のコアアイデアを知財で押さえ、さらに改良点も追加で権利化していることになります。銀行業におけるビジネスモデル特許は珍しく、既存銀行のビジネスモデルをゼロベースから刷新した例として業界内でも注目されました。この特許によって、みんなの銀行はフィンテック領域での先行者優位とサービス独自性を守り、競合との差別化を図っているといえます。

3. くら寿司の「ビッくらポン!」消費量管理システム(特許7369006)

特許第7369006号(発明名称:「飲食物の消費量管理装置」)は、大手回転寿司チェーンのくら寿司株式会社が取得した特許で、同社の店内エンターテインメントシステム「ビッくらポン!®」を技術的に高度化した発明です。くら寿司では2000年から、5皿ごとにガチャポンによる景品抽選ができる「ビッくらポン!」を導入し、子供連れを中心に人気を博してきました。本特許はそのビッくらポンを支える皿カウントシステムに関するもので、各テーブルに設置された皿回収ポケットに皿が投入された枚数と、テーブル上のカメラで検知した未回収の皿の有無を組み合わせて、正確に皿数を管理する技術が開示されています。例えば、お客様が皿を食べ終わってもテーブルに置きっぱなしにしている場合にはカメラがそれを検知し、「お皿を回収口に入れてください」とアラートを出すことで、皿の投入忘れを防止します。これによって店員が逐一テーブルを巡回しなくても、自動で皿が所定枚数ごとに確実に回収され、抽選が公正に行われる仕組みになっています。

技術的なポイントは、物理センサーとAIカメラ(画像認識)を組み合わせて二重に枚数確認を行うことで、カウントミスや不正を防ぐという点です。皿の投入枚数は回収ポケットのセンサーでカウントしつつ、テーブル上の映像からも残皿ゼロを確認するため、例えばお皿を2枚重ねて投入するような不正や、センサーの検知漏れによるカウントミスも避けられます。これにより「必ず○回に1回当たる」という抽選サービスの公平性を技術で担保しており、顧客体験の質を落としません。また、副次的な効果として、皿が放置されないため常にテーブルが清潔に保たれ、次の客への円滑な案内にもつながるでしょう。くら寿司は以前から「抗菌寿司カバー」やセルフ注文タブレットなど独自技術を積極導入していますが、本特許もそうしたDX活用による顧客満足度向上策の一環と言えます。回転寿司業界では近年、他社でも回収口の導入やゲーム要素の強化が見られますが、くら寿司はその先駆者としてテクノロジー面でもリードしていることが、この事例からうかがえます。

4. ユニ・チャームのAIおむつサイズ診断サービス(特許7221314)

特許第7221314号(発明名称:「情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラム」)は、大手生活用品メーカーのユニ・チャーム株式会社が取得した特許で、AIを活用して利用者に適切な製品(紙おむつ等)を推薦するスコアリングシステムに関するものです。ユニ・チャームは介護向けの大人用紙おむつ市場でトップシェアを持ちますが、高齢化が進む日本では「おむつのサイズが合わず漏れてしまう」「小さすぎて肌に負担がかかる」といった悩みがありました。そこで同社は2018年よりチャットボット相談窓口「大人用おむつNAVI」を開設し、24時間ユーザの問い合わせに対応してきました。さらに2021年にはLINE上のチャットボットとスマホ撮影によるAI身体計測技術を組み合わせて、最適なおむつサイズと製品を提案する「大人用おむつサイズ診断・カウンセリング」サービスを開始しました。本特許はまさにこのサービスに関連するもので、ユーザがスマートフォンで自身(または介護対象者)の正面と側面の写真2枚を撮影し、身長・体重・性別・年齢等を入力すると、AI(米国スタートアップBodygram社の技術)が太もも周囲長・ウエスト・ヒップなどを自動計測してその人に適した紙おむつサイズを算出してくれます。算出結果に基づき、チャットボットがおすすめの具体的製品(例えば「ライフリーうす型軽快パンツ Mサイズ」等)を提案してくれる仕組みです。

この発明の技術的特徴は、画像解析とAIによる非接触・非対面での身体サイズ推定技術を介護分野に応用し、個々の利用者に最適な商品選択を支援する点にあります。従来、適切なおむつを選ぶには試着や専門知識が必要でしたが、本システムにより誰でもスマホだけで簡便に最適サイズを知ることができ、サイズ不適合による漏れや肌トラブルを大幅に減らすことが期待できます。実際ユニ・チャームの発表によれば、このAI診断サービスは介護者に好評で、店頭でどのサイズを買えばよいか悩む時間を削減しスムーズな購買体験を実現しています。ユニ・チャームは社内に**デジタル技術専門の知財部隊「DXグループ」**を設置し、この特許を含む関連技術の特許出願を積極化しています。本事例は、伝統的メーカーがデジタルサービスによって付加価値を提供し、それを特許で保護することでビジネスモデル転換を図っている好例と言えるでしょう。

参考文献・情報源: 日本特許庁J-PlatPat公開特許公報、各社プレスリリース・公式発表、日経産業新聞・日経クロステック記事、幡鎌研究室「月刊ビジネス方法特許の登録状況」ブログなど。各特許の詳細な公報情報はJ-PlatPatで特許番号を指定して参照可能です。また、各企業のサービス紹介ページやニュースリリースもビジネスモデルの背景理解に役立ちます。以上の調査より、直近のビジネスモデル特許動向としてはデジタル技術×既存事業の新結合によるサービス革新が顕著であり、特許制度を通じてそれらビジネスモデルを戦略的に保護する動きが広がっていることが分かりました。