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中国における意匠制度概要(2025年最新情報)

意匠の定義と保護対象

中国では、意匠(デザイン)に関する独立の法律はなく、発明特許・実用新案と同じ「専利法(中国特許法)」で規定されています。専利法第2条第4項に定める意匠の定義は、製品の形状、模様、色彩、またはこれらの結合について、製品の全体または一部分(局部)にかかわる新しいデザインであって、視覚を通じて美感を起こさせ、工業上の利用に適したものを指します。この定義により、2021年の法改正から部分意匠(製品の一部分のデザイン)も保護対象に含まれるようになりました。

意匠が保護される対象は、具体的な製品の外観デザインです。ここでいう「製品」とは大量生産可能な工業製品を指し、その外観(立体的形状、平面的模様、色彩の組合せなど)に着目します。例えば、家電や家具、衣服、包装容器などが典型であり、建築物の外観等は通常「製品」に該当しないと解されています。また、中国ではグラフィカルユーザインタフェース(GUI)も、ディスプレイ装置の画面に表示された模様として製品に組み込まれる形で意匠保護が可能です(2014年の審査基準改正でGUIを含む意匠を解禁)。ただしGUI単体(製品に依存しない抽象的画面デザイン)は依然として保護対象外であり、あくまで「製品の一部」に表示されるものとして出願する必要があります。

保護されない対象も明確化されています。専利法第25条6号では、「印刷物に描かれた模様や色彩(またはその結合)であって、主に標識(表示)としての機能を果たすもの」には意匠権が付与されないと規定されています。例えば商品のラベルやロゴ、包装紙のデザインなど、純粋に識別標識として用いられる2次元の模様は意匠として登録できません(ただし壁紙や織物の模様は除かれます)。この規定により、商標やエンブレムそのものは意匠ではなく商標制度で保護すべきであることが示されています。また、法律上明記はされていませんが、純粋に機能上の形状のみで美感を欠くものは「視覚を通じて美感を起こさせ」ないため意匠としては適格でないと解されます。公序良俗に反するデザインや、他人の肖像・著作物を無断利用したデザインなども、他人の権利侵害や社会倫理違反として認められない可能性があります。

登録要件(新規性・独自性など)

中国で意匠登録を受けるためには、専利法第23条に定める要件を満たす必要があります。主な要件は以下のとおりです。

  • 新規性(絶対的新規性): 出願する意匠は「従来の設計(既存の意匠)に属しないもの」でなければならないと規定されています。ここでいう「従来の設計」とは、出願日前に国内外で公然と知られた意匠を指します。したがって、世界中どこでも出願前に公表・公知となった同一または類似のデザインは新規性を失います。また、出願人以外の第三者が自分より先に同じ意匠を中国国家知識産権局(CNIPA)に出願していた場合で、その先の出願が自分の出願日以降に公開されたとしても、自分の出願は新規性なしと判断されます。この点、日本のような例外(同一出願人なら後出願を認める措置)はなく、中国では誰であっても先に出願した者が優先されます。つまり先願主義が厳格に適用され、同一の意匠について後願は拒絶されます。

  • 独自性(創作非容易性、明確な差異): 出願意匠は、既存の意匠単体または複数の意匠の特徴の組合せと比較して「明らかな違い」を有することが要求されます。平たく言えば、既存意匠に極めて類似していて僅かな差異しかないような場合は登録できず、一定の創作的特徴を備えて明確に区別できる必要があります。日本の意匠法でいう「創作非容易性」に近い概念ですが、中国では「明らかな区別があること」という表現で、ハードルは高くないもののデッドコピーやごくありふれた意匠の単なる組み合わせは認めない趣旨です。

  • 先後権利不冲突: 出願意匠が他人が出願日前に取得した合法的権利と衝突しないことも要件です。例えば、他人の登録商標や著作権物(キャラクター等)をそのまま取り入れたデザインの場合、たとえ新規でもその他人の先取得権利を侵害する恐れがあるため意匠登録が受けられません。実際の審査では先願の特許・意匠だけでなく、先登録商標や有名な芸術作品のデザイン流用なども無効理由になり得ます。

以上の主要要件に加え、意匠は工業的に利用できること(製品として量産できること)は定義上求められます。また専利法第23条の脚注規定として、「既存の意匠」とは出願日前に国内外で公然と知られたデザインを指すとあります。ここには口頭による公知も含まれるため、インターネットや展示会で公開されたものはもちろん、製品として市販・展示されたりカタログに掲載されたデザインはすべて既存意匠に該当します。新規性喪失の例外(グレースピリオド)も存在し、例えば政府主催または認定の国際展示会に初披露した場合、学術会議で発表した場合、第三者による不正な漏洩公開などについては、その公開日から6か月以内に出願すれば新規性を喪失しなかったものとみなされます。これはパリ条約由来の例外規定で、日本の意匠法とほぼ同様の趣旨です。とはいえ、中国では学術会議でデザインを発表するケース等は稀でしょうから、実務上は出願前に公表しないことが鉄則です。

要件をまとめれば、「世界で新しく、既存のデザインとは明確に異なり、他人の権利とバッティングしない美感ある製品デザイン」であることが登録の前提となります。複雑そうですが、実際の審査では後述のように実体的なチェックは限定的なので、一見して既存にない特徴があればまず通るといえます。ただし権利行使段階で争われる可能性があるため、類似デザインの有無は出願人自身で調査・検討しておくことが望ましいでしょう。

出願手続の流れ(必要書類、図面要件、優先権主張、出願言語など)

出願から登録までの基本的な流れは以下のとおりです(図参照)。

中国意匠出願から登録までの流れ(CNIPAによる方式審査を経て登録公告・権利発効)

  1. 出願準備: まず保護対象とする製品およびデザインを確定し、必要な図面・写真を用意します。言語は中国語ですので、日本企業が直接出願する場合は中国語翻訳や代理人(中国専利代理師)との調整が必要です。また、中国では意匠もロカルノ分類に従って分類されるため、該当する分類(製品の用途カテゴリー)を確認し、製品名称も適切な一般名称を決めます。部分意匠であれば、その部分と製品全体の名称を組み合わせた名称が要求されます(例:「コップ(製品全体)の取っ手(部分)」)。

  2. 必要書類の提出: 中国意匠出願には以下の書類が必要です。

    • 願書(請求書): 出願人やデザイン名称、設計者名などを記載する書面です。願書の「意匠名称」欄には製品の名称(部分意匠の場合は製品全体+部分の名称)を記載します。

    • 図面または写真: 保護を求める意匠を明確に表した画像資料です。製品の形状・模様などを六面図(六方向の正投影図)や立体図等で漏れなく示します。写真提出も可能ですが、背景のない鮮明なものを用意し、全ての画像で製品の形状が一貫している必要があります。

    • 簡略説明(Brief Explanation): 意匠の内容を補足説明する書面で、出願時に必須とされています。簡略説明には**(1)意匠製品の名称、(2)製品の用途、(3)意匠の設計要点(創作上の特徴)、(4)最も特徴を表す画像(代表図)**を記載します。これらは後述のとおり権利解釈にも影響し得る重要事項なので、正確かつ慎重に記載します。

    • 委任状: 出願人が外国企業・在外者の場合、中国の代理人に依頼するための委任状が必要です(電子出願の場合は省略可の場合あり)。

    • 優先権書類: 優先権を主張する場合、最初の出願の書類のコピー(優先権証明書)を提出します。これは出願から3か月以内に提出する必要があります。

    なお図面/写真について、中国の部分意匠制度では破線(点線)による非主張部分の表示が認められています。部分意匠を出願する際は、製品全体の図面も添付し、そこに破線と実線等で保護範囲(部分)を明示します。例えば、自動車のテールライト部分意匠なら、自動車全体図を実線+破線で示し、部分(テールライト)を実線で描く、といった具合です。また部分の位置関係が分かるように、全体図で部分の所在箇所や大きさを明確に示す必要があります。図示方法以外で部分を特定する場合(例えば色の違い等)、簡略説明でその旨説明します。

  3. 出願方式: 願書類一式をCNIPAに提出すると(オンライン出願が一般的)、出願日が確定します。中国は先願主義のため、この出願日が非常に重要です。出願から1~2か月程度で方式審査を経て受理通知書(出願番号付与)が送られてきます。もし書類に不備があれば補正指令が来ますので、指定期間内に補正します。なお出願言語は中国語であり、英語や日本語では受付られません。図面の注記なども全て削除または中国語化する必要があります。願書の書き方にも決まりがあり、例えば簡略説明に記載する製品名称・用途は願書の名称欄と一致させることなどが求められます。

  4. 優先権主張: 中国はパリ条約加盟国ですので、最初の意匠出願から6か月以内であればパリ優先権を主張できます。例えば日本に意匠出願後6か月以内に中国に出願すれば、新規性喪失の例外ではなく優先権として扱われます。優先権を主張するには出願時にその旨を書面で宣言し、先の出願の公証コピーを3か月以内に提出します。また、2021年改正により中国国内での意匠の本国優先権も認められるようになりました。これは「中国における先の意匠出願から6か月以内」に、「同じまたは類似の意匠」を改めて中国に出願する場合、先の出願を基礎に優先権主張できるという制度です。先に出した意匠を少し修正して再出願する場合などに有用ですが、この場合先の出願は放棄する(権利化しない)ことが前提になります。国内優先権により、例えば一度簡易な出願をして早期の権利確保を図り、その後細部を整えた本出願を優先権主張する、といった戦略も可能です。

  5. 審査と登録: 出願が受理されると、CNIPAによる方式審査(初歩的な審査)が行われます。ここで拒絶理由がなければ、実体審査を経ずにそのまま登録査定となり、登録料を納付して登録公告・意匠権発効となります。方式審査については次節で詳述します。スムーズに進めば出願からおよそ3~6か月で登録となります。日本のような意匠公報の早期公開制度はなく、出願中の意匠は公開されず、登録と同時に初めて公告公開されます。登録料を支払うと意匠証書(登録証)が発行され、権利が発生します。

  6. 補正・分割: 出願後、登録前であれば自発補正も可能です。中国では意匠出願について、出願日から2か月以内であれば出願人が自主的に図面や簡略説明の補正を行うことが認められています。また、方式審査で例えば「この出願は複数の類似しないデザインを含んでいる」とunity違反を指摘された場合、分割出願によって分けて出願し直すことが許されます(分割出願の出願日は元の出願日に遡及します)。専利法第31条2項に定めるとおり、中国では1件の意匠出願は原則1意匠ですが、例外として「同一製品に属する2つ以上の類似意匠」または「セット製品に属する2つ以上の意匠」は一括して1件の出願にすることが可能です。類似意匠とは、同じ製品についてデザインコンセプトが共通し、形状や模様等が近似したバリエーション違いの意匠群を指します。セット製品とは、習慣上一緒に使用・販売される複数の物品(例:ティーセットのカップとポットなど)で、意匠の統一性がある場合を指します。類似意匠やセット意匠は最大10意匠までまとめて出願できる運用です(実務上、図面10面までが1出願の上限とされています)。もし基準を超える場合や無関係な意匠を含めた場合、審査で分割を促されます。分割出願は当初出願日を維持できますが、新たに出願番号が付与されます。

  7. 出願言語と翻訳: 繰り返しになりますが、提出書類はすべて中国語で作成しなければなりません。日本語や英語のままでは受理されません。優先権書類についても必要に応じて中国語訳の提出を求められることがあります。願書の各欄も中国語で記載し、例えば出願人名・住所は中国語表記(アルファベットは原則不可、一部例外を除き漢字表記またはカタカナ音写)となります。図面に文字が入っていれば削除するか中国語に置き換えます。こうした翻訳・表記ミスは拒絶理由となり得ますので、中国出願時には現地代理人のチェックを受けるなど慎重に対応します。

以上が中国意匠出願から登録までの流れです。早いケースでは出願後数ヶ月で登録証が得られるスピード感がありますが、その分出願書類の不備にはシビアです。特に図面・写真と簡略説明の整合部分意匠の表示方法など、形式面の要件を満たすよう注意が必要です。適切に準備すれば、日本の意匠出願と同様の感覚でスムーズに権利化できるでしょう。

審査制度(方式審査と実体審査の有無、審査期間など)

中国の意匠審査は「方式審査」が中心で、実体審査は基本的に行われません。専利法第40条に「意匠出願が初歩的な審査(方式審査)を経て拒絶理由がなければ登録を認める」と規定されており、発明特許のような実質的審査は課されません。これは、日本のように審査官が世界中の先行意匠を調査して新規性・創作性を判断することはしないという意味です。したがって迅速な登録が特徴ですが、裏を返せば無審査登録制度に近い運用となっています。

方式審査(初歩審査)でチェックされる事項は、専利法実施細則第50条3号などにより以下のように定められています。

  • 形式要件の確認: 願書の記載事項、図面の整合性、簡略説明の有無と記載形式など、提出書類が所定の要件を満たしているかを審査します。例えば、意匠名称が適切か、簡略説明中に必要事項(用途や要点等)が記載されているか、図面に不備(欠落ビューや矛盾)がないか、といった点です。ここで不備があれば補正指令が出され、是正できない場合は却下または拒絶となります。

  • 不登録事由に該当しないか: 前述の専利法第25条各号に該当しないかを審査します。具体的には、出願されたデザインが「主に標識として機能する印刷物の模様」に該当していないか、公序良俗違反や違法なものでないかなどです。もし該当すればその時点で拒絶されます。

  • 明らかに新規性・独自性がないか: 審査官は通常サーチを行いませんが、自分の知り得る限りの既知意匠と比較して明らかに同一または紛らわしいと判断できる場合には拒絶します。たとえば、周知の形状をそのまま出しただけで明確な特徴が何も無いような場合や、ごく最近公開された他人の意匠と瓜二つの場合など、審査官の目に留まれば拒絶理由となり得ます。ただし審査官が個別に先行意匠調査を行うことはなく、あくまで顕著なケースのみを対象にしています。日本のような徹底した実体審査は行われませんので、多少似たものがあってもスルーされる可能性があります。

  • 単一性要件の確認: 一つの出願に複数意匠を含む場合、それが前述の類似意匠またはセット意匠の範囲に収まっているか審査します。要件を満たさない(例えば全く無関係な製品の意匠を1件に混載した)場合、出願人に分割を促す通知が来ます。

以上を総合すると、方式審査は主に書類形式と明白な瑕疵のみを見るものであり、新規性や創作性については「明らかな欠如」の場合以外深追いしないのが実情です。そのため出願から登録までの期間は概ね3~6か月程度と非常に短く済みます。審査で問題が無ければ、専利法第40条に基づき登録査定→登録料納付→登録公告となり、公告日に権利発生となります。日本の意匠公報のように出願から一定期間で公開される制度はなく、公告(権利化)と同時に初めて内容が公開される点に注意が必要です。

なお、中国には出願公開から登録までの異議申立制度(公報異議)は存在しません。公開自体が登録と同時なので、第三者が権利成立前に異議を述べる機会はありません。その代わり、後述する無効審判(無効宣告請求)の制度によって、不備のある登録意匠は事後的に取消を求められる仕組みです。

拒絶があった場合の救済: 方式審査で拒絶理由が通知された場合、出願人は意見書提出や補正によって応答できます。それでも拒絶査定となった場合、拒絶査定不服審判(復審)を請求できます。これはCNIPA内の専利復審無効審判委員会(旧称・特許復審委員会)が担当し、書面審理・口頭審理の上で拒絶を維持するか覆すか決定します。復審決定にも不服な場合は、**北京知識産権法院(知的財産法院)**に行政訴訟を提起して司法審査を受けることができます。もっとも、意匠の場合実体面で争う点は限られるため、拒絶査定まで至るケース自体が少ないのが現状です。

審査関連の特有制度: 中国には審査請求制度はありません(出願すれば自動的に審査開始)し、早期審査制度も特段ありません。しかしユニークな制度として「遅延審査請求(審査の一時延期)」があります。これは出願と同時に請求することで、意匠の審査・登録を意図的に遅らせる制度です。2019年に導入され、当初は1年・2年・3年から遅延期間を選択する形式でしたが、2023年改正審査指南で柔軟化され、月単位で最長36か月まで指定可能となり、途中で遅延請求を取り下げて審査を再開させることも可能になりました。この制度を使うと、例えば製品の市場投入時期に合わせて意匠権が公開・発効されるよう調整できます。中国意匠は登録されるとすぐ内容が公開されるため、まだ発売前のデザインを早期に公開したくない場合に最大3年弱、公知化を先延ばしできるメリットがあります。実務上は「とりあえず長め(36か月)の遅延を指定し、出願後に状況に応じて取り下げて早期発行させる」という使い方が推奨されています。

以上のように、中国の意匠審査は迅速・簡易なのが特徴です。審査官が実質判断しない分、権利は取得しやすいですが、そのままでは精査されていない権利とも言えます。この点は後述する権利行使段階で重要になってきます。出願人側の心構えとしては、「新規性については自らチェックしておく」「図面等の形式要件をきっちり満たす」「公開時期を戦略的にコントロールするには遅延制度を活用する」といった点が挙げられます。

登録後の権利内容と効力(権利期間、更新、権利行使)

登録公告がなされると、意匠権が発生します。意匠権は登録公告日から効力を生じ(発明特許のような設定登録日と同義です)。権利者には専用権が与えられ、他人による無断実施を排除できます。以下、権利の内容・期間・行使について順に説明します。

  • 存続期間と年金: 中国の意匠権の存続期間は、出願日から15年です。これは2021年6月1日施行の専利法改正で、それまでの10年から延長されました。したがって2021年6月以降に出願した意匠は15年の保護が得られます(それ以前の出願は旧法により10年)。期間計算は出願日から起算し、出願日応当日の前日に満了します。中国には意匠権の更新制度(延長制度)はなく、最大15年で権利は消滅します。ただし年金(年次維持料)の納付が必要で、毎年、権利を維持するための年費を納めなければなりません。初年度は登録料に含まれていますが、2年目以降は期限までに年金を納付しないと権利は途中で消滅します。年金未納による権利消滅も公告されます。日本と違い、年金猶予期間はありますが延長登録制度は無いため最大期間を過ぎれば必ず失効します。

  • 権利範囲と内容: 中国意匠権の保護範囲は、登録時に公開された図面または写真に示されたその製品の意匠によって定まります。簡略説明は解釈の参考として用いることができるものの、図面等に表れていない要素まで権利範囲に含めることはできません。したがって図面がすべてという点は日本と同じです。権利範囲には、登録意匠と同一またはそれと近似した意匠も含まれると解されています(法律上「同様の意匠」という文言はありませんが、通常、需要者の視覚によって**「両意匠が異ならない」と評価される程度に似ていれば侵害と判断されます)。意匠権は物品に関する権利であり、出願時に特定した製品に係るデザインとして保護されます。このため、全く異なる用途・分野の製品に同じデザインを施した場合、それが直ちに侵害になるかはケースによります。一般には同種または類似の製品**において使用された場合に問題となりますが、中国には日本のような「類似範囲」の細かな規定はなく、判断は裁判所に委ねられます。

    専利法第11条第2項によれば、意匠権が発生した後は、権利者の許諾なく営利目的でその意匠(またはそれに属する製品)を実施してはならないとされています。具体的な禁止行為としては、登録意匠を利用した製品の「製造(作成)」、「販売の申出」(オファー)、「販売」、「輸入」が挙げられます。これらを無断で行えば意匠権侵害となります。日本法では「使用」行為も列挙されますが、中国では販売行為等が中心で、個人的使用はそもそも営利目的でなければ侵害に問われません(営業上の使用は製造や販売に含まれると解されます)。要するに、他人の登録意匠製品を勝手に作ったり売ったり輸入したりして営利を図ってはいけないということです。これには、例えば模倣品を中国国外で製造して中国に輸入・販売する行為も含まれますし、逆に中国で作って海外へ輸出する行為も中国意匠権があれば禁止できます。後者の場合、中国意匠権者は税関に申請して輸出品を差し止めることも可能です(後述)。

  • 権利者による実施・活用: 権利者は自ら登録意匠を実施(製造販売など)することは当然自由です。また第三者にライセンス(実施許諾)を与えることも可能で、通常は実施許諾契約を締結し、実施権の許諾を行います。中国では特許(意匠を含む)の実施許諾や譲渡について契約書の書面作成と特許局への登録が求められており、登録をもって第三者対抗要件としています。したがってライセンス契約を締結したらCNIPAへの許諾登録を行うのが望ましいでしょう。意匠権の譲渡(権利移転)も可能で、その場合もCNIPAへの届出が必要です。近年、中国では意匠のオープンライセンス制度(特許権者が一般に許諾条件を公開し、希望者にライセンスする仕組み)も導入されつつあります。意匠権者が希望すれば、自らの意匠をオープンライセンス公示して実施許諾料を得る道もあります。

  • 権利行使と評価報告: 前述のように中国の意匠は実質審査なしで登録されるため、その有効性(新規性など満たしているか)は保証されていません。そこで中国では2008年の法改正で「意匠権評価報告」制度が導入されました。これは、権利者や利害関係人の請求によりCNIPAが当該登録意匠について先行意匠調査を行い、新規性・創作性などの有無を評価した報告書を発行するものです。権利行使(訴訟や行政摘発)を行う際には、この評価報告書を取得しておくことが推奨されています。実際、裁判や行政執行の現場では「意匠権者は評価報告書を提出すべき」とされていますし、相手方も無効審判請求と並行してこの報告を取り寄せ、裁判所に証拠提出することができます。評価報告書に法的拘束力はありませんが、例えば「この意匠には公開例があり新規性なし」と評価された場合、裁判所もそれを重視します。逆に「有効と判断される」との報告があれば権利行使にお墨付きとなります。このように評価報告は中国意匠特有の制度で、実用新案にもあります(どちらも無審査で登録されるため)。権利者は自信のない場合、行使前に取得しておくとよいでしょう。

  • 意匠権の行使範囲: 権利者は自社で独占的にそのデザインを製品化できるだけでなく、他者による模倣品に対して差止や損害賠償を求めることができます。詳しい侵害対応は後述する「意匠侵害に対する対応」の章で説明しますが、ここで押さえておくべき点は、中国の意匠権侵害判断は「全体的な視覚による評価」で行われるということです。日本と同様、意匠における「同一・類似」の範囲は厳密な寸法比較ではなく、需要者の目から見て両デザインが近似しているかどうかで判断されます。また権利範囲は登録図面に表れたデザインそのものですが、簡略説明の記載も解釈補助として考慮されます。例えば簡略説明に「デザインの要点は〇〇の形状にある」と書かれていれば、裁判所はその部分を重視して比較するでしょう。逆に書いていない特徴については権利範囲に含まれない可能性もあります。このため簡略説明の書き方次第で権利範囲が狭まったり広まったりするので注意が必要です。

以上が意匠権の内容と効力の概要です。15年間という十分な期間保護されるようになったことで、中国でもデザインの長期独占が可能になりました。また、無審査登録ゆえに「とりあえず出しておこう」という戦略も取りやすくなっています。ただ、その有効性は常に後から覆り得るため、権利を取得した後も市場の競合デザインや先行意匠情報にアンテナを張り、必要に応じて無効リスクに備えることが重要です。

無効審判・異議申立制度

前述の通り、中国の意匠は登録時に初めて公開されるため、日本のような登録前の異議申立制度は存在しません。第三者がその意匠登録に不服・疑義がある場合は、登録後に無効化を求める手続を取ることになります。この無効化手続は通常「無効宣告請求」と呼ばれ、日本でいう無効審判に相当します。

無効宣告請求の概要:

  • 請求人と期間: 誰でも(法人・個人を問わず)意匠権の存続期間中いつでも、当該意匠権が法の要件に適合しないとして無効を求めることができます。専利法第45条に「特許権(意匠権を含む)が付与された後、その付与が本法の規定に合致しないと考える単位または個人は、専利復審委員会に無効宣告を請求できる」と定められています。したがって出願日や登録日からの経過期間に関係なく請求可能で、時効のような制限もありません。

  • 審理機関: 無効宣告の審理は、CNIPA内部の専利復審無効部門(旧称:特許復審委員会)が担当します。ここでは3人以上の審査官からなる合議体が組まれ、請求人・権利者双方の主張や証拠に基づき、権利維持か全部無効か(場合により一部無効)の決定を下します。意匠の場合クレームが一つなので通常全件無効維持かの判断です。一部無効は、例えば一出願に複数類似意匠が含まれる場合に特定の図のみ無効にするといった可能性はありますが、制度上明確ではありません(実務的には、無効審理中に権利者自らある類似意匠を放棄することで部分的に生き残らせる対応が取られることもあります)。

  • 無効理由: 無効請求の理由は、登録要件違反不登録事由該当など多岐にわたります。具体的には、「その意匠が専利法第23条に反して新規性・創作性がない」「第25条に該当する(標識的模様だった等)」「第2条の定義に該当しない(例えば製品ではない)」「先願主義違反(自分より先に同一意匠が出願・公開されていた)」などが典型です。加えて、図面に矛盾があって意匠が明確でない場合も、実施細則に照らし無効理由となり得ます。また、他人の先取得権利との衝突(専利法第23条3項)も無効理由として主張できます。例えば登録意匠が他人の登録商標に酷似する場合、「他人の合法的権利と衝突」として無効が認められた判例があります。請求人は無効理由を裏付ける証拠(文献や製品写真、先登録証など)を提出する必要があります。

  • 手続進行: 請求が受理されると、権利者に通知され期間内に答弁書(意見書)提出の機会が与えられます。その後、必要に応じて口頭審理(ヒアリング)が行われ、合議体が審理した上で**「無効(全部/一部)宣告」または「権利維持」**の決定を下します。審理期間は案件によりますが、概ね6か月~1年程度です。意匠の場合、権利者による補正は許されません(発明や実用新案ならクレーム減縮等ができますが、意匠は図面を事後修正する制度がなく、無効理由を覆すための補正は認められません)。したがって一旦欠陥ありと判断されるとアウトです。

  • 決定とその効果: 無効宣告請求の審決(決定)に不服がある当事者(請求人または権利者)は、30日以内(現行法では3か月以内との規定ですが、実務上30日との資料もあり要確認)に北京知識産権法院に不服訴訟を提起できます。裁判所では事実審理が行われ、審決の妥当性が審査されます。最終的に裁判所が審決を維持すれば権利は無効、取り消せば権利は有効に戻ります。なお最終確定的に意匠権が無効とされた場合、その権利は初めから存在しなかったものとみなされます(遡及無効)。既に支払われた損害賠償や実施料については返還義務が生じうるものの、確定判決が履行済みの場合など一部例外もあります。

このように、中国の意匠権に対して第三者が異議を唱える道は無効宣告請求のみです。異議申立(オポジション)はありません。そのため、重要な競合他社の意匠が登録された場合には、無効審判を駆使して潰すことが主要な対抗策となります。無効審判のハードルは、それなりの証拠収集が必要ですが、特にノーチェックで登録された意匠には先行意匠が存在するケースも少なくないため、有力な先行デザインを提示できれば無効に持ち込めるチャンスは高いです。実際、中国では登録後に相手の権利を無効にすることは珍しくなく、特に多国籍企業間の係争では意匠権者は提訴される前に自ら無効審判を請求して権利の有効性を確認する(牽制する)場合もあります。また自社が権利行使する際も、相手から無効審判を起こされる前提で戦略を立てる必要があります。

まとめると、中国意匠制度は「登録後に第三者がチェックする」仕組みと言えます。無効審判は権利発生後の重要なクリーニング手段であり、企業の知財部としては競合の怪しい意匠権に目を光らせ、必要なら速やかに無効手続きをとることが肝要です。一方で自社権利について無効リスクがある場合、訴訟前に評価報告書を取って有効性を確認する、あるいはクレーム(図)の補正ができない以上、関連する改良デザインは別途出願しておくなどの備えが考えられます。

意匠侵害に対する対応(民事、行政、刑事対応)

中国で他社の意匠権を侵害する製品を製造・販売してしまった場合、あるいは自社の意匠権を侵害された場合、どのような法的対応策があるでしょうか。中国における知的財産侵害への対応ルートは大きく**「民事ルート(裁判)」「行政ルート(行政摘発)」「刑事ルート(警察による摘発)」**の3つがあります。以下、それぞれの概要を意匠侵害の場合に即して説明します。

民事訴訟(裁判)による救済

意匠権侵害に対して最も確実な救済手段は**民事訴訟(侵害差止・賠償請求訴訟)**です。権利者(原告)は、侵害者(被告)を相手取り、**人民法院(裁判所)に提訴します。中国では知的財産事件は技術的専門性に鑑み、中級人民法院が第一審管轄と定められており、主要都市には知的財産専門法院(知財法院)**も設置されています。例えば北京・上海・広州などには独立の知財法院があり、それ以外の省でも中級法院に知財合議庭が設けられ専門的に扱っています。

民事訴訟で権利者が請求できる主な救済は**「差止命令(差し止め)」「損害賠償」「侵害品の廃棄等」**です。差止命令とは、被告による製造・販売などの侵害行為を停止させる裁判所命令で、判決または仮処分(後述)により実現します。損害賠償は、侵害によって権利者が被った損害(または侵害者の不当な利益)を金銭で賠償させるものです。中国の新しい専利法では、この損害額算定や立証負担について大きな改正がありました。

まず、悪意のある重大な侵害に対しては懲罰的賠償(punitive damages)が導入されました。これは故意かつ情状の悪いケースでは、認定損害額の1~5倍まで賠償額を増額できるという制度です。意匠権侵害でも、例えば権利者が警告したのに無視して大量販売を続けていたような場合には懲罰的賠償が課され得ます。ただし5倍賠償が認められるのは相当悪質なケースに限られます。

次に、損害額の立証が困難な場合のために法定損害賠償額の上限が引き上げられました。従来は人民元100万元(約1,600万円)まででしたが、新法で500万元(約8,000万円)まで裁量賠償が可能となりました。実務上、中国の特許・意匠訴訟では売上や利益の正確な立証が難しいため、裁判所が法定額である程度まとめて判断することが多いです。その上限引き上げにより、以前より高額な賠償判決が出やすくなっています。

さらに立証負担の緩和も図られています。具体的には、権利者が損害額を算定するのに必要な資料(例えば被告の売上帳簿等)が被告側に偏在する場合、裁判所は被告に帳簿提出を命じることができ、被告が正当な理由なく提出しなかったり虚偽の帳簿を提出した場合には、権利者の主張額を採用して損害額を推定することができます。この規定により、侵害者が売上額を秘匿して減額を狙うことを防いでいます。

民事訴訟には通常一審・二審の二審制が採られます。中級法院の判決に不服なら高級法院(高等裁判所)に控訴できます。裁判期間は一審で約1年、控訴審も半年~1年程度が目安ですが、複雑さによります。費用面では、米国等に比べれば低廉ですが、弁護士費用や証拠収集費が掛かります。大手律所の試算では、一審だけで15万~30万USD(約2千~4千万円)とされることもあります。もっとも勝訴すれば相応の賠償が得られ、侵害停止の法的拘束力も強いので、深刻な侵害には民事訴訟が最も効果的といえます。

権利者は民事提訴に際し、必要に応じて訴訟前の差止(仮処分)や訴訟前の証拠保全を申請することもできます。中国の民事訴訟法や専利法には、権利者が緊急の事情を示せば裁判所が仮の差止命令を出したり(例えば即売会で売られそうな場合に出品禁止を命じるなど)、証拠隠滅される恐れがあれば証拠保全(証拠品の差押えなど)をしてくれる仕組みがあります。ただしこれらはハードルが高く、担保金の供託も要求されます(差止命令の申し立てには被告の損害担保として数十万~百万人民元単位の保証金を積む必要がある場合があります)。実務では、相手が海外企業で逃げる恐れがある場合の預金差押えなどに利用されています。

最後に、意匠権侵害訴訟の特殊事項として、前述の専利権評価報告書があります。実用新案と同じく、意匠権者は通常、訴訟提起時または提起後早期にCNIPA発行の評価報告書を提出します。これは裁判所から強制される場合もあります。評価報告書で「先行意匠なし(有効)」との結果が出ていれば裁判官の心証も良くなり、逆に「類似する先行意匠あり」となれば権利行使が難しくなります。中国の裁判所は、被告が無効審判を請求中の場合は裁判を中止(停止)することもできますが、最近は新法で「故意遅延でない限り続行できる」とされ、評価報告書が有力な参考資料となっています。

行政ルート(行政機関による取締り)

中国にはユニークな制度として行政機関による知財侵害取締りがあります。これは、権利者が行政執法機関(知的財産局や市場監督管理局の知財執行部門)に申し立てて、行政処分によって侵害を止めさせる仕組みです。特に商標では広く使われていますが、特許・意匠についても利用できます。専利法第57条に、権利者または利害関係人は侵害発生時、裁判所への提訴だけでなく特許管理部門(行政)に処理を請求できると定められています。

行政ルートでは、地方の知的財産局(旧称:専利管理局。現在は各地の市場監督管理局内に知財執法部門が設置)に権利者が侵害申立書を提出します。担当部署は調査員を派遣して現地調査や立入検査を行い、侵害製品のサンプル入手や販売現場の写真撮影などを行います。そして行政的判断として侵害が成立すると認めれば、直ちに侵害行為の停止を命令できます。例えば工場に赴いてその場で製造停止を命じ、在庫品を差し押さえるといった強制力のある措置が可能です。さらに、違法所得の没収や罰金を科す権限も行政機関は有しています。専利法第70条では、行政機関は同一特許の侵害が複数地域に及ぶ場合に統合して処理できるなど、行政執行の拡充が図られています。

行政ルートのメリットは、まず対応が迅速であることです。裁判に比べ手続きが簡略で、申立てから数週間~数か月で現場摘発・処分が行われるケースもあります。また費用が安価で、権利者は弁護士を通さず直接申立ても可能(ただ言語や手続上、代理人利用が一般的)です。市場から商品を即座に排除したい場合、例えば模倣品が展示会に出ていたり一時的なキャンペーン販売されている場合など、行政摘発は素早く効果を発揮します。

一方デメリットとして、行政機関は損害賠償を命じる権限がないことが挙げられます。行政処分でできるのはあくまで差止めと罰金(国庫への徴収)までで、被害者への賠償金は出ません。権利者は損害賠償を得たいなら、別途民事訴訟を起こす必要があります。もっとも行政処分の段階で**当事者同士の和解(調停)**を試みることもあり、行政担当官が間に入って「在庫を引き渡す代わりに○○元支払う」という示談が成立することもあります。しかしそれはあくまで任意の和解であり、強制力ある損害賠償とは異なります。

行政機関の処分結果に不服な場合、侵害者側は15日以内に行政訴訟で裁判所に不服申立てできます。権利者側も処分が不十分と感じれば提訴可能です。裁判所は行政処分の適法性を審査します。例えば行政が「侵害なし」と判断した場合、権利者が不服訴訟を提起して覆すこともできます。ただ多くは侵害者側が処分取消を求めて提訴するパターンでしょう。

行政ルートは地方レベルでの執行が中心です。中国は広いため、地域ごとに執行力や態勢に差があります。知財に注力する沿岸都市では比較的積極的に動いてくれますが、辺境ではスピードが遅いこともあります。また、行政処分には地理的限界があり、その管轄地域内での効果しか及びません。しかし専利法改正で地域をまたぐ侵害は上級機関が統合処理できるようになったため、複数省にまたがるような侵害品流通にも対応しやすくなっています。

特殊な行政対応として、税関(水際取り締まり)も触れておきます。中国では税関に知的財産権を登録する制度があり、意匠権者は自らの意匠を税関総署に備え付けの「知的財産保護備案」に登録できます。登録された意匠権は、税関が輸出入貨物を検査する際に監視対象となり、もし模倣品が輸出入されようとすると通関保留・差押えをしてくれます。特に輸出品に対しても中国税関は検査権限がある(中国税関は輸出入ともに取り締まり可能)ため、中国国内で作られた模倣品が海外市場に出ていくのを水際で阻止できます。これは中国企業だけでなく、日本企業が自社意匠を中国に登録していれば活用できる措置です。税関差止めは行政処分の一種ですが、司法手続きより前に迅速な物理的阻止が図れる点で非常に有用です。

刑事手続(刑事罰・摘発)

意匠権侵害それ自体に対する刑事罰は、中国には基本的に存在しません。中国刑法には商標偽造や営業秘密侵害についての犯罪類型はありますが、特許(発明・実用新案・意匠)侵害は民事上の違法行為と位置づけられており、意図的に他人の特許を侵害したからといって即逮捕・起訴されることはありません。したがって、日本の感覚で「悪質な意匠パクリ業者を刑事告訴して摘発してもらう」というのは、中国では一般的ではありません。

ただし、特許に関連する犯罪類型はいくつかあります。代表的なのは「特許偽造罪」と通称されるものです。これは他人の特許を勝手に表示したり、でたらめな特許番号を製品に付したりして消費者を欺く行為で、法律上禁止されています。専利法第58条は「他人の特許を虚偽表示した場合、民事責任に加え行政処罰として違法所得の没収・罰金が科され、犯罪を構成する場合は刑事責任を追及する」と規定しています。つまり、自社製品に存在しない意匠権番号を付けて「特許出願中」などと宣伝するような行為は処罰対象で、悪質なら詐欺的行為として刑法で裁かれ得ます。しかしこれは「権利がないのにあると偽る」行為であり、「権利があるのに無断実施する」意匠侵害とは性質が異なります。

商標権侵害に関しては、中国刑法で「偽造登録商標罪」等の規定があり、大規模な偽ブランド業者は刑事摘発され懲役刑を受ける事例もあります。しかし意匠権侵害のみで実刑判決に至ったケースはほぼ皆無といわれています。公安当局(警察)が動くのは、例えば意匠権侵害品が消費者の生命に危険を及ぼす製品だったり、同時に他の犯罪(詐欺や横領など)と結びついている場合などに限られます。

要するに、中国では意匠権侵害は民事と行政で対処し、刑事は補助的と考えてよいでしょう。権利者ができるのは、まず公安機関に「知的財産権犯罪」として告発することですが、警察が受理するハードルは高く、原則として商標など明確な偽造犯罪以外では動きません。近年の中国刑法改正でも、知財犯罪の法定刑引き上げなどはありましたが対象は商標・営業秘密等で、特許(意匠)侵害には直接関係していません

ただ、一点補足すると、重大な特許侵害事件が行政処罰され、それでもなお侵害を続ける場合に、悪質性ゆえ刑法の「妨害公務」「経済秩序撹乱」等で処罰される可能性は理論上あります。しかし実例はほぼ報告されていません。せいぜい前述の虚偽表示や、特許証書偽造(他人の特許証を偽造して展示会で提示する等)は摘発されることがあります。

まとめると、中国では意匠権侵害に刑事罰は原則ないので、企業は民事訴訟で差止・賠償を図り、悪質業者には行政摘発も併用するのが実務対応となります。刑事は期待しすぎず、どうしてもという場合に公安への働きかけを検討する程度でしょう。ただし権利者として注意すべきは、専利法58条の「虚偽特許表示」に自社が引っかからないようにすることです。他人の意匠なのに自社が特許マークを付けたりすると逆に摘発される可能性があります。この点は日本企業でも中国生産品の表示には気を付けましょう。

海外出願(ハーグ制度の対応、中国からの出願、中国への国際出願)

中国企業や日本企業にとって、中国意匠を軸に海外展開する場合や、逆に海外の意匠を中国で権利化する場合の手段について整理します。ポイントはハーグ国際意匠制度の活用と、パリ条約に基づく直接出願の選択です。

中国のハーグ協定加盟と国際意匠出願

中国は2022年に**ハーグ協定(意匠の国際登録に関するジュネーブ改正協定1999)に加盟し、同年5月5日に国内発効しました。これにより、中国を含む複数国への意匠出願を一度の国際出願(ハーグ出願)**で行えるようになりました。ハーグ協定ではWIPO国際事務局に英語またはフランス語(中国加盟後は中国語も可ですが、現在は英仏が実務的)で単一の出願書を提出し、指定した加盟国それぞれで審査・登録が行われます。

中国を指定国とするハーグ出願: 日本企業など外国企業は、ハーグ制度を利用して中国を指定し国際出願することが可能です。ハーグ出願では、各国ごとに現地代理人を立てる必要がなく、当初から英語などで一括出願できます。ただし中国を指定した場合、国際出願に中国の実務要件を組み込む必要があります。具体的には:

  • 簡略説明の添付: 中国はハーグ協定加盟に際し、「国際出願には意匠の簡略説明(Design Brief)を含めること」を必須要件とする宣言をしました。そのため、IBに提出する願書に中国指定がある場合、意匠ごとに設計要点などを記載した簡略説明を付す必要があります。内容は中国国内出願と同様、名称・用途・要点等です。国際登録公表後、中国庁にそれが転送され審査に使われます。

  • 単一性要件: ハーグ出願では複数意匠を一括出願できますが、中国が指定国の場合、**その複数意匠は「同一製品の類似意匠」または「セット製品の意匠」**という中国の単一性要件を満たさなければ、CNIPAは拒絶通知を出します。例えば全く別製品のデザインを1件のハーグ出願に入れて中国も指定すると、中国では統一性違反としてその一部または全部が拒絶される可能性があります。この場合、出願人は国際段階で意匠を分割する手続きを取る(分割国際登録)か、あるいは拒絶不服手続きをとる必要があります。米国と中国を同時指定する場合など、各国の単一性要件が異なるため慎重な戦略が必要です。

  • 図面要件: 中国指定時には、提出図面が中国の形式基準に適合しているかも重要です。国際出願の図面には各国共通の図面を使いますが、例えば米国向けに陰影線を描いた図でも中国では受理されます。ただ、中国審査官が見て理解不能な図面や不鮮明な写真は、「意匠が明確に表されていない」として拒絶理由になる可能性があります。必要に応じて**国際段階で補正(図面の差替え)**を行うことも検討しましょう。

  • 拒絶通報期間: 中国はハーグ協定上、拒絶通知期間を通常の6か月から12か月に延長する宣言を行いました。つまり、国際公表から1年以内にCNIPAが拒絶の有無を通報してきます。他の多くの国は6か月なので、中国はやや長めです。このため、中国を指定したハーグ出願は、約1年間は登録されるか不確定な状態が続く可能性があります。

  • 効力発生と保護期間: 国際登録から中国で意匠権が発生するタイミングは、中国国内での公告日に効力発生とされています。CNIPAが登録決定すると中国特許公報に掲載し、その掲載日=権利発生日となります。保護期間は他の出願と同じく出願日(国際登録日)から15年で、国際登録日基準で計算されます。年金についても国内出願同様、初年度以降毎年支払う必要があります(CNIPAは国際登録が維持されている限り年金請求通知を出します)。

  • 手数料: 中国指定には個別手数料が適用されます。これは国際出願時と登録時に分割して納付する形で、概ね中国に直接出願する場合と同程度の費用です。

中国から海外への意匠出願: 中国企業が自国のデザインを海外で保護する場合、ハーグ協定の活用が大きな追い風となりました。中国は加盟以降、自国企業にハーグ出願を奨励しており、中国出願人はCNIPAを通じて直接WIPOへもハーグ出願を提出できます。一度の手続で複数国の意匠権が得られるため、積極的に利用が始まっています。

中国企業がハーグを使うメリットは、例えばアメリカ・欧州・日本など複数市場にデザインを出す際、英語で一括出願できる点です。従来だと各国に別々に依頼し各言語で書類作成が必要でしたが、その負担が軽減されます。ただし、米国や日本のように図面や制度要件が独特な国を指定する際には、その国ごとの拒絶リスクに注意しなければなりません。例えば米国は部分意匠は認めず、一意匠一出願主義なので、国際出願で複数意匠を入れると米国では分割を要求されます。中国企業がそうした出願戦略に不慣れな場合、せっかくの国際出願が各国で拒絶連発ということもあり得ます。日中韓を指定するなど比較的制度の似た国同士では問題少ないでしょうが、欧米を含む場合は各国代理人の事前確認が推奨されます。

ハーグ協定を使わず直接各国に出願する場合も依然可能です。中国はパリ条約加盟国なので、中国企業が最初に中国で出願してから6か月以内であれば、その出願を基にパリ優先権を主張して日本・米国・欧州などに個別出願できます。逆に先に外国出願した場合、発明と違い外国出願優先権制度は中国にはありません(※2021年改正で国内優先権は導入されましたが、外国->中国はパリ条約のみ)。しかしそもそも中国では外国出願のための事前許可(秘密審査)が発明と実用新案に限られ、意匠には不要です。つまり、中国でデザインを創作した場合でも、先に外国(例えば日本)に出願しても法律上問題ありません。これは日本と異なる点で、日本は意匠も海外先願時に産業財産調査許可が要りますが、中国は技術情報ではないからか意匠については定めがありません。ただし先に外国出願すると、その公開や販売により中国出願時に自ら新規性喪失するリスクがありますので、パリ優先期間内に中国にも出願することが肝要です。

外国(日本など)から中国への意匠出願: 日本企業が中国で意匠権を取得するには、(1)中国に直接パリルートで出願するか、(2)ハーグ国際出願で中国を指定する、の二つの方法があります。どちらにも一長一短があります。

  • 直接中国へ出願(パリルート): 日本出願から6か月以内であればパリ優先権を主張して北京にあるCNIPAに意匠出願をします。この場合、中国語翻訳および現地代理人が必要です。願書・図面・簡略説明を整え、優先権証明も提出すれば、あとは上述の国内手続に従い早ければ数ヶ月で登録となります。メリットは直接コミュニケーションできる点で、補正や意見書も柔軟に対応できます。また意匠ごとにきめ細かく出願可能なので、日本出願をそのまま翻訳して同じ図面で出すだけで済みます(もちろん図面は日本基準で問題なければですが、意匠の図面は国際的にそれほど大差ないでしょう)。費用面では、代理人費用等がかかるものの、1件当たりではハーグ経由と大きな違いはありません。

  • ハーグ国際出願を利用: 既に日本がハーグ加盟国であるため、日本企業は日本特許庁を通じてまたは直接WIPOに国際意匠出願できます。その際に中国を指定すれば、中国にも効果が及びます。この方法のメリットは一度の出願で複数国に出せること、共通言語(英語等)で手続できること、各国ごとにバラバラに出願するより事務が簡素なことなどです。例えば日本・米国・中国・欧州を一括指定して出願すれば、それぞれの庁への個別出願に比べ手間が省けます。ただデメリットとして、中国固有の要件への対応が難しい場合があります。国際出願時に簡略説明を付け忘れると中国から拒絶されるでしょうし、類似意匠をまとめて出願した結果中国ではunity違反になることもあります。また審査段階で拒絶に対応する際、国際登録のままだと現地代理人を立てにくい問題もあります(正式には各国の拒絶に対して現地代理人を指名して手続することもできますが、その分別途費用が発生します)。したがって、日本企業が確実に中国意匠権を取りたい場合、中国単独なら直接出願するほうが手堅いという意見もあります。一方で多国一括権利化が目的ならハーグを活用すべきです。

結論として、2025年現在、中国のハーグ加盟により日本企業の中国意匠出願ルートは柔軟性が増したと言えます。自社の状況に応じ、ケースバイケースで最適な出願経路を選択すると良いでしょう。例えば「中国・韓国だけ欲しいならそれぞれ直接出願する」「中国含め欧米にも出すならハーグでまとめるが、図面構成に注意する」「デザインごとに微妙に経路を変える」等の戦略が考えられます。なお、中国から国際出願する件数も急増しており、将来的には中国企業の国際デザイン出願が日本企業にとって脅威となるかもしれません(世界規模でデザイン保護を取りに来る可能性)。日本企業としてもハーグ制度を十分に活用し、中国市場での権利漏れや、逆に海外市場での中国企業台頭に対応していく必要があります。

中国特有の実務上の留意点(審査実務の傾向、図面の表現、複数意匠の取り扱いなど)

最後に、中国意匠制度における日本とは異なる実務上の留意点を整理します。審査官の運用傾向や書類作成のコツなど、日々の実務で役立つポイントです。

  • 審査運用と戦略面: 繰り返しになりますが、**中国の意匠審査は実体判断が緩やか(新規性の細かなチェックなし)**です。そのため「とりあえず出願しておけば登録になる」ケースが多く、権利取得のハードルは低いです。しかしその反面、登録後に無効になりやすい権利も混在します。実務的には、重要なデザインはできるだけ早期に出願し先願を確保することが大事です。他社が似たデザインを先に出してしまうとアウトなので、製品発表より前に出願するスピード感が要求されます。また、自社意匠が本当に新規か(既に世に出ていないか)は事前に社内で確認し、微妙な場合でもグレースピリオド(6ヶ月以内)条件に該当するなら理由書等を用意しておくと良いでしょう。

  • 先願主義の罠(部分意匠と全体意匠の同日出願): 日本では同じ人が同じデザインの一部と全体を別々に出願する場合、後から部分を出しても自分の先の全体出願は阻害しない特例があります。しかし中国にはそれがなく、自分の全体意匠出願が先にあると自分の部分意匠出願でも拒絶されます。このため、一つの製品について全体デザインも部分的特徴も両方権利化したい場合は、必ず同日(または同時期)に両方を出願するようにしましょう。例えば新しいスマートフォンの筐体全体デザインと、その一部(カメラ周りの模様)を別々に押さえたいなら、日を分けず同日に2件出願するのが安全です。同日ならお互い先後関係がなく新規性に影響しません。同日の判断は厳密には**「出願日が同一」**であればOKです。時間までは問われません(中国は先願主義で日単位、時刻は同一日なら同順位扱い)。

  • 図面作成上のポイント: 中国出願では図面(または写真)が命です。図面の出来が悪いと、たとえ内容が良くても保護範囲が曖昧になり、後の権利行使で不利になります。以下の点に注意しましょう。

    • 提出図面は製品の全貌を余すところなく開示する必要があります。立体物なら六面図(正面・背面・左側面・右側面・上面・底面)を原則全て提出します。もし上下対称で底面が表れない場合も、「底面図:省略、上下同一」等と明記するのが望ましいです。未提出の視点は権利範囲に含まれない可能性があります。

    • 部分意匠の場合、少なくとも製品全体図部分の斜視図を含める必要があります。製品全体図では破線を用いて非請求部分を示し、部分の位置関係を明確にします。部分自体の詳細形状を示すため、斜視図や必要な各面図も実線で描きます。一点鎖線等で境界線を引いた場合は、簡略説明にその旨記載する決まりです。

    • 破線の活用: 中国でも破線による非請求部分の表示が可能ですが、破線を使った部分は権利範囲に含まれない扱いとなります。逆に言えば、破線で描かなかった部分はすべて請求範囲とみなされます。日本出願ではあえて部分意匠でなく全体意匠の中で破線記載するテクニックもありますが、中国では破線は部分意匠制度専用の運用です(全体意匠出願で破線を使うのは基本NG)。部分意匠以外では、例えば環境物を点線で描くことも不可です。背景や使用状態を示す人や他物品は、一切図に含められません。

    • 写真提出時の注意: 写真で出願する場合は、無背景で製品のみが写った鮮明な写真を用意します。複数の写真で明度や色調が極端に異ならないよう統一し、ピントが甘いものは避けます。写真の利点はリアルな質感まで表現できることですが、欠点は寸法比が正確に示しにくい点です。審査指南上、写真提出でも構いませんが、デザインの形状が明確に把握できない場合は補正指令が出る可能性があります。白背景・十分な解像度を確保しましょう。

    • 簡略説明の賢い記載: 簡略説明は意匠権の解釈に利用できますが、諸刃の剣です。**ポイントは「余計なことを書きすぎない」**ことです。例えば「この意匠のデザイン要点は〇〇にあります」と書くと、それ以外は平凡だと認めたようなものです。しかし全く書かないのも認められませんので、設計要点欄には特徴を簡潔に述べますが、限定し過ぎない表現を心がけます(例:「全体として流線形でまとまった形状」であれば「全体の流線形による洗練された形態」と書く等)。用途についても、あまり限定しすぎず、その製品が通常果たす機能を記載すれば十分です。部品意匠の場合、「〇〇に用いられる部品で、△△に取り付けられる」等と書きます。なお簡略説明に参考図や写真を記載することはできません。文章のみです。また、意匠の創作背景や効果などを書く欄でもないので注意しましょう(書いても審査官は読み飛ばすだけです)。審査指南では簡略説明に記載できる事項が列挙されており、それ以外は禁止です。

  • 複数意匠の同時出願: 中国の類似意匠制度は、日本の関連意匠制度とは異なります。類似意匠は1件の出願に最大10個まで含められますが、同一または類似の製品に限定されます。類似かどうかの判断基準として、デザインの構想が共通し、部分的差異が通常範囲内かどうかが用いられます。出願時には特に「本意匠・類似意匠」を区別して記載する必要はありませんが、願書の意匠名称欄には「○○(I)、○○(II)…」のように識別子を付けることが多いです。類似意匠群は一括して一つの意匠権として扱われます。つまり、10個のバリエーションがあっても権利番号は一つで、年金も一件分です。ただし無効や侵害の判断では各デザインごとに検討されます。仮に10個中1個が新規性欠如でも、残り9個に影響が及ぶかは場合によります(通常その一つの類似意匠だけ無効という判断は手続的に難しく、全部無効か権利維持かになるでしょう)。

    セット意匠については、一組の物品全体で1意匠とみなされます。コーヒーカップ&ソーサーのように、単体では不完全だが組で一つの雰囲気をなす場合です。この条件として**(1)同一のロカルノ分類に属し、(2)慣習上同時に使われ販売され、(3)デザインコンセプトが統一されていることが必要です。セット意匠は、例えば4点セットでも年金は一件分で済みます。ただし留意点として、セット製品として出願したものを後で単品に分けることはできないこと、およびセット内の一部だけ部分意匠にすることは認められない**ことがあります。セットはあくまで全体で一意匠ですから、部分保護したければ別出願が必要です。

  • GUIや画面デザインの実務: 前述のように、GUIを含む表示画面のデザインは2014年以降中国でも保護されるようになりました。しかし独立したGUI(製品本体を伴わない画面デザイン)はまだ認められていません。2023年の施行細則改正で、**「電子機器」**という汎用的な製品名称がGUI関連でも使えるようになり、例えばスマホにもPCにも表示可能なソフトウェア画面は「電子機器のGUI」として一括出願できるようになりました。これは進歩で、日本のように端末ごとに別出願する必要がなくなりつつあります。

    GUI出願実務では、画面の正面図(スクリーンショットに相当)を提出し、必要なら拡大図や遷移図も付けます。GUI以外の機器部分は破線で描くか省略します。簡略説明には「○○用GUIを表示する△△(製品名)」のように、GUIの用途と製品名を記載します。例えば「温度制御GUI付き冷蔵庫」や「健康管理GUIの表示スクリーンパネル」などです。要はGUIが何に使われる画面か、その画面が表示される機器は何か、を明確にする必要があります。まだ製品に依存する制約はありますが、将来的にはより柔軟になる可能性があります(実際、近年「表示スクリーンパネル」「電子機器」という広い名称が認められるようになったのは製品依存性の緩和です)。GUIを出す際は最新の審査指南を確認し、不要な画面遷移図を入れすぎないことや色彩のクレームなどにも気を配りましょう(カラー画面の場合、色彩も要部ならカラー図で提出します)。

  • その他実務上の留意: 中国意匠出願では願書情報の整合も大切です。出願人の氏名・住所はパスポートや登記証の表記通りに中国語化し、途中で表記ゆれがないよう統一します(特に英語名のカナ表記などはぶれやすいので注意)。出願人名義も要注意で、例えば日本企業が現地法人経由で出す場合、どの法人名義で出すか戦略が関わります。中国では職務発明なら会社が意匠権者となるのが原則(自動的に法人に帰属)なので、従業員が開発したデザインは会社名義で出願します。出願人を途中で変更することも可能ですが、手続が煩雑なので最初から正しい名義で出しましょう。

    また先行意匠調査は中国では義務ではないですが、重要案件ではやっておくべきです。評価報告書請求をすればCNIPAが調べてくれますが、それは登録後です。出願前に業界内で類似デザインがないか、カタログやネット検索で確認するのは日本以上に重要です。中国企業は欧米や日本のデザインもチェックしていて、抜け目なく自社出願してくることもあります。模倣出願(パクリデザインの先取り出願)も存在しますので、商品発表前に出願しておく・国際公開される前に中国出願する等、自衛策が必要です。

    権利行使面では、中国の消費者市場は広大で侵害者も玉石混交です。大々的な侵害には民事と行政のコンビネーションが有効ですが、小規模な山寨業者が相手だと訴訟コスト倒れになることもあります。そのため、ケースに応じて行政摘発で市場から締め出すだけに留め、賠償は追わない判断もあります。または税関登録を活用して輸出ルートを断つ戦術も有効です。日本企業は自社の意匠権を中国税関に登録していないことも多いので、模倣品の輸出入に悩まされたら是非検討してください。手続きはオンラインで比較的簡単です。

以上、盛りだくさんとなりましたが、中国の意匠制度はこの数年で部分意匠導入・存続期間延長・国際出願対応と大きく変化し、ますます日本企業にとっても無視できない存在となっています。日本の弁理士・知財部門としては、これら最新情報を踏まえて中国におけるデザイン保護戦略を最適化していく必要があります。中国は世界最大の製造・消費市場であり、デザイン面からの競争力も年々高まっています。自社の優れたデザインは中国でも権利化し、模倣品には毅然と対処するとともに、他社のデザインにも目を配りつつ、有効に制度を活用していきましょう。

参考資料: 中国専利法(意匠関係)、中国専利法実施細則、CNIPA審査指南(2023)、中国国家知識産権局 公告、弁理士法人オンダ国際特許事務所「中国における意匠制度の概要」、Armstrong Teasdale法律事務所 解説、他.