韓国の商標出願手続 韓国で商標登録を受ける手続は、出願から登録まで以下の流れで進みます(日本の特許庁における商標手続と概ね類似しています)。主要なステップは次のとおりです。
韓国の意匠制度概要
意匠の定義と保護対象
韓国の意匠(デザイン)保護法における意匠の定義は、「製品(有体物)の形状、模様、色彩、またはこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と規定されています。したがって意匠として保護されるには、デザインが物品に具現化されていなければなりません(物品とは有体かつ動産で独立して取引可能なものと定義)。例えば、建築物などの不動産や、水・空気・光などの無形物、砂糖の粒など一定の形を持たないものは物品に該当せず意匠登録できません。一方、物品の一部(例:靴下のかかと部分、瓶のネック部分、コップの取手など)についての部分意匠も2001年以降は登録可能です。意匠は肉眼で視認できるものである必要があり(顕著性・視覚性の要件)、純粋に機能を確保するための形状のみで構成されるデザイン(機能美のみの形状)や、公序良俗に反するデザイン、国旗・勲章などに類似するデザインなどは登録が認められません。
保護対象となるデザインの範囲は近年拡張されました。従来、意匠法上の「デザイン」は物品に施されたものに限られ、物品に結びつかない画像(例えばホログラムやAR/VRの映像)は保護対象外でした。しかし2021年の法改正で画像意匠(Graphic Image)が意匠の定義に追加され、製品に直接表示・記録されていないグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)やプロジェクション映像等のデザインも保護対象に含まれるようになりました。この改正により、デジタル技術を用いた投影画像やホログラム、AR/VR上の画面デザインなど、物品に直接結び付かない新技術分野のデザインも意匠権で保護できるようになっています。
出願から登録までの手続き
韓国の意匠出願手続は、大きく以下の流れで進みます(※韓国では特許や実用新案と異なり出願審査請求は不要で、提出された意匠出願は自動的に審査に付されます)。
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出願提出:願書(後述)および図面等の必要書類を用意し、韓国特許庁(KIPO)に意匠出願を行います。電子出願が一般的です。外国企業・個人が出願する場合、韓国内に住所がない者は現地代理人(弁理士)の選任が必要です。
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方式審査:提出後、まず方式審査が行われ、出願書類が形式要件を満たしているかチェックされます。例えば「願書の種類が不明」「願書に出願人の氏名・住所が記載されていない」「図面が添付されていない」「願書の言語が韓国語でない」等の場合、出願は却下され出願日が認められません。方式審査に合格すると出願番号が付与され、実体審査に移行します。
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実体審査(または一部審査):韓国の意匠制度には本審査主義(SES)と一部実体審査主義(PSES)の2つの審査方式があります。審査付与区分は指定する物品(商品分野)により決まります。一般的な工業製品の意匠は実体審査を受け、新規性・創作性などの実質的要件について審査官が判断します。一方、流行に左右されやすく商品サイクルが短い特定分野(例えば衣類や布地、文房具、食品容器等)は一部実体審査(部分審査)の対象となり、簡易な審査で迅速に権利化されます。
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部分実体審査: 審査官は形式要件のほか、「当該分野の通常のデザイナーが既によく知られたありふれたデザインから容易に創作できるものか」を簡易チェックし、明らかに陳腐・公知でない限り迅速に登録査定します。対象物品は韓国意匠分類(ロカルノ分類に基づく)のうちファッション関連やトレンド品目が中心です(具体例:第1類「食品」、第2類「衣服・身の回り品」、第3類「旅行用品」、第5類「織物・シート」、第9類「包装容器」、第11類「装身具」、第19類「文具・美術用品」など)。これらの分野では出願から登録まで数日〜数週間程度という迅速な処理も可能で、2020年の改正では対象クラスが拡大されました。部分審査出願は実質審査が省略されるため、願書提出から平均10日〜3か月程度で登録査定が得られます(通常の実体審査は6〜8か月程度)。
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実体審査: 上記以外の全ての意匠出願は実体審査主義に則り、審査官が新規性・創作性・先願との抵触など詳細な審査を行います。審査請求手続は不要で出願順に自動的に審査されます。出願件数にもよりますが、審査に要する期間は概ね1年前後です。早期権利化を希望する場合、特定の要件下で早期審査申請も可能です(例えば出願を公開して第三者に警告した場合や、模倣品が出回っている緊急性がある場合等)。
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中間対応:実体審査の結果、拒絶理由(登録要件を満たさない点)がある場合、審査官は拒絶理由通知を出します。出願人は指定期間内に意見書の提出や図面の補正等で対応できます。意見書によって審査官が納得すれば審査を通過します。補正によって意匠が変更される場合、補正提出日が新たな出願日と見なされる場合があります(明白な誤記の訂正は審査官が職権で行える制度も導入されています)。最終的に審査官が拒絶査定(最終拒絶)を下した場合、出願人はその写し送達日から30日以内(2か月まで延長可)に拒絶査定不服審判を特許審判院(IPTAB)に請求できます。審判で覆らない場合は知的財産高等法院(特許法院)や最終的に大法院(最高裁)まで争訟可能です。
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登録・公告:審査に合格すると登録査定(特許庁からの登録許可決定)が出されます。登録査定後、所定の登録料を納付することで意匠権が発生し、意匠登録公告が官報(意匠公報)に掲載されます。韓国では実体審査を経た意匠(SES案件)について事前の公開・異議申立て制度はありません。一方、部分審査による迅速登録案件については、登録公報発行後3か月間は異議申立て(登録異議)の期間が設けられています。第三者はこの期間中に異議を申立てて登録の取消しを求めることができ(異議期間経過後は無効審判で争うことになります)、2025年改正法では侵害警告を受けた場合に限り公報掲載後1年以内でも異議申立てできる追加期間が導入される予定です。なお出願人の希望により、審査段階で早期に出願を公開(デザイン公開公報の発行)することもできます。公開公報が発行されると、出願人は第三者に対しその出願が係属中である旨の警告書を送りつけることができ、公開後に生じた他人の実施行為については将来の損害賠償請求に備えた補償金請求も行えます。
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登録後:登録料納付により意匠権が発生すると、特許庁から意匠登録証が発行されます。意匠権の存続期間は後述の通りですが、期間満了まで毎年の年金(登録料)を納付することで権利維持します。権利発生後は、利害関係人が無効審判を請求してその登録の無効を争うことができます。また、出願人が希望すれば登録と同時に秘密意匠制度を利用して、登録後最大3年間は意匠を非公開のまま権利化しておくことも可能です(出願から登録料納付時までに秘密意匠請求を行う必要があります)。秘密意匠期間中でも、一定の場合(権利者の同意や裁判所の請求等)には閲覧が許可されます。
出願に必要な書類・形式要件
意匠出願に必要な書類は以下の通りです:
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願書(申請書):出願人・創作者の氏名と住所(出願人が法人の場合は代表者名)、提出日、意匠の対象となる物品の名称、必要に応じパリ優先権の主張(優先権主張をする場合は先の出願日・国など)を記載します。願書は韓国語で作成する必要があります。
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図面または写真:意匠の形態を示す図面一式を提出します。図面の代わりに写真や実物見本で提出することも認められています。図面は通常、立体物なら7面図(斜視図、正面・背面、左右側面、平面、底面)を備え、必要に応じ断面図等も添付します。平面的な物品(例えば布地模様など)の場合は表裏の2面図で足ります。図面には物品の名称、デザインの説明及び創作の要点(特徴部分)を簡単に記載する欄があります。ただし意匠制度では図面による開示が中心であり、詳細な文章による説明は特許明細書ほど重視されません。
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優先権書類(パリ条約に基づく優先権主張がある場合):先の出願の公証謄本(優先権証明書)およびその韓国語訳。出願時に提出しなくても、出願日から3か月以内に追加提出可能です。
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委任状:代理人経由で出願する場合に提出(必要に応じ後から補完可)。
願書と図面は出願時に必須で、これらが欠けると正式な出願とは認められません。その他、出願時の形式要件として「物品の区分(意匠の対象とする物品名の記載)」「韓国内に住所を有しない者は代理人を立てること」などがあります。
韓国は原則「一意匠一出願主義」を採用しています。ただし例外として、統一感のあるセット商品(例:食器のセット、チェスの駒一式など)については組物意匠として一件の出願でまとめて保護を受けることができます。さらに韓国では複数意匠の一括出願も条件付きで認められており、同一分類クラス内の物品であれば1件の出願で最大100意匠までまとめて出願することが可能です。※従来は無審査対象意匠に限り一出願20意匠まで認められていましたが、2014年改正で審査有無を問わず同一類似群ごとに最大100意匠まで出願できるよう拡大されました。複数意匠出願を行う場合、図面中に各デザインの通し番号を付して区別します。このような一括出願制度により、関連するバリエーションデザインをまとめて手続できるメリットがあります(ただし各意匠ごとにそれぞれ登録料が必要)。
新規性・創作性などの審査基準
登録要件として意匠法第33条は以下を定めています。
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意匠性(デザイン性):まず提出された創作物が法律上の「意匠」の範囲に該当すること。すなわち形状・模様・色彩によって構成された物品の外観デザインであり、美感を起こすものであることが必要です。視覚を通じて美観を与えないもの(純粋に機能だけの形状など)や物品に係らないものは、この段階で登録不可となります。
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産業上の利用可能性:そのデザインが工業的に量産可能であること。言い換えれば、市場で商品として流通し得るデザインである必要があります。純粋な美術品・芸術作品など独自性が強くても、工業製品として量産できないものは意匠権の対象外です。
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新規性:出願前に公然知られた同一または類似の意匠が存在しないこと。韓国は世界基準の絶対的新規性を採用しており、国内外を問わず出願以前に公知・公用となったデザイン、刊行物に記載されたデザイン、インターネット等で公衆に利用可能となったデザインはすべて新規性を喪失させます。類似範囲も含めて判断されるため、既存のデザインと細部が異なるだけで全体的に似ている場合も新規性無しと判断されます。なお韓国法には**先願主義(拡大された先出願の地位)**も規定されており、他人によって先に出願された類似意匠がある場合には、たとえそれが未公開でも後日の出願は拒絶されます(先に出願された意匠を後願が盗用する形になるのを防ぐための規定)。
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創作性(創作非容易性):ありふれたデザインではないこと。これは特許における進歩性に類似した概念で、出願時点で公知の複数のデザインを組み合わせるなどして、当業者(該当分野の通常のデザイナー)であれば容易に思いつく程度の違いしかない意匠は登録できません。韓国法では特に「その分野で韓国内によく知られた形状・模様・色彩の組み合わせから容易に創作できる意匠でないこと」と規定されています。例えば既存品に平凡な装飾を付け加えただけのデザインは創作性無しと判断され得ます。
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公序良俗・非登録事由:意匠法第33条はさらに、公の秩序や善良の風俗を乱すおそれがある意匠、他人の業務と混同を生じさせるおそれのある他人の商品形態に類似する意匠、国旗・国章・著名な徽章と同一・類似の意匠、そして製品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠などを登録不可と定めています。これらに該当する出願も拒絶されます。
以上の要件を満たすかどうか、審査官が先行デザイン調査等を通じて判断します。特に新規性については、韓国は日本と同様に6か月の新規性喪失の例外期間(グレースピリオド)を設けています。出願前に自らデザインを発表してしまった場合や、第三者による漏洩・展示などで新規性喪失の事態があった場合でも、その公開日から12か月以内に出願すれば例外的に新規性を喪失しなかったものと見なされます。ただしこの適用を受けるには、旧法では出願時にその旨を申告し30日以内に証拠資料を提出する必要がありました。2023年改正では手続要件が大幅に緩和され、審査段階のいつでも新規性例外主張が可能となり(無効審判や訴訟段階でも主張可)、提出期限も撤廃されました。なお他国で先に公開された自分のデザインについては公式公報掲載等の場合には例外適用されない点に注意が必要です。
意匠権の存続期間と効力
意匠権の存続期間は、2014年の改正以降「出願日から20年」と定められています。改正前は「登録日から15年」でしたが、国際ハーグ制度加盟に合わせて期間延長・起算日変更が行われました。出願から登録までに要した期間も含めて計算されるため、実質的な権利存続期間は約18~19年程度(審査期間による)となります。例えば1年審査で登録された場合、登録日から見て残存期間は約19年です。満了後の延長や更新制度はなく、20年経過すると意匠権は消滅します。
意匠権の効力(専用権)は、登録意匠及びそれと類似する意匠にまで及びます。意匠権者は業として登録意匠(又は類似範囲の意匠)を実施(製造・販売・輸出入等)する独占的権利を有し、第三者による無断実施を排除できます。意匠権者以外の者が許諾なくその意匠または類似意匠を製造・販売・使用すれば意匠権侵害となり、差止めや損害賠償の対象となります(後述)。意匠権者は自ら実施するほか、他人に使用許諾(ライセンス)を与えることも可能です。韓国法上、特許権と同様に専用実施権(独占的通常実施権)や通常実施権を設定できます。また他人への譲渡(譲渡には特許庁への登録が必要)も認められています。
一方、意匠権の効力には制限もあります。例えば先使用権:意匠登録出願前からその意匠と同一又は類似のデザインを独自に創作し業として実施している者は、登録後も引き続きその事業で利用する権利(先使用による通常実施権)が認められる場合があります。また意匠権は公共の利益のために職権実施(政府による非許諾利用)や裁定実施(公正競争確保のための強制実施)の対象となり得る点も特許と同様です。意匠権者が意匠を長期間実施しない場合に利害関係人が実施許可を求める制度(不実施による通常実施権の裁定)はありませんが、特許に準じた規定が適用されることがあります。
意匠権侵害と救済措置
他人の登録意匠と同一または細部の相違を問わず類似する意匠を、権利者の許諾なく事業目的で実施すれば意匠権の侵害となります。意匠権侵害に対し、権利者は民事上および刑事上の救済を求めることができます。
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差止請求(民事差止):意匠権者は侵害者に対し、侵害行為の差止めや予防を裁判所に請求できます(意匠法第120条)。具体的には、侵害製品の製造・販売・輸出入の停止や在庫製品の廃棄、設備の除却などを命じる差止命令を求めることが可能です。差止請求は侵害行為が現在行われていなくても、差し迫った侵害の恐れがあれば予防的に請求できます。
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損害賠償請求:侵害によって被った損害の賠償を侵害者に請求できます(民法および意匠法第121条)。損害額の立証が難しい場合、韓国法では幾つかの推定計算方法が用意されています(例えば権利者が侵害品を販売していれば「自社販売数量減少分×利益」で算定、販売していない場合は「侵害者の利益額」を損害額とみなす、など)。近年の改正で韓国は法定損害賠償制度も導入しており、通常の損害額算定が困難な場合に裁判所が最大3,000万ウォンの範囲で相当額を認定できるようになっています。
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懲罰的賠償(懲罰的損害賠償):韓国では知的財産権侵害に対する抑止を強化するため、悪意ある侵害(故意の侵害)に対しては損害額の数倍まで賠償額を増額できる懲罰的賠償制度があります。2019年改正で意匠権侵害にも導入され、まず最大3倍賠償が認められました。さらに2024年の法改正により、特許や営業秘密と同様に5倍賠償への上限引き上げが決定し、意匠法の改正条項は2025年7月22日施行となっています。これにより韓国の意匠侵害に対する賠償額は米国や日本を上回る水準となりました。実際の適用にあたっては侵害の悪質性や被害規模等の要素が考慮され、裁判所が賠償倍数を決定します。
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刑事罰:意匠権侵害は非親告罪であり、故意犯には刑事罰も科され得ます。韓国意匠法では、意匠権(または専用実施権)を侵害した者は7年以下の懲役または1億ウォン以下の罰金に処せられる規定があります(法第220条)。法人の役員・使用人の行為であれば法人自体も処罰対象となり得ます(両罰規定)。近年、模倣品業者に対して刑事告訴が行われるケースも増えています。
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税関差止め:模倣デザイン製品の海外からの輸入を防ぐため、意匠権者は税関に差止申請を行うことも可能です。税関に登録(知的財産権の輸入差止制度)すると、侵害品の輸出入時に税関が押収・廃棄など対応してくれます。特にファッション・雑貨分野では積極的に活用されています。
これらの救済手段を適切に組み合わせることで、意匠権者は権利侵害による被害の拡大を防ぎ、経済的救済を図ることができます。韓国の裁判所はデザインの類否判断について、一貫して「需要者(消費者)の注意を引く物品の外観上の美感」に基づいて判断する立場をとっており、全体観察で実質的に同一かどうかを見極めます。細部の差異であっても、見る者に与える美感が共通する場合には「類似」と認定される点に注意が必要です。
最近の法改正や重要判例
韓国の意匠制度は近年大きくアップデートされています。以下に主な法改正と重要判例を時系列でまとめます。
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2014年7月:韓国はハーグ協定ジュネーブActに加盟し、国際意匠出願制度を導入。同時に意匠保護法を大幅改正し、
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意匠権の存続期間を「登録日から15年」から「出願日から20年」へ延長、
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従来の「類似意匠制度」(本意匠に類似する意匠を別件で登録し、本意匠が無効になると類似意匠も失効する制度)を廃止し、「関連意匠制度」を新設。関連意匠は本意匠と独立した権利として存続し(本意匠が無効でも関連意匠は残存)、その保護期間は本意匠と同じ満了日までと定められました。関連意匠の出願期限は本意匠出願日から1年以内でした(※後述の2023年改正で延長)。
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無審査登録制度(部分審査)の対象物品を大幅に削減。改正前は食品・衣服・寝具・文房具・コンピュータアイコン等多岐にわたる分野が無審査で登録可能でしたが、改正後は無審査対象を衣類(第2類)・布地類(第5類)・文具類(第19類)など一部のクラスに限定しました(食品、寝具、カーテン、コンピュータアイコン等は審査ありに変更)。なお「無審査」という用語は改正後「部分審査」と呼称変更されています。
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一括複数意匠出願の拡充:無審査物品に限り20意匠まで可能だった一括出願を、同一物品分類内で最大100意匠まで(審査有無を問わず)認めるよう拡大。
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意匠の新規性喪失の例外について、改正前は出願時に適用申請と証明提出が必須でしたが、改正により例外適用を審査過程でも主張可能としました(例えば審査段階や異議申立・無効審判で6か月内公知例外を主張できるよう緩和)。
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2019年~2020年:知的財産分野の民事救済強化の一環で、意匠権侵害に対する懲罰的賠償制度(3倍賠償)が導入されました(施行は2020年頃)。また法定損害賠償制度(上限3000万ウォン)も意匠法に追加され、損害立証が困難な場合に柔軟な救済が図られるようになりました。さらに意匠侵害罪の非親告罪化も行われ、権利者の告訴がなくとも検察が起訴できるよう改められています(知財保護強化のための刑事措置)。
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2020年:意匠法および審査基準の改訂が行われ、いくつかの実務上の改善が実施されました。
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部分審査対象の拡大:2014年改正で減少した無審査(部分審査)対象について、市場ニーズに応じ再拡大が図られました。2020年12月1日施行の改正で、新たに第1類(食品)・第3類(かさ類や旅行用鞄等)・第9類(容器類)・第11類(装身具類)も部分実体審査の対象に追加されています。
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図面要件の緩和:フォント(書体)デザインの出願について、従来は文字組み見本の図面提出が必要でしたが、改正後はフォントファイルそのものを提出することも認められました。また出願後に図面を補正する場合、以前は最初の提出形式(例えばJPEGならJPEG)で再提出が必要でしたが、現在は異なる形式で補正提出しても許容されます。
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優先権書類の簡素化:韓国特許庁は特定の国・機関に対し、優先権証明書の提出を省略できるデジタルアクセスコード(DAS)による優先権証明制度を拡充しました。2020年時点で日本、米国、中国、EUIPOなど多数の国・機関が対象となっており、これらからの優先権主張では書面提出の代わりにDASコードの通知で足ります。
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2021年10月:前年成立した改正意匠法が施行され、保護対象の拡張が実現しました。具体的には「物品」に限定されていた意匠の定義に「画像」を追加し、物品に記録・表示されていない電子的画像デザイン(例:投影映像、AR/VRの画面、インターネット配信されるGUI等)が新たに登録可能となりました。この改正により、日本(2019年改正)や欧米で保護が進んでいた無体画像デザインが韓国でも保護対象に加わり、最新のデジタル分野の創作に対応しています。なお画像デザインの詳細な審査基準は順次整備中であり、既存の物品意匠との類否判断(例えば物品に表示されたGUIとの新規性・創作性比較など)が今後の争点になると予想されています。
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2023年12月:2023年改正意匠法(同年5月 promulgation)が発効予定です。主な改正点は以下の通りです。
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関連意匠の出願可能期間延長:関連意匠制度について、本意匠の出願日からこれまで1年以内とされていた関連意匠の出願期限が3年以内に延長されます。これにより、ヒット商品についてより長期間にわたりバリエーションデザインを追出願して保護することが可能となります(日本では2020年改正で関連意匠の期限が実質大幅延長されており、それに近づく措置です)。
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新規性喪失の例外主張期間の撤廃:前述の新規性例外(グレースピリオド)の適用について、改正後はいつでも例外主張可能となります。現行法でも審査段階から無効審判段階まで主張でき柔軟でしたが、改正により条文上の期間制限が削除され、侵害訴訟で被告から無効反撃された場合などでも権利者が事後的に例外主張できるようになります。ただし他国の公報掲載による公知は例外の対象外である点は維持されます。
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優先権主張手続の緩和:改正前はパリ優先権主張は出願と同時に行い、書類提出も厳格な期限内必須でした。改正により、やむを得ない理由がある場合には優先期間の経過後2か月以内でも優先権主張や証明書提出を受理する救済措置が設けられます。また一括意匠出願で一部の意匠について優先権主張漏れがあった場合にも、3か月以内であれば追加補正が可能となります。これらは海外出願人にとって手続柔軟性を高める改正です。
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2025年11月(予定):2025年5月改正法(同年11月28日施行予定)では、主に部分審査制度の濫用防止と権利帰属の争いの救済に関する改正が行われます。
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部分審査登録の拒絶理由追加:これまで部分審査出願は形式上の欠陥や一見明らかな既知デザインでない限り拒絶されず登録されていました。改正後は、たとえ部分審査対象でも明らかに新規性がない場合や先願と抵触する場合には審査官が拒絶できるようになります。公開制度の盲点を突いて既知デザインを権利化するような悪用への対策です。
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部分審査登録に対する異議期間の追加:現行では部分審査による登録意匠の異議申立期間は登録公報発行後3か月間ですが、改正により侵害警告を受けて初めて存在を知った第三者については、警告を受けた日から3か月以内(公報発行後1年が上限)であれば異議申立てできる救済措置が導入されます。模倣品業者が先に部分審査で登録を取ってしまった場合でも、知らずに同様デザインを使っていた第三者が救済を受けやすくなります。
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権利帰属に関する新訴訟制度:現行法では、他人が本来権利者であるデザインを無断で出願・登録してしまった場合、真の権利者はまず無効審判でその登録を無効化し、自身で改めて出願し直す必要がありました。改正法では、真の創作者・権利者が直接裁判所に訴えを提起し、登録意匠の権利移転を求める制度が新設されます。裁判所が権利者と認めれば、その登録意匠権を現在の名義人から真正権利者へ移転命令できるようになります。これにより、権利者が無効->再出願という手間をかけずに救済される道が開けます。
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重要判例:2023年 大法院判決(フリーダム・トゥ・オペレート抗弁の制限)
近年の判例として、大法院が2023年2月に示した意匠侵害訴訟における「自由実施(FTO)抗弁」の範囲を制限する判断が注目されます。従来、韓国の裁判実務では被告(侵害を訴えられた側)が「自分の製品デザインは原告の登録意匠よりもさらに過去に公知となっていたデザインに類似している。したがって原告の意匠権の保護範囲に入らない(=侵害しない)」と主張する抗弁が一定認められる傾向にありました。しかし2023年の大法院判決(事件番号2021Hu10473等)では、原告が自己の過去公表デザインについて適法に新規性喪失の例外主張をして権利取得している場合には、被告がその公表デザインを根拠に「原告意匠は古いデザインに似ているから自由に使えるはず」と抗弁することは許されない、と判示しました。大法院は、意匠法が定める新規性例外の手続要件(6ヶ月内出願と証明書提出等)や、公知デザインを善意で利用していた第三者を保護する先使用権規定が整備されている点を挙げ、適法に成立した権利に対し安易に自由実施を認めると法の趣旨に反すると判断しています。この判例により、「たとえ原告デザインに似た先行デザインがあっても、原告が正当に意匠権を取得している以上、第三者は無断使用を正当化できない」ことが明確化され、意匠権者の保護が一層強化されたと言えます。今後、意匠権侵害訴訟における被告の抗弁戦略にも影響を与える重要判例として注目されています。
日本の意匠制度との比較
最後に、日本の意匠制度と韓国の意匠制度の共通点と相違点を整理します。両国は共に先願主義・登録主義を採用し、意匠法の基本的枠組みは似ていますが、一部に制度上の違いがあります。下表に主要な比較ポイントをまとめます。
項目 | 韓国の意匠制度 | 日本の意匠制度 |
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保護対象 | 有体物(動産)のデザインおよび画像デザイン(2021年法改正)が対象。建築物等の不動産は対象外だが、物品の部分意匠は可。 | 有体物のデザインに加え、2019年改正で物品に記録されない画像デザインや建築物・内装も対象に追加。物品の部分意匠も可(1998年導入済)。 |
審査方式 | 分野によって部分実体審査制度を採用。衣服や文具など特定クラスは簡易審査で早期登録(異議期間あり)。その他は通常の実体審査。審査請求は不要。 | 全出願を実体審査(非審査登録制度なし)。出願から自動的に審査が行われる(審査請求制度なし。日本も意匠は出願と同時に審査)。登録前の異議制度はなく、登録後は無効審判で争う。 |
出願形態 | 原則一意匠一出願だが、同一分類内で100意匠までの一括出願可。セット物品は組物意匠制度あり。願書は韓国語で提出。 | 原則一意匠一出願(例外的に組物意匠制度あり※食器セット等)。複数意匠の一括出願は不可(関連意匠制度でバリエーション保護)。願書は日本語で提出。 |
審査基準 | 絶対的世界新規性、創作容易性(公知デザインから容易に創作できないこと)を要求。先願による拒絶あり(拡大先願主義)。6か月→12か月の新規性例外期間(改正で期間制限撤廃)。純粋に機能だけの形状等は非登録。 | 同様に絶対的新規性、創作非容易性を要求。先願による不登録あり(先願主義)。2018年改正でグレースピリオドを6か月から1年に延長。純粋に機能のみの形状等は非登録(意匠法5条)。 |
存続期間 | 出願日から20年(2014年改正以降)。延長・更新なし。 | 出願日から25年(2020年改正以降、従来は登録後20年)。延長・更新なし。 |
関連意匠 | 関連意匠制度あり(2014年導入)。本意匠の出願から1年以内(→2023年改正で3年以内に延長)に類似デザインを関連意匠として出願可。本意匠が無効になっても関連意匠は存続。保護期間は本意匠と同日まで。 | 関連意匠制度あり(2005年導入、2020年改正で大幅拡充)。本意匠の出願から10年以内なら関連意匠出願可等柔軟化。複数の関連意匠を本意匠に紐付け可能。保護期間は本意匠の出願日から25年(関連意匠も同日満了)。本意匠消滅後も関連意匠は存続可(2020年改正)。 |
秘密意匠 | 秘密意匠制度あり。出願時~初回登録料納付時に請求し、登録後最大3年間非公開可。期間短縮・延長(最長3年)も可能。 | 秘密意匠制度あり。出願時に請求し、登録後最長3年非公開可(日本も同様に延長含め3年以内)。 |
侵害に対する措置 | 差止請求、損害賠償請求が可能。懲罰的賠償あり:故意侵害の場合、裁判所は損害額の最大3倍(→2025年より5倍)まで賠償額増額可能。刑事罰あり(7年以下の懲役等)。 | 差止請求、損害賠償請求可能。懲罰的賠償制度はなし(日本は意匠・特許には導入されていない)。刑事罰あり(10年以下の懲役等)。 |
以上のように、基本的な枠組みは共通しつつも、韓国独自の迅速登録制度(部分審査)や複数意匠一括出願、懲罰的賠償といった特徴が見られます。一方で日本は2020年改正で保護対象や存続期間の拡大を行い、近年は両国で制度のすり合わせが進んでいる面もあります。企業が韓国と日本で意匠権を取得・活用する際は、これら相違点を踏まえて戦略を立てることが重要です。各国の特許庁(韓国KIPO・日本JPO)のガイドラインや信頼性の高い法務情報を参照し、最新動向を把握しながら適切な意匠保護を図ってください。
参考資料:韓国特許庁(KIPO)公開情報、韓国意匠法改正情報(Kim & Chang法律事務所)、Lee & Ko法律事務所解説、Hanol Law事務所記事、APAAニュース、他.