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バングラデシュの意匠制度概要

意匠登録の要件

バングラデシュ – バングラデシュでは2023年に新たな工業意匠法(Industrial Design Act, 2023)が制定されており、意匠登録の主な要件として 新規性独創性(識別性)、および 産業上の利用可能性 が挙げられている。すなわち、登録しようとするデザインは世界のいかなる場所でも出願前に公衆に開示されていない新しいものであること(グローバルな新規性)、既存の意匠に比べて十分に識別できる独自の特徴を有すること(わずかな差異で既知の意匠と紛らわしいものは登録不可)、そして工業的に製品に応用可能な形態であることが必要とされる。形状や模様が純粋に機能にのみ由来する場合(純粋に機能上の形状のみで美感を伴わないもの)や、公序良俗・環境に反するデザイン、国の紋章などを含むデザインは保護対象外と明記されている。また、出願人による公開ではない第三者による無断公表(盗用公開など)があった場合には新規性喪失の例外が認められる旨の規定もある(一定期間内の出願であればその公開は新規性を害さない)とされている※。。さらにパリ条約に基づく 優先権制度 も導入されており、外国での先願日から6ヶ月以内にバングラデシュへ出願すれば先の出願日に遡って新規性を判断できる(優先権主張)と規定されている。

※バングラデシュ旧法(特許意匠法1911)では、公認の博覧会での展示や出願人の意思に反する公開から6ヶ月以内の出願は新規性喪失の例外とする規定が存在した。

日本 – 日本の意匠法においても、意匠登録の要件は 新規性創作非容易性(創作における一定の困難性)・工業上利用可能性 である。日本では2020年の法改正により新規性喪失の例外期間が従来の6ヶ月から1年間に延長され、出願前1年以内に自己のデザインを公表してしまった場合でも所定の手続きを取れば新規性要件を満たすことが可能となっている。また日本は近年、保護対象を拡充し、ソフトウェアのグラフィカルユーザインタフェース(GUI)や建築物の外観・内装デザインも意匠の保護対象に含めた。一方で日本もバングラデシュも、純粋に機能のみからなる形状(機能美のみの形状)や公序良俗に反する意匠は登録を受けることができない点で共通している。

審査手続(方式審査・実体審査、審査期間、公開制度等)

バングラデシュ – バングラデシュでは意匠出願の提出先は特許・意匠・商標局(DPDT)であり、出願時には所定の願書様式に必要書類を添付して提出する。提出書類には、デザインの図面または写真、新規性の説明(ステートメント)、デザイナー本人以外が出願人である場合の権利承継の説明書などが含まれる。出願後、DPDTにより方式審査および実体審査が行われ、書類不備がないか、意匠が法定の要件(新規性・独創性・産業適格性)を満たしているかについて審査される。バングラデシュは実体審査制を採用しており、審査官は先行する意匠の有無も調査した上で登録適格性を判断する。また出願人は願書および図面上に「新規性のある部分」を簡潔に記載することが求められており、これは審査官が意匠の要旨を把握する助けとなる。審査過程で拒絶理由(例えば類似の先願意匠の存在や、公序良俗違反など)が指摘された場合、申請者に通知され、通知日から2ヶ月(必要に応じ+1ヶ月延長可)以内に意見書や補正により応答する機会が与えられる。意見書や補正により拒絶理由が解消されない場合は審査官との審尋(ヒアリング)が行われ、最終的に拒絶査定となった場合には、その通知から3ヶ月以内に不服申立て(上級官庁または裁判所への審査請求相当)が可能である。

バングラデシュの新法では、出願公開と異議申立て制度が導入された点が大きな特徴である。出願後、一定の方式チェックを経て、DPDT長官はその意匠出願を官報(電子ガゼット)または庁ウェブサイト上で公開することになっている。公開は出願から比較的早期になされ(法律上は所定の期間内、目安として受理後1~2ヶ月以内とされる)、公開後30日間は異議申立て期間となる。第三者はこの期間中に当該出願に対する異議を提起でき、異議の理由として「その意匠が新規・独創的でない」「出願人が真正な権利者ではない」等を主張することができる。異議が提出された場合、DPDTはその写しを出願人に送り、出願人は所定期間内に反論書(カウンターステートメント)を提出する。双方の主張・証拠に基づき審理が行われ、異議が認められた場合は出願が拒絶され、異議が棄却または異議なく30日が経過した場合は登録査定となる。

異議期間を経て登録が認められた意匠については、DPDTにより意匠登録が官報登載され、登録証が発行される。登録日は出願日まで遡って効力を発生し、意匠原簿(Register of Designs)に登録事項が記録される。バングラデシュにおける審査期間は従来、出願から登録証発行まで平均で9ヶ月程度とされていた。新法施行に伴う手続き増加(公開・異議手続)の影響はあるものの、DPDTでは市民憲章上おおむね約290営業日(約12~13ヶ月)を標準処理期間として掲げている。実務上は案件によって数ヶ月から1年強の範囲で登録完了まで期間を要する。

なお、バングラデシュ旧制度では事前の出願公開制度はなく、また秘密意匠制度(登録後一定期間非公開にする制度)が存在するとされていました。新法では出願段階での公開が義務付けられたため、従来の秘密意匠制度は廃止されたとみられます。一方、部分意匠制度(製品の一部のみについて意匠権を求める制度)は旧制度同様に認められていません(意匠は物品全体について付与)。

日本 – 日本も実体審査主義を採用しており、意匠登録出願は特許庁に提出されます。方式的要件・願書記載事項等のチェックの後、審査官が先行意匠調査を含む実体審査を行い、新規性・創作非容易性などの要件を満たすか判断します。日本では意匠について審査請求制度はなく、出願と同時に審査が行われる点でバングラデシュと共通しています。また日本では出願から1年6ヶ月経過後などの出願公開制度は採用されておらず、登録査定となった意匠のみが発行公報(意匠公報)で一般に公開されます。ただし、出願人の希望により秘密意匠制度を利用して登録から最長3年間、公報への掲載を遅らせ非公開とすることも可能です(競合他社への情報開示を遅らせるメリットがあります)。異議申立て制度は日本には無く、登録後に利害関係人が無効審判を請求する制度(事後的な異議・無効審判)が設けられています。審査期間は意匠ごとに異なりますが、近年の特許庁統計では平均6~7ヶ月程度で一次審査結果(登録査定または拒絶理由通知)が通知されています。日本でも迅速化のための早期審査制度があり、実施例として出願と同時に実施製品の写真等を提出することで早期審査の対象となり得ます(バングラデシュには早期審査制度はありません)。また、日本では2020年改正により一出願で複数意匠を含めることが可能(関連意匠や一括出願制度の拡充)となりましたが、バングラデシュでは原則1出願1意匠です。このように、審査手続面では日本は非公開・非異議期間のまま迅速に登録し事後無効審判で対応する制度であるのに対し、バングラデシュは公開と異議を含む手続を経て登録を慎重に行う制度と言えます。

意匠権の保護期間と更新制度

バングラデシュ – バングラデシュの意匠権(工業意匠登録)の存続期間は、2023年工業意匠法の下で 「出願日(または優先日)から10年間」 と定められています。登録日ではなく出願日に遡って起算される点に留意が必要です。存続期間の延長(更新)も認められており、5年ごとの期間で3回まで 更新申請を行うことができます。1回目の更新で15年目まで、2回目で20年目まで、3回目で最大25年目まで延長可能となり、結果として最長で25年間の保護が得られます。更新申請は現在の存続期間が満了する前に所定の更新料を支払って行う必要がありますが、法定の猶予期間(満了後6ヶ月以内の出願、追加手数料必要)が設けられています。なお、改正前の旧法(特許意匠法1911)では 初回登録期間が5年、その後5年単位で2回の更新(計15年まで)が上限でした。新法により初回期間の延長と更新回数の拡大(結果的に最大25年まで保護可能)が実現したことになります。

日本 – 日本の意匠権の存続期間は、2020年の法改正により大幅に延長され、出願日から25年間 と定められています。改正前は「登録日から20年」でしたが、改正後は国際調和の観点から出願日基準で25年に変更されました。これにより日本の意匠権も欧州連合などと同様に最長25年の保護期間となっています。日本では中間での更新手続きは不要で、維持年金(毎年の特許料に相当する年金)を支払うことで権利を継続させます。したがって、権利者は登録から最大25年目まで毎年所定の年金を納付する必要があります。また、存続期間満了後は権利延長はできず、デザインは公有(パブリックドメイン)となります。日本とバングラデシュはいずれも25年の最長保護期間となりつつありますが、バングラデシュは区切りごとに更新申請を必要とし、日本は年次料納付で最大期間まで一体的に保護されるという違いがあります。

意匠権の効力と行使(侵害時の対応・差止・損害賠償など)

バングラデシュ – バングラデシュにおける意匠権(登録意匠)の効力は、登録意匠と同一または類似のデザインを無断で業として製造・販売・輸出入などに使用する行為を排他的に禁止できる点にあります。新法では意匠権侵害の定義が規定されており、登録意匠と同一または紛らわしい類似の意匠を、登録意匠と同一または類似の製品に事業用途で施す行為は侵害とみなされます。特に登録意匠と同一の意匠を同一製品に施す行為や、類似の意匠を登録製品に施して需要者に混同を生じさせる行為などが明示されています。

侵害が発生した場合、意匠権者は以下のような手段で権利行使・救済を図ることができます:

  • 差止請求(侵害停止命令): 権利者は裁判所に対し侵害行為の差止めを求めることができます。新法では、意匠権侵害訴訟において裁判所が出せる命令として「侵害行為の禁止(差止)」が明記されています。侵害の恐れが高い場合には、裁判所は暫定的・仮の差止命令(仮処分)を発することも可能で、その際権利者に担保提供を命じたり、侵害品の保全措置を取ることもできる規定があります。

  • 損害賠償請求: 権利者は侵害により被った損害の賠償を侵害者に請求できます。裁判所は侵害が認定された場合、侵害者に対し実損額または法定の損害額の支払いを命じることができます。新法では、損害額の立証が困難な場合でも少なくとも1ラク・タカ(Bangladeshi Taka 100,000、約12~13万円相当)の賠償を命じる規定が設けられており、権利者救済の底上げが図られています。

  • 行政救済: バングラデシュの特徴として、裁判に先立ち行政的な救済手段が用意されている点が挙げられます。意匠権者は侵害者に対する救済として、まずDPDT長官に対し行政的賠償(行政上の和解措置)を申請することができます。長官は当事者から事情を聴取した上で侵害の認定と一定額の賠償金支払いを命令できるとされています。もし侵害者がこの行政上の賠償金を所定期間内に支払わない場合、権利者は改めて裁判所に正式な侵害訴訟を提起することになります。このように段階的に行政手続を経ることで、迅速な救済や当事者間の和解を促す仕組みとなっています。

  • その他の救済: 裁判所は悪質な侵害事案において、侵害品の差押え・廃棄などの命令を下す権限も有しています。また再犯防止のため、必要に応じて侵害者に対し将来の侵害行為を行わない旨の誓約を求めたり、侵害品や製造設備の没収を命じることも可能です。

なお、バングラデシュでは意匠権侵害に刑事罰が科される規定は現時点では確認されていません(特許法や商標法では一定の刑事罰規定あり)。主に民事上の差止めと損害賠償を組み合わせた救済が中心です。

日本 – 日本における意匠権も、登録意匠又は類似意匠を無断で業として実施(製造・販売・輸出入など)する行為を排除する独占権を権利者に与えます。権利行使の面では日本とバングラデシュに共通点が多く、主たる手段は 差止請求損害賠償請求 です。日本では意匠権侵害に対し民事訴訟を提起し、地方裁判所(知的財産高等裁判所への移送制度あり)にて差止命令や損害賠償の判決を得るのが通常です。裁判所は侵害を認めた場合、差止めだけでなく損害額の賠償を命じ、悪質な場合には侵害品の廃棄なども判決で命令され得ます。損害額算定について、日本では特許法と同様に逸失利益不当利得ライセンス料相当額の3つの推定規定が設けられ、権利者の立証負担が軽減されています。また2021年改正で、海外からの模倣品の輸入行為も侵害とみなして差止めの対象に含めるなどの規定強化が行われました。さらに、意匠権侵害は日本では刑事罰(10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、法人の場合は3億円以下の罰金)も規定されていますが、実際に適用されるケースは商標に比べると多くありません。主に民事上の措置で解決が図られます。

総じて、日本・バングラデシュ両国とも意匠権侵害に対して民事上の差止・賠償による救済が図られますが、バングラデシュでは行政救済という独自の前置き手段がある点、日本では知的財産高等裁判所という専門裁判所制度や刑事罰規定がある点などの違いがみられます。

出願件数や登録件数の統計

バングラデシュの意匠出願のボリュームは、日本などと比べると多くはありませんが、ここ数年は年間約1,000件前後の新規意匠出願が行われています。WIPO(世界知的所有権機関)の統計によれば、2022年にバングラデシュが受理した工業意匠の出願件数(デザイン数ベース)は1,001件で、世界順位で47位となっています。同年の意匠登録(意匠権付与件数)は約991件でした。これは前年から約18%ほど減少した数字で、一時的な変動が見られます。出願件数は2010年代は増減を繰り返しつつ概ね数百件台後半から千件強で推移しており、例えば2016年には1,454件の意匠出願がありました(世界142か国中37位)。コロナ禍の影響もあり近年やや伸び悩んだ年もありますが、長期的にはバングラデシュ国内の工業デザインへの関心が高まりつつあることが示唆されます。

国内出願と外国からの出願の比率を見ると、バングラデシュでは出願の大半(90~99%)が国内在住のデザイナー/企業によるものです。上述の2022年の1,001件中、**バングラデシュ居住者による出願が999件(約99%)**を占めており、非居住者(外国人)からの出願はごくわずか(この年は2件程度)でした。外国企業にとってバングラデシュ市場はまだ小規模であること、同国がハーグ協定未加盟で国際意匠制度を通じた出願ができないことなどが一因と考えられます。ただし年によっては外国人出願も若干見られ、特に日本企業からの出願が一定数あります(ある年の統計では外国人出願のうち日本からの出願が12件で全体の約12%を占め最大であったとの報告があります)。とはいえ依然として バングラデシュの意匠制度は国内需要中心 で運用されていると言えるでしょう。

参考までに日本の統計と比較すると、日本は2022年に意匠出願件数31,504件(登録件数約25,000件)とバングラデシュの30倍以上の出願があり、世界でも上位5位以内に入る出願大国です。日本では国内出願に加え国際出願(ハーグ協定経由)の活用も増えており、外国企業から日本特許庁への出願も全体の数%を占めています。このように両国の出願動向には大きな開きがありますが、それぞれの産業規模や制度整備段階の差異を反映したものと言えます。

国際出願(ハーグ協定との関係、外国人出願人の取り扱い)

ハーグ協定とバングラデシュ – 工業意匠の国際登録制度であるハーグ協定(ジュネーブ改正協定)は、一度の出願で複数国に意匠保護を求められる便利な制度ですが、バングラデシュは現在このハーグ協定の締約国ではありません。そのため、国際登録出願を通じてバングラデシュを指定し意匠権を取得することはできず、バングラデシュで意匠保護を得るには現地に直接出願する必要があります。近年、同国は知財法制の近代化に取り組んでおり(特許法の改正や意匠法の制定など)、今後ハーグ協定への加盟可能性も議論されるかもしれませんが、2025年時点では未加盟です。この点、日本や米国、EU諸国とは状況が異なるため注意が必要です。

外国人出願人の取扱い – バングラデシュでは、外国企業・外国人在住者も意匠出願を行うこと自体は可能です。ただし、現地代理人(現地の弁理士や弁護士)の選任が事実上必要となります。出願手続きやDPDTとのやり取りは英語またはベンガル語で行われ、外国企業が直接行うのは難しいため、バングラデシュ知財実務に通じた代理人に委任することが一般的です。また、Paris条約加盟国であることから優先権出願も可能であり、外国人出願人が自国の先願に基づきバングラデシュに6ヶ月以内に出願するケースもあります。実務的には、外国企業がバングラデシュに意匠出願する場合、現地代理人を通じて願書や図面の準備を行い、公証・認証済みの委任状(Power of Attorney)を提出する必要があります。さらに、新規性の宣誓書(Affidavit of Novelty)を求められる場合もあり、これも現地公証人等による認証が必要です。

日本企業がバングラデシュで意匠権を取得したい場合、上記のように直接出願ルートを取る必要があります。近隣のインドや中国がハーグ協定に加盟している中でバングラデシュは未加盟のため、国際出願戦略を立てる際にはバングラデシュ向けに別途出願を手配するスケジュール・コストを織り込むことが重要です。

日本 – 日本は2015年にハーグ協定ジュネーブ改正協定に加盟しており、国際登録出願(ハーグ出願)で日本国を指定すること、および日本から国際出願を行うことが可能です。米国と同時に加盟したことで、ハーグシステムの対象国は一挙に拡大し、日本企業も欧米や中国など多数国へのデザイン保護を一括して出願できるようになりました。現在、日本を本拠とする出願人はハーグ経由でバングラデシュに出願することはできませんが、逆にバングラデシュの出願人が日本で意匠を保護したい場合、日本がハーグ加盟国であるため他の加盟国経由でハーグ出願し日本を指定することが可能です(ただしバングラデシュ自体が未加盟のため、バングラデシュに居所・国籍を持つ者はハーグ出願自体利用できません)。外国人出願人の日本での取扱いについては、日本でも現地代理人(弁理士)による手続が必要ですが、ハーグ出願であれば現地代理人なしで指定可能という利点があります。

まとめると、日本は国際意匠制度を積極的に活用できる環境にあるのに対し、バングラデシュは現時点では各国個別出願が必要であり、外国企業にとってややハードルが高い状況です。

管轄当局と実務上の注意点

管轄当局(知財行政機関) – バングラデシュの意匠行政を管轄するのは「特許・意匠・商標局 (DPDT: Department of Patents, Designs and Trademarks)」です。DPDTは産業省の下に属する政府機関で、特許・意匠・商標など産業財産権の出願・登録業務を統括しています。バングラデシュでは特許・意匠・商標のそれぞれ専門部署がありますが、意匠登録についてはDPDT内のDesigns部門が審査と登録事務を行います。DPDTは知的財産権制度の近代化に力を入れており、電子ガゼットでの出願公開やオンライン出願システム整備などを進めています。

実務上の注意点 – バングラデシュで意匠出願・権利化を図る際に留意すべきポイントを以下にまとめます:

  • 言語と書式: 出願書類は英語またはベンガル語で作成可能ですが、実務的には英語での提出が一般的です。願書や各種書式はDPDTが提供する定型フォームに従い、申請人情報、意匠の名称、製品の名称(ロカルノ分類のクラスも明記)等を記載します。

  • 図面・写真: 出願には意匠を表す図面または写真を添付します。立体物であれば通常、製品の全方向からの視図(正面・背面・左右側面・上下・斜視図など)を提出します。DPDT旧ガイドラインでは4セットの写真提出が求められていましたが、新法では「デザインの写真または図」を1組提出すれば足りるとされています。ただし提出した図面・写真が不明瞭な場合、補正指示が出ることもあります。日本と異なり、図面記載要件は厳格ではないものの、完成品の視覚的特徴が十分に示されるよう高品質な画像を用意することが望ましいです。

  • 新規性のステートメント: バングラデシュの出願では、新規性のある部分の説明(Statement of Novelty)を願書および図の余白に記載することが求められます。例えば「模様部分の形状に新規性を有する」といった形で、その意匠のどの点が新規かを簡潔に説明します。これは登録時に意匠権の範囲解釈の参考ともなる重要な記載です。日本ではこのような新規性声明の記載義務はありませんが、バングラデシュでは必須要件となっています。

  • 願書提出後の補足書類: 外国企業が出願する場合、委任状(Power of Attorney)を原本で提出する必要があります。委任状には申請人(出願人)から現地代理人への権限委譲内容を記し、出願日から1ヶ月以内に提出することが求められます。原則、公証人による認証が必要ですが、領事認証までは不要とされています(案件による可能性あり)。また、新規性に関する宣誓供述書(Affidavit of Novelty)も1ヶ月以内に提出することが旧来の実務で求められており、出願人またはデザイナーが当該意匠が新規であることを宣誓した文書を準備します。こちらも公証が必要です。優先権主張を行う場合は優先権証明書およびその英訳を提出します(出願から3ヶ月以内)。

  • 料金: バングラデシュの意匠出願料は1件あたり4,000~10,000タカ程度(約6千~1万5千円)で、図面の枚数や請求するクラス数によって変動します。登録料や更新料も別途必要で、更新料は5年ごとに約1万タカ(約1.5万円)と案内されています。日本に比べると料金水準は低めですが、外国企業の場合は代理人手数料が加わる点に注意が必要です。

  • 代理人選任: 先述のように、外国からの出願では現地代理人を通す必要があります。バングラデシュには知的財産に詳しい法律事務所や特許代理人が存在しますので、日本企業の場合JETROや現地商工会議所の情報をもとに適切な代理人を選任するとよいでしょう。日本の弁理士法人等が提携している現地代理人を紹介してもらう方法もあります。

  • 審査・登録後のフォロー: 出願後、DPDTからの連絡(補正指令や登録通知など)は代理人宛に送付されます。指令に対する応答期限の管理などは代理人に依頼しますが、長期間連絡が途絶える場合は代理人に状況確認をするとよいでしょう。登録証は紙で発行されるため、代理人を通じて入手し、大切に保管してください。また登録後5年ごとの更新期限管理も重要です(期限徒過後6ヶ月以内ならば追納更新可能)。

  • 権利行使上の注意: バングラデシュで権利行使をする際は、まず侵害事実の証拠収集が課題となります。現地では証拠の確保や仮処分手続に時間がかかる場合もあるため、必要に応じて調査会社を活用するといったことも検討されます。また係争となった場合には現地弁護士と連携し、必要なら民事訴訟を提起する流れになります。行政救済の制度(前述)もありますが、実効性を高めるには最終的に裁判所の差止命令までこぎつけるのが望ましいでしょう。

以上のように、バングラデシュでの意匠実務は日本とは異なるルールや手続要件が多々あります。日本の感覚でそのまま進めると思わぬ不備となる恐れがあるため、現地制度に精通した専門家の助言を得ながら進めることが重要です。

日本との制度比較

最後に、バングラデシュと日本の意匠制度の主要な相違点をまとめた比較表を示します(2025年現在)。

項目 バングラデシュ (Industrial Design Act, 2023) 日本 (意匠法)
管轄官庁 特許・意匠・商標局(DPDT)(産業省所管) 特許庁(経済産業省所管)
基本法令 工業意匠法2023年(旧:特許意匠法1911) 意匠法(昭和34年法制定、随時改正)
登録要件 新規性(世界新規)、識別性(独創性)、産業適格性等。※6ヶ月内の一部例外あり(博覧会公開等) 新規性(世界新規)、創作非容易性、産業上利用可能性等。※1年以内の自己公開は例外(要手続)
審査方式 実体審査あり(審査請求不要)。方式審査後に審査官が先行意匠調査。 実体審査あり(審査請求不要)。審査官が先行意匠調査。
出願公開・異議 出願後早期に官報またはウェブ公開。30日間の異議申立て期間。異議なし・解決後に登録。 出願公開制度なし(非公開のまま審査)。登録時に意匠公報発行で公開。異議申立て制度なし(登録後の無効審判で対応)。
部分意匠制度 なし(物品全体のみ保護) あり(一部意匠も保護可能、2019改正)
秘密意匠制度 なし(旧制度では登録後2年非公開可) あり(登録後最長3年公表延期可)
保護期間・更新 出願日から10年+5年×3回更新=最長25年(5年ごと更新申請・更新料) 出願日から25年(年次登録料を毎年納付)
ハーグ協定加入 未加盟(国際意匠出願は不可) 加盟(2015年加入。ハーグ経由出願可)
外国人出願 現地代理人による出願必要。優先権主張可(6ヶ月)。出願人国籍は問わず。 現地代理人(弁理士)必要。優先権主張可(6ヶ月)。ハーグ協定利用可。
登録証発行まで 平均9~12ヶ月程度 平均6~12ヶ月程度(早期審査制度あり)
登録後の救済 行政救済(DPDT長官への申立)→未履行時に裁判。民事訴訟(差止・損害賠償)。刑事罰規定なし。 民事訴訟(差止・損害賠償、3倍賠償規定あり)。税関差止め制度。刑事罰あり(10年以下懲役等)。

以上の比較から、バングラデシュの意匠制度は基本的枠組みは日本と類似しているものの、国際条約非加盟ゆえのクローズドな制度設計や、公開・異議手続きを取り入れるなど独自の発展を遂げていることが分かる。日本企業がバングラデシュでデザイン保護を図る際は、これら制度差を理解した上で適切に対応することが求められる。

参考文献・情報源: バングラデシュ工業意匠法2023年英文、バングラデシュ特許意匠商標局(DPDT)公開情報、WIPO統計データ、JETROバングラデシュ投資環境資料、日本特許庁・JPAA公開情報 他. (各出典は文中に【†】で示す)