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インドの商標制度概要

 

インドの商標制度について、制度概要から出願、審査、登録、更新、異議申立て、取消、侵害対応に加え、日本制度との比較や実務上の留意点まで弁理士が体系的に整理しました。インド市場への進出を検討する日本企業の商標戦略立案にご活用ください。

この記事のポイント

  • インドは1999年商標法に基づき、先願主義と先使用主義が併存する独特の制度を採用
  • 出願時に使用中/使用予定の宣誓が必須(使用中なら最先使用日+証拠提出)
  • 異議申立ては公告後4か月以内の前置異議制度。登録前に決着
  • 不使用取消しは登録から5年+3か月(日本の3年より長め)
  • 2021年にIPABが廃止され、不服・無効は高等裁判所管轄に移行
  • 周知商標登録制度(2017年導入)で非類似商品・役務まで保護拡張可能

INDIA TRADEMARK

弁理士による、日本企業のためのインド商標制度・実務完全ガイド。出願から権利行使、日本制度との比較まで7セクションで体系的に解説します。

1. 制度概要(商標の定義・保護対象・法的根拠)

インドの商標制度は、1999年商標法(The Trade Marks Act, 1999)およびその施行規則である2017年商標規則に基づいて運用されています。商標行政はインド知的財産庁(CGPDTM)が所管し、商標登録や保護、不正使用の防止を行っています。インドはパリ条約(1998年加入)、WTO/TRIPS協定加盟国であり、2013年にマドリッド協定議定書(国際商標出願制度)にも加盟しています。

商標の定義と保護対象

インド商標法上、「商標」とは「グラフィック(図形)的に表示でき、他人の商品または役務と区別できる標章」を意味します。具体的には、文字、名称、ラベル、図形、数字、記号、商品の形状、包装、色彩の組み合わせなど、これらの組み合わせやそれらに準ずる標章が商標として登録可能です。

登録可能な商標のタイプ

  • サービス標章(役務商標)— 1999年法から明示的に保護
  • 音商標(近年の改正により明文で登録可能)
  • 色彩のみの商標・立体商標・位置商標・ホログラム商標(図形的表現が可能な場合)
  • 香り・味の商標(理論上は保護しうる)
  • 団体商標・証明商標(団体や認証機関が使用する商標)

2. 出願手続(出願人資格・必要書類・分類・電子出願)

出願人資格と管轄庁

インドでは、自己の商標を使用している者、または使用しようとする意思のある者であれば、誰でも商標出願できます(個人・法人いずれも可)。外国居住者による出願も可能ですが、その場合はインド国内の代理人(弁理士等)を選任し、代理人の所在に応じた管轄の商標登録局へ出願することになります。

インドの商標登録局はムンバイ、デリー、チェンナイ、コルカタ、アーメダバードの全国5か所に設置されており、出願人(または代理人)の住所によって担当官庁が決まります。

出願言語と必要書類

項目 要件・内容
出願言語 英語またはヒンディー語(外国企業は通常英語で手続)
願書 フォーム TM-A 等を提出
商標の表示 図版・文字等の正確な表示(非英語文字は英語への翻訳・音訳が必要)
出願人情報 氏名・住所(法人は名称・所在地・法人形態)
指定商品・役務 ニース分類45類に基づく記載
優先権書類 パリ条約優先権主張時(英語訳付)
使用状況の申告 インド特有の要件。使用中/使用予定を明示し、使用中なら初回使用年月日を特定
使用証拠 既に使用中の場合は宣誓書(Affidavit)やインボイス等
委任状 代理人経由の場合はPower of Attorney

インド特有の要件:出願時にインド国内での使用状況の申告が必要です。既に使用していれば初回使用年月日を特定し、使用実績の宣誓書(Affidavit)や証拠資料(インボイス、販売実績書類等)を添付することが求められます。

国際分類・多区分出願・シリーズ商標

インドはニース分類に従い全45類を設定しており、一出願で複数区分を指定する多区分出願が可能です。さらにインドではシリーズ商標(類似した複数の商標を1件の出願で一括登録する制度)も認められており、例えば色違いやごく一部表記の異なる類似商標を"シリーズ"としてまとめて出願・登録できます(日本にはない制度)。また、連合商標(類似商標同士を関連付けて管理する制度)も規定されています。

出願方法と電子出願

商標出願はオンライン電子出願または書面提出により行います。インド知的財産庁は包括的電子出願システムを整備しており、オンライン出願の場合は官費が若干割安になります(電子出願奨励策)。マドリッド協定議定書加盟国であるため、日本での基礎出願・登録に基づきマドプロ経由でインドを指定することも可能です。

3. 審査・登録プロセス

審査の流れ

出願後、まず方式審査(形式審査)が行われ、願書の記載事項や提出書類の不備、手数料、指定商品・役務の区分や表記の適切さ等がチェックされます。方式面に問題がなければ実体審査へと進みます。

実体審査の2つの要件

  • 絶対的要件:識別力、非記述的、非慣用名称、法律で登録禁止でないこと(公序良俗・国旗等)
  • 相対的要件:既存の他人の登録商標と同一・混同のおそれがあるほど類似していないか、他人の著名商標と紛らわしくないか

これらの実体審査はインド商標登録局本局のあるムンバイで集中して行われ、審査官が先行商標データベースとの照合を行います。

審査結果と応答

拒絶理由や条件がある場合、審査官は審査報告書(First Examination Report)を発行して出願人に通知します。出願人は通常通知受領後1か月以内に意見書や補正書を提出しなければなりません(正当な理由があれば期間延長申請も可能)。審査官との面接(ヒアリング)の機会もあり、ビデオ会議による遠隔開催も活用されています。

重要:インドでは日本のような審判制度は廃止されており、審査で拒絶となった場合、出願人は不服申立てとして高等裁判所に審決取消訴訟を提起することになります。

公告と異議申立期間

登録査定となった商標は、直ちに商標公報(Trade Marks Journal)に掲載され、一般に公開されます。商標公報は電子官報であり、インド知的財産庁の公式サイト上で週次(通常毎週月曜)に発行されます。

公告掲載された出願に対し、何人も公告日から4か月以内であれば異議申立てを行うことができます。

登録(設定登録)と期間

項目 内容
登録証 電子署名付きPDFで交付
存続期間 出願日から起算して10年間
全プロセス期間 平均約2~3年(24~36か月)※早期審査制度を利用すれば短縮可能

4. 登録後の手続(更新・登録維持・記録変更)

存続期間と更新

インドの商標権の存続期間は出願日から10年間と定められています。商標権者は存続期間満了前に更新申請(Renewal)を行うことで、登録を維持できます。更新により延長される期間も10年で、以後も10年毎に半永久的に更新が可能です。

日本より長い救済期間

更新期限を徒過しても、満了後6か月間は追加料金を支払って更新手続を行う猶予期間(グレースピリオド)が与えられます。さらにインドでは失効後も最大6か月〜1年以内であれば特別な救済措置として登録復活(Restoration)申請が可能です。日本では満了後6か月以内の徒過更新のみで、これを過ぎると権利復活はできません。

使用義務と不使用取消

更新時に使用証拠の提出は要求されませんが、登録から5年間全く使用していない商標は第三者から不使用取消しの申立てを受けるリスクがあります。インド商標法第47条に基づき、登録日から5年経過後(実際には登録日から5年経過+3か月)までにインド国内で善意に使用されていない場合、利害関係人はその商標の登録取消しを求めることができます。

実務ポイント:この期間算定は日本の「3年不使用取消し」と比べ長めであり、インド進出企業は登録後なるべく早期に商標の使用実績を作ることが重要です。

登録内容の変更・譲渡・ライセンス

商標登録後に権利者の名義や住所に変更が生じた場合、また商標権を譲渡した場合には、登録原簿の名義書換(記録変更)を申請することが推奨されます。インド商標法は商標の自由な譲渡・移転を認めており、登録商標および出願中の商標を譲渡(Assignment)することが可能です(グッドウィル付・裸譲渡いずれも可)。

また、インドでは使用許諾(ライセンス)制度も整備されており、登録ユーザー制度(Registered User)に基づきライセンス契約を商標登録局に登録することも可能です。登録ユーザーとして記録されれば、使用許諾による使用実績が商標権者自身の使用とみなされるなどの法律上の効果があります。

5. 異議申立て・取消制度

異議申立て制度

インドでは商標掲載公報発行から4か月間の異議申立て(Opposition)期間があります。利害を有する第三者は所定の異議申立書(Notice of Opposition)を提出することで、出願商標に対する登録阻止手続を開始できます。

段階 期限・手続
異議申立て 公告から4か月以内
カウンターステートメント(答弁書) 通知受領後2か月以内(未提出なら出願は放棄とみなされる)
証拠提出 異議申立人→出願人→異議申立人の反駁証拠
口頭審理(ヒアリング) 双方が審判官(Hearing Officer)の前で主張立証
処理期間 数年を要することも(5~10年の例あり)

主な異議理由

  • 商標が記述的で識別力に欠ける/普通名称である
  • 既に同一・類似の商標が出願人とは別の者により使用・出願されている
  • 出願が不正の意図でなされた
  • 出願商標が周知商標と紛らわしい
  • 先使用者(早くからその商標を使用している者)の存在

2021年法改正:知的財産上訴委員会(IPAB)が廃止されたため、異議決定に対する上訴は各州の高等裁判所(High Court)が担います(デリー高裁・ボンベイ高裁等)。

登録後の取消・無効制度(Rectification)

登録確定後でも、特定の事由がある場合には登録の改正・抹消(Rectification)を利害関係人が請求することができます。

取消・無効理由 具体例
登録不当・瑕疵 識別力がない、禁止標章、他人の先行権利侵害状態での登録
不使用 5年間の不使用に該当
不正取得 使用意思なく出願した投機的出願、不正目的の登録
登録条件違反 特定用途限定等の条件違反
権利濫用等 他法(著作権法・企業名保護法)抵触、既存未登録周知商標との不正競争

日本との大きな違い:インドの取消・無効制度は行政審判ではなく司法手続に近い形で行われます。利害関係人は商標登録局に申立書(Form TM-O)を提出するか、直接管轄高等裁判所に訴訟提起できます。

6. 権利行使(侵害対応・民事救済・刑事罰)

商標権侵害の概念

インドにおける商標権侵害(Trademark Infringement)は、登録商標と同一もしくは紛らわしい商標を、指定商品・役務と同一もしくは類似の範囲で、権利者の許諾なく使用する行為を指します。登録商標が著名な場合には非類似の商品・役務についての第三者使用も不正競争行為・希釈化として差止めの対象となり得ます。

さらに、登録の有無に関わらず、他人の商品や営業表示を不正に利用し混同を生じさせる行為はパッシングオフ(Passing Off)と呼ばれる不法行為となり、民事救済を求めることが可能です。

民事上の救済措置

商標権者は、侵害行為者に対して民事訴訟を提起し、裁判所から救済を得ることができます。インドでは商標侵害訴訟は主に各州の地方裁判所(District Court)が第一審管轄となりますが、デリー、ボンベイ(ムンバイ)、マドラス(チェンナイ)等一部の高等裁判所は高裁自ら第一審管轄を有します。

裁判所が命じ得る救済

  • 差止命令(仮処分による暫定的差止め・恒久的差止命令)
  • エクスパーテ仮命令(被告への事前通知なしの暫定差止め)
  • 損害賠償もしくは侵害者の利益の帳簿開示・収益移転(アカウント・オブ・プロフィッツ)
  • 廃棄命令(侵害品・包装・ラベル等)

刑事罰による取締り

悪質な商標権侵害や模倣品の製造販売は犯罪として取り扱われ、商標偽造等に該当する行為には厳しい刑事罰が科されます。

違反類型 罰則
商標偽造(初犯) 6か月以上3年以下の懲役+罰金5万ルピー~20万ルピー(約9万円~36万円相当)
商標偽造(再犯) 上限がさらに引き上げられ、より重い刑
未登録商標の不正表示 3年以下の懲役または罰金(またはその両方)

権利者は警察当局に告訴し、捜索令状を取得したうえで警察の協力を仰ぎ、倉庫や店舗へのレイド(立入捜査)を実施して模倣品を押収・販売差止めすることが可能です。

税関での水際措置

インドには知的財産権の国境措置(Border Measures)もあり、商標権者は税関当局に自己の登録商標と侵害物品情報を事前登録しておくことで、輸入段階で模倣品を差し止めることができます。

7. 日本の商標制度との比較と実務上の注意点

インドの商標制度は日本と共通点も多い一方、法制度や運用面で重要な相違点があります。日本企業がインドで商標出願・権利行使を行う際の実務上の注意点を整理します。

主要な相違点一覧

項目 日本 インド
出願主義 厳格な先願主義 先願主義と先使用主義が併存
使用宣誓 出願時の使用宣誓は不要 出願時に使用中/使用予定を宣言、使用中なら証拠添付
異議申立てのタイミング 登録後2か月以内(後置異議) 登録前・公告後4か月以内(前置異議)
無効・取消審判の管轄 特許庁審判部(行政審判) 高等裁判所(司法手続)
取消請求適格 誰でも請求可能 利害関係人に限定
不使用取消期間 3年 5年+3か月
更新猶予期間 満了後6か月のみ 満了後6か月+復活(Restoration)で最大1年
周知商標制度 事前登録制度なし 2017年から周知商標の登録制度あり
シリーズ商標 なし あり(類似商標の一括登録可)

先願主義 vs 先使用主義

最重要の違い:インドでは使用による未登録の権利が日本以上に重視されます。インド商標法34条では、登録商標に対しても、その登録より先に善意で使用を開始していた者の継続使用は侵害とならない旨が規定されています(先使用権)。日本企業は、現地で同業他社等がすでにその商標を使用していないか事前調査し、先使用者がいる場合は安易に現地でブランド展開を始めないことが肝要です。

出願時の使用宣誓

インドでは出願時に「使用中」か「未使用(使用予定)」かを宣言する必要があり、使用中の場合は最先使用日を具体的に記載して使用証拠を提出する義務があります。競合する商標が存在する場合、「使用に基づく出願」を選択して十分な証拠を添付する方が審査や異議で有利とされます。

異議申立てのタイミング

インドは登録前(出願公告後)の前置異議制度であるのに対し、日本は登録後の後置異議制度です。インドでは異議が入ると処理完了まで登録が保留され長期化する恐れがあるため、権利化前から異議対応戦略(同意書取得、和解交渉等)が求められます。

周知商標制度

日本には公的な著名商標リスト制度はありませんが、インドでは2017年から周知商標の登録制度が設けられ、商標局に申請して自社商標を公式に周知商標(Well-Known Trademark)として認定・リスト掲載してもらえます。認定されれば非類似商品・役務にまで他人の類似商標出願を拒絶できる強力な保護が得られるため、国際的に有名なブランドを有する企業は活用を検討する価値があります。

インド独自の制度

インドの旧英米法由来の独自制度

  • 同意書制度:先行商標権者の同意があれば類似商標でも登録可能
  • ディスクレーム(権利不要求)制度:商標中の識別力のない部分について権利主張しない旨を明記
  • 誠実な同時使用:複数の類似商標が誠実に同時使用されてきた場合に共存を認める
  • 連合商標:登録商標同士を関連付けて譲渡制限をかける制度

まとめ

インドの商標制度は基本的な枠組みは日本と共通するものの、「使用の重み」が大きいこと、審理機関・手続の違い(IPAB廃止後の高裁中心)、前置異議制度、5年不使用取消、周知商標登録制度など、随所に実務上の留意点があります。インドでの商標出願・権利化にあたっては、現地法制度に則した戦略を立て、日本の感覚とは異なる部分(先使用の主張や異議対応、未使用取消リスク等)に備えることが成功のポイントとなります。

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※本記事はインド知的財産庁(CGPDTM)公式サイト、インド商標法(1999年法)、2017年商標規則、WIPO・JETRO資料、現地法律事務所の解説等を基に一般的な情報提供を目的として作成されています。個別案件の具体的判断には、現地代理人を含む専門家へのご相談を推奨します。