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カンボジアの商標制度概要

商標の出願手続

カンボジアで商標を出願する際には、まず現地代理人の選任が必要です。外国企業・出願人は国内に住所や居所がない場合、現地の代理人(弁理士等)を通じて手続きを行わなければなりません。出願は英語またはクメール語で行うことができ、願書(所定の書式)に商標見本や商品・役務のリスト(ニース分類に基づく区分指定)等を添付して提出します。出願時に商標の実際の使用は要求されておらず、使用証明等は不要です。

必要書類: 商標出願に必要な主な書類は次のとおりです:

  • 願書(所定の様式)

  • 商品・サービスの明細およびその区分(ニース分類のクラス)

  • 商標の図样(商標見本・Representation of the mark)

  • 委任状(代理人を通じて出願する場合)。※公証人による認証が必要です。出願時はコピー提出で構いませんが、原本は出願日から2か月以内に提出する必要があります。

  • 優先権主張を伴う場合は優先権証明書(出願時提出、コピー可)。※原本およびその英訳は出願日から3か月以内に提出する必要があります。

出願手法と費用: 商標は一出願で複数区分を指定可能(多区分出願制)です。かつては区分ごとに別個の出願が必要でしたが、2023年8月1日以降は一件の出願で複数区分を網羅する方式に統一されました。出願はカンボジア知的財産局(DIPR, 商務省管轄)に対して行い、電子出願制度は限定的であるため、多くは代理人を通じて書面提出されます。公式手数料は出願料125米ドル、登録時の登録料65米ドル等が定められており、更新料は75米ドルです。この他、官報公告料(出願が認められた際に官報に掲載する費用)や、後述の異議申立て・取消請求時の手数料等が発生します。例えば異議申立ての官費は約20米ドル、取消請求は約75米ドルとなっています。

審査の流れ: 出願後、まず方式審査が行われ、書類の不備や所定事項の欠落がないか確認されます。その後、実体審査に移行し、商標として登録可能かどうかが審査されます。実体審査では商標法上の登録要件(識別力の有無や不登録事由の該当性など)を満たすかどうか判断されます。審査官が登録を認めると判断した場合、出願情報が官報に公告され、異議申立ての機会が与えられます。公告から所定期間(90日以内)に異議が申し立てられず、または異議が棄却されれば、商標登録料の納付を経て登録証が発行されます。出願から登録完了(証明書受領)までの標準的な所要期間は約3〜7か月程度とされています。これは比較的短い期間であり、審査が順調に進めば半年以内で登録が得られる計算になります。

登録要件と保護対象

保護対象となる商標: カンボジア商標法では、「商標」とはある企業の商品又はサービスを他と区別できる視覚的標識を指します。したがって、文字や図形、ロゴ、結合商標など視覚的に認識できる標章が保護対象です。一方で嗅覚(におい)商標、音商標、味(フレーバー)商標は保護対象に含まれず登録できません。また、現行法上団体商標(団体の構成員が使用する共同商標)は認められていますが、立体商標(3D商標)や証明商標、かつて日本で存在したような連合商標・系列商標制度は設けられていません。したがって立体的形状のみで構成される商標や、品質証明標章などはカンボジアでは登録できない点に注意が必要です。

登録要件と識別力: 商標として登録を受けるためには自他の商品・サービスを識別しうること(識別性)が必要です。他社の商品・サービスと区別できないような一般名称や記述的な標章は登録できません。具体的には、商品の普通名称そのものや品質・産地等を直接表示するにすぎない語句など、識別力を欠く商標は不登録事由とされています。加えて、公序良俗に反する標章(例えば社会倫理に反するような商標)や、商品の品質・産地について消費者を誤認させるおそれのある標章も登録が禁止されています。

登録が禁止される標章(不登録事由): カンボジア商標法第4条では、以下のような商標は登録を受けることができないと定められています:

  • 識別性の欠如: 前述のとおり、自社商品・サービスを他と区別できない標章は登録不可。

  • 公序良俗違反: 公序良俗や善良な慣習に反する標章は登録不可。

  • 出所の誤認のおそれ: 商品・サービスの産地、品質、効能などについて一般公衆や業界人を誤認させるおそれがある標章は登録不可。

  • 公式標章等の無断使用: 国旗・国章や各国政府・国際機関の紋章、記章、旗、名称や略称など、公的標章と同一もしくは紛らわしい商標は、権限ある機関の許可なくして登録できません。

  • 他人の周知・著名商標との混同惹起: 他社の商品・サービスについてカンボジア国内でよく知られている(周知・著名な)商標や商号と同一または紛らわしいほど類似する商標、あるいはそれらの翻訳に当たる標章は登録できません。対象となる周知商標には、出願商標と同一または類似の商品・役務に使用される他人の著名商標だけでなく、非類似の商品・役務であっても著名商標の権利者の利益が害され得る場合(著名商標の希釈化のおそれがある場合)も含まれます。

  • 先願・先登録商標との抵触: 出願商標が、既に他人によって登録済み、または先に出願(優先日を含む)されている商標同一もしくは混同を招くほど類似する場合も登録拒絶となります。対象となるのは、同一もしくは密接に関連する商品・サービスについての先願・先登録商標です。これはカンボジアが先願主義(first-to-file)を採用していることの表れであり、基本的に早く出願した者が商標権を取得します。ただし、出願の時点で他人の著名商標を模倣した悪意の出願などは拒絶・無効の対象となり得ます。

以上の不登録事由に該当すると審査段階で拒絶通知が発行され、出願人は通知受領後60日以内に意見書等で応答する機会が与えられます(正当な理由があれば45日の延長も可能)。期間内に応答がない場合、出願は放棄(却下)されたものとみなされます。

商標の有効期間、更新制度、異議申立て・取消制度

登録の有効期間: カンボジアの商標登録の存続期間(有効期限)は出願日から10年間です。この10年は登録査定日や登録日ではなく出願日から起算される点に注意が必要です。商標権者は有効期限が切れる前に更新手続きを行うことで、10年ごとに何度でも更新することができます。更新申請は登録満了日の6か月前から当日までに行うのが望ましく、万一更新を失念して期限を過ぎてしまった場合でも、満了日後6か月間の猶予期間が設けられており、その間であれば遅延追加料金を払って更新可能です。

更新手続と使用宣誓書: 更新時には所定の更新料を納付し、登録証の書換えを行います。カンボジア独自の制度として、登録後5年経過時の使用状況報告(宣誓書)が義務づけられている点に留意が必要です。具体的には、初回登録日から5年後〜6年後の1年間の間に、登録商標を「使用している」または「現在未使用であるが不使用の正当理由がある」旨の宣誓書(Affidavit of Use or Non-Use)を知的財産局(DIPR)に提出しなければなりません。同様に、更新した場合も更新日から5〜6年目に再度宣誓書の提出が必要です。この宣誓書には商標権者が署名し、公証を受けた書面が求められ、登録証の写し等を添付して提出します。2023年8月の新通達(省令第2652号)により、この使用宣誓書制度の厳格化が図られており、期限内の提出がより厳密に求められるようになっています。もしこの宣誓書を提出しない場合、**登録商標は抹消され得る(取消対象となる)**ため注意が必要です。実務上、知的財産局が職権で抹消処分を行うことは稀ですが、第三者からの申立てがあれば不使用による取消理由となり得ます。

異議申立て制度: カンボジアでは審査段階で第三者が意見を述べる仕組みはなく、商標が一通り審査に適合した段階で官報公告による異議申立て期間が設けられます。出願の公告日から90日以内であれば、誰でもその商標登録に対し異議申立てを行うことが可能です。異議申立てが提出された場合、商標登録手続は一時中断されます。異議申立人は相手方(出願人)および知的財産局に対し異議の理由を詳細に説明する書面と証拠を提出します。出願人側は異議通知の日から90日以内に、異議に反論する理由書と証拠を提出する必要があります。この期限内に反論が提出されないと、出願は放棄されたものとみなされる可能性があります。双方の主張・証拠を踏まえ、知的財産局が異議について判断を下します。異議が認められれば当該出願は拒絶され、異議が退けられれば登録手続が再開されます。最終的な決定に不服がある当事者は、決定日から30日または90日以内(事案により異なる)に商務省の上級委員会や裁判所へ不服申立て(上訴)することもできます。

取消・無効審判制度: 登録査定後であっても、一定の事由に該当する場合には商標登録を取り消す(無効にする)手続が存在します。

  • 不使用取消: 正当な理由なく連続5年以上商標が使用されていないときは、何人も当該登録商標の取消しを知的財産局に請求できます。ただし取消請求に対して商標権者は、「特殊事情により使用が妨げられていた」ことや「使用しない意思・放棄の意思はなかった」ことを証明して抗弁できます。例えば輸入規制や天災でマーケットに投入できなかった等の事情があれば、不使用でも取消しは認められない場合があります。このように不使用取消しはハードルが高く、権利者に放棄の意思が無い限り容易には認められない運用となっています。

  • 登録無効(争訟): 登録から一定期間内であれば、登録時に遡って権利を無効にする無効審判(争訟)が請求可能です。カンボジアでは登録後5年以内であれば、利害関係人はその商標登録の無効を知的財産局に請求できます。無効理由としては「当該商標が商標として保護されるべき対象ではなかった(商標の定義外であった)」「登録要件を満たしていなかった(識別力欠如や他人の先 حقوقを侵害していた等)」場合などが挙げられます。知的財産局が無効審理を行い判断を下しますが、その決定に不服がある当事者は決定日から3か月以内に商務省内の審判部または管轄裁判所に提訴して争うことが可能です。

  • 職権または特定事由による取消: 上記の請求によるもの以外に、商標法には商務大臣(商務省)が職権で登録を取消す権限も規定されています。例えば「更新期限内に更新申請をしなかった場合」「権利者自身が登録抹消を求めた場合」「登録の条件や制限に従わなかった場合(指定商品や使用態様に条件が付されていたとき等)」「権利者がカンボジア国内に送達可能な住所を有しなくなった場合」「現在の権利者が真正な所有者でないと証明された場合」「登録商標が第三者の有する周知商標と類似または同一であることが確認された場合」などには、商務省が登録取消を命じることができます。これらは主に登録後の事情変更や権利の瑕疵に対応する規定ですが、実際に職権で取消しが行われるのは稀です。多くの場合は利害関係人からの申立てや裁判所の判断を経て取消し・無効が確定します。

商標権の執行(侵害への対処)

カンボジアにおける商標権侵害への対応手段としては、大きく分けて行政的手段(行政当局による対応)民事訴訟刑事訴追、そして税関での水際措置の4つのアプローチがあります。以下、それぞれの概要を説明します。

  1. 行政的手段(予備的代替紛争解決/PADR): カンボジアでは知的財産権の紛争解決において、行政当局が介入して仲裁・調停を行う制度が発達しています。商標権者は知的財産局(商務省知的財産局=DIPR)に対し侵害の申立てを行い、局内の紛争解決担当部署が侵害者に出頭を求めて和解協議を仲介します。この手続は非公式な運用ながら比較的透明性が高く、費用も安価(申立手数料は約8万リエル=20ドル程度)で済むため広く利用されています。DIPR職員は調停者として関与し、侵害者に対し販売中止、在庫品の廃棄や引渡し、再発防止の誓約書提出など様々な合意事項を取り決めるよう助言します。合意が成立すれば和解契約書が交わされ、侵害者が誓約に違反しない限り紛争は解決します。この行政手段では罰金や差押えなど強制的措置を直接科す権限はありませんが、行政当局から呼び出しを受けることで侵害者に心理的圧力を与える効果があり、実際ほとんどの侵害者は出頭要請に応じて協議に参加します。話し合いによる解決が図れない場合や、侵害者が協議を無視し続ける場合には、収集した証拠をもとに**他の手段(民事・刑事)へ移行することになります。なお、カンボジアには「模倣品対策委員会(Counter Counterfeits Committee of Cambodia, CCCC)」という知的財産関係の執行機関があり、行政的手段としてこの委員会に申し立てを行うことも有効とされています。CCCCは各省庁の合同チームで、必要に応じて侵害品の差押えや現場取締(捜索・証拠収集)**も行うことができるため、迅速かつ実効的な対応が期待できます。

  2. 民事的手段(民事訴訟): 商標権者は民事裁判所に侵害者を提訴し、差止命令(差し止め措置)や損害賠償を求めることができます。カンボジアの裁判所には知的財産専門部門や商事裁判所が未整備ですが、通常の民事訴訟手続で商標権侵害の救済を図ることが可能です。民事訴訟では差止めの仮処分を早期に得て侵害行為を止めさせることもできますし、被った損害(金銭的被害や信用毀損など)について賠償請求も行えます。もっとも、カンボジアの裁判システムは判決結果が予測しにくい面があるとも言われており、訴訟コストや時間も要するため、まずは前述の行政的手段で解決を模索し、それで不十分な場合に民事訴訟に踏み切るのが一般的です。

  3. 刑事的手段(刑事訴追): 悪質な商標侵害(例えば意図的な偽ブランド品の製造販売など)の場合、刑事罰の対象となり得ます。商標法および関連法には、商標権や著作権を侵害した者に対する罰金刑や懲役刑が規定されています。例えば海賊版(偽造品)の輸出入に関与した場合、200万〜1000万リエル(約500〜2500米ドル)の罰金6か月〜12か月の禁錮刑、またはその両方が科される可能性があります。刑事手続を進めるには、権利者が警察当局に告訴・告発し、捜査を経て検察官が起訴する必要があります。有罪判決が下れば侵害者に対し前述のような刑罰が科され、侵害品の没収・廃棄も命じられます。カンボジアの刑事訴訟では、被害者である権利者が同時に損害賠償を求めること(付帯民事訴訟)も可能なため、刑事訴追によって侵害の差止めと損害回復を一挙に図ることができる利点があります。もっとも刑事訴追は国家が行うため、証拠収集や立証のハードルが高く、また軽微な侵害には警察が動かない場合もあります。実務上はまず行政的手段で警告し、悪質な常習犯には刑事も辞さない構えを示すことで抑止力とする戦略が取られています。

  4. 税関による水際措置: カンボジアでは知的財産法の枠組みの中で、税関による模倣品輸入の差止め制度が利用可能です。商標権者は税関当局に申立てを行い、自己の商標権を侵害する疑いのある商品の輸出入を一時差し止めするよう求めることができます。申立てが認められると、税関は当該申立てを受理してから最大60日間、権利者の商標を無許可で使用した商品の通関を監視・留保します。もし期間中に対象商品の輸入が発見された場合、税関は直ちに通関手続きを停止し、その旨を権利者に通知します。権利者(申立人)は通知を受けてから10営業日以内に、差し止めを本格化させるための裁判所の差止命令取得や、侵害訴訟提起など次の措置を講じる必要があります(正当な理由があれば10日間の延長可)。この期限内に司法手続きなどに移行しない場合、税関は留保を解除し当該商品の通関を許可します。水際措置により偽造品の国内流通を未然に防ぐことが可能ですが、制度を機能させるには商標権者側で市場の監視や通関情報の収集に努める必要があります。

以上のように、カンボジアでは行政(調停)・民事・刑事・税関の各ルートで商標権を執行できます。特に行政的手段は現地で確立された実務であり、迅速かつ費用対効果の高い方法として好まれています。侵害態様や相手の悪質性に応じて、適切な手段を組み合わせて権利行使を検討するとよいでしょう。

国際出願制度(マドリッド協定議定書)

カンボジアは商標の国際登録制度であるマドリッド協定議定書(Madrid Protocol)に加盟しています。2015年6月5日に議定書を受諾し、同年からマドリッド制度を通じてカンボジアを指定国とする国際商標出願が可能となりました。したがって、日本など他の加盟国で商標を出願・登録した後、マドリッド出願によってカンボジアを指定すれば、現地に直接出願することなく商標保護を求めることができます。国際登録出願でカンボジアを指定した場合、指定通貨(役務)についてカンボジア知的財産局(DIPR)が自国の商標法に基づき審査を行います。審査期間は通常12〜18か月以内で、拒絶理由がなければその旨が通知され、国際登録がカンボジア国内での登録と同一の効力を生じます。一方、拒絶理由がある場合は国際登録経由で拒絶通報が行われ、出願人は現地代理人を通じて意見書提出など対応することになります。

カンボジア政府はマドリッド制度運用のため、2016年11月に「マドリッドプロトコルに基づく標章の国際登録手続に関する新たなプラカス(政令)」を制定し、原産国官庁としての手続や指定国としての処理手順を整備しました。この国内規則により、カンボジアを原産国として国際出願する場合の要件や、国際登録を受けた商標のカンボジア国内での取扱い(例えば現地への使用宣誓書提出義務の適用など)が定められています。なお、カンボジアを指定国とする国際登録商標にも、直接出願と同様に登録後5年目の使用/不使用宣誓書提出や更新手続義務が課されます。国際出願で権利化した場合も、これら国内要件を怠ると権利が消滅する恐れがありますので注意が必要です。

実務上の留意点・カンボジア特有の制度

最後に、カンボジアで商標を取得・維持する上での実務的な注意点や同国特有の制度についてまとめます。

  • 先願主義と早期出願の重要性: カンボジアは先願主義を採用しており、原則として最初に出願した者が権利を取得します。日本のように先使用による一定の保護(不正競争防止法による周知表示の保護等)はありますが、商標権そのものは登録しなければ発生しません。他者による商標の先取り出願(トレードマーク・トロール)を防ぐため、現地展開を予定しているブランドはできるだけ早く出願しておくことが肝要です。また、自社商標が第三者によって不正に出願・登録された場合、取消や無効を求めるには著名性の立証悪意の証明など高いハードルを要するため、予防が何より重要です。

  • 現地代理人・言語の要件: 前述のとおり、外国企業が直接カンボジアに出願する場合は現地代理人の選任と委任状の提出が必要不可欠です。委任状は公証人認証を受けたものを準備しなければならないため、日本企業の場合、英文の委任状に在日公証人の認証+カンボジア大使館の確認を経て現地代理人に送付するといった手間と時間がかかります。このため出願スケジュールには余裕を持ち、早めに代理人と連絡をとって書類を整えることが推奨されます。また、願書等の言語は英語で提出可能なので、日本企業にとっては比較的ハードルが低いと言えます(クメール語への翻訳は不要。ただし登録証はクメール語表記で発行されます)。書類不備を防ぐため、商品・役務の表示については国際分類(ニース分類)の英語表記を用い、現地で慣用されている表現を代理人に確認するとよいでしょう。

  • 5年目の使用宣誓書制度: カンボジア独自の制度として、5年ごとの使用状況申告があります。この手続を怠ると最悪の場合登録が取消されてしまうため、日本企業も忘れず対応する必要があります。他国では更新時(10年ごと)にしか使用実績を問われない場合が多い中、カンボジアでは中間時点でも確認が入る点が特徴です。特に現地に子会社や代理店がなく、日本からライセンス供与する形で商標を使用しているケースでは、現地代理人を通じて期限管理を徹底し、期日が近づいたら速やかに宣誓書を提出するよう注意してください。

  • 保護される商標の範囲: カンボジアでは視覚的に認識できる標章のみが商標登録可能であり、音や匂いといった非視覚的商標は登録できません。また、近年日本で認められるようになった立体商標や色彩のみからなる商標、ホログラム商標といった新しいタイプの商標もカンボジア法では想定されていません。ブランド戦略上、立体的なパッケージやカラーの識別力に頼る場合でも、カンボジアではそれ単体では保護が難しいため、ロゴマークや名称との組み合わせで商標登録しておく必要があります。

  • 周知・著名商標の保護: カンボジアはパリ条約加入国であり、未登録の周知商標にも一定の保護を与えています。しかし周知性の立証は容易ではなく、実務上はまず自国で商標登録することが推奨されます。仮に他人に先に登録されてしまった場合でも、当該商標が自社の著名ブランドと立証できれば無効理由になりますが、そのためには現地市場での広告・販売実績など豊富なエビデンスが求められます。日本国内のみで有名なブランドでも、カンボジアで認知度がなければ周知商標とは認められにくい点に注意が必要です。

  • 模倣品対策と執行: カンボジア市場でも海外ブランドの模倣品が流通する場合があります。特に国境を接するタイやベトナムからの流入が指摘されており、現地で商標権を取得した後は**税関への録案(記録登録)を検討してください。商標を税関に登録しておくことで、輸入監視の対象にしてもらうことができます。また、前述のCCCC(模倣品対策委員会)**の活用も有効です。現地代理人や調査会社と連携し、市場偵察や試買テスト購入を行って侵害品を発見したら、速やかに行政当局へ申し立てることで、抜き打ち査察による差止めや証拠収集が期待できます。カンボジア当局は知的財産権の保護にも力を入れており、近年では法改正や人員育成も進んでいます。もっとも、裁判所に知財専門部がないなど限界もあるため、初期対応は行政ルートで素早く対処し、必要に応じて刑事・民事手段を組み合わせるのが現実的と言えます。

  • 公式情報源・問い合わせ先: 最後に、カンボジア商標制度に関する公式情報源としては、商標を管轄する**カンボジア商務省 知的財産局(DIPR)**の公式サイトがあります。出願書式や手続案内、商標データベース検索(ASEAN TMviewにも参加)などが提供されています。また、WIPOの「Madrid Member Profiles(マドリッド加盟国プロファイル)」ではカンボジアを指定国とする際の留意事項が公開されています。現地法令そのものは2002年制定の「商標・商号及び不正競争行為に関する法律」および実施細則(政令等)により構成されており、英訳版がWIPO Lex等で閲覧可能です。実務上不明点がある場合は、現地の知財専門弁護士や特許代理人に確認することをおすすめします。

以上のとおり、カンボジアの商標制度は基本的な枠組みは日本や他のASEAN諸国と共通する部分が多いものの、5年目の使用宣誓書近年導入された多区分出願義務など独自のルールも存在します。外国企業としては最新の実務動向を注視しつつ、公式情報も確認しながら適切に権利取得・維持手続を行ってください。

参考資料・情報源:

  • カンボジア商標法(2002年法)英訳テキスト

  • 新興国等知財情報データバンク「カンボジアにおける商標出願制度の概要」

  • 有明国際特許事務所「カンボジア商標制度」(2023年改訂版)

  • BLJ法律事務所 遠藤誠「カンボジアの知的財産法」論稿

  • KENFOX法律事務所「カンボジアにおける商標関連事項」

  • Tilleke & Gibbins法律事務所 Insight記事「Administrative Proceedings to Resolve Trademark Infringement in Cambodia」

  • その他、JETRO・WIPO等公開情報(マドリッド協定議定書加入状況等)