インドの商標制度について、制度概要から出願、審査、登録、更新、異議申立て、取消、侵害対応に加え、日本制度との比較や実務上の留意点も含めて整理しました。
ブルネイの商標制度概要
承知しました。ブルネイの商標制度について、出願手続、登録要件、異議申立、更新、権利侵害・救済措置、国際制度との関係などを含め、実務向けに専門家向けの詳細な内容でまとめます。
調査が完了次第、内容を報告いたします。
商標の登録要件
ブルネイの商標法(Trade Marks Act (Cap 98))では、他人の商品・サービスと識別しうる標識であることが登録の基本要件です。伝統的には視覚的に認識できる文字、図形、記号、色彩、立体的形状などが商標になり得ますが、2017年の法改正により「視覚的に認識できること」という制限が削除され、音や香り等の非可視的商標も所定の条件下で登録可能となりました。商標には商品商標・役務商標のほか、団体商標や証明商標も含まれています。
登録に際しては、自他商品・サービスの識別力(顕著性)を有することが求められます。記述的な標章(例:商品の種類・品質・産地などを直接表示する標章)や、慣用的に使われている表示、一般名称のみからなる標章は原則として登録できません。ただし、出願前の使用により顕著性を獲得した場合(SECONDARY MEANING)、その証拠を示すことで登録が認められる可能性があります。一方、公序良俗に反する商標、公共のモラルに反する商標や欺瞞的な商標(消費者を欺くおそれがあるもの)は登録禁止です。また、王室や国家の紋章・国旗など特別に保護される標章を含む商標は、権限ある機関からの事前許可がない限り登録できません。出願が悪意に基づく場合(他人の著名商標を盗用する目的など)も登録拒絶事由となります。
さらに、他人の先願・登録商標と同一または類似する商標も、その商品・役務が競合・関連する場合には混同のおそれがあるため登録できません。たとえ非類似の商品・役務であっても、他人の周知・著名商標と同一・類似の商標で、その著名商標の信用や顕著性を不当に利用し、または損なうおそれがあるときは登録が拒絶されます。要するに、第三者の既得権利(先行商標権や周知表示権)と衝突する商標は登録できないという相対的拒絶理由も存在します。
なお、ブルネイでは使用による権利取得よりも登録主義(先願主義)が採用されています。未登録商標の保護については不正競争防止的な救済や周知商標の保護規定(パリ条約6条の2など)に委ねられますが、基本的には最初に出願・登録した者が商標権者となります。ただし出願人には**善意の使用意思(誠実な商標使用の意図)**が必要とされます。実際の使用を出願時にしている必要はありませんが、将来的に当該商標をブルネイで使用する真摯な意思を有していない出願は認められません。この点は、マドリッド出願の場合にも「使用の意思に関する宣言」が要求されることからも明らかです。
出願手続の流れ
商標出願の管轄官庁はブルネイ知的財産庁(BruIPO)です。出願言語は原則として英語で行います。ブルネイは一出願多区分制を採用しており、1件の出願で複数の国際分類クラスの商品・役務を指定できます。出願に際しては所定の願書(Form TM1)に商標の表示(文字商標の場合はその文字、図形商標の場合は図案)および指定商品・役務のリストを記載し、提出します。類似した商標についてはシリーズ商標制度も利用可能で、わずかな差異のみがある複数の商標を1件の出願としてまとめて出願することもできます。外国出願人が直接出願する場合、ブルネイ国内に送達可能な住所を指定する必要があります(通常は現地代理人を選任)。代理人を任命する場合には委任状(Form TM22)の提出と所定手数料が必要ですが、公証や認証を経た委任状は要求されておらず簡易な委任状で足ります。
出願が受理されると、まず方式審査(願書の書式不備や必要事項の欠落がないかのチェック)が行われます。続いて実体審査に移行し、商標法上の登録要件(絶対的・相対的登録拒絶理由の有無)が審査されます。ここでは商標の識別力の有無や、先願・登録商標との抵触の有無について審査官が判断し、必要に応じて先行商標のサーチも行われます。審査の結果、拒絶理由があれば出願人に通知され、一定期間内に意見書や補正を提出して対応する機会が与えられます。拒絶理由が解消されると、**出願は一旦「仮受理(受理)」となり、登録官(Registrar)はその内容を官報に代わる商標公報(Trade Marks Journal)**に掲載します。この出願公告(公開)は利害関係人に異議申立の機会を与えるための手続です。公告期間は掲載日から3か月間で、期間満了までに異議が出されなければ登録手続へと進みます。
公告後3か月以内に異議申立て(オポジション)がなされた場合、登録官はその旨を出願人に通知し、異議申立手続が開始されます。異議申立人(第三者)は所定の異議申立書を提出し、登録拒絶を求める理由を具体的に主張・立証します。出願人は反論書を提出して自己の商標が登録可能である旨を主張できます。双方の主張・証拠を踏まえ、知的財産庁が異議の採否を判断します。異議が却下(出願人勝訴)となれば商標はそのまま登録査定され、異議が認められた場合(異議申立人勝訴)は当該商標出願は拒絶されます。異議手続で敗訴した当事者は、ブルネイ高等裁判所へ不服申立て(上訴)を行うことも可能です。
異議期間の経過後、最終的に登録が認められた商標については、商標登録料を納付した上で登録が完了し、商標登録証が発行されます。ブルネイでは、出願日(優先権日)から登録完了までの所要期間は概ね12~18か月程度とされています。審査や異議の有無によって変動しますが、比較的短期間で登録が得られる傾向にあります。
出願に必要な書類や情報
願書に記載すべき基本情報は、出願人の氏名・住所、代理人を通じて出願する場合は代理人の情報、そして商標そのものの表示および指定商品・役務の区分一覧です。ブルネイは国際的なニース分類に従って商品・サービスを区分しており、第11版現在全45類を採用しています(2017年の改正でクラス43~45のサービス分類が追加されました)。指定商品・役務はできるだけ具体的に記載することが望ましく、包括的な表現は避けます。出願時点で商標を使用している必要はありませんが、上述のとおり出願人には将来の使用意思が要求されますので、実際に使用予定のある商品・サービスを的確に指定することが重要です。
図形商標や特殊な書体の文字商標の場合は、商標見本(JPEG等の画像データ)を提出します。カラーで権利を取得したい場合にはカラー図案で提出し、白黒で提出した場合はあらゆる色彩での使用を包含するとみなされます。英語以外の言語(マレー語以外の外国語)からなる商標については、認証付の英語翻訳文を提出する必要があります。例えば漢字やアラビア文字等で表された商標は、その英訳(意味の説明)を添付しなければなりません。その翻訳された意味内容は、登録官による類否判断や登録時の参考情報として取り扱われます。出願段階で優先権を主張する場合(パリ条約加盟国の先願から6か月以内に出願するケース)は、出願書に先の出願日・出願番号・国を記載し、所定期間内(通常3か月以内)に優先権証明書(外国庁発行の出願受付証明の写し)を提出します。
前述のとおり、外国企業が直接ブルネイに出願する場合は現地住所の指定が必要です。多くの場合はブルネイで認可された商標代理人(法律事務所など)を通じて手続きを行います。この際、委任状(Power of Attorney)は簡易な署名のみで足り、公証等は不要です。必要書類として特別なものは他になく、基本的には願書と商標見本、翻訳文(該当する場合)、優先権書類(該当する場合)程度です。出願時には所定の官費用(第一区分基本料および追加区分ごとの追加料、公告料等)を納付します。例えば基本出願料は1区分あたりBND$150です。なお電子出願にも対応しており、オンラインで手続きを行うことも可能です。書類や情報に不備がある場合、方式審査段階で補正を求められるため、漏れなく正確に準備することが大切です。
異議申立制度および無効審判制度
異議申立制度(Opposition)は、出願公報掲載後の3か月間に利害関係人が登録に異議を唱えることができる制度です。異議申立は第三者による事後的な登録阻止手段であり、ブルネイでは「何人も」期間内であれば異議を申し立てることができます。異議申立人は通知書において異議理由を具体的に述べる必要がありますが、その理由としては先行する自己の商標権との抵触、公序良俗違反、商標の非識別性など商標法上の拒絶事由に該当する事項であれば主張可能です。異議申立がなされた場合、出願人には反論の機会が与えられ、双方の主張書面の提出・審理を経て、知的財産庁が登録の可否を裁定します。異議申立が認められた場合、その商標は登録されません。異議期間内に異議が出されなかった場合、あるいは異議が全て棄却・解決した場合には、商標は速やかに登録されます。
無効審判制度(Invalidation/Revocation)は、登録査定後に誤って登録された商標を遡及的に無効化する手続です。ブルネイでは、登録後5年以内であれば「何人も」知的財産庁(Registrar)または裁判所に対し商標登録の無効を請求することができます。無効理由として主張できるのは、登録時に存在していた拒絶事由全般です。具体的には「商標が元々登録要件を満たしていなかった」(絶対的拒絶理由に該当)場合や、「先願他人商標と衝突していた」(相対的拒絶理由に該当)場合、あるいは「出願が悪意に基づいてなされた」場合などが無効理由となります。無効の申立てが認められれば、その商標登録は初めから無効であったものとみなされ、登録は抹消されます(既得の権利も失効します)。他方、無効請求期間の5年を経過すると、信義則上、先行権者は無効主張が制限される場合があります(※先行商標権者が存在を知りながら長期間異議・無効を申し立てなかった場合の黙示的容認=アクイエス)。もっとも悪意で取得された登録については、この期間経過後であっても無効が認められる余地があります(公序良俗維持の観点)。
さらに、不使用取消制度も設けられています。登録商標が5年間全く使用されていない場合、第三者はその登録の取消し(権利の剥奪)を申立てることができます。具体的には、登録手続完了日から5年以内に商標の真正な使用をしていないときや、その後連続5年以上不使用のときには、利害関係人が知的財産庁または裁判所に取消申請を行い、正当な理由のない不使用が確認されれば商標登録は取消されます。この不使用取消請求も「誰でも」行うことができますが、実務上は競合他社や利害関係のある第三者が行うケースが多いです。取消しが認められた場合、その商標は指定商品・役務の全部または一部について登録の効力を失います(該当部分の登録抹消)。不使用期間が一部の商品に限られる場合は、その部分のみ取消となり、他の使用している商品についての登録は維持されます。
以上のように、ブルネイの商標制度では出願から登録後に至るまで、異議申立・無効審判・取消審判といった種々の争訟手段が用意されており、商標の登録適格性や権利存続要件を多角的にチェック・管理しています。権利者および第三者はそれぞれの期間・要件に留意し、適切にこれら制度を活用する必要があります。
登録商標の有効期間および更新手続
商標権の存続期間(有効期間)は、登録日から10年間と定められています。たとえば2025年7月1日に登録(登録料納付・登録官による登録簿記入が完了)された商標権は、2035年6月30日まで有効です。その後は10年ごとに何度でも更新可能であり、更新のたびにさらに10年延長することができます。更新手続は存続期間満了前から受付けられ、満了日前6か月以内に更新申請を行うのが原則です。例えば有効期限が2035年6月30日の場合、2035年1月1日以降に更新申請が可能となります。うっかり期限までに更新を忘れた場合でも、6か月間の猶予期間が認められており、猶予期間内に所定の追加料金を支払って更新することで権利を維持できます。しかし猶予期間を過ぎると登録は抹消され、権利が消滅してしまいます。消滅後も一定期間内(抹消公告日から6か月以内)であれば、正当理由を示して登録の復活(抹消登録の回復)を申請できる制度もありますが、基本的には期限内の更新手続が不可欠です。
更新申請に際して実体審査は行われません。したがって、一度登録された商標は、異議申立や無効・取消がない限り半永久的に権利を維持できます。ただし前述のとおり、長期間使用していない商標は取消リスクがありますので、権利を維持するだけでなく実際の使用にも努める必要があります。また更新時に登録料(官費)の支払いが必要であり、区分数に応じた費用を納めることになります。ブルネイでは更新登録料は1商標あたり BND$200(2022年時点)と定められています。更新後は知的財産庁から更新証が発行され、以後の10年間について商標権が継続します。更新した商標権も引き続き異議申立(既に登録済みの場合は無効審判)や取消審判の対象にはなり得るため、安穏としていてはいけません。常に自社商標の利用状況を把握し、必要な更新手続を怠らないことが肝要です。
権利行使と侵害救済措置
商標権者の権利範囲は、登録商標を指定商品・役務について独占的に使用できる権利です。他人が同一もしくは類似の商標を、同一・類似の商品やサービスに無断で使用した場合は商標権の侵害となります。ブルネイ商標法では、登録商標の侵害は民事上の訴訟原因となり、権利者は直ちに高等裁判所に差止めや損害賠償を求めて提訴できます。民事訴訟において権利者が救済を勝ち取った場合、裁判所は侵害者に対し損害賠償(侵害によって被った営業上の損失の補填)や、差止命令(侵害行為の即時停止と将来の禁止)を発令します。また、悪意の侵害者から得た利益の返還(不当利得返還)や、侵害品・偽標識の廃棄命令・引渡命令を出すことも可能です。権利者は被疑侵害行為の証拠保全のために**仮処分(暫定的差止措置)**を申立てることもでき、迅速に侵害品の差押えや販売停止を図ることができます。ブルネイの裁判所は、これら救済措置について他国同様に柔軟な運用をしており、明白な侵害事案では差止や賠償が認められる傾向にあります。
刑事的措置も、悪質な商標侵害に対して用意されています。商標法第94条以下では、商標権者の同意なく商品やその包装に登録商標と同一の標章を付す行為や、偽造商標を製造・販売・所持する行為等を犯罪と定めています。侵害の態様に応じ、最高で5年以下の懲役刑や10万BNDドル以下の罰金刑(又は両刑併科)が科せられます。例えば営利目的で偽ブランド品を輸入・販売すれば、数量に応じて高額の罰金や長期の実刑が課される可能性があります。また、違法に付された商標や侵害品は裁判所命令により没収・廃棄処分されます。権利者の告発や協力のもと、警察や税関当局が摘発を行い刑事訴追に持ち込むことができるため、特に模倣品対策として刑事手続は強力な抑止力となります。
ブルネイでは税関(関税局)による国境措置も整備されています。商標権者は税関当局に通報・申請することで、侵害物品の輸入差止めを求めることができます。税関職員は輸入品に模倣商標が付されている疑いがある場合、直ちにその貨物を保留(差止留置)し得ます。その後、権利者は一定期間内に差止め仮処分命令など裁判所の措置を取得し、本格的な押収・廃棄へと手続きを進めます。このような水際取締りにより、模倣品の国内流通を未然に防ぐことが可能です。
もっとも、ブルネイは並行輸入を容認している点に注意が必要です。すなわち、海外で正規に販売された真品を第三者が輸入・販売する行為(グレーマーケット品の輸入)は、商標権侵害と見なされません。商標権の効力は国際的には初回販売後に消尽する(国際的消尽主義)との立場を取っているため、国内権利だけを根拠に並行輸入品の差止めや禁止を求めることはできません。このため、ブランドオーナーはディストリビューション契約や流通管理によって、並行輸入を契約上コントロールすることが実務上重要となります。
国際商標制度(マドリッドプロトコル等)との関係
ブルネイはパリ条約(2012年加盟)及びWTO/TRIPS協定(1995年加盟)の締約国であり、これらに基づく優先権主張や周知商標保護の制度が国内法に取り入れられています。さらに2017年1月6日付で**マドリッド協定議定書(Madrid Protocol)**に加盟し、同協定に基づく国際出願制度を利用できるようになりました。これにより、日本を含む他国の商標権者はマドリッド国際出願でブルネイを指定し、一度の手続でブルネイ国内の商標保護を得ることが可能です。また、ブルネイ国内の商標出願・登録を基礎として、ブルネイから他国への国際出願を行うこともでき、ブルネイ企業の海外商標取得が容易になりました。
ブルネイはマドリッド協定議定書加盟にあたり、いくつかの宣言を行っています。第一に、議定書5条2項(b)及び(c)に基づき、拒絶通知期間の延長を宣言しており、ブルネイを指定した国際登録については18か月以内に暫定拒絶の通報を行うことがあります(通常は12か月ですが、延長により審査・異議期間を確保)。また、指定国ブルネイについては使用意思の宣言(Declaration of Intention to Use)の提出が必要です。これは国際出願の際または後日指定の際に、当該商標をブルネイで使用する意図があることを申告する手続で、国内出願における使用意思要件と整合的なものです。さらに、ブルネイはマドリッドによる保護について個別手数料を徴収する旨宣言しています。したがって国際登録でブルネイを指定する場合、出願時および更新時に所定の個別料金をWIPO経由で納付する必要があります。
実務上、マドリッド出願指定国としてのブルネイは、国内出願と同様の審査基準で実体審査を行います。指定後、ブルネイ知的財産庁が拒絶理由を見つけなければ、そのまま国際登録から保護が発生し、公報に掲載されます。拒絶理由がある場合は暫定拒絶通知がWIPO経由で送達され、申請人は現地代理人を通じて対応することになります。異議申立も国内出願と同様に認められており、指定公報掲載後3か月以内に異議が出された場合には最終決定まで保留となります。国際登録による保護期間は、国際登録日から計算して10年ごとに満了し、WIPOでの更新がそのままブルネイでも効力を及ぼします(更新時にもブルネイ分の個別手数料が必要です)。
なお、ブルネイは現時点で商標法条約(TLT)やシンガポール条約には未加盟です。出願手続において署名捺印や現地居所要件など、TLT未加盟国特有のローカルルールが一部残っています。ただし前述のように委任状の認証不要化や多区分・シリーズ出願の導入など、手続の簡素化・国際調和も進んでおり、実務上大きな障害はありません。今後も国際的な知財条約への加盟や国内法整備が進む可能性があり、常に最新情報の確認が推奨されます。
実務上の注意点や申請戦略に関する提言
最後に、ブルネイで商標権を取得・活用する上での実務上の留意点と戦略をいくつか挙げます。
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早期出願の徹底: ブルネイは先願主義のため、権利化を検討している商標はできるだけ早く出願することが肝要です。他者に先を越されると基本的に登録を阻止できなくなるため、海外展開に際しては現地での商標クリアランス調査と出願をタイムリーに行いましょう。
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強い商標の選定: 記述的・汎用的な名称は登録も困難で、仮に登録できても保護範囲が限定的です。なるべく創造的で独自性の高いブランドネーム・ロゴを採用し、識別力に疑義が出そうな場合は造語にする、一部図形を加える等の工夫をしてください(使用により識別力を獲得する戦略もありますが、立証の手間がかかります)。
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先行商標の調査と回避/同意取得: 出願前に必ずブルネイの商標データベースで類似商標の有無を調査しましょう。万一類似の先行登録が見つかった場合、出願範囲を変更する、出願を見送る、あるいは先行権者から**同意書(Consent)**を取得する選択肢があります。ブルネイ制度では先行権者の同意に基づき登録が認められる場合もありますので、必要に応じ現地代理人を通じて交渉を検討してください。
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現地言語・文化への配慮: 商標が現地で好ましくない意味を持たないか注意が必要です。公序良俗違反と判断されるおそれがある単語(宗教・道徳上タブーな語句等)は避けてください。またマレー語でネガティブな意味合いを持つ語句になっていないか、事前に確認することも望ましいでしょう。必要に応じてマレー語やアラビア文字表記も含めて出願し、ブランドの一貫性を確保する戦略もあり得ます。
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外国語商標の翻訳提出: 英語以外の文字による商標は翻訳提出義務があるため、その訳語が競合他社の商標と類似していないか留意しましょう。例えば日本語の意味が他社有名ブランドと似通う場合、登録拒絶のリスクがあります。その場合、翻訳上工夫できる余地がないか専門家に相談してください。
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マドリッド出願の活用: 他国でも同時に商標保護を図る予定であれば、マドリッドプロトコルを使った国際出願が有効です。ブルネイを含む複数国を一括指定でき、手続簡素化・費用節減につながります。ただし出願後の審査対応や異議対応は各指定国ごとに行う必要があるため、現地代理人ネットワークを活用して万全のフォローアップを行いましょう。ブルネイ指定では使用意思宣言が必要な点も忘れずに対応してください。
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商標の適切な使用と管理: 登録後は商標を実際に使用し、その証拠を蓄積しておくことが重要です。不使用が続くと取消リスクが生じます。特に登録から5年経過時点で一度も使用していない場合は危険信号です。ライセンス供与やOEM提供も「使用」に該当し得るため、グループ会社や代理店による使用実績も含めて管理しましょう。また、商標表示(例えば “™” や登録後の “®” 表示)を製品や広告に付することで、第三者への周知と抑止効果を高めることも有用です。
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侵害監視とエンforcement体制: 自社商標の侵害を発見した場合、速やかに対応できるよう体制を整えておきます。並行輸入品については権利行使が制限されますが、明らかな偽物が出回った場合は直ちに法的措置を検討します。現地の市場調査や通報体制を構築し、必要に応じて税関登録や現地警察への情報提供を行うと良いでしょう。悪質な侵害者には民事訴訟に加え刑事告発も辞さない姿勢を示すことで、交渉を有利に進められる場合もあります。
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最新法改正への対応: ブルネイの知的財産法は国際動向に合わせてアップデートされる傾向があります。直近では2017年に大幅改正が行われましたが、今後も例えば電子出願手続の拡充や新たな国際条約加盟など、制度が変化する可能性があります。現地代理人やWIPO等の発表を注視し、常に最新の法情報に基づいて戦略を練ることが求められます。
以上、ブルネイの商標制度について主要ポイントを解説しました。実務家にとっては、現地特有の要件(使用意思の宣言や並行輸入容認など)を踏まえつつ、他国の制度と共通する原則(識別性や先願主義など)を的確に押さえることが重要です。ブルネイは小規模市場ではありますが、東南アジア戦略の一環として知的財産保護を疎かにしないようにし、適切な商標戦略を講じてください。
参考資料: ブルネイ商標法(Trade Marks Act (Cap.98))、同規則、ブルネイ知的財産庁ガイドライン、WIPOおよびJETRO提供情報など。各種データは2025年7月時点のものであり、最新の法改正等があれば適宜反映してください。