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ドローンの特許を弁理士が解説|有限会社が3か月で取得、「飛ばさない技術」が権利になる

作成者: 弁理士 杉浦健文|2026/08/07

ドローンの特許と聞くと、DJIのような世界的メーカーや大手電機メーカーのものを思い浮かべるかもしれません。ところが特許庁のデータベースを開いてみると、従業員数名の有限会社や、地方の測量コンサルタント会社が、自分の名前で特許を取得しています。

しかも、そのうちの1件は出願から約3か月で登録に至っています。本記事では、実在するドローン関連の登録特許5件を、特許庁のJ-PlatPatで請求項の原文まで確認したうえで、弁理士が解説します。読み終えるころには、「ドローンの特許は誰が、何を、どう守っているのか」が具体的に見えるはずです。

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目次

  1. 結論|ドローンの特許は大企業だけのものではない
  2. ①荷物を水平に保つ配送ドローン(有限会社渥美不動産アンドコーポレーション・特許6583874)
  3. ②「飛ばさない条件」を権利にする(ナイルワークス・特許6727498)
  4. ③落ちる姿勢を見てパラシュートを撃つ(日本化薬・特許7062495)
  5. ④展示会で発表した後に出願した3次元経路(ACSL・特許6349481)
  6. ⑤ペットボトルが請求項に書かれた対空標識(新星コンサルタント・特許6695085)
  7. 5件を並べて見える3つの型
  8. なぜ3〜5か月で登録できるのか|早期審査とB1公報
  9. 重要|特許が取れることと、航空法上飛ばせることは別
  10. ドローン事業者への実務示唆
  11. よくある質問(FAQ)

結論|ドローンの特許は大企業だけのものではない

● 権利者の顔ぶれが多彩:今回取り上げる5件の特許権者は、有限会社・農業ベンチャー・火薬メーカー・大学発ベンチャー・地方の測量コンサルタントです。いわゆる大手電機メーカーは1社も入っていません。
● 守っているのは「飛ばす技術」だけではない:むしろ「飛ばさない」「落ちても被害を抑える」ための仕組みが、はっきりと権利になっています。
● 権利化は速い:5件のうち4件が早期審査を利用し、3件が公開公報の発行前に登録(B1)されています。最速は出願から約3か月です。
● ただし、取った後に維持が要る:5件のうち1件は、現在年金(特許料)不納により権利が消滅しています。
特許 特許権者 守っている仕組み 登録
特許6583874(B1有限会社渥美不動産アンドコーポレーション機体が傾いても荷物の姿勢を保つ2019-09-13
特許6727498(B2)株式会社ナイルワークス条件を満たさないときは離陸を禁止する2020-07-03
特許7062495(B2)日本化薬株式会社傾きを見てパラシュートの射出タイミングを決める2022-04-22
特許6349481(B1株式会社自律制御システム研究所地面と建物の高さから3次元の飛行経路を決める2018-06-08
特許6695085(B1
※現在は消滅
株式会社新星コンサルタント水面に浮かぶ測量用の目印2020-04-23

①荷物を水平に保つ配送ドローン(有限会社渥美不動産アンドコーポレーション・特許6583874)

特許番号特許第6583874号(公報種別 B1
発明の名称配送システム、飛行体、および、コントローラ
特許権者有限会社渥美不動産アンドコーポレーション
出願/審査請求/登録2019年6月7日 / 2019年6月18日 / 2019年9月13日
早期審査/請求項数あり / 10項(全42頁)

マルチコプター型のドローンは、前に進むときに機体を前傾させます。回転翼の推力を斜め後ろに向けることで前進する仕組みだからです。ということは、機体が傾けば、その下に吊るした荷物も一緒に傾きます。液体、精密機器、食品——中身によっては、これは決定的な問題になります。

この特許の公報に記載された課題は、まさに「荷物を安定した姿勢で配送する」ことです。

特許第6583874号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・抜粋)

荷物を搭載し得る飛行体と、(中略)前記飛行体の運行を制御するためのコントローラと、を備えた配送システムであって、
前記飛行体は、
上部に取付部を有し、前記取付部がその上下方向を調整し得るように構成された枠状構造物として構成されており、下部に前記荷物を搭載した物体を連結する枠体と、
前記枠体の上部に位置し、飛行機構を有する本体部と、
前記飛行機構の姿勢に応じて前記物体の飛行姿勢を制御するために前記取付部の上下方向位置を制御する飛行姿勢制御と前記飛行機構の作動を制御する飛行制御とを実施する制御部と、(後略)

読みどころ|「機体の傾きを、枠の伸び縮みで打ち消す」

請求項1の核心は「飛行機構の姿勢に応じて」取付部の上下方向位置を制御するという一文です。機体が前傾したぶんだけ、荷物をぶら下げている枠の取付位置を上下させて、荷物側は水平のままにするという考え方です。

興味深いのは、この特許が同じ課題に対して別解も押さえている点です。請求項3は独立請求項として、「外管と内管とを有し、軸方向に伸縮可能な複数の支柱からなる枠体」という構成を立てています。取付部を動かすやり方と、支柱そのものを伸び縮みさせるやり方——実装の分かれ道の両方に権利を張っているわけです。

さらに請求項5では、荷物の授受確認の仕組み(飛行体側の第一授受確認機構と、コントローラ側の第二授受確認機構)まで押さえています。「飛ばす」だけでなく「渡した記録を残す」ところまで、配送という業務の流れに沿って権利が組み立てられています。

注目:この特許は有限会社が、出願からわずか11日後に審査請求を行い、早期審査を経て約3か月で登録まで到達しています。全42頁・請求項10項という、決して簡素ではない出願です。会社の規模と、取れる特許の中身は別の話だということが、この1件によく表れています。

②「飛ばさない条件」を権利にする(ナイルワークス・特許6727498)

特許番号特許第6727498号(公報種別 B2)
発明の名称フールプルーフ性を向上した農業用ドローン
特許権者株式会社ナイルワークス
優先日/国際出願/登録2018年2月28日 / PCT/JP2019/007732(WO2019/168080) / 2020年7月3日
早期審査/請求項数あり / 12項(全14頁)

「フールプルーフ」とは、うっかりした操作をしても危険な状態にならないようにする設計思想のことです。この特許が権利にしているのは、驚くべきことにドローンが飛ばない条件です。請求項1から4まで、独立請求項が並列に4本立っており、そのすべてが「離陸を禁止する」「起動指令を送信しない」で終わっています。

特許第6727498号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用)

位置取得手段と飛行エリア確認手段と飛行制御手段とを備えたドローンであって、
前記位置取得手段が離陸時の自機位置を取得し、
前記飛行エリア確認手段が、ユーザーにより指定され、飛行エリア情報保存手段に保存された飛行エリア情報と侵入経路情報と、前記取得した自機位置とを比較し、
前記取得した自機位置が前記飛行エリア情報の対象地域の範囲外にある場合、前記侵入経路上に道路がある場合、または、前記侵入経路上に障害物がある場合には、前記飛行制御手段が離陸を禁止するドローン。

読みどころ|4本の独立請求項が並べる「飛ばさない理由」

請求項1〜4を並べると、この会社が農業の現場で何を恐れていたのかが見えてきます。

請求項 離陸を禁止する条件
1自機位置が飛行エリア外/侵入経路上に道路がある/侵入経路上に障害物がある
2自機の向きが、指定された侵入経路の方向と異なっている
3最後の保守から所定時間が経過/保守後の積算運用時間・積算飛行時間が所定時間を超過
4起動時の気圧または高度が所定の範囲外(モーター・ポンプへの起動指令を送信しない)

請求項1の「侵入経路上に道路がある場合」は、圃場へ入っていく経路が道路をまたぐなら飛ばさない、という趣旨です。農薬散布用のドローンが公道の上を横切ることの危うさを、機体側の論理として書き切っています。

請求項3の整備管理も実務的です。「前回の点検から何時間飛んだか」を機体が自分で数え、超えていたら飛ばない。これは製品の性能ではなく、運用ルールをハードウェアに埋め込むという発想です。

示唆:自社製品の「安全のために、あえてできなくしている機能」は、しばしば見過ごされます。しかしそれは課題を認識し、解決手段を選び取った結果であり、発明として成立し得ます。開発現場で「これは制限をかけているだけだから」と切り捨てられていないか、一度見直す価値があります。

③落ちる姿勢を見てパラシュートを撃つ(日本化薬・特許7062495)

特許番号特許第7062495号(公報種別 B2)
発明の名称パラシュートまたはパラグライダー展開装置およびこれを備えた飛行体
特許権者日本化薬株式会社
優先日/出願/登録2017年5月16日 / 2018年4月3日 / 2022年4月22日
審査請求/請求項数2021年2月1日(出願から約2年10か月) / 19項(全20頁)

日本化薬は、自動車のエアバッグを瞬時に膨らませる火工品などを手がけてきた化学メーカーです。その会社がドローンの安全装置で特許を取っているという事実自体が、異業種からの参入の実例として示唆的です。

この発明が向き合っている問題は明確です。制御を失って落ちていくドローンは、たいてい傾いているか回転しています。その状態でパラシュートを射出すると、傘やロープが自分の回転翼やアームに絡んでしまい、開かない。だから——

特許第7062495号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・抜粋)

飛行体に設けられるパラシュートまたはパラグライダーの展開装置であって、(中略)前記発射体を射出可能な射出部と、前記飛行体の異常状態を含む前記飛行体の状態を検知可能な検知部と、前記検知部が検知した前記飛行体の状態の情報に基づいて、前記射出部における前記発射体の射出タイミングを制御可能な制御部と、を備え、
前記検知部は、前記飛行体の状態の1つとして前記飛行体の姿勢状態を検知可能な傾斜角度検出部を含み、
前記制御部は、前記傾斜角度検出部によって検知された前記飛行体の姿勢状態の情報に基づいて、前記飛行体の姿勢が前記パラシュートまたは前記パラグライダーの展開に適した姿勢となるように前記射出部における前記発射体の射出タイミングを制御することを特徴とするパラシュートまたはパラグライダーの展開装置。

読みどころ|「撃つ瞬間を選ぶ」ことが発明になる

パラシュートを積むこと自体は、誰でも思いつきます。この特許が権利にしているのは、いつ撃つかを機体の傾きから判断するという一点です。落下しながら回転している機体の姿勢を加速度センサやジャイロセンサで読み、傘が開きやすい姿勢になった瞬間を待って射出する。

従属請求項も実装の現実に沿っています。請求項2は射出部と発射体を2対以上備え、それぞれ独立に、異なる方向へ撃てるようにする構成。請求項3は射出方向調整機構そのもの——つまり待つのではなく、傾きに合わせて撃つ向きのほうを変えるアプローチです。請求項5では、その調整機構を回転テーブルで実現する形まで具体化されています。

なお、この特許は審査請求が出願から約2年10か月後です。①や②とは対照的に、時間をかけています。審査請求の期限は出願から3年ですから、ぎりぎりまで市場と技術の動きを見てから判断したことがうかがえます。権利化のスピードは、事業の都合に合わせて選べるということでもあります。

④展示会で発表した後に出願した3次元経路(ACSL・特許6349481)

特許番号特許第6349481号(公報種別 B1
発明の名称無人航空機の飛行計画経路を設定するためのシステム及びプログラム
特許権者株式会社自律制御システム研究所(ACSL)
出願/審査請求/登録2017年10月17日(PCT/JP2017/037563) / 2018年3月27日 / 2018年6月8日
早期審査/請求項数あり / 12項(全23頁)/ 分割出願あり

地図の上に飛行ルートの線を引く。それだけでは、ドローンは安全に飛べません。線の下に何があるのか——地面はどれだけ高いのか、そこにビルや鉄塔は建っていないのか——を知らなければ、経路の「高さ」は決められないからです。

特許第6349481号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・抜粋)

無人航空機の三次元の飛行計画経路を設定するためのシステムであって、(中略)前記飛行計画経路上の複数の位置のそれぞれの下にある地面の標高を表す高さ基準値を地理データベースから読み出して取得する高さ基準値入力部と、前記地面上のいずれかの存在物において、前記飛行計画経路からの距離が所定の安全距離以内となるような近接箇所を特定する近接箇所特定部と、(中略)
前記近接箇所特定部は、前記飛行計画経路を所定の幅で拡幅して前記飛行計画経路の下にある建造物の対地高度を建造物形状データベースから読み出し、(中略)高度差が所定の安全距離以内となるところを前記近接箇所として特定する、ことを特徴とするシステム。

読みどころ|「線を太らせてから、ぶつかる場所を探す」

請求項1が押さえているのは、2つのデータベースを重ねるという手順です。地理データベースから地面の標高を、建造物形状データベースから建物の高さを読み出し、飛行経路との高度差を計算する。

そして「飛行計画経路を所定の幅で拡幅して」という限定が効いています。経路をただの細い線として扱うのではなく、あらかじめ太らせた帯として見ることで、真下ではなく少し脇にある建物も検出できる。GPSの誤差や風による横流れを考えれば、当然必要な処理です。従属請求項では、近接箇所が見つかったときに警告を出す(請求項3)だけでなく、経路を自動修正する(請求項4以下・水平に迂回する/上方に回避する)ところまで展開されています。

この特許の最大の見どころ|「新規性喪失の例外」が適用されている

公報の書誌には、特許法第30条第2項の適用を受けた旨と、その公開行為が明記されています。

  • 平成29年4月19日 第3回国際ドローン展における公開
  • 平成29年6月30日 販売による公開
  • 平成29年8月3日  説明による公開

つまりこの会社は、展示会に出展し、販売まで始めた後に特許出願をしています(出願は同年10月17日)。通常であれば、自ら公開した時点で新規性を失い、特許を受けられなくなります。それを救済したのがこの例外規定です。

ただし、ここは誤解されやすいところです。例外規定は「後から出願してもよい」という制度ではなく、あくまで救済措置です。適用を受けるには公開から一定期間内(現行法では1年以内)に出願し、所定の手続と証明が必要です。さらに、この種の例外は国によって要件が異なり、認められない国もあります。海外展開を視野に入れるなら、公開前に出願しておくのが原則です。手続の詳細は新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続で解説しています。

⑤ペットボトルが請求項に書かれた対空標識(新星コンサルタント・特許6695085)

特許番号特許第6695085号(公報種別 B1
発明の名称ドローン空撮測量システムに用いられる対空標識
特許権者株式会社新星コンサルタント
出願/審査請求/登録2019年11月19日 / 2019年11月26日 / 2020年4月23日
早期審査/請求項数あり / 4項(全7頁)
現在の状況消滅(年金不納による特許権の消滅)

対空標識(たいくうひょうしき)とは、ドローンで空撮測量をするときに地上へ置く、白黒などに塗り分けられた目印のことです。空から撮った写真の座標を合わせるための基準点になります。陸上に置くのは簡単ですが、川や池、海の上には置けません

特許第6695085号 特許請求の範囲 請求項1・請求項3(原文引用)

【請求項1】方形又は円形状のベースシートを備えた部材になり、当該ベースシートが複数の領域に区画され、互いに隣接する領域同士に異なる色彩が施された対空標識標示を持つ表面を備え、当該部材が浮力体を装着し、水面上に浮かんで、前記対空標識標示を持つ表面を水面上方に晒すドローン空撮測量システムに用いられる対空標識において、前記浮力体が前記部材を上方から見たときに当該部材の最外端で形成された領域内に配設されることを特徴とするドローン空撮測量システムに用いられる対空標識。

【請求項3】(前略)前記浮力体が浮き輪、発泡スチロール又はペットボトルで形成されることを特徴とするドローン空撮測量システムに用いられる対空標識。

読みどころ|全7頁・請求項4項でも特許になる

請求項3に「浮き輪、発泡スチロール又はペットボトル」と書かれていることに、驚かれたかもしれません。しかしこれは、特許制度の性質をよく表しています。特許に求められるのは高度な技術そのものではなく、課題に対する解決手段が新しく、容易に思いつかないことです。

この発明の要は、請求項1の後半にある「浮力体が、部材を上方から見たときに最外端で形成された領域内に配設される」という限定です。浮き輪を標識の外側にはみ出させると、真上から撮った写真に浮力体が写り込み、目印の輪郭が読み取りにくくなります。そこで浮力体を標識の輪郭の内側に隠す——空から見たときに標識だけがきれいに見えるようにする、という工夫です。現場を知らなければ出てこない限定です。

そして、この特許は現在「消滅」しています

J-PlatPatのステータスは「特許 消滅(年金不納による特許権の消滅)」です。特許権は登録して終わりではなく、毎年の特許料(年金)を納め続けて初めて維持されます。納付が途絶えれば、権利は消滅し、その技術は誰でも自由に使える状態になります。

取得した権利をいつまで維持するかは、事業判断そのものです。使わなくなった権利を計画的に手放すこと自体は、合理的な選択でもあります。重要なのは、意図せず失効させないこと——管理の仕組みを持っておくことです。

5件を並べて見える3つの型

型① 守っているのは「飛ばす技術」より「飛ばさない・落ちても助かる技術」

ナイルワークスは離陸させない条件を、日本化薬は落下時にパラシュートを撃つ瞬間を、ACSLはぶつかりそうな場所を先に見つける処理を権利にしています。飛行そのものの性能ではなく、安全側の設計に権利が集まっているのが、この分野の際立った特徴です。

これは考えてみれば自然なことです。ドローンは人の頭上を飛ぶ機械であり、事業として成立させるうえでの最大の障壁は安全をどう担保するかだからです。競合が本当に真似したいのは、飛ぶことではなく安全に飛ばし続けられる仕組みのほうです。

型② 「現場を知っている人にしか書けない限定」が権利の核になっている

5件の請求項を読み比べると、決め手になっている一文はどれも地味です。「侵入経路上に道路がある場合」(ナイルワークス)。「経路を所定の幅で拡幅して」(ACSL)。「浮力体を最外端の領域内に配設」(新星コンサルタント)。

いずれも、実際にその現場でドローンを飛ばした人でなければ出てこない限定です。裏返せば、現場の運用で「困ったこと」と「その解決策」こそが、そのまま発明の種になるということでもあります。

型③ 権利化のスピードは「選べる」

特許権者 審査請求のタイミング 出願〜登録
渥美不動産アンドコーポレーション出願から11日後約3か月
新星コンサルタント出願から7日後約5か月
自律制御システム研究所出願から約5か月後約8か月
日本化薬出願から約2年10か月後約4年

同じドローン分野でも、これだけ差があります。審査請求は出願から3年以内であればいつでもよく、そのタイミング自体が戦略です。資金調達や事業提携の場面で権利を早く示したいなら早期審査。市場の様子を見てから判断したいなら、期限まで待つ。どちらが正しいということはなく、事業の都合で選ぶものです。

なぜ3〜5か月で登録できるのか|早期審査とB1公報

「特許は何年もかかる」というイメージをお持ちの方は多いと思います。しかし今回の5件のうち4件が早期審査を利用しており、最も速いもので出願から約3か月で登録されています。

早期審査は、中小企業・個人・大学等の出願や、実施している(実施予定の)発明などが対象になる制度です。所定の事情説明書を提出することで、通常より早く審査を受けられます。詳しくはスーパー早期審査の活用|要件とリスクをご覧ください。

「B1」が意味すること

今回の5件のうち3件は、公報種別がB1です。日本の特許出願は原則として出願から1年6か月後に公開されますが、それより早く審査が終わって登録に至ると、公開公報が出る前に特許公報が発行されます。これがB1です。

権利としての効力は通常の特許(B2)と変わりません。ただし競合調査の観点では重要な意味があります。公開公報を監視しているだけでは、B1の特許は事前に察知できません。ある日いきなり登録済みの権利として現れます。他社の動向を追うなら、公開公報だけでなく登録公報まで定期的に確認する必要があります。

重要|特許が取れることと、航空法上飛ばせることは別

ここは必ず区別してください。特許庁の審査は、発明が新しいか、容易に思いつかないかを判断するものであり、その技術を実際に飛ばしてよいかどうかを審査するものではありません。ドローンの運航には航空法に基づく機体の登録や、飛行の許可・承認などの制度があり、特許を持っていることは、それらの手続を不要にするものではありません。運航に関する規制の適否について、本記事は何ら判断を示すものではありません。所管である国土交通省の情報および専門家にご確認ください。

逆もまた真です。航空法上の手続をすべて満たして適法に飛ばしていても、他社の特許を侵害する可能性は残ります。法令遵守と特許クリアランスは、別々に確認しなければならない事柄です。他社特許との関係を製品リリース前に確認する進め方は、FTO調査とは?特許侵害を予防する進め方と実施時期にまとめています。

ドローン事業者への実務示唆

① 「安全のために制限している機能」を棚卸しする

ナイルワークスの特許が示すとおり、できなくしている機能にも発明は宿ります。「この条件のときは飛ばさない」「この状態では動かさない」といった判断ロジックを、開発チームがどれだけ持っているか。まずそれを書き出すところから始めてください。

② 展示会・実証実験・プレスリリースの前に相談する

ACSLの例は、新規性喪失の例外規定に救われた事案です。しかし前述のとおり、これは救済であって、標準的な進め方ではありません。ドローン業界は展示会・デモ飛行・実証実験の機会が多く、公開の場面が頻繁に訪れます。外部に見せる予定が立った時点が、相談のタイミングです。

③ 出願の規模と、権利の価値は比例しない

新星コンサルタントの出願は全7頁・請求項4項でした。一方、渥美不動産の出願は全42頁・請求項10項です。どちらも特許になっています。大きな明細書を用意しなければ出願できない、ということはありません。課題と解決手段が明確であれば、規模は結果として決まります。

④ 他社のドローン特許は「登録公報」で追う

B1が3件を占めていたとおり、この分野は公開前登録が珍しくありません。競合企業名を特許権者として、登録公報を定期的に検索する運用を推奨します。J-PlatPatは無料で利用でき、特許番号や出願人名から検索できます。

⑤ 取った後の「維持」を管理する

新星コンサルタントの特許は年金不納で消滅しました。権利の維持には毎年の特許料納付が必要で、金額は年数の経過とともに上がっていきます。事業として維持し続けるのか、どこかで手放すのか——定期的に見直す仕組みを持っておくことが、結果的にコストの最適化につながります。

「うちの技術でも特許は取れますか」というご相談について

本記事で紹介した5件の特許権者のうち、3社は決して大企業ではありません。会社の規模は、特許を取れるかどうかとは関係がありません。判断の分かれ目は、解決した課題と、その解決手段が具体的に説明できるかどうかです。エボリクス(evorix.jp)では、中小企業・スタートアップ向けの減免制度の活用もふまえてご提案しています。まずはお問い合わせフォームより、ご相談の流れとあわせてお気軽にどうぞ。

よくある質問(FAQ)

Q. 市販のドローンを買って使うだけでも、特許侵害になりますか?

A. 正規に販売された製品をそのまま使用する場合、その製品について特許権は行使できなくなるのが原則です(権利の消尽)。注意が必要なのは、自社で機体を製造・改造して販売する場合や、ドローンを使った独自のシステム・サービスを構築する場合です。今回紹介した特許のいくつかは「システム」や「方法」として権利が立てられており、機体を買ったかどうかとは別に検討が必要になります。

Q. 自社のドローンにも似た安全機能がありますが、他社特許に触れますか?

A. 似た機能があるだけでは侵害にはなりません。特許権の効力は、請求項に書かれた構成要件をすべて満たす実施にのみ及びます。たとえばナイルワークスの特許第6727498号の請求項1には「侵入経路上に道路がある場合」という要件が含まれており、この判定を行っていない実装は原則として非充足です。1つでも欠ければ、その請求項の侵害にはなりません。自社実装との対比は弁理士にご相談ください。

Q. すでに展示会でデモ飛行してしまいました。もう特許は取れませんか?

A. 一定の要件を満たせば、新規性喪失の例外規定(特許法30条2項)により救済される可能性があります。ACSLの特許第6349481号は、まさに国際ドローン展での公開後に出願されたものです。ただし公開から一定期間内(現行法では1年以内)に出願し、所定の手続をとる必要があります。また国によって扱いが異なるため、海外での権利化を考えている場合は特に早めにご相談ください。

Q. 「B1」の特許とは何ですか?

A. 公開公報が発行される前に登録された特許を指します。日本の出願は原則1年6か月後に公開されますが、審査がそれより速く進むとこの形になります。登録後の権利としての効力は通常の特許と同じです。ただし第三者からは事前に察知しにくいため、競合調査では登録公報まで追う必要があります。

Q. 特許が「消滅」していたら、その技術は自由に使えますか?

A. その特許権に関しては権利行使を受けません。ただし注意点が2つあります。第一に、年金不納による消滅には追納や回復の制度があり、状況によっては権利が回復することがあります。第二に、同じ技術について別の特許(分割出願によるものや、他社の権利)が存在する可能性があります。ステータスは変動しますので、実施の判断をする際はその時点で必ず最新の情報を確認してください。

Q. 個人や小さな会社でも、本当にドローンの特許が取れますか?

A. 本記事の5件がその実例です。有限会社、地方の測量コンサルタント会社が、自社名義で特許を取得しています。特許法は出願人の規模を問いません。中小企業・個人事業主向けには審査請求料や特許料の減免制度もあります。判断の分かれ目は規模ではなく、解決した課題と手段を具体的に説明できるかどうかです。

まとめ

ドローンの特許を5件、請求項の原文まで読んでみて浮かび上がったのは、「大企業の最先端技術」というイメージとはかなり違う風景でした。

権利者には有限会社や地方の測量会社が並び、守られているのは飛行性能そのものより「飛ばさない」「落ちても被害を抑える」ための判断ロジックでした。そして決め手になっている請求項の一文は、どれも現場を知る人にしか書けない地味な限定です。侵入経路上の道路、経路を太らせる処理、浮力体を標識の内側に隠すこと——技術の華やかさではなく、現場で困ったことの解像度が権利の強さを決めています。

同時に、5件のうち1件は年金不納で消滅していました。特許は取得して終わりではなく、維持と見直しまで含めた事業判断です。ドローンを事業にしている方は、攻め(自社の工夫の権利化)・守り(登録公報のウォッチとクリアランス)・管理(維持年金の見直し)の3つを、開発と運航のサイクルに組み込んでいただければと思います。

知的財産事務所エボリクスへのご相談

エボリクス(evorix.jp)では、ドローン・ロボティクス・IoT分野の特許出願と、他社特許のクリアランス調査を承っております。「展示会に出す前に押さえておきたい」「この安全機能は権利にできるか」「実証実験のスケジュールに間に合わせたい」といったご相談に、事業のスケジュールを踏まえて対応いたします。まずはお問い合わせフォームより、ご相談の流れとあわせてお気軽にどうぞ。

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本記事の注意事項:本記事は2026年8月時点の公開特許情報(特許庁J-PlatPat)に基づく一般的な解説です。引用した請求項は公報の記載に基づきますが、一部は紙幅の都合により抜粋であり、権利範囲は最終的に公報の正本と出願経過により定まります。権利の存続状況は特許料の納付状況等により変動します(本記事の特許第6695085号は執筆時点で消滅しています)。公報には製品名の記載がないため、特定の製品・サービスに当該技術が使われているかを断定するものではありません。本記事の説明は理解を助けるための要約であり、権利範囲を画定するものではありません。航空法その他の法令に基づく運航規制への適合性について本記事は何ら判断を示すものではなく、実施にあたっては所管官庁の情報および専門家による別途の検討が必要です。侵害の成否について本記事は何ら断定するものではなく、個別事案の結論を保証するものでもありません。

出典

AUTHOR / 執筆者

杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)

知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士

特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。